JP4550231B2 - 底質移動制御方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、沿岸域における海底の底質移動を波浪エネルギーを利用して制御する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、海岸侵食の問題は、河川からの土砂供給量の減少や海砂の採取、さらには海岸構造物の建設による漂砂現象の変化等様々な要因が複雑に絡み合って生じているため、その原因を究明して有効な対策を講じることが非常に困難になっている。
【0003】
例えば、海浜における砂の移動は、通常時には、図27に示すように、波浪により岸向きの砂移動が生じるが、図28に示すように、強風時には、波浪により沖向きの砂移動が生じており、この沖向きの砂移動が長期間平均的に岸向きの砂移動よりも大きくなると、経時的に海岸侵食が生じることになる。2は海底、38は砂の移動方向、39は強風である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、海岸や砂浜は、国土維持や環境保全・アメニティ空間の維持等の観点から大変重要な意味を持っており、地球温暖化の問題とも相俟って、有効な侵食防止技術を開発することへの要望は加速度的に高まっている。
【0005】
特に、地球温暖化の問題は予想以上に深刻であり、砂浜をダイレクトに蝕む海面上昇はもはや避けられないことが定説となっている。実際、海面が65cm上昇すると、全国の砂浜の約80%以上が消失し、資産総額330兆円にも及ぶ地域が被害を受ける可能性があると予測されている。
【0006】
しかも、海面上昇による問題は、防災面でも甚大な被害を与えることが危惧されている。
【0007】
さらには、図29に示すように、豊かな砂浜60が沿岸域に存在すると波61のエネルギーは吸収され、打ち上げ高さも押さえられるが、砂浜60が減少若しくは消滅すると、波61のエネルギーが減衰されないため、波61の打ち上げ高さHuも増大し、高潮や津波による危険性も極めて高くなってくる。
【0008】
従って、このまま有効な対策が施されなければ、全国各地で巨大な防波堤62を増強しなければならないことになるが、かかる防波堤62の築造には莫大な費用を要するという別の課題が生じることになる。
【0009】
【課題を解決するための手段】
そこで、本発明では、沿岸域における海底において、波浪により形成される往復流の中に、流れの方向により抵抗特性の異なる構造体を複数配置して、底層付近に波浪によって誘起される波浪残差流を任意の方向に生成し、当該波浪残差流のパターンをデザインすることで底質の移動を制御する底質移動制御方法であって、前記構造体は、底層付近に生成しようとする波浪残差流の方向に沿わせて、かつ、間隔を開けて複数配置することにより前記構造体の列を形成すると共に、前記構造体の列は、波浪残差流の方向と交差する方向にも複数配置し、各前記構造体は、順流方向や逆流方向等の流れの方向により抵抗特性の異なる順流側粗度面と逆流側粗度面を有するとともに、これらの粗度面が流体を通過させることがないものであり、往復流の中に配置される各構造体の順流側粗度面及び逆流側粗度面が向く方向のパターンによって流体に与えられる運動量の大きさと方向に変化をもたせることで、形成される波浪残差流の流況パターンを自由にデザインすることがでるようにしたことを特徴とする底質移動制御方法を提供するものである。
【0010】
また、本発明は、次の構成にも特徴を有する。
【0012】
(1)構造体が海底面より突出する高さは、水深に関係なく5cm〜50cm程度の範囲内であること。
【0013】
(2)構造体は、略四分の一球状に形成したこと。
【0014】
(3)構造体は、円柱状に形成した基端部と、同基端部より上方に延設して基端部と同径の半円柱状に形成した中間部と、同中間部の上端に連設して中間部と同径の略四分の一球状に形成した先端部とを具備すること。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下に、本発明の実施の形態について説明する。
【0016】
すなわち、本発明に係る底質移動制御方法は、沿岸域における海底において、波浪により形成される往復流の中に、流れの方向により抵抗特性の異なる構造体としての小規模構造体を複数配置して、任意の方向に底層付近の流れ、すなわち、波浪によって誘起される残差流(以下「波浪残差流」という)を生成することにより、底質の移動を制御することを特徴としている。
【0017】
ここで、波浪残差流の生成原理について図1及び図2を参照しながら説明すると、沿岸域では一般に波浪によって往復流が形成されているが、このような往復流の中に、順流方向(後述の抵抗が小さい流れの方向)や逆流方向等の流れの方向により抵抗特性の異なる順流側粗度面1aと逆流側粗度面1bとを有する略四分の一球状の小規模構造体1を、海底2に設置した場合、波の一周期平均で見ると、流体は順流方向に正味の抵抗力、すなわち、波浪残差抵抗力3を受けることになり、かかる流体に与えられる順流方向の運動量により波浪残差流4が形成されることになる。5は波の進行方向、6は流体の運動方向、7は抵抗力、8は波浪残差抵抗力3を受ける底質としての砂の運動の軌道、9は実質的な砂の移動量である。
【0018】
このように、漂砂をはじめとする底質の移動は、底層付近の流況に支配されるため、海底2にこのような小規模構造体1を配置して波浪残差流4のパターンをデザインすることで底質移動の制御が可能となる。
【0019】
そして、小規模構造体1は、底層付近に生成する流れの方向に沿わせて、かつ、間隔を開けて複数配置することにより小規模構造体1の列を形成すると共に、同小規模構造体1の列は、流れと交差する方向、好ましくは略直交する方向にも複数配置することができる。
【0020】
しかも、複数の小規模構造体1を列状及び/又は行列状に配置すると共に、一体的に形成して構造体ユニット10となすこともでき、かかる構造体ユニット10を、図3及び図4に示すように、砂の流失方向11に適応させて配置することにより、砂の流失・砂浜の侵食を防止することができる。
【0021】
以下に、本発明にかかる底質移動制御方法の実施の形態を目的に応じてより具体的に説明する。
【0022】
〔海岸侵食の防止・養浜〕
図5及び図6に示すように、侵食海岸に複数の小規模構造体1若しくは構造体ユニット10を、順流側粗度面1aが沖側に位置し、かつ、逆流側粗度面1bが岸側に位置するように配置する。
【0023】
このようにして、複数の小規模構造体1若しくは構造体ユニット10により沖側から岸側に向けて波浪残差流4を形成することができるため、静穏時の岸向きの砂移動が促進され、暴浪時の沖向きの砂移動が抑制(場合によっては岸向きに転換)されて、海岸侵食を阻止すると共に、豊かな砂浜を創出することができる。
【0024】
また、沿岸流等が卓越する海域においても、小規模構造体1や構造体ユニット10の配置パターンを変化させることにより、波浪残差流4の方向を自由自在にデザインすることができるため、波浪残差流4を沿岸流に対抗させる等、海岸の個性に応じた対処が可能となる。
【0025】
〔航路埋没の防止〕
港湾整備を行う上で、航路の確保は重要な課題の一つであり、実際、大型船舶を入港させるために、各地で膨大な費用をかけて浚渫が行われ、航路が維持されている。しかしながら、経済的な負担もさることながら、浚渫が新たな汚濁の発生源となって環境上の問題も生じるため、浚渫に変わる有効な手法が熱望されている。
【0026】
そこで、図7〜図10に示すように、小規模構造体1を航路12の伸延方向に対して略直交し、かつ、航路12の外側方に波浪残差抵抗力3が作用するように、波の進行方向5に対して必要な角度だけ傾けて配置している。
【0027】
すなわち、小規模構造体1は、順流側粗度面1aが航路12の側に位置し、かつ、逆流側粗度面1bが航路12から離隔する側に位置するように配置して、航路12の内側から外側に向けて波浪残差流4が生起されるようにすると共に、小規模構造体1を航路12の伸延方向に沿わせて一定の間隔を開けて複数配置している。
【0028】
このようにして、航路12内に底質が流入するのを抑制して、航路浚渫の必要性を大幅に削減することができる。従って、環境上の問題を生じさせることなく、浚渫に必要な経済的負担を大幅に削減することができる。
【0029】
また、図9に示すように、航路12を横断するように堆積物を貯蓄するための貯蓄空間13を形成すると共に、同貯蓄空間13に向けて波浪残差流4が生起されるように航路12の底面に複数の構造体ユニット10を配置する。
【0030】
ここで、構造体ユニット10は、支持底盤15上に複数の小規模構造体1を前後左右方向にそれぞれ一定の間隔を開けて行列状に配置して形成している。
【0031】
このようにして、構造体ユニット10により貯蓄空間13に向けて波浪残差流4を生起させることにより、航路12内に堆積している堆積物を貯蓄空間13内に輸送(移動)させることができるようにしている。
【0032】
従って、航路12を所定の深さに確保することができると共に、貯蓄空間13内に輸送・貯蓄された堆積物はまとめて集中浚渫することができ、浚渫作業効率を向上させることができて、作業コストの低減化が図れる。
【0033】
また、航路12や航路肩部を形成している海底地盤14が軟弱な場合には、図10に示すように、小規模構造体1を支持している支持底盤15と海底地盤14との間にエアーバッグ16を配置し、同支持底盤15を固定用矢板17により海底地盤14に固定している。
【0034】
このようにして、エアーバッグ16により構造体ユニット10に浮力Fを作用させることにより、構造体ユニット10が自重により沈下するのを防止すると共に、かかる浮力が作用している構造体ユニット10を固定用矢板17により固定して、同構造体ユニット10が転倒や滑動を起こすのを防止することができる。Wは重力である。
【0035】
この際、エアーバッグ16の空気量を調整することにより、構造体ユニット10に作用する浮力や水平バランスを適宜調整することができて、構造体ユニット10による底質移送機能を良好に確保することができる。
【0036】
〔河口閉塞の防止〕
我が国の多くの河川では河口閉塞の問題が生じており、河道の流下能力の低下に伴う出水時の氾濫等が大きな問題になっている。現在のところ、図11に示すように、莫大な建設費を投じて導流堤18等の大規模構造物を建設して、河口閉塞を防止する試みがなされているが、十分な効果は得られていないのが実状である。さらに、大規模構造物は、一旦建設すると撤去が容易でないことに加え、沿岸漂砂の遮断等により周辺沿岸域に新たな問題を引き起こしている。19は河川、20は漂砂の移動方向である。
【0037】
そこで、図12に示すように、河口21の近傍に複数の構造体ユニット10を配置すると共に、各構造体ユニット10は、河道の流下方向と略直交する方向でかつ外側方へ向けて波浪残差抵抗力3が生じるように配置する。
【0038】
このようにして、構造体ユニット10により河口21の付近に堆積しようとする土砂を周囲に輸送することができ、しかも、周辺環境の変化に応じてその効果を微調整することも容易であるため、河口閉塞の問題に対しても極めて有効かつ安価な手法となる。
【0039】
〔魚の養殖に伴う水質・底質汚染の改善〕
図13に示すように、湾内に設置されている養殖筏22の下は、養殖魚の餌や排泄物等の堆積により浮泥・ヘドロ等43が生じて、水質・底質の汚染源となっている。23は回折波の進行方向である。
【0040】
そこで、図14に示すように、養殖筏22の直下方に位置する海底2に構造体ユニット10を設置する。
【0041】
このようにして、養殖筏22の直下方に位置する海底2に設置した構造体ユニット10により、暴浪時に湾内へ入射する回折波に起因した流れが小規模構造体の逆流側粗度面1bに衝突して、湧昇流24が生起されるという効果が生じて、浮泥・ヘドロ等43は巻き上げられる。そして、巻き上げられた浮泥・ヘドロ等43は波浪残差流4により輸送・排出されるため、養殖筏22の周辺の底質や水質、ひいては湾内の底質・水質をも改善することができる。25は養殖魚、26は養殖用網体である。
【0042】
〔河川における底質移動のコントロール〕
図15に示すように、河川19の中央部に河道方向に沿わせて設置した導流堤18の上流側位置に、複数の小規模構造体1を配置すると共に、各小規模構造体1は、波浪残差抵抗力3が導流堤18により分離された一側方分離河川19a側に向くように配置する。19bは他側方分離河川、27は河川水の流れ方向である。
【0043】
このようにして、図16に示すように、下層の浮流砂濃度の高い河川水28と、上層の浮流砂濃度の低い河川水29とをそれぞれ逆方向に移動させることができる。
【0044】
従って、図15に示すように、下層の浮流砂濃度の高い河川水28は、一側方分離河川19a側に流下させる一方、上層の浮流砂濃度の低い河川水29は、他側方分離河川19b側に流下させることができて、水量は十分に保てることから、同他側方分離河川19bの流下断面を良好に確保することができる。その結果、かかる他側方分離河川19bを、流下断面の確保が必要な航路等の流路として活用することができる。
【0045】
ここで、図17及び図18に示すように、小規模構造体1の仮想中心軸線方向30と、波浪によって形成される往復流の流れ方向31との間に形成される角度γを適宜設定することにより、ほぼ全方向に対して波浪残差流4を創造・制御することができる。
【0046】
そして、波浪残差流4を往復流の流れ方向31に対して直交する方向に生成する場合には、小規模構造体1は、図17及び図18に示すように、四分の一円筒片32を二重に用いて、波浪残差流4を生成する方向を仮想中心線として線対称位置に一対配置して形成することができる。
【0047】
このようにして、線対称位置に一対配置した四分の一円筒片32,32によって、波浪残差流4を確実に生成することができると共に、かかる波浪残差流4は往復流の流れ方向31と直交する方向となすことができる。
【0048】
〔シルテーションのマネージメント〕
熊本新港等のように、港全体にシルト等が堆積して船舶の航行に影響を与えるような場合には、港全体について総合的に底質移動をマネージメントする必要がある。
【0049】
そこで、複数の小規模構造体1若しくは構造体ユニット10を設置することにより、港外へ堆積物の排出を行ったり、一ヶ所に堆積させて、集中的に浚渫を行う等の効率的なマネージメントを行うことにより、港全体について総合的に底質移動をマネージメントすることができる。
【0050】
また、有明海に注ぐ佐賀県の六角川や嘉瀬川のように、潮汐の干満差が大きな河口域では、上げ潮時に海域から大量に流れ込む懸濁物質が河道内に堆積するため、河積の確保や水理構造物の機能維持が困難となるといった問題が生じている。
【0051】
そして、シルトや粘土のように粒子径が小さい物は、一般に沈降速度が小さく長時間浮遊し続けることから、広範囲にわたる対策が必要とされている。
【0052】
このようなケースにおいても、海域と河川域とを包括的にとらえて、総合的な底質移動の管理を行えば、十分対処ができる。
【0053】
しかも、本発明にかかる底質移動制御方法では、小規模構造体1や構造体ユニット10を海底に設置するだけで底質移動を制御することができるため、広範囲にわたる施工が必要な場合においても、安価なコストで施工が行える。
【0054】
次に、小規模構造体1の他実施形態について説明する。
【0055】
図19及び図20は、第2実施形態としての小規模構造体1を示しており、同小規模構造体1は、円柱状に形成した基端部35と、同基端部35より上方に延設して基端部35と同径の半円柱状に形成した中間部36と、同中間部36の上端に連設して中間部36と同径の略四分の一球状に形成した先端部37とを杭状に一体成形してなるものである。2aは砂、38は砂の移動方向である。
【0056】
このようにして、小規模構造体1を杭状に形成することにより、同小規模構造体1を海底2に打ち込んで容易に設置することができる。42は小規模構造体1の打ち込み方向である。
【0057】
この際、小規模構造体1の基端部35は波浪残差抵抗力3の生じない円形の断面形状に形成すると共に、小規模構造体1の中間部36と先端部37は波浪残差抵抗力3の生じる半円形の断面形状をなしており、小規模構造体1は、海底2より先端部37のみが露出するように打ち込んでおく。
【0058】
その結果、波浪残差抵抗力3を生じる複数の先端部37により波浪残差流4を生成することができる。
【0059】
そして、生成された波浪残差流4により底質が輸送されると、砂2aが移動して小規模構造体1の基端部35が露出してくるが、かかる基端部35は波浪残差抵抗力3が生じない部分であることより、波浪残差流4が生成されず、底質は輸送されない状態(平衡状態)となる。
【0060】
従って、波浪残差抵抗力3の生じる部分が海底2より突出する高さを調節することにより、小規模構造体1を設置した後の海底面の底質輸送の変化量を適宜設定することができる。
【0061】
図21は、第3実施形態としての小規模構造体1を示しており、同小規模構造体1は、半分に切断した二個の古タイヤ片40を、上下2段に積み重ねて形成している。
【0062】
このようにして、小規模構造体1として、古タイヤを使用することにより、有効な廃品利用を行うことができて、安価な施工が可能となる。
【0063】
図22は、第4実施形態としての小規模構造体1を示しており、同小規模構造体1は、四分の一に切断した二個の古タイヤ片41を、並設状態にて一側端面を海底2に固定させることにより起立状に形成している。
【0064】
この場合も、小規模構造体1として、古タイヤを使用することにより、有効な廃品利用を行うことができて、安価な施工が可能となる。
【0065】
また、以上に説明してきた第1〜第4実施形態の小規模構造体1が海底面より突出する高さは、水深に関係なく5cm〜50cm、好ましくは、20cm〜30cm程度として、小規模構造体1を小型化することができる。
【0066】
その結果、小規模構造体1が船の運航や景観等に支障となることがなく、小規模構造体1の製造コストの低減と輸送・配置作業のコスト低減及び効率化を同時に図ることができる。
【0067】
そして、古タイヤを前記したように、二分の一切断したり、四分の一に切断するだけで、有効に廃品利用することができる。
【0068】
【実施例】
以下に、本発明の実施例を、図面を参照しながら説明する。
【0069】
波浪により生じた往復流中に小規模構造体1を設置し、実際に波浪残差流4が生成される状況を確認するための室内実験を行った。
【0070】
図23は、実験に用いた2次元造波水槽50の側面説明図、図24は、同2次元造波水槽50の平面説明図、図25は、第1実施形態としての小規模構造体1を具備する構造体ユニット10の平面説明図である。
【0071】
ここで、水槽長さLa=1 5m、水槽幅Wa=0.25m、水深H=0.3m、構造体ユニット配設位置までの距離Lb=8m、構造体ユニット10の前後幅L1=0.65m、構造体ユニット10の左右幅W1=0.25m、前後方向に隣接する小規模構造体1,1同士の前後間隔L2=0.06m、左右方向に隣接する小規模構造体1,1同士の左右中心間隔W2=0.06m、支持底盤15の端面から最外側に位置する小規模構造体1の中心までの距離W3=0.035mである。51は造波板、52は消波板である。
【0072】
結果の一例として、振幅a=2.5cm、周期T=1s、平均水深h=30cm、波長L=1.3mという波の条件下で、四分の一球型の小規模構造体1の高さを、平均水深hの1/15、すなわち、2cmとなるように設定すると共に、複数の小規模構造体1を格子状に整然と配置した時の波の一周期平均流速(波浪残差流)の鉛直分布を図26に示す。但し、図26において、水路床からの高さzは、平均水深hを用いて無次元表示され、また、幅平均の波浪残差流速Uは、波の振幅a及び角周波数σを用いて無次元表示されている。
【0073】
ここで、比較のために、小規模構造体1を配置していないときの結果も併せてプロットしている。なお、流速測定は、構造体ユニット10の真ん中に相当する横断面内で行い、幅方向の平均流速が算定されている。
【0074】
かかる実験の結果、小規模構造体1は、波の進行方向の流れに対して抵抗が小さく、それと反対方向に抵抗が大きく作用するように配置しているが、この抵抗特性に応じて底層付近には波の進行方向の残差流が、上層付近ではそれを補償する残差流が生じ、結果的に鉛直2次元的な残差環流が形成されていることがわかった。
【0075】
小規模構造体1を配置しない場合(沖向きの微弱な補償流が生成される)と比較しても、小規模構造体1による波浪残差流の生成効果が明白に見て取れる。
【0076】
また、波浪残差流は、底層付近に広く存在し、特に、漂砂制御に強く影響すると思われる最下層においてもかなり大きな値を示している。実際、水路床付近に浮遊粒子を投入したところ、波の進行方向に輸送されていく様子も観測された。
【0077】
以上の室内実験から、周期の短い波浪場に、小規模構造体1を配置することで、波浪残差流の生成が可能であることが示された。
【0078】
【発明の効果】
本発明によれば、次のような効果が得られる。
【0079】
(1)請求項1記載の本発明では、沿岸域における海底において、波浪により形成される往復流の中に、流れの方向により抵抗特性の異なる構造体を複数配置して、底層付近に波浪によって誘起される波浪残差流を任意の方向に生成し、当該波浪残差流のパターンをデザインすることで底質の移動を制御する底質移動制御方法であって、前記構造体は、底層付近に生成しようとする波浪残差流の方向に沿わせて、かつ、間隔を開けて複数配置することにより前記構造体の列を形成すると共に、前記構造体の列は、波浪残差流の方向と交差する方向にも複数配置し、各前記構造体は、順流方向や逆流方向等の流れの方向により抵抗特性の異なる順流側粗度面と逆流側粗度面を有するとともに、これらの粗度面が流体を通過させることがないものであり、往復流の中に配置される各構造体の順流側粗度面及び逆流側粗度面が向く方向のパターンによって流体に与えられる運動量の大きさと方向に変化をもたせることで、形成される波浪残差流の流況パターンを自由にデザインすることがでるようにしている。
【0080】
▲1▼このように、自然エネルギーである波浪のみを利用しているため、メンテナンスフリーである。
【0081】
▲2▼波長・周期等の波浪の性質を問わずに往復流があれば、波向きに対して任意の方向に底層付近の流れを生成することができて、底質の移動を制御することができる。
【0082】
従って、例えば、砂浜の砂の移送を自由自在に制御することができて、豊かな砂浜を創造・維持することができる。
【0083】
その結果、海岸侵食の防止・養浜、航路の埋没防止、河口の閉塞防止、魚の養殖に伴う水質・底質汚染の改善、河川における底質移動のコントロール、及び、シルテーションのマネージメント等が図れる。
【0084】
▲3▼沿岸流や離岸流等にも対処することができ、新しい砂浜形成の有力な手法となり得る。
【0085】
▲4▼砂やシルトの堆積に対する新しい平衡状態を作り出すことができる。
【0086】
▲5▼魚礁・魚巣や藻場の育成効果等も期待できる。
【0087】
▲6▼将来の地球温暖化による海面上昇への効果的な対応策となる。
【0089】
そして、底層付近に生成する流れの方向に沿わせて造体の列を複数配置するだけで、簡単に底質の移動を制御することができる。
【0090】
しかも、造体の相互の配置間隔や方向を変えることで、底層付近に生成する流れの方向や強さを適宜微調整することが簡単に行えると共に、造体の撤去や強化も容易に行うことができる。
【0091】
(2)請求項2記載の本発明では、構造体が海底面より突出する高さは、5cm〜50cm程度としている。
【0092】
このように、造体を小型化することができる。
【0093】
その結果、造体が船の運航や景観等の支障となることがなく、造体の製造コストの低減と輸送・配置作業のコスト低減及び効率化を同時に図ることができる。
【0094】
(3)請求項3記載の本発明では、構造体は、略四分の一球状に形成している。
【0095】
このようにして、流れの方向により抵抗特性が大きく異なる造体をシンプルな形状に形成することができて、製造コストや搬送コスト等の経済性に優れたものとなすことができると共に、同造体による底質の移動制御を良好に確保することができる。
【0096】
(4)請求項4記載の本発明では、構造体は、円柱状に形成した基端部と、同基端部より上方に延設して基端部と同径の半円柱状に形成した中間部と、同中間部の上端に連設して中間部と同径の略四分の一球状に形成した先端部とを具備している。
【0097】
1)このように、造体を杭状となすことにより、同造体による海底面と水空間との遮断を最小限にとどめることができて、底生生物等の生活空間を良好に確保することができると共に、上記した効果を十分に発揮させることができる。
【0098】
2)海岸侵食が進行して海底面が低下しても、露出した半円柱状の中間部によって任意(所望)の方向に底層付近の流れを確実に生成することができる。
【0099】
3)杭構造であるため、海底面の変化に追随させることができ、可撓性に優れている。
【0100】
4)杭構造として海底に打ち込んで設置することができるため、海底に据える形状のものに比して安定性を高めることができる。
【0101】
5)打設する際に打ち込む深さを調節することで、造体の海底面より突出する高さを任意に設定できる。
【0102】
6)構造体を低コストにて製造することができて、経済性に優れている。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明にかかる底質移動制御方法の原理説明図。
【図2】残差抵抗力を受ける砂の運動の軌道説明図。
【図3】構造体ユニットの配置説明図。
【図4】もう一つの構造体ユニットの配置説明図。
【図5】小規模構造体による砂移動促進説明図。
【図6】小規模構造体による砂移動抑制説明図。
【図7】構造体ユニットを配置した航路の平面説明図。
【図8】同航路の断面正面説明図。
【図9】同航路の拡大平面説明図。
【図10】同航路の拡大断面正面説明図。
【図11】従来の河口閉塞防止構造の平面説明図。
【図12】本発明にかかる底質移動制御方法による河口閉塞防止構造の平面説明図。
【図13】本発明にかかる底質移動制御方法による水質・底質汚染改善構造の平面説明図。
【図14】同水質・底質汚染改善構造の側面説明図。
【図15】本発明にかかる底質移動制御方法による河川の底質移動コントロール構造の平面説明図。
【図16】図15のI−I矢視線における浮流砂濃度分布図と残差流速分布図。
【図17】波浪残差流の方向制御説明図。
【図18】波浪残差抵抗力と波浪残差流生成方向の説明図。
【図19】第2実施形態としての小規模構造体の斜視説明図。
【図20】同小規模構造体の機能説明図。
【図21】第3実施形態としての小規模構造体の斜視説明図。
【図22】第4実施形態としての小規模構造体の斜視説明図。
【図23】2次元造波水槽の側面説明図。
【図24】同2次元造波水槽の平面説明図。
【図25】構造体ユニットの平面説明図。
【図26】幅平均波浪残差流の鉛直分布図。
【図27】通常時の海浜における砂の移動説明図。
【図28】強風時の海浜における砂の移動説明図。
【図29】砂浜による波のエネルギーの減衰効果の説明図。
【符号の説明】
1 小規模構造体
2 海底
3 波浪残差抵抗力
4 波浪残差流
5 波の進行方向
6 流体の方向
7 抵抗力
8 砂の運動の軌道
9 実質的な砂の移動量
10 構造体ユニット

Claims (4)

  1. 沿岸域における海底において、波浪により形成される往復流の中に、流れの方向により抵抗特性の異なる構造体を複数配置して、底層付近に波浪によって誘起される波浪残差流を任意の方向に生成し、当該波浪残差流のパターンをデザインすることで底質の移動を制御する底質移動制御方法であって、
    前記構造体は、底層付近に生成しようとする波浪残差流の方向に沿わせて、かつ、間隔を開けて複数配置することにより前記構造体の列を形成すると共に、前記構造体の列は、波浪残差流の方向と交差する方向にも複数配置し、
    各前記構造体は、順流方向や逆流方向等の流れの方向により抵抗特性の異なる順流側粗度面と逆流側粗度面を有するとともに、これらの粗度面が流体を通過させることがないものであり、
    復流の中に配置される各構造体の順流側粗度面及び逆流側粗度面が向く方向のパターンによって流体に与えられる運動量の大きさと方向に変化をもたせることで、形成される波浪残差流の流況パターンを自由にデザインすることがでるようにしたことを特徴とする底質移動制御方法。
  2. 前記構造体が海底面より突出する高さは、水深に関係なく5cm〜50cm程度の範囲内であることを特徴とする請求項1記載の底質移動制御方法。
  3. 前記構造体は、略四分の一球状に形成したことを特徴とする請求項1又は2記載の底質移動制御方法。
  4. 前記構造体は、円柱状に形成した基端部と、同基端部より上方に延設して基端部と同径の半円柱状に形成した中間部と、同中間部の上端に連設して中間部と同径の略四分の一球状に形成した先端部とを具備することを特徴とする請求項1又は2記載の底質移動制御方法。
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