JP4556381B2 - 脂肪族モノカルボン酸スズ塩の製造方法 - Google Patents

脂肪族モノカルボン酸スズ塩の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、低融点脂肪族モノカルボン酸スズ塩の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
スズを含有する化合物が、種々の分野で利用されている。例えば、アルキルスズ化合物や脂肪族モノカルボン酸スズ塩が、触媒、酸化薄膜の材料、被覆材、安定剤などに利用されている。これらのうち、アルキルスズ化合物としては、例えば、ビスマレイン酸ジブチルスズが、ポリ塩化ビニルの安定剤として用いられている。このスズ化合物は、ポリ塩化ビニルとの相容性が良好であるため、優れた透明性および耐光性を付与することが可能である。さらに、ラウリン酸ジブチルスズが、ポリエステルポリオールを製造する際のエステル化触媒として利用されている。この他、アルキルスズ化合物はフェノール樹脂発砲体の硬化触媒、ポリウレタンの製造における触媒などの用途にも用いられている。しかし、これらジブチルスズ化合物に代表されるアルキルスズ化合物は、環境ホルモンなどとして環境への負荷が懸念されており、これに代わるスズ化合物が求められている。
【0003】
上記脂肪族モノカルボン酸スズ塩は、ジブチルスズ化合物などのアルキルスズ化合物と比較して環境への負荷が低いことから、該アルキルスズ化合物に代替する化合物として期待されている。脂肪族モノカルボン酸スズ塩は、例えば特許文献1および特許文献2においては硬化触媒として使われている。さらに特許文献3および特許文献4においては、ポリウレタンフォーム製造の際の触媒として使われている。
【0004】
上記スズ化合物を触媒などの上記種々の用途に利用するにあたっては、該化合物の他の材料への分散性あるいは溶解性、他の材料との混和性、他の材料との相容性などが重要となる。例えば、このスズ化合物を樹脂シート中に安定剤として含有させる場合に、樹脂とスズ化合物とを溶媒と共に混合し、その後に溶剤を揮発させて樹脂シートなどに加工することが行なわれる。このとき、スズ化合物として脂肪族モノカルボン酸スズ塩を用いると、該化合物は融点が高く、通常、常温条件において固体であるため、常温においては溶媒や樹脂に均一に混和しない。そのため、脂肪族モノカルボン酸スズ塩が有する安定剤としての機能を、長期にわたりムラなく付与することが困難となる。あるいはまた、脂肪族モノカルボン酸スズ塩を反応触媒として用いる場合に、常温条件下では反応時に該スズ塩が反応成分や溶媒と均一に混和しない。そのため、脂肪族モノカルボン酸スズ塩の持つ触媒としての機能を、効果的に発揮させることが困難である。
【0005】
このように、脂肪族モノカルボン酸スズ塩は、種々の用途が期待されているが、常温で固体であるため、樹脂、溶媒などの他の材料に常温において充分に分散あるいは混和しにくく、その機能を充分に発揮できないという欠点がある。脂肪族モノカルボン酸スズ塩を、常温において液状の材料として扱うことができれば、上記用途に好適に使用することが可能である。
【0006】
脂肪族モノカルボン酸スズ塩は、一般に、脂肪族モノカルボン酸と無機スズ化合物とを反応させる直接法、あるいは、脂肪族モノカルボン酸の水溶性塩と水溶性無機スズ化合物とを水中で塩交換により反応させる複分解法により製造される。しかし、このようにして得られる脂肪族モノカルボン酸スズ塩は、いずれも常温で固体であり、脂肪族モノカルボン酸スズ塩を常温において液状物として取り扱うことの可能な方法は知られていない。
【0007】
【特許文献1】
特開昭57−63351号公報、
【特許文献2】
特開平10−204332号公報
【特許文献3】
特開平7−186285号公報、
【特許文献4】
特開平9−52933号公報
【特許文献5】
特開平6−15170号公報
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記従来の課題を解決するためになされ、その目的は、融点が低い脂肪族モノカルボン酸スズ塩を得るための製造方法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、特定の処理方法を採用することにより、低融点の脂肪族モノカルボン酸スズ塩が効果的に得られるのを発見し、本発明を完成するに至った。
【0010】
本発明の低融点脂肪族モノカルボン酸スズ塩の製造方法は、炭素数4〜30の脂肪族モノカルボン酸またはその塩と、無機スズ化合物とを反応させることにより、脂肪族モノカルボン酸スズ塩を得る工程;および該スズ塩に酸素供給性物質を接触させる工程を包含する。
【0011】
本発明の低融点脂肪族モノカルボン酸スズ塩の製造方法は、炭素数4〜10の脂肪族モノカルボン酸またはその塩と、無機スズ化合物とを反応させることにより、脂肪族モノカルボン酸スズ塩を得る工程;および該スズ塩に酸素供給性物質を接触させる工程を包含する。
【0012】
好適な実施態様においては、上記脂肪族モノカルボン酸塩と上記無機スズ化合物との反応は、該脂肪族モノカルボン酸塩の水溶液と、該無機スズ化合物の水溶液とを混合することにより行なわれる。
【0013】
好適な実施態様においては、上記脂肪族モノカルボン酸の塩は、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、および有機アミン塩でなる群から選択される少なくとも1種である。
【0014】
好適な実施態様においては、上記無機スズ化合物は塩化第一スズである。
【0015】
好適な実施態様においては、上記酸素供給性物質は、酸素または酸素を含有するガスである。
【0016】
好適な実施態様においては、上記脂肪族モノカルボン酸の塩と酸素供給性物質との接触は、該処理前の脂肪族モノカルボン酸スズ塩の融点以上の温度で行なわれる。
【0017】
【発明の実施の形態】
本明細書において「低融点脂肪族モノカルボン酸スズ塩」とは、炭素数4〜30の所定の脂肪族モノカルボン酸またはその塩と無機スズ化合物とから得られる所定の脂肪族モノカルボン酸スズ塩に由来し、該所定の脂肪族モノカルボン酸スズ塩よりも低い融点を有する脂肪族モノカルボン酸スズ塩を指して言う。
【0018】
本明細書において「酸素供給性物質」とは、酸素、または酸素を供給し得る物質を指して言う。
【0019】
1.脂肪族モノカルボン酸スズ塩を調製するための材料
本発明の低融点脂肪族モノカルボン酸スズ塩の製造に用いられる脂肪族モノカルボン酸は、その炭素数が4〜30である。このような脂肪族モノカルボン酸は、飽和もしくは不飽和脂肪酸のいずれであってもよい。そのような脂肪酸としては、次の化合物が挙げられる:n−酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、n−カプロン酸、2−エチル酪酸、エナント酸、カプリル酸、2−エチルヘキサン酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ミリストレイン酸、パルミチン酸、イソパルミチン酸、パルミトレイン酸、ステアリン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、モンタン酸、イソステアリン酸、オレイン酸、アラキン酸、リシノレイン酸、リノレイン酸、ベヘニン酸、エルカ酸などの単体脂肪酸;および牛脂脂肪酸、大豆油脂肪酸、やし油脂肪酸、パーム油脂肪酸などの動植物油脂由来の混合脂肪酸。脂肪族モノカルボン酸の塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩などのアルカリ金属塩;アンモニウム塩;およびモノエタノールアミン塩、ジエタノールアミン塩、モノプロパノールアミン塩などの有機アミン塩が挙げられる。これら脂肪族カルボン酸またはその塩は、1種または2種以上を組合せて使用することが可能である。
【0020】
比較的融点が低く、例えば30℃において液状である低融点脂肪族モノカルボン酸スズ塩を製造する場合には、炭素数4〜10の脂肪族モノカルボン酸またはその塩を用いることが好ましい。そのような脂肪族モノカルボン酸としては、n−酪酸、イソ酪酸、吉草酸、イソ吉草酸、n−カプロン酸、2−エチル酪酸、エナント酸、カプリル酸、2−エチルヘキサン酸、ペラルゴン酸、カプリン酸などがある。その塩としては、上述のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、および有機アミン塩が挙げられる。
【0021】
上記脂肪族カルボン酸の炭素数が4未満、あるいは30を超える場合は、後述のように、スズ化合物との反応により得られるモノカルボン酸スズ塩に酸素接触処理を行っても、接触処理前と比較して、十分に融点の低い化合物、例えば20℃以上融点の低い化合物が得られない。そのようなモノカルボン酸スズ塩を溶媒や樹脂などに対して比較的低温条件で混和した場合には、充分に溶解あるいは分散できず、その結果、樹脂が白濁したり、触媒や安定剤としての機能を十分かつ均一に付与することができない。
【0022】
本発明の低融点脂肪族モノカルボン酸スズ塩の製造方法に用いられる無機スズ化合物は、水溶性であり、かつ上記脂肪族モノカルボン酸またはその塩と反応できるものであればいずれでもよい。例えば、酸化第一スズ、塩化第一スズ、水酸化第一スズ、硫酸第一スズ、硝酸第一スズなどの2価のスズ化合物、および塩化第2スズなどの4価のスズ化合物が用いられ得る。なかでも、2価のスズ化合物、特に水中で安定に溶解し、効率的にカルボン酸塩と反応することの可能な塩化第一スズが好ましい。
【0023】
本発明に用いられる酸素供給性物質は、上述のように、酸素、または酸素を供給し得る物質である。酸素を供給し得る物質としては、オゾン、過酸化物などがあり、過酸化物としては、過酸化水素などがある。
【0024】
2.脂肪族モノカルボン酸スズ塩
上記炭素数4〜30の脂肪族モノカルボン酸またはその塩と、上記無機スズ化合物とを反応させることによりカルボン酸スズ塩が得られる。反応方法としては、複分解法、直接法などの当該分野で利用される方法が用いられ得る。複分解法においては、上記脂肪族モノカルボン酸の水溶性塩および水溶性の無機スズ化合物を、各々水などの水系溶媒に溶解させて、これらを混合することにより塩交換反応によりカルボン酸スズ塩が形成される。直接法においては、脂肪族モノカルボン酸と無機スズ化合物(酸化第一スズ、水酸化第一スズなど)とを100〜200℃の温度で直接混和することにより反応が行なわれ、カルボン酸スズ塩が形成される。
【0025】
これらの方法のうち、特に複分解法を用いることが好ましい。この方法を用いた場合には、より低温の条件において安定に脂肪族モノカルボン酸スズ塩を製造することができる。そのため、分解物が生じにくく、従って、生じた分解物を濾過する必要がない。さらに、後述の酸素供給性物質との接触により得られる脂肪族モノカルボン酸スズ塩の性状が良好であり、経時安定性も高い。
【0026】
以下に、複分解法により脂肪族モノカルボン酸スズ塩を調製する方法を詳述する。この方法により脂肪族モノカルボン酸スズ塩を調製するには、例えばまず、上記脂肪族モノカルボン酸塩を、水などの水系溶媒に溶解させる。ここで、水系溶媒とは、水、または水を主成分とする溶媒であり、例えば、アルコール類を含む水などが挙げられる。水系溶媒に溶解させるためには、脂肪族モノカルボン酸の水溶性塩(例えば、ナトリウム、カリウムなどのアルカリ金属の塩、アンモニウム、有機アミンなどの塩)が用いられる。あるいは、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カルシウム水溶液、アンモニア水などのアルカリを含む水系溶媒溶液に脂肪族モノカルボン酸を直接溶解させて、該水系溶媒中で解離した脂肪族モノカルボン酸塩の形態とすることも可能である。炭素数が14〜30という比較的炭素数の大きな脂肪族モノカルボン酸を用いる場合には、水に対する溶解性の高いカリウム塩を用いるか、あるいは溶媒中でカリウム塩とすることが好ましい。このような水溶性の高い塩を用いることにより、より低温での反応が可能となり、純度の高いカルボン酸スズ塩が得られる。
【0027】
これとは別に、無機スズ化合物を水系溶媒に溶解させる。次いで、上記脂肪族モノカルボン酸の水溶性塩を含む溶液と無機スズ化合物を含む溶液とを混合することにより、塩交換反応が進行し、脂肪族モノカルボン酸スズ塩が形成される。
【0028】
上記反応においては、脂肪族モノカルボン酸塩は、無機スズ化合物のモル数に対して過剰モルとなるように用いられる。好ましくは、無機スズ化合物1モルに対して、脂肪族モノカルボン酸塩が2〜5モル、さらに好ましくは2〜3モルの割合で用いられる。特に、2モルを超えて2.1モル程度までの割合(例えば、2.05〜2.10モル)が好適である。脂肪族モノカルボン酸塩の量が2.0モル未満の場合は、未反応の無機スズ化合物に由来する分解物が生成し、濾過処理などの分離の必要が生じる。脂肪族モノカルボン酸塩の量が2モル(仕込み量としては2.4モル程度)を超えても、生成する脂肪族モノカルボン酸スズの量は増加することはないため、生産性が低下する。さらに、系内に存在する過剰なカルボン酸塩を除去するためにより多くの水洗回数を要するため、生成した脂肪族モノカルボン酸スズ塩がその間に分解する可能性がある。分解物が生じた場合には、濾過処理などが必要となる。
【0029】
上記複分解法による反応温度は、好ましくは60℃以下である。60℃を超える温度で反応を行うと、無機スズ化合物が分解し、濃緑色の酸化第一スズが生成して反応が進まなくなるおそれがある。
【0030】
このようにして、複分解法により、水系溶媒中に脂肪族モノカルボン酸スズ塩が生成する。このスズ塩は、通常、水洗し、次いで脱水および乾燥させる。これらの工程において、水洗工程までは、上記反応時と同様に、60℃以下で行なうことが特に好ましい。これは副生成物などの不純物により、生じたスズ塩が分解するおそれがあるためである。原料として脂肪族モノカルボン酸のアルカリ金属塩、アミン塩、またはアンモニウム塩を用いると、過剰の該カルボン酸塩および反応により系内に生じるアルカリ金属塩、アミン塩、またはアンモニウム塩は、上記水洗により容易に除去され、純度の高い脂肪族モノカルボン酸スズ塩が得られる。
【0031】
3.低融点脂肪族モノカルボン酸スズ塩
上記脂肪族モノカルボン酸スズ塩に、酸素供給性物質を接触させることにより、低融点脂肪族モノカルボン酸スズ塩が得られる。本明細書において、酸素供給性物質と接触させることを「酸素接触処理を行なう」と表現する場合がある。上記酸素供給性物質とは、上述のように、酸素、もしくは酸素を供給し得る物質である。その例としては、酸素ガス、空気などの酸素含有ガス、オゾンなどの活性酸素化合物、および過酸化水素などの過酸化物などがある。酸素供給性物質との接触方法としては、該酸素供給性物質として、酸素、酸素含有ガス、またはオゾンのようなガス状物質を用い、この中に上記脂肪族モノカルボン酸スズ塩を放置する方法;該ガス状の酸素供給性物質を溶融した脂肪族カルボン酸スズ塩の中にバブリングする方法;および脂肪族モノカルボン酸スズ塩を過酸化水素水など液状の酸素供給性物質と混合する方法が挙げられる。
【0032】
上記方法のうち、酸素ガスまたは酸素含有ガスを用いて、脂肪族モノカルボン酸スズ塩の酸素接触処理を行うことが好ましく、特に純度50%以上の酸素ガスを用いることが好ましい。酸素供給性物質と脂肪族モノカルボン酸スズ塩との接触面積が広くなるほど効率がよいため、具体的には、脂肪族モノカルボン酸スズ塩を、該化合物の融点以上の温度に加熱して融解させた後、上記酸素ガスなどをバブリングするのが好ましい。オゾンは環境への負荷が高いので、環境負荷に対する措置が必要である。過酸化水素水などの過酸化物を用いた場合には、形成された脂肪族モノカルボン酸スズ塩が分解しやすいという傾向があるため、処理後速やかに余剰の過酸化物を取り除くことが好ましい。
【0033】
このようにして処理された脂肪族モノカルボン酸スズ塩(低融点脂肪族モノカルボン酸スズ塩)は、処理前の脂肪族モノカルボン酸スズ塩に比較して融点が低い。融点は、通常処理前のカルボン酸スズ塩と比較すると20℃以上低くなる。特に炭素数4〜10の低融点脂肪族モノカルボン酸スズ塩は、30℃において液状となる。
【0034】
得られた低融点脂肪族モノカルボン酸スズ塩は、もとの脂肪族モノカルボン酸スズ塩に比較して重量が増加している。酸素接触処理によって増加した重量は、脱気、もしくは真空乾燥などによって減少することはなく、酸素接触処理によって重量が増加する現象は不可逆である。低融点脂肪族モノカルボン酸スズ塩は、もとのカルボン酸スズ塩の重量と比較すると、スズ原子の重量を基準として1重量%を超える割合で重量が増加していることが好ましく、10重量%を超える割合で重量が増加していることがより好ましい。そのような低融点脂肪族モノカルボン酸スズ塩は、もとのカルボン酸スズ塩と比べて融点が20℃以上低く、特に炭素数4〜10の低融点脂肪族モノカルボン酸スズ塩の場合は30℃で液状である。重量増加率が1重量%以下の場合は、融点の低下が20℃以上とならない場合があり、特に炭素数4〜10の脂肪族モノカルボン酸スズ塩は30℃以下で液状にならない場合がある。上記脂肪族モノカルボン酸スズ塩のスズ含有量は、熱重量測定法などの既知の分析法を用いて求めることができる。
【0035】
このようにして得られた低融点脂肪族モノカルボン酸スズ塩の同定は、赤外線吸収スペクトル法、核磁気共鳴スペクトル法など既知の分析法を用いて行なうことができる。赤外線吸収スペクトルを参照すると、処理前の脂肪族モノカルボン酸スズ塩が1550cm−1付近にC=O二重結合由来の強いピークを示すのに対し、酸素接触処理により生成した低融点脂肪族モノカルボン酸スズ塩は、1610cm−1付近にC=O二重結合由来の強いピークを示す。
【0036】
上述の方法により、低融点の脂肪族モノカルボン酸スズ塩が容易に得られる。
特に炭素数4〜10の脂肪族モノカルボン酸スズ塩を用いると30℃において液状であるスズ塩が得られ得る。このようなスズ塩は、各種溶媒に可溶であり、樹脂との相容性も良好である。従って、各種触媒、安定剤、薄膜材料などとして、広い分野で使用され得る。
【0037】
【実施例】
以下に低融点モノカルボン酸スズ塩の製造方法を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに何ら限定されない。
【0038】
A.脂肪族モノカルボン酸スズ塩の合成
(合成例1)
攪拌装置、冷却管、温度計、窒素導入管を取り付けた4つ口フラスコ中に、脂肪族モノカルボン酸としてカプロン酸110g(0.95モル)を入れた。これにアルカリ水溶液として20%水酸化ナトリウム水溶液190g(0.95モル)を徐々に加え、窒素気流下、25℃で30分間攪拌した。さらに無機スズ化合物として塩化第一スズ・2水和物を105g(0.46モル)を含む50%水溶液を加えて、30分間攪拌した。これを5分間静置し分相させた。上層の水相をデカンテーションで除き、50℃に加温しながら、下層を5回水洗後、脱水して、カプロン酸スズ(脂肪族モノカルボン酸スズ塩I)を得た。この化合物は、赤外線吸収スペクトル法により、カプロン酸スズ塩であることを確認した。
【0039】
(合成例2〜5)
合成例1に準じて、所定の脂肪族モノカルボン酸に、モル比が1:1となるような量のアルカリを含むアルカリ水溶液を加えて攪拌し、表1に示す脂肪族モノカルボン酸塩を生成させた。次いで、表1に示す無機スズ化合物を用い、表1に示すモル比および反応条件で、合成例1と同様の操作を行い、脂肪族モノカルボン酸スズ塩II〜Vを得た。合成例3においては、無機スズ化合物との反応により沈殿物が生じたので、これを濾去した。
【0040】
(合成例6)
合成例1に準じて、カプロン酸にモル比1:1となるような量の水酸化ナトリウムを含む水溶液を加えて攪拌し、カプロン酸ナトリウム塩を生成させた。次いで、硫酸第一スズを用い、表1に示す仕込み比および反応条件で、合成例1と同様の操作を行い、カプロン酸スズ(脂肪族モノカルボン酸スズ塩VI)を得た。この合成例においては、得られたカプロン酸スズ塩を融点以上に昇温して融解したときに、未反応の硫酸第一スズの分解物による白濁が見られた。この不純物を濾去し、以後の操作に使用した。
【0041】
(合成例7)
特許文献5を参照して、次の方法により脂肪族モノカルボン酸スズ塩の合成を行なった。まず、窒素気流下において、酸化第一スズ25gを氷酢酸100gとともに8時間還流し、この混合物を室温まで冷却した後に濾過した。この濾液を、回転蒸発装置を用いて蒸発させた後、得られた白色固体をさらに真空乾燥することで酢酸スズ(脂肪族モノカルボン酸スズ塩VII)を得た。この化合物は、赤外線吸収スペクトル法により酢酸スズであることを確認した。
【0042】
(合成例8〜9)
合成例7に準じて、表1に示す脂肪族モノカルボン酸および無機スズ化合物を用い、表1に示す仕込み比および反応条件で、合成例7と同様の操作を行い、脂肪族モノカルボン酸スズ塩VIIIおよびIXを得た。
【0043】
【表1】
Figure 0004556381
【0044】
B.低融点脂肪族モノカルボン酸スズ塩の調製
(実施例1)
合成例1で得られた脂肪族モノカルボン酸スズ塩Iを加熱溶融し、75℃にて酸素供給性物質である酸素ガスをバブリングさせることにより、酸素との接触処理を行なった。その結果、低融点脂肪族モノカルボン酸スズ塩が得られた。使用した脂肪族モノカルボン酸スズ塩、酸素供給性物質、反応条件、ならびに得られた化合物の重量増加率(%;スズ原子重量を基準)、融点および常温(30℃)における性状を表2に示す。後述の実施例2〜8および比較例1〜3についても併せて表2に示す。
【0045】
(実施例2〜8)
合成例で得られた表2に示す脂肪族モノカルボン酸スズ塩を、表2に示す条件下で酸素供給性物質と接触させた。実施例2および7においては、脂肪族モノカルボン酸スズ塩に、30%過酸化水素水を滴下して所定時間攪拌を行なった。実施例5においては、脂肪族モノカルボン酸スズ塩を、所定時間オゾン雰囲気下に放置した。上記操作の結果、各実施例において低融点脂肪族モノカルボン酸スズ塩が得られた。
【0046】
(比較例1〜3)
合成例で得られた表2に示す脂肪族モノカルボン酸スズ塩を加熱溶融した。比較例1においては、窒素雰囲気下に、75℃にて12時間放置し、接触処理を行った。比較例2においては、窒素を70℃にて20時間バブリングさせることにより接触処理を行った。比較例3においては、酸素雰囲気中に25℃にて20日間放置することにより接触処理を行なった。接触処理後の脂肪族モノカルボン酸スズ塩の融点は処理前のスズ塩の融点と同様であり、いずれの比較例においても低融点脂肪族モノカルボン酸スズ塩は得られなかった。
【0047】
【表2】
Figure 0004556381
【0048】
表2から明らかなように、実施例1〜8においては、いずれも酸素供給性物質との接触前と比較して、融点が20℃以上低い脂肪族モノカルボン酸スズ塩が得られた。特に、炭素数4〜10である脂肪族モノカルボン酸スズ塩を用い、かつ酸素接触処理による重量増加率(スズ重量換算)が1%以上の場合には、すべて30℃において液状となった。
【0049】
比較例1〜3においては、処理後の脂肪族モノカルボン酸スズ塩はいずれも固体であった。また、これらの融点は、処理前と同じであり、変化はなかった。なお、比較例1および2は、酸素との接触を絶ったため、重量は増加しなかった。
また、比較例3においても、重量変化はなかった。
【0050】
上記合成例で得られた、酸素供給性物質に接触させる前の脂肪族モノカルボン酸スズ塩I〜VI、およびVII〜IXの赤外吸収スペクトルを測定した。その結果、いずれも1550cm−1付近にC=O二重結合由来の強いピークが認められた。これに対して、実施例1〜8で得られた低融点脂肪族モノカルボン酸スズ塩は、1610cm−1付近にC=O二重結合由来の強いピークを示した。図1に、合成例1で得られたカプロン酸スズ(脂肪族モノカルボン酸スズ塩I)の赤外吸収スペクトルを、そして図2に、実施例1で得られた低融点カプロン酸スズの赤外吸収スペクトルを示す。
【0051】
【発明の効果】
本発明によれば、このように、低融点の脂肪族モノカルボン酸スズ塩が容易に得られる。特に炭素数4〜10の脂肪族モノカルボン酸スズ塩を用いると30℃において液状であるスズ塩が得られる。このようなスズ塩は、各種触媒、安定剤、薄膜材料などとして、広い分野で使用され得る。
【図面の簡単な説明】
【図1】 合成例1で得られたカプロン酸スズ(酸素接触処理前)の赤外吸収スペクトルを示すチャートである。
【図2】 実施例1で得られた低融点カプロン酸スズ(酸素接触処理後)の赤外吸収スペクトルを示すチャートである。

Claims (5)

  1. 脂肪族モノカルボン酸スズ塩の製造方法であって、(1)炭素数4〜30の脂肪族モノカルボン酸またはその塩と無機スズ化合物とを反応させることにより、脂肪族モノカルボン酸スズ塩を得る工程、および(2)工程(1)で得られる脂肪族モノカルボン酸スズ塩に、脂肪族モノカルボン酸スズ塩の融点以上の温度で酸素または空気をバブリングする工程を特徴とする、脂肪族モノカルボン酸スズ塩の製造方法。
  2. 肪族モノカルボン酸スズ塩の炭素数が4〜10である、請求項1に記載の製造方法。
  3. 工程(1)で得られるスズ塩が、脂肪族モノカルボン酸塩の水溶液と、無機スズ化合物の水溶液とを混合することにより得られる脂肪族モノカルボン酸スズ塩である、請求項1または2に記載の製造方法。
  4. 肪族モノカルボン酸塩が、アルカリ金属塩、アンモニウム塩、および有機アミン塩でなる群から選択される少なくとも1種である、請求項3に記載の製造方法。
  5. 機スズ化合物が、塩化第一スズである、請求項3に記載の製造方法。
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