JP4535630B2 - ケトール脂肪酸化合物およびその製造方法並びにこのケトール脂肪酸化合物を有効成分とする花芽形成促進剤 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、特定のα−ケトール脂肪酸化合物およびその製造方法に関する発明であり、さらに、このα−ケトール脂肪酸化合物の植物成長調整作用に着目した植物成長調整剤に関する発明である。
【0002】
【従来の技術】
植物の成長調整技術を開発することは、穀物植物や園芸植物の供給効率を向上させる上で、非常に重要な事項である。
【0003】
植物の成長を調整することにより顕在化する典型的な効果として、植物の成長の促進効果が挙げられる。植物の成長の速度を決める因子としては、温度、光、栄養分等が考えられる。植物の成長を促進させるために、目的とする植物の性質に応じた温度条件や日照条件を選択する試みは、古来から行われている。これらの温度や光以外の成長促進技術としては、施肥が代表的な技術として挙げられ、一定の効果を上げている。
【0004】
しかしながら、施肥の効果については、自ずと限界があり、用いる肥料の量を多くしても、一定以上の植物の成長の促進効果は期待できないばかりか、肥料を多く与えすぎると、かえって植物の成長に障害となり、ひいては土壌を汚染してしまうことにもなりかねない。
【0005】
特に、植物の成長初期においては、施肥による栄養障害が起こりやすく、通常は、この時期は施肥を控えるのが普通である。
従って、窒素・リン酸・カリウム等の成分からなる、従来から用いられてきた肥料とは異なる、植物の成長促進効果を示す化合物が望まれていた。
【0006】
そして、このような植物の成長促進効果は勿論のこと、花芽形成の促進効果、植物の老化の抑制効果、植物の休眠防止効果、乾燥や高温等の植物のストレスの抑制効果等の効果により、ニーズに応じた植物の成長調整効果を発揮させる手段を見出して、穀物植物や園芸植物の供給効率を向上させることが、さらに望まれている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らは、上述の主題に関連して、特定のケトール脂肪酸が、広範な植物に対して所望する花芽形成誘導活性を示すことを見い出した(特開平11−29410号公報等)。また、この特定のケトール脂肪酸が、植物の様々な生命現象に深く係わっていることを、本発明者らは突き止めつつある。
【0008】
本発明が解決すべき課題は、かかる特定のケトール脂肪酸についての知見をさらに発展させて、上述の主題に対応する新たな物質を創生して、これを有効成分とする新たな植物成長調整剤として提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、この課題の解決に向けて鋭意検討を行った。その結果、驚くべきことに、特定の構造を有するα−ケトール不飽和脂肪酸とカテコールアミンの一種であるノルエピネフリンとが結合した、α−ケトール不飽和脂肪酸化合物に優れた植物成長調整効果が認められることを見出して本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明者は、本願において、以下の発明を提供する。
第1に、下記一般式(1)で表されるα−ケトール不飽和脂肪酸化合物(以下、本ケトール脂肪酸化合物ともいう)を提供する。
【0011】
【化4】
【0012】
〔式中、R1 は、炭素原子数が1〜5の直鎖状アルキル基を、R2 は、水素原子、水酸基、メチル基またはエチル基を、R3 は、水素原子またはカルボキシル基を、R4 は、水素原子、メチル基、エチル基、イソプロピル基、アセチル基またはtert−ブチル基を、R5 は、水素原子、水酸基、メトキシ基、エトキシ基、ホルミル基またはヒドロキシメチル基を表し、結合数nは、3〜15の整数であり、A位およびB位の炭素原子の立体配置は、(R)配置であっても、(S)配置であってもよい〕
第2に、下記一般式(2)で表わされるα−ケトール不飽和脂肪酸と、下記一般式(3)で表わされるカテコールアミン類を混合し、この混合物を中性〜塩基性条件下でインキュベートして、α−ケトール不飽和脂肪酸のカテコールアミン化合物を生成させる、本ケトール脂肪酸化合物の製造方法(以下、本製造方法ともいう)を提供する。
【0013】
【化5】
【0014】
〔式中、R1 およびnは、本ケトール脂肪酸化合物(1)について上記した内容と同一である〕
【0015】
【化6】
【0016】
〔式中、R2 〜R5 は、本ケトール脂肪酸化合物(1)について上記した内容と同一であり、R6 は、水素原子、直鎖状もしくは分岐状アルキル基またはアシル基を表す〕
第3に、本ケトール脂肪酸化合物を有効成分とする植物成長調整剤(以下、本植物成長調整剤ともいう)を提供する。また、本植物成長調整剤は、本ケトール脂肪酸化合物の植物に対する個別的な作用に着目した剤(植物の花芽形成促進剤、植物賦活剤、植物成長促進剤、植物老化防止剤、植物花期延長剤、植物休眠抑制剤、植物ストレス抑制剤)としての態様をとり得る剤である。
【0017】
本発明において「植物の成長調整」とは、何らかの形で植物の生命活動を調整することを意味するものであり、植物の成長促進、抗老化、花期延長、休眠抑制、植物におけるストレスに対する抵抗性の付与等の植物の賦活作用は勿論のこと、花芽形成促進をも包含する概念である。
【0018】
また、「成長促進」とは、茎葉の拡大、塊茎塊根の成長促進、着果促進、果実の成長促進等を包含する概念である。
本発明者らは、上記のα- ケトール不飽和脂肪酸(2)が、単独で、または、カテコールアミンの一種であるノルエピネフリン(3)と組み合せて作用させることによって、広範な植物に対して花芽形成誘導活性を示すこと自体は、既に見出し、上記の特開平11−29410号公報等にその旨を記載している。しかしながら、特定の構造を有する本ケトール脂肪酸化合物が、優れた植物成長調整作用を示すことは、全く予想を超えたものであった。
【0019】
なお、本明細書においては、本来イタリック体(下線付きアルファベット)で表記するべきものも、通常のアルファベットで表記している。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
A.本ケトール脂肪酸化合物について
本ケトール脂肪酸化合物は、上記の一般式(1)に示す構造のα−ケトール不飽和脂肪酸化合物である。
【0021】
一般式(1)におけるR1 は、上記の通り、炭素原子数が1〜5の直鎖状アルキル基であり、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基およびペンチル基が挙げられる。本発明において、R1 は、特に、メチル基であることが好適である。
【0022】
R2 は、上記の通り、水素原子、水酸基、メチル基またはエチル基であるが、本発明においては、水酸基であることが好適である。
R3 は、上記の通り、水素原子またはカルボキシル基であるが、本発明においては、水素原子であることが好適である。
【0023】
R4 は、上記の通り、水素原子、メチル基、エチル基、イソプロピル基、アセチル基またはtert−ブチル基であるが、本発明においては、メチル基または水素原子であることが好適であり、特に、水素原子であることが好適である。
【0024】
R5 は、上記の通り、水素原子、水酸基、メトキシ基、エトキシ基、ホルミル基またはヒドロキシメチル基であるが、本発明においは、水酸基または水素原子であることが好適であり、特に、水酸基であることが好適である。
【0025】
また、上記の通り、結合数nは、3〜15の整数であるが、本発明においては、5〜9の整数であることが好適であり、特に、7であることが好適である。
また、上記の通り、A位およびB位の炭素原子の立体配置は、(R)配置であっても、(S)配置であってもよいが、本発明においては、A位が(S)配置であり、かつ、B位が(R)配置であることが好適である。
【0026】
本ケトール脂肪酸化合物の具体例としては、例えば、(9R)-11-{(2'S,8'S,10'S,11'R)-2',8'-ジヒドロキシ-7'-オキソ-11'-[(Z)-2-ペンテニル]-9'- オキサ-4'-アザトリシクロ[6.3.1.01,5]ドデカ-5'-エン-10'- イル}-9- ヒドロキシ-10-オキソウンデカン酸、(9S)-11-{(2'S,8'S,10'S,11'R)-2',8'-ジヒドロキシ-7'-オキソ-11'-[(Z)-2-ペンテニル]-9'-オキサ-4'-アザトリシクロ[6.3.1.01,5 ]ドデカ-5'-エン-10'- イル}-9- ヒドロキシ-10-オキソウンデカン酸、(9R)-11-{(2'R,8'S,10'S,11'R)-2',8'-ジヒドロキシ-7'-オキソ-11'-[(Z)-2-ペンテニル]-9'- オキサ-4'-アザトリシクロ[6.3.1.01,5]ドデカ-5'-エン-10'- イル}-9-ヒドロキシ-10-オキソウンデカン酸、
(9R)-11-{(8'S,10'S,11'R)-8'- ヒドロキシ-7'-オキソ-11'-[(Z)-2-ペンテニル]-9'- オキサ-4'-アザトリシクロ[6.3.1.01,5]ドデカ-5'-エン-10'- イル}-9- ヒドロキシ-10-オキソウンデカン酸、(9R)-11-{(3'S,8'S,10'S,11'R)-3'- カルボキシ-8'-ヒドロキシ-7'-オキソ-11'-[(Z)-2-ペンテニル]-9'- オキサ-4'-アザトリシクロ[6.3.1.01,5]ドデカ-5'-エン-10'- イル}-9- ヒドロキシ-10-オキソウンデカン酸、(9R)-11-{(8'S,10'S,11'R)-8'- ヒドロキシ-4'-メチル-7'-オキソ-11'-[(Z)-2-ペンテニル]-9'- オキサ-4'-アザトリシクロ[6.3.1.01,5]ドデカ-5'-エン-10'- イル}-9- ヒドロキシ-10-オキソウンデカン酸、
(9S)-11-{(3'S,8'S,10'S,11'R)-3'- カルボキシ-8'-ヒドロキシ-7'-オキソ-11'-[(Z)-2-ペンテニル]-9'- オキサ-4'-アザトリシクロ[6.3.1.01,5]ドデカ-5'-エン-10'- イル}-9- ヒドロキシ-10-オキソウンデカン酸、(9R)-11-{(3'S,10'S,11'R)-3'- カルボキシ-7'-オキソ-11'-[(Z)-2-ペンテニル]-9'- オキサ-4'-アザトリシクロ[6.3.1.01,5]ドデカ-5'-エン-10'- イル}-9- ヒドロキシ-10-オキソウンデカン酸、(9R)-11-{(2'S,8'S,10'S,11'R)-2',8'-ジヒドロキシ-7'-オキソ-11'-[(Z)-2-ヘプテニル]-9'- オキサ-4'-アザトリシクロ[6.3.1.01,5]ドデカ-5'-エン-10'- イル}-9- ヒドロキシ-10-オキソウンデカン酸、
(8R)-10-{(2'S,8'S,10'S,11'R)-2',8'-ジヒドロキシ-7'-オキソ-11'-[(Z)-2-ペンテニル]-9'- オキサ-4'-アザトリシクロ[6.3.1.01,5]ドデカ-5'-エン-10'-イル}-8- ヒドロキシ-9- オキソデカン酸、(11R)-13- {(2'S,8'S,10'S,11'R)-2',8'-ジヒドロキシ-7'-オキソ-11'-[(Z)-2-ペンテニル]-9'- オキサ-4'-アザトリシクロ[6.3.1.01,5]ドデカ-5'-エン-10'- イル}-11-ヒドロキシ-12-オキソトリデカン酸、(9R)-11-{(2'S,8'S,10'S,11'R)-2',8'-ジヒドロキシ-7'-オキソ-11'-[(Z)-2-ヘキセニル]-9'- オキサ-4'-アザトリシクロ[6.3.1.01,5]ドデカ-5'-エン-10'- イル}-9- ヒドロキシ-10-オキソウンデカン酸、
【0027】
(11R)-13- {(2'S,8'S,10'S,11'R)-2',8'-ジヒドロキシ-7'-オキソ-11'-[(Z)-2-ヘキセニル]-9'- オキサ-4'-アザトリシクロ[6.3.1.01,5]ドデカ-5'-エン-10'- イル}-11-ヒドロキシ-12-オキソトリデカン酸、(9R)-11-{(2'S,8'S,10'R,11'R)-2',8'-ジヒドロキシ-7'-オキソ-11'-[(Z)-2-ペンテニル]-9'- オキサ-4'-アザトリシクロ[6.3.1.01,5]ドデカ-5'-エン-10'- イル}-9- ヒドロキシ-10-オキソウンデカン酸、(9R)-11-{(2'S,8'S,10'R,11'S)-2',8'-ジヒドロキシ-7'-オキソ-11'-[(Z)-2-ペンテニル]-9'- オキサ-4'-アザトリシクロ[6.3.1.01,5]ドデカ-5'-エン-10'- イル}-9- ヒドロキシ-10-オキソウンデカン酸等を挙げることができる。
【0028】
これらの例示物質の中で、(9R)-11- {(2'S,8'S,10'S,11'R)-2',8'-ジヒドロキシ-7'-オキソ-11'-[(Z)-2-ペンテニル]-9'- オキサ-4'-アザトリシクロ[6.3.1.01,5]ドデカ-5'-エン-10'- イル}-9- ヒドロキシ-10-オキソウンデカン酸は、最も好適な本ケトール脂肪酸化合物の一つである。
【0029】
本ケトール脂肪酸化合物は、天然物としても合成化合物としても、未だ見い出されていない。また、その製造は通常公知の化学合成法や酵素合成法などを駆使しても容易に達成することはできない。
【0030】
本ケトール脂肪酸化合物は、多様で、かつ、優れた植物成長調整作用を有しており、後述するように、植物成長調整剤の有効成分として用いることができる。
本ケトール脂肪酸化合物は、これと類似する植物に対する活性を有すると思われる、上記一般式(2)で表されるα−ケトール不飽和脂肪酸よりも、格段に強い活性を有することが大きな特徴である。具体的には、本ケトール脂肪酸化合物は、α−ケトール不飽和脂肪酸(2)の1/10000程度の濃度で、所望する効果を発揮する。
【0031】
B.本製造方法について
本製造方法は、上述した通り、上記一般式(2)で表わされるα−ケトール不飽和脂肪酸と、ノルエピネフリンに代表される上記一般式(3)で表わされるカテコールアミン類を混合し、この混合物を中性〜塩基性条件下でインキュベートして、α−ケトール不飽和脂肪酸のカテコールアミン化合物を生成させる、本ケトール脂肪酸化合物の製造方法である。一般式(2)におけるR1 およびnは、本ケトール脂肪酸化合物(1)について上記した内容と同一である。また、一般式(3)におけるR2 〜R5 は、本ケトール脂肪酸化合物(1)について上記した内容と同一であり、R6 は、上記の通り、水素原子、直鎖状もしくは分岐状アルキル基またはアシル基であるが、本発明においては、水素原子、炭素原子数が1〜3の直鎖状もしくは分岐状アルキル基またはアシル基であることが好適であり、特に、水素原子またはメチル基であることが好適である。
【0032】
一般式(2)で表わされるα- ケトール不飽和脂肪酸は、少なくとも一部は動植物における脂肪酸代謝物質の中間体として知られているが、これらが直接植物において果たす役割については知られていない。例えば、R1 がメチル基でかつn=7のα- ケトール不飽和脂肪酸(2)である、9-ヒドロキシ-10-オキソ-12(Z),15(Z)- オクタデカジエン酸〔以下、化合物(4)ともいう〕に関しては、例えば、小麦においてα- リノレン酸代謝物質の中間体として知られていた(Graveland, Lipids, 8, 606, 1973 )が、この物質が直接植物において果たす役割については知られていなかった。
【0033】
なお、一般式(2)で表わされるα- ケトール不飽和脂肪酸としては、9-ヒドロキシ-10-オキソ-12(Z),15(Z)- オクタデカジエン酸,7-ヒドロキシ-8- オキソ-10(Z),13(Z)- オクタデカジエン酸,9-ヒドロキシ-10-オキソ-12(Z),15(Z)- エイコサジエン酸,11- ヒドロキシ-12-オキソ-14(Z),17(Z)- エイコサジエン酸,7-ヒドロキシ-8- オキソ-10(Z),13(Z)- ノナデカジエン酸などが挙げられる。
【0034】
これらのα−ケトール不飽和脂肪酸(2)は、天然物に含まれているものについては、この天然物から抽出精製することで製造することができる。また、α−リノレン酸に、リポキシゲナーゼ等の酵素を、植物体内における脂肪酸代謝経路に準じて作用させることにより、所望するα−ケトール不飽和脂肪酸(2)を得ることができる。さらに、通常公知の化学合成法を駆使しても、所望するα- ケトール不飽和脂肪酸(2)を得ることができる。
【0035】
α- ケトール不飽和脂肪酸の製造の詳細に関しては、例えば、特開平11−29410号公報や文献(Yokoyama et al., Plant Cell Physiol., 41,110-113,2000)に記載されている。
【0036】
一方、ノルエピネフリンは、動物における交感神経の伝達物質としての役割が有名であるが、植物においてもその存在が知られており、例えば、アオウキクサの懸濁液中に見い出されている(Takimoto et al., Plant Cell Physiol., 30, 1017-1021, 1991 )が、その役割は明らかではなかった。
【0037】
前述したように、本発明者らは、化合物(4)を含む上述の一般式(2)で表わされるα- ケトール不飽和脂肪酸が単独で、またはカテコールアミンの一種であるノルエピネフリン等と組み合わせて作用させることによって、広く植物における花芽形成誘導作用を有することを明らかにした(特開平11−29410号公報)。
【0038】
本発明において、一般式(2)で表わされるα−ケトール不飽和脂肪酸と組み合わせて反応させるカテコールアミン類は、本製造方法において行われる反応後に、上述の一般式(1)で表わされるようなアザトリシクロ構造を形成できるもの、すなわち、上記式(3)に従うカテコールアミン類である。具体的には、例えば、ノルエピネフリンの他、エピネフリン、ドーパミン、ノルメタネフリン、3−O−メチルドーパミン、4−O−メチルドーパミン等が挙げられる。
【0039】
また一般式(3)で表わされる、ノルエピネフリンやエピネフリン等のカテコールアミン類は、市販のものを用いても、天然物から抽出精製しても、また通常公知の化学合成法を駆使して製造したものを用いてもよい。
【0040】
本製造方法では、α−ケトール不飽和脂肪酸(2)とカテコールアミン類(3)を、中性〜塩基性条件下でインキュベートを行うことにより、所望する本ケトール脂肪酸化合物を製造することができる。
【0041】
中性〜塩基性条件下とは、かかる用語から想定される幅広い領域のpH範囲のことを表す、具体的には、pH6.0程度以上であるが、pH8〜9程度の弱塩基性条件下を選択することが好ましい。
【0042】
インキュベート時間は、特に限定されないが、1時間〜200時間程度の間で選択されることが好ましい。インキュベート温度も、特に限定されないが、4〜40℃程度の間で選択されることが好適である。
【0043】
また、α−ケトール不飽和脂肪酸(2)とカテコールアミン類(3)のインキュベートの際の混合比率は、特に限定されないが、重量比で、概ね、1:10〜10:1が好ましく、同1:1でインキュベートするのが最も好適である。
【0044】
また、反応溶媒は、水が好適であるが、含水率80質量%以上程度の含水溶媒であってもよい。水中に共存し得る他の種類の溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、アセトン等を挙げることができる。
【0045】
このようにして、本製造方法に従ってインキュベートを行った反応物における本ケトール脂肪酸化合物の検出は、本ケトール脂肪酸化合物が、300nm付近に吸収を有することから、この検出には、UV検出器を用いることが可能である。そして、かかる検出とHPLC等の特定物質の単離手段を駆使して、反応物から本ケトール脂肪酸化合物を単離精製することができる。
【0046】
また、通常公知の方法を用いて、反応物から単離精製することも可能であり、例えば、溶媒抽出や各種のクロマトグラフィー等を用いて行うことができる。
C.本植物成長調整剤について
本植物成長調整剤は、これを植物に使用することにより、その植物の成長を調整することが可能である。
【0047】
この「植物成長調整」の内容を以下に例示する。
▲1▼花芽形成促進作用について
本植物成長調整剤は、これを投与することにより、植物の花芽の形成を促進することができる。すなわち、本植物成長調整剤を用いることで、植物が開花する前提となる花芽の形成を促進することができる。
【0048】
この意味で、本発明は、「植物の花芽形成促進」という、より具体的な効果を奏する剤も提供する(花芽形成促進剤)。
本植物成長調整剤を、花芽形成促進剤として用いる場合の投与は、花芽が形成されるべき時期以前であれば特に限定されないが、これを用いる対象となる植物の性質に応じた処理を行いつつ投与することが好適である。例えば、アサガオ等の短日植物の場合には、一定の暗処理を行いつつ、本植物成長調整剤を投与することが好ましい。
【0049】
▲2▼植物の賦活作用について
本植物成長調整剤は、これを投与することにより、その植物の生命活動を活性化する賦活作用を発揮させることが可能である。
かかる植物に対する作用を発揮し得る植物賦活剤は、具体的には、植物成長促進剤、抗老化剤、休眠抑制剤、抗ストレス剤等としての態様を採り得る剤である。
【0050】
▲2▼−1:植物成長促進作用
本植物調整剤を、植物賦活剤として用いる場合、その植物の成長速度を早め、収穫効率等を向上させる、植物成長促進剤として用いることが可能である(前述したように、茎葉の拡大、塊茎塊根の成長促進、着果促進、果実の成長促進等を期待することができる)。この意味で、本発明は、「植物の成長促進」という、より具体的な効果を奏する剤をも提供する(植物成長促進剤)。
【0051】
本植物成長調整剤を、植物を賦活させる目的で用いると、これまで肥料では成長促進が困難であった、発芽後初期の植物の成長を特に促進することができる。
故に、本植物成長調整剤を、植物賦活剤を植物の成長促進を目的として用いる場合の投与は、播種時ないし発芽後の生育初期段階にすることが好ましい。
【0052】
すなわち、本植物成長調整剤を、発芽後の生育初期に噴霧等により投与するだけで、植物の成長の促進が認められ、しかも、その成長促進効果には持続性が認められる。また、前述したように、本植物成長調整剤を、過剰に使用しても、施肥を過剰に行う場合のような植物の生育障害がほとんど認められず、使用量をあまり気にかけることなく用いることができる。
【0053】
園芸ないし農業の分野においては、納品後の扱いが面倒な種子ではなく、苗による流通が主流になりつつある。特に、花卉ビジネスにおいては、一般愛好家は、すでにほとんど苗を購入している。本植物成長調整剤を苗の流通前に用いることにより、販売時において、苗を大きくすることが可能である。
また、上述した本植物成長調整剤の性質は、ホウレンソウ、レタス、キャベツ等、いわゆる葉物農作物の収穫を増大するための利用に適している。
【0054】
▲2▼−2:抗老化作用
本植物成長調整剤は、これを投与することにより、その植物の老化を抑制することにより賦活する、植物賦活剤として用いることができる。具体的には、花期を延長して、花を鑑賞する期間や受粉期間を延長させることが可能である(この個別的な花期延長効果に着目した、「花期延長剤」も、本発明において提供される)。また、本植物成長調整剤の投与により、植物株当りの花数を増加させることもできる。
【0055】
本植物成長調整剤を、花期を延長させる植物賦活剤として用いる場合の投与は、植物の花期全般にわたって行うことが可能であり、具体的には、種子の水浸時期であっても、発芽後であってもよい。
【0056】
さらに、一年草等でも見られるように、株が衰弱して枯死に向かう時期にも、本植物成長調整剤を投与することにより、衰弱(老化)を遅らせることができる。
【0057】
このように、本植物成長調整剤は、「花期の延長」や「枯死の遅延」という効果が認められ、いわば、「植物の老化抑制」という効果を発揮して、植物を賦活させ得る剤である。
すなわち、本発明は、「植物の老化抑制」という植物賦活効果を奏する剤をも提供する(植物抗老化剤)。
【0058】
▲2▼−3:休眠抑制作用
本植物成長調整剤は、これを投与することにより、植物の休眠を防止することで、植物を賦活させることができる。すなわち、本植物成長調整剤を、植物賦活剤として用いることで、植物が一定期間、その成長をストップしてしまう「休眠期間」を短縮したり終了させたりすることが可能である。
【0059】
この意味で、本発明は、「植物の休眠抑制」という、より具体的な効果を奏する剤をも提供する(植物休眠抑制剤)。
本植物成長調整剤を、植物の休眠を抑制する植物賦活剤として用いる場合の投与は、植物の発芽後の早い時期とすることで、植物の休眠を予防することができる。また、既に、休眠してしまった植物に投与して、その植物の休眠を終了させることも可能である。
【0060】
▲2▼−4:抗ストレス作用
本植物成長調整剤は、これを投与することにより、植物における様々なストレス、具体的には、乾燥ストレス、高温ストレス、低温ストレス、浸透圧ストレス等に対する抵抗性を付与することで、植物を賦活させることができる。すなわち、本植物成長調整剤により、栽培植物の収率を低下させる原因ともなる、気候変動、種子の発芽誘導作業等に伴うストレスの植物に対する影響を軽減することで、植物を賦活することが可能である。
【0061】
この意味で、本発明は、「植物に対するストレスの抑制」という、より具体的な効果を奏する剤をも提供する(植物ストレス抑制剤)。
本植物成長調整剤を、植物のストレスを抑制する植物賦活剤として用いる場合の投与は、植物の種子を発芽させる際や、発芽後に行うことで、植物にストレスに対する抵抗性を付与することが可能である。
【0062】
本植物成長調整剤の有効成分である、本ケトール脂肪酸化合物の植物に対する投与量の上限は特に限定されない。すなわち、本植物成長調整剤により、本ケトール脂肪酸化合物を多量に投与しても、成長阻害等の植物に対する負の効果は、ほとんど認められない。これは、従来から用いられている植物ホルモン剤を過剰投与すると、植物に対する負の効果が顕著に現れ、これらの使用に際しては、過剰投与がなされないように格別の気配りをしなければならないことと比較すると、本植物成長調整剤は非常に優れているといえる。
【0063】
また、上記の本ケトール脂肪酸化合物の植物に対する投与量の下限は、植物個体の種類や大きさにより異なるが、1つの植物個体に対して1回の投与当り、0.1nM程度以上が一応の目安である。
【0064】
本植物成長調整剤における、本ケトール脂肪酸化合物の配合量は、その使用態様や使用する対象となる植物の種類、さらには本植物成長調整剤の具体的な剤形等に応じて選択することが可能である。本植物成長調整剤の態様として、本ケトール脂肪酸化合物をそのまま用いることも可能であるが、上記の本ケトール脂肪酸化合物の投与の目安等を勘案すると、概ね、剤全体に対して0.1ppb 〜1ppm 程度が好ましく、さらに好ましくは、同1ppb 〜100ppb 程度である。
【0065】
本植物成長調整剤の剤形としては、例えば、液剤、固形剤、粉剤、乳剤、底床添加剤等の剤形が挙げられ、その剤形に応じて、製剤学上適用することが可能な公知の担体成分、製剤用補助剤等を本発明の所期の効果である植物の成長促進作用が損なわれない限度において、適宜配合することができる。例えば、担体成分としては、本植物成長調整剤が底床添加剤又は固形剤である場合には、概ねタルク、クレー、バーミキュライト、珪藻土、カオリン、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、白土、シリカゲル等の無機質や小麦粉、澱粉等の固体担体が;また液剤である場合には、概ね水、キシレン等の芳香族炭化水素類、エタノール、エチレングリコール等のアルコール類、アセトン等のケトン類、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル等の液体担体が上記の担体成分として用いられる。また製剤用補助剤としては、例えばアルキル硫酸エステル類、アルキルスルホン酸塩、アルキルアリールスルホン酸塩、ジアルキルスルホコハク酸塩等の陰イオン界面活性剤、高級脂肪族アミンの塩類等の陽イオン界面活性剤、ポリオキシエチレングリコールアルキルエーテル、ポリオキシエチレングリコールアシルエステル、ポリオキシエチレングリコール多価アルコールアシルエステル、セルロース誘導体等の非イオン界面活性剤、ゼラチン、カゼイン、アラビアゴム等の増粘剤、増量剤、結合剤等を適宜配合することができる。
【0066】
さらに必要に応じて、一般的な植物生長調節剤や、安息香酸、ニコチン酸、ニコチン酸アミド、ピペコリン酸等を、上記の本発明の所期の効果を損なわない限度において、本植物成長調整剤中に配合することもできる。
【0067】
本植物成長調整剤は、その剤形に応じた方法で種々の植物に投与され得る。例えば、本発明においては、植物の生長点のみならず、茎や葉をはじめとする植物体の一部又は全体に液剤や乳剤として散布、滴下、塗布等することや、固形剤や粉剤として地中から根に吸収させること等が可能である。また、成長の促進を図る植物がウキクサ等の水草の場合には、底床添加剤として根から吸収させたり、固形剤を水中で除々に溶解させること等も可能である。
【0068】
本植物成長調整剤の植物への投与頻度は、植物個体の種類や投与目的等により異なるが、基本的には、ただ1度の投与によっても所望する効果を得ることができる。複数回投与する場合には、1週間以上の投与間隔をあけることが効率的である。
【0069】
本植物成長調整剤を適用可能な植物の種類は特に限定されず、被子植物(双子葉植物・単子葉植物)の他、菌類、地衣類、蘚苔類、シダ類および裸子植物に対しても、本植物成長調整剤は有効である。
【0070】
被子植物のうち、双子葉植物としては、例えば、アサガオ属植物(アサガオ)、ヒルガオ属植物(ヒルガオ、コヒルガオ、ハマヒルガオ)、サツマイモ属植物(グンバイヒルガオ、サツマイモ)、ネナシカズラ属植物(ネナシカズラ、マメダオシ)が含まれるひるがお科植物、ナデシコ属植物、ハコベ属植物、タカネツメクサ属植物、ミミナグサ属植物、ツメクサ属植物、ノミノツヅリ属植物、オオヤマフスマ属植物、ワチガイソウ属植物、ハマハコベ属植物、オオツメクサ属植物、シオツメクサ属植物、マンテマ属植物、センノウ属植物、フシグロ属植物、ナンバンハコベ属植物等のなでしこ科植物をはじめ、もくまもう科植物、どくだみ科植物、こしょう科植物、せんりょう科植物、やなぎ科植物、やまもも科植物、くるみ科植物、かばのき科植物、ぶな科植物、にれ科植物、くわ科植物、いらくさ科植物、かわごけそう科植物、やまもがし科植物、ぼろぼろのき科植物、びゃくだん科植物、やどりぎ科植物、うまのすずくさ科植物、やっこそう科植物、つちとりもち科植物、たで科植物、あかざ科植物、ひゆ科植物、おしろいばな科植物、やまとぐさ科植物、やまごぼう科植物、つるな科植物、すべりひゆ科植物、もくれん科植物、やまぐるま科植物、かつら科植物、すいれん科植物、まつも科植物、きんぽうげ科植物、あけび科植物、めぎ科植物、つづらふじ科植物、ろうばい科植物、くすのき科植物、けし科植物、ふうちょうそう科植物、あぶらな科植物、もうせんごけ科植物、うつぼかずら科植物、べんけいそう科植物、ゆきのした科植物、とべら科植物、まんさく科植物、すずかけのき科植物、ばら科植物、まめ科植物、かたばみ科植物、ふうろそう科植物、あま科植物、はまびし科植物、みかん科植物、にがき科植物、せんだん科植物、ひめはぎ科植物、とうだいぐさ科植物、あわごけ科植物、つげ科植物、がんこうらん科植物、どくうつぎ科植物、うるし科植物、もちのき科植物、にしきぎ科植物、みつばうつぎ科植物、くろたきかずら科植物、かえで科植物、とちのき科植物、むくろじ科植物、あわぶき科植物、つりふねそう科植物、くろうめもどき科植物、ぶどう科植物、ほるとのき科植物、しなのき科植物、あおい科植物、あおぎり科植物、さるなし科植物、つばき科植物、おとぎりそう科植物、みぞはこべ科植物、ぎょりゅう科植物、すみれ科植物、いいぎり科植物、きぶし科植物、とけいそう科植物、しゅうかいどう科植物、さぼてん科植物、じんちょうげ科植物、ぐみ科植物、みそはぎ科植物、ざくろ科植物、ひるぎ科植物、うりのき科植物、のぼたん科植物、ひし科植物、あかばな科植物、ありのとうぐさ科植物、すぎなも科植物、うこぎ科植物、せり科植物、みずき科植物、いわうめ科植物、りょうぶ科植物、いちやくそう科植物、つつじ科植物、やぶこうじ科植物、さくらそう科植物、いそまつ科植物、かきのき科植物、はいのき科植物、えごのき科植物、もくせい科植物、ふじうつぎ科植物、りんどう科植物、きょうちくとう科植物、ががいも科植物、はなしのぶ科植物、むらさき科植物、くまつづら科植物、しそ科植物、なす科植物、ごまのはぐさ科植物、のうぜんかずら科植物、ごま科植物、はまうつぼ科植物、いわたばこ科植物、たぬきも科植物、きつねのまご科植物、はまじんちょう科植物、はえどくそう科植物、おおばこ科植物、あかね科植物、すいかずら科植物、れんぷくそう科植物、おみなえし科植物、まつむしそう科植物、うり科植物、ききょう科植物、きく科植物等を例示することができる。
【0071】
また、同じく単子葉植物としては、例えば、ウキクサ属植物(ウキクサ)及びアオウキクサ属植物(アオウキクサ、ヒンジモ)が含まれる、うきくさ科植物、カトレア属植物、シンビジウム属植物、デンドロビューム属植物、ファレノプシス属植物、バンダ属植物、パフィオペディラム属植物、オンシジウム属植物等が含まれる、らん科植物、がま科植物、みくり科植物、ひるむしろ科植物、いばらも科植物、ほろむいそう科植物、おもだか科植物、とちかがみ科植物、ほんごうそう科植物、いね科植物、かやつりぐさ科植物、やし科植物、さといも科植物、ほしぐさ科植物、つゆくさ科植物、みずあおい科植物、いぐさ科植物、びゃくぶ科植物、ゆり科植物(アスパラガス等)、ひがんばな科植物、やまのいも科植物、あやめ科植物、ばしょう科植物、しょうが科植物、かんな科植物、ひなのしゃくじょう科植物等を例示することができる。
【0072】
【実施例】
以下、実施例により、本発明をより具体的に説明する。ただし、これらの実施例等により、本発明の技術的範囲が限定されるべきものではない。
【0073】
〔実施例1〕(9R)-11- { (2'S,8'S,10'S,11'R)-2',8'- ジヒドロキシ -7'- オキソ -11'-[(Z)-2- ペンテニル ]-9'- オキサ -4'- アザトリシクロ [6.3.1.0 1,5 ] ドデカ -5'- エン -10'- イル} -9- ヒドロキシ -10- オキソウンデカン酸〔以下、化合物(5)ともいう〕の製造、単離精製および構造解析
化合物(4)100 mgを500 mLの水に溶解して、そこに酒石酸水素(R)-(-)-ノルエピネフリン一水和物(和光純薬)111.3 mgと1Mトリスバッファー(pH8.0)16.1 mL を加え、25℃で102 時間インキュベートした。反応液を減圧濃縮後、シリカゲルカラムクロマトグラフィー(ワコーゲル C-200)により分画した。クロロホルム:メタノール:水=10:3:1で溶出を行い、HPLCによりさらに分画を行った(カラム:カプセルパックC-18 UG120,4.6x250 mm ,溶媒:25%アセトニトリル+0.1 %トリフルオロ酢酸,流速:1 mL/min,波長:300 nm)。HPLCで分析した結果を第1図に示す。一番大きなピーク(保持時間26.8分)に関して、カラムサイズを大きくして(カプセルパックC-18 UG120,10x250 mm)分取および凍結乾燥を行い、化合物(5)を黄色の結晶(4.5 mg)として得た。
【0074】
各種機器分析により、化合物(5)の構造解析を行った。旋光度はSEPA-300デジタル旋光計(堀場製作所)、吸収スペクトルはUV-2200 分光光度計(島津製作所)、IRスペクトルはFT/IR-5300(日本分光)、高分解FAB-MSはMAT95Q(Finnigan MAT 社)、1H- および13C-NMR はECP-400 (JEOL )を用いて測定した。なお、200nm 〜600nm の吸収スペクトルを第2図〔第2図(1):化合物(5)の吸収スペクトル、同(2):化合物(4)の吸収スペクトル、同(3):ノルエピネフリンの吸収スペクトル、横軸は測定波長(nm)で縦軸は吸光度である〕に示す。
【0075】
旋光度:[α]D 25 +40.5°(c=0.2,MeOH )
高分解 FAB-MS :494.27789(M+H)+
UV λ max(MeOH):292nm(ε=12000),205nm(ε=3500)
IR(KBr,cm -1 ):3400,1695,1685,1630
1 H-NMR(400MHz, CD 3 OD):δ1.03(3H,t,J=7.3,5"-H3),1.11-1.32(8H,4,5,6,7-H2),1.22(1H,m, 3-H),1.59(1H,t,J=12.0,3-H),1.44(1H,m,11'-H),1.48,1.66(both 1H,m,8-H2), 2.00,2.10 (both 1H,d,J=12.0,12'-H 2),2.11,2.65(both 1H,m,1"-H2), 2.17 (2H,m,J=7.3,4"-H2), 2.26(2H,t-like,J=7.3,2-H2),2.56(1H,dd,J=7.8,17.0,11-H), 2.86(1H,dd,J=5.0,17.0,11-H),3.43(1H,d,J=13.0,3'-H),3.85(1H,dd,J=3.4,13.0,3'-H) 3.98(1H,dd,J=4.0,7.7,9-H), 4.29(1H,d,J=3.4,2'-H),4.58(1H,m,10'-H),5.25(1H.m,2"-H),5.36(1H,m,3"-H), 5.42 (1H,s,6'-H).
【0076】
13 C-NMR(100MHz,CD 3 OD):15.0(C-5"),22.7(C-4"),25.7(C-1"),26.3,26.4(C-3,4),31.0,31.0, 31.0(C-5,6,7),33.6(C-12'),34.9(C-8),35.7(C-2),41.5(C-11'),42.9(C-11),56.1(C-3'), 59.5(C-1'),72.6(C-10'),74.2(C-2'),79.0(C-9),95.0(C-6'),95.8(C-8')131.0(C-2"), 134.2 (C-3"),177.3(C-5'),178.5(C-1),189.0(C-7'),213.1(C-10).
【0077】
上記プロトンおよびカーボンの帰属は、DIFCOSY 、HMQCならびにHOHAHAスペクトルなどの2次元NMR スペクトルを測定して行った。得られたデータを化合物(4)のデータ〔特開平11−29410および文献(Yokoyama et al., Plant Cell Physiol., 41,110-113,2000)に記載〕と比較したところ、化合物(4)の12位cis-オレフィンのシグナルが消失し、その部分に何らかの化合物が付加した構造と考えられた。
【0078】
また、無水酢酸/pyridine を用いたアセチル化により化合物(5)の tetraacetate 誘導体が得られたことから、4 個の活性プロトンの存在が明らかになった。さらに、tetraacetate誘導体の 1H-NMR データを化合物(5)のデータと比較したところ、9 位、2'位、3'位のプロトンが低磁場シフトし、10' 位プロトンはシフトしなかったことから、10' 位はエーテル結合をしているものと考えられた。これらの結果およびHMBCスペクトルの詳細な解析により、3環性構造を持つことが明らかになった。また化合物(5)の NOESYおよび GOESYスペクトルを測定したところ、11' 位プロトンと2', 3', 10' 位プロトン間、10' 位プロトンと6'位プロトン間、12' 位アキシアルプロトンと1"位プロトン間などにNOE が観測され、環状部分の立体配置が明らかになった。
【0079】
本化合物(5)の9 位の絶対配置を解析するため、まず酵素合成して得た化合物(4)の9 位の絶対配置の解析を行った。化合物(4)のメチルエステル還元体に1-ethyl-3-(3-dimethylaminopropyl)carbodiimide hydrochloride および 4-dimethylaminopyridine存在下、(R)-(+)-または (S)-(-)-2-methoxy-2-trifluoromethylphenylacetic acid(MTPA) を反応させ、それぞれ(R)-,(S)-MTPAエステルを得た。これらMTPAエステル体に改良Mosher法 (Ohtani et al., J.Am.Chem.Soc., 113, 4092-4096, 1991)を適用した結果、酵素合成した化合物(4)は70%の(9R)体と30%の(9S)体の混合物であることが明らかになった。
【0080】
次に、キラルカラムを用いて分取した(9R)- および(9S)- の化合物(4)を用いてノルエピネフリンとの反応を行った。その結果、(9R)- の化合物(4)から化合物(5)が生成することが判明した。
以上のデータより、化合物(5)の構造を下記のように決定した。
【0081】
【化7】
【0082】
〔実施例2〕 アサガオにおける化合物(4)および化合物(5)の花芽形成誘導活性の測定
9 gのアサガオ(品種名:ムラサキ)の種子に濃硫酸処理を20分間施し、その後流水下で一晩放置した。次いで、種子のへその部分を上にして、湿った海砂上に24時間置き発根させた。これらの発根した種子を海砂中に、1.5 〜2.0 cm程度の深さに植え、連続光下で培養した(5日間程度)。
【0083】
この培養により開葉したアサガオの全植物体を、培養液〔KNO3 (250 mg), NH4NO3 (250 mg), KH2PO4 (250 mg), MgSO4・7H2O (250 mg), MnSO4 ・4H2O (1 mg), Fe-citrate n-hydrate (6 mg), H3BO3 (2 mg), CuSO4・5H2O (0.1 mg), ZeSO4 ・7H2O (0.2 mg), Na2MoO4 ・2H2O (0.2 mg), Ca(H2PO4)2・2H2O (250 mg) /1000 mL 蒸留水〕に移した。
【0084】
化合物(4)または化合物(5)を、上記アサガオの子葉に8 個体に対して2 mLの割合で噴霧後、暗処理(14時間の暗処理)を行い、その後26℃で14日間連続光で育成し、14日目の花芽の数を観察確認した。
【0085】
第3図にその結果を示す。対照群は蒸留水を噴霧した群であり、100 μM の化合物(4)または0.001 μM 〜100 μM 濃度で化合物(5)を噴霧した。
化合物(5)は化合物(4)に比べ、はるかに低濃度で花芽形成誘導活性を示しており、化合物(5)0.01μM で、化合物(4)100 μM と同等の活性を示した。
【0086】
〔実施例3〕アオウキクサにおける化合物(5)の花芽形成誘導活性の測定
化合物(5)の花芽形成誘導作用を、アオウキクサP151株をモデル植物として、その花成率(%)(花芽形成が認められた葉状体数/全体の葉状体数×100 )で調べた。
【0087】
化合物(4)0.155 mgを0.15 mL の水に溶解して、そこに10 mM の酒石酸水素(R)-(-)-ノルエピネフリン一水和物溶液50μL と0.5 M のトリス緩衝液(pH 8.0)25μL を加えた。その溶液を25℃で6 時間インキュベートした。
【0088】
次に、所定量のインキュベートした溶液または上記実施例1にて調製した化合物(5)を、フラスコ中のアッセイ培地(ショ糖無添加の1/10 E培地+1 μM ベンジルアデニン)10 mL 中に各々添加した。
【0089】
上記アッセイ培地上に、P151のコロニーを1つずつ植えつけて、24〜25℃で昼光色蛍光灯で継続的に照射を行いながら(Hitachi FL20 SSDで植物に対して約5W/m2 の割合で照射)7日間培養して、上記花成率を求めた(第4図)。
【0090】
化合物(5)の添加により、化合物(4)とノルエピネフリンの反応液よりもやや低いものの、活性が認められた。単独の物質がアオウキクサの花芽形成を誘導することを見い出したのは初めてである。
【0091】
〔実施例4〕 アオウキクサにおける、化合物(4)とノルエピネフリンまたはその類縁体の反応物の花芽形成誘導活性の測定
化合物(4)とノルエピネフリン(L−ノルエピネフリン)またはその類縁体の反応物の花芽形成誘導作用を、アオウキクサP151株をモデル植物として、その花成率(%)(花芽形成が認められた葉状体数/全体の葉状体数×100 )で調べた。
【0092】
ノルエピネフリンの類縁体としては、L−エピネフリン、ドーパミン、DL−ノルメタネフリン、3−O−メチルドーパミン、4−O−メチルドーパミン、ホモバニリン酸およびバニロイルマンデル酸を用いた。
【0093】
化合物(4)0.155 mgを0.092 mLの水に溶解して、そこに10 mM の酒石酸水素(R)-(-)-ノルエピネフリン一水和物溶液または各種類縁体溶液50μL と0.5 M のトリス緩衝液(pH 8.0)25μL を加えた。その溶液を25℃で24時間インキュベートした。
【0094】
次に、上記インキュベートした溶液10μL または1/10希釈溶液10μL を、フラスコ中のアッセイ培地(ショ糖無添加の1/10 E培地+1 μM ベンジルアデニン)10 mL 中に各々添加した。
【0095】
上記アッセイ培地上に、P151のコロニーを1つずつ植えつけて、24〜25℃で昼光色蛍光灯で継続的に照射を行いながら(Hitachi FL20 SSDで植物に対して約10W/m 2 の割合で照射)7日間培養して、上記花成率を求めた(第5図)。
【0096】
ノルエピネフリン以外に、ドーパミンおよび4−O−メチルドーパミンの反応物について、高い花芽形成誘導活性を、エピネフリン、DL−ノルメタネフリンおよび3−O−メチルドーパミンの反応物についても、ある程度の花芽形成誘導活性が認められた。一方、ホモバニリン酸およびバニロイルマンデル酸の反応物には、花芽形成誘導活性が認められなかった。
【0097】
【発明の効果】
本発明により、優れた植物の成長調整作用を有する物質およびこの物質の製造方法が提供され、さらに、この物質を有効成分とする植物成長調整剤が提供された。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1図は、化合物(4)とノルエピネフリンとの反応物のHPLC分析チャートを表す図面である。
【図2】第2図(1)、(2)および(3)はそれぞれ、化合物(5)、化合物(4)およびノルエピネフリンの吸収スペクトルを表す図面である。
【図3】第3図は、化合物(4)および化合物(5)のアサガオにおける花芽形成促進活性を表す図面である。
【図4】第4図は、化合物(4)とノルエピネフリンの反応液、および化合物(5)のアオウキクサにおける花芽形成誘導活性を示す図面である。
【図5】第5図は、化合物(4)とノルエピネフリンまたはその類縁体の反応物のアオウキクサにおける花芽形成誘導活性を示す図面である。
Claims (9)
- 下記一般式(1)で表されるα−ケトール不飽和脂肪酸化合物。
- α−ケトール不飽和脂肪酸化合物(1)のR1 がメチル基である、請求項1記載のα−ケトール不飽和脂肪酸化合物。
- α−ケトール不飽和脂肪酸化合物(1)における結合数nが7である、請求項1または2記載のα−ケトール不飽和脂肪酸化合物。
- α−ケトール不飽和脂肪酸化合物(1)におけるA位の炭素原子の立体配置が(S)配置であり、かつ、B位の炭素原子の立体配置が(R)配置である、請求項1〜3のいずれかの請求項記載のα−ケトール不飽和脂肪酸化合物。
- α−ケトール不飽和脂肪酸化合物(1)のR5 が水酸基である、請求項1〜4のいずれかの請求項記載のα−ケトール不飽和脂肪酸化合物。
- α−ケトール不飽和脂肪酸化合物(1)のR2 が水酸基であり、かつ、同R3 およびR4 が水素原子である、請求項1〜5のいずれかの請求項記載のα−ケトール不飽和脂肪酸化合物。
- (9R)-11-{(2'S,8'S,10'S,11'R)-2',8'-ジヒドロキシ-7'-オキソ-11'-[(Z)-2-ペンテニル]-9'- オキサ-4'-アザトリシクロ[6.3.1.01,5]ドデカ-5'-エン-10'- イル}-9- ヒドロキシ-10-オキソウンデカン酸である、請求項1記載のα−ケトール不飽和脂肪酸化合物。
- 下記一般式(2) で表わされるα−ケトール不飽和脂肪酸と、下記一般式(3) で表わされるカテコールアミン類を混合し、この混合物を中性〜塩基性条件下でインキュベートして、α−ケトール不飽和脂肪酸のカテコールアミン化合物を生成させる、請求項1〜7のいずれかの請求項記載のα−ケトール不飽和脂肪酸化合物の製造方法。
- 請求項1〜7のいずれかの請求項記載のα−ケトール不飽和脂肪酸化合物を有効成分とする花芽形成促進剤。
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