近年、周囲の騒音をキャンセルして音楽などを聴取することができる騒音キャンセルヘッドフォンが各社より製品化されている。これらの騒音キャンセルヘッドフォンは、周囲の騒音をマイクから入力して逆位相で打ち消し、低騒音化を実現するようになっている。騒音を逆位相で打ち消す方法として、大きく分けて、閉ループによるもの(例えば特許文献1)と、開ループによるもの(例えば特許文献2)がある。
図13は、閉ループによる騒音キャンセルを実現する従来技術における制御構成の概略を示したものである。図13を参照して閉ループによる騒音キャンセルの制御について簡単に説明する。なお、以下の説明では音響を含めて音声として記載する。
騒音キャンセル制御では、騒音をキャンセルする為に、吸音材などを利用した受動騒音制御だけでなく、電気的に制御して騒音と逆相の信号を音源から発生することにより騒音を直接打ち消す能動騒音制御を行っている。これにより、受動騒音制御だけではキャンセルできない低域分を能動騒音制御によりキャンセルすることができる。以下の図13を参照して、従来の騒音低減制御のうち能動騒音制御について説明する。
図13において、1は騒音キャンセルヘッドフォンの制御回路部である。2は騒音キャンセルヘッドフォンの音声再生部(以下ヘッドフォンという)を示す。また、3は音楽などの音声信号をアナログ音声信号として出力する音声信号再生装置であり、図13ではシリコンプレーヤ(音楽データを記憶する記憶媒体が半導体メモリである携帯型オーディオ装置)となっている。制御回路部1とヘッドフォン2は、一体に構成されたものや別体として構成されたものがある。また、ヘッドフォン2はヘッドフォン型の他にイヤホン型のものもある。
音声信号再生装置3から入力されたアナログ音声信号は、制御回路部1で音声信号処理されてヘッドフォン2に出力され音声Sとして再生される。
制御回路部1は、補正回路4、信号増幅器5、アナログフィルタ6、切替スイッチ17、ヘッドフォンアンプ7、マイクアンプ8、騒音キャンセルスイッチ9、電源スイッチ10、電池11などで構成されている。ヘッドフォン2は、スピーカ13、マイク14、ヘッドフォンハウジング12、バンド16などで構成されている。なお、15は聴取者の耳を簡略化して描いたものである。
音声信号再生装置3の出力部は補正回路4の入力部に接続されている。また、補正回路4の出力部は信号増幅器5の正入力端子に接続されると共に切替スイッチ17のb端子に接続される。また、信号増幅器5の出力部はアナログフィルタ6の入力部に接続される。アナログフィルタ6の出力部は切替スイッチ17のa端子に接続される。また、切替スイッチ17はa端子又はb端子がc端子に切替接続される切替スイッチとなっており、c端子はヘッドフォンアンプ7の入力部に接続されている。また、ヘッドフォンアンプ7の出力部はスピーカ13に接続されている。スピーカ13とマイク14はヘッドフォンハウジング12内に近接して取り付けられている。ユーザがヘッドフォン2を装着した状態で、マイク14はスピーカ13からの音声Sとヘッドフォンハウジング12を介してマイク14に届いた周囲の騒音Nの両方を集音するようになっている。ここで、騒音はヘッドフォンハウジング12を介してヘッドフォンハウジング12内の耳空間に届くので、ヘッドフォンハウジング12の外側の騒音をN’、内側の騒音をNと表現している。
補正回路4は、音声信号再生装置3から入力された音声信号を補正して、スピーカ13から出力される音声Sの可聴周波数範囲での周波数特性がほぼフラットの特性となるように設けられた補正回路である。また、信号増幅器5は、補正回路4から正入力端子に入力された音声信号と、マイクアンプ8から負入力端子に入力されたフィードバック信号の差分を増幅する偏差増幅器となっている。また、アナログフィルタ6は騒音を低減したい周波数帯域でゲインを大きくしたバンドパスフィルタとなっている。また、ヘッドフォンアンプ7は入力された信号を電力増幅してスピーカ13に供給する。マイク14は、スピーカ13から出力された音声S及び騒音Nを集音して電気信号に変換し、マイクアンプ8に供給する。マイクアンプ8はマイク14からの信号を増幅し、信号増幅器5の負入力端子にフィードバック信号として帰還させる。
このように制御回路部1、ヘッドフォン2、音声信号再生装置3で構成された音声再生システムは、切替スイッチ17をa端子側に切り替えたとき、信号増幅器5、アナログフィルタ6、ヘッドフォンアンプ7、スピーカ13、マイク14、マイクアンプ8により負帰還のフィードバックループを構成する。このとき、音声再生モードは騒音キャンセル制御モードとなる。また、切替スイッチ17をb端子側に切り替えたとき、アナログフィルタ6の出力が遮断されてフィードバックループが解除され、補正回路4の出力が切替スイッチ17のb、c端子を介してヘッドフォンアンプ7の入力に接続される。このとき、音声再生モードは騒音キャンセル制御を行わない通常の音声再生モードとなる。
いま、騒音キャンセル制御モードにおけるフィードバックループを考える。図13の音声再生システムの制御回路構成を、伝達関数を使ったブロック線図で表現すると図14のようになる。
補正回路4の出力部x(=信号増幅器5の正入力端子であり、音楽信号Iが入力される)からスピーカ13の出力部(=音声Sが出力される)までの前向きのループゲインをG1、マイク14の入力部y(=聴取者の耳空間部であり、音声Sと騒音Nの混合した音が入力される)から信号増幅器5の負入力端子までの後ろ向きのループゲインをG2とする。また、聴取者の耳空間部yに入力点zから騒音Nが外乱として入力される。
図14において、101は前向きループゲインG1、102は後ろ向きループゲインG2、103はフィードバック信号加算部、104は騒音Nの加算点を示している。スピーカ13からの音声Sは、音楽信号Iによる音と騒音Nによる音が混合している。また、耳空間部yでは、スピーカ13からの音声Sと騒音Nが混合している。
補正回路4の出力部xを入力点としてマイク14の入力部yを出力点とする閉ループゲインH1は制御理論から明らかなように次の式で表される(*は乗算を意味する。以下同様)。
H1=G1/(1+G1*G2) ・・・・・・・・(1)
また、騒音Nの入力部zを入力点としマイク14の入力部yを出力点とする閉ループゲインH2は次のようになる。
H2=1/(1+G1*G2) ・・・・・・・・(2)
音楽信号Iの入力と騒音Nの入力に対応する総合的な耳空間部yの音は、音声Sと騒音Nの合成になり、次のようになる。
S+N=H1*I+H2*N
={G1/(1+G1*G2)}*I+{1/(1+G1*G2)}*N ・・・・・・・・(3)
(3)式の第1項は音楽信号Iによる音声、第2項は騒音Nによる音声を示している。騒音をキャンセルするときは第2項を小さくすればよいことがわかる。
ゲインG1とゲインG2の積、すなわち開ループゲインG1*G2が1に対して非常に大きくなったとき、補正回路4の出力部xからマイク14の入力部yまでの閉ループゲインH1は(1)式から、
H1→1/G2 ・・・・・・・・・・・・・・・・(4)
となり、また、騒音Nの入力部zからマイク14の入力部yまでの閉ループゲインH2は(2)式から、
H2→1/G1*G2→0 ・・・・・・・・・・・・・・・・(5)
となる。したがって、(3)と(5)式から、図14の伝達関数のブロック線図において開ループゲインG1*G2を大きくすると騒音が低減されることがわかる。
また、このとき、フィードバックループの安定性は開ループゲインG1*G2により判定できることはよく知られたことであり、図15を使って簡単に説明すると次のようになる。
図15の(a)は開ループゲインG1*G2のゲイン特性を表している。図示のように低域のカットオフ周波数が20Hz〜30Hz、高域のカットオフ周波数が800Hz〜2kHzのバンドパス特性となっている。また、図15の(b)は開ループゲインG1*G2の位相特性を表している。サーボ制御理論より、フィードバックループが安定であるためには、ゲイン特性が0dBになる周波数で位相余裕が約30°以上有り、位相特性が180°になる周波数でゲイン余裕が約10dB以上有ることが必用である。位相余裕、又はゲイン余裕がこれより小さいときは発振現象を起こしハウリングし異常状態となる。
上記のゲインG1はアナログフィルタ6のゲインを調整することにより行われている。ゲインG1は騒音低減のためには大きいほうがよいが、大きくするとフィードバックループの安定性が損なわれて異常状態になる。また、ゲインG2の変動には、マイク14、マイクアンプ8のハード的な特性に起因する変動要因と、
聴取者のヘッドフォン装着状態に起因する変動要因がある。従来は安定性を確保するため、アナログフィルタ6の可変ボリュームによりゲイン調整してゲインG1を必要以上に小さく設定し、十分なゲイン余裕と位相余裕を得るようにしておき、
聴取者のヘッドフォン装着状態によりゲインG2が大きく変わっても発振現象を起こさないようにしていた。
特開平6−343195号公報
特開平11−196488号公報
次に、本発明を実施するための最良の形態を、図面を参照して具体的に説明する。
(第1の実施の形態)
図1は本発明による騒音キャンセルヘッドフォンの制御構成の第1の実施の形態を示している。
まず、騒音キャンセルヘッドフォンの制御構成を説明する。
図1において、31は騒音キャンセルヘッドフォンの制御回路部である。なお、ステレオ音声の場合、制御回路部31と同じ構成をした左右の制御回路部があるが、左右における一方のみを示し、他方は図示を省略している。64、65はイヤホン型の音声再生部である。64、65はイヤホン型に限定されず、ヘッドフォン型であってもよい。以下64、65をヘッドフォンという。また、ヘッドフォン64と制御回路部31は、一体に構成、或いは別体として構成することができる。
32、33はシリコンプレーヤであるが、シリコンプレーヤ32はPCMのデジタル音楽信号が出力される。また、シリコンプレーヤ33はアナログの音楽信号が出力される。
34はシリコンプレーヤ32からPCMのデジタル音楽信号を取り込んで1ビット信号に変換するPCM/1bit変換器である。また、35はシリコンプレーヤ33からアナログ音楽信号を取り込んで1ビット信号に変換するアナログ/1bit変換器である。
36はセレクタであり、入力された信号のいずれかを選択して出力する。セレクト信号は図示を省略しているが、シリコンプレーヤ32、33の接続状態によってセレクト信号を発生して切り替えるようにすればよい。
37乃至39はセレクタであり、入力された信号のいずれかを選択して出力する。セレクト信号は切替信号生成回路から出力される。
40は補正回路であり、セレクタ36で選択されたPCM/1bit変換器34からの1ビット信号、或いはアナログ/1bit変換器35からの1ビット信号を補正して、スピーカ13から出力される音声の可聴周波数範囲での周波数特性が所望の特性となるように設けられた補正回路である。以下で説明する騒音キャンセル用のフィードバックループ制御回路の存在により周波数特性が可聴範囲でフラットな特性でなくなるため、これを補正回路40により補正して可聴範囲でフラットな特性とする。補正回路40はイコライザ機能を兼ねることも可能で、そのときは補正回路40により聴取者の所望の特性になるように調整することができる。
41はデジタルフィルタであり、図13に示したアナログフィルタ6に代わるものであり、騒音を低減するために設けられている。デジタルフィルタ41は、フィルタ係数を変えることにより、フィルタの特性が変えられるようになっている。デジタルフィルタ4には、デジタルフィルタ41のゲインを決めるデフォルト値α0が記憶されており、電源が投入されると、まずこのデフォルト値α0によりフィルタ係数が決められフィルタ係数レジスタが設定されるようになっている。また、フィルタ係数レジスタに設定された値は、外部から入力されるゲイン調整値により更新されるようになっている。なお、デフォルト値α0は、デジタルフィルタ41内に設けたROMに記憶してもよいし、ハード的に設定する(例えば電源電圧と接地電位を使って1、0の信号を設定する)ようにしてもよい
。
42はスイッチングアンプであり、1ビットパルスの波高値を揃え、またスピーカ46で音声を出力するための電力増幅を行うために設けられている。
また、43はローパスフィルタであり、スイッチングアンプ42で波高値が揃えられた1ビットパルスのパルス列の高周波分を濾波するために設けられている。ローパスフィルタ43を通過した1ビット信号はパルス列の粗密に応じたアナログ信号となる。そして、ローパスフィルタ43のアナログ音楽信号がスピーカ44(45)に供給されることにより音声が再生される。スイッチングアンプ42とローパスフィルタ43は、1ビット信号をアナログ信号に変換する1ビット信号D/A変換部を構成する。
46(47)はマイクであり、スピーカ44(45)からの音声信号と周囲の騒音を集音して電気信号に変換する。48乃至51は信号線である。また、66、67は聴取者の耳を表している。()書きした上記スピーカ(45)、マイク(47)は、ステレオ音声の場合の左右一方のスピーカ44、マイク46に対し、他方のものを示している。一方と他方は、基本的な制御動作は同じなので、他方の説明は省略する。
52はマイクアンプであり、マイク46からの電気信号を増幅して出力する。53はマイクアンプ52からのアナログ信号を1ビット信号のデジタル信号に変換する1ビット信号AD変換器である。
54は補正回路40の1ビット信号と1ビット信号AD変換器53からフィードバックされてきた1ビット信号をデジタル的に引き算して、その差分として1ビット信号の偏差信号を出力するデジタル加算器である。
55はデジタルフィルタ41の出力から音楽信号のレベルをデジタル的に検出するレベル検出器である。このレベル検出器55は、アップダウンカウンタを使って信号レベルを検出する。レベル検出器55の動作は後述する。
56はレベル決め回路(出荷時)であり、出荷時の信号レベル調整作業において、レベル検出器55の出力信号(ばらつき調整用のレベル検出値)を入力し、EEPROM58にデジタルフィルタ41のゲイン調整値を出力する。なお、後で詳述するが、騒音キャンセル機能を動作させるときに形成される閉ループ回路は、このばらつき調整用のレベル検出を行う際にはセレクタ38で信号が遮断されるので開ループとなる(この開ループをばらつき調整用開ループと呼ぶことにする)。レベル決め回路(出荷時)56には、出荷時調整の際に形成されるこのばらつき調整用開ループの開ループゲイン調整目標値A0(具体的には例えば15dB)が記憶されている。
EEPROM58は書き替え可能な不揮発性メモリである。EEPROM58には出荷時のばらつき調整作業において、レベル決め回路(出荷時)56から送られてきたデジタルフィルタ41のゲイン調整値が記憶される。
また、57はレベル決め回路(装着時)であり、聴取者がヘッドフォンを装着し騒音キャンセル制御モードで動作させたときのレベル検出器55の出力信号(ばらつき調整用のレベル検出値)を入力し、このレベル検出値を基にデジタルフィルタ41のゲイン調整値を求めてセレクタ37に出力する。これも後で詳述するが、出荷時調整と同様、ばらつき調整用開ループが形成される。レベル決め回路(出荷時)57には、装着時調整の際に形成されるばらつき調整用開ループの開ループゲイン調整目標値A1(具体的には例えば20dB)が記憶されている。
59はばらつき調整用の信号を生成するばらつき調整用信号生成回路で、本実施の形態では200Hzの正弦波信号を生成する200Hz生成回路となっている。
60は電池63からの制御電源を入り切りする電源スイッチである。また、61は出荷時ばらつき調整用の出荷時調整スイッチである、また、62は騒音キャンセルモードに切り替える騒音キャンセルスイッチである。68は切替信号生成回路であり、電源スイッチ60、出荷時調整スイッチ61、騒音キャンセルスイッチ62からのON、OFF信号を入力して、セレクタ37、38を切り替えるための信号、及びデジタルフィルタへの書き込み信号を生成する。
出荷時調整スイッチ61がONすると、出荷時調整スイッチ61がONしている間、セレクタ37は切替信号生成回路68からEEPROM58の出力データを通過させ、また、騒音キャンセルスイッチ62がONすると、セレクタ37は騒音キャンセルスイッチ62がONしたときから所定時間だけレベル決め回路(装着)57の出力データを通過させる。
切替信号生成回路68は出荷時調整スイッチ61がONすると、出荷時調整スイッチ61がONしている間、セレクタ38を200Hz生成回路59側に切り替える信号を出力する。
また、切替信号生成回路68は騒音キャンセルスイッチ62がONすると、騒音キャンセルスイッチ62がONしたときから所定時間だけセレクタ38を200Hz生成回路59側に切り替える信号を出力する。セレクタ38は200Hz生成回路59側に切り替えられると、200Hz正弦波信号を通過させる。
また、セレクタ39は騒音キャンセルスイッチ62がONすると、騒音キャンセルスイッチ62がONしている間、セレクタ38からの信号を選択して通過させる。
デジタルフィルタ41は、切替信号生成回路68からの書き込み信号によりフィルタ係数を決めるレジスタの値を更新する。
これにより製品出荷時のゲイン調整値、あるいは騒音キャンセル制御モードで聴取するごとにデジタルフィルタ41のゲインが自動的に更新され、デジタルフィルタ41のゲインは常に最適な値となる。
次に、1ビット信号処理の遅れ時間について説明する。
フィードバックループの構成要素のうちデジタル的に動作するもので動作時間遅れの最も大きいものは、1ビット信号AD変換器53である。そこで、1ビット信号生成としてΔΣ変調器による1ビット信号(例えば特開2003−318665号公報、特開2005−151589号公報などを参照)を考えると、1ビット信号AD変換器53は、代表的な例において、7クロックで変換が完了する。このときΔΣ変調器のクロック周波数として2.8MHzを採用すると変換が完了するまでの経過時間は、
Td=7*1/2.8MHz
≒2.5μsec
となる。デジタルフィルタ41、セレクタ38、39、スイッチングアンプ42は1ビット信号A/D変換器53の遅れに対し無視できる。
制御ループ内にあるアナログ回路も含めて遅れ時間の最も大きなものを考えると、先にも述べたがスピーカの遅れ100μsecが最も大きい。このスピーカの遅れ100μsecに対して、2.8MHzクロックのΔΣ変調器による1ビット信号AD変換器53の遅れ2.5μsecは無視できる程度に小さい。スイッチングアンプ42とローパスフィルタ43で構成される1ビット信号D/A変換部の遅れ時間は1ビット信号AD変換器53の遅れより小さくできる。したがって、2.8MHzクロックのΔΣ変調器による1ビット信号AD変換器53を使用すれば、従来のアナログフィルタ6を使った応答1kHzとほぼ同じ程度の応答1kHzを実現することができる。
次に、レベル検出器55の動作について説明する。
図2はレベル検出回路55の構成例を示している。図2において、71は1ビット信号をカウントするアップダウンカウンタである。CK端子にクロック信号clockが入力され、このクロック信号clockが入力されるごとにU/Dの入力端子に接続された1ビット信号をカウントし、出力端子Qに出力する。72は最大値検出回路であり、アップダウンカウンタ71の出力Qの最大値を検出する。73は最大値出力部であり、最大値検出回路72の値を次の最大値検出タイミングまでホールドして、レベル決め回路(出荷時)56、及びレベル決め回路(装着時)57にばらつき調整用のレベル検出値として出力する。
図3はレベル検出回路55の動作を説明する図である。図3の(a)はアップダウンカウンタ71に入力される1ビット信号のパルス列を示している。図3の(b)はアップダウンカウンタ71に入力されるリセット信号resetを示している。このリセット信号resetは、クロック信号clockを基に1024クロックごとにリセット信号発生器74からアップダウンカウンタ71のRES端子に出力される。図3の(c)は、アップダウンカウンタ71のサンプリング期間ごとの最終カウント値を示している。図3の(d)における実線(信号a)はアップダウンカウンタ71のカウント値を仮想的にアナログ的に表現したものである。また、図3の(d)における点線(信号b)は1ビット信号が表す値を仮想的にアナログ値で表現したものである。
1ビット信号は信号レベル”1”と信号レベル”0”で表現されたものとなっているが、1ビット信号(例えば、ΔΣ変調器による1ビット信号)の特性として、信号のレベルが大きいときにはそのレベルに対応して信号レベル”1”の数が多く、信号のレベルが小さいときにはそのレベルに対応して信号レベル”0”の数が多くなっている。したがって、1ビット信号をアップダウンカウンタ71でカウントすることにより、信号Bに比例した信号Aが得られ、この信号の最大値を検出することにより1ビット信号の信号レベルが検出できる。図3の例では、仮想的に信号Bとして示した−6dBのアナログ信号に対し、(c)に示されたアップダウンカウンタ71のカウント値の最終値560が最大値として最大値検出回路72で検出される。予めアップダウンカウンタ71のカウント値と1ビット信号が表す信号レベル(dB)を対応付けておけば、最大値検出回路72の出力をレベル検出値とすることができ、ばらつき調整用のレベル検出値とすることができる。
ばらつき調整用のレベルを検出するときには、セレクタ38で200Hz生成回路からの200Hz正弦波信号を選択し、デジタルフィルタ41の出力をレベル検出回路55で検出する。200Hz正弦波信号は騒音キャンセルしようとしている騒音の周波数帯域20Hz〜30Hz乃至1KHz〜2kHzの中で代表的な周波数を選定すればよい。後述するように50Hz〜500Hzの範囲の任意の値に選ぶことができるが、100Hz〜300Hzの範囲の値に選ぶと調整が容易になる。本実施の形態では200Hzとしている。
次に、ばらつき調整作業時のデジタルフィルタ41のゲイン調整について説明する。デジタルフィルタ41のゲイン調整は出荷時におけるばらつき調整と、聴取者がヘッドフォンを装着し騒音キャンセル機能を動作させたときのばらつき調整がある。出荷時におけるばらつき調整はヘッドフォン固有の制御ループゲインのばらつきを調整することを目的とし、聴取者がヘッドフォンを装着した状態で行うばらつき調整は、聴取者のヘッドフォン装着状態に起因する制御ループゲインのばらつきを調整することを目的とする。
まず、出荷時のばらつき調整について説明する。
出荷時の調整を行うときはヘッドフォンをHATSと呼ばれるダミー人形に装着する。そしてセレクタ38で200Hz生成回路59からの200Hz正弦波信号を選択する。この200Hz正弦波信号はスイッチングアンプ42、ローパスフィルタ43を介してスピーカ44に入力され音声Sとして再生される。この音声Sはマイク46で集音されるが、同時に騒音Nも集音される。マイク46で集音された音声Sと騒音Nはアナログの電気信号に変えられてマイクアンプ52に出力される。マイクアンプ52で増幅された信号は1ビットA/D変換器53で1ビット信号に変換され、加算器54に出力される。加算器54では補正回路40からの1ビット信号と1ビットA/D変換器53からの1ビット信号の差分を取りデジタルフィルタ41に出力される。なお、出荷時の調整を行うときは補正回路40からの1ビット信号の値は、音楽信号による影響を排除するため無信号の状態とされる。これにより、1ビットA/D変換器53からの1ビット信号を極性反転した値の信号がそのままデジタルフィルタ41に出力される。
デジタルフィルタ41は200Hzを中心とするバンドパスフィルタ特性とされている。したがって入力された信号の低域成分と高域成分は遮断されて出力される。このデジタルフィルタ41のバンドパスフィルタ特性により、200Hz正弦波信号は通過され、その低域側と高域側の騒音信号は減衰し遮断される。このようにデジタルフィルタ41は200Hz正弦波信号を通過させ、それ以外の帯域の騒音信号を減衰させものとなるので、200Hz正弦波信号の信号レベルをレベル検出回路55で検出する際に、騒音Nの影響を小さくできる効果を奏する。
なお、騒音キャンセル機能を動作させるときに形成される閉ループ回路は、このレベル検出を行う際にはセレクタ38で信号が遮断されるので開ループとなる。この開ループをばらつき調整用開ループと呼ぶことにする。
レベル検出回路55で検出されたばらつき調整用のレベル検出値B0がレベル決め回路(出荷)56に入力される。レベル決め回路(出荷時)56は入力されたばらつき調整用検出レベルB0の値が所定の範囲に入っていない場合には不良品と判断する。
図4に出荷時のばらつき調整におけるレベル調整値のレベル決めの動作フローを示す。
まず、ステップS1として、例えば出荷時のばらつき調整用開ループの開ループゲイン調整目標値をA0(具体的には例えば15dB)として、予めレベル決め回路(出荷時)56内に記憶しておく。また、ばらつき調整用開ループの開ループゲインがこの開ループゲイン調整目標値A0になるためのデジタルフィルタ41のゲインは、設計値として予め求めることができるから、この設計値をデフォルト値α0としてデジタルフィルタ41内に記憶しておく。
なお、出荷後の使用状態が不明なので、出荷時のばらつき調整用開ループゲインの開ループゲイン調整目標値A0はハウリング防止の観点から安定限界のゲインより多少低めに設定するのがよい。また、上記開ループゲイン調整目標値A0を15dBとしたのは一例であって、この目標値は制御回路の構成によってかわり、より詳しくはゲイン余裕が安定限界内に有るように設定される。
ステップS2において、出荷時調整スイッチ61がONされる。すると、ステップS3において、出荷時調整スイッチ61からの信号を受けたセレクタ38は200Hz信号生成回路からの信号を選択する。
200Hz信号生成回路から発した200Hz正弦波信号は、ばらつき調整用開ループを一巡し、ステップS4においてその信号レベルがレベル検出回路55で検出される。この検出された信号レベルをばらつき調整用のレベル検出値B0とする(例えば10dBが検出されたとする)。なお、200Hz正弦波信号の一巡した値をレベル検出回路55でレベルを検出することは、ばらつき調整用開ループのゲインを測定していることでもある。
レベル検出回路55で検出されたレベル検出値B0はレベル決め回路(出荷時)56に入力され、ステップS5において、その大きさB0が許容範囲(例えば10dB〜20dBの範囲)にあるか否かが判定される。この判定はレベル決め回路(出荷時)56で行われる。10dB〜20dBの許容範囲にあると判定された場合には開ループゲイン調整目標値A0(15dB)との比率A0/B0が求められ、レベル決め回路(出荷時)56はこの比率A0/B0をゲイン調整値としてEEPROM58に出力する。
ステップS7において、レベル決め回路(出荷時)56から出力されたゲイン調整値A0/B0は、EEPROM58に記憶される。例えばA0=15dBに対しB0=10dBであればA0/B0=1.5として記憶される。このEEPROM58に記憶された値は電源がOFFされてもその内容が保持され、出荷後に聴取者が電源ONしたときにデジタルフィルタ41のゲイン調整値としてデジタルフィルタ41のレジスタに設定されるものである。
また、ステップS5において、レベル検出回路55で検出されたレベルB0が10dB〜20dBの範囲にないと判定された場合には、調整不可の不良品とする。不良品と判断されたとき、不良品であることをブザーを鳴らして知らせる。あるいは不良品と判断したことを外部に出力し、自動的に不良品として仕分けされるようにしておいてもよい。このようにして出荷時のレベル調整が行われたものは、ばらつき調整用開ループの開ループゲインが開ループゲイン調整目標値のA0に揃えられたことになる。
次に、聴取者がヘッドフォンを装着したときのばらつき調整について説明する。
実際に聴取者がヘッドフォンを装着した状態では、スピーカ44、マイク46、聴取者の耳66との関係が個人により異なるので、ばらつき調整用開ループの開ループゲインの大きさが異なってくる。したがって、聴取者がヘッドフォンを装着したときのばらつき調整用開ループの開ループゲインは開ループゲイン調整目標値A0を中心にばらつくことになる。
聴取者がヘッドフォンを装着したときのレベル調整に対する基本的な考えは出荷時のレベル調整と同じであるが、具体的な調整の仕方が異なっている。
例えばヘッドフォン装着時のばらつき調整用開ループの開ループゲイン調整目標値としてA1(具体的には例えば20dB)を予めレベル決め回路(装着時)57内に記憶しておく。そして、電源スイッチ60がONになるとデジタルフィルタ41のフィルタ係数の値はデフォルト値α0で決められる値になる。電源スイッチ60がONの信号を受けて、切替信号生成回路68は、所定時間後にEEPROM58を選択する信号をセレクタ37に送る。これによりEEPROM58に記憶されていた出荷時のゲイン調整値A0/B0がデジタルフィルタ41に出力され、デジタルフィルタ41のゲインはA0/B0によって更新される。この状態からヘッドフォン装着時のばらつき調整が行われる。
聴取者がヘッドフォンを装着したときのばらつき調整の開始は、騒音キャンセルスイッチ62がONとなったときである。騒音キャンセルスイッチ62がONになると、切替信号生成回路68は所定時間の間、セレクタ38が200Hz生成回路59を選択する信号を出力する。
したがって、出荷時調整と同様にセレクタ38で200Hz生成回路59からの200Hz正弦波信号が選択されるが、セレクタ38で200Hz生成回路59からの200Hz正弦波信号が選択されるタイミングは、出荷時調整と異なり、騒音キャンセルスイッチがONになってから所定時間の間に限られる。そして、所定時間の間はばらつき調整用開ループが形成されてデジタルフィルタのゲイン調整が行われ、この所定時間が経過した後は騒音キャンセルモードで聴取できるように騒音キャンセル制御のフィードバック回路が形成される。
ばらつき調整用開ループが形成されている間は、200Hz生成回路59からの200Hz正弦波信号はスイッチングアンプ42、ローパスフィルタ43を介してスピーカ44に入力され音声Sとして再生される。この音声Sはマイク46で集音されるが、同時に騒音Nも集音される。マイク46で音声Sと騒音Nはアナログの電気信号に変えられてマイクアンプ52に出力される。マイクアンプ52で増幅された信号は1ビットA/D変換器53で1ビット信号に変換され、加算器54に出力される。加算器54では補正回路40からの1ビット信号と1ビットA/D変換器53からの1ビット信号の差分を取りデジタルフィルタ41に出力される。なお、出荷時の調整と同様に、補正回路40からの1ビット信号の値は、音楽信号による影響を排除するため無信号の状態とされる。これにより、1ビットA/D変換器53からの1ビット信号を極性反転した値の信号がそのままデジタルフィルタ41に出力される。
デジタルフィルタ41はその特性にしたがって前記1ビット信号の差分信号を濾波して出力する。デジタルフィルタ41の出力信号はレベル検出回路55によりレベル検出値B1として検出される。レベル検出回路55により検出されたレベル検出値B1はレベル決め回路(装着時)57に入力される。
レベル決め回路(装着時)57には装着時調整の際に形成されるばらつき調整用開ループの開ループゲイン調整目標値A1が記憶されているので、レベル決め(装着時)57は、開ループゲイン調整目標値A1とレベル検出回路55により検出されたレベル検出値B1との比率A1/B1を求めて、セレクタ37にゲイン調整値として出力する。したがって、デジタルフィルタ41のフィルタ係数の値はゲイン調整値A1/B1により更新される。結局、騒音キャンセルモードでのデジタルフィルタ41の最終的なゲインは、α0*(A0/B0)*(A1/B1)となる。
以下、図5のフローチャートを参照して、聴取者がヘッドフォンを装着したときのばらつき調整の動作を説明する。
まず、ステップS11として、レベル決め回路(装着時)57に、予めばらつき調整用開ループの開ループゲイン調整目標値A1を記憶させる。例えば具体的には例えば20dBを記憶させておく。なお、上記開ループゲイン調整目標値A1を20dBとしたのは一例であって、ゲイン余裕が安定限界内に有る範囲で任意に選ぶことができる。
次に、ステップS12において、電源スイッチ60をONさせる。電源スイッチ60がONすると、ステップS13に進み、デジタルフィルタ41には、ゲイン設定値としてデフォルト値α0が設定される。また、電源スイッチ60のON信号を受けて、切替信号生成回路68は、所定時間後にEEPROM58を選択する信号をセレクタ37に送る。これによりEEPROM58に記憶されていた出荷時のレベル調整値A0/B0がデジタルフィルタ41に出力され、デジタルフィルタ41のゲインはA0/B0によって更新される。このときデジタルフィルタ41のゲインはα0のA0/B0倍に更新される。
ステップS14においてヘッドフォンが聴取者に装着される。騒音キャンセルモードのレベル調整は、聴取者の装着状態によるばらつきを補正するものであるから、必ずヘッドフォンが装着された状態でレベル調整を行うようにする。
ステップS15において、騒音キャンセルスイッチ62がONされると、ステップS16において、騒音キャンセルスイッチ62からの信号を受けたセレクタ38は200Hz信号生成回路からの信号を選択する。
ステップS17において、ばらつき調整用開ループを一巡した200Hz正弦波信号のレベル検出値B1としてレベル検出回路55で検出される。レベル検出回路55で検出されたレベル検出値B1はレベル決め回路(装着時)57に入力される。
ステップS18において、予め記憶して置いた開ループゲイン調整目標値A1(20dB)との比率A1/B1を求め、この比率A1/B1をゲイン調整値としてレベル決め回路(装着時)57からセレクタ37に出力する。
騒音キャンセルスイッチ62がONされると、ステップS19において、切替信号生成回路68はセレクタ37に対して所定時間だけレベル決め回路(装着時)57を選択する信号を出力している。この間に、レベル決め回路(装着時)57から出力されたゲイン調整値A1/B1はセレクタ37を介してデジタルフィルタ41に入力される。デジタルフィルタ41は入力されたゲイン調整値A1/B1を基にデジタルフィルタ41のゲインを更新する。このときデジタルフィルタ41のゲインはα0*A0/B0*A1/B1となる。その結果、ばらつき調整用開ループの開ループゲインは開ループゲイン調整目標値のA1になる。
ステップS20において、騒音キャンセル制御ループが形成され、聴取者は騒音キャンセルモードとして騒音が抑制された音声を聞くことができる。
騒音キャンセル制御ループが形成されるタイミングは、スイッチ62がONされてから上記処理が済んで開ループゲイン調整目標値A1が設定された以後の所定時間にすることができるが、開ループゲイン調整目標値A1されるまでの処理は短時間に終了する。
ここで、聴取者はこの調整中に200Hzの音声を聞くことになる。この200Hzの音声は騒音キャンセルモードになってばらつき調整が行われている間に聞くことができる。したがって、この200Hzの音声を騒音キャンセルモードになったことと、ばらつき調整が開始されたことを聴取者に知らせるためのビープ音として利用することができる。このビープ音を聴取者に効果的に認識させるためにはある程度長い時間、例えば200ms程度の間にするとよい。この時間は聴取者がビープ音を効果的に認識する時間として200msに限らず任意の値に設定することができる。
(第2の実施の形態)
次に、上記ばらつき調整におけるレベル検出を効果的に行うことのできるデジタルフィルタ14の特性設定について説明する。
ばらつき調整を行うとき、デジタルフィルタ14の特性は、聴取時のデジタルフィルタ14の特性とすることもできるが、マイク46は騒音Nも集音するので、レベル検出回路55で検出された値に騒音の影響が出てしまう。
そこで、本実施の形態では、特定の周波数、例えば200Hz正弦波信号を使ってばらつき調整のレベル検出をおこなうとき、騒音の影響を少なくするように、デジタルフィルタ14の特性をモディファイする。
図6は、デジタルフィルタ14の特性をモディファイして、騒音キャンセルモードのフィードバックループの開ループゲイン特性と、ばらつき調整を行うときの開ループ特性とを変化させたときの開ループゲイン特性を示している。
図6において201は騒音キャンセルモードで聴取しているときのフィードバックループの開ループゲイン特性である。また、202はばらつき調整用のレベルを検出しているときのばらつき調整用開ループの開ループゲイン特性である。
騒音キャンセルモードで聴取しているときのフィードバックループの開ループゲイン特性201は、騒音を低減したい周波数帯域に合ったバンドパスフィルタの特性を有している。本実施の形態では、低域のカットオフ周波数が20Hz〜30Hz、高域のカットオフ周波数が800Hz〜2kHzのバンドパス特性となっている。これに対し、ばらつき調整用のレベルを検出しているときのばらつき調整用開ループの開ループゲイン特性202は、図で示したように、低周波側、高周波側のカットオフ周波数間の幅を調整用周波数である200Hzを中心として狭くしてある。
このような特性とすることにより、レベル検出回路の検出信号は、調整用周波数200Hzを中心として、低周波側と高周波側の騒音の影響が少ない値として検出できるようになる。また、本実施の形態では周波数帯域幅を狭くした200Hz付近のゲインを大きくしているが、このようにすると、200Hz正弦波信号のレベルをより精度良く検出できると共に、騒音の影響をより小さく抑えることができる。この場合、ばらつき調整用開ループの開ループゲイン調整目標値は第1の実施の形態のときのA0、A1に対し、ゲインを大きくして検出する分、これに見合った値に設定される。
デジタルフィルタ14の特性をモディファイするには、騒音キャンセルモードで聴取しているときのフィードバックループの開ループゲイン特性201に対するフィルタ係数と、ばらつき調整用のレベルを検出しているときのばらつき調整用開ループの開ループゲイン特性202に対するフィルタ係数の両方をデジタルフィルタ14内に記憶しておき、例えばセレクタ37への切替信号と、出荷時調整スイッチ61のON/OFF信号のOR信号を使って選択するようにすればよい。この切替信号のタイムシーケンスの例を図7、図8に示す。
図7は、出荷時のばらつき調整におけるデジタルフィルタ14の特性のモディファイ状態を示したものである。ここで、騒音キャンセルモードで聴取しているときのフィードバックループの開ループゲイン特性201をワイドバンド(第1の周波数帯域)、ばらつき調整用のレベルを検出しているときのばらつき調整用開ループの開ループゲイン特性202をナローバンド(第2の周波数帯域)と呼ぶことにする。
図7の信号は、上から順に、電源スイッチ60のON、OFF信号、出荷時調整スイッチ61のON、OFF信号、騒音キャンセルスイッチ62のON、OFF信号、セレクタ37、38、39のセレクト信号、セレクタ37と出荷時調整スイッチ61のOR信号、EEPROM58へのゲイン調整値書き込み信号WR1、デジタルフィルタ41へのゲイン調整値書き込み信号WR2、デジタルフィルタ41のゲイン状態を示している。
EEPROM58へのゲイン調整値書き込み信号WR1は出荷時調整スイッチ61のONから所定時間τ0が経過したとき切替信号生成回路68からEEPROM58に出力され、EEPROM58にレベル決め回路(出荷時)56からのレベル調整値が書き込まれる。
デジタルフィルタ41の特性はセレクタ37と出荷時調整スイッチ61のOR信号により切り替えられ、図7では出荷時調整スイッチ61がONになる前はワイドバンド、ONのときナローバンドになっていることが示されている。また、電源スイッチがONされるとデジタルスイッチ41のゲイン状態はα0となる。デジタルフィルタ41のフィルタ係数のレジスタは動作クロック(動作クロック周波数は、例えば2.8MHz)ごとに更新されるようになっているので、電源が投入されるとフィルタ係数のレジスタ値を更新してゲインがデフォルトのα0になるように設定される。
図7に示したセレクタ37、38、39のセレクト信号、セレクタ37と出荷時調整スイッチ61のOR信号、EEPROM58へのゲイン調整値書き込み信号WR1、デジタルフィルタ41へのゲイン調整値書き込み信号WR2は、電源スイッチ60のON、OFF信号、出荷時調整スイッチ61のON、OFF信号、騒音キャンセルスイッチ62のON、OFF信号を基に、切替信号生成回路68によって作られる。
図8は、ヘッドフォン装着時のばらつき調整におけるデジタルフィルタ14の特性のモディファイ状態を示したものである。図8の信号は、図7と同じである。
電源スイッチがONされるとデジタルスイッチ41のゲイン状態はデフォルトのα0となる。すなわち、デジタルフィルタ41のフィルタ係数のレジスタは動作クロックごとに更新されるようになっているので、電源が投入されるとフィルタ係数のレジスタ値を更新して、まず、ゲインがデフォルトのα0になるように設定される。
次に、電源スイッチ60のONから所定時間τ1が経過した時点で、デジタルフィルタ41へのゲイン調整値書き込み信号WR2が出力される。このとき、セレクタ37はEEPROM58を選択しているので、EEPROM58に記憶されている出荷時のレベル調整値が書き込まれる。これによりデジタルフィルタ41はゲインをデフォルト値α0からA0/B0倍に更新する。このときデジタルフィルタ41の特性はワイドバンドである。
次に、騒音キャンセルスイッチ62がONされると、所定時間τ2の時間経過後にデジタルフィルタ41へのゲイン調整値書き込み信号WR2が出力される。このときセレクタ37はレベル決め回路(装着時)57を選択しているので、レベル決め回路(装着時)57からのゲイン調整値A1/B1がセレクタ37を介してデジタルフィルタ41に書き込まれる。これによりデジタルフィルタ41はゲインを、先に更新されたα0*A0/B0を更にA1/B1倍して、α0*A0/B0*A1/B1となるように更新する。このときデジタルフィルタ41の特性は200Hz正弦波信号を使ったばらつき調整中なのでナローバンドとなっている。
デジタルフィルタ41の特性はセレクタ37と出荷時スイッチ61のOR信号となっているので、所定時間τ3後にセレクタ37が0になったときワイドバンドに切り替わる。
ここで、所定時間τ3は、聴取者に上記したビープ音が聞こえる期間である。このビー
プ音を聴取者に効果的に認識させるためには、ある程度長い時間、例えば200ms程度
の間にすることは既に述べた。
このように、デジタルフィルタ41の特性は200Hz正弦波信号を使ったばらつき調整中はナローバンドに切り替わり、通常の聴取時や騒音キャンセルモードでの聴取時にはワイドバンドになる。このように、騒音キャンセルモードでの聴取時には騒音キャンセルしたい帯域幅のデジタルフィルタ41の特性が得られ、また、200Hz正弦波信号を使ったばらつき調整中は通常より帯域幅の狭い特性が得られる。したがって騒音キャンセルモードでの聴取時には効果的に騒音が低減できると共に、200Hz正弦波信号を使ったばらつき調整中は騒音の影響を受けないようにしてレベル検出が行える。
なお、図7、図8において、デジタルフィルタ41の特性をナローバンドに切り替えなければ、実施の形態1と同じになる。
図9は、ばらつき調整用開ループの開ループゲイン特性を実測したデータの一例を示したものである。低周波のカットオフ周波数が10Hz、高周波のカットオフ周波数が1kHzとなっている。また、100Hz〜200Hzで20dBのゲインとなっている。この特性は一例であって、種々の要因によってばらつきを生じる。多くのデータを解析した結果、ばらつき調整の際にレベル検出回路55によってレベル検出値B0、B1を、精度よく検出するには50Hz乃至500Hzの周波数範囲が良いことがわかった。ゲインの変動が少なくしかも大きな値として得られる周波数範囲として100Hz乃至300Hzとすれば、更に精度よく検出することができることがわかった。本発明では上記実施の形態として、200Hzとして、200Hz生成回路の信号を発生するようにしている。勿論、この周波数として50Hz乃至500Hzの範囲のものを採用することが可能であり、更に精度よく検出するためには100Hz乃至300Hzとすればよい。
(第3の実施の形態)
次に、周囲の騒音のうち、特に騒音を抑えたい周波数帯域に狙いを定めて、その周波数帯域の騒音を効果的にキャンセルさせることのできる実施の形態について説明する。
本実施の形態は、デジタルフィルタの通過周波数帯域を複数の異なる通過周波数帯域に切り替えることができ、聴取者が気になる騒音を効果的にキャンセルして聴取できるところに特徴がある。しかも、デジタルフィルタとしては1つだけ用意すればよい。
図10は、本実施の形態における騒音キャンセルヘッドフォンの制御回路構成を示したものである。図1に示した第1、第2の実施の形態における制御回路構成に対し、デジタルフィルタ76の特性を、複数のフィルタ特性の中から選択して設定できるようになっている点が異なる。図1と同じ符号のものは第1、第2の実施の形態と同じもであるので説明は省略する。
図10において、75は本実施の形態の騒音キャンセルヘッドフォンの制御回路部である。また、76はデジタルフィルタであり、内部に複数のフィルタ特性を記憶しており、このフィルタ特性の中から1つを選んで設定できるようになっている。
77はフィルタ特性選択スイッチであり、聴取者により操作され、上記デジタルフィルタ76内に記憶された複数のフィルタ特性の中の1つを選択するフィルタ特性選択信号87を出力する。例えば6つのフィルタ特性の中から1つを選択する場合には、3ビットの信号が出力される。フィルタ特性選択スイッチ77は、スイッチとして構成するほかに、数字を入力する方法やメニューで選択する方法など種々考えられるが、いずれの方法によってもよい。
なお、記憶されるフィルタ特性は、フィードバックループの安定性が確保できる範囲で任意の特性を採用できる。
図11はデジタルフィルタ76のより詳細な構成例を示したものである。
図11において、82はフィルタ特性記憶手段であり、複数のフィルタ特性を実現できる複数組のフィルタ係数が記憶されている。
また、83は選択回路であり、フィルタ特性選択スイッチ77から入力されたフィルタ特性選択信号87に基づき、目的のフィルタ特性に対応するフィルタ係数をフィルタ特性記憶手段82から選択して係数レジスタ84に設定する。
なお、本実施の形態では、フィルタ特性記憶手段82、選択回路83は、デジタルフィルタ76の内部にあるとしたが、デジタルフィルタ76の外部にあってもよい。
係数レジスタ84に設定された係数の値によって、デジタルフィルタ76はフィルタ特性が所望の特性になる。
また、85はゲイン倍率制御部である。また、86はデフォルト値α0記憶部である。デフォルト値α0がゲイン倍率制御部85に取り込まれて、係数レジスタ84に設定された係数の値を調整する。また、第1、第2の実施の形態と同様に、ゲイン補正値データ88(A0/B0、A1/B1)が書き込み信号89(WR1、WR2)のタイミングで取り込まれ、デジタルフィルタ76のゲインをα0*(A0/B0)、あるいはα0*(A0/B0)*(A1/B1)の倍率で補正するように係数レジスタの係数が更新される。
90は動作クロックを示している。
図12は、本実施の形態で実現される騒音キャンセルモード時に使用するフィードバックループの開ループゲイン特性を示している。
符号301で示したゲイン特性は、第1、第2の実施の形態で使用されるゲイン特性であり、低域のカットオフ周波数が20Hz〜30Hz、高域のカットオフ周波数が800Hz〜2kHzのバンドパス特性となっている。騒音キャンセルしようとする低域周波数20Hz〜30Hzから高域周波数800Hz〜2kHzまでの範囲で0dB以上のゲインを有し、最大、約20dBのゲインとしている。なお、この20dBのゲインは、フィードバックループでの制御が不安定性にならない範囲で、なるべく大きな値に設定されるものであり、20dBには限定されない。
また、符号302乃至306で示したゲイン特性は、ゲイン特性301より狭い幅の周波数帯域に設定された複数の開ループゲイン特性であり、複数の周波数特性から特定の周波数範囲のものを選択して、その範囲の騒音を効果的にキャンセルさせるようになっている。
ここで、ゲイン特性302乃至306は、ゲイン特性301より狭い幅の周波数帯域に設定されているので、最大ゲイン値を同じゲインとした場合、位相余裕が大きくなる。これは、ゲイン特性302乃至306の最大ゲイン値をゲイン特性301より大きくできることを意味している。したがって、本実施の形態では、ゲイン特性302乃至306の最大ゲイン値をゲイン特性301よりβ倍(β>1)している。このように最大ゲイン値を大きくすることにより、その周波数範囲の騒音キャンセル効果をより大きくすることができる。
フィルタ特性記憶手段82には、フィードバックループの開ループゲイン特性が、ゲイン特性301乃至306になるようなフィルタ係数が複数組記憶されている。このデジタルフィルタ76の特性は、フィードバックループの開ループゲイン特性とはデジタルフィルタ76を除いた他の要素分(スイッチングアンプ42、スピーカ44、マイク46、マイクアンプ52、1ビットA/D変換器53など)だけ差が有るので、この差分を考慮することにより決定することができる。
聴取者は、ゲイン特性301を選択して聴取することにより、可聴範囲全体のノイズをキャンセルして聴取することができる。また、周囲の騒音が低音域で大きいときにはゲイン特性302を選択することにより、低音域の騒音を効果的にキャンセルすることができる。また、高音の騒音が大きいときはゲイン特性306を選択すればよい。このように、本実施の形態によれば、聴取者は、周囲の騒音の状況に応じてゲイン特性301〜306を選択して、効果的に騒音を低減して聴取できる。
上記実施の形態における説明では、デジタルフィルタ41、76はバンドパス特性を有するものとしたが、デジタルフィルタ41、76をローパス特性、あるいはハイパス特性とすることもできる。即ち、スピーカ44やマイク46はハイパス特性を有しており、またローパスフィルタ43がフィードバックループ内の要素として備わっているので、これらの特性を利用することにより、デジタルフィルタ41、76をローパス特性、あるいはハイパス特性としてもトータルとしてバンドバス特性を得ることができる。この場合、ローパス特性、あるいはハイパス特性としたデジタルフィルタ41、76のゲイン特性、位相特性を調整することにより、上記実施の形態と同様に制御系の安定を図ることになる。
以上、具体的な実施の形態によって本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で変更して実施することができることは言うまでもない。