JP4552818B2 - アルミニウム合金製液冷部品の製造方法 - Google Patents
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Description
一般的に、アルミニウム合金のろう付けには、アルミニウム合金からなるろう材が使用される。そして、そのろう付け温度は、通常約600℃程度である。
しかし、この「ノコロック」ろう付け法では、KFとAlF3の共晶組成を有するフラックスを使用している。KFとAlF3の共晶点における融点は560〜570℃であり、ろう材として用いるJIS A4045やA4047のAl−Si系合金の融点が577℃であることから、ろう付けの際には、ろう材の融点よりも約30℃高い600℃程度まで加熱している。
この加熱により、融解したフッ化カリウム系フラックスによってアルミニウム材表面の酸化皮膜が溶解除去されるとともに、ろう材との濡れ性が極めて良くなり、融解されたろう材の流動拡散が助長される。接合部同士の接する部分へ流動したろう材がすみ肉(フィレット)を形成して被ろう付け部材を接合する。
一方、低融点ろう材としては融点が480℃前後のZn−Al系合金が古くから知られている(例えば特許文献1)。しかしながら、Al−Si系合金に比べてろうの流動性が悪く、フィレットの耐食性の劣ることから、近年では、融点520〜550℃のAl−Cu−Si系合金ろう材の開発が報告されている。
また、ろう付け接合部へのフラックスとろう材の供給方式として、作業効率改善のためにフラックスを内包又は含有したろう付け用ろう材ワイヤーが提案されている。
また特許文献2では、アルミニウム材又はその合金(JIS A1000系)を鞘にして、「ノコロック」フラックス或いはフッ化セシウム系非腐食性フラックスに銅,珪素,亜鉛等の金属粉末を所定の比率で混合し、前記鞘の芯に充填したろう付けワイヤーが提案されている。
さらに、特許文献3には、Al−Cu−Si三元系合金組成を得るための各金属粉末とフッ化セシウム含有フッ化物系非腐食性フラックス粉末をアルミニウム缶に封入し、真空下で400℃に加熱してプレスした固形物を押出して線材化したフラックス含有アルミニウム合金ろう付けワイヤーを製造することが記載されている。
「工業材料」,日刊工業新聞社出版,2003年6月号(Vol.51,No.6)p.90‐91
また、特許文献2で提案されたろう付けワイヤーでは、鞘に充填する金属粉末として銅を選べば融点が550℃前後の合金組成となり、570℃程度の温度でのろう付けが可能になるが、融点が570℃よりも低い鋳物のろう付けには使用できない。より広範囲の鋳物合金に適用させるためには、銅と珪素等の複数金属の混合粉末を充填して融点がより低くなったろう材とする必要がある。しかし、複数の金属粉末を混合して充填しようとすると、粒度分布や比重の違いによって均一な混合状態での充填は非常に難しい。また、充填する金属粉末は微細であり表面積の総和が非常に大きいため、ろう付け性を阻害する酸化物を非常に多く付随するものになっている。このため、良好なろう付け性を得るには、多量のフラックスの使用が必要になって製造コストを増大させる要因にもなる。
本発明は、加工性に優れるとともに、530〜570℃のろう付け温度でアルミニウム合金鋳物のろう付けが可能となる、低コストで提供されるろう付けワイヤーを用いて、その構成部材の内部に複雑形状の水路を備えたアルミニウム合金製液冷部品を低い温度でろう付けする方法を提供することを目的とする。
したがって、低融点のアルミニウム合金鋳物、殊に共晶点が約577℃であるAl−Si系のダイカスト製品であっても、ろう付け欠陥を発生させることなく、炉中ろう付けすることができる。このため、低温ろう付けが要求されるAl−Si系合金鋳物製品の利用範囲の大幅な拡大に貢献することができる。
その結果、ろう材として低融点のAl−Cu−Si系合金を用いることが好ましいこと、フラックスとしてCsFを含むフッ化物系非腐食性フラックスを用いることが好ましいこと、さらには、ろう材及びフラックス成分をワイヤー状に一体化し、アルミニウム合金鋳物と他方の被ろう付け部材との組み付け体のろう付け部に配置し、組み付け体を所定温度の雰囲気炉に装入することにより生産性良くろう付けできることを見出した。
以下にその詳細を説明する。
本発明は、Al−Cu−Siの三元系共晶点が低融点を呈することを最大限に活用している。しかしながら、Al−Cu−Si三元系共晶合金は塑性加工性が極めて悪い。このため、ろう付けワイヤーの鞘に形作ることが困難になるばかりでなく、ワイヤーを構成することができたとしても、その後に接合品部位に沿った形状への曲げ加工も行い難い。
Al−Si系合金材とCu材のクラッド材を用いることにより、ろう付け加熱時にAl−Si系合金とCuを反応(共融)させて融点が525℃のAl−Cu−Si三元系共晶ろうを生成させることができる。この結果、530〜560℃の低い温度範囲で容易にろう付けできる。
さらに、クラッド材を構成するAl−Si系合金材及びCu材はともに良好な塑性加工性を有している。クラッド材にした後にあっても良好な塑性加工性を維持しているので、通常のワイヤー製造設備を用いて鞘形状への成形加工及び鞘中へのフラックス充填が容易に行えるばかりでなく、被ろう付け体の接合部形状に合わせた曲げ加工が容易に行える。そして、自動トーチろう付け装置を使用する場合にも、連続的な供給が問題なく行える。
鞘の質量に対するCu材の質量22〜37質量%は、Cuの比重が8.9、Al−Si系合金の比重が2.7であるから、鞘の断面積に対するCu材の断面積の割合(管成形前の板状鞘素材のクラッド率)を8〜15%にすることで満足できる。
なお、Cu材をクラッドした鞘の断面形状は、図1に示すような四つの形態が想定されるが、いずれでも構わない。クラッド率に関する条件を満たしていれば良い。鞘形状への管成形も、通常の方法で変形加工される。
鞘内部へのフラックスの充填も通常の方法で行われる。
充填するフラックスとしては、融点が低く、非腐食性に優れたものが用いられる。ろう付け後のフラックス残渣除去工程を省略するためには、フッ化物系非腐食性フラックス粉末を用いることが必要である。また、フラックスの融点をAl−Cu−Si三元系共晶ろう合金の融点525℃以下に下げるためには、フッ化セシウム(CsF)を含有させることが必須となる。
ろう付けワイヤーの質量に対するフラックスの質量、いわゆる充填率は、特に規定する必要はなく、従来のコアードワイヤーの充填率と同程度の20〜40%であれば十分である。
ろう付けされるアルミニウム合金鋳物を他方の被ろう付け材を組み付け、そのろう付け部にアルミニウム合金ろう付けワイヤーを配置した後、ろう付け部を加熱してろう付けする。このろう付け方法に制限はない。通常と同じろう付け方法で十分である。所定温度に加熱された炉内に装入し、所定時間保持することにより十分にろう付けできる。ただし、本発明にあっては、酸化しやすいアルミニウム合金ろう材を用いている。したがって、ろう付けも、ろう材が酸化されることのない不活性ガス中で行われることが好ましい。ろう材の酸化をより防止するためには、ろう付け雰囲気を一旦真空にした後、窒素等の不活性ガスで置換することが好ましい。
通常、図2に示すような液冷部品は内部に複雑形状の水路を備えているので、一工程で製造することはできない。そのため、複雑形状の水路部をダイカスト等の鋳造法で作製する方法や鍛造で作製する方法が考えられる。さらに、水路ピッチが小さい場合には、スカイブ或いはワイヤーカットによって作製する場合も考えられる。そして、例えばワイヤーカット法により製造された複雑形状の水路部材2をダイカスト製ケース1の中にセットして液冷部品としている。
この際、ケース素材として流動性に優れたAl−Si系合金を用いると、鋳造欠陥を発生させることなく、複雑で厚さの薄い部材を容易に製作することができる。さらに、ダイカスト工法を採用することにより、低コストで液冷部品を製造することができる。
上記形態は、ダイカスト製ケースと複雑形状の水路部材を組み合わせているが、逆の形態、すなわち、ダイカスト等の鋳造法で作製した複雑形状の水路部材に、展伸材等で製造した蓋部材を組み合わせ、両者の接合部をろう付けワイヤーを用いたろう付け法で水密接合してもよい。
次に、鞘としてのAl−Si系合金材とCu材のクラッド率を種々変更したろう付けワイヤーを実際に作製し、ろう付け試験した例を示す。
Al−Si系合金材とCu材のクラッド鞘材の作製
厚さ10mmのJIS A4045板の2枚の間に、表1に示す厚さのCu板を挟んで先端を溶接して固定し、300℃に加熱して厚さ2mmまでクラッド圧延した。次いで、中間焼鈍,冷間圧延,最終焼鈍を施して、厚さ0.1mmのクラッド鞘材を作製した。
この鞘材の断面を観察して測定したCuのクラッド率と、それを基に計算した鞘材質量に対するCuの質量の割合を表1に併せて示す。
なお、No.1及び2の鞘材は、鞘材質量に対するCuの質量が本発明範囲の22〜37質量%の範囲にあるものである。そして、No.3の鞘材は、鞘材質量に対するCuの質量が本発明範囲より少なく、No.4の鞘材は、鞘材質量に対するCuの質量が本発明範囲より多いものである。さらに、従来例の鞘材(No.5)として、Cu板を挟まない板厚20mmのJIS A4045板から上記と同じ製板工程で厚さ0.1mmの鞘材を作製した。
表1に示した5種の鞘材を幅10mm,長さ20mmで切断し、外径1mmの鋼製丸棒に二〜三重に巻付けて、肉厚0.3mm,長さ20mmのろう付けワイヤーの鞘を作製した。この鞘の一端をペンチで閉じておき、これにフッ化セシウムを48モル%含むK−Cs−Al−F系のフッ化物系非腐食性フラックス(第一稀元素工業株式会社製;商品名「CF−2」)粉末を約30mg充填した後、他端を閉じてろう付けワイヤーとした。
なお、フラックスの充填率は、No.1〜4の鞘材では29〜32質量%であり、No.5の鞘材では36質量%であった。
厚さ1mm,幅25mm,長さ55mmのJIS−A3003アルミニウム合金板を下板とし、厚さ1mm,幅25mm,長さ25mmのJIS−A3003アルミニウム合金板を縦板とした逆T字型ろう付け試験片を組付け、下板と縦板の交線の片側に前記ろう付けワイヤーをセットした。この組付け体を窒素ガス雰囲気炉中で550℃まで昇温速度50℃/分で加熱し、550℃で3分間保持した後、約100℃/分で室温まで冷却した。
ろう付け性は、逆T字型試験片の外観を肉眼及び実体顕微鏡で観察するとともに、接合箇所中央部断面を光学顕微鏡で観察することにより下地の侵食状態を調べた。
接合部の外観評価は、ろう付けワイヤーセット側及び反対側のいずれも十分な大きさのフィレットが形成されたものを○,ろう付けワイヤーセット側に鞘材の一部が残存又は反対側のフィレットが小さいものを△,ろうが全く生成しなかったものを×,とした。
また、下地の侵食状態は、溶融したろうによるエロージョン(すなわち下地の融解)の最大深さを測定し、最大深さが0.1mm以下のものを◎,最大深さが0.1〜0.3mmのものを○,最大深さが0.3〜0.5mmのものを△,最大深さが0.5mm以上のものを×,とした。
その評価結果を表2に示す。
これに対して、比較例である、Cuの比率が少ないNo.3の鞘材のろう付けワイヤーを使用してろう付けしたものにあっては、ろう付けワイヤーセット側に鞘材が多量に残存し、反対側に流動したろうは少なかった。また、Cuの比率が多いNo.4の鞘材のろう付けワイヤーを使用してろう付けしたものにあっては、ろう付けワイヤーセット側の下地が激しく侵食されていた。これは、鞘材に対するCuの比率が37質量%を超えるとろう付けワイヤーのCuが余剰となり、接合すべき下地のアルミニウム合金と反応(共融)してAl−Cu−Si三元系共晶を生成していき、結果として下地に激しい侵食(エロージョン=融解)が生じたものと推測される。
なお、Cuを含まない従来の鞘材であるNo.5のろう付けワイヤーを使用してろう付けしたものにあっては、溶融したフラックスのしみだしは見られたものの、ろう付けワイヤーがそのままの形状で残存し、ろうは生成していなかった。
以上に説明したように、鞘の質量に対するCuの質量の比率を22〜37質量%とすることにより、低い温度で良好なろう付けが可能であることがわかる。
次に、フッ化物系非腐食性フラックスを内蔵したアルミニウム合金ろう付けワイヤーを用いてアルミニウム合金鋳物をろう付けした例について説明する。
ろう付け性評価のために、Al−7%Si−0.3%Mg合金(AC4C)からなるL=30mm,W=50mm,t=6mmのダイカスト材と、3003合金からなるL=30mm,W=50mm,t=1mmの板材を用意した。
ダイカスト材に板材を立て、逆T字型ろう付け試験片を組み付け、下板と縦板の交線の片側に前記ろう付けワイヤーを長さ50mmに切断してセットした。この組み付け体を雰囲気炉に入れ、雰囲気炉の内部を一旦真空にした後に窒素ガスで置換した。その後、この炉内で、組み付け体を520℃まで約40分で加熱し、さらに520〜580℃の各温度で5分保持した後、冷却することでろう付けを行った。
ろう付け後、逆T字ろう付け試験片を切断してろう付け状態を目視で観察してろう付け性を評価した。その結果を表3に示す。
なお、表中の評価は、外観観察によりダイカスト材と板材が全く問題なくろう付けされているものを良好として○で、一部にでもろう付け不良箇所があるものを不良として×で表示した。
本発明のフッ化物系非腐食性フラックス内蔵アルミニウム合金ろう付け用ワイヤー利用技術の有効性を確認するために、縦材として、3003合金板の両面にろう材としての固相線温度577℃の4343合金板を10%の割合でクラッドした、いわゆるろうクラッド材を用い、フラックスとして、通常のノコロック(登録商標)粉末を用いてろう付け試験を行った。
実施例と同じサイズのダイカスト材をベース材とし、このベース材のろう付け箇所表面にノコロックを塗布した後、前記ろうクラッド材を立て、逆T字ろう付け試験用組み付け体を作製した。
その組み付け体を雰囲気炉に入れ、実施例と同様に加熱した。この場合、炉内で、組み付け体を560℃まで約40分で加熱し、さらに560〜590℃の各温度で5分保持した後、冷却することでろう付けを行った。
そして、実施例と同様に、ろう付け後、逆T字ろう付け試験片を切断してろう付け状態を目視で観察してろう付け性を評価した。その結果を併せて表3に示す。
これに対して、ろう付け温度が530℃を下回ると、ろう材が溶融せずにろう付けできないことがわかる。逆に570℃を上回るほどに高い温度でろう付けすると、ベース材であるAC4C材そのものが部分溶融するようになって、良好なろう付けはできていない。
このように、共晶温度が低いAl−Cu−Si系合金を作るAl−Si系合金材とCu材のクラッド材をろう材として用い、さらにCsFを含ませて溶融温度を下げたフッ化物系フラックスを用いることにより、共晶温度が低いアルミニウム合金鋳物も、低いろう付け温度で問題なくろう付けすることが可能になる。
Claims (3)
- 水路構造を有するアルミニウム合金鋳物にアルミニウム合金製蓋を被せ、両者を水密接合したアルミニウム合金製液冷部品を製造する方法であって、前記アルミニウム合金鋳物と前記アルミニウム合金製蓋の最外側当接部に、Si含有量が5〜15質量%のAl−Si系合金板と、鞘全体の質量に対するCuの質量が22〜37質量%に相当するCu板から構成されているクラッド材から構築された中空の鞘と、当該鞘内に充填されたフッ化セシウムを含むフッ化物系非腐食性フラックス粉末とからなるアルミニウム合金ろう付けワイヤーを介在・配置した後、その組み付け体を加熱することを特徴とするアルミニウム合金製液冷部品の製造方法。
- ダイカスト製アルミニウム合金ケース内に、水路構造を有するアルミニウム合金製水路部材を嵌め込み、両者を水密接合したアルミニウム合金製液冷部品を製造する方法であって、前記アルミニウム合金製水路部材と前記ダイカスト製アルミニウム合金ケースの最外側当接部に、Si含有量が5〜15質量%のAl−Si系合金板と、鞘全体の質量に対するCuの質量が22〜37質量%に相当するCu板から構成されているクラッド材から構築された中空の鞘と、当該鞘内に充填されたフッ化セシウムを含むフッ化物系非腐食性フラックス粉末とからなるアルミニウム合金ろう付けワイヤーを介在・配置した後、その組み付け体を加熱することを特徴とするアルミニウム合金製液冷部品の製造方法。
- フッ化物系非腐食性フラックス粉末が、固形分として10モル%以上のCsFを含むものである請求項1又は2に記載のアルミニウム合金製液冷部品の製造方法。
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