JP4562269B2 - コイルばねの製造方法及びその装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、コイルばねの製造方法及び装置に関し、特に、冷間加工によるコイルばねの製造方法及び装置に係る。
【0002】
【従来の技術】
コイルばねを製造する方法としては、熱間加工による方法と冷間加工による方法が知られており、コイルばねを冷間加工によって製造する装置として、種々のコイリングマシンが市販されている。例えば、特開平第6−106281号公報、特開平第6−294631号公報、特開平第7−248811号公報、特開平第9−141371号公報等においては、コイリングマシンが開示され、その制御等について提案されている。これらのコイリングマシンの基本構成は、素線を送り出しながら曲げ加工及び捩り加工を行なってコイルばねを製造するもので、数値制御(NC)によって機械精度の向上が図られている。
【0003】
一方、近時の解析技術の進展により、ばね形状のモデルを作成し種々のシミュレーションを行なうことが可能となり、この解析結果に基づく製品設計も可能となっている。例えば、FEM解析により所定のばね特性を得るばね形状を特定することも可能である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
然し乍ら、コイリングマシンを用いてコイルばねを製造する際には、一旦、コイルばねを試作し、試作結果のコイルばねの寸法を確認しながら所定の形状に仕上げるというトライアンドエラーによる製造方法が主流である。即ち、コイリングマシンは数値制御(NC)によって駆動されるものの、これに入力するデータは作業者の勘とコツに頼っているというのが現状である。このため、寸法確認が部分的となるので製品全体の形状が保証されるというものではなく、形状が複雑になるとそれだけ試作時間が長くなるという問題があった。
【0005】
例えば、前掲の特開平第7−248811号公報においては、従来のコイルばね成形機用自動プログラミング装置により生成されたコイルばねは、一般的には設定したコイル形状とは若干の差異があるとし、これに対し、オペレータはデータを画面で見ながら形状を頭の中でイメージしてデータを修正すべき箇所を特定して修正しなければならず、間違えやすいという問題があったとした上で、データ修正箇所の特定及びデータの検証を容易に行なうことを課題としている。そして、その解決手段は、コイルばね形状を画面に描画し、データ修正対象箇所を明示するマーカ及びコイル巻数積算値を表示するようにし、オペレータがコイル形状を確認しながら入力することとしている。
【0006】
もちろん、前掲の各公報に記載のように、コイリングマシンの制御等に関する改良も行なわれているが、それは機械の制御という観点からの改良に留まり、通常の機械加工のような加工対象部品を目標形状に形成するための加工には達していない。これは、以下のようなコイルばね特有の問題に起因しているからである。
【0007】
先ず、冷間加工によるコイルばねの製造に際しては、必ず弾性変形を伴いスプリングバックを惹起するので、切削加工等とは異なり、加工具の位置や移動量の適性値を推定しにくいという問題がある。しかも、素線の硬さやコイル形状によってスプリングバック量が異なる。特に、製造後の圧縮コイルばねは線間接触を惹起し易く、所期のばね特性を確保することは極めて困難であった。このような点に鑑み、試作品の現物を寸法確認してNCデータを得るという方法が一般的となっている。
【0008】
また、設計時の寸法設定と、コイリングマシンによる加工時の寸法が一致しない。例えば、設計時に3次元座標で目標形状を示す場合の径に対し、加工時に設定する径を、リードによる軸方向移動分、大きくする必要がある。しかも、計算上の素線(線材)の送り量と加工時の巻数(加工位置)が合致せず、素線の送り量と、曲げ加工位置や捩り加工位置との間に位相差が生ずる。更に、コイリングマシンによる加工後に、加工歪を除去するためテンパー処理(低温熱処理、以下、単に熱処理という)を行うことが一般的であり、このときに生ずる形状変化を予測して加工することが必要となる。
【0009】
以上の理由により、従来、目標形状の座標位置に対応する実際の加工対象の加工位置が正確に特定できないとして、作業者の勘とコツに依存し乍ら試作し、トライアンドエラーの繰り返しによって製造することとされていた。従って、折角の数値制御が可能なコイリングマシンも、その機能が十分に生かされず、手動操作の域を脱していないという状態であった。
【0010】
そこで、本発明は、素線を送り出しながら曲げ加工及び捩り加工を行ないコイルばねを製造する冷間加工によるコイルばねの製造方法において、予め設定した所望の形状の目標コイルばねを自動的に且つ正確に製造し得る製造方法を提供することを課題とする。
【0011】
また、本発明は、予め設定した所望の形状の目標コイルばねを自動的に且つ正確に製造し得るコイルばねの製造装置を提供することを別の課題とする。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記の課題を解決するため、本発明のコイルばねの製造方法は、請求項1に記載のように、素線を送り出しながら曲げ加工及び捩り加工を行ない冷間加工によってコイルばねを製造するコイルばねの製造方法において、所望の形状の目標コイルばねの形状を特定する複数のパラメータ設定し、該複数のパラメータに基づき、任意の巻数単位でのピッチに沿ってコイルばねの直径を設定して加工時の製品寸法データとし、該加工時の製品寸法データに基づき少なくとも曲げ加工位置及び捩り加工位置を設定し、所定の素線送り量に対応した曲げ加工位置及び捩り加工位置となるように曲げ加工及び捩り加工を行な前記目標コイルばねを製造することとしたものである。
【0013】
更に、請求項2に記載のように、前記曲げ加工及び捩り加工の完了後に所定の後処理を行い、該後処理後のコイルばねの形状に基づき、前記加工時の製品寸法データに基づいて設定し曲げ加工位置及び捩り加工位置を補正して設定するとよい。
【0014】
特に、請求項3に記載のように、前記後処理として、少なくとも熱処理を行い、該熱処理後のコイルばねの形状に基づき、前記加工時の製品寸法データに基づいて設定し曲げ加工位置及び捩り加工位置を補正して設定するとよい。
【0015】
前記複数のパラメータとしては、請求項4に記載のように、前記目標コイルばねの巻数、その半径及びリードすることができる。
【0016】
また、本発明のコイルばねの製造装置は、請求項5に記載のように、素線を送り出しながら曲げ加工及び捩り加工を行ない冷間加工によってコイルばねを製造するコイルばねの製造装置において、所望の形状の目標コイルばねの形状を特定する複数のパラメータ設定するパラメータ設定手段と、該パラメータ設定手段が設定した複数のパラメータに基づき、任意の巻数単位でのピッチに沿ってコイルばねの直径を設定して加工時の製品寸法データとするデータ変換手段と、該データ変換手段が設定した前記加工時の製品寸法データに基づき少なくとも曲げ加工位置及び捩り加工位置を設定する加工条件設定手段と、前記素線を送り出す素線供給手段と、前記素線に対し曲げ加工を行なう曲げ加工手段と、前記素線に対し捩り加工を行なう捩り加工手段と、前記加工条件設定手段が設定した少なくとも曲げ加工位置及び捩り加工位置に基づき、所定の素線送り量に対応した曲げ加工位置及び捩り加工位置となるように前記素線供給手段、前記曲げ加工手段及び前記捩り加工手段を駆動する駆動手段とを備え、該駆動手段によって前記素線供給手段、前記曲げ加工手段及び前記捩り加工手段を駆動して曲げ加工及び捩り加工を行な前記目標コイルばねを製造することとしたものである。
【0017】
前記加工条件設定手段は、請求項6に記載のように、前記素線の所定の基準位置からの素線送り量を設定する素線送り量設定手段と、該素線送り量設定手段が設定した所定の素線送り量に対応した曲げ加工位置を設定する曲げ加工位置設定手段と、前記素線送り量設定手段が設定した所定の素線送り量に対応した捩り加工位置を設定する捩り加工位置設定手段とを備えたものとするとよい。
【0018】
更に、請求項7に記載のように、前記曲げ加工及び捩り加工の完了後に所定の後処理を行う後処理手段を備えると共に、該後処理手段による後処理後のコイルばねの形状に基づき、前記加工時の製品寸法データに基づいて設定し曲げ加工位置及び捩り加工位置を補正して設定する補正手段を備えたものとするとよい。
【0019】
また、請求項8に記載のように、前記後処理手段は、前記後処理として、少なくとも熱処理を行い、前記補正手段は、前記熱処理後のコイルばねの形状に基づき、前記加工時の製品寸法データに基づいて設定し曲げ加工位置及び捩り加工位置を補正して設定することができる。
【0020】
前記パラメータ設定手段は、請求項9に記載のように、前記目標コイルばねの巻数、その半径及びリードを前記複数のパラメータとして設定することができる。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。図1は本発明の一実施形態に係るコイルばねの製造装置を示すもので、本実施形態のコイルばねの製造装置は一般的な構成のコイリングマシンCMを包含している。即ち、コイリングマシンCMの基本構成は市販の装置と同様であり、図1の上方に一部を示すように、本発明の素線供給手段たるフィードローラ1が駆動手段のモータDFによってワイヤガイド2を介してコイルばねの素線(ワイヤW)が送出されるように構成されている。
【0022】
そして、本発明の曲げ加工手段を構成するコイリングピン3,3xが、加工目標のコイル中心に対し油圧サーボシリンダDB(以下、単にシリンダDBという)によって進退可能に配設されている。尚、コイリングピン3xは、切断軸からの芯ずれを防止するためコイリングピン3に追従して微動するように構成されており(固定位置としてもよい)、これにより適切にコイリングを行なうことができるが、以下の説明においてはコイリングピン3の移動についてのみ説明する。
更に、本発明の捩り加工手段を構成するピッチツール4が駆動手段の油圧サーボシリンダシリンダDT(以下、単にシリンダDTという)によって進退可能に配設され、同様にカッタ5が進退可能に配設されている。尚、上記の各駆動手段としては電気式駆動装置、油圧式駆動装置等の種々の態様があり、本実施形態のモータあるいはシリンダに限定されるものではない。
【0023】
而して、フィードローラ1の回転に応じて、ワイヤWがワイヤガイド2に案内されて図1の右方に繰り出され、コイリングピン3によって所望の径に屈曲される。この間、巻線間のピッチはピッチツール4によって所定の値に設定され、所定の巻数だけ巻回されると、カッタ5によって切断される。この工程及び作動順序と共にコイル径等が予めコントローラCTのメモリに格納されており、後述するフローチャートのプログラムに従って、駆動手段を介してフィードローラ1、コイリングピン3、ピッチツール4及びカッタ5が駆動されるように構成されている。
【0024】
上記の構成になるコイリングマシンCMを駆動、制御する装置は以下のように構成されている。即ち、所望の形状の目標コイルばねの形状を特定する複数のパラメータを設定するパラメータ設定手段MTと、このパラメータ設定手段MTが設定した複数のパラメータを少くとも曲げ加工位置及び捩り加工位置に変換するデータ変換手段MDと、このデータ変換手段MDの変換結果に応じて曲げ加工位置及び捩り加工位置を設定する加工条件設定手段MCが設けられている。更に、加工条件設定手段MCにて設定された曲げ加工位置及び捩り加工位置に基づき、所定の素線送り量に対応した曲げ加工位置及び捩り加工位置となるようにフィードローラ1、コイリングピン3及びピッチツール4を駆動する駆動手段(モータDF及びシリンダDB,DT)が設けられている。而して、これらの駆動手段によってフィードローラ1、コイリングピン3及びピッチツール4が駆動され、ワイヤWに対し曲げ加工及び捩り加工が行なわれ、目標とするコイルばね(図示せず)が製造される。
【0025】
上記の加工条件設定手段MCは、図1に示すように、素線の所定の基準位置からの素線送り量を設定する素線送り量設定手段M1と、素線送り量設定手段M1が設定した所定の素線送り量に対応した曲げ加工位置を設定する曲げ加工位置設定手段M2と、素線送り量設定手段M1が設定した所定の素線送り量に対応した捩り加工位置を設定する捩り加工位置設定手段M3を備え、各設定手段(M1,M2,M3)が設定した値に応じて各駆動手段(DF,DB,DT)が夫々駆動されるように構成されている。
【0026】
パラメータ設定手段MTにおいては、複数のパラメータとして目標コイルばねの巻数、その半径及びリードが設定される。先ず、モデル解析結果に基づいて目標コイルばねが設計され、その3次元極座標データが求められ、これらがパラメータとして設定される。設計時のデータとしては、目標コイルばねの線径d、巻数N半径RリードL、荷重及び各コイル間の間隙等がある。この内の形状データ(半径R及びリードL)がデータ変換手段MDにてコイリングマシンCMによる加工時の製品寸法データ(径D及びピッチP)に変換される。
【0027】
上記の設計時の形状データと加工時の製品寸法データは、図6に示す関係にり、この変換がデータ変換手段MDにおいて自動的に行なわれるように設定されている。図6の左側に示すように、設計時の座標データは総巻数(N)が任意の巻数単位(望ましくは0.1 巻以下)で分割され、リード(リードL3,L4,L5・・)に沿ってコイルばねの半径(R1,R2,R3,R4・・)が設定される。一方、図6の右側に示すように、製品寸法データについては、上記の巻数単位でのピッチ(P1,P2,P3・・)に沿ってコイルばねの直径(D1,D2・・)が設定される。この製品寸法データが、データ変換手段MDにおいて設計時の形状データから変換される。このように加工時の製品寸法データで整理することにより、基準軸とばね中心線が異なる湾曲コイルばね等にも容易に対応することができる。尚、加工位置の特定は基準点(例えば巻き始め端)からの巻数で特定される。
【0028】
而して、例えば図1に破線で示すように、製品寸法データとして変換されるコイルばねの直径(即ちコイル径)に応じて曲げ加工位置及び捩り加工位置を設定する加工データマップMPを用意しておき、この加工データマップMPに基づき、加工条件設定手段MCにおいて曲げ加工位置及び捩り加工位置を設定することにより、容易に加工条件を設定することができる。尚、これについては、後に詳細に説明する。
【0029】
更に、図1に破線で示すように、曲げ加工及び捩り加工の完了後に所定の後処理を行う後処理手段MEを備えるとよい。後処理としては、例えば前述の熱処理と、所定の荷重を付与するセッティングがあり、これらの後処理後のコイルばねの形状に基づき、コイル径、曲げ加工位置及び捩り加工位置を補正する補正手段MHを備えるとよく、これについても後述する。
【0030】
次に、上記の構成に成るコイルリングマシンCMによってコイルばねを製造する方法を、図2を参照して設計から搬出までの工程順に説明する。上記のように目標コイルばねが設計され、その3次元極座標データが求められた後、これらがパラメータとしてキーボード等の周辺機器OAによってコイルリングマシンCMのコントローラ(図3を参照して後述)に入力され、コイルリングマシンCM(特にコントローラ)内で、前述のように加工時の製品寸法データ(直径D及びピッチP)に変換される。これにより、所定の送り量に応じた曲げ加工位置及び捩り加工位置が設定され、例えば加工データマップMPに反映される。そして、これらの曲げ加工位置及び捩り加工位置に基づき曲げ加工及び捩り加工が行なわれ、コイルばね(図示せず)が形成される。このコイルばねに対し、本実施形態では後処理として、テンパー処理(熱処理)が行なわれた後に搬出されるが、更に、所定の荷重を付与するセッティング処理を行なうこととしてもよい。
【0031】
即ち、曲げ加工及び捩り加工の完了後の後処理として、テンパー処理後に所定の荷重を付与してセッティングを行なわれるのが普通であり、このセッティングによってもコイリング時のコイル径及びピッチが変化するので、セッティング後の変化を予測してコイリング前の曲げ加工及び捩り加工の位置データに反映させることとしてもよい。
【0032】
図3はコイリングマシンCMに用いられるコントローラCTの構成の一例を示すもので、バスを介して相互に接続されたプロセシングユニットCPU、メモリROM,RAM、入力インターフェースIT、出力インターフェースOT、並びにキーボード、ディスプレイ、プリンタ等の周辺機器(代表してOAで表す)が収容、装着されている。本実施形態においては、図1に示すワイヤWを検知するセンサS1、及びカッタ5の作動を検知するセンサS2のほか、コイリングピン3、ピッチツール4等の移動量あるいは位置を監視するためのエンコーダ(図示せず)が入力インタフェースITに接続されており、モータDF及びシリンダDB,DTが出力インターフェースOTに接続されている。従って、センサS1,S2等の出力信号はA/DコンバータADを介して夫々インターフェースITからプロセシングユニットCPUに入力され、出力インターフェースOTからは駆動回路ACを介してモータDF及びシリンダDB,DTに駆動信号が出力されるように構成されている。
【0033】
而して、図1のパラメータ設定手段MT、データ変換手段MD、加工条件設定手段MC、加工データマップMPはコントローラCT内で構成されている。コントローラCTにおいては、メモリROMは図4及び図5に示したフローチャートを含む種々の処理に供するプログラムを記憶し、プロセシングユニットCPUは起動されている間当該プログラムを実行し、メモリRAMは当該プログラムの実行に必要な変数データを一時的に記憶する。
【0034】
図1に示したコイリングマシンCMは、図4に示したフローチャートに従って制御され、以下に説明するようにコイリングが行なわれる。先ず、ステップ101において初期化され、これまでにメモリRAMに蓄積された種々のデータがクリアされた後、ステップ102にて例えば周辺機器OAのキーボード(図示せず)により設計時の形状データが入力される。即ち、前述のように、モデル解析結果に基づいて設計された目標コイルばねの線径d、巻数N半径RリードL等が入力される。そして、ステップ103において、これらの形状データ(半径R及びリードL)が、図6に示すように、コイリングマシンCMによる加工時の製品寸法データ(直径D及びピッチP)に変換される。
【0035】
次に、ステップ104において、素線総送り量L(及び送り量δL)、曲げ加工位置A(又は移動量δA)及び捩り加工位置B(又は移動量δB)等の加工条件が設定されるが、これについては図5を参照して後述する。尚、曲げ加工時の素線総送り量L(及び送り量δL)とコイリングピン3の移動量δAの関係を図12示し、捩り加工時のピッチツール4の移動量δBの関係を図13に示す。そして、ステップ105に進み素線送り作動が開始し、ロール状に巻回された素線の束からフィードローラ1によって素線が送り出されると共に、素線の巻端を開始位置とする素線総送り量Lの加工が開始する。この素線総送り量Lは巻端を基準とする巻数(例えば6巻)で表され、データ変換作業に応じて複数の素線送り量δLに分割されるが、このように特に区別する場合を除き、これらを総称して素線送り量という。
【0036】
上記の素線総送り量Lに基づき、ステップ106において、ステップ104で設定された加工条件に従って、そのときの素線総送り量Lx(又は素線送り量δLx)における曲げ加工位置Ax(又は移動量δAx)及び捩り加工位置Bx(又は移動量δBx)が特定される。そして、ステップ107において、素線送り量δL(初期値は0)に所定量K0が加算されて素線送り量δLとされ、素線送り量δLの線送りと同期してステップ108及び109にて、曲げ加工及び捩り加工が行なわれ、素線総送り量(又は素線送り量)がLx(又はδLx)に到達した時点で曲げ加工位置Ax(又は移動量δAx)及び捩り加工位置Bx(又は移動量δBx)となるようにコイリングピン3及びピッチツール4が駆動される。
【0037】
このような一連の加工が行なわれ、ステップ110において素線送り量δLが所定量K1(例えば5/100巻)以上と判定されるまで曲げ加工及び捩り加工が行なわれる。ステップ110において、所定量K1の線送り並びにこれと同期した曲げ加工及び捩り加工が完了したと判定されると、ステップ111にて素線送り量δLがクリア(0)されて、ステップ112に進み、所定巻数分(例えば6巻)のコイリングが完了したか否かが判定され(即ち、L=6巻か否か)、完了していなければステップ106に戻り、所定巻数分のコイリングが完了するまで、曲げ加工及び捩り加工が行なわれる。
【0038】
ステップ112において所定巻数分のコイリングが完了したと判定されると、ステップ113に進み、素線送り作動が停止されると共に、素線総送り量Lがクリア(0)される。そして、ステップ114においてカッタ5(図1)によって切断され、1個のコイルばねのコイリングが完了する。続いて、ステップ115において素線の残量(ストック)があるか否かが判定され、素線の残量があれば、ステップ105に戻り、次のコイリングが行なわれる。このようにして、連続して自動的に複数のコイルばねが製造され、ステップ114において素線の残量が無いと判定されると終了し、素線送り等全ての作動が停止する。
【0039】
上記のステップ104で設定される加工条件は図5に示すように設定され、曲げ加工位置A(又は移動量δA)及び捩り加工位置B(又は移動量δB)が図7乃至図10に示すように設定されると共に、補正処理が行なわれ、これらの位置データが素線総送り量L(又は、素線送り量δL)に応じて割付けられる。
【0040】
先ず、ステップ201において、コイリング後に前述の後処理(例えばテンパー処理)が行なわれると、径変化が生じ所謂「縮み」が生ずるが、変化量は一律ではなく、例えば、テンパー処理による縮み量はコイル径D及び素線径dによって異なる。そこで、本実施形態においては、図11に示すように、コイル比D/d(コイル径Dと素線径dの比)に応じて、コイル径Dに対する補正量δDを設定し、図5のステップ201において、補正量δDをコイル径Dに加算することによって補正し、この補正値(D+δD)をテンパー前予測データ値とし、この予測データ値を、次のステップ202における曲げ加工位置A(又は移動量δA)の設定に供することとしている。尚、このステップ201において、前述のセッティングによる変形を予測し、セッティング前予測データ値を求めることとしてもよい。
【0041】
次に、ステップ202において、図7に示すマップに従い、前述のステップ103にて変換された製品寸法データに応じて、曲げ加工位置A(即ちコイリングピン3の位置)が設定される。図7は、コイル径Dと曲げ加工位置Aとの関係を示すもので、これにより、一点鎖線の矢印で示すように所定のコイル径Dxに対し所定の曲げ加工位置Axを設定することができる。但、図7の特性は素線径dによって異なるので、素線径dに応じて複数のマップを用意しておき、適宜選択することが必要である。尚、図7において、破線hは材料が相対的に硬い場合の特性を示し、破線sは材料が相対的に柔らかい場合の特性を示すように、材料によっても特性が異なる。これに対し、材料に応じて複数のマップを用意することとしてもよいが、本実施形態では、平均的な特性を基準とし、材料の硬さに応じた補正は別途(ステップ205にて)行なうこととしている。
【0042】
上記の図7に示すマップは、データ量が多くなる。これを回避するため、巻き始めのコイル径D0とこれに対応する曲げ加工位置A0を基準点として、この基準点からのコイル径の変化量δDと曲げ加工移動量δA(即ち、コイリングピン3の移動量)の関係を示す図8のマップを用いることとしてもよい。
【0043】
続いて、ステップ203において、図9に示すマップに従い、捩り加工位置B(即ちピッチツール4の位置)が設定される。図9は、ピッチPと捩り加工位置Bとの関係を示すもので、これにより、一点鎖線の矢印で示すように所定のピッチPxに対し所定の捩り加工位置Bxを設定することができる。図9の特性も素線径d及び材料の硬さによって異なる。例えば、図10に示すように、コイル比D/dに応じてピッチPの値が異なるので、例えば一個のコイルばねの中で径変化が大きい場合には補正処理を行ない、複数のマップを用意するとよい。また、図9において、破線hは材料が相対的に硬い場合の特性を示し、破線sは材料が相対的に柔らかい場合の特性を示すように、材料によっても特性が異なるので、材料に応じて複数のマップを用意することとしてもよいが、本実施形態では、平均的な特性を基準とし、材料の硬さに応じた補正は別途(ステップ205にて)行なうこととしている。
【0044】
更に、前述のようにテンパー処理が行なわれるとコイル径変化が生じるが、このコイル径変化により製品の巻数にも変化が生じる。そこで、更にステップ204において、特にテンパー処理による径変化量から巻数の変化を予測して、テンパー処理前でのコイリング時の素線総送り量L(巻数で表す)が設定される。本実施形態では、テンパー処理後の素線総送り量(即ち、製品としての巻数)に補正値K4を乗ずることとしており、この補正値K4はデータベースとされ、あるいは相関式から演算し得るように設定されている。例えば、テンパー処理後(完成時)に6巻(2000mm)で、テンパー処理前で5.8巻の製品の場合には、製品寸法データとしては6巻とし、コイリング時の素線総送り量Lはテンパー処理後に6巻となるように補正値K4を乗じた値が用いられる。
【0045】
次に、ステップ205において、素線の材料の硬さに応じて、曲げ加工位置A及び捩り加工位置Bに対して補正処理が行なわれる。本実施形態では、素線の材料に応じて、前述のように設定された曲げ加工位置A及び捩り加工位置Bに補正値K2,K3を乗ずることとしている。曲げ加工位置Aに対する補正値K2は、材料の引張り強さから推定できるので(硬さに反比例する)、材料の交換毎に引張り強さを入力することとしておき、特定の材料が入力されたときには自動的に補正値K2が選択されるように設定するとよい。また、捩り加工位置Bに対する補正値K3は、例えば、後段で行なわれるセッティングを経た後の、最終的な自由高さの調整を想定して設定するとよい。尚、この補正処理は、ステップ201と共に先に行なうこととしてもよいし、ステップ201の補正処理と共に、全ての設定処理の前または後に、まとめて補正処理を行なうこととしてもよい。
【0046】
そして、ステップ206において、素線総送り量L(又は送り量δL)に応じて曲げ加工位置A(又は移動量δA)及び捩り加工位置B(又は移動量δB)が特定(割付)される。このとき、位相差を考慮する必要があり、例えば、素線総送り量LがLx(例えば1.0巻)のときには、1.1巻から1.6巻の間のコイル径の曲げ加工位置Axとされ、0.7巻から1.7巻の間のピッチの捩り加工位置Bxとされる。即ち、素線総送り量Lが1.0巻となったときには、1.1巻のコイル径が成形されており、1.1巻以降のコイル径の成形が開始する点と考えられる。一方、ピッチは素線の捩れによって形成されるが、素線総送り量Lが1.0巻となったときには、捩れによってピッチが決定される点は、実際に捩れが生じている点の0.5巻手前の点と考えられ、この点は巻き始めの先端から0.7巻目に相当するので、上記のように設定される。このように、本実施形態によれば、位相差も考慮して、素線総送り量L(又は送り量δL)に応じて曲げ加工位置A(又は移動量δA)及び捩り加工位置B(又は移動量δB)が特定され、加工条件が設定される。
【0047】
【発明の効果】
本発明は上述のように構成されているので以下の効果を奏する。即ち、請求項1乃至4に記載の製造方法により、複雑な形状に設計された目標コイルばねも、自動的に短時間で正確に製品とすることができ、容易に量産することができる。
例えば、基準軸とばね中心線が異なる湾曲コイルばね等にも容易に対応することができる。しかも、既存のコイリングマシンを用いた場合にも、複雑な形状の目標コイルばねを、自動的に短時間で正確に製品とすることができる。
【0048】
また、請求項5乃至9に記載の製造装置によれば、複雑な形状に設計された目標コイルばねに対しても、自動的に短時間で正確な製品を容易に製造することができ、容易に量産することができる。尚、各請求項における個々の効果は、各実施形態において説明したとおりである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の一実施形態に係るコイルばねの製造装置を示す構成図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るコイルばねの製造方法における工程を示すブロック図である。
【図3】本発明の一実施形態に供するコイルリングマシンの構成を示すブロック図である。
【図4】本発明の一実施形態におけるコイルリングの処理を示すフローチャートである。
【図5】本発明の一実施形態における加工条件設定の処理を示すフローチャートである。
【図6】本発明の一実施形態において、設計時の形状データを製品寸法データに変換するときの関係を示すグラフである。
【図7】本発明の一実施形態において、コイル径に応じて曲げ加工位置を設定するためのマップに供するグラフである。
【図8】本発明の一実施形態において、コイル径変化量に応じて移動量を設定するためのマップに供するグラフである。
【図9】本発明の一実施形態において、ピッチに応じて捩り加工位置を設定するためのマップに供するグラフである。
【図10】本発明の一実施形態に関し、コイル比に応じてピッチが変化する状態を示すグラフである。
【図11】本発明の一実施形態において、コイル比に応じて、コイル径に対する補正量を設定するためのマップに供するグラフである。
【図12】本発明の一実施形態において、曲げ加工時の素線送り量とコイリングピンの移動量の関係を示す平面図である。
【図13】本発明の一実施形態において、捩り加工時のピッチツールの移動量を示す断面図である。
【符号の説明】
CM コイリングマシン, W ワイヤ, DF,DB,DT 駆動手段,
1 フィードローラ, 2 ワイヤガイド, 3,3x コイリングピン,
4 ピッチツール, 5 カッタ

Claims (9)

  1. 素線を送り出しながら曲げ加工及び捩り加工を行ない冷間加工によってコイルばねを製造するコイルばねの製造方法において、所望の形状の目標コイルばねの形状を特定する複数のパラメータ設定し、該複数のパラメータに基づき、任意の巻数単位でのピッチに沿ってコイルばねの直径を設定して加工時の製品寸法データとし、該加工時の製品寸法データに基づき少なくとも曲げ加工位置及び捩り加工位置を設定し、所定の素線送り量に対応した曲げ加工位置及び捩り加工位置となるように曲げ加工及び捩り加工を行な前記目標コイルばねを製造することを特徴とするコイルばねの製造方法。
  2. 前記曲げ加工及び捩り加工の完了後に所定の後処理を行い、該後処理後のコイルばねの形状に基づき、前記加工時の製品寸法データに基づいて設定し曲げ加工位置及び捩り加工位置を補正して設定することを特徴とする請求項1記載のコイルばねの製造方法。
  3. 前記後処理として、少なくとも熱処理を行い、該熱処理後のコイルばねの形状に基づき、前記加工時の製品寸法データに基づいて設定し曲げ加工位置及び捩り加工位置を補正して設定することを特徴とする請求項2記載のコイルばねの製造方法。
  4. 前記複数のパラメータが、前記目標コイルばねの巻数、その半径及びリードであることを特徴とする請求項1又は2記載のコイルばねの製造方法。
  5. 素線を送り出しながら曲げ加工及び捩り加工を行ない冷間加工によってコイルばねを製造するコイルばねの製造装置において、所望の形状の目標コイルばねの形状を特定する複数のパラメータ設定するパラメータ設定手段と、該パラメータ設定手段が設定した複数のパラメータに基づき、任意の巻数単位でのピッチに沿ってコイルばねの直径を設定して加工時の製品寸法データとするデータ変換手段と、該データ変換手段が設定した前記加工時の製品寸法データに基づき少なくとも曲げ加工位置及び捩り加工位置を設定する加工条件設定手段と、前記素線を送り出す素線供給手段と、前記素線に対し曲げ加工を行なう曲げ加工手段と、前記素線に対し捩り加工を行なう捩り加工手段と、前記加工条件設定手段が設定した少なくとも曲げ加工位置及び捩り加工位置に基づき、所定の素線送り量に対応した曲げ加工位置及び捩り加工位置となるように前記素線供給手段、前記曲げ加工手段及び前記捩り加工手段を駆動する駆動手段とを備え、該駆動手段によって前記素線供給手段、前記曲げ加工手段及び前記捩り加工手段を駆動して曲げ加工及び捩り加工を行な前記目標コイルばねを製造することを特徴とするコイルばねの製造装置。
  6. 前記加工条件設定手段は、前記素線の所定の基準位置からの素線送り量を設定する素線送り量設定手段と、該素線送り量設定手段が設定した所定の素線送り量に対応した曲げ加工位置を設定する曲げ加工位置設定手段と、前記素線送り量設定手段が設定した所定の素線送り量に対応した捩り加工位置を設定する捩り加工位置設定手段とを備えたことを特徴とする請求項5記載のコイルばねの製造装置。
  7. 前記曲げ加工及び捩り加工の完了後に所定の後処理を行う後処理手段を備えると共に、該後処理手段による後処理後のコイルばねの形状に基づき、前記加工時の製品寸法データに基づいて設定し曲げ加工位置及び捩り加工位置を補正して設定する補正手段を備えたことを特徴とする請求項5記載のコイルばねの製造装置。
  8. 前記後処理手段は、前記後処理として、少なくとも熱処理を行い、前記補正手段は、前記熱処理後のコイルばねの形状に基づき、前記加工時の製品寸法データに基づいて設定し曲げ加工位置及び捩り加工位置を補正して設定することを特徴とする請求項7記載のコイルばねの製造装置。
  9. 前記パラメータ設定手段は、前記目標コイルばねの巻数、その半径及びリードを前記複数のパラメータとして設定することを特徴とする請求項5、6又は7記載のコイルばねの製造装置。
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