JP4566576B2 - 転位セグメント導体 - Google Patents

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Description

本発明は、複数の超電導テープを転位撚り合わせてなる転位セグメント導体に係り、特に、高アスペクト比の超電導テープを用いて構成され、ドラムに巻いた場合でも超電導テープに加わる合成歪を超電導体の許容歪以下にできる転位セグメント導体に関する。この転位セグメント導体は、超電導ケーブル、超電導コイルなどの超電導応用機器などに利用される。
従来、交流電流通電時の偏流を抑制した超電導ケーブルとして、パイプ状のフォーマの周囲に、複数の超電導テープを転位撚り合わせた転位超電導テープユニットを螺旋状に巻回したものが知られている。各超電導テープは、シース材の内部に、超電導体又は熱処理により超電導体となる材料からなるコア部を有する超電導多心素線が平坦化された超電導テープを主体として構成され、その表面に高抵抗化膜が形成されたものである(例えば、特許文献1参照。)。
この超電導テープとしては、BiSrCaCu(Bi2212)、BiSrCaCu(Bi2223)等からなるコア部を有するBi系線材が広く用いられている。特に転位セグメントでは、幅2mm以下、厚さ0.2mm以上のBi系超電導テープが用いられている。しかし、Bi系超電導テープは臨界電流密度が低く、またシース材に銀を用いているために機械強度も弱い。そこで、Y-Ba-Cu-O系に代表されるようなY系超電導テープによって転位セグメントを作製し、この転位セグメントで超電導導体を作り、液体窒素温度で使用可能な超電導ケーブルに用いることが考えられている。
特開平11−203961号公報 Y. Iijima et al, In:Advance in Superconductivity XI, Springer, Tokyo, pp785-788
現在主に作製されているY系超電導テープの基材は、ハステロイやステンレス鋼などの金属テープ上にイットリア安定化ジルコニア(YSZ)中間層を積層したテープ、無配向のNiを表面酸化させたテープなどであり、この超電導テープの厚さは0.1mm以下である。なお、これらの基材テープのヤング率は100GPa以上あり、剛性の高いものである。また、Y系超電導材料の他にHo系やNd系などの希土類系超電導線材の使用も考えられる。
使用する超電導テープのアスペクト比が20を超えた場合、テープ単線や転位セグメントをフォーマにスパイラル巻きし、その上から絶縁テープを巻くと、テープ線材は周方向にフォーマ径相当の曲げ径で曲げられ、大きな歪みを受ける。
本発明者の知見では、導体が直線状態の場合、図5のようにフォーマ周方向の歪と転位セグメント長手方向の歪を加味して、テープ幅W、テープ厚t、転位渡り長L、フォーマ径d、フォーマ周方向からの角度をθ、テープ線材長手方向からの角度をφとすると、この方向で超電導テープに加わる合成歪εは次式(A)
Figure 0004566576
となり、ここで次式(B)
Figure 0004566576
が成立することが示されている。
しかしながら、超電導ケーブルは、実際には図4に示すように、直径1〜4m程度のドラム8に巻かれた状態で輸送される。したがって、高性能な超電導ケーブルを作製するためには、ケーブルをドラムに巻いた場合に加わる歪の影響をケーブル設計時点で考慮する必要がある。
本発明は前記事情に鑑みてなされ、ドラムに巻いた場合でも超電導テープに加わる合成歪を超電導体の許容歪以下にできる転位セグメント導体の提供を目的とする。
前記目的を達成するため、本発明は、超電導テープを複数本、転位撚り合わせてなる転位セグメントをパイプ状のフォーマの周囲に螺旋状に巻き付けてなる転位セグメント導体において、前記フォーマの直径をd[mm]、前記超電導テープの厚さをt[mm]、前記超電導テープの幅をW[mm]、前記転位セグメントの転位渡り長をL[mm]、前記転位セグメントのスパイラルピッチをs[mm]、前記転位セグメント導体を巻き付けるドラムの半径をR[mm]、前記フォーマ周方向からの角度をθ、前記超電導テープ長手方向からの角度をφとすると、下記式(1)及び式(2)
Figure 0004566576
Figure 0004566576
の関係を満たす合成歪εが超電導テープ中の超電導体の許容歪以下であり、
超電導テープの厚さをt[mm]、超電導テープの幅をW[mm]、転位セグメントの転位渡り長をL[mm]、転位セグメントのスパイラルピッチをs[mm]とすると、実験的経験として、後述する式(C)または式(D)の関係が成り立つことを特徴とする転位セグメント導体を提供する。
本発明の転位セグメント導体において、前記超電導テープの厚さtに対する幅Wの比で表されるアスペクト比(W/t)が20以上であることが好ましい。
本発明の転位セグメント導体において、前記超電導テープが、一般式YBaCu7−xで表される酸化物超電導材料を備えてなることが好ましい。
本発明の転位セグメント導体において、前記超電導テープの基材のヤング率が100GPa以上であることが好ましい。
本発明の転位セグメント導体において、前記超電導テープの基材はステンレス鋼としてもよい。
アスペクト比の高い超電導テープを用いた転位セグメント導体において、テープ厚、テープ幅、転位渡り長、フォーマ径、スパイラルピッチを適切に設定することによって、この転位セグメント導体をドラムに巻くなど、転位セグメント導体に曲げを加えた場合でも、超電導テープに加わるフラットワイズ歪とエッジワイズ歪の合成歪を、超電導テープ中の超電導体の許容歪以下にすることができる。
以下、図面を参照して本発明の転位セグメント導体の一実施形態を説明する。
図1及び図2は、本発明の転位セグメント導体の一実施例を示す図であり、図1は転位セグメント導体1の端部の斜視図、図2は縦断面図である。
この転位セグメント導体1は、超電導テープ2を複数本、転位撚り合わせてなる転位セグメント3をパイプ状のフォーマ4の周囲に螺旋状に巻き付けて構成されている。
図3は転位セグメント3を示す斜視図であり、図3に示す通り、この転位セグメント3は、各超電導テープ2が、その長尺方向において順次その位置を代えて変位するように撚り合わされている。個々の超電導テープ2は、その長さ方向において転位セグメント3の表面側(外層側)に位置する領域と底面側(内層側)に位置する領域が交互に繰り返されるように配置されている。このような転位セグメント3の巻回方向は、S巻(右巻)の方向またはZ巻(左巻)の方向となっている。この転位セグメント3のスパイラルピッチsは、通常50〜2000mm程度である。
本明細書において、転位セグメント3のうち、特定の超電導テープ2が、隣接する他の超電導テープ2上を渡って転位する転位部を転位渡り部6と言い、隣り合う転位渡り部6間を非転位渡り部7と言う。
前記転位セグメント3では、非転位渡り部7の所定箇所が保形テープ5によって結束されており、超電導テープ2の転位撚りが崩れないように固定されている。前記保形テープ5は、ポリイミド樹脂などから構成され、一方の面全体に粘着剤が塗布されたもので、この粘着剤を介して超電導テープ2に貼着固定されている。
また、この転位セグメント3において、保形テープ5によって結束された部分は素線保形部とも言い、以下、隣接する素線保形部間の距離を転位渡り長Lと言う。
前記フォーマ4は、ステンレス鋼などからなるものである。このようなフォーマ4の表面は、フォーマ4と転位セグメント3間の通電を抑制するために絶縁処理が施されている。このフォーマ4の内部は、液体窒素等の冷却媒体の流路とされ、超電導テープ2の冷却を行うことができるようになっている。
前記超電導テープ2としては、基材上に酸化物超電導体からなる超電導薄膜を形成したものや、断面視円形状の超電導多心素線(図示せず。)が圧延加工等により平坦化されたものなどが挙げられる。この超電導テープ2の横断面形状は、矩形状とすることが好ましく、転位セグメント3とした際、各超電導テープ2を密着させて配置させることができ、超電導テープ2間の隙間を最小に抑えることができる。
前記超電導テープ2に用いられる酸化物超電導体としては、例えば、YBaCu7−x(YBCO)、HoBaCu7−x、NdBaCu7−xなどの希土類系の酸化物超電導材料、BiSrCaCu(Bi2212)、BiSrCaCu(Bi2223)、Bi1.6Pb0.4SrCaCuなどのBi系の酸化物超電導材料などが好ましく適用できる。
また、前記基材としては、ステンレス鋼,ハステロイ合金などの金属基材、表面にNi酸化物層が形成されたNi金属基材や、これら金属基材上に中間層としてイットリア安定化ジルコニア(YSZ)が形成されたものなどが好ましく適用できる。
この基材のヤング率は100GPa以上が好ましく、これにより剛性に優れ、破断し難い超電導テープ2が得られる。
特に本発明では、超電導テープ2としては、前記金属基材上にイットリア安定化ジルコニア(YSZ)中間層を介してYBaCu7−x(YBCO)が成膜されたものが好ましく、これにより、比較的高温度で高い臨界電流密度が得られる。
前記超電導テープ2の外周には、絶縁層が設けられている。この絶縁層を構成する絶縁材料としては、ポリエステル、ポリエステルイミド、ポリエステルイミドヒダントイン、エナメルなどが用いられる。このような絶縁層の厚みとしては、0.1〜100μm程度の範囲のものとされる。
次に、図4及び図5を参照して、この転位セグメント導体1に加わる歪について説明する。
前述した通り、この転位セグメント3では、図3に示すように、各超電導テープ2が、その長手方向において順次その位置を代えて変位するように撚り合わされており、超電導テープ2には、エッジワイズ曲げによる長手方向の歪みが生じている(以下、エッジワイズ歪εedと言う)。
この転位セグメント導体1において、超電導テープ2の幅をW[mm]、転位セグメント3の転位渡り長をL[mm]とすると、複数本の超電導テープ2が転位撚り合わせられたことによって生じるエッジワイズ歪εedは、次式(3)
εed=3(W/L) ・・・(3)
によって表される。
また、転位セグメント3は、フォーマ4に螺旋状に巻き付けられており、超電導テープ2は、フォーマ4の直径d相当の曲げ径で曲げられ、フラットワイズ曲げによりフォーマ4の周方向に歪が生じている(以下、フラットワイズ歪と言う。)。
一般に、超電導テープ2のアスペクト比が20以上の場合、超電導テープ2の幅をW[mm]、厚みtを[mm]とすると、フラットワイズ歪εflの最大値は、以下の式(4)で表される。
εfl=t/(d+t) ・・・(4)
超電導テープ2の厚さをt[mm]、超電導テープ2の幅をW[mm]、転位セグメント3の転位渡り長をL[mm]、転位セグメント3のスパイラルピッチをs[mm]とすると、実験的経験として、次式(C)または式(D)
Figure 0004566576
Figure 0004566576
の関係が成り立てば、張力を加えて転位セグメント3をフォーマ4にスパイラル巻きした場合、転位渡り部6に浮き上がりが発生しない。
ここで、例えば幅W=5.0mm、厚さt=0.08mmの超電導テープ2を複数本、転位撚り合わせてなる転位渡り長L=250mmの転位セグメントの場合、エッジワイズ歪εedは0.12%となる。またフォーマ4の直径d=22mmとすると、フラットワイズ歪εflは0.36%となる。
さらに、例えば、スパイラルピッチs=250mm、図5に示すフォーマ周方向からの角度をθ、超電導テープ長手方向からの角度をφとすると、θ+φ=74.5°となり、角度θの変化により合成歪は図6のように変化する。
一方、Y系超電導材料は、曲げ歪が0.4%を超えると特性が劣化することが報告されている(非特許文献1参照。)。従って、0.4%をY系超電導材料の許容歪とすると、θ=6.8°のとき、最大値0.374%となり、この転位セグメント導体1が直線状態である時には、その超電導テープ2中の超電導体に加わる合成歪εは、許容歪(0.4%)以下である。
しかしながら、図4に示すように、運搬のために、あるいはコイルなどの超電導応用機器を作製するために、例えば半径1500mmのドラム8にこの転位セグメント導体1を巻き付けた場合、超電導テープ2の幅方向と長手方向の歪は、直線状態に対してそれぞれ図7と図8に示すように変化する。ただし、図7と図8の角度は、図9に示すように、模擬導体9を曲げ治具10に沿わせて曲げ、この模擬導体9の各部に生じた歪を測定する際に、曲げ治具10に対して、上向きの位置を0°、下向きの位置を180°としている。
図7及び図8の結果から、長手方向も幅方向も0°と180°の位置の場合、直線状態に比べて歪が最大±0.05%程度変化している。
したがって、転位セグメント3の長手方向より角度θの方向の歪は、次式(5)
±0.05cosθ±0.05sinθ=±0.05% ・・・(5)
となり、転位セグメント導体1を曲げ半径1500mmでドラムにスパイラル巻きした場合、0.05%程度の歪が任意の方向に加わることになる。したがって、トータルの歪量は最大で0.42%程度加わることになり、前記許容歪を超えてしまう。
本発明では、転位セグメント導体1をドラム8に巻き付けた状態であっても、前記式(1)で表される合成歪εが超電導テープ2中の超電導体の許容歪以下となるように、転位セグメント導体1の各パラメータを設定したことを特徴としている。
フォーマ4と転位セグメント3が一体化されている場合、転位セグメント導体1を半径Rで曲げると、歪量は最大で次式(E)
Figure 0004566576
変化する。したがって、半径1500mmの曲げ径でフォーマ直径d=22mmの場合は、フォーマ4と転位セグメント3が一体化しているとすると、最大0.73%歪量が変化する。したがって、転位セグメント導体1を曲げたときに超電導テープ2中の超電導体に新たに加わる歪量は、フォーマ4と転位セグメント3が一体化されている場合の1/14程度である。他の曲げ径で転位セグメント導体1を曲げた場合も同様の結果が得られた。したがって、転位セグメント導体1をドラム8に巻く場合に加わる歪量を考慮すると、前記式(1)で表される合成歪εの最大値が、許容歪より小さくなるように各パラメータを設定すればよい。
例えば、図6に示す合成歪εが得られた転位セグメント導体1(超電導テープの幅5.0mm、厚さ0.08mm、転位渡り長250mm、フォーマ直径22mm)において、超電導テープの厚さを0.06mmとして転位セグメント導体1を作製し、これを直径1500mmのドラムに巻き付けた際の合成歪εは、図10に示すように、θ=10.0°で最大歪0.34%となり、全ての角度について許容歪み(0.4%)以下となる。
その結果、この転位セグメント導体1をドラムに巻くなど、転位セグメント導体1に曲げを加えた場合でも、超電導テープに加わるフラットワイズ歪とエッジワイズ歪の合成歪を、超電導テープ2中の超電導体の許容歪以下にすることができ、転位セグメント導体1の運搬時や取扱時等に許容歪を超える歪が加わることによる超電導体の破損や劣化による性能低下を防ぐことができる。
本発明は前記例示に限定されるものではなく、超電導テープ2の厚さ以外のパラメータを変更して、前記式(1)で表される合成歪εの最大値が、許容歪より小さくなる転位セグメント導体1を構成することもできる。
また、前記許容歪は、使用する酸化物超電導材料の種類、安全率の設定条件などにより変化するので、製造しようとする転位セグメント導体1における超電導体の許容歪を決定した後、前記式(1)で表される合成歪εの最大値がその許容歪より小さくなるように、各パラメータを設定する必要がある。
本発明の転位セグメント導体の一例を示す要部斜視図である。 本発明の転位セグメント導体の一例を示す縦断面図である。 転位セグメントの構造を例示する斜視図である。 転位セグメント導体をドラムに巻いた状態を示す断面図である。 転位セグメント導体に加わる各種の歪を説明するための概略図である。 従来の転位セグメント導体における合成歪の大きさを示すグラフである。 転位セグメント導体をドラムに巻いた際に、長手方向に加わる歪量を示すグラフである。 転位セグメント導体をドラムに巻いた際に、渡り部に加わる歪量を示すグラフである。 歪量の測定方法を説明するための測定装置を示す断面図である。 本発明の転位セグメント導体をドラムに巻いた際の合成歪の大きさを示すグラフである。
符号の説明
1…転位セグメント導体、2…超電導テープ、3…転位セグメント、4…フォーマ、5…保形テープ、6…転位渡り部、7…非転位渡り部、8…ドラム、9…模擬導体、10…曲げ治具。

Claims (5)

  1. 超電導テープを複数本、転位撚り合わせてなる転位セグメントをパイプ状のフォーマの周囲に螺旋状に巻き付けてなる転位セグメント導体において、
    前記フォーマの直径をd[mm]、前記超電導テープの厚さをt[mm]、前記超電導テープの幅をW[mm]、前記転位セグメントの転位渡り長をL[mm]、前記転位セグメントのスパイラルピッチをs[mm]、前記転位セグメント導体を巻き付けるドラムの半径をR[mm]、前記フォーマ周方向からの角度をθ、前記超電導テープ長手方向からの角度をφとすると、下記式(1)及び式(2)
    Figure 0004566576
    Figure 0004566576
    の関係を満たす合成歪εが超電導テープ中の超電導体の許容歪以下であり、
    超電導テープの厚さをt[mm]、超電導テープの幅をW[mm]、転位セグメントの転位渡り長をL[mm]、転位セグメントのスパイラルピッチをs[mm]とすると、実験的経験として、下記式(C)または式(D)
    Figure 0004566576
    Figure 0004566576
    の関係が成り立つことを特徴とする転位セグメント導体。
  2. 前記超電導テープの厚さtに対する幅Wの比で表されるアスペクト比(W/t)が20以上であることを特徴とする請求項1に記載の転位セグメント導体。
  3. 前記超電導テープが、一般式YBaCu7−xで表される酸化物超電導材料を備えてなることを特徴とする請求項1又は2に記載の転位セグメント導体。
  4. 前記超電導テープの基材のヤング率が100GPa以上であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の転位セグメント導体。
  5. 前記超電導テープの基材がステンレス鋼であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の転位セグメント導体。
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