本発明は、局所的な空間である空調対象スポットに調整された空気を供給するスポット空調システムに関する。
地下鉄の構内や工場の作業エリア等、密閉しにくい広い空間に対して冷房や暖房などの空調を行う場合、空間全体を空調することは、大規模な空調機が必要となり、効率が悪い。このため、このような場合では、効率の良い空調を行う観点から、密閉しにくい広い空間の中に点在する、空調対象となる局所空間(スポット)に、空調機で調整された空気を吹き出し、比較的狭い空調対象スポットごとに空調を行うスポット空調システムを使用することが知られている。
このようなスポット空調システムとしては、例えば複数台の空調機と、それらの空調機に接続されている送風ダクトと、それらの送風ダクト同士を連通すると共に、空調対象スポットへの吹き出し口を備えている連通ダクトとを有するスポット空調システムが知られている(例えば、特許文献1参照。)。
このようなスポット空調システムでは、通常、空調対象スポットにおいて所望の空調環境が得られるように、一定の温度に調整され空気を一定の風量で供給する。このため、空調対象スポットにいる空調対象者が、空調対象スポットで形成される空調環境に慣れ、形成される空調環境に対する空調対象者の快感が低下し、又は空調対象者が形成される空調環境に満足できなくなって不快感を呈することがある。
一方で、空調システムの制御については、種々の観点からの検討がなされている。例えば空調における快適性のさらなる向上を図った空調システムの制御方法としては、空調機から空調室内に供給される送風空気の温度制御に係り、温度一定制御を基本としながら、不規則な時間周期および温度変動量により局部的な温度変化をもたせる方法が知られている(例えば、特許文献2参照。)。
しかしながら、前記空調方法は、室内全体を空調の対象としており、特に壁等によって隔てられることなく通常は設定される空調対象スポットに対する有効性等、スポット空調を対象とする検討の報告はなされていない。
特開2003−65559号公報
特開平8−152175号公報
本発明は、スポット空調において、空調対象者の快適感の低下を抑制するスポット空調システムを提供することを第一の課題とする。
また本発明は、スポット空調において、空調対象者の快適感の低下を抑制し、かつ空調に要するエネルギーの消費をより低減可能なスポット空調システムを提供することを第二の課題とする。
空間全体を対象とする通常の空調システムでは、冷房時において、吹き出し温度を高くすることや吹き出し風量を低減することは、空調対象者の冷涼感を損ね、空調対象領域の
空調環境を一般に悪化させる。しかしながら、スポット空調の場合では、吹き出し温度及び吹き出し風量の少なくとも一方を周期的に変化させ、これらを適切に組み合わせることによって、空調対象スポットの空調環境を必ずしも悪化させるものではなく、また組み合わせによっては、温度及び風量が一定のスポット空調に比べてエネルギーの消費を低減できることが明らかになった。
すなわち本発明は、空気の温度を調整する温度調整手段と、温度調整手段によって温度が調整された調整空気を空調の対象となる空調対象スポットに供給するための給気ダクトと、調整空気を空調対象スポットに送風する送風機とを有するスポット空調システムにおいて、温度調整手段での空気の温度の調整、及び送風機の運転出力の少なくともいずれかを制御する空調制御手段をさらに有し、空調制御手段は、温度調整手段で調整される空気の温度、及び前記送風機の運転出力の少なくともいずれかを周期的に変化させるスポット空調システムである。
前記構成によれば、空調対象スポットへの調整空気の風速や温度が変動し、空調対象者の温冷感覚に刺激が与えられるので、体感温度に基づく空調対象者の快適感が悪化することのない空調環境を実現することが可能となる。
本発明では、給気ダクトから空調対象スポットに吹き出す調整空気の吹き出し風量について、空調対象スポットを所望の空調環境にするために必要とされる吹き出し風量を第一の風量とし、それより小さい任意の風量を第二の風量としたときに、空調制御手段は、吹き出し風量が第一の風量を上限とし、第二の風量を下限として周期的に変化するように送風機の運転出力を制御することが好ましい。
このような構成によれば、所望の空調環境を形成するための送風機の運転出力と、これよりも小さな運転出力との周期的な変動によって空調対象者の温冷感覚に刺激が与えられるので、このような制御による運転出力の総和は所望の空調環境を形成するための送風機の運転出力よりも小さくなる。したがって、空調対象者の快適感の低下を抑制し、かつ空調に要するエネルギーの消費をより低減する観点から好ましい。
また本発明では、空調制御手段は、温度調整手段で調整される空気の温度及び送風機の運転出力の周期的な変化において、空気の温度変化の上限及び下限のタイミングと、送風機の運転出力の変化の上限及び下限のタイミングとが同期するように、温度調整手段で調整される空気の温度、及び送風機の運転出力の両方を周期的に変化させることが好ましい。
このような構成によれば、空気の温度調整で消費されるエネルギーが増加するときには、空気の送風で消費されるエネルギーが低減され、また調整空気の送風で消費されるエネルギーが増加するときには、空気の温度調整で消費されるエネルギーが低減されるので、スポット空調におけるエネルギーの消費が低減される。また冷房の場合に、吹き出し温度の上昇によって空調対象者の冷涼感が低下しても、吹き出し風量の増加によって空調対象者の冷涼感の増加するので、空調対象者の温冷感覚に刺激が与えられ、空調対象者の快適感の低下が抑制される。したがって、空調対象者の快適感の低下を抑制し、かつ空調に要するエネルギーの消費をより低減する観点から好ましい。
また本発明では、空調制御手段は、温度調整手段で調整される空気の温度、及び送風機の運転出力の少なくともいずれかを矩形パルス状に変化させることが好ましい。
このような構成によれば、吹き出し温度や吹き出し風量が速やかに変化し、空調対象者の温冷感覚により一層明確な刺激が与えられる。また変化後の吹き出し温度や吹き出し風
量が所定の時間保たれるので、これらの変化が空調対象者の温冷感覚へ十分に反映される。したがって空調対象者の快適感の低下を抑制する観点から好ましい。
本発明のスポット空調システムは、温度調整手段と、給気ダクトと、送風機と、空調制御手段とを有する。なお、本発明において、空調対象スポットとは、ある空間に点在する一又は二以上の、空調の対象となる局所空間である。空調対象スポットには、例えば工場における作業員の作業場、厨房における調理師の作業場、研究室における実験装置周辺等の、複数の異なる作業が行われ得る同じ建屋内又は室内において所定の作業を行うための空間が挙げられる。
前記温度調整手段は、空調対象スポットに供給するための空気の温度を調整する手段であれば特に限定されない。このような温度調整手段には、例えば温媒や冷媒が通るコイルや、このコイルとフィンとからなる熱交換器と、コイルを通る温媒や冷媒等の熱媒の流量を調整する二方弁等の流量調整手段とを有する構成が挙げられる。
前記給気ダクトは、温度調整手段によって温度が調整された調整空気を空調対象スポットに供給するための手段であれば特に限定されない。このような給気ダクトには、例えば温度調整手段と空調対象スポットとを接続するダクトが挙げられる。給気ダクトは、温度調整手段と空調対象スポットとを一対一で接続するダクトであっても良いし、一体の温度調整手段と複数の空調対象スポットとを並列に接続するダクトであっても良い。
前記送風機は、前記調整空気を空調スポットに送風する手段であり、例えばインバータを有する公知の送風機を用いることができる。本発明において、送風機は、調整空気を空調スポットに送風できるのであれば、その設置数や設置箇所については特に限定されない。例えば送風機は、給気ダクトの上流端に設けられても良いし、給気ダクト中に設けられても良いし、空調対象スポットに面して給気ダクトの吹き出し口に設けられても良い。
前記空調制御手段は、温度調整手段での空気の温度の調整、及び送風機の運転出力の少なくともいずれかを制御する手段であって、温度調整手段で調整される空気の温度、及び送風機の運転出力の少なくともいずれか一方又は両方を周期的に変化させる手段である。温度調整手段での空気の温度の調整は、例えば前記流量調整手段の操作を制御し、コイル中の熱媒の流量を調整することによって制御することができる。送風機の運転出力は、例えば送風機における電圧や電流や周波数を電子制御により自在に制御するインバータを使用し、これを制御することによって行うことができる。また温度調整手段で調整される空気の温度、及び送風機の運転出力は、タイマーを使用することによって周期的に変化させることができる。
空調制御手段による、温度調整手段での空気の温度の調整の制御(以下、「空気温度調整制御」ともいう)や、空調機の運転出力の制御では、周期的に変化させるために、上限と下限とが存在する。これらの制御における上限及び下限は、空調対象者の快適感の低下を抑制する観点や、スポット空調に要するエネルギーの消費を抑制する観点や、これらの両方の観点から、実測値や、空調システムのモデルや空調対象スポットの周辺環境のモデル等から算出される理論値等に基づいて設定することができる。
空気温度調整制御における上限及び下限は、調整空気の温度で設定することができる。この設定において、調整空気の温度は、いかなる場所の調整空気であっても良い。このような調整空気の温度としては、例えば温度調整手段出口の調整空気の温度や、送風機出口の調整空気の温度や、給気ダクト出口(すなわち空調対象スポットへの吹き出し口)の調整空気の温度や、空調対象スポットにおける調整空気の温度等が挙げられる。
空気温度調整制御における上限及び下限の具体的な値は、冷暖房等の空調の運転モードや季節、空調対象スポットの周辺の空間の環境、空調対象スポットで行われる作業等に応じて異なるが、例えば吹き出し風量及び吹き出し空気の温度を一定として、空調対象スポットに所望の空調環境を形成する従来のスポット空調システムにおいて、空調対象スポットを所望の空調環境にするために必要とされる温度に対して±5℃程度の範囲で設定することができる。
送風機の運転出力の制御における上限及び下限は、送風機の駆動電圧、電源から送風機に供給される電流、その周波数、所定の位置における調整空気の風量や風速等によって設定することができる。設定される前記調整空気の風量や風速としては、例えば空調対象スポットへの吹き出し口における調整空気の吹き出し風量や吹き出し風速が好ましくは挙げられる。
送風機の運転出力の制御における上限及び下限の具体的な値は、冷暖房等の空調の運転モードや季節、空調対象スポットの周辺の空間の環境、空調対象スポットで行われる作業等に応じて異なるが、例えば前述した従来のスポット空調システムにおいて、空調対象スポットを所望の空調環境とするために必要とされる吹き出し風量に対して±50%程度の範囲の値から設定することができる。
送風機の運転出力の制御における上限及び下限は、好ましくは前記第一の風量及び前記第二の風量である。第一の風量は、空調対象スポットへの吹き出し温度及び吹き出し風量を一定としたときに、空調対象スポットを所望の空調環境とするのに必要とされる吹き出し風量である。第二の風量は、第一の風量よりも小さな風量であれば任意に設定することができる。第二の風量は、空調対象者の快適感の低下の抑制やスポット空調システムの消費エネルギーの低減、又はこれら両方等のそのときの目的に応じて適当な値に設定される。
なお、空調制御手段は、前記第一及び第二の風量そのものに基づいて空調機の運転出力の周期的な変化を制御しても良いし、これらの風量を、例えば前記周波数等の他の値に換算し、この換算された値を上限及び下限として、空調機の運転出力を制御しても良い。
空調制御手段による、空気温度調整制御や空調機の運転出力の制御では、周期的に変化させるために、周期が存在する。これらの制御における周期は、空調対象者の快適感の低下を抑制する観点や、スポット空調に要するエネルギーの消費を抑制する観点や、これらの両方の観点から設定することができる。温度調整手段での空気の温度の調整の制御や、空調機の運転出力の制御の両方を行う場合では、これらの制御の周期は同じ周期とすることが、スポット空調による効果を高め、また空調対象スポットにおける空調環境や、空気温度調整制御及び空調機の運転出力の制御において、不測の現象が発生することを防止する観点から好ましい。
前記周期的な変化における周期は、周期的な変化の形態や、冷暖房等のスポット空調の運転モードや季節、空調対象スポットの周辺の空間の環境、空調対象スポットで行われる作業等に応じて異なるが、空調対象者に対して空調による効果を十分に発揮し、かつ空調対象者の空調環境への慣れを抑制する観点から、例えば5〜10分程度の範囲の値から設定することができる。
また前記周期的な変化における形態は、周期的な変化であれば特に限定されず、種々の周期的な変化の形態をとり得る。このような周期的な変化の形態としては、例えば正弦波形状等の波形の形態や、矩形パルス形状や三角パルス形状等のパルスの形態等が挙げられる。周期的な変化の形態としては、周期的な変化における空調対象者への変化時のインパ
クトを高める観点からパルス形状が好ましく、周期的な変化における空調対象者に対して変化後の空調効果を十分に発揮する観点から、矩形パルス形状がより好ましい。
また空調制御手段による、空気温度調整制御と空調機の運転出力の制御との両方の制御を行う場合では、前記周期的な変化の形態は、同じ形態であっても良いし、異なる形態であっても良い。
また空調制御手段による、空気温度調整制御と空調機の運転出力の制御との両方の制御を行う場合では、調整空気の温度の変化による効果、吹き出し風量の変化による効果、及びこれらの相乗効果等の期待される効果と達成したい目標とに基づいて、これら両方の周期の変化を、例えば四分の一周期や半周期等の適当な間隔だけずらしても良いし、同期させても、すなわち温度調整手段で調整される空気の温度変化の上限及び下限のタイミングと、空調機の運転出力の変化の上限及び下限のタイミングとを同期させても良い。
温度調整手段で調整される空気の温度変化と、空調機の運転出力の変化とを異なる形態で周期的に変化させ、かつこれら両方の周期の変化を同期させる場合では、それぞれの周期的な変化において、一方が上限にあるときと他方が上限にあるときが重なり、また一方が下限にあるときと他方が下限にあるときとが重なれば良く、周期的な変化におけるこれらの重なる位置については特に限定されない。
本発明のスポット空調システムは、前述した手段や機器等の構成要素に加えて、本発明の効果を損なわない範囲で、他の構成要素を有していても良い。このような他の構成要素としては、例えば調整空気の温度や空調対象スポットの温度を検出する温度検出器、調整される空気中に含まれる塵埃や所定の物質を除去するためのフィルタ、給気ダクトと接続され空調対象スポットに向けて所定の気流の形状で調整空気を吹き出す吹き出し口、給気ダクトや吹き出し口において調整空気を通し、又は遮断するためのダンパ等が挙げられる。
本発明のスポット空調システムは、空気の温度を調整する温度調整手段と、温度調整手段によって温度が調整された調整空気を空調の対象となる空調対象スポットに供給するための給気ダクトと、調整空気を前記空調対象スポットに送風する送風機とを有するスポット空調システムにおいて、温度調整手段での空気の温度の調整、及び送風機の運転出力の少なくともいずれかを制御する空調制御手段をさらに有し、空調制御手段は、温度調整手段で調整される空気の温度、及び送風機の運転出力の少なくともいずれかを周期的に変化させることから、空調対象者の温冷感覚に適度に刺激を与えることができ、空調対象者の快適感の低下を抑制することができる。
本発明のスポット空調システムでは、給気ダクトから空調対象スポットに吹き出す調整空気の吹き出し風量について、空調対象スポットを所望の空調環境にするために必要とされる吹き出し風量を第一の風量とし、それより小さい任意の風量を第二の風量としたときに、空調制御手段は、吹き出し風量が第一の風量を上限とし、第二の風量を下限として周期的に変化するように送風機の運転出力を制御すると、空調対象者の快適性の低下を抑制し、かつ空調に要するエネルギーの消費をより低減する観点からより一層効果的である。
また、本発明のスポット空調システムでは、空調制御手段は、温度調整手段で調整される空気の温度及び送風機の運転出力の周期的な変化において、空気の温度変化の上限及び下限のタイミングと、送風機の運転出力の変化の上限及び下限のタイミングとが同期するように、温度調整手段で調整される空気の温度、及び送風機の運転出力の両方を周期的に変化させると、空調対象者の快適性の低下を抑制し、かつ空調に要するエネルギーの消費
をより低減する観点からより一層効果的である。
また、本発明のスポット空調システムは、空調制御手段は、温度調整手段で調整される空気の温度、及び送風機の運転出力の少なくともいずれかを矩形パルス状に変化させると、空調対象者の快適感の低下を抑制する観点からより一層効果的である。
本発明の一実施の形態におけるスポット空調システムを図1に示す。
本実施の形態におけるスポット空調システムは、自動車工場に設けられており、作業員の作業エリアA、Bを空調対象スポットとする。このスポット空調システムは、空調機1と、空調機1で調整された空気を個々の作業エリアに供給するための給気ダクト2と、空調機1の運転を制御する空調制御手段3とを有する。
空調機1は、供給された外気や作業エリアからの還気等の空気から塵埃や汚染原因物質を除くフィルタ4と、塵埃や汚染原因物質が除かれた空気を冷却して空気の温度を調整する冷却コイル(温度調整手段)5と、冷却コイル5で温度調整された調整空気を給気ダクト2に向けて送風する送風機6とを有する。
冷却コイル5には、冷却コイル5と冷熱供給源との間を冷水を循環させる冷水循環ライン7が接続されており、冷水循環ライン7には冷水の流量を制御する制御弁8が設けられている。
給気ダクト2は、空調機1と各作業エリアとを並列に接続している。給気ダクト2には、空調機1から送風された調整空気の温度を検出する温度センサ9が設けられている。また、給気ダクト2の先端には、吹き出し口の位置を調整自在なフレキシブルなダクトと吹き出し口とからなる二本のフレキノズル10、10が接続されており、一つの作業エリアに対して二箇所から調整空気が吹き出されるように構成されている。
空調制御手段3は、指示調整計11と脈動コントローラ12とインバータ13とから構成されている。指示調整計11は、制御弁8、脈動コントローラ12、及び温度センサ9と接続されており、温度センサ9及び脈動コントローラ12からの信号に応じて制御弁8の開度を制御し、冷却コイル5で調整される空気の温度を制御するように構成されている。
脈動コントローラ12は、所定の間隔(例えば5分間)で制御の切り替えを指示する信号を発信するタイマユニットである。またインバータ13は、送風機6に供給される交流電力の周波数を自在に制御する制御器である。
指示調整計11及びインバータ13における各目標値は、例えば作業エリアでの作業強度に応じて設定されている。例えば吹き出し風量を一定とするスポット空調システム(以下、「定風量スポット空調システム」ともいう)において、作業強度等から設定される風量をインバータ13での周波数制御に換算したときに、60Hzであるとすると、インバータ13には、送風機6に供給される交流電力の周波数の目標上限値(第一の風量に相当)として60Hzが設定されており、目標下限値(第二の風量に相当)として例えば40Hzが設定されている。
また、例えば定風量スポット空調システムにおいて、作業強度等から設定される調整空気の作業エリアへの吹き出し温度を送風機6から送風される調整空気の温度に換算したときに、28℃であるとすると、指示調整計11には、調整される空気の温度の目標上限値(SP1)として例えば28℃が設定されており、目標下限値(SP2)として例えば2
5℃が設定されている。
前述した各構成要素の他にも、本実施の形態におけるスポット空調システムには、作業エリアを含む室内の温度を検出する室温センサや、調整される空気を送風するダクトにおける風量を調整するためのダンパや、フィルタ4の状態を監視するためにフィルタ4前後における差圧を検出する差圧計や、スポット空調システムを監視し、指示調整計11や脈動コントローラ12に新たな設定値や命令を入力するための監視装置等(不図示)が適宜設けられる。
本実施の形態におけるスポット空調システムでは、例えば起動時に、指示調整計11及びインバータ13は、所定の初期値(例えばともに目標下限値)で制御弁8の開度及び送風機への電力の周波数を制御する。以下に、矩形パルス形状の周期的な変化で、調整空気の温度変化の上限及び下限のタイミングと、作業エリアへの吹き出し風量変化の上限及び下限のタイミングとを同期させる場合を説明する。
指示調整計11は、温度センサ9によって検出される調整空気の温度が目標下限値となるように、制御弁8の開度を制御する。インバータ13は、送風機6への供給電力の周波数の目標下限値にしたがって、送風機6へ供給される交流電力の周波数を制御し、送風機6の運転出力を制御する。この場合に冷熱コイル5で生成した強冷の調整空気は、供給ダクト2、フレキノズル10を介して低風量で各作業エリアに吹き出される。
起動時から脈動コントローラ12に設定されている所定の間隔が経過すると、脈動コントローラ12から指示調整計11及びインバータ13へ、制御の切り替えを指示する信号が送信される。
指示調整計11は、制御の切り替え信号を受信すると、温度センサ9によって検出される調整空気の温度が目標上限値となるように、例えば制御弁8を閉方向に操作する等して制御弁8の開度を制御する。インバータ13は、送風機6への供給電力の周波数の目標上限値にしたがって、送風機6へ供給される交流電力の周波数を制御し、送風機6の運転出力を制御する。この場合に冷熱コイル5で生成した弱冷の調整空気は、供給ダクト2、フレキノズル10を介して高風量で各作業エリアに吹き出される。
脈動コントローラ12は、システムの起動時や前記切り替え信号の発信時からの経過時間を計測し、システムの起動時又は信号の発信時から所定の間隔が経過すると、制御の切り替えを指示する信号を指示調整計11及びインバータ13へ送信する。以下、図2に示すように、制御の切り替え指示信号の発信と、指示調整計11による制御弁8の開度の制御及びインバータ13による電力の周波数の制御とが繰り返される。
各作業エリアでは、前記強冷の調整空気と前記弱冷の調整空気とが、脈動コントローラ12によって計測される前記所定の間隔ごとに交互に供給される。
強冷の調整空気は、吹き出し風量は小さいが、吹き出し温度は低く、作業エリアにおける空調対象者である作業員に冷涼感をもたらす。また、弱冷の調整空気は、吹き出し温度はやや高いものの吹き出し風量が大きく、作業エリアにおける作業員に、気流によって体感される冷涼感をもたらす。これらの調整空気の変化は、矩形パルス形状の形態で行われるので、変化後の調整空気によって作業員にもたらされる冷涼感が、前記所定の間隔程度持続し、また所定の間隔で交互に作業員に体感される。
制御弁8の開度と周波数の増減とが同期して周期的に変化する場合における、作業エリアに吹き出される空気の吹き出し温度及び吹き出し風量の変化を図3に、そのときにスポ
ット空調システムで消費されるエネルギーの変化を図4に示す。
制御弁8の開閉と周波数の増減とを同期させた場合では、吹き出し風量の増減と送風に要するエネルギーの消費の増減とは、インバータ13での周波数の変化から吹き出し風量が変化するまでの応答遅れが見られるものの、ほぼ一致した挙動を示す。また吹き出し温度の増減と温度調整に要するエネルギーの増減とは、制御弁8の開閉から空気が冷却されるまでの応答遅れが見られるものの、ほぼ反対の挙動を示す。
これらの図では、図中の線の重なりを明らかにするために、正弦波形状の周期的な変化を図示したが、矩形パルス形状の周期的な変化でも同様の挙動が示される。
定風量スポット空調システムでは、吹き出し風量が図3における上限値で一定であり、送風に要するエネルギーが図4における上限値で一定である。したがって、本実施の形態のスポット空調システムでは、定風量スポット空調システムに比べて、インバータ13における周波数を目標上限値よりも小さい値に制御する場合に、その制御量に応じてエネルギーの消費が抑制される。
また、吹き出し温度については、本実施の形態における目標上限値と目標下限値との中間値で制御弁8の開度を制御すると、本実施の形態におけるスポット空調システムと同等のエネルギーが消費されることになる。したがって、本実施の形態のスポット空調システムでは、定風量スポット空調システムの吹き出し温度に基づく制御弁8の開度が前記中間値よりも高くなるように、本実施の形態のスポット空調システムにおいて調整される空気の目標上限値と目標下限値とを設定すると、エネルギーの消費を抑制する観点から有利であることがわかる。
なお、本実施の形態では、主に矩形パルス形状の周期的な変化を同期させる形態としたが、本発明における周期的な変化はこれに限定されず、例えば一方のみが周期的に変化しても良いし、例えば図5に示すように、冷却コイル5で調整される温度を矩形パルス状に変化させる一方で、送風機6への供給電力の周波数を台形パルス状に、かつ同期させずに変化させる等、周期的な変化の形態や、周期的な変化における上限及び下限のタイミングが異なっていても良い。これらのような周期的な変化によっても、温度変化による冷涼感、又は気流の変化(増加)によって体感される冷涼感の少なくとも一方を得ることは可能であり、また前述したエネルギーの消費の優れた抑制効果を得ることは可能である。なお、周期的な変化の上限及び下限のタイミングや周期は、例えば前述した初期値の設定の変更や、前記監視装置からの指令等によって適宜変更することが可能である。
また、各作業エリアへ個別に延出する給気ダクト2を遮断可能なダンパや、フレキノズル10の塞ぐキャップを設けても良い。このような構成によれば、例えば作業エリアBでの作業のみが終了した場合に、作業エリアBへの調整空気の供給のみを停止することが可能となり、工場における作業状況に応じたスポット空調を行うことが可能となり、また空調システムの消費エネルギーを抑制する観点からも好ましい。
また本実施の形態では、温度調整手段として冷却コイル5を示したが、温水や蒸気等の温媒が循環する加熱コイルに代えても良いし、また冷水が循環するコイルと温媒が循環するコイルとの両方を備える加熱冷却コイルに代えても良い。
また本実施の形態では、空気の温度を調整する温度調整手段としての流量調整手段には、コイル中の熱媒の流量を制御する制御弁を例示したが、この他にも、前記冷水循環ライン中における送水ポンプに設けたインバータ、冷媒循環ライン中に前記送水ポンプとは別に設けた中間ポンプに設けたインバータ、前記中間ポンプの発停を制御する中間ポンプの
運転制御手段、及び冷水の冷熱を生成する冷凍機の容量制御手段等を例示することができる。
本実施の形態によれば、空気の温度を調整する冷却コイル5と、冷却コイル5によって温度が調整された調整空気を作業エリアA、Bに供給するための給気ダクト2と、調整空気を作業エリアA、Bに送風する送風機6と、冷却コイル5での空気の温度の調整を制御する指示調整計11と、送風機6の運転出力を制御するインバータ13と、脈動コントローラ12とを有し、冷却コイル5で調整される空気の温度、及び送風機6の運転出力の少なくともいずれかを周期的に変化させることから、作業員の温冷感覚に適度に刺激を与えることができ、作業員の快適感の低下を抑制することができる。
また本実施の形態では、作業エリアを所望の空調環境にするために必要とされる第一の風量に相当する、送風機6への供給電力の周波数を上限とし、第一の風量よりも小さい第二の風量に相当する、送風機6への供給電力の周波数を下限としたときに、インバータ13は、第一の風量に相当する周波数を上限とし、第二の風量に相当する周波数を下限として周的に変化するように、送風機6への供給電力の周波数を制御して送風機6の運転出力を制御することから、作業員の快適感の低下を抑制することができ、さらに定風量スポット空調システムに比べて、空調に要するエネルギーの消費をより一層低減することができる。
また本実施の形態では、冷却コイル5で調整される空気の温度に相当する制御弁8の開度及び送風機6の運転出力の周期的な変化において、空気の温度変化の制御における上限及び下限のタイミングと、送風機6の運転出力の変化の制御における上限及び下限のタイミングとが同期するように、制御弁8の開度とインバータ13における周波数との両方を周期的に変化させることから、より明確に体感できる冷涼感を作業員に与え、作業員の温冷感覚に適度に刺激を与え、作業員の快適感の低下をより一層抑制することができる。また、空気の温度調整における熱負荷が増加しても送風動力が低減するので、空調に要するエネルギーの消費をより低減することが可能である。
また本実施の形態では、冷却コイル5で調整される空気の温度及び送風機の運転出力を矩形パルス状に変化させることから、変化時のインパクトと変化後の空調環境の所定間隔の維持とが得られ、作業員の快適感の低下をより一層抑制することができる。
また本実施の形態では、温度センサ9を有することから、調整空気の温度の実測値に基づいて調整される空気の温度を制御することができ、調整される空気の温度をより精密に制御することができる。なお、このような温度の実測値については、室内の温度や作業エリアの温度を採用することもできる。
先に説明した図1に示すスポット空調システムを用いて、作業エリアに吹き出す吹き出し冷風の温度や風量を様々なケースで周期的に変化させ、このようなスポット空調(以下、「脈動式スポット空調」ともいう)による、作業エリアに形成される温熱環境、作業員の快適性及び消費エネルギー量を評価した。
本実施例で評価したスポット空調システムは、作業エリアへの吹き出し口の直径が150mm(送風機6への供給電力の周波数が60Hzの時に吹き出し風量:380m3/h、吹き出し風速の平均:6m/s)であり、二つの吹き出し口で一つの吹き出しユニットと数え、各ユニットはほぼ2mの間隔で設置した。吹き出し空気の温度の制御については、前述したような制御弁8の制御系の設定値に基づいて行い、吹き出し風量の制御については、前述したようなインバータ13の設定値に基づいて行った。
このスポット空調システムを用いて、以下に示すケース1〜6にしたがって作業エリアに形成される温熱環境、作業員の快適性及び消費エネルギー量を評価する。
ケース1は、吹き出し温度を一定とし、吹き出し風量(風速)に脈動制御を負荷したケースである。
ケース2は、吹き出し風量を一定とし、吹き出し温度のみを脈動制御したケースである。
ケース3は、吹き出し温度及び吹き出し風量を一定とした従来の定風量スポット空調方式のモデルである(以下、このケースを「基準ケース」ともいう)。
ケース4は、基準ケースの温度設定値及び風量設定値を上限として給気温度と風量との両方を脈動させたケースである。
ケース5は、基準ケースの温度設定値よりも高い設定値を温度設定値の上限とし、基準ケースの温度設定値よりも低い設定値を温度設定値の下限とし、また給気風量はケース4と同様に、基準ケースの風量設定値を上限とし、給気温度と風量との両方を脈動させたケースである。
ケース6は、基準ケースの温度設定値よりも高い設定値を温度設定値の上限とし、基準ケースの温度設定値よりも低い設定値を温度設定値の下限として給気温度を脈動させ、給気風量については基準ケースの風量設定値で一定とし、給気温度のみを脈動させ高風量としたケースである。
各ケースとその設定値、及び周期的な変化の形態を表1に示す。なお、周期的な変化(脈動)のインターバルは一律で5分間とした。
各ケースにおける作業エリアの温熱環境に関しては、次式で定義されるWBGT(Wet Bulb Globe Temperature Index:湿球グローブ温度指標)を用いた。
[数1]
WBGT=0.7×Tnw+0.3×Tg
(式中、Tnwは自然湿球温度(℃)であり、Tgはグローブ温度(℃)である。)
作業エリアにおいて、乾球温度、相対湿度、風速、グローブ温度の測定を行い、自然湿球温度は、Sullivan C.D. et al."A method of calculation of WBGT from environmental factors, ASHRAE Transactions 82(2), 1976に記載されているSullivanの方法に基づいて算定した。各ケースにおける作業エリアの温熱環境の評価結果を表2に示す。
一方で、実測した作業エリアでの作業強度(RMR:Relative Metabolic Rate)は3〜4であった。各ケースの作業強度を、日本産業衛生学会が定めるWBGT許容基準27.5℃(RMR=4)〜29.0℃(RMR=3)に照らし合わせると、作業エリアでは、各ケースにおいて良好な温熱環境が実現されていると判断される。
また、作業エリアにおける作業員の温熱感について、「快適な温熱環境のメカニズム」、社)空気調和・衛生工学会、丸善、1997に記載されている温熱環境評価シートに基づき、アンケートによる調査を実施した。例として、7段階評価による快適性に関する結果を表3に示す。表3に示されるように、全般的に、「4ふつう」よりも評価の低い側に偏る傾向が見られる。得られた結果から、基準ケースであるケース3(定風量スポット空調システムに相当)と、他のケース1、2、4〜6との有意差をt検定及び分割表法で検定した。これらの検定結果も表3に合わせて示す。快適性は、全ケースでケース3との有意差なしと判定された。
また、各ケースでの実測結果に基づく空調機負荷を算定した。たとえ脈動条件が同一であっても空調機負荷は実測時の外気条件により当然異なる。したがって空調機負荷の算定では、ケース3での平均外気条件を基準とし、基準外気に対する各ケースでの外気条件との顕熱エンタルピー差分を、除湿負荷なしと仮定して加算又は減算した。なお、当該地域の標準気象データ(AMEDAS)から、給気温度の設定が24℃以上であれば、冷房時期でも概ね除湿負荷が発生しないことを確認した。各ケースでの空調機負荷の算定結果を表4に示す。
ケース1では、基準ケースと比べて、ファンの動力の低減に加え、空調機負荷も低減され、基準外気条件(外気温度)で26%のエネルギー消費削減効果が得られた。
ケース2では、基準ケースと比べて、空調機負荷が低減され、9%のエネルギー消費削減効果が得られた。
ケース4では、基準ケースと比べたときに、空調機負荷は若干増加するが、ファンの動力が低減しており、基準ケースとほぼ同等のエネルギー消費となった。
ケース5では、基準ケースと比べたときに、給気の平均温度は基準ケースと同等であるので、風量を削減した分、空調機負荷が低減される。高風量(高風速)時には給気温度を高めに設定し、気流感による体感の改善が意図されており、また低風量(低風速)時には、給気温度を低めに設定し、気流の混合、拡散を抑制することで、空気温度による体感の改善が意図されている。ケース5では、空調機負荷が大幅に低減した。
ケース6では、基準ケースと比べたときに、空調機負荷については基準ケースとほぼ同等であり、ファンの動力の差違に基づくエネルギー消費の違いが見られた。
なお、ケース1及びケース2での体感に関するアンケート結果では、基準ケースと同等(有意差なし)の回答結果が得られている。したがって、ケース1の結果から、空調機の処理熱量を低減しても、風速の脈動効果によって、体感は大きく変化しないことが示されたものと解される。またケース2の結果から、少々の温度の変動があっても適度の気流感を維持すれば、体感は大きく変化しないことが示されたものと解される。
特に、エネルギー消費削減の効果から言えば、吹き出し風量に脈動を与えるケース1は、ファンの動力及び空調機負荷の両方が低減され、効果的であると言える。またこれらのケース1及び2の結果から、一般的な空調システム、特に室内の全体を空調の対象とする全体空調システムの場合では、空調投入熱量の低減は温熱環境(空気温度環境)の悪化に
一般に直結するが、スポット空調の場合には、必ずしもそうはならない側面を有することが明らかになった。
ケース4では、低風量時には低温吹き出しとすることによる脈動のインパクト効果は、体感としては基準ケースと有意差が現れなかったが、これは、実際の作業エリアでの気流温度の変化が、設定値の差ほどには異ならず、有意差として現れるほどの顕著な体感の違いとして作業員に認識されなかったためと考えられる。したがって、例えば温度設定値における目標上限値と目標下限値との差を大きくすると、前記脈動のインパクト効果を高める観点から有効であると考えられる。
ケース5では、得られた結果から、低温、低風量(低空調負荷)自体での体感効果を判定するのは困難だが、ケース2と同様に、高風速設定(60Hz)であれば相応の温熱体感が維持されることは推定される。結果として、ケース5は、快適性等の体感については基準ケースと有意差なしとされたものの、空調機負荷は大幅に低減された。
ケース6では、体感に関しては基準ケースと有意差なしとされ、またケース3と同等のエネルギーの消費が見られた。
以上より、作業エリアへの給気温度及び給気風量の一方又は両方を周期的に変化させた作業エリアの温熱環境等を検証した結果、吹き出し温度や吹き出し風量を周期的に変化させることにより、空調エネルギーの消費量の低減が可能となり、また適度な気流感を維持することにより空調効果の快適性を損なわないことの知見が得られた。
本発明のスポット空調システムの一実施の形態の構成を概略的に示す図である。
本発明における、調整される空気の温度の周期的な変化と送風機6の運転出力の周期的な変化との一例を示す図である。
本発明において、空調対象スポットへの吹き出し温度と吹き出し風量の周期的な変化の他の例を示す図である。
図3に示す周期的な変化において、空調システムにおける空気の温度調整で消費されるエネルギーと空調システムにおける調整空気の送風で消費されるエネルギーとの関係を示す図である。
本発明における、調整される空気の温度の周期的な変化と送風機6の運転出力の周期的な変化との他の例を示す図である。
符号の説明
1 空調機
2 給気ダクト
3 空調制御手段
4 フィルタ
5 冷却コイル
6 送風機
7 冷水循環ライン
8 制御弁
9 温度センサ
10 フレキノズル
11 指示調整計
12 脈動コントローラ
13 インバータ
A、B 作業エリア