JP4550328B2 - 半導電性ジルコニア焼結体及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、高強度を維持しつつ半導電性を有するとともに、ジルコニアが本来持つ明るいアイボリー色を呈し、かつロッド毎の体積固有抵抗値のバラツキが少ない半導電性ジルコニア焼結体とその製造方法に関するものであり、例えば、半導体装置、磁気ヘッド、電子部品等の製造工程で使用される各種治工具や治具、テープガイド、画像記録装置に用いられる分離爪などの静電気除去作用を必要とする用途に好適なものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、構造部品材料として使用されているアルミナ、ジルコニア、窒化珪素、炭化珪素等を主成分とするセラミック焼結体は、高強度でかつ高硬度を有するとともに、耐熱性や耐食性に優れることから、様々な分野で使用されているが、特に優れた機械的強度や摺動特性が要求されるような用途ではジルコニア焼結体が用いられている。
【0003】
ところで、ジルコニア焼結体は高絶縁材料であるため、半導体製造装置等で使用される搬送アームやウェハ把持用ピンセット、磁気ヘッドや電子部品の製造工程で使用される試料保持台、あるいはプリンタなどの画像記録装置において使用される分離爪、さらには磁気テープなどのテープ状体を搬送、案内するのに用いられるテープガイドなど、静電気の除去作用が必要とされる用途に使用するには、ジルコニア焼結体の体積固有抵抗値(以下、抵抗値と略称する。)を107Ω・m以下とする必要があり、そのため、ジルコニア焼結体に導電性付与剤を含有させ、抵抗値を小さくすることが試みられている。ただし、抵抗値が小さくなり過ぎると、静電気が一気に除去されるため、大気摩擦によって超高電圧の放電が発生し、被加工物や被搬送物に悪影響を与える恐れがあるため、静電気の除去作用が必要とされる用途では、抵抗値を103〜107Ω・mとすることが要求されていた。
【0004】
そこで、このような特性を満足するものとして、特開平10−297968号公報には、安定化剤を含むZrO260〜90重量%に対し、導電性付与材として、Fe,Co,Ni,Crの酸化物のうち一種以上を10〜40重量%の範囲で含有し、その体積固有抵抗値を103〜107Ω・mとした半導電性ジルコニア焼結体が開示されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、特開平10−297968号公報に開示された半導電性ジルコニア焼結体はいずれも色調が暗色であり、ジルコニアが本来持つ明るいアイボリー色が得られないといった課題があった。
【0006】
即ち、導電性付与材として含有される、Fe,Co,Ni,Crの酸化物は、ジルコニア焼結体に導電性を付与するだけでなく着色材としても作用し、例えば、FeやCoの酸化物を用いた時には黒色に、NiやCrの酸化物を用いた時には濃緑色にそれぞれジルコニア焼結体を着色するため、その色調が暗色であった。
【0007】
そのため、このような半導電性ジルコニア焼結体を、半導体装置、磁気ヘッド、電子部品の製造工程で使用される治工具や治具に用いた場合、被加工物や被搬送物が黒色を呈するものであると、治工具や治具から被加工物や被搬送物への異物の混入や付着が判別できなくなるとともに、画像処理装置を用いて位置決めや製品形状を判断するような場合、その識別ができないといった課題があった。
【0008】
例えば、薄膜磁気ヘッドの製造工程では、磁気ヘッドの材質として主に黒色を呈するAl2O3−TiC系焼結板が用いられているのであるが、Al2O3−TiC系焼結板を保持する治具としての試料保持台に特開平10−297968号公報に開示された半導電性ジルコニア焼結体を用いると、色調が同じであるため、異物の混入を嫌う磁気ヘッドの製造工程では、半導電性ジルコニア焼結体からAl2O3−TiC系焼結板への異物の混入や付着が判別できず、また、画像処理装置では、Al2O3−TiC系焼結板と試料保持台との境界を判断できないため、自動化することができなかった。
【0009】
【課題を解決するための手段】
そこで上記課題に鑑み、本発明の半導電性ジルコニア焼結体は、安定化剤を含むZrO2 粉末60〜90重量%に対し、ZnをZnO換算で10〜40重量%添加し、かつ上記安定化剤を含むZrO 2 とZnOの合計100重量部に対し、Al 2 O 3 を0.5〜5重量部添加してなるセラミック原料を焼成してなる焼結体中に上記ZnとAlとの反応生成物であるZnAl2O4を生成させ、焼結体の体積固有抵抗値を103〜107Ω・mとしたことを特徴とする。
【0010】
好ましくは、上記半導電性ジルコニア焼結体をX線回折にて測定した時の2θ=36.8°付近における上記ZnAl2O4のピーク強度をIa、2θ=30.2°付近における上記ZrO2のピーク強度をIbとした時、これらのピーク強度比(Ia/Ib)が0.005以上となるようにしたものが良く、さらに上記半導電性ジルコニア焼結体のJIS Z8722−1994のXYZ表色系における刺激値Yが70以上であるものが好ましい。
【0011】
また、本発明は、上記半導電性ジルコニア焼結体を製造するにあたり、安定化剤を含むZrO2粉末60〜90重量%に対し、ZnをZnO換算で10〜40重量%添加し、かつ上記安定化剤を含むZrO2とZnOの合計100重量部に対し、Al2O3を0.5〜5重量部添加したセラミック原料を所定形状に成形した後、1250〜1400℃の温度で1〜3時間焼成し、ジルコニア焼結体中にZnAl2O4を生成させるようにしたことを特徴とする。
【0012】
即ち、本発明の半導電性ジルコニア焼結体は、安定化剤を含むZrO2 粉末60〜90重量%に対し、ZnをZnO換算で10〜40重量%添加し、かつ上記安定化剤を含むZrO 2 とZnOの合計100重量部に対し、Al 2 O 3 を0.5〜5重量部添加してなるセラミック原料を焼成してなる焼結体であって、ジルコニア焼結体中に上記ZnとAlの反応生成物であるZnAl2O4を生成させたことを特徴とする。
【0013】
ここで、副成分のZnは導電性付与材として作用するもので、このZnの化合物が焼結体の粒界相を形成することで、ジルコニアの持つ強度を大きく低下させることなく、焼結体の体積固有抵抗値を103〜107Ω・mと、半導電性を持たせることができる。
【0014】
そのため、静電気を適度な速度で逃がすことができるため、ジルコニア焼結体と当接する物体が電気的な影響を受け易いものであっても、破壊することなく静電気を除去することができる。
【0015】
また、副成分のZnは導電性付与材として作用だけでなく、ジルコニア焼結体の色を、ジルコニアが本来持つアイボリー色とすることができるとともに、その明るさをJIS Z8722−1994に規定されているXYZ表色系色度図における刺激値Y(視感反射率とも呼ばれる)で50以上とすることができる。
【0016】
この色度図における刺激値Yとは、物体色の明るさを表す尺度であり、最も明るい色ではY=100、最も暗い色ではY=0となり、値が大きいほど明るい色の度合が高いことを表している。そして、本発明の半導電性ジルコニア焼結体は刺激値Yが50以上と、ジルコニア原料に近似又は同等の明るさを得ることができる。
【0017】
そのため、本発明の半導電性ジルコニア焼結体を、半導体装置、磁気ヘッド、電子部品の製造工程で使用される治工具や治具に用いれば、被加工物や被搬送物が黒色を呈するものである場合、治工具や治具から被加工物や被搬送物への異物の混入や付着を容易に判別することができるとともに、画像処理装置を用いて位置決めや製品形状を判断する場合でも確実に識別することができる。
【0018】
しかも、ジルコニア焼結体の表面を鏡面加工すれば、凹凸の少ない極めて滑らかな表面が得られるため、アイボリー色を持った装飾部材としても用いることができる。
【0019】
なお、刺激値Yが50以上あれば、黒色を呈する被加工物や被搬送物への異物の混入や付着を判別したり、画像処理装置を用いて位置決めや製品形状を識別することが可能であるが、これらの判別や識別をより容易に行うようにしたり、装飾部材として用いる場合には、刺激値Yが70以上、さらには刺激値Yが75以上のものを用いることが良い。
【0020】
また、他の副成分のAlは、本発明のジルコニア焼結体の特性を安定化させるために含有するもので、色調を高めるとともに、103〜107Ω・mの所望の体積固有抵抗値を安定して得るには、ジルコニア焼結体中に上記ZnとAlの反応生成物であるZnAl2O4を含有することが重要である。
【0021】
即ち、副成分として含有するZnは、焼成時に昇華し易く、焼成炉の内壁や焼成用棚板等と反応して化合物を作ることから、ジルコニア焼結体中に残留するZn量が減少し、所望の体積固有抵抗値が得られなくなるとともに、焼成炉の内壁面に近い外周部と内壁面から離れた中央部では、ジルコニア焼結体中に残留するZn量が異なり、ロッド毎に体積固有抵抗値がばらつくのであるが、本件発明者は、この焼成時におけるZnの昇華を防止するため、種々研究を重ねたところ、ZnとともにAlを含有させ、ジルコニア焼結体中にZnAl2O4を生成させることでZnの昇華を防ぎ、103〜107Ω・mの所望の体積固有抵抗値が得られるとともに、焼成炉内の配置位置に関係なく、各ジルコニア焼結体の体積固有抵抗値を安定させることがきることを見出し、本発明に至った。
【0022】
なお、ジルコニア焼結体中におけるZnAl2O4の存在は、X線回折を用い、図1に示すように2θ=36.8°付近に第一ピークが存在し、かつ2θ=31.2°付近に第二ピークが存在することで確認することができる。
【0023】
そして、このような効果を発揮するためには、ジルコニア焼結体をX線回折にて測定した時の2θ=36.8°付近におけるZnAl2O4のピーク強度をIa、2θ=30.2°付近におけるZrO2のピーク強度をIbとした時、これらのピーク強度比(Ia/Ib)が0.005以上であることが好ましい。
【0024】
なぜなら、上記ピーク強度比(Ia/Ib)が0.005未満であると、ジルコニア焼結体中におけるZnAl2O4の含有量が少ないため、体積固有抵抗値のばらつきを抑える効果が小さいからである。
【0025】
また、主成分であるZrO2は、Y2O3、Dy2O3及びCeO2の安定化剤で部分安定化したものを使用する。
【0026】
具体的には、安定化剤としてY2O3を用いる時には、ZrO2に対して3.0〜9.0mol%の範囲で添加し、安定化剤としてDy2O3を用いる時には、ZrO2に対して0.5〜4.5mol%の範囲で添加し、安定化剤としてCeO2を用いる時には、ZrO2に対して2〜8mol%の範囲で添加し、安定化剤としてDy2O3とCeO2を用いる場合には、その合計含有量がZrO2に対して6mol%以上の範囲で添加したものを用いれば良く、これらの範囲で安定化剤を添加すれば、全ジルコニア量に対する単斜晶以外のジルコニア(正方晶ジルコニア及び立方晶ジルコニア)量を95%以上とすることができるため、副成分であるZnやAlを含有したことによるジルコニア焼結体の強度低下を抑え、曲げ強度600MPa以上を実現することができる。
【0027】
即ち、ジルコニアの結晶状態には立方晶、正方晶、単斜晶の3つの状態があり、特に、正方晶ジルコニアは外部応力に対し、応力誘軌変態を受けて単斜晶ジルコニアに相変態し、この時に生じる体積膨張によってジルコニアの周囲に微小なマイクロクラックを形成して外部応力の進行を阻止できるため、ジルコニア焼結体の強度を高めることができる。
【0028】
そのため、本発明の半導電性ジルコニア焼結体により、半導体装置、磁気ヘッド、電子部品等の製造工程で使用される、搬送アーム、ウェハ把持用ピンセット、試料保持台等の治工具や治具、あるいはプリンタなどの画像記録装置において紙をローラから分離するのに使用される分離爪、さらには磁気テープなどのテープ状体を搬送、案内するのに用いられるテープガイド等を形成すれば、短期間で摩耗したり、熱劣化を生じて破損することがないため、長期間にわたって好適に使用することができる。
【0029】
また、本発明の半導電性ジルコニア焼結体は、ジルコニアが本来持つ明るいアイボリー色を呈することから、例えば、半導体装置、磁気ヘッド、電子部品等の製造工程において、被加工物や被搬送物が黒色を呈するものであっても画像処理装置を用いて識別が可能であるとともに、被加工物や被搬送物への異物の混入や付着を容易に判別することができる。
【0030】
なお、上述した強度を達成するには、ジルコニア焼結体中におけるZrO2結晶の平均結晶粒子径は0.3〜1.0μm、好ましくは0.4〜0.8μmとすることが良い。
【0031】
また、ジルコニア焼結体中における全ジルコニア量に対し、単斜晶以外のジルコニア量を算出するには、X線回折により単斜晶ジルコニアのX線回折強度と、正方晶ジルコニア及び立方晶ジルコニアのX線回折強度をそれぞれ測定し、数1により算出すれば良い。
【0032】
また、本発明の半導電性セラミック焼結体中には、原料粉末中や製造工程中から、MnO、SiO2、Na、Fe等が不純物として混入する恐れがあるが、これらは4.0重量%以下の範囲であれば含有していても構わない。
【0033】
ところで、本発明の半導電性ジルコニア焼結体を製造するには、主成分として、平均粒子径が0.5〜1.0μmのZrO2粉末と安定化剤としてのY2O3、Dy2O3、CeO2の粉末を、副成分としてZnOの粉末を用いるか、あるいは焼成中にこれらの材料に変化し得る水酸化物粉末や炭酸化物粉末等を用い、安定化剤を含むZrO2が60〜90重量%、ZnO換算でのZnが10〜40重量%となるように調合し、これら安定化剤を含むZrO2とZnOとの合計100重量部に対し、Al2O3の粉末を0.5〜5重量部の範囲で添加してセラミック原料を作製する。
【0034】
ここで、副成分として添加するZnの添加量をZnO換算で、10〜40重量%としたのは、Znの添加量が10重量%未満(安定化剤を含むZrO2の添加量が90重量%を超える)となると、ジルコニア焼結体の体積固有抵抗値を107Ω・m以下に下げる効果が小さく、半導電性を得ることができないからであり、逆にZnの添加量が40重量%を超える(安定化剤を含むZrO2の添加量が60重量%未満)と、ジルコニア焼結体の体積固有抵抗値が103Ω・m未満となり、静電気が一気に逃げ易くなるために、大気摩擦による超高電圧の放電が発生する恐れがあるとともに、ジルコニア焼結体の機械的特性(曲げ強度、破壊靱性値、硬度など)が大きく低下するため、ジルコニア焼結体本来の機械的特性を発揮できなくなるからである。
【0035】
なお、好ましくは、安定化剤を含むZrO2が70〜80重量%、ZnO換算でのZnが20〜30重量%となるように調合することが良い。
【0036】
また、安定化剤を含むZrO2とZnOの合計100重量部に対し、Al2O3の添加量を0.5〜5重量部としたのは、Al2O3の添加量が0.5重量部未満となると、ジルコニア焼結体中にZnAl2O4が生成されなかったり、生成される含有量が少ないため、ジルコニア焼結体をX線回折にて測定した時の2θ=36.8°付近におけるZnAl2O4のピーク強度(Ia)と、2θ=30.2°付近におけるZrO2のピーク強度(Ib)とのピーク強度比(Ia/Ib)を0.005以上とすることができず、焼成時におけるZnの昇華を防ぐ効果が小さいからであり、逆に、Al2O3の添加量が5重量部を超えると、Znを上述した範囲で添加してもジルコニア焼結体の体積固有抵抗値が107Ω・mより高くなり、半導電性が得られなくなるからである。
【0037】
なお、ZrO2と安定化剤との混合にあたっては共沈法を用いても良く、共沈法を用いれば、微細でかつ均一に安定化剤が分散されたZrO2を得ることができる。
【0038】
また、Al2O3は、ZrO2粉末やZnO粉末等の出発原料中や後述する混合/粉砕工程中からも混入することから、これら出発原料中や混合/粉砕工程中から混入する量を考慮してAl2O3粉末の含有量が0.5〜5重量%となるように調整すれば良い。
【0039】
そして、このセラミック原料を乾式又は湿式で混合し、湿式の場合はスプレードライヤー等で乾燥造粒して顆粒を製作する。
【0040】
次に、乾式による原料粉末や湿式による顆粒を型内に充填し、メカプレス成形法やラバープレス成形法等の公知の成形手段により所定の形状に成形するか、あるいは湿式による泥漿を押出成形法や射出成形法、テープ成形法等の公知の成形手段により所定の形状に成形した後、大気雰囲気中や酸化雰囲気中にて1〜3時間程度焼成する。
【0041】
この時、焼成温度が1250℃未満であると完全に焼結させることができず、1400℃より高くなるとシンターオーバーとなるために、いずれもジルコニア焼結体の強度や硬度を高めることができない。そのため、1250〜1400℃の温度で焼成することが重要である。
【0042】
このような条件にて製作すれば、ジルコニア焼結体中にZnAl2O4を生成させることができるとともに、X線回折における2θ=36.8°付近のZnAl2O4のピーク強度(Ia)と、2θ=30.2°付近におけるZrO2のピーク強度(Ib)とのピーク強度比(Ia/Ib)を0.005以上とすることができ、さらには全ジルコニア量に対する単斜晶以外のジルコニア量を95%以上とすることができ、曲げ強度600MPa以上、103〜107Ω・mの体積固有抵抗値を有し、かつ色度図における刺激値Yが50以上であるアイボリー色を呈した半導電性ジルコニア焼結体を得ることができる。
【0043】
しかも、本発明によれば、副成分にZnとAlとを用いるようにしたことから、大気雰囲気中や酸化雰囲気中での焼成が可能であることから、焼成に特殊な装置を用いる必要がなく、上記副成分はそれぞれ安価に入手することができるため、簡単かつ安価に製造することができる。
【0044】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施形態を説明する。
【0045】
平均粒子径0.8μmのZrO2粉末に対し、Dy2O3粉末を1.5mol%とCeO2粉末を6.0mol%添加したもの70重量%と、導電性剤としてZnO粉末を30重量%添加し、さらにこれら100重量部に対し、Al2O3を2重量部添加したセラミック原料に、バインダーと溶媒を加えて混練乾燥することにより顆粒を製作した。そして、この顆粒を金型中に充填してメカプレス成形法により1.0ton/cm2のプレス圧にてジルコニア成形体を成形し、しかる後、1300℃の大気雰囲気中にて2時間程度焼成することによりジルコニア焼結体を得た。
【0046】
そして、このジルコニア焼結体をX線回折により単斜晶ジルコニアのX線回折強度と単斜晶以外のジルコニア(正方晶ジルコニア及び立方晶ジルコニア)のX線回折強度をそれぞれ測定し、全ジルコニア量に対する単斜晶以外のジルコニア量を前述した数1より算出したところ、99.2%であった。さらに、X線回折にて2θ=31.2°付近と36.8°付近のピークの有無を確認したところ、2θ=36.8°付近に大きなピークがあり、かつ2θ=31.2°付近に小さいピークがあり、ジルコニア焼結体中にZnAl2O4が生成されていることを確認した。
【0047】
また、得られたジルコニア焼結体を、3mm×4mm×50mmの角柱状体に切削した後、表面を算術平均粗さ(Ra)で0.1μmに研摩して試験片を作製し、この試験片をJIS R1601に基づく3点曲げ試験により3点曲げ強度と破壊靭性値を測定したところ、3点曲げ強度754MPa、破壊靱性値5.4MPa1/2を有していた。
【0048】
また、得られたジルコニア焼結体から別の試料を切り出し、四端子法にて、体積固有抵抗値を測定したところ、3.4×104Ω・mであった。
【0049】
そこで、静電気の除去具合を見るために、2.5mm×6mm×40mmの角柱状体をしたジルコニア焼結体を用意し、一方端に1000Vの電圧を印加し、他方端における電圧値が100Vとなるまでの降下時間を測定したところ、0.1〜20秒の時間を要し、大気摩擦による放電を生じることなく適度な速度で静電気を逃がすことができ良好であった。
【0050】
さらに、得られたジルコニア焼結体の表面を研磨して算術平均粗さ(Ra)で0.1μmとし、その色調をミノルタ製色彩色差計CR−221にて測定し、JIS Z8722−1994に準拠してXYZ表色系における刺激値Yを測定したところ72と、十分な明るさを有し、またアイボリー色を呈するものであった。
【0051】
【実施例】
そこで、上記実施形態におけるジルコニア焼結体において、副成分として添加するZnO粉末とAl2O3粉末の添加の含有量をそれぞれ異ならせ、それぞれ最適と思われる1180〜1480℃の温度で焼成した時のジルコニア焼結体中における単斜晶以外のジルコニア量、ZnAl2O4の有無、X線回折における2θ=30.2°付近と36.8°付近とのピーク強度比(Ia/Ib)、色度図における刺激値Yと、機械的特性(3点曲げ強度、破壊靭性値、ビッカース硬度)、及び電気的特性(体積固有抵抗値及び静電気の除去具合)についてそれぞれ実施形態と同様の条件にて測定する実験を行った。
【0052】
また、焼成炉内に同じ組成を有する27個のジルコニア成形体を図2に示すうように配置して焼成した時のロッド毎における体積固有抵抗値を測定し、その最大値と最小値の差を抵抗値のばらつきとして測定する実験も行った。
【0053】
なお、本実験の焼成には、丸祥電器製の炉床昇降式電気炉SPB−2024−18型を用い、一つのジルコニア成形体の大きさは、外径35mm×厚さ3mmの円板状体とした。
【0054】
それぞれの結果は表1に示す通りである。
【0055】
【表1】
【0056】
この結果、表1より判るように、ZrO2にZnOを添加することで、ジルコニア焼結体の色を、ジルコニアが本来持つアイボリー色とすることができ、また、ZnOの添加量を少なくすることでジルコニア焼結体の明るさを示す刺激値Yを高くすることができることが判る。
【0057】
ただし、ZnOの添加量が10重量%未満である試料No.1〜3は、ジルコニア焼結体の持つ優れた機械的特性を維持することができるものの、体積固有抵抗値が1010Ω・m以上と絶縁性が高いために、静電気の除去効果が得られなかった。
【0058】
また、ZnOの含有量が40重量%より多い試料No.16〜18では、曲げ強度が600MPa未満、破壊靱性値5.0MPam1/2未満、ビッカース硬度(Hv)11.0GPa未満と、機械的特性の低下が見られた。しかも、ZnOの含有量が多すぎるために、体積固有抵抗値が102Ω・mにまで低下した結果、静電気が一気に逃げてしまうといった問題があった。
【0059】
さらに、試料No.2,4,10,16では、ZnO2とZnOの合計100重量部に対するAl2O3の添加量が0.5重量部未満であるため、ジルコニア焼結体中のZnAl2O4の生成が少なく、それ故、X線回折における2θ=30.2°付近と36.8°付近とのピーク強度比(Ia/Ib)が0.005未満と小さく、その結果、焼成炉内の位置によってジルコニア焼結体の体積固有抵抗値にバラツキが発生し、安定して所望の抵抗値を得ることができなかった。
【0060】
また、試料No.7では、Al2O3の添加量が多すぎるため、体積固有抵抗値が108Ω・m以上となり、静電気除去具合が悪かった。
【0061】
これに対し、ZnOの添加量が10〜40重量%の範囲にあり、かつZnO2とZnOとの合計100重量部に対し、Al2O3を0.5〜5重量部の範囲で添加し、1250〜1400℃の温度で焼成した試料No.5,6,8,9,11〜14は、いずれもジルコニア焼結体中における単斜晶以外のジルコニア量が95%以上を有するため、曲げ強度600MPa以上、破壊靱性値5.0MPam1/2以上、ビッカース硬度(Hv)11GPa以上と優れた機械的特性を有していた。しかも、ジルコニア焼結体中にZnAl2O4の生成が見られ、X線回折における2θ=30.2°付近と36.8°付近のピーク強度比(Ia/Ib)も0.005以上を有していた。そのため、体積固有抵抗値を、静電気を逃がすのに好ましい103〜107Ω・mとすることができる。また、焼成炉内の位置に関係なく、所望の抵抗値を持ったジルコニア焼結体を安定して焼成することができた。
【0062】
この結果、安定化剤を含むZrO2粉末60〜90重量%に対し、ZnをZnO換算で10〜40重量%添加し、かつ上記安定化剤を含むZrO2とZnOの合計100重量部に対し、Al2O3を0.5〜5重量部添加したセラミック原料を所定形状に成形した後、1250〜1400℃の温度で焼成すれば、ジルコニア焼結体中における単斜晶以外のジルコニア量を95%以上とすることができ、曲げ強度600MPa以上、破壊靱性値5.0MPam1/2以上、ビッカース硬度(Hv)11GPa以上の優れた機械的特性が得られるとともに、ジルコニア焼結体中にZnAl2O4を生成することができ、X線回折における2θ=30.2°付近と36.8°付近のピーク強度比(Ia/Ib)を0.005以上とできるため、ジルコニア焼結体の体積固有抵抗値を、静電気を逃がすのに好ましい103〜107Ω・mとすることができ、さらには焼成炉内の位置に関係なく、所望の抵抗値を持ったジルコニア焼結体を安定して得ることができる。
【0063】
しかも、Znを含有することから、ジルコニア焼結体の色を、ジルコニアが本来有する明るいアイボリー色とすることができる。
【0064】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、安定化剤を含むZrO2粉末60〜90重量%に対し、ZnをZnO換算で10〜40重量%添加し、かつ上記安定化剤を含むZrO2とZnOの合計100重量部に対し、Al2O3を0.5〜5重量部添加したセラミック原料を所定形状に成形した後、1250〜1400℃の温度で1〜3時間焼成することによりジルコニア焼結体を製造するようにしたことから、その体積固有抵抗値を103〜107Ω・mと、静電気を適度な速度で逃がすのに好ましい半導電性を持たせることができるとともに、上記ジルコニア焼結体中にはZnとAlとの反応生成物であるZnAl2O4を含有させることができるため、焼成時のZnの昇華を防ぎ、焼成炉の設置位置に関係なく、所望の抵抗値を持った半導電性ジルコニア焼結体を安定して得ることができる。
【0065】
しかも、半導電性ジルコニア焼結体の色を、ジルコニアが本来持つ明るいアイボリー色とすることができる。
【0066】
その上、半導電性ジルコニア焼結体を製造するにあたり、大気雰囲気や酸化雰囲気中での焼成が可能であり、特殊な装置を必要とせず、さらに、副成分として添加する原料自体が安価に入手できるため、簡単かつ安価に製造することができる。
【0067】
また、本発明の半導電性ジルコニア焼結体は、安定化剤を含むZrO2 粉末60〜90重量%に対し、ZnをZnO換算で10〜40重量%添加し、かつ上記安定化剤を含むZrO 2 とZnOの合計100重量部に対し、Al 2 O 3 を0.5〜5重量部添加してなるセラミック原料を焼成してなる焼結体中に上記ZnとAlとの反応生成物であるZnAl2O4を生成させ、焼結体の体積固有抵抗値を103〜107Ω・mとしたことから、ジルコニアの持つ機械的特性を大きく低下させることなく、静電気を適度な速度で逃がすことができるため、半導体製造装置で使用される搬送アームやウェハ把持用ピンセット、あるいはプリンタなどの画像記録装置において使用される分離爪、さらには磁気テープなどのテープ状体を搬送、案内するのに用いられるテープガイド等を形成すれば、静電気による悪影響を受けることがなく、かつ短期間で摩耗したり、熱処理にも強く破損することがないため、長期間にわたって好適に使用することができる。
【0068】
さらに、本発明の半導電性ジルコニア焼結体は刺激値Yが50以上、好ましくは70以上と色調が明色系であるため、黒色を有する部材との識別が要求される用途に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の半導電性ジルコニア焼結体をX線回折にて測定した一例を示すチャート図である。
【図2】(a)(b)は実験条件を説明するための概略説明図である。
Claims (4)
- 安定化剤を含むZrO2 粉末60〜90重量%に対し、ZnをZnO換算で10〜40重量%添加し、かつ上記安定化剤を含むZrO 2 とZnOの合計100重量部に対し、Al 2 O 3 を0.5〜5重量部添加してなるセラミック原料を焼成してなる焼結体であって、該焼結体中には上記ZnとAlとの反応生成物であるZnAl2O4を有し、かつ上記焼結体の体積固有抵抗値が103〜107Ω・mであることを特徴とする半導電性ジルコニア焼結体。
- 上記半導電性ジルコニア焼結体をX線回折にて測定した時の2θ=36.8°付近における上記ZnAl2O4のピーク強度をIa、2θ=30.2°付近における上記ZrO2のピーク強度をIbとした時、これらのピーク強度比(Ia/Ib)が0.005以上であることを特徴とする請求項1に記載の半導電性ジルコニア焼結体。
- 上記半導電性ジルコニア焼結体のJIS Z8722−1994のXYZ表色系における刺激値Yが73以上であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の半導電性ジルコニア焼結体。
- 安定化剤を含むZrO2粉末60〜90重量%に対し、ZnをZnO換算で10〜40重量%添加し、かつ上記安定化剤を含むZrO2とZnOの合計100重量部に対し、Al2O3を0.5〜5重量部添加してなるセラミック原料を所定形状に成形した後、1250〜1400℃の温度で1〜3時間焼成し、ジルコニア焼結体中にZnAl2O4を生成させるようにしたことを特徴とする半導電性ジルコニア焼結体の製造方法。
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