JP4558572B2 - 高耐熱性モリブデン合金およびその製造方法 - Google Patents

高耐熱性モリブデン合金およびその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、高温構造材料および部品材料、とくに高温加熱炉やHIP装置の発熱体および反射板(熱遮蔽板)、各種ランプや電子管の構成部品、セラミックス、MIM(金属射出成形)部品および希土類磁石などの焼成用敷板などに好適な耐熱性に優れた長大結晶粒の積層組織を有するモリブデン合金とその製造方法に関する。
純モリブデン(Mo)加工材を約1000℃以上の高温で使用すると粗大な等軸粒の再結晶組織となるために、自重や負荷重で変形したり、室温での衝撃などで割れたりするといった問題がある。たとえば、Mo加工材を発熱体に使用すると粒界すべりにより大きな変形が生じ断線したり、隣接する発熱体に接触することで短絡し溶断したりする。
炉の熱遮蔽に用いられる反射板に使用した場合も大きな変形によって隣接する反射板に接触し熱遮蔽の効果が小さくなるなど、炉のトラブルの原因となっている。
焼成用敷板に使用した場合もまた、敷板の変形により被焼成物が変形してしまい、良品歩留の低下をもたらし生産性が低下するといった問題がある。
これらの材料の使用中の変形の問題は、発熱体や反射板、焼成用敷板だけでなく、約1000℃以上の高温で使用され、とくに高温耐変形性が要求されるほかの用途においても同様で解決すべく重要な課題である。
純Moに比べ、高温で使用しても変形しにくい材料として、Al、Si、Kの組み合わせや希土類酸化物を添加し、それぞれKのバブルやLaなどの希土類酸化物粒子を分散させ、鍛造や圧延などの高加工率の塑性加工を施し、そのあとの使用中の再結晶等も含む再結晶処理によって加工方向に著しく伸びた長大結晶粒が積層した組織のMo材料が提案されている(例えば、特許文献1乃至5、参照)。
そのなかで、特許文献1及び特許文献2には、MoにAl、Si、Kの元素のうちの一種又は二種類以上を0.005〜0.15重量(質量)%含み、加工率85%以上に減面加工した後、再結晶処理を施して長大結晶粒の積層組織にした材料が提案されている。
また、特許文献3及び特許文献4には、MoにAl、Si、Kの1種又は2種以上を0.005〜0.15重量(質量)%およびLa、Ce、Y、Th、Ti、Zr、Nb、Hf、V、Mo、Wの酸化物、炭化物、硼化物、あるいは窒化物の一種又は二種以上を0.3〜3%含むドープMo焼結体を加工率で85%以上の鍛造又は圧延加工等の減面加工した後、再結晶処理(以下、第2の工程と呼ぶ)し、長大結晶粒の積層組織にし分散強化を付加した材料の製造方法、並びに第2の工程の前に加工率45%以上の減面加工し再結晶処理する工程(以下、第1の工程と呼ぶ)を設けることで前記材料の組織ばらつきを改善した材料の製造方法が提案されている。
さらに、特許文献5には、長大結晶粒の積層組織を有した高融点金属からなる耐クリープ性合金で、粒径1.5μm及び融点1500℃以上の化合物一種又は数種及び/又はこれらの化合物の混合物層一種又は数種0.005〜10重量(質量)%を含み、焼結体に85%以上の変形度を付与したのち、最後に再結晶処理することによって、耐クリープ性を一層改良しうることが提案されている。とくに、好ましい分散材として、La、Y、Th、Mg、Ca、Sr、Hf、Zr、Er、Ba、Pr、Crの群から選択される一種又は数種の元素の酸化物及び/又は混合酸化物を挙げている。
上記の特許文献1乃至5によれば、添加物の組成や量を種々制限したり、塑性加工後に再結晶処理を入れたりすることで、長大結晶粒の積層組織に制御することが示されている。しかしながら、いずれの場合においても、85%以上の高加工率の塑性加工を必須としている。すなわち、特許文献1乃至5に開示された技術においては、85%未満の低加工率の塑性加工では目標の組織や高温特性を有した材料が得られない。さらに、特許文献3の第3頁左欄第37行〜第40行の記載のように、85%以上の高加工率であっても組織や高温強度にばらつきのある材料が製造される可能性もあるので、加工率を重要制御因子とした組織制御法では充分な高温特性を有した長大結晶粒の積層組織の材料が得られないという技術的課題がある。
一般的に、塑性加工の量(即ち、加工率)を主として組織制御した長大結晶粒の積層組織の材料は組織の異方性が大きい。つまり、加工方向に対して平行な断面は長大結晶粒であるが、垂直な断面では少し扁平な結晶粒である。したがって、この大きな組織異方性のため、とくに板材の場合、焼成用敷板として使用すると圧延方向に平行に大きく変形するといった問題があった。さらに、この使用中の変形問題だけでなく、たとえば、板材をボート状などに曲げ加工をする際にも圧延方向に平行な方向に割れが生じて所定の形状にならないといった製造上の問題もあった。
以上のように、塑性加工の量(加工率)を主とした組織制御法では、組織ばらつき、組織異方性、及び高温特性等の材料の品質が安定しにくいのが実情である。
特公昭61−27459号公報 特開昭59−150071号公報 特公平6−17556号公報 特公平6−17557号公報 特許第2609212号公報 特開2003−293070号公報 特開平7−54093号公報
そこで、本発明の一技術的課題は、高加工率の塑性加工が主の制御因子でない新しい組織制御法による、組織の異方性の少ない、高温耐変形性に優れた長大結晶粒の積層組織を有する高耐熱性モリブデン合金を提供することにある。
また、本発明の他の技術的課題は、さらに、その製造方法を提供することにある。
本発明者らは、先に、炭化物、酸化物や硼化物の微細粒子を少なくとも1種が分散析出しており、かつ窒化物形成元素(Ti、Zr、Hf、V、Nb、Taなど)を固溶したMo合金加工材を段階的に加熱温度を上昇させた多段階内部窒化処理を行うことによって、複数種の粒子分散による複合分散強化とともに、これらの微細粒子のMo結晶粒界移動の阻止効果による再結晶の制御により高強度・高靭性Mo合金加工材が得られることを見出した(特許文献6、参照)。
この材料は、多段階内部窒化処理によって、少なくとも表面は加工組織で内部は等軸粒組織の2層構造組織、あるいは内部までも加工組織になるように組織制御し、低温靭性や高温強度を改善した材料である。
この材料の高温耐変形性が比較的優れていることは公知である。しかしながら、再結晶温度以上の温度では変形しやすく、また、再結晶温度以下の温度であっても従来技術による長大結晶粒の積層組織の材料に比べると高温耐変形性に劣るという欠点があった。
一般に、粒子分散合金は分散した粒子のピン止め効果によって粒界移動を抑制し組織の微細化に寄与する反面、ある特定の結晶粒を異常に粗大化させる異常粒成長を起こす可能性がある。これは、分散粒子による正常粒成長の抑制効果と高温焼鈍による分散粒子の分解・消滅などによって結晶粒界のピン止め効果が弱まることによるものと考えられる。したがって、先の発明等の材料も何らかの形で異常粒成長を起こすことができれば、長大結晶粒の積層組織を形成させ高温耐変形性を改善し前記課題を克服できる可能性がある。
本発明者らは、上記課題を解決するために、先の発明(特許文献6)をさらに鋭意開発研究を継続した結果、窒化物形成元素(Ti、Zr、Hf、V、Nb、Taなど)を固溶し、あるいはさらに炭化物粒子、酸化物粒子、硼化物粒子が分散したMo合金加工材を多段階内部窒化処理し複数種の微細粒子を分散させてMo結晶粒界移動を阻止させたあとに、高温真空中で再結晶熱処理し窒化物粒子を分解させ異常粒成長を起こさせることによって、塑性加工方向に平行な断面だけでなく、垂直な断面においても長大結晶粒が形成できることを見出し、本発明に到達したものである。
即ち、本発明によれば、Ti、Zr、Hf、V、Nb、及びTaの窒化物形成金属元素の内の少なくとも1種を0.1質量%以上5.0質量%以下固溶し、あるいはさらに炭化物粒子、酸化物粒子、硼化物粒子の少なくとも1種が分散しているモリブデン合金加工材を、窒素、アンモニアガス、フォーミングガスの内の少なくとも1種を含む窒化雰囲気中において、再結晶開始温度以下の温度で段階的に昇温させて連続的に内部窒化し、且つ前記再結晶開始温度は各内部窒化段階で処理する加工材各々の再結晶開始温度とし、前記内部窒化の後に、最終内部窒化温度以上の温度で真空中で再結晶熱処理することによって形成させた長大結晶粒の積層組織を有するモリブデン合金であって、その長大結晶粒の短軸の平均長さが50μm以上500μm以下であり、短軸の平均長さに対する長軸の平均長さの比が10以上であることを特徴とする高耐熱性モリブデン合金が得られる。
また、本発明によれば、前記高耐熱性モリブデン合金において、その合金全体が前記長大結晶粒の積層組織であることを特徴とする高耐熱性モリブデン合金が得られる。
また、本発明によれば、前記高耐熱性モリブデン合金において、少なくとも表面領域が加工組織であり、その加工組織の厚さ方向(板材の場合は板厚、線棒材の場合は直径)に占める領域が厚さの40%以下であることを特徴とする高耐熱性モリブデン合金が得られる。ここで、本発明において、加工組織の厚さ方向とは、板材の場合は板厚、線棒材の場合は直径方向を言う。
また、本発明によれば、前記いずれか1つの高耐熱性モリブデン合金において、高温強度を向上させるためにさらに内部窒化を施し、微細な窒化物粒子が析出分散していることを特徴とする高耐熱性モリブデン合金が得られる。
また、本発明によれば、前記いずれか1つの高耐熱性モリブデン合金を製造する方法であって、(a)Ti、Zr、Hf、V、Nb、Taの窒化物形成金属元素の少なくとも1種を0.1質量%以上5.0質量%以下固溶し、あるいはさらに炭化物粒子、酸化物粒子、硼化物粒子の少なくとも1種が分散析出しているモリブデン合金加工材を、窒素、アンモニアガス、フォーミングガスの内の少なくとも1種を含む窒化雰囲気中において、再結晶開始温度以下の温度で段階的に昇温させて連続的に内部窒化させ、且つ前記再結晶開始温度は各内部窒化段階で処理する加工材各々の再結晶開始温度とする工程と、(b)前段の内部窒化で得られたモリブデン合金を、最終内部窒化温度以上の温度で真空中で再結晶熱処理する工程と、を含み、長大結晶粒の積層組織を形成させることを特徴とする高耐熱性モリブデン合金の製造方法が得られる。
また、本発明によれば、前記高耐熱性モリブデン合金を製造する方法であって、(a)Ti、Zr、Hf、V、Nb、Taの窒化物形成金属元素の少なくとも1種を0.1質量%以上5.0質量%以下固溶し、あるいはさらに炭化物粒子、酸化物粒子、硼化物粒子の少なくとも1種が分散析出しているモリブデン合金加工材を、窒素、アンモニアガス、フォーミングガスの内の少なくとも1種を含む窒化雰囲気中において、再結晶開始温度以下の温度で段階的に昇温させて連続的に内部窒化し、且つ前記再結晶開始温度は各内部窒化段階で処理する加工材各々の再結晶開始温度とする工程と、(b)前段の内部窒化で得られたモリブデン合金を、最終内部窒化温度以上の温度で真空中で再結晶熱処理する工程と、(c)再度、窒素、アンモニアガス、フォーミングガスの内の少なくとも1種を含む窒化雰囲気中において900℃以上2000℃以下の温度で内部窒化し、モリブデン中に固溶した窒化物形成金属元素を再析出させ高温強度を向上させる工程を含むことを特徴とする高耐熱性モリブデン合金の製造方法が得られる。
本発明は、高温耐変形性の優れた長大結晶粒の積層組織を有するMo合金からなり、その合金を製造するために高加工率の塑性加工を必要としなくても良いという、従来の技術からはまったく予想し得なかった着想に基づくものである。
また、本発明で得られるMo合金は組織の異方性が従来の材料に比べて極端に少ないという、従来の技術からは成し得ることができなかった技術に基づくものである。
本発明によれば、長大結晶粒の積層組織を有するMo合金を、従来技術では成しえなかった低い加工率で製造することができる。このMo合金は組織異方性が少なく、特性(とくに高温耐変形性や高温強度)や曲げ加工性に優れ、かつ組織異方性の影響も少ない。
以下、本発明の高耐熱性モリブデン合金についてさらに、具体例に説明する。
Ti、Zr、Hf、V、Nb、Taの窒化物形成金属元素の少なくとも1種を固溶したMo合金加工材は、上記特許文献6などに記載されているように、窒化物形成金属元素、あるいはその水素化物や炭化物などの状態の粉末を添加したMo粉末を、公知の方法で圧縮成形し水素焼結後圧延などの塑性加工をすることによって製造することができる。この場合、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Taの窒化物形成金属元素の少なくとも1種は0.1質量%以上5.0質量%以下固溶しているほうが好ましい。
ここで、窒化物形成金属元素を0.1質量%以上5.0質量%以下と限定したのは、0.1質量%未満では、内部窒化したあとに高温真空熱処理しても異常粒成長しにくく、長大結晶粒の積層組織を形成しにくいためである。また、5.0質量%を超えると、鍛造や圧延などの塑性加工で割れが多発し歩留まりが悪く生産性に劣るからである。さらに、たとえ合金加工材が得られても内部窒化したあとに高温真空熱処理しても異常粒成長しにくく粗大な等軸粒組織を形成する場合もあり安定して目的の組織が得られないからである。
また、炭化物粒子、酸化物粒子、硼化物粒子の少なくとも1種が分散析出しているMo合金加工材も公知の製造方法で製造できる。たとえば、Mo−TiCなどの炭化物粒子分散合金(特許文献5)は、Mo粉末に炭化物粉末を添加し、遊星型ボールミルでメカニカルアロイングしたのちHIPで緻密化し鍛造、圧延などの塑性加工することによって製造することができる。Mo−Laなどの酸化物粒子分散合金(例えば、特許文献7、参照)は、MoO粉末に硝酸ランタンを加え、乾燥後水素還元したのちCIP、水素焼結、熱間圧延することによって製造することができる。
窒化物形成金属元素が固溶して炭化物粒子などが分散したMo合金加工材は、TZM合金やTZC合金などに代表されるように、アーク溶解あるいは粉末冶金によるインゴットを熱間押出・鍛造・圧延する熱間加工プロセスによって製造することができる。
以上のように製造される内部窒化処理前のMo合金加工材は、従来技術のように85%以上の加工率でなくても、最終的に長大結晶粒の積層組織を問題なく形成することができる。但し、加工組織(Mo結晶粒や亜結晶粒)の長さや再結晶の駆動力(加工歪み)が大きいほど長大結晶粒の積層組織が得られやすく組織の異方性も少なくできることや、最終製品の密度などが高いほど材料的には良いことを考慮すると、加工率は少なくとも50%は必要である。したがって、従来技術の85%以上の加工率であってもなんら問題ない。
内部窒化処理は、得られたMo合金加工材の再結晶開始温度以下の比較的低い温度から段階的に温度を上昇させて行う(特許文献6)。この場合、二次窒化以降の各段階でおける窒化処理温度も、供されるMo合金加工材の再結晶開始温度以下が好ましい。たとえば、TZM合金の場合は内部窒化前の再結晶温度1300℃であるので、最初の内部窒化(一次窒化)を1150℃で64時間(h)、引き続きの内部窒化(二次窒化)を1200℃で25h行うと良い。二次窒化したTZM合金の再結晶温度は1400℃になるのでそのあとの三次窒化は、たとえば1300℃で25hで行うと良い。三次窒化したTZM合金のそのあとの四次窒化は、たとえば1600℃で25h行うと良い。
内部窒化の雰囲気は、窒素ガス、アンモニアガス、フォーミングガスで良い。このときの処理時間は材料の大きさによって適宜設定すればよいが、HIPなどの加圧処理をすることで処理時間を短縮することもできる。
以上のように、内部窒化処理によって微細な窒化物粒子が析出分散した加工組織を有するMo合金加工材を得ることができる。この場合、最終的に組織ばらつきが少ない長大結晶粒の積層組織を形成させるためには、内部窒化処理した材料において、板厚や線棒径の中心まで加工組織が維持できていることが望ましい。但し、中心部分の一部に等軸粒組織が形成されていても高温耐変形性にとくに問題ない。たとえば、板厚1mm以下の材料の場合は等軸粒組織の厚さを10%以下でも良い。なお、板厚の厚い場合は内部窒化処理に時間がかかることや、板厚全体が長大結晶粒の積層組織でなくても従来材料に比べて高温耐変形性が少しでも良ければよいとのことから、等軸粒組織の厚さは、たとえば、板厚3mm以下の材料の場合は30%以下、板厚5mm以下の材料の場合は50%以下、板厚5mmを超える場合は70%以下でも良い。
得られた内部窒化処理したMo合金の再結晶熱処理は、本発明において、長大結晶粒の積層組織を形成させるためにはとくに重要である。その再結晶熱処理のための雰囲気は、真空中、不活性ガス(アルゴン)中、還元ガス(水素)中でも良いが、好ましくは、真空中での処理の方が析出物を分解させやすく、すなわち長大結晶粒の積層組織を形成させやすくて良い。さらに好ましくは、真空中でも10−1Pa以下の圧力が良い。10−1Paより高いと析出した窒化物粒子が酸化物粒子に変化して、逆に析出粒子が安定し消失しにくいためである。
再結晶熱処理の温度は少なくとも先に施した内部窒化処理温度と同じ温度以上にする必要がある。好ましくは、内部窒化処理温度+300℃以上の温度で再結晶熱処理することで材料全体にわたり長大結晶粒の積層組織を形成できる。この場合、従来材に比べて異方性が少ない長大結晶粒の積層組織を形成でき、その長大結晶粒の短軸の平均長さが50μm以上500μm以下であり、短軸の長さに対する長軸の長さの比が10以上となる。
内部窒化処理温度〜内部窒化処理温度+300℃までの温度での再結晶熱処理では、表面の一部が加工組織で、内部が長大結晶粒の積層組織となる。この場合、残存した加工組織の厚さ方向に占める領域は厚さの40%以下にする必要がある。40%を超えると、加工組織の割合が多くなり、いくら内部に長大結晶粒の積層組織が形成していても、粒界すべりが生じやすく高温使用中で変形しやすいためである。
即ち、以上によって、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Taの窒化物形成金属元素の少なくとも1種を0.1質量%以上5.0質量%以下固溶し、あるいはさらに炭化物粒子、酸化物粒子、硼化物粒子の少なくとも1種が分散しているMo合金加工材において、内部窒化したあとに再結晶処理を施すことによって形成させた長大結晶粒の積層組織を有するMo合金であって、その長大結晶粒の短軸の平均長さが50μm以上500μm以下であり、短軸の長さに対する長軸の長さの比が10以上である高耐熱性Mo合金、その合金全体が長大結晶粒の積層組織である高耐熱性モリブデン合金、並びに、前記高耐熱性Mo合金の少なくとも表面領域が加工組織であり、その加工組織の厚さ方向(板材の場合は板厚、線棒材の場合は直径)に占める領域が厚さの40%以下である高耐熱性Mo合金を得ることができる。これら高耐熱性Mo合金は、後述する具体例で示すように、特に高温耐変形性に優れる。
この高温耐変形性に優れた長大結晶粒の積層組織を有する高耐熱性Mo合金は、さらに内部窒化することによって微細な窒化物粒子を再析出させることができる。なお、この内部窒化は前出のような、とくに多段階による処理を必要としない。この内部窒化処理の温度は900℃以上2000℃以下が好ましい。ここで、900℃以上と限定したのは、900℃未満でも窒化できるが処理にかなり時間を要し効率が非常に悪いためである。さらに、2000℃以下と限定したのは、2000℃を超える温度でも同様に窒化することができるが、高温のため窒化炉などの装置への負担が多かったり、現実に処理する必要性がないからである。より好ましくは、1400〜1800℃である。
この再内部窒化処理において、(1)900〜1200、1300℃の温度では直径0.05μm以下、厚さ0.01μm以下の円板状の窒化物粒子が、(2)1200、1300〜2000℃の温度では直径は0.2μm以下、直径に対する長さの比が2以上の棒状の窒化物粒子が、析出分散した高耐熱性Mo合金を得ることができる。この微細な窒化物粒子が析出分散した長大結晶粒の積層組織を有するMo合金は、高温耐変形性だけでなく、後述の製造例で示すように、高温強度にも優れる。
以下、本発明の具体例について図面を参照して説明する。
(例1)
平均粒径4μmのMo粉末に0.1〜6.0質量%のTi粉末を添加、混合したのち、200MPaで静水圧プレスし1800℃で10hの水素焼結をした。得られた焼結体を熱間圧延および冷間圧延を施し厚さ1mmの板材とした。加工率(=(焼結体の厚さ−板材の厚さ)/焼結体の厚さx100)は98%である。
この圧延材をNガス中で、1150℃−25h(一次窒化)、1200℃−25h(二次窒化)、1300℃−25h(三次窒化)、1600℃−25h(四次窒化)と順次温度を上げて板材全体にわたり内部窒化処理を施し、Mo−0.1〜6.0質量%Ti合金の窒化材を作製した。
得られた窒化材を10−3Paの真空中1900℃x1hで再結晶熱処理したのち、圧延方向に平行な断面(TD面)および垂直な断面(RD面)の組織形態を光学顕微鏡で観察した。観察方法は写真上に任意の直線を引き、線状にかかった結晶粒の短軸および長軸の長さを測定し、短軸の平均長さに対する長軸の平均長さ、すなわちアスペクト比を評価した。アスペクト比は2未満を「等軸粒」、2以上5未満を「扁平粒」、5以上10未満を「伸長粒」、10以上を「長大粒」とした。その結果を表1に示す。本発明の材料(No.1〜5)はTD面、RD面とも「長大粒」で組織の異方性が少なかった。これらの結晶粒の短軸の長さは50〜500μmの範囲であった。そして、合金全体はこれらの長大粒の積層組織をなしていた。以下の説明において、本発明の合金全体は長大結晶粒の積層組織からなるので、この記載については、省略する。
比較例の材料(No.6、7)では、TD面,RD面とも「等軸粒」であった。さらに、No.7の材料は加工性も悪かった。一方、従来材料(No.8)においては、TD面は「長大粒」であったが、RD面は「扁平粒」であった。
以上のように、従来材料では大きな異方性のある材料であったが、本発明の材料では、組織異方性の少ない材料であった。本発明の技術によって、組織異方性を少なくすることが可能になった。
Figure 0004558572
(例2)
上記例1と同様な方法で、厚さ1mmのTi以外の窒化物形成金属元素を固溶したMo合金の板材を作製した。加工率は98%である。得られた圧延材を、例1と同様な方法で、内部窒化処理および再結晶熱処理を施し、組織形態を観察した。その結果を下記表2に示す。
本発明の材料(No.9〜13)はTD面、RD面とも「長大粒」で組織の異方性が少なかった。Ti以外の窒化物形成金属元素(Zr,Hf,V,Nb,Ta)でもTi添加の場合と同様、本発明の技術によって、組織異方性を少なくできることが確認された。
Figure 0004558572
(例3)
例3では、Ti以外の窒化物形成金属元素を2種以上固溶のMo合金についても検討したところ、本発明の技術によって、組織異方性を少なくできることも確認できた。即ち、上記例1と同様な方法で、厚さ1mmの窒化物形成金属元素を2種以上固溶、あるいはさらに炭化物粒子、酸化物粒子、硼化物粒子が分散したMo合金の板材を作製した。加工率は98%である。得られた圧延材を、例1と同様な方法で、内部窒化処理および再結晶熱処理を施し、組織形態を観察した。その結果を下記表3に示す。本発明の材料(No.14〜24)はTD面、RD面とも「長大粒」で組織の異方性が少なかった。
Figure 0004558572
(例4)
上記例1と同様な方法で、種々の厚さのMo−1質量%Ti合金の板材を作製した。加工率は50〜98%とした。なお、厚さ1mm以外の板材は熱間圧延のみで仕上げた。得られた圧延材を、上記例1と同様な方法で、内部窒化処理および再結晶熱処理を施し、組織形態を観察した。その結果を表4に示す。本発明の材料は従来技術の加工率85%以上(No.3、25、26)は勿論、従来技術では成しえなかった低い加工率(No.29、30)でも、本発明によれば、TD面,RD面ともに「長大粒」(No.27、28)を示し、組織異方性の少ない材料を得ることができた。即ち、本発明によれば、従来技術では製造することができなかった厚い材料も製造することが可能であることが確認できた。
Figure 0004558572
(例5)
上記例1と同様な方法で、厚さ1mmのMo−1質量%Ti合金の板材を作製した。加工率は98%である。得られた圧延材を例1と同様な方法で内部窒化処理を施したのち、10−3Paの真空中1600あるいは1800℃で1hの再結晶熱処理を施した。その結果を下記表5に示す。1600および1800℃の再結晶熱処理では、表面が加工組織で、内部が長大粒組織であった。その加工組織の領域は、それぞれ板厚の40%および20%であった。TD面とRD面の「長大粒」の組織の異方性は少なかった。
Figure 0004558572
(例6)
上記例1〜5で作製した厚さ1mmの代表的な板材について高温耐変形性を調べた。高温耐変形性は、幅20mm、長さ150mmの試験片を支点間距離100mmで両端支持し、試験片中央に150gの荷重を負荷しながら水素気流中1350および1800℃で10h保持した後の試験片中央部の変形量により評価した。ここで、組織の異方性の影響をみるために、試験片の長手方向が圧延方向に平行(RD)および垂直(TD)の両方を試験した。その結果を表6に示す。なお、図2は板圧延方向と試験片の採取方向の関係を示す図である。図2に示すように、板材1の圧延方向7に直交する断面をRD面4、圧延方向7に沿う断面をTD面6とし、TD試験片5は、長手方向が板材1の圧延方向8に直交するように採取し、RD試験片6は、長手方向が圧延方向9に平行となるように採取した。
本発明材料(No.1、3、5、9、15、22、24、31、32)は、圧延方向に平行方向(RD)は勿論、垂直方向(TD)でも変形が少なく優れた高温耐変形性を示した。また、表面の一部が加工組織(No.31、32)であっても高温耐変形性にとくに問題がなかった。一方、従来材料(No.8)では圧延方向に平行方向(RD)では優れた高温耐変形性を示したが、垂直方向(TD)では若干変形した。このように、圧延方向に平行な断面および垂直な断面において、結晶粒のアスペクト比が10以上で組織異方性の少ない長大粒組織の材料にすることによって、高温耐変形性の優れた材料とすることが可能となった。
さらに、本発明材料のNo.22および従来材料のNo.8について、厚さ1mm、幅300mm、長さ300mmの板材を準備し、直径20mmの支柱で9点支持し、板上に等分布荷重(総荷重3kg)を負荷し1350℃で100h保持し、実装評価により高温耐変形性を評価した。
従来材料の場合はとくに圧延方向に平行な方向に大きく変形(最大1mm)したが、本発明材料の場合は最大0.5mmとほとんど変形しなかった。
Figure 0004558572
(例7)
前述した本発明材料No.22の再結晶熱処理材をN中1600℃で1hの内部窒化処理を施した。上記例6記載の高温耐変形性を調べたところ、RD、TDいずれの方向においても、また、1350℃、1800℃いずれの温度においても、変形量は≦0.1mmで優れた高温耐変形性を示した。この材料の高温強度を次に示す3点曲げ試験で調べた。即ち、幅2.3mm、長さ18mmの試験片(長さ方向が圧延方向に平行(RD))とし支点間距離11mmで両端支持し、10−3Paの真空中1500℃でクロスヘッド速度0.2mm/minで試験した。なお、比較材料として、No.8の従来材料を用いた。その結果を図1に示す。長大結晶粒の積層組織を形成したあとに再度窒化処理した本発明材料(No.22)の強度は約280MPaで、従来材料No.8の強度(約40MPa)の約7倍であった。
この結果、長大結晶粒の積層組織を形成させたあとに再度窒化処理することで、高温耐変形性を維持したまま、高温強度を著しく向上できることが確認できた。
また、窒化処理温度を900〜2000℃の範囲でも行ったところ、本発明材料は従来材料の約2〜10倍の高温強度を有していることが確認できた。
(例8)
本発明材料のNo.22および従来材料のNo.8の再結晶熱処理材(厚さ1mm、幅300mm、長さ300mm)について、プレスブレーキによるボート状への曲げ加工テストを行った。パンチ先端R0.8mmで、ダイV幅8mmである。
本発明材料の場合は圧延方向に平行および垂直方向、いずれにおいても割れが生じることもなく曲げることができた。これに対し、従来材料の場合は垂直方向には曲げることができたが、平行方向では割れが生じた。板材をボート状などに曲げ加工する際、従来材料の場合は、圧延方向に対して平行な曲げ加工で、割れるといった問題があったが、本発明により方向性に関係なく曲げ加工することが可能なことを確認した。
(例9)
板材の他に線棒材にも本発明が適用できることについて説明する。
平均粒径4μmのMo粉末に1.0質量%のTi粉末を添加、混合したのち、200MPaで静水圧プレスし1800℃で10hの水素焼結をした。得られた焼結体を孔圧延加工、転打加工、線引加工を施し直径1mmの棒材とした。この棒材を上記例1と同様な内部窒化処理および再結晶熱処理を施した。組織形態を光学顕微鏡で観察したところ、加工方向に平行な断面(TD面)は「長大粒」であった。
この本発明材料をU字状に加工を施しヒータ形状とし、真空中1500℃で100hの実装評価を行ったところ、使用前とほとんど形状が変化しておらず、優れた高温耐変形性があることが分かった。
このMo合金は、発熱体および反射板(熱遮蔽板)、焼成用敷板などの高温耐変形性が要求される用途に有利に利用され得る。
長大結晶粒の積層組織の材料とそのあとに再窒化処理した材料の1500℃における曲げ試験結果を示す図である。 本発明の例7及び例8の試験片再取方向を示す図である。
符号の説明
1 板材
2 圧延ロール
3 TD面
4 RD面
5 TD試験片
6 RD試験片
7,8,9 圧延方向

Claims (6)

  1. Ti、Zr、Hf、V、Nb、及びTaの窒化物形成金属元素の内の少なくとも1種を0.1質量%以上5.0質量%以下固溶し、あるいはさらに炭化物粒子、酸化物粒子、硼化物粒子の少なくとも1種が分散しているモリブデン合金加工材を、窒素、アンモニアガス、フォーミングガスの内の少なくとも1種を含む窒化雰囲気中において、再結晶開始温度以下の温度で段階的に昇温させて連続的に内部窒化し、且つ前記再結晶開始温度は各内部窒化段階で処理する加工材各々の再結晶開始温度とし、前記内部窒化の後に、最終内部窒化温度以上の温度で真空中で再結晶熱処理することによって形成させた長大結晶粒の積層組織を有するモリブデン合金であって、その長大結晶粒の短軸の平均長さが50μm以上500μm以下であり、短軸の平均長さに対する長軸の平均長さの比が10以上である
    ことを特徴とする高耐熱性モリブデン合金。
  2. 請求項1に記載の高耐熱性モリブデン合金において、その合金全体が前記長大結晶粒の積層組織であることを特徴とする高耐熱性モリブデン合金。
  3. 請求項1記載の高耐熱性モリブデン合金において、少なくとも表面領域が加工組織であり、その加工組織の厚さ方向に占める領域が厚さの40%以下であることを特徴とする高耐熱性モリブデン合金。
  4. 請求項1乃至3の内のいずれか1に記載の高耐熱性モリブデン合金において、高温強度を向上させるためにさらに内部窒化を施し、微細な窒化物粒子が析出分散していることを特徴とする高耐熱性モリブデン合金。
  5. 請求項1乃至3の内のいずれか1項に記載の高耐熱性モリブデン合金を製造する方法であって、
    (a)Ti、Zr、Hf、V、Nb、Taの窒化物形成金属元素の少なくとも1種を0.1質量%以上5.0質量%以下固溶し、あるいはさらに炭化物粒子、酸化物粒子、硼化物粒子の少なくとも1種が分散析出しているモリブデン合金加工材を、窒素、アンモニアガス、フォーミングガスの内の少なくとも1種を含む窒化雰囲気中において、再結晶開始温度以下の温度で段階的に昇温させて連続的に内部窒化し、且つ前記再結晶開始温度は各内部窒化段階で処理する加工材各々の再結晶開始温度とする工程と、
    (b)前段の内部窒化で得られたモリブデン合金を、最終内部窒化温度以上の温度で真空中で再結晶熱処理する工程と、
    を含み、長大結晶粒の積層組織を形成させることを特徴とする高耐熱性モリブデン合金の製造方法。
  6. 請求項4に記載の高耐熱性モリブデン合金の製造方法であって、
    (a)Ti、Zr、Hf、V、Nb、Taの窒化物形成金属元素の少なくとも1種を0.1質量%以上5.0質量%以下固溶し、あるいはさらに炭化物粒子、酸化物粒子、硼化物粒子の少なくとも1種が分散析出しているモリブデン合金加工材を、窒素、アンモニアガス、フォーミングガスの内の少なくとも1種を含む窒化雰囲気中において、再結晶開始温度以下の温度で段階的に昇温させて連続的に内部窒化し、且つ前記再結晶開始温度は各内部窒化段階で処理する加工材各々の再結晶開始温度とする工程と、
    (b)前段の内部窒化で得られたモリブデン合金を、最終内部窒化温度以上の温度で真空中で再結晶熱処理する工程と、
    (c)再度、窒素、アンモニアガス、フォーミングガスの内の少なくとも1種を含む窒化雰囲気中において900℃以上2000℃以下の温度で再内部窒化し、モリブデン中に固溶した窒化物形成金属元素を再析出させ高温強度を向上させる工程とを含むことを特徴とする高耐熱性モリブデン合金の製造方法。
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