以下、本発明の実施形態を説明する。ここでは、記録ビットに記録を行う記録ヘッドの進行方向をダウントラック方向、ダウントラック方向に直交する方向をクロストラック方向と呼ぶ。
図1に、本発明のパターンド媒体の一実施形態の概略断面図を示す。図1のパターンド媒体において、基板1上に下地層2および凸パターンをなす記録ビット3が形成されている。凸パターンをなす記録ビット3の間の凹部には、非磁性体の埋め込み層7が埋め込まれており、記録ビット3は埋め込み層7を介して互いに分離されている。さらに、図1の媒体は、記録ビット3および非磁性埋め込み層7を覆うように保護膜8が形成されている。保護膜8上には潤滑剤(図示せず)が塗布される。
記録ビット3のパターンを概略的に図2に示す。図2は、データ部11、プリアンブル部12、アドレス部13、バースト部14が強磁性記録層のパターンとして形成されている、ディスクリートビット型パターンド磁気記録媒体の表面パターンである。
図3(A)に図2の記録ビット3の拡大平面図を示す。図3(A)の上方の矢印はダウントラック方向を示す。図3(A)の記録ビット21は、その平面形状が、ダウントラック方向の下流側にクロストラック方向に平行で幅がw1の第1の辺と、ダウントラック方向の上流側にクロストラック方向に平行で幅がw2(w2はw1よりも小さい)の第2の辺と、ダウントラック方向に対して傾斜する2つの辺とを有する台形となっている。
本発明者らは、幅が狭い部分へ向かう方向への磁壁移動に必要なエネルギーが、幅の広い部分へ向かう方向への磁壁移動に必要なエネルギーよりも低いことに着目し、図2のように、記録ビットのクロストラック方向の幅に差を持たせることで、記録ビット中に発生した磁壁の移動方向を制御することができ、記録エラーを起こさず確実に記録が可能なタイミングを広くとることができることを見出した。
記録ビットへの記録は、記録ヘッドから発生させる記録磁界によって記録ビットの磁化を反転させることにより行う。パターンド媒体の場合、記録磁界を発生させる際の記録ヘッドの位置により記録ビットの磁化反転状態が異なる。記録ヘッドの上から見て、記録ヘッドが記録しようとする記録ビット全体を覆うように位置するタイミングで記録磁界を発生させれば、その記録ビットはビット内において全ての部分が磁化反転し、記録が成功する。しかし、上述のタイミングからずれたときに記録磁界を発生させると、記録ビット内に磁化反転が起きた部分と反転が起きない部分とが発生し、その境界に磁壁が発生する。磁壁が存在するこの状態は多磁区構造と呼ばれ、記録ビットが小さくなるにつれて不安定になる。パターンド媒体の記録ビットは多磁区構造をとることができない大きさであるため、多磁区構造の記録ビットは、磁壁がダウントラック方向の上流側または下流側のどちらかに移動することにより、より安定な単磁区構造へと遷移する。記録ヘッドの移動方向を考えると、磁壁がダウントラック方向の上流側に移動すれば記録ビット全体が磁化反転して記録が成功し、一方磁壁がダウントラック方向の下流側に移動すれば記録ビットは磁化反転せずに記録エラーとなることがわかる。
磁壁が移動するために必要なエネルギーの大きさは、記録ビットのクロストラック方向の幅に依存する。従って、記録ビットがクロストラック方向において均一な幅を持つ従来のビットの場合、ダウントラック方向の上流側への磁壁の移動と下流への磁壁の移動とで必要なエネルギーの大きさは変わらない。よってどちらに磁壁が移動するかは確率的であり、記録が成功するか否かは確率的なものとなる。
一方、図3(A)に示したように、本実施形態のパターンド媒体の記録ビットの平面形状は、ダウントラック方向の上流側のクロストラック方向と平行な辺の幅がダウントラック方向の下流側のクロストラック方向と平行な辺の幅より小さい台形なので、記録ビット中に発生した磁壁はより必要なエネルギーが低いダウントラック方向の上流側に移動し、結果記録ビット全体の磁化が反転する。従って、記録ビットへの書き込みタイミングがずれた場合でも、記録ビットの一部の磁化が反転しさえすれば、記録エラーを起こすことなく記録が成功する。
ここで、本実施形態のパターンド媒体と従来のパターンド媒体とを比較しながら、本実施形態の書き込みタイミングのずれの許容範囲の大きさを説明する。
図4に記録ヘッド20と記録ビットとの位置関係を概略的に示す。図4(A)の記録トラック20の上方に記載した矢印はダウントラック方向を示す。
図4(A)のタイミングで記録磁界を発生させた場合、記録ビット21には記録磁界が及ばず、記録ビット22には全体に記録磁界が及ぶ。従って図4(A)のタイミングで記録磁界を発生させれば、記録ビットの形状がどのような形であっても、記録ビット21は磁化反転が起きないために記録が行われない一方で、記録ビット22は全体が磁化反転を起こすため記録が成功する。
図4(B)は、記録ヘッド20の上から見た場合に、記録ヘッド20のダウントラック方向の上流側の末端と記録ビット22のダウントラック方向の上流側の末端とが重なった位置関係を示す。図4(B)のタイミングで記録磁界を発生させれば、図4(A)と同様に記録ビット22全体に記録磁界が及ぶため、記録ビット22はいかなる形状であっても磁化反転する。従って、図4(A)から図4(B)の間のタイミングで記録磁界を発生させれば、記録ビット22がいかなる形状であっても、記録は成功する。
記録ヘッド20が図4(B)の位置からさらにダウントラック方向に移動した場合の位置関係を図4(C)に示す。図4(C)のタイミングで記録磁界を発生させた場合、記録ビット22の中に磁壁が発生する。上で説明したように、パターンド媒体の記録ビットは多磁区構造をとれないので、記録ビット22は磁壁が移動することにより単磁区状態へと遷移する。
図5(A)および(B)は、図4(C)のタイミングで記録磁界を発生させた場合の、従来のパターンド媒体および本実施形態のパターンド媒体の記録ビット22の磁化状態をそれぞれ模式的に表した表面図である。図5(A)に示すように、記録ビットの表面形状が長方形である従来のパターンド媒体の場合、磁壁がダウントラック方向の上流側(左側)とダウントラック方向の下流側(右側)のどちらに移動するかは確率的であり、記録エラーが発生する可能性がある。つまり、従来のパターンド媒体にとっては、図4(C)のタイミングは確実な記録を行うことができるタイミングであるとはいえないことがわかる。一方、記録ビットの表面形状が台形である本実施形態のパターンド媒体の場合、記録ビット22の中に磁壁が発生すると、図5(B)に示すように、磁壁はダウントラック方向の上流側に移動し、結果記録ビット22全体で磁化反転が起きる。つまり、本発明のパターンド媒体にとっては、図4(C)のタイミングは確実な記録を行うことができるタイミングであることがわかる。
記録ヘッド20がさらに移動して図4(D)や(E)のタイミングで記録磁界を発生させると、磁壁の発生する位置が変化する。図5(C)および(D)は、図4(E)のタイミングで記録磁界を発生させた場合の従来のパターンド媒体および本実施形態のパターンド媒体の記録ビット22の磁化状態をそれぞれ模式的に表した平面図である。図5(C)に示すように、記録ビットの平面形状が長方形である従来のパターンド媒体の場合、記録が成功するか記録エラーとなるかは不確定である。つまり、従来のパターンド媒体にとっては、図4(E)のタイミングは確実な記録を行うことができるタイミングであるとはいえないことがわかる。一方、記録ビットの表面形状が台形である本実施形態のパターンド媒体の場合には、図5(D)に示すように磁壁がダウントラック方向の上流側に移動するため、結果記録ビット全体で磁化反転が起きる。つまり、本発明のパターンド媒体にとっては、図4(E)のタイミングは確実な記録を行うことができるタイミングであることがわかる。
以上から、記録ビットの表面形状が台形である本実施形態のパターンド媒体であれば、磁壁は記録ビット22のどこに発生したとしてもダウントラック方向の上流側に移動し、結果ビット22全体が磁化反転することがわかる。つまり、記録ヘッド20の上から見た場合に記録ヘッド20のダウンドラック上流側の末端と記録ビット22のダウントラック方向の下流側の末端とが重なる位置関係、つまり図4(F)の位置関係になる直前のタイミングで記録磁化を発生させても、記録が成功することがわかる。図4(F)の位置関係に達した以降は、記録ビット22に記録磁界が及ばないため、記録は成功しない。
上の事実を記録マージンの観点で考える。ここで記録マージンとは、記録エラーなしに記録が可能な書き込みタイミングの許容範囲を記録ヘッドの移動距離で示したものである。パターンド媒体において記録ビットの大きさは均一であり、また、媒体内で記録ビットは等間隔に配置されている。以下、本実施形態の記録ビット21および記録ビット22のダウントラック方向の長さをビット長m、記録ビット21と記録ビット22と間の距離をビット間スペーシングnとする。
記録ビットの平面形状が台形である本実施形態のパターンド媒体の場合、上述のように図4(A)から図4(F)のタイミングで記録磁界を発生させれば、記録エラーなしに記録が可能である。図4(A)〜図4(B)までの記録ヘッド20の移動距離はビット間スペーシングnに相当し、図4(B)〜図4(F)までの記録ヘッド20の移動距離はビット長mに相当する。従って本実施形態のパターンド媒体は、記録マージンをビット間スペーシングn+ビット長mだけとることができる。
一方、記録ビットの平面形状が長方形である従来のパターンド媒体の場合、上述の通り、図4(A)〜図4(B)のタイミングで記録磁界を発生させないと記録エラーを起こす可能性があるため、記録マージンをビット間スペーシングnしかとれない。
このように本実施形態のパターンド媒体は従来のパターンド媒体よりも記録マージンをビット長に相当する距離だけ長く確保できる。従って、従来のパターンド媒体は記録マージンが狭く記録エラーを防ぐためにシンクロ記録が必要であったが、本実施形態のパターンド媒体は記録マージンを広くとることができ、シンクロ記録を行わずとも記録エラーを抑えることができることがわかる。
次に、上で説明した本発明の一実施形態の変形例について説明する。図6に本変形例のパターンド媒体の表面パターンを示す。図6のパターンは、記録トラック15、プリアンブル部12、アドレス部13、バースト部14が強磁性記録層のパターンとして形成されている、ディスクリートトラック型パターンド磁気記録媒体の表面パターンである。
ディスクリートトラック型のパターン媒体はダウントラック方向に記録ビットが繋がっている構造を有しているので、ディクリートビット型のパターンド媒体ほど厳密なシンクロ記録を必要としない。しかし、記録トラックのクロストラック方向の幅が均一な従来のDTR媒体では、記録タイミングがずれて記録単位である記録ビット中に磁壁が発生すると、磁壁の移動方向が定まらないために記録エラーが発生する可能性がある。
一方、図6からわかるように、本変形例のパターンド媒体は、平面形状が台形である図2の記録ビット3がダウントラック方向に隙間なく並んで形成されている記録トラック15を有する。記録ビット3の形状は上で説明した本発明の一実施形態と同じ形状であるため、記録タイミングのずれにより記録ビット3中に磁壁が発生しても、磁壁はそれぞれの記録ビット全体が磁化反転する方向に移動し、それぞれの記録単位である記録ビットごとに記録を成功させることができる。従って、従来のディスクリートトラック型のパターンド媒体よりも記録マージンを広くとることができる。
次に、本発明の他の実施形態を説明する。図3(B)に本実施形態のパターンド媒体の記録ビットの平面形状の概略図を示す。図3(B)の記録ビットは、ダウントラック方向の上流側と下流側にクロストラック方向に対して平行で幅がw1で等しい2辺を有し、中心部のクロストラック方向の幅w2が前記2辺の幅w1よりも大きい、六角形の表面形状を有する。
図7に、記録ビット内に磁壁が発生した場合の、本実施形態のパターンド媒体の記録ビットの磁化状態を示す。図7(A)は図4(C)のタイミングで記録磁界を発生させた場合の磁化状態を示し、図7(B)は図4(D)になる直前のタイミングで記録磁界を発生させた場合の磁化状態を示す。図7からわかるように、中心からダウントラック方向の上流側であれば、記録ビット22中のどこに磁壁が発生しても、磁壁はクロストラック方向の幅が狭いダウントラック方向の上流側に移動し、結果記録ビット22全体の磁化が反転することがわかる。従って、本実施形態のパターンド媒体にとっては、図4(A)〜図4(D)の間のタイミングは、記録エラーなしに、確実な記録を行うことができるタイミングであることがわかる。本実施形態の記録ビットのビット長をm’とすると、本実施形態のパターンド媒体は記録マージンをビット間スペーシングn+ビット長の半分m’/2とることができる。つまり、本実施形態のパターンド媒体は、従来のパターンド媒体に比べて、ビット長の半分m’/2だけ記録マージンを広くとることができるので、シンクロ記録を行わずとも記録エラーを抑えることができることがわかる。
次に、本発明のさらに他の実施形態を説明する。図3(C)に本実施形態のパターンド媒体の記録ビットの平面形状の概略図を示す。図3(C)の記録ビットは、ダウントラック方向の上流側と下流側にクロストラック方向に平行で幅がw2で等しい2辺を有し、中心部のクロストラック方向の幅w1が前記2辺の幅w2よりも小さい表面形状を有する。本実施形態のパターンド媒体は、記録ビットのビット長をm’’とすると、記録マージンをビット間スペーシングn+ビット長の半分m’’/2とることができる。つまり、本実施形態のパターンド媒体は、従来のパターンド媒体に比べて、ビット長の半分m’’/2だけ記録マージンを広くとることができるので、シンクロ記録を行わずとも記録エラーを抑えることができる。
以下、図面を参照しながら本発明のパターンド媒体の製造方法の一例を説明する。なお、パターンド媒体の各構成の材料は後述する。
まず図8(A)に示すように、基板1上に下地層2(軟磁性下地層や配向制御用下地層を含む)、記録ビット3および保護層4を順次成膜する。例えば、ガラス基板1上に、軟磁性層としてCoZrNb層を120nm、配向制御用下地層としてRuを20nm、強磁性記録層としてCoCrPt−SiO2層を20nm順次成膜し、その上に保護層としてC保護層を4nm成膜する。
図8(B)に示すように、保護層4上に、スピンコート法によって、インプリントレジスト層5を成膜する。インプリントレジストとしては例えば、一般的なノボラック系のフォトレジスト、スピンオングラス(SOG)を用いることができる。
図8(C)に示すように、インプリントレジスト層5にスタンパ6をプレスすることによってパターンを転写する(インプリント法)。スタンパ6は、転写しようとするトラック部、プリアンブル部、アドレス部、およびバースト部のそれぞれのパターンに対応する凹凸パターンを有する。スタンパの表面に予めフッ素系の剥離剤を塗布することで、スタンパ6とインプリントレジスト層5との良好な剥離ができる。
ここで、本発明のパターンド媒体を製造するために使用するパターン転写用のインプリントスタンパの製造方法について図9を参照しながら説明する。
通常のインプリントスタンパの製造方法では、電子ビーム(electron beam;EB)描画を用いて所望のパターンをスタンパの原盤に形成する。この方法では、EBの位置を固定させ、円盤状の原盤を回転させながら、パターンを描画する。
本発明のパターンド媒体を製造するためのスタンパの製造では、EBの照射位置を原盤の半径方向に微調節して、図9に示すようにEBスポットの半径方向の位置を変えて原盤を回転させながら描画する。こうして、本発明のパターンド媒体の記録ビットの形状を描画することができる。この際、EBスポットが重なる場所は露光量が増えるため、露光量に応じてブランキング(ビーム電流の間引き)を行う。それにより深さが均一な描画が可能となる。この方法により、台形、六角形などの表面形状を有する記録ビットのパターンを描画することができる。
EBで描画したパターンは原盤上の凹部となるため、この原盤からスタンパを起こすと記録ビットが凸部で形成されたスタンパ(ファザースタンパ)が製造できる。ファザースタンパからさらにスタンパを起こすことにより、記録ビットが凹部で形成されたマザースタンパを製造し、これをインプリントに使用する。
さらにここで、インプリント法によるパターンの転写を説明する。インプリントはダイセットを用いて行う。ダイセットの下板上に、スタンパ6、基板1、バッファ層を順に積層させ、その上に、これらをダイセットの下板との間に挟み込むようにダイセットの上板を設置する。このとき、スタンパ6の凹凸と基板1上に成膜したインプリントレジスト層5とを対向させて積層させる。プレスは例えば、2000barで60秒間行う。60秒はレジストの移動時間である。
インプリント工程後にスタンパ6を取り除くことにより、図8(D)に示すように、凹凸パターンが転写されたインプリントレジスト層5を有する基板1を得る。
図8(E)に示すように、反応性イオンエッチング(RIE)を行い、インプリントレジスト層5に転写されたパターン凹部に残留するレジスト残渣を除去する。RIEに用いるガスは、インプリントレジスト層5の材料に応じて適時選択する。インプリントレジストとしてSOGを用いた場合は、フッ素系ガス、例えばCF4やSF6が好適だが、大気中の水と反応してHF、H2SO4などの酸が生じることがあるため、水洗を行う必要がある。インプリントレジストとしてノボラック系フォトレジストを用いた場合には、酸素ガスを用いるRIEが好適である。プラズマソースは、低圧で高密度プラズマが生成可能な誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma;ICP)が好適だが、電子サイクロトン共鳴(Electron Cyclotron Resonance;ECR)プラズマ、一般的な並行平板型RIE装置を用いることもできる。
図8(F)に示すように、残渣を除去したインプリントレジスト層5をエッチングマスクとして用い、磁性体加工を行う。磁性体加工にはArイオンビームを用いたエッチング(Arイオンミリング)が好適だが、Clガス、もしくはCOとNH3との混合ガスを用いたRIEでも良い。COとNH3との混合ガスを用いたRIEの場合、エッチングマスクにはTi、Ta、Wなどのハードマスクを用いなくてはならない。これら磁性体RIEを用いた場合、磁性体凹凸にテーパは付かない。如何なる材料でもエッチング可能なArイオンミリングで磁性体加工を行う場合は、例えば加速電圧400V、イオン入射角度は30°から70°まで変化させてエッチングを行う。ECRイオンガンを用いたミリングは、静止対向型(イオン入射角90°)でエッチングすることで、殆ど磁性体凹凸にテーパが付かない加工が可能である。この結果、記録ビット3の凹凸パターンが形成される。
図8(G)に示すように、記録ビット3の凸部上に残留するインプリントレジスト層5を除去する。レジスト除去には、レジスト残渣除去と同様の方法を使用することができる。
図8(H)に示すように、記録再生ヘッドの安定浮上を実現するために、非磁性埋め込み層7による記録ビット3の凹凸パターンの埋め込みを行う。埋め込みは、非磁性材料をバイアススパッタ法、または通常のスパッタ法で成膜することにより行う。バイアススパッタ法は、基板にバイアスをかけながらスパッタ成膜する方法で、容易に凹凸を埋め込みながら成膜できる。しかし、基板バイアスによる基板の溶解、スパッタダストが生じやすいので、通常のスパッタ法を用いるのが好適である。
図8(I)に示すように、記録ビット3が露出するまでエッチバックを行う。エッチバック工程では、Arイオンミリングを用いることが好ましい。本発明の方法ではシリコン系埋め込み層を使用しているので、フッ素系ガスを用いたRIEを行うこともできる。ECRを用いたエッチングでも良い。
図8(J)に示すように、C保護層4の形成を行う。C保護層4は、凹凸へのカバレッジを良くするためにCVD法で成膜することが望ましいが、スパッタ法、真空蒸着法でも構わない。CVD法でC保護層4を形成した場合、sp3結合炭素を多く含むDLC膜が形成される。膜厚は2nm以下であるとカバレッジが悪くなり、10nm以上だと、記録再生ヘッドと媒体との磁気スペーシングが大きくなってSNRが低下するので好ましくない。また、保護層3上には、潤滑剤(図示せず)を塗布する。
次に、本発明のパターンド媒体を使ったドライブの構成を図10を用いて説明する。
図10は、本発明に関する磁気記録装置の一つの実施形態を示す外観斜視図である。この磁気記録装置は、筐体の内部に磁気ディスク50と、磁気ヘッド55と、磁気ヘッド55を搭載するヘッドサスペンションアッセンブリ(サスペンションとアーム)54と、アクチュエータ53と、回路基板56とを備える。磁気ディスク50はスピンドルモータ51に取り付けられて回転され、垂直磁気記録方式により各種のディジタルデータが記録される。磁気ヘッド55はいわゆる複合型ヘッドであり、単磁極構造のライトヘッドと、GMR膜やTMR膜などを用いたリードヘッドとが共通のスライダ機構に搭載される。リードヘッドにはシールド型MR再生素子などが用いられる。ヘッドサスペンションアッセンブリ54は磁気ヘッドを磁気ディスクの記録面に対向支持する。アクチュエータ53はボイスコイルモータ(VCM)52により、ヘッドサスペンションアッセンブリ54を介して磁気ヘッド53を磁気ディスク50の任意の半径位置に位置決めする。回路基板56にはヘッドICを備え、アクチュエータ53の駆動信号および、磁気ヘッド55の読み書き制御を行う制御信号などを生成する。
(実施例)
以下、本発明の実施例を詳細に説明する。
(実施例1)
本実施例では、図8に示した方法に従い、パターンド媒体を作製した。
まず、ガラス基板上に軟磁性層として120nmのCoZrNb層、配向制御用下地層として20nmのRu層、強磁性記録層として20nmのCoCrPt−SiO2層、保護層として4nmの炭素を順次成膜した。
その後、保護膜上にスピンコート法で、インプリントレジスト層としてSOGを厚さ100nmになるように塗布した。
次に、記録ビットの表面形状が図11(A)に示すような台形である凹凸パターンが形成されたインプリントスタンパをSOG層にプレスしてインプリントを行い、SOG層に凹凸パターンを転写した。
パターン転写後、ICPエッチング装置においてRIEを行い、転写された凹凸パターンの凹部にあるインプリント残渣を除去した。RIEは以下の条件で30秒間行った:プロセスガス;CF4、チャンバー圧;2mTorr、Coil RF;100W、Platen RF;100W。
レジスト残渣除去後、インプリントレジストをエッチングマスクとして用い、イオンミリングによる磁性体加工を磁性層に対して行った。イオンミリングはエッチング装置において以下の条件で3分間行った:プロセスガス;Ar、プラズマソース;ECRイオンガン、マイクロ波パワー;800W、加速電圧;500V。イオンミリングによるエッチング後、凹部において保護層および強磁性記録層が完全に除去され、凸部上面から凹部上面までの高さの差が24nmである凹凸パターンが磁性層に形成された。
磁性体加工後、磁性層凸部に残るSOGをRIEによって除去した。RIEは以下の条件で1分間行った:プロセスガス;CF4、チャンバー圧;2mTorr、Coil RF;100W、Platen RF;100W。
レジスト除去後、スパッタ装置において、記録再生ヘッドの安定浮上を目的として、磁性層のパターンの凹部に非磁性埋め込み材を埋め込んだ。本実施例では、HDD用スパッタ成膜装置で500W、0.5PaでCを100nm成膜することで埋め込みを行った。
次に、非磁性体埋め込み層をエッチバックした。エッチバックは以下の条件で約5分間ECRイオンガンを用いてイオンミリングすることによって行った:プロセスガス;Ar、マイクロ波パワー;800W、加速電圧;700V。エッチバックの終点検出は、四重極式質量分析計(Q−mass)を用いて、磁性層表面のCoが検出されたところとした。
エッチバック後、CVD(化学気相堆積法)で表面にDLC保護層を形成し、その上に潤滑剤を塗布することで本実施例のパターンド媒体を得た。
作製したパターンド媒体の記録ビットの表面形状は、図11(A)に示すように、ダウントラック方向の上流側のクロストラック方向に平行な辺の幅が80nm、ダウントラック方向の下流側のクロストラック方向に平行な辺の幅が120nm、ダウントラック方向の最大ビット長が25nmの台形であった。このパターンド媒体は130Gbpsi相当の記録密度がある。
この媒体をHDDに組み込み、ビットエラーレート(BER)を測定したところ、1.0×10−6という良好な値を得た。
(比較例1)
インプリント工程において、記録ビットに相当するパターンの表面形状が長方形であるスタンパを用いた以外、実施例1と同じ方法でパターンド媒体を作製した。
作製したパターンド記録媒体の記録ビットの形状は、クロストラック方向の幅が120nm、ダウントラック方向の幅(ビット長)が25nmの長方形であった。
この媒体をHDDに組み込み、BERを測定したところ、1.0×10−4という値を得た。
実施例1と比較例1の結果を比較すると、実施例1の媒体は比較例1の媒体よりも二桁BERが良好であることがわかる。これは、シンクロ記録のシークエンスを記録ヘッドに組み込んでいなかったため、従来のパターンド媒体である比較例1の媒体は、記録ビットからずれたタイミングで記録磁界を発生した際に、記録エラーが発生し、それによりBERが劣化したと考えられる。一方、実施例1の媒体は記録ビットへの記録マージンを従来媒体よりもビット長だけ、つまり25nmだけ広くとれるため、シンクロ記録を行わなくても記録エラーを防ぐことができ、それにより従来の媒体よりも良好なBERを示したと考えられる。
(実施例2)
インプリント工程において、記録ビットに相当するパターンの表面形状が図11(B)に示すような六角形であるスタンパを用いた以外、実施例1と同じ方法でパターンド媒体を作製した。
作製したパターンド媒体の記録ビットの表面形状は、図11(B)に示すように、ダウントラック方向の上流側および下流側のクロストラック方向に平行な2つの辺の幅がそれぞれ80nm、中心のクロストラック方向の幅が120nm、ダウントラック方向の最大ビット長が50nmの六角形であった。このパターンド媒体は65Gbpsi相当の記録密度がある。
この媒体をHDDに組み込み、BERを測定したところ、1.0×10−6という良好な値を得た。
(実施例3)
インプリント工程において、記録ビットに相当するパターンの表面形状が図11(C)に示すものであるスタンパを用いた以外、実施例1と同じ方法でパターンド媒体を作製した。
作製したパターンド媒体の記録ビットの表面形状は、図11(C)に示すように、ダウントラック方向の上流側および下流側のクロストラック方向に平行な幅が120nm、中心のクロストラック方向の幅が80nm、ダウントラック方向の最大ビット長が50nmであった。このパターンド媒体は65Gbpsi相当の記録密度がある。
この媒体をHDDに組み込み、BERを測定したところ、1.0×10−6という良好な値を得た。
実施例2および実施例3の結果から、記録ビットの表面形状が六角形である媒体は、記録マージンを従来媒体よりもビット長の半分だけ、つまり25nmだけ広くとれるので、シンクロ記録を行わなくても記録エラーを防ぐことができ、それにより従来の媒体よりも良好なBERを示すことがわかった。
現行のEB描画で描画できるのは実施例1から3のサイズが限界である。つまり、実施例1の記録ビットの平面形状が台形であるパターンド媒体は130Gbpsi相当の記録密度が確認できたが、その他のビット形状では、半分の65Gbpsi相当の記録密度までしか確認できなかった。その点からは、記録ビットの平面形状が台形である媒体が一番優れているといえる。しかしながら、更なる微細描画が可能なEB描画装置があれば、ビットの平面形状が六角形の媒体であれば、記録ビットの平面形状が台形の媒体と同等の性能がでると思われる。
(実施例4)
インプリント工程において、記録ビットに相当するパターンの代わりに、図12に示す表面形状の記録トラックのパターンを有するスタンパを用いた以外、実施例1と同じ方法でパターンド媒体を作製した。
作製したDTR型パターンド媒体の記録トラックの表面形状は、図12に示すように、ダウントラック方向の上流側のクロストラック方向に平行な辺の幅が80nm、ダウントラック方向の下流側のクロストラック方向に平行な辺の幅が120nm、ダウントラック方向の最大ビット長が50nmの台形がダウントラック方向に隙間なく並んでいる形状であった。
このDTR媒体をHDDに組み込み、BERを測定したところ、1.0×10−6という良好な値を得た。
実施例4の結果から、記録トラックのクロストラック方向の幅を変えて磁壁の移動を制御することで、記録タイミングのズレによる記録エラーを抑えることができることがわかる。DTR媒体は、ダウントラック方向に対して繋がった構造を有するので、ディスクリートビット型パターンド媒体ほどは厳密なシンクロ記録を必要としない。しかし、実施例4のDTR媒体が記録エラーを抑えて良好なBERを示したことは大きな利点であると考えられる。
以下、本発明の実施形態に係るパターンド媒体の各層に用いられる材料や、各層の積層構造について説明する。
<基板>
基板としては、例えばガラス基板、Al系合金基板、セラミック、カーボンや、酸化表面を有するSi単結晶基板、およびこれらの基板にNiP等のメッキが施されたもの等を用いることができる。ガラス基板としては、アモルファスガラス、結晶化ガラスがあり、アモルファスガラスとしては汎用のソーダライムガラス、アルミノシリケートガラスを使用できる。また、結晶化ガラスとしては、リチウム系結晶化ガラスを用いることができる。セラミック基板としては、汎用の酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、窒化珪素などを主成分とする焼結体や、これらの繊維強化物などが使用可能である。基板としては、上記金属基板、非金属基板の表面にメッキ法やスパッタ法を用いてNiP層が形成されたものを用いることもできる。また,基板上への薄膜の形成方法として以下ではスパッタリング法のみを取り上げたが,真空蒸着法や電解メッキ法などでも同様の効果を得ることができる。
<軟磁性下地層>
軟磁性下地層(SUL)は、垂直磁磁気記録層を磁化するための磁気ヘッド例えば単磁極ヘッドからの記録磁界を、水平方向に通して、磁気ヘッド側へ還流させるという磁気ヘッドの機能の一部を担っており、磁界の記録層に急峻で充分な垂直磁界を印加させ、記録再生効率を向上させる役目を果たし得る。
軟磁性下地層には、Fe、Ni、Coを含む材料を用いることができる。このような材料として、FeCo系合金例えばFeCo、FeCoVなど、FeNi系合金例えばFeNi、FeNiMo、FeNiCr、FeNiSiなど、FeAl系合金、FeSi系合金例えばFeAl、FeAlSi、FeAlSiCr、FeAlSiTiRu、FeAlOなど、FeTa系合金例えばFeTa、FeTaC、FeTaNなど、FeZr系合金例えばFeZrNなどを挙げることができる。また、Feを60at%以上含有するFeAlO、FeMgO、FeTaN、FeZrN等の微結晶構造、あるいは微細な結晶粒子がマトリクス中に分散されたグラニュラー構造を有する材料を用いることができる。
また、軟磁性下地層の他の材料として、Coと、Zr、Hf、Nb、Ta、Ti、及びYのうち少なくとも1種とを含有するCo合金を用いることができる。Coは、好ましくは80at%以上含まれる。このようなCo合金は、スパッタ法により製膜した場合にアモルファス層が形成されやすく、アモルファス軟磁性材料は、結晶磁気異方性、結晶欠陥および粒界がないため、非常に優れた軟磁性を示す。また、このアモルファス軟磁性材料を用いることにより、媒体の低ノイズ化を図ることができる。好適なアモルファス軟磁性材料としては、例えばCoZr、CoZrNb、及びCoZrTa系合金などを挙げることができる。
軟磁性下地層の下には、軟磁性下地層の結晶性の向上あるいは基板との密着性の向上のためにさらに下地層を設けることができる。下地層材料としては、Ti、Ta、W、Cr、Pt、あるいはこれらを含む合金、あるいはこれらの酸化物、窒化物を用いることができる。
軟磁性下地層と記録層との間には、非磁性体からなる中間層を設けることができる。中間層の役割は、軟磁性下地層と記録層との交換結合相互作用を遮断することと、記録層の結晶性を制御することとの二つがある。中間層材料としては、Ru、Pt、Pd、W、Ti、Ta、Cr、Si、あるいはこれらを含む合金、あるいはこれらの酸化物、窒化物を用いることができる。
スパイクノイズ防止のために軟磁性下地層を複数の層に分け0.5〜1.5nmのRuを挿入することで反強磁性結合させても良い。また、CoCrPtやSmCo、FePtなどの面内異方性を持った硬磁性膜、あるいはIrMn、PtMn等の反強磁性体からなるピン層と軟磁性層とを交換結合させても良い。その際に、交換結合力を制御するために、Ru層の前後に磁性(たとえばCo)あるいは非磁性の膜(たとえばPt)を積層させても良い。
<強磁性記録層(一般的な構造)>
垂直磁気記録層は、Coを主成分とし、Ptを含む合金からなると、高異方性が達成できるので好ましい。記録層はさらに、酸化物を含んだ材料からなっていても良い。この酸化物としては、特に酸化シリコン、酸化チタンまたは磁気記録層を構成する金属の酸化物が好適である。
垂直磁気記録層は、層中に磁性粒子(磁性を有した結晶粒子)が分散していることが好ましい。この磁性粒子は、垂直磁気記録層を上下に貫いた柱状構造であることが好ましい。このような構造を形成することにより、垂直磁気記録層の磁性粒子の配向および結晶性を良好なものとし、結果として高密度記録に適した信号/ノイズ比(S/N比)が得ることができる。このような構造を得るためには、含有させる酸化物の量が重要となる。酸化物の含有量は、Co、Cr、Ptの総量に対して、3mol%以上12mol%以下であることが好ましい。さらに好ましくは5mol%以上10mol%以下である。垂直磁気記録層中の酸化物の含有量として上記範囲が好ましいのは、層を形成した際、磁性粒子の周りに酸化物が析出し、磁性粒子の孤立化、微細化をすることができるためである。酸化物の含有量が上記範囲を超えた場合、酸化物が磁性粒子中に残留し、磁性粒子の配向性、結晶性を損ね、さらには、磁性粒子の上下に酸化物が析出し、結果として磁性粒子が垂直磁気記録層を上下に貫いた柱状構造が形成されなくなるため好ましくない。また、酸化物の含有量が上記範囲未満である場合、磁性粒子の分離、微細化が不十分となり、結果として記録再生時におけるノイズが増大し、高密度記録に適した信号/ノイズ比(S/N比)が得られなくなるため好ましくない。垂直磁気記録層のCrの含有量は、0at%以上16at%以下であることが好ましい。さらに好ましくは10at%以上14at%以下である。Cr含有量が上記範囲であるのは、磁性粒子の一軸結晶磁気異方性定数Kuを下げすぎず、また、高い磁化を維持し、結果として高密度記録に適した記録再生特性と十分な熱揺らぎ特性が得られるために好適だからである。Cr含有量が上記範囲を超えた場合、磁性粒子のKuが小さくなるため熱揺らぎ特性が悪化し、また、磁性粒子の結晶性、配向性が悪化することで、結果として記録再生特性が悪くなるため好ましくない。垂直磁気記録層のPtの含有量は、10at%以上25at%以下であることが好ましい。Pt含有量が上記範囲であるのは、垂直磁性層に必要なKuを得、さらに磁性粒子の結晶性、配向性が良好であり、結果として高密度記録に適した熱揺らぎ特性、記録再生特性が得られるために好適であることによる。Pt含有量が上記範囲を超えた場合、磁性粒子中にfcc構造の層が形成され、結晶性、配向性が損なわれるおそれがあるため好ましくない。また、Pt含有量が上記範囲未満である場合、高密度記録に適した熱揺らぎ特性を得るためのKuが得られないため好ましくない。
垂直磁気記録層は、Co、Cr、Pt、酸化物のほかに、B、Ta、Mo、Cu、Nd、W、Nb、Sm、Tb、Ru、Reから選ばれる1種類以上の元素を含むことができる。上記元素を含む事により、磁性粒子の微細化を促進、あるいは結晶性や配向性を向上させることができ、より高密度記録に適した記録再生特性、熱揺らぎ特性を得ることができる。上記元素の合計の含有量は、8at%以下であることが好ましい。8at%を超えた場合、磁性粒子中にhcp相以外の相が形成されるため、磁性粒子の結晶性、配向性が乱れ、結果として高密度記録に適した記録再生特性、熱揺らぎ特性が得られないため好ましくない。
また、垂直磁気記録層としては、上記の他、CoPt系合金、CoCr系合金、CoPtCr系合金、CoPtO、CoPtCrO、CoPtSi、CoPtCrSi,およびPt、Pd、Rh、およびRuからなる群より選択された少なくとも一種を主成分とする合金とCoとの多層構造、さらに、これらにCr、BおよびOを添加したCoCr/PtCr、CoB/PdB、CoO/RhOなどを使用することができる。
垂直磁気記録層の厚さは、好ましくは5ないし60nm、より好ましくは10ないし40nmである。この範囲であると、より高記録密度に適した磁気記録再生装置として動作し得る。垂直磁気記録層の厚さが5nm未満であると、再生出力が低過ぎてノイズ成分の方が高くなる傾向があり、垂直磁気記録層の厚さが40nmを超えると、再生出力が高過ぎて波形を歪ませる傾向がある。垂直磁気記録層の保磁力は、237000A/m(3000Oe)以上とすることが好ましい。保磁力が237000A/m(3000Oe)未満であると、熱揺らぎ耐性が劣る傾向がある。垂直磁気記録層の垂直角型比は、0.8以上であることが好ましい。垂直角型比が0.8未満であると、熱揺らぎ耐性に劣る傾向がある。
<非磁性埋め込み層>
非磁性埋め込み層に用いる非磁性材料は、SiO2、TiOx、Al2O3などの酸化物やSi3N4、AlN、TiNなどの窒化物、TiCなどの炭化物、BNなどの硼化物、C、Siなどの単体などから幅広く選択できる。
<保護層>
保護層としては、垂直磁気記録層の腐食を防ぐとともに、磁気ヘッドが媒体に接触したときに媒体表面の損傷を防ぐ目的設けられる。その材料としては、例えばC、SiO2、ZrO2を含むものがあげられる。保護層の厚さは、1ないし10nmとすることが好ましい。これにより、ヘッドと媒体の距離を小さくできるので、高密度記録に好適である。
カーボンは、sp2結合炭素(グラファイト)とsp3結合炭素(ダイヤモンド)に分類できる。耐久性、耐食性はsp3結合炭素のほうが優れるが、結晶質であることから表面平滑性はグラファイトに劣る。通常、カーボンの成膜はグラファイトターゲットを用いたスパッタリング法で形成される。この方法では、sp2結合炭素とsp3結合炭素が混在したアモルファスカーボンが形成される。sp3結合炭素の割合が大きいものはダイヤモンドライクカーボン(DLC)と呼ばれる。耐久性、耐食性に優れ、アモルファスであることから表面平滑性にも優れるため、磁気記録媒体の表面保護膜として利用されている。CVD(Chemical vapor Deposition)法によるDLCの成膜は、原料ガスをプラズマ中で励起、分解し、化学反応によってDLCを生成させるため、条件を合わせることで、よりsp3結合炭素に富んだDLCを形成することができる。
<潤滑層>
潤滑層に使用する潤滑剤としては、従来公知の材料、例えばパーフルオロポリエーテル、フッ化アルコール、フッ素化カルボン酸などが挙げられる。
1…基板、2…下地層、3…強磁性記録層、4…保護層、7…SiOC埋め込み層、8…保護層、11、21、22…記録ビット、20…記録ヘッド、55…磁気ヘッド。