近年、IEEE802.11並びにIEEE802.15に代表される無線LANやPANに関する研究開発が盛んに行なわれている。IEEE802.11aでは、最大で54Mbpsの通信速度を達成する変調方式をサポートしている。しかし、通信速度として、さらなる高ビットレートを実現できる無線規格が求められている。そこで、IEEE802.11nでは、実効スループットで100MBPSを越える高速な無線LAN技術の開発を目指し、次世代の無線LAN規格を策定している。
無線通信の高速化を実現する技術の1つとしてMIMO(Multi−Input Multi−Output)通信が注目を集めている。これは、送信機側と受信機側の双方において複数のアンテナ素子を備え、空間多重した伝送路(以下、「MIMOチャネル」とも呼ぶ)を実現することにより、伝送容量の拡大を図り、通信速度向上を達成する技術である。MIMO通信は、空間多重を利用するので、周波数利用効率はよい。
MIMO通信方式は、送信機において複数のアンテナに送信データを分配し、複数の仮想的なMIMOチャネルを利用して伝送し、受信機では複数アンテナにより受信した信号から信号処理によって受信データを得るという、チャネルの特性を利用した通信方式であり、単なる送受信アダプティブ・アレーとは相違する。MIMO通信によれば、周波数帯域を増大させることになく、アンテナ本数に応じて通信容量を増やすことができるので、周波数利用効率がよい。
図11には、MIMO通信システムの構成を概念的に示している。同図に示すように、送受信機各々に複数のアンテナが装備されている。送信側では、複数の送信データを空間/時間符号して多重化しM本のアンテナに分配して、複数のMIMOチャネルに送出し、受信側では、チャネル経由でN本のアンテナにより受信した受信信号を空間/時間復号して受信データを得ることができる。この場合のチャネル・モデルは、送信機周りの電波環境(伝達関数)と、チャネル空間の構造(伝達関数)と、受信機周りの電波環境(伝達関数)で構成される。各アンテナから伝送される信号を多重する際、クロストーク(Crosstalk)が発生するが、受信側の信号処理により多重化された各信号をクロストーク無しに正しく取り出すことができる。
送信機は、多重化信号を送出する前に、受信機側でチャネル推定を行なうためのトレーニング信号を、例えばアンテナ毎に時分割で送信する。これに対し、受信機では、チャネル推定部でトレーニング信号を利用してチャネル推定を行ない、各アンテナ対に対応したチャネル情報行列Hを算定する。そして、得られたチャネル情報行列Hの逆行列H-1に基づいて受信用の重みを求める。
このような受信重みのトレーニングが行なわれた後、送信機は、複数の送信データを空間/時間符号して多重化しM本のアンテナに分配して、複数のMIMOチャネルに送出し、受信側は、チャネル経由でN本のアンテナにより受信した受信信号を、空間/時間復号し、MIMOチャネル毎の受信データに空間分離する。各アンテナから伝送される信号を多重する際にはクロストーク(Crosstalk)が発生するが、受信側ではチャネル情報行列Hの逆行列H-1から得られた受信用重みを用いて適切な信号処理を施すことにより、空間多重された各信号をクロストーク無しに正しく取り出す、すなわちSN比を向上させ復号の確度を高めることができる訳である。
MIMO伝送を構成方法としてはさまざまな方式が提案されているが、アンテナのコンフィギュレーションに応じていかにしてチャネル情報を送受信間でやり取りするかが実装上の大きな課題となる。
チャネル情報をやり取りするには、既知情報(プリアンブル情報)を送信側から受信側のみ伝送する方法が容易であり、この場合は送信機と受信機が互いに独立して空間多重伝送を行なうことになり、オープンループ型のMIMO伝送方式と呼ばれる。また、この方法の発展形として、受信側から送信側にもプリアンブル情報をフィードバックすることによって、送受信間で理想的な空間直交チャネルを作り出すクローズドループ型のMIMO伝送方式もある。
オープンループ型のMIMO伝送方式として、例えばV−BLAST(Vertical Bell Laboratories Layered Space Time)方式を挙げることができる(例えば、特許文献1を参照のこと)。送信側では、特にアンテナ重み係数行列を与えず、単純にアンテナ毎に信号を多重化して送る。言い換えれば、アンテナ重み係数行列を得るためのフィードバック手続きが一切省略される。送信機は、多重化信号を送出する前に、受信機側でチャネル推定を行なうためのトレーニング信号を、例えばアンテナ毎に時分割で挿入する。これに対し、受信機では、チャネル推定部でトレーニング信号を利用してチャネル推定を行ない、各アンテナ対に対応したチャネル情報行列Hを算定する。そして、Zero−forcingとキャンセリングを巧妙に組み合わせることで、キャンセリングによって生じたアンテナ自由度を活用してSN比を向上させ、復号の確度を高める。
また、クローズドループ型のMIMO伝送の理想的な形態の1つとして、伝播路関数の特異値分解(SVD:Singular Value Decomposition)を利用したSVD−MIMO方式が知られている(例えば、非特許文献1を参照のこと)。
図12には、SVD−MIMO伝送システムを概念的に示している。SVD−MIMO伝送では、各アンテナ対に対応するチャネル情報を要素とした数値行列すなわちチャネル情報行列Hを特異値分解してUDVHを求め、送信側のアンテナ重み係数行列としてVを与えるとともに、受信側のアンテナ重み係数行列としてUHを与える。これによって、それぞれのMIMOチャネルは、各特異値λiの平方根を対角要素に持つ対角行列Dとして表され、全くクロストーク無しに信号を多重化して伝送することができる。この場合、送信機側と受信機側の双方において、空間分割すなわち空間直交多重された論理的に独立した複数の伝送路を実現することができる。SVD−MIMO伝送方式によれば、理論的には最大の通信容量を達成することができ、例えば送受信機がアンテナを2本ずつ持てば、最大2倍の伝送容量が得られる。
ここで、実際のSVD−MIMO送受信システムを構成する場合に考慮しなければならない点について説明しておく。
SVD−MIMO伝送方式の基本形においては、受信機では、取得したチャネル行列Hを特異値分解して、受信用の重みベクトルUHと送信機で使用する送信用の重みベクトルVを求め、このVを送信機側へフィードバックする。そして、送信機では、このVを送信用の重みとして使用する。
ところが、送信機側へフィードバックする送信重み行列Vの情報量が大きいため、Vの情報を間引いて送った場合などに、本当のVの情報との誤差のために、MIMOチャンネル間の直交状態が壊れてしまいクロストークが生じてしまう。
そこで、通常は、受信機側で取得した送信重み行列Vを送信機側へフィードバックした後、送信機はその行列Vを用いてリファレンス信号を重み付けして送信し、受信機側では改めてチャネル行列を取得する。チャネル行列をHとすると、Vで重み付けして送信したリファレンス信号から、受信機は、HVというチャネル行列を得ることができる。
受信機側で、このHVの逆行列を求め、それを受信用の重みとして使用する。H=UDVHであることから、HVは下式の通りとなる。
これは、通常のSVD−MIMOと同じUHを受信用の重みに用いた後、分離された各MIMOチャネルのストリームに、対角行列Dの各対角要素λiから求まる定数をかけるだけである。
送信側で、行列Vを送信用の重みとして使用して、受信機側では、HVの逆行列を受信用の重みを使用するという構成は、通常のSVD−MIMOの性能と同じであり、送信機側と受信機側のVの不一致がない。したがって、実用上はこのような構成を採用することができる。
ところで、室内で無線ネットワークを構築した場合、受信装置では直接波と複数の反射波・遅延波の重ね合わせを受信するというマルチパス環境が形成される。マルチパスにより遅延ひずみ(又は、周波数選択性フェージング)が生じ、通信に誤りが引き起こされる。そして、遅延ひずみに起因するシンボル間干渉が生じる。
主な遅延ひずみ対策として、マルチキャリア(多重搬送波)伝送方式を挙げることができる。マルチキャリア伝送方式では、送信データを周波数の異なる複数のキャリアに分配して伝送するので、各キャリアの帯域が狭帯域となり、周波数選択性フェージングの影響を受け難くなる。
例えば、マルチキャリア伝送方式の1つであるOFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing:直交周波数分割多重)方式では、各キャリアがシンボル区間内で相互に直交するように各キャリアの周波数が設定されている。情報伝送時には、シリアルで送られてきた情報を情報伝送レートより遅いシンボル周期毎にシリアル/パラレル変換して出力される複数のデータを各キャリアに割り当ててキャリア毎に振幅及び位相の変調を行ない、その複数キャリアについて逆FFTを行なうことで周波数軸での各キャリアの直交性を保持したまま時間軸の信号に変換して送信する。また、受信時はこの逆の操作、すなわちFFTを行なって時間軸の信号を周波数軸の信号に変換して各キャリアについてそれぞれの変調方式に対応した復調を行ない、パラレル/シリアル変換して元のシリアル信号で送られた情報を再生する。
例えば、MIMO伝送の適用対象となるLANシステムであるIEEE802.11a/nでは、OFDM変調方式が採用されている。
ここで、OFDM通信機においては、周波数オフセットと位相雑音の問題がある。まず、周波数オフセットの問題について説明する。
一般に、送信機と受信機には、別々にローカルオシレータが搭載されている。そして、送受信機にそれぞれ搭載されている発振器の周波数が微妙に誤差すなわち周波数オフセットを持っている。例えば、無線LANでは20ppm程度の精度の発振器が使用される。そして、このような送受信機のアナログ部分における発振器の誤差は、受信機側のデジタル部分では受信信号の位相の回転という現象として観測される。
無線LANにおける周波数オフセットの対策として、送信機側からの伝送フレーム(若しくはパケット)の先頭(すなわちユーザ・データの前段)に、既知パターンからなるプリアンブルすなわちリファレンス信号が付加される。受信機側ではこのリファレンス信号を利用して同期獲得並びに送信機との周波数オフセットの観測を行ない、周波数のずれに対応してデータの位相を逆回転することにより周波数オフセットの補正が行なわれる。
例えば、周波数オフセット用のリファレンス信号を2つ用意しておく。受信機側では、1つ目のリファレンス信号を共役したものを2つ目のリファレンス信号に乗算することによって生成された信号の位相を観測する。その位相が1つ目のリファレンス信号から2つ目のリファレンス信号までの受信時間で、周波数のオフセットにより生じた位相回転である。このようにして単位時間での位相回転量を取得することができる。この単位時間当たりの位相回転量の逆回転をデータ系列に乗算すれば、周波数オフセットの補償を行なうことができる。
ところが、実際には周波数オフセットの見積もりには誤差があるため、データに対する周波数オフセットの補償を完全には実行できず、残留周波数オフセットがデータに残ったままの受信になってしまう。例えば、ノイズその他の影響により周波数オフセット量の算出において誤差が生じた場合などには誤差が残留する。
OFDM通信システムの場合、受信側でFFTを行なった後のデータは周波数領域のデータになる。周波数オフセットはOFDMシンボル毎にすべてのサブキャリアが一様すなわち同一角度だけ回転するという現象として観測される。図13には、位相空間(コンスタレーション)上でチャネル補正後のサブキャリアと変調点との比を3次元的に表している。残留周波数オフセットは、サブキャリア間干渉が生じるほど大きいものではない。しかしながら、パケット先頭のプリアンブル部分で周波数オフセット補正を行なっているだけなので、OFDMシンボルが進むにつれ、図示のように位相のずれが累積していくため、通信品質を劣化させてしまう。
続いて、OFDM通信機における位相雑音の問題について説明する。
位相雑音は、送受信機のアナログ部のIQ変調部及び復調部の間で発生する位相の雑音のことである。受信機側でFFTした値の周波数領域でのデータで見ると、位相雑音は、OFDMシンボル毎に全サブキャリアがほぼ同一角度だけ位相が回転するという現象として観測することができる。別々のOFDMシンボルでは回転する角度は区々であるが、サブキャリア毎の角度は同一のように観測される。したがって、サブキャリア中のパイロット・サブキャリアを利用して、どの程度回転したかを測定し、その回転量だけ逆回転することにより、データに対する位相雑音の影響を取り除くことができる。
残留周波数オフセットと位相雑音の影響により、OFDMシンボルのすべてのサブキャリアが同一角度だけ位相が回転するが、その回転量はOFDMシンボル毎に異なる。受信機側では、各OFDMシンボルの位相回転量は、OFDMシンボルに付随しているパイロット・サブキャリアを用いて推定することができ、その位相の逆回転をデータ部に与えることで、残留周波数オフセットと位相雑音を補償している。
単一のアンテナを持つ送受信機間で1つの伝送路を用いてデータ伝送を行なうSISO方式では、OFDMのパイロット・サブキャリア(例えば52本のサブキャリア中の4本のパイロット・サブキャリア)を用いて、受信信号の残留周波数推定誤差に対する位相トラックを行ない除去することができる。
また、SISO方式のマルチキャリア通信装置において、バースト先頭部で基準位相・振幅を再生し、検波を行なうシンボルに含まれるパイロット情報と直前の基準位相情報から残留周波数オフセットを推定し、推定された残留周波数オフセットからシンボル検波時に用いる基準位相情報を生成することにより、良好な復調が可能となる(例えば、特許文献2を参照のこと)。
これに対し、複数のアンテナからの受信信号を合成するMIMO受信機の場合、MIMO合成前の受信信号のプリアンブルを用いて同期と周波数補正を行なうことができるが、周波数補正後の誤差成分すなわち残留周波数オフセットがMIMO合成されてしまうという問題がある。
MIMO合成された残留誤差は、パケット長が長くなると、データ・シンボルが進むにつれて累積され、位相回転や位相の捩れを引き起こし、誤りの原因となる。特に、6QAMや256QAMなどの高い変調モードでは、残留誤差による影響をより受け易いので、高スループットのデータ伝送実現の障壁となる。
例えば、MIMO方式で信号の送受信を行なう際に、周波数オフセットを補償するための構成を備えた無線装置について提案がなされている(例えば、特許文献3を参照のこと)。無線装置は、複数のアンテナと、同期検波のために搬送波を生成する搬送波発信器と、複数のアンテナからの複数の受信信号に対してそれぞれ搬送波を乗算して検波処理を行なう乗算器と、各乗算器からの信号に基づいて1つの周波数オフセットを推定する周波数オフセット推定装置と、周波数オフセット推定値に基づいて各乗算器からの信号に対し周波数オフセットの補正処理を行なう周波数オフセット補正装置を備えている。
この無線装置の構成では、受信信号のMIMO合成(すなわち各MIMOチャネルへの空間分離)を行なう前に同期及び周波数補正を行なうようになっている。上記無線装置の周波数オフセット推定装置は、MIMOチャネル合成前に周波数オフセットを推定するための共通回路であり、ここでの残留推定誤差をMIMOチャネル合成後にどのように処理するかについては、一切言及がない
また、MIMO伝送方式において、搬送波周波数誤差推定値をアンテナ系統毎に求め、この誤差推定値をアンテナ毎に適用して周波数補正した場合に発生する通信品質の劣化を防ぐ無線信号受信装置について提案がなされている(例えば、特許文献3を参照のこと)。この場合、アンテナ系統毎に計算されるパイロット信号の自己相関値を平均した後に搬送周波数誤差に起因する位相変動量を求めることにより、マルチパス・フェージング及び熱雑音に起因する搬送波周波数の誤差を制御するとともに、すべての系統で同一の搬送波周波数補正値を用いることにより、アンテナ系統間のベースバンド信号の中心周波数を同一にし、伝達関数の逆関数の精度を向上させる。
しかしながら、この無線信号受信装置では、MIMO合成前に、位相が一定となるパイロット・サブキャリアのみを切り出し、OFDMシンボル間で自己相関を計算して周波数誤差推定を行なっている。言い換えれば、周波数補正後の残留成分を扱うものではなく、MIMO合成された残留誤差による位相回転の影響を除去することはできない。
特開平10−84324号公報
特開平13−69113号公報
特開2003−283359号公報
特開2004−72458号公報
http://radio3.ee.uec.ac.jp/MIMO(IEICE_TS).pdf(平成15年10月24日現在)
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳解する。
本発明は、MIMO方式の通信システムに適用することができる。MIMO通信システムでは、複数のアンテナを持つ送信機と複数のアンテナを持つ受信機が対となって、互いに独立した複数の論理チャネルすなわちMIMOチャネルを構成するように、送信機又は受信機の一方又は両方でアンテナ合成を行なう。MIMO通信方式によれば複数のRF送受信部を1つの無線機に集約して大容量データ伝送を実現する。また、マルチパス環境における遅延歪の問題を解決するために、OFDM変調方式を適用している。
図1には、本発明の一実施形態に係る無線通信装置の構成を模式的に示している。図示の無線通信装置100は送信機側と受信機側の双方において複数のアンテナ素子を備え、MIMO通信機として動作することができる。
各送受信アンテナ11a及び11bには、スイッチ12a及び12bを介して、それぞれ送信系統並びに受信系統が並列的に接続され、他の無線通信装置宛に信号を所定の周波数チャネル上で無線送信し、あるいは他の無線通信装置から送られる信号を収集する。但し、スイッチ12a及び12bは送受信アンテナ11a及び11bを送信系統又は受信系統の一方と排他的に接続し、送受信をともに並行しては行なえないものとする。
各送信系統は、変調符号化部21と、IFFT22と、ガード付与部23と、プリアンブル/リファレンス付与部24と、アンテナ毎のD/A変換器25及び送信用アナログ処理部26を備えている。
変調符号化部21は、通信プロトコルの上位レイヤから送られてきた送信データを誤り訂正符号で符号化するとともに、BPSK、QPSK、16QAMなどの所定の変調方式により送信信号を信号空間上にマッピングする。さらに、符号化後の送信信号を所定の送信重み行列で乗算することにより、空間多重により複数のMIMOチャネルを得る。この時点で、パイロット・シンボル挿入パターン並びにタイミングに従って、既知のデータ系列をパイロット・シンボルとして変調シンボル系列に挿入するようにしてもよい。サブキャリア毎あるいはサブキャリア数本の間隔で、既知パターンからなるパイロット信号が挿入される。
IFFT22では、変調されたシリアル形式の信号を、並列キャリア数並びにタイミングに従って、並列キャリア数分のパラレル・データに変換してまとめた後、所定のFFTサイズ並びにタイミングに従ってFFTサイズ分の逆フーリエ変換を行なう。
ガード付与部23は、シンボル間干渉の除去のため、1OFDMシンボルの前後にガード・インターバル区間を設ける。ガード・インターバルの時間幅は、伝搬路の状況、すなわち復調に影響を及ぼす遅延波の最大遅延時間によって決定される。そして、直列の信号に直し、周波数軸での各キャリアの直交性を保持したまま時間軸の信号に変換して、送信信号とする。
プリアンブル/リファレンス付与部24は、RTS、CTS、DATAパケットなどの送信信号の先頭にプリアンブル信号やリファレンス信号を付加する。
アンテナ毎の送信信号は、それぞれのD/A変換器25によりアナログのベースバンド信号に変換され、さらにそれぞれの送信用アナログ処理部26によりRF周波数帯にアップコンバートされてから、各アンテナ11より各MIMOチャネルへ送出される。
一方、各受信系統は、アンテナ毎の受信用アナログ処理部31及びA/D変換器32と、同期獲得部33と、周波数オフセット補償部34と、FFT35と、空間分離部36と、位相回転補償部37と、復調復号器38で構成される。
各アンテナ11より受信した信号を、それぞれの受信用アナログ処理部31でRF周波数帯からベースバンド信号にダウンコンバートし、それぞれのA/D変換器32により、デジタル信号に変換する。
各アンテナ系統のデジタル・ベースバンド信号は、同期獲得部33により検出された同期タイミングに従って、シリアル・データとしての受信信号をパラレル・データに変換してまとめられる(ここでは、ガード・インターバルまでを含む1OFDMシンボル分の信号がまとめられる)。
周波数オフセット補償部34は、周波数誤差推定値に基づいて、それぞれのデジタル・ベースバンド信号に対し周波数補正が行なわれる。この段階で周波数誤差並びにタイミング誤差はほとんど除去されるが、周波数誤差推定におけるノイズその他の影響により周波数オフセット量の算出において誤差が生じた場合などには誤差が残留する。
FFT35は、有効シンボル長分の信号をフーリエ変換により時間軸の信号を周波数軸の信号に変換し、受信信号をサブキャリア信号に分解する。
空間分離部36は、パケットのプリアンブル部のFFT出力を基に、チャネル行列Hをサブキャリア毎に生成し、このチャネル行列を利用して、パケットのデータ部のFFT出力をサブキャリア毎に合成して、独立した複数のMIMOチャネルに分離する。送信機側からは各MIMOチャネルに対応したリファレンス信号が時分割で送られてくる(後述)。空間分離部36は、各リファレンス信号から取得した伝達関数を各列ベクトルとして構成されるチャネル行列Hの逆行列H-1を求めることができ、これを受信重みに用いてMIMO合成を行なう。MIMO合成は1次合成なので、残留周波数オフセットは残っており、その後に周波数オフセット推定を行なうことができる。
位相回転補償部37は、MIMO合成された各MIMOチャネルに対しそれぞれ残留周波数オフセットと位相雑音による位相回転量の補正を行なう。残留周波数オフセットと位相雑音はMIMOチャネル間で同一となるので、各パイロット・サブキャリアを用いて得られるMIMOチャネル毎の位相回転量の観測値を統合すなわち平均化し、よりノイズに耐性のある位相回転量を得ることができる。そして、得られた位相回転量を用いてMIMOチャネル毎に位相補償を施す。
復調復号部38は、位相回転補正後に、位相空間(constallation)上の変調点から元の値に復調する。
図2には、本実施形態に係る無線通信装置がMIMO送信機として動作する場合に送信するパケットの構成例を模式的に示している。ここでは、V−BLASTなどのオープンループ型のMIMO通信システムを想定している。
各アンテナからは同一の同期信号が送信される。続いて、受信機側でチャネル推定を行なうためのリファレンス信号がアンテナ毎に時分割で送信される。その後、MIMOチャネル毎のユーザ・データを空間多重して送信される。受信機では、各アンテナからのリファレンス信号を利用してチャネル推定を行ない、送受信機間の各アンテナ対に対応したチャネル行列Hを算定することができる。
既に述べたように、OFDM通信機には、周波数オフセットと位相雑音の問題がある。残留周波数オフセットと位相雑音の影響により、OFDMシンボルのすべてのサブキャリアが同一角度だけ位相が回転するが、その回転量はOFDMシンボル毎に異なる。受信機側のデジタル部では、各OFDMシンボルの位相回転量は、OFDMシンボルに付随しているパイロット・サブキャリアを用いて推定することができ、その位相の逆回転をデータ部に与えることで、残留周波数オフセットと位相雑音を補償することができる。
残留周波数オフセットによる位相回転はリファレンス信号の受信時間に応じて線形的に増大するが、位相雑音に起因する位相回転の変化は、リファレンス信号の受信時間の差とは無関係にランダムである(後述)。まず、位相回転の原因を残留周波数オフセットと位相雑音とを区別せず、リファレンス信号の受信時間との規則性を考慮せずに、位相回転を補償する方法について説明する。
本実施形態に係る無線通信装置は、複数の受信アンテナと複数のアナログ部を備えている。例えば4×4のオープンループ型MIMO通信システムの場合、通常、4本の受信ブランチが存在する。ここで言う受信ブランチは、各空間ストリームに対応した独立した土管すなわちMIMOチャネルに相当する。たMIMO受信機として動作するが、送信機のものと同じローカルオシレータを使用するので、各受信ブランチで与えられる位相雑音は同じものとなる
送信機側と受信機側でローカルオシレータとして各ブランチ共通の発振器をそれぞれ使用しているので、各受信ブランチに与えられる位相雑音は同じものとなる。また、受信機側の各ブランチで共通の同期と周波数補正を行なうようにすれば、周波数オフセットはすべてのブランチで等しくなる。FFT並びにMIMOチャネル合成により1次変換されるが、ブランチ間での残留周波数オフセットは等しくなる。したがって、各パイロット・サブキャリアを用いて得られるMIMOチャネル毎の位相回転量の観測値を統合することで、よりノイズに耐性のある位相回転量を得ることができる。
位相回転補償部37は、受信ブランチすなわちMIMOチャネル毎にFFTした値の周波数領域のデータに含まれるパイロット・サブキャリアから位相回転量を観測し、全受信ブランチの回転量から総合的に判断、例えば平均化して位相回転量を決定する。そして、得られた値を再度各受信ブランチに戻し、受信ブランチ毎のその回転量に応じて位相を調整して、データの位相雑音や残留周波数オフセットの影響を取り除く。
MIMO受信機は、受信信号の空間分離を行なうために、受信用の重みを用いる。この受信用の重みは、送受信機間の各アンテナ対に対応した要素からなるチャネル行列Hを取得し、このチャネル行列の逆行列を求めることで得ることができる。
図2に示したパケット構造の場合、MIMO受信機は、送信機の各アンテナから時分割で送信されるリファレンス信号を利用して、送受信の各アンテナ対に対応した要素を持つチャネル行列Hを取得することができる。ところが、このように各リファレンス信号を異なる時間に送受信すると、アンテナ対毎に異なる位相雑音が印加されることになる。このような場合、受信機では、上述したような受信ブランチ毎に連携して位相量を取得するということはできなくなる。
通常の受信機では、実施した位相回転量をあるバッファに格納しておき、次のOFDMシンボル時には前回までの位相回転をオフセットとして事前に乗算した後のデータを見ることになる。したがって、各受信ブランチでの位相回転量を連携して回転位相量を決定するという方法では、最初の位相回転量の見積もり時のみ問題となる。
そこで、本実施形態では、位相回転補償部37は、MIMOチャネル毎にFFTした値の周波数領域のデータに含まれるパイロット・サブキャリアから位相回転量を観測するが、1OFDMシンボル目の位相回転の見積もり時には、各MIMOチャネルでの測定結果を統合しないことにより、時分割で送られたリファレンス信号に印加されている不均一な位相雑音の影響を取り除く。そして、2シンボルOFDM目以降の位相回転の見積もり時には、MIMOチャネル毎の位相回転量の観測値を統合することで、よりノイズに耐性のある位相回転量を得るようにする。
図3には、この場合の位相回転補償部37の内部構成を模式的に示している。同図に示すように、位相回転補償部37は、空間分離部36により分離された合成信号に基づいて、MIMOチャネル毎の位相回転量を観測する位相回転量観測部と、MIMOチャネル毎に見積もられた位相回転量に基づいて各MIMOチャネルに対して適用すべき位相補償量を決定する位相補償量決定部と、決定された位相補償量を用いて各MIMOチャネルの合成信号の位相を補償する位相補償処理部を備えている。ここで、位相補償量決定部は、1OFDMシンボル目の位相回転の見積もり時には、各論理チャネルでの位相回転の観測結果を統合せずに、MIMOチャネル毎にその観測結果に基づいて位相補償を行なうことで、位相雑音の影響を取り除く。そして、2OFDMシンボル目以降の位相補償の見積もり時には、各MIMOチャネルでの位相回転の観測結果を統合してすべてのMIMOチャネルに共通の位相補償量を決定するようにする。
続いて、位相回転が残留周波数オフセットに起因する場合における位相補償について説明する。残留周波数オフセットの観点でチャネル行列を考察すると、リファレンス信号を時分割で送受信するので、ユーザ・データの前段に付加される各リファレンス信号はユーザ・データからの時間差が相違するという点に問題がある。
送信アンテナ本数及び受信アンテナ本数がともに4本となる4×4のMIMO通信システムにおいて、リファレンス1、リファレンス2、リファレンス3、リファレンス4の順でリファレンス信号を時分割で送信し、続いてユーザ・データを空間多重して送信する場合、データの残留周波数オフセット量とリファレンス4の残留周波数オフセット量は近いが、データの残留周波数オフセット量とリファレンス1の残留周波数オフセット量は大きく値が異なる。つまり、時分割で送受信するために、その間に影響を受ける残留周波数オフセットの量がリファレンス信号毎に区々となってしまう。
送信アンテナ本数及び受信アンテナ本数がともに4本となる4×4のMIMO通信システムでは、チャネル行列も4×4の行列になる。チャネル行列を構成する各列ベクトルが、リファレンス信号から取得した伝達関数に相当する。したがって、チャネル行列の各列は異なる残留周波数オフセットを持つ。このような状態のチャネル行列Hの逆行列H-1を計算すると、列毎に異なる残留周波数オフセットの影響を受けることになる。この様子を、数式を参照しながら以下に説明する。
チャネル行列Hとその逆行列H-1を次式のように表す。但し、a、b、c、dはHT−LTFの各シンボルであり、0〜3の添え字は受信ブランチに対応する。
そして、残留周波数オフセットによる影響を受けたチャネル行列は、次式のように表される。上述したように、チャネル行列を構成する列ベクトルは、残留周波数オフセットがそれぞれ異なるリファレンス信号から取得した伝達関数に相当する。次式では、リファレンス1、リファレンス2、リファレンス3、リファレンス4の各リファレンス信号が持つ残留周波数オフセットをそれぞれejω1、ejω2、ejω3、ejω4とし、チャネル行列には残留周波数オフセットによる位相回転が列単位で付加されている。
右辺を見て判るように、列毎に異なる残留周波数オフセットが乗算される格好となる。そして、上記の残留周波数オフセットの影響を受けたチャネル行列の逆行列は、次式のように表される。
上記の逆行列は、行単位で異なる位相回転量を持つ形となる。
このように、チャネル行列Hが列毎に受ける位相回転の影響は、その逆行列では、行毎の位相回転の影響となる。これは、MIMOチャネル毎の位相回転の影響となって現れる。
残留周波数オフセットはOFDMシンボルの進行に比例して増大するとする。この場合、aをある定数とおくと、ω2=a×ω1、ω3=a×a×ω1、ω4=a×a×a×ω1という関係になる。つまり、リファレンス信号毎(すなわちチャネル行列の列ベクトル毎)の位相回転ω1、ω2、ω3、ω4は線形的に変化していく。
一方、位相雑音の場合、リファレンス信号毎の位相回転ω1、ω2、ω3、ω4はそれぞれ無関係なランダムな値となる。各リファレンス信号における残留周波数オフセットによる位相回転量と位相雑音における位相回転は、原因は異なる。しかしながら、上式(3)及び(5)からも判るように、チャネル行列Hの列方向で同じ位相回転量ωを持ち、その逆行列を計算すると行方向で同じ位相回転量ωを持つことになるという点では、残留周波数オフセットも位相雑音も共通である。
図4及び図5には、残留周波数オフセットの影響に比べて、位相雑音による影響が小さい場合と大きい場合のそれぞれについて、時分割で送受信されるリファレンス信号(図2を参照のこと)から取得したベクトル(すなわちチャネル行列の列ベクトル)に含まれる位相回転が変化する様子を例示している。残留周波数オフセットの影響に比べて、位相雑音による影響が小さい場合には、図4に示したように、位相回転は線形的に増大する。一方、残留周波数オフセットの影響に比べて、位相雑音による影響が大きい場合には、図5に示したように、位相回転の変化はリファレンス信号の受信時間の差とは無関係にランダムである。
そこで、本実施形態では、位相回転補償部37において、以下の2通りに分けて、残留周波数オフセット及び位相雑音の問題を解決するようにしている。
(1)位相雑音による位相回転が残留周波数オフセットによる回転量と比較してかなり小さい場合
(2)位相雑音による影響が残留周波数オフセットによる影響と同等以上である場合
まず、前者の位相雑音による位相回転が残留周波数オフセットによる回転量と比較してかなり小さい場合について説明する。aをある定数とおくと、リファレンス信号毎の残留周波数オフセットは、ω2=a×ω1、ω3=a×a×ω1、ω4=a×a×a×ω1という関係になる。つまり、MIMOチャネルの1OFDMシンボル目の位相回転を1OFDMシンボルの中にあるパイロット・サブキャリアにより測定すると、位相回転ω1、ω2、ω3、ω4を取得することができる。この値は雑音環境下で取得されたものなのでバラツキを持っている。しかし、残留周波数オフセットは線形的に増えていくという関係を利用して、これら4つの値から定数aを導き出して各位相回転ω1、ω2、ω3、ω4を決定することにより、雑音への耐性を高めることができる。例えば、最小2乗法のようなアルゴリズムを利用して定数aを高精度に求めることができる。あるいは下式に示すような方法で、aの精度を高めることができる。
1OFDMシンボル目で、上述したように定数aを高精度に求めると、これを利用してリファレンス信号毎の位相回転量ω1、ω2、ω3、ω4を高精度に求め直すことができる。その回転量を用いて各MIMOチャネルのデータの位相を回転することにより、データを補正することができる。
2OFDMシンボル目以降は、1OFDMシンボル目で回転した量をデフォルトの補正回転として前段で行なっておく。このようにすると、2OFDMシンボル目以降は、同じ量の位相回転しか見えてこないで、パイロット・サブキャリアから得られたMIMOチャネル毎の回転量を単純に平均する連携により、高精度な位相回転の補正を実現することができる。最初のOFDMシンボルだけ、最小2乗法や式(6)で示した方法により直線近似で位相回転を補正する。そして、次のOFDMシンボルからは、各MIMOチャネルで観測された位相回転量を単純に平均して位相回転を補正することができる。
図6には、この場合の位相回転補償部37の内部構成を模式的に示している。同図に示す例では、図3に示した構成に対し、位相雑音及び残留周波数オフセットがそれぞれ位相回転に及ぼす影響を解析する位相回転解析部がさらに付加されている。位相補償量決定部は、この解析結果に応じて、各論理チャネルに対して適用すべき位相補償量を決定する。具体的には、位相回転解析部により、残留周波数オフセットに比べ位相雑音の影響が小さいと判別されたときには、位相補償量決定部は、1回目の位相回転の見積もり時において、残留周波数オフセットが線形的に増大するという関係に基づいて、リファレンス信号から取得された伝達関数(すなわちチャネル行列の各列ベクトル)に含まれる位相回転量を、最小2乗法や式(6)で示した方法により直線近似し、より高精度に求めるようにする。
図7には、位相雑音による位相回転が残留周波数オフセットによる回転量と比較してかなり小さい場合における、位相回転の補正処理の手順を示している。
まず、リファレンス・シンボルを受信することにより、チャネル行列Hを取得する(ステップS1)。そして、チャネル行列Hの逆行列H-1を計算して、受信用の重みを取得する(ステップS2)。
空間分離部36は、ユーザ・データの部分に受信用の重みを乗算することにより、各アンテナからの受信信号をMIMO合成して空間分離を行ない、各MIMOチャネルのデータを得る(ステップS3)。
位相回転補償部37では、1OFDMシンボル目のデータに含まれるパイロット・サブキャリア(52サブキャリア中の4サブキャリアがパイロット)の回転量を測定する。これは、各MIMOチャネルについて行なう(ステップS4)。
各リファレンス・シンボルから得られる4つの位相回転量は、順番に比例して増加するか、若しくは順番に比例して減少するかのどちらかである。したがって、位相回転補償部37は、1OFDMシンボル目のデータに含まれるパイロット・サブキャリアを用いて得られた位相回転量を直線近似することで、より精度の高い4つの位相回転量を取得する(ステップS5)。直線近似は最小2乗法や式(6)で示した方法により行なう。
上記ステップS5で求めた、各MIMOチャネルに対応する回転量を打ち消すだけの回転量の位相補正を、MIMOチャネル毎に行なう(ステップS6)。すなわち、ここではMIMOチャネル毎に求められた位相補正量の統合や連携は行なわない。
2OFDMシンボル以降のOFDMシンボルについては、位相回転補償部37は、デフォルトで、ステップS6で行なった量の回転の位相補正をMIMOチャネル毎に行なう(ステップS7)。
また、位相回転補償部37は、2OFDMシンボル以降のOFDMシンボルについて、MIMOチャネル毎にパイロット・サブキャリアを用いて、位相の回転量を測定する(ステップS8)。
さらに、位相回転補償部37は、MIMOチャネル毎に取得した位相の回転量を統合して平均を計算する。この値を各MIMOチャネルに対応するイコライザ(図示しない)に戻す(ステップS9)。
位相回転補償部37は、各MIMOチャネルからのデータを統合した平均値を基に、残留周波数オフセットや位相雑音に起因する位相回転量を打ち消す値を決定する。そして、この値を用いて位相補正をMIMOチャネル毎に位相補償を行なう(ステップS10)。
図8には、位相雑音による位相回転が残留周波数オフセットによる回転量と比較してかなり小さい場合における、位相回転補償部37の機能構成を模式的に示している。同図に示すように、各MIMOチャネルにおける位相補償量を統括的に決定する位相補償量決定部が1つ設けられ、位相回転量観測部と位相補償処理部がMIMOチャネル毎に配設されている。
位相回転量観測部は、各MIMOチャネル上のパイロット・シンボルを用いて、残留周波数オフセットや位相雑音に起因する位相回転量を取得し、この値を位相補償量決定部に通知する。
位相補償量決定部では、カウンタを用いてOFDMシンボル数をカウントしている。そして、1OFDMシンボル目のデータに含まれるパイロット・サブキャリアを用いて得られた位相回転量を直線近似することで、より精度の高い4つの位相回転量を取得する。直線近似は最小2乗法や式(6)で示した方法により行なう。また、1OFDMシンボル目では、MIMOチャネル毎に求められた位相回転量の統合は行なわず、MIMOチャネル毎に得られた位相回転量を打ち消すだけの回転量を、そのままそれぞれのMIMOチャネルの位相補正量として決定し、各MIMOチャネル上の位相補償処理部に通知する。
また、位相補償量決定部は、2OFDMシンボル以降では、OFDMシンボル中のパイロット・サブキャリアを用いてMIMOチャネル毎に測定された位相の回転量を統合する。すなわち、各MIMOチャネルからのデータを統合した平均値を基に、残留周波数オフセットや位相雑音に起因する位相回転量を打ち消す値を決定し、これを各MIMOチャネル上の位相補償処理部に通知する。
各MIMOチャネル上の位相補償処理部は、位相補償量決定部から通知された位相補償量を用いて、位相補償量だけデータを逆回転して位相補正を行なう。2OFDMシンボル以降のOFDMシンボルについては、過去の位相回転補償量の累積値をデフォルト値として補正を行なう。
次に、位相雑音による影響が残留周波数オフセットによる影響と同等以上である場合について説明する。
この場合、チャネル行列の各列ベクトルの位相回転ω1、ω2、ω3、ω4はそれぞれ無関係なランダムな値となる。何故ならば、チャネル行列Hの異なる列ベクトルは、異なる時間に(時分割多重により)送られたリファレンス信号から作られるが、時間が異なれば、印加される位相雑音も異なるからである。一方、リファレンス信号に続くデータの部分は、同じ位相雑音が印加されるので同じ位相回転が加わる。しかし、異なる位相回転が加わったチャネル行列から生成された逆行列を用いて空間分離を行なうときには注意か必要である。
各MIMOチャネルでパイロット・サブキャリアから得られた位相情報を平均してそれを各MIMOチャネルでの位相回転として補正することを、最初のOFDMシンボルから行なうと、問題である。
最初のOFDMシンボルでは、この平均操作をなくし、各MIMOチャネルで独立して位相回転量を推定し、それを使用する。
2OFDMシンボル以降では、最初の独立な位相回転への補正をデフォルトとして行なう。したがって、2OFDMシンボル以降では、各MIMOチャネルで得られた位相回転量を平均などの統合した処理を行なうことにより、位相補償の精度を向上することができる。
これら2つのケースをまとめると、最初のOFDMシンボルでは、独立に位相回転を求める。そして、2OFDMシンボル以降では、最初の独立した位相回転量をデフォルトで実行しておくと、各MIMOチャネルの位相回転は同じと推定できるので、各移相回転の平均などMIMOチャネル間で連携操作を行なうことにより、位相補償の精度を向上することができる。
図9には、位相雑音による位相回転が残留周波数オフセットによる回転量と比較して無視できないくらい大きい場合における、位相回転の補正処理の手順を示している。
まず、リファレンス・シンボルを受信することにより、チャネル行列Hを取得する(ステップS21)。そして、チャネル行列Hの逆行列H-1を計算して、受信用の重みを取得する(ステップS22)。
空間分離部36は、ユーザ・データの部分に受信用の重みを乗算することにより、各アンテナからの受信信号をMIMO合成して空間分離を行ない、各MIMOチャネルのデータを得る(ステップS23)。
位相回転補償部37では、1OFDMシンボル目のデータに含まれるパイロット・サブキャリア(52サブキャリア中の4サブキャリアがパイロット)の回転量を測定する。これは、各MIMOチャネルについて行なう(ステップS24)。
そして、位相回転補償部37は、MIMOチャネル毎に得た回転量を打ち消すだけの回転量の位相補正をMIMOチャネル毎に行なう(ステップS25)。すなわち、ここではMIMOチャネル毎に求められた位相補正量の統合や連携は行なわない。
2OFDMシンボル以降のOFDMシンボルについては、位相回転補償部37は、デフォルトで、ステップS25で行なった量の回転の位相補正をMIMOチャネル毎に行なう(ステップS26)。
また、位相回転補償部37は、2OFDMシンボル以降のOFDMシンボルについて、MIMOチャネル毎にパイロット・サブキャリアを用いて、位相の回転量を測定する(ステップS27)。
さらに、位相回転補償部37は、MIMOチャネル毎に取得した位相の回転量を統合して平均を計算する。この値を各MIMOチャネルに対応するイコライザ(図示しない)に戻す(ステップS28)。
位相回転補償部37は、各MIMOチャネルからのデータを統合した平均値を基に、残留周波数オフセットや位相雑音に起因する位相回転量を打ち消す値を決定する。そして、この値を用いて位相補正をMIMOチャネル毎に位相補償を行なう(ステップS29)。
図10には、位相雑音による位相回転が残留周波数オフセットによる回転量と比較して無視できないくらい大きい場合における、位相回転補償部37の機能構成を模式的に示している。同図に示すように、各MIMOチャネルにおける位相補償量を統括的に決定する位相補償量決定部が1つ設けられ、位相回転量観測部と位相補償処理部がMIMOチャネル毎に配設されている。
位相回転量観測部は、各MIMOチャネル上のパイロット・シンボルを用いて、残留周波数オフセットや位相雑音に起因する位相回転量を取得し、この値を位相補償量決定部に通知する。
位相補償量決定部では、カウンタを用いてOFDMシンボル数をカウントしている。そして、1OFDMシンボル目のデータに含まれるパイロット・サブキャリアを用いてMIMOチャネル毎に得られた位相回転量を打ち消すだけの回転量を、そのままそれぞれのMIMOチャネルの位相補正量として決定し、各MIMOチャネル上の位相補償処理部に通知する。
また、位相補償量決定部は、2OFDMシンボル以降では、OFDMシンボル中のパイロット・サブキャリアを用いてMIMOチャネル毎に測定された位相の回転量を統合する。すなわち、各MIMOチャネルからのデータを統合した平均値を基に、残留周波数オフセットや位相雑音に起因する位相回転量を打ち消す値を決定し、これを各MIMOチャネル上の位相補償処理部に通知する。
各MIMOチャネル上の位相補償処理部は、位相補償量決定部から通知された位相補償量を用いて、位相補償量だけデータを逆回転して位相補正を行なう。2OFDMシンボル以降のOFDMシンボルについては、過去の位相回転補償量の累積値をデフォルト値として補正を行なう。
以上、位相雑音による移相回転量が残留周波数オフセットの量に比べて無視できるくらい小さい場合と、無視できない場合について説明してきた。後者の方法は前者の場合にも使用できるが、前者の方法は後者には使用できないという点を十分理解されたい。