JP4565691B2 - ヘパリン結合性成長因子用徐放基材、およびヘパリン結合性成長因子徐放剤 - Google Patents
ヘパリン結合性成長因子用徐放基材、およびヘパリン結合性成長因子徐放剤 Download PDFInfo
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Description
【発明が属する技術分野】
本発明は新規なヘパリン結合性成長因子用徐放基材、およびヘパリン結合性成長因子徐放材に関する。さらに詳しくは、本発明は、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)や肝細胞増殖因子(HGF)、骨形成因子(BMP)などのヘパリン結合性の成長因子の生理的条件下での長期安定化と徐放特性に優れた多糖類の新規な徐放基材、および徐放剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
ヘパリン結合性成長因子はヘパリン結合性を有し、細胞の増殖促進作用と分化促進作用を持つ一群の成長因子であり、代表的なものとして塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)や肝細胞増殖因子(HGF)、骨形成因子(BMP)などがある(例えば、Burgess,W.H.and Maciag,T., The heparin-binding (fibroblast) growth factor family of proteins, Ann. Rev. Biochem.,58,575-606(1989).参照)。これらのヘパリン結合性成長因子は各種の細胞に対して強力な増殖促進作用と分化促進作用があり、創傷治療や骨折の治療、血管や神経、肝臓の再生修復に有用であることが期待されている。
【0003】
生理活性蛋白質等の徐放基材として、本発明者らはカルボキシル基を有する多糖類を2価または4価のアミン化合物で架橋して得られる水膨潤性高分子ゲルが優れていることを見出している(特開平8-24325)。またヘパリン結合性成長因子の徐放基材として、ポリアニオン付加架橋ゼラチンゲル(特開平8-325160)や、ヘパリン−セファロースとエチレン−酢酸ビニル共重合体のモールド成形物(Hickey,M.J.and Morrison,W.A., An improved matrix-type controlled release system for basic fibroblast growth factor, Biochem. Biophys. Res. Commun., 201,1066-1071(1994).)、デキストラン誘導体(Meddahi,A.,etal., Heparin-like polymers derived from dextran enhance colonic anastomosis resistance to leakage, J.Biomed. Master.Res., 31,293-297(1996).)、エチレン−酢酸ビニル共重合体(Edelman,E.R., etal.,Controlled and modulated release of basic fibroblast growth factor, Biomaterials, 12,619-626(1991).)、ポリカーボナートやポリヒドロキシエチルメタクリレートなど(Davies,M.J., etal., In vitro assessment of the biological activity of basic fibroblast growth factor released from various polymers and biomatrices, J.Biomater. Appl., 12,31-56(1997).)が報告されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記の塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)や肝細胞増殖因子(HGF)、骨形成因子(BMP)などのヘパリン結合性の成長因子は、生体内に投与しても速やかに投与部位から消失し、十分な効果が発揮できない。この点を補うために大量に投与すると、炎症の誘起や発癌性などの重篤な副作用が発現する恐れがある。
【0005】
本発明者等の水膨潤性高分子ゲルは、生体内での安全性が高く、組織・臓器の修復基剤として優れたものではあるが、ヘパリン結合性成長因子の徐放基剤としては十分に満足できるものではない。また、ポリアニオン付加架橋ゼラチンゲルやデキストラン誘導体は、ヘパリン様の抗凝血作用物質や毒性物質が放出される危険性があり、生体内で安全に使用できるものではなく、かつヘパリン結合性成長因子の安定化と徐放特性が十分でなく、満足できるものではない。ヘパリン−セファロースとエチレン−酢酸ビニル共重合体のモールド成形物、エチレン−酢酸ビニル共重合体やポリカーボナート、ポリヒドロキシエチルメタクリレートなどは生体内で分解吸収されるものではなく、本発明の目的に使用できない。
【0006】
本発明の目的は、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)や肝細胞増殖因子(HGF)、骨形成因子(BMP)などのヘパリン結合性の成長因子を生理的な条件下で安定に保持し、長期間徐放することができる安全な徐放基材およびこれらを含む徐放剤を提供することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
前記目的を達成するため本発明のヘパリン結合性成長因子用徐放基材は、(1)ヘパリン、及び(2)ヘパリン以外のカルボキシル基を有する多糖類の少なくとも1種類以上からなる混合物を、(3)分子内に2〜4個のアミノ基を有する架橋性試薬で共有結合架橋して得られる架橋体を主成分とすることからなる。また、本発明のヘパリン結合性成長因子徐放剤は、(1)ヘパリン、及び(2)ヘパリン以外のカルボキシル基を有する多糖類の少なくとも1種類以上からなる混合物を、(3)分子内に2〜4個のアミノ基を有する架橋性試薬で共有結合架橋して得られる架橋体を主成分とする基材に、(4)ヘパリン結合性の成長因子類を含有させてなることからなる。
【0008】
本発明のヘパリンは、ヘパリン結合性成長因子と結合できるものであるかぎり、どんなものでも良く、牛や豚等の家畜の小腸粘膜から抽出精製したものが好ましく用いられる。
【0009】
本発明において使用されるヘパリン以外のカルボキシル基を有する多糖類は、例えば、アルギン酸、カルボキシメチルデンプン、ヒアルロン酸、カルボキシメチルセルロース等の多糖類およびその水溶性塩が好ましく用いられる。特にアルギン酸のナトリウム塩およびカルボキシメチルデンプンが好ましい。
【0010】
本発明においては、ヘパリン、及びヘパリン以外のカルボキシル基を有する多糖類の少なくとも1種類以上からなる混合物を用いる必要がある。ヘパリンだけでは、十分な機械的強度の基材を得ることができず、またヘパリン以外のカルボキシル基を有する多糖類だけでは、ヘパリン結合性の成長因子の安定化と徐放特性が達成されない。例えばヘパリンとアルギン酸、あるいはヘパリンとカルボキシメチルデンプンの混合物、ヘパリンとアルギン酸およびカルボキシメチルデンプンの混合物等が好ましく用いられるが、なかでもヘパリンとアルギン酸、あるいはヘパリンとカルボキシメチルデンプンの混合物が特に好ましい。
【0011】
本発明において使用される分子内に2〜4個のアミノ基を有する架橋性試薬は、ジアミノエタン、ジアミノプロパン、ジアミノブタン、ジアミノペンタン、ジアミノヘキサン、ジアミノヘプタン、ジアミノオクタン、ジアミノノナン、ジアミノデカン、ジアミノドデカン、ジアミノオクタデカン等のジアミノアルカン類の塩;N-(リジル)-ジアミノエタン、N,N’-(ジリジル)-ジアミノエタン、N-(リジル)-ジアミノヘキサン、N,N’-(ジリジル)-ジアミノヘキサン、等のモノまたはジリジルジアミノアルカン類の塩が例示される。なかでも、ジアミノエタンの2N-ヒドロキシコハク酸イミド塩、ジアミノヘキサンの2N-ヒドロキシコハク酸イミド塩、N,N’-(ジリジル)-ジアミノエタンの4N-ヒドロキシコハク酸イミド塩、N-(リジル)-ジアミノヘキサンの3N-ヒドロキシコハク酸イミド塩が好ましく用いられる。これらの架橋性試薬のうちジアミノアルカン類は市販試薬として容易に入手できる。モノまたはジリジルジアミノアルカン類は通常の有機合成法により合成できる。例えば、α-アミノ基とε-アミノ基を保護したリジンのカルボキシル基とジアミノアルカン類のアミノ基とをカルボジイミド等の脱水縮合剤を用いて結合し、その後α-アミノ基とε-アミノ基の保護基を除去する方法;α-アミノ基とε-アミノ基を保護したリジンのN-ヒドロキシコハク酸イミドなどを活性エステルとした後、ジアミノアルカン類と反応させ、その後α-アミノ基とε-アミノ基の保護基を除去する方法;が挙げられる。α-アミノ基とε-アミノ基の保護基の除去は、例えば、保護基がt-ブチルオキシカルボニル基の場合には、トリフルオロ酢酸や4規定の塩化水素を溶解したジオキサンで処理することにより行われる。保護基がフルオレニルメチルオキシカルボニル基の場合には20%ピペリジンのジメチルホルムアミド溶液で処理することで除去できる。α-アミノ基とε-アミノ基を保護したリジンとジアミノアルカン類のモル比を1:1で反応を行えばモノリジルジアミノアルカンが、2:1で反応すればジリジルジアミノアルカンが、それぞれ得られる。これらは遊離のアミノ基の形で得られる場合には、酢酸エチルなどの溶液にしてアミノ基と当量のN-ヒドロキシコハク酸イミドを加えることで塩が得られる。塩酸塩やトリフルオロ酢酸塩などの形で得られる場合には、水溶液をN-ヒドロキシコハク酸イミドで平衡化した陰イオン交換樹脂カラムに通じることによってN-ヒドロキシコハク酸イミド塩が得られる。
【0012】
本発明における架橋反応は、ヘパリン及び多糖類の水性溶液において、水溶性カルボジイミド等の脱水縮合剤を用いて行うことができる。架橋反応の温度は、4℃から37℃の範囲で行いうるが、反応効率の点で20〜30℃の範囲で行うことが好ましい。架橋反応は時間とともに進行するので、高い架橋率が必要な場合は反応時間を長くすればよい。通常6〜72時間の架橋反応が行われるが、反応効率の点で24〜48時間が好ましい。
【0013】
架橋率は用いる架橋性試薬のモル比及び架橋反応時間で制御できる。架橋率を低くすると柔軟で含水率の高い架橋体が得られる。架橋率を高くすると強固で含水率が低くなる。架橋率は、得られた架橋体の用途により適宜選択されうる。架橋率は、少なすぎると実用的な機械的強度、安定性を有する架橋体が得られず好ましくない。また、多すぎると架橋性試薬のアミノ基が未反応のまま架橋体中に存在することになり好ましくない。従って架橋性試薬の多糖類に対する反応率は、それぞれの多糖類が有するカルボキシル基の総和に対して1から50モル%の割合であることが好ましく、5から40モル%の範囲にあることがさらに好ましい。
【0014】
さらに架橋反応は、ヘパリン、及びヘパリン以外のカルボキシル基を有する多糖類のそれぞれの水溶液の濃度が低すぎると十分な機械的強度を有する架橋体が得られず、また濃度が高すぎると溶解に時間がかかり、かつ得られる架橋体の含水率が低くかつ硬くなり、好ましくない。したがって、ヘパリン、及びヘパリン以外のカルボキシル基を有する多糖類のそれぞれの水溶液の濃度は、0.1%から5%の範囲にあることが好ましく、0.5%から4%の範囲にあることがさらに好ましい。
【0015】
架橋率は、元素分析法、NMR法等によって実測しうる。例えばアルギン酸やヒアルロン酸などのNを含まない多糖類を用いる場合には得られた架橋体中のNの元素分析により求められる。また、得られた架橋体のプロトンNMRにおける、多糖類のメチンプロトンと架橋性試薬のメチレンプロトンのシグナル強度比からも求められる。
【0016】
架橋反応によって得られた架橋体は、それ自身でも実用的な強度と安定性を示すが、用途によりさらにイオン結合架橋、疎水結合架橋などの他のゲル化方法と併用しても良い。
【0017】
架橋反応によって得られた架橋体は、通常水洗により未反応の試薬や不活性化した脱水縮合剤を除去し、精製することができる。その後、そのままあるいは生理的食塩液等の生理的に許容される塩類溶液に置換して用いるか、水洗浄後凍結乾燥してスポンジ状のキセロゲルとして用いても良い。
【0018】
凍結乾燥して得られるスポンジ状のキセロゲルの場合は、γ線滅菌やエチレンオキシドガス滅菌により滅菌されるが、
γ線滅菌が最も好ましい。含水ゲルの状態での滅菌は一般に困難であるので、架橋反応の段階から無菌的に行うことが望ましい。キセロゲルや含水ゲルの状態のヘパリン結合性成長因子用徐放基材にヘパリン結合性成長因子を含有させる方法としては、ヘパリン結合性成長因子の水溶液をキセロゲルに添加する方法、及び含水ゲルの状態でヘパリン結合性成長因子の水溶液を数時間接触させることにより行うことができる。
【0019】
本発明のヘパリン結合性成長因子用徐放基材は、生体内に直接埋植することによっても、周囲の体液中に存在するヘパリン結合性成長因子を吸収して安定に保持するので、組織・臓器の修復を促進することができる。
ヘパリン結合性成長因子用徐放基材にヘパリン結合性成長因子を含有させて得られたヘパリン結合性成長因子徐放
剤は、生体の欠損部や損傷部に直接貼り付けるか縫い付けることによって使用される。あるいは、試験管内で組織を構成する細胞、特に好ましくは増殖能と組織分化能を有する幹細胞を播種し、そのままあるいは一定期間試験管内で培養を続けた後、生体の欠損部や損傷部に適用することができる。
【0020】
本発明のヘパリン結合性成長因子用徐放基材およびヘパリン結合性成長因子徐放剤は、乾燥状態のキセロゲルのまま、あるいはこれに薬理学的に許容される塩類溶液や安定化剤、抗菌剤等を目的により含有させることができる。
【0021】
本発明のヘパリン結合性成長因子用徐放基材およびヘパリン結合性成長因子徐放剤は、多糖類からなるので免疫原性が低いこと、架橋性試薬の原料は生体に投与可能な化合物であるので、仮に生体内に残存した場合でも吸収と排泄が容易に行われることなどから、生体親和性と安全性に優れている。
【0022】
【実施例】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0023】
(実施例1)
2.3g(20mmol)のN-ヒドロキシコハク酸イミド(HOSu,(株)ペプチド研究所)を酢酸エチル150mlに溶解し、10mlの酢酸エチルに溶解した0.6g(10mmol)のエチレンジアミン(EDA、和光純薬工業株式会社)を、室温で攪拌しながら滴下した。滴下終了後さらに1時間攪拌を続けた。析出した結晶を熱メタノールから再結晶して2.0g(収率約70%)のエチレンジアミン2N-ヒドロキシコハク酸イミド塩(EDA・2HOSu)を得た。
アルギン酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社、500〜600cp)の1質量%水溶液70ml(カルボキシル基:3.5mmol)に、700mgのヘパリン(シグマ社、Na塩、ブタ小腸由来、176USP-U/mg)、0.62gのEDA・2HOSu(2.1mmol)、2.2gの1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド塩酸塩(EDC・HC1、(株)ペプチド研究所)を溶解して、13cmx17cmのテフロン被覆したステンレス製トレイに流延し、約25℃で約48
時間静置し架橋体を得た。
得られた架橋体を2.5mMの塩化カルシウムと143mMの塩化ナトリウムを含む水溶液で十分に洗浄した。その後数回水で洗浄し、凍結乾燥してキセロゲル状のヘパリン結合性成長因子用徐放基材を得た。
【0024】
(実施例2)
アルギン酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社、500〜600cp)の1質量%水溶液70ml(カルボキシル基:3.5mmol)に、350mgのヘパリン(シグマ社、Na塩、ブタ小腸由来、176USP-U/mg)、0.465gのEDA・2HOSu(1.6mmol)、2.2gの1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド塩酸塩(EDC・HC1、(株)ペプチド研究所)を溶解して、13cmx17cmのテフロン被覆したステンレス製トレイに流延し、約25℃で約48
時間静置し架橋体を得た。
得られた架橋体を2.5mMの塩化カルシウムと143mMの塩化ナトリウムを含む水溶液で十分に洗浄した。その後数回水で洗浄し、凍結乾燥してキセロゲル状のヘパリン結合性成長因子用徐放基材を得た。
【0025】
(比較例1)
アルギン酸ナトリウム(和光純薬工業株式会社、500〜600cp)の1質量%水溶液70ml(カルボキシル基:3.5mmol)に、0.31gのEDA・2HOSu(1.1mmol)、2.2gの1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド塩酸塩(EDC・HC1、(株)ペプチド研究所)を溶解して、13cmx17cmのテフロン被覆したステンレス製トレイに流延し、約25℃で約48時間静置し架橋体を得た。
得られた架橋体を2.5mMの塩化カルシウムと143mMの塩化ナトリウムを含む水溶液で十分に洗浄した。その後、数回水で洗浄し、凍結乾燥してキセロゲル状の徐放基材を得た。
【0026】
(参考例1)
モノクロル酢酸(シグマ社)3gをメタノール20mlに溶解し、攪拌しながら、NaOH3.5gを溶解した3.5mlの水を滴下した。次にバレイショデンプン(和光純薬工業株式会社)10gを加えて、38時間40℃で加温攪拌した。反応生成物を氷冷しながら氷酢酸でpH6.5に調整した後、アセトンで数回遠心洗浄した。減圧乾燥してカルボキシメチル化デンプン約10gを得た。導入されたカルボキシル基の量を電位差滴定で定量したところ、糖1残基当りのカルボキシル基導入率は0.36であった。
得られたカルボキシメチル化デンプンの2.5質量%水溶液70ml(カルボキシル基:3.5mmol)に、875mgのヘパリン(シグマ社、Na塩、ブタ小腸由来、176USP-U/mg)、1.12gのEDA・2HOSu(1.6mmol)、2.2gの1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド塩酸塩(EDC・HC1、(株)ペプチド研究所)を溶解して、13cmx17cmのテフロン(登録商標)被覆したステンレス製トレイに流延し、約25℃で約48時間静置し架橋体を得た。
得られた架橋体を2.5mMの塩化カルシウムと143mMの塩化ナトリウムを含む水溶液で十分に洗浄した。その後、数回水で洗浄し、凍結乾燥してキセロゲル状のヘパリン結合性成長因子用徐放基材を得た。
【0027】
(実施例3)
実施例1で得られたキセロゲル状のヘパリン結合性成長因子用徐放基材をエタノールに浸漬を繰り返すことにより殺菌を行った。無菌的に減圧乾燥を行った後、各基材の乾燥質量5mgに対して、10ngから2.5μgの塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF;ライフテック社)と0.1%のウシ血清アルブミン(シグマ社)を含むリン酸塩緩衝溶液(PBS;10mM、pH7.4、150mMのNaClを含む)を加えた。4℃で約2〜12時間静置して、ヘパリン結合性成長因子徐放剤を得た。
【0028】
(実施例4)
実施例2で得られたキセロゲル状のヘパリン結合性成長因子用徐放基材をエタノールに浸漬を繰り返すことにより殺菌を行った。無菌的に減圧乾燥を行った後、各基材の乾燥質量5mgに対して、10ngから2.5μgの塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF;ライフテック社)と0.1%のウシ血清アルブミン(シグマ社)を含むリン酸塩緩衝溶液(PBS;10mM、pH7.4、150mMのNaClを含む)を加えた。4℃で約2〜12時間静置して、ヘパリン結合性成長因子徐放剤を得た。
【0029】
(比較例2)
比較例1で得られたキセロゲル状の徐放基材をエタノールに浸漬を繰り返すことにより殺菌を行った。無菌的に減圧乾燥を行った後、各基材の乾燥質量5mgに対して、10ngから2.5μgの塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF;ライフテック社)と0.1%のウシ血清アルブミン(シグマ社)を含むリン酸塩緩衝溶液(PBS;10mM、pH7.4、150mMのNaClを含む)を加えた。4℃で約2〜12時間静置して、比較のための徐放剤を得た。
【0030】
(試験例1)
(bFGF放出試験−1)
実施例3、実施例4、比較例2で得られた徐放剤のうち、各基材の乾燥質量5mg対して10ngのbFGFを含む徐放剤を、5mlの1%のウシ血清アルブミン(シグマ社)を含むリン酸塩緩衝溶液(PBS;10mM、pH7.4、150mMのNaClを含む)中で37℃に保温し、静置した。静置開始より0.5、1、6、24、48、72、120、168時間後に上清のサンプリングを行った。各サンプリングの30分前に溶液を全量交換することにより、30分間に徐放剤より放出されるbFGFの量を測定した。サンプリングした上清中のbFGF濃度の定量は酵素免疫測定法のキット(Quantikine、R&Dシステムズ社)を用いて行った。
その結果、実施例3および実施例4で得られた徐放剤からは、試験期間中コンスタントなbFGFの放出が観測され、168時間後以後も持続的にbFGFが放出される傾向が認められた。bFGFの総放出量は8ngを越えた。これに対し、比較例2で得られた徐放剤からは、bFGFが24時間以内に急激に放出され、24時間以後の放出は全く認められなかった。また、総放出量は4ngにとどまった。
【0031】
(試験例2)
(bFGF放出試験−2)
実施例3、実施例4、比較例2で得られた徐放剤のうち、各基材の乾燥質量5mg対して100ngのbFGFを含む徐放剤を、0.5%のウシ胎児血清を含む細胞用培地(ダルベッコのMEM、日水製薬株式会社)5ml中で37℃に保温し、静置した。静置開始より1、2、3、4、5、6、7、14、21、28日後に上清のサンプリングを行った。各サンプリングの30分前に溶液を全量交換することにより、30分間に徐放剤より放出されるbFGFの量を測定した。サンプリングした上清中のbFGFの生物活性を、NIH3T3細胞株(大日本製薬株式会社、ATCC CRL-1658)に対する増殖促進作用で測定した。即ち、培養用の24穴プレート(ヌンク社)の各ウエルに、10%のウシ胎児血清を含む培地(ダルベッコのMEM)に分散した50000個のNIH3T3細胞を分注し、5%CO2存在下37℃で3時間静置して細胞を接着させた。細胞を接着後、各ウエルの培地をすべて除去し、サンプリングした上清の1mlずつを各ウエルに加え、5%CO2存在下37℃で3日間静置した。3日後に各ウエルの細胞を0.02%エチレンジアミン4酢酸(EDTA)と0.25%のトリプシンで処理することにより遊離して、細胞数を血球計算盤で数えた。
サンプリングした各上清の増殖促進指数(上清の代わりにbFGFを含まない0.5%のウシ胎児血清を含む細胞用培地(ダルベッコのMEM)を加えたウエルの細胞数に対する細胞数の比)は、7日後に実施例3で1.61、実施例4で1.33、比較例2で1.16であった。14日後は、それぞれ1.22、1.07、0.99であった。21日後は、それぞれ1.29、0.98、0.96であった。28日後はすべて1.0以下となった。この結果から、実施例3では21日後まで、実施例4では14日後までそれぞれ生物学的活性のあるbFGFを放出していることがわかった。これに対して、比較例2では7日間程度しかbFGFを放出しないことがわかった。
【0032】
(試験例3)
(ラット皮下埋殖試験)
実施例3および比較例2で得られた徐放剤のうち、各基材の乾燥質量5mgに対して2.5μgのbFGFを含む徐放剤を、6週齢の雌性Wistarラット(日本SLC株式会社)の皮下に2週間埋殖し、2週間後に埋殖部位を摘出して肉眼的、及び組織学的検討を行った。実施例3では、徐放剤全体に無数の新生血管が認められた。これに対して、比較例2では数本の血管新生が認められたものの、多量の出血および炎症像が観察された。
【0033】
(実施例5)
実施例1で得られたキセロゲル状のヘパリン結合性成長因子用徐放基材に、25kGyのγ線を照射することによって滅菌処理を施した。滅菌済みの各基材の乾燥質量5mgに対して100ngから2.5μgの肝細胞増殖因子(HGF;コラボレイティブ社)と0.1%のウシ血清アルブミン(シグマ社)を含むリン酸塩緩衝溶液(PBS;10mM、pH7.4、150mMのNaClを含む)を加えた。4℃で2〜12時間静置して、ヘパリン結合性成長因子徐放剤を得た。
【0034】
(実施例6)
実施例2で得られたキセロゲル状のヘパリン結合性成長因子用徐放基材に、25kGyのγ線を照射することによって滅菌処理を施した。滅菌済みの各基材の乾燥質量5mgに対して100ngから2.5μgの肝細胞増殖因子(HGF;コラボレイティブ社)と0.1%のウシ血清アルブミン(シグマ社)を含むリン酸塩緩衝溶液(PBS;10mM、pH7.4、150mMのNaClを含む)を加えた。4℃で2〜12時間静置して、ヘパリン結合性成長因子徐放剤を得た。
【0035】
(比較例3)
比較例1で得られたキセロゲル状の徐放基材に、25kGyのγ線を照射することによって滅菌処理を施した。滅菌済みの各基材の乾燥質量5mgに対して100ngから2.5μgの肝細胞増殖因子(HGF;コラボレイティブ社)と0.1%のウシ血清アルブミン(シグマ社)を含むリン酸塩緩衝溶液(PBS;10mM、pH7.4、150mMのNaClを含む)を加えた。4℃で2〜12時間静置して、比較のための徐放剤を得た。
【0036】
(試験例4)
(ラット皮下埋殖試験)
実施例5で得られた徐放剤のうち、各基材の乾燥質量5mgに対して2.5μgのHGFを含む徐放剤を、6週齢の雌性Wistarラット(日本SLC株式会社)の皮下に2週間埋殖し、2週間後に埋殖部位を摘出して肉眼的、及び組織学的検討を行った。実施例5では、徐放剤のおよそ半分の領域に新生血管が認められた。出血や炎症像は観察されなかった。
【0037】
(参考例2)
参考例1で得られたキセロゲル状のヘパリン結合性成長因子用徐放基材を、エタノールに浸漬を繰り返すことにより殺菌を行った。無菌的に減圧乾燥を行った後、各基材の乾燥質量5mgに対して、2.5μgの塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF;ライフテック社)あるいは2.5μgの肝細胞増殖因子(HGF;コラボレイティブ社)の0.1%のウシ血清アルブミン(シグマ社)を含むリン酸塩緩衝溶液(PBS;10mM、pH7.4、150mMのNaClを含む)を加えた。4℃で2〜12時間静置して、ヘパリン結合性成長因子徐放剤を得た。
【0038】
【発明の効果】
上記の試験例から明らかなように、本発明により提供されるヘパリン結合性成長因子用徐放基材およびヘパリン結合性成長因子徐放剤は、生体内類似環境下および生体内環境下でのヘパリン結合性成長因子の安定化と徐放特性、安全性に優れているので創傷治療剤や骨折治療剤、血管新生促進剤、神経再生促進剤、肝再生促進剤などの組織や臓器の再生治癒促進剤として有用である。
さらに、本発明により提供されるヘパリン結合性成長因子用徐放基材およびヘパリン結合性成長因子徐放剤は、試験管内で皮膚や骨、軟骨、血管、神経、肝などの組織を構築し、しかる後に生体に移植するための、組織工学用の基剤としても有用である。
Claims (3)
- ヘパリンとアルギン酸とからなる混合物を、ジアミノエタン2N−ヒドロキシコハク酸イミド塩からなる架橋性試薬で共有結合架橋して得られる上記混合物の架橋体を主成分とする生体内吸収性および排泄性のヘパリン結合性成長因子用徐放基材。
- ヘパリンとアルギン酸とからなる混合物を、ジアミノエタン2N−ヒドロキシコハク酸イミド塩からなる架橋性試薬で共有結合架橋して得られる上記混合物の架橋体を主成分とする基材に、ヘパリン結合性の成長因子類を含有させてなる生体内吸収性および排泄性のヘパリン結合性成長因子徐放剤。
- ヘパリン結合性の成長因子類が塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)である請求項2記載のヘパリン結合性成長因子徐放剤。
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