JP4528953B2 - 矮性化形質転換植物および矮性化を誘導するための遺伝子 - Google Patents
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Description
また、近年の地球環境変動や人間の生活スタイルの変化によって、人類が必要とする作物の種類も、その作物に必要な形質も、刻々と変化している。例えば、植物を圃場栽培ではなく閉鎖型完全人工環境制御下で栽培し、医薬品等の有用物質生産の場として利用する、いわゆる「植物工場」などの試みも現在開始されている。閉鎖型植物生産施設での栽培を目的とした場合、これまでに育種開発された品種は必ずしも最適なものではなく、より空間を有効に利用しうる形態、つまり、栽培スペースの面積では体積を有効に利用しうる形態、多段栽培に適した形質をもつことが重要であり、従来必要とされたよりもより一層、矮性化された植物品種の作出が必要である。
このようなニーズの変化の中で、育種に膨大な時間を有する従来の育種方法にかわり、より短い時間で必要な形態変化を誘導することの出来る遺伝子組換えによる育種法が非常に有用とされるようになり、有用形質の誘導に関与する遺伝子資源の発掘とその利用方法の確立、機能の解明が急務となってきている。
また、新品種作出の必要性が多様な植物品種に及ぶ現状から、様々な植物種、植物品種において簡便に、また、一律に同じ形質変化を誘導しうる育種手法の開発も重要であると考えられる。
イネなどにおいては生育に重要な植物ホルモンやその他の物質の生合成に関わる遺伝子をアンチセンス等で抑制する方法(特許文献1〜7)、これら遺伝子に変異を導入する方法(特許文献8〜10)の他、イネの節で特異的に働くプロモーターを用いる方法(特許文献11)や、微生物由来酵素を用いて細胞壁に代謝異常を起こさせる方法(特許文献12)も検討されていた。しかしながら、アンチセンスや変異導入などで標的遺伝子を抑制しても、機能重複遺伝子がある場合には完全に遺伝子機能を抑制することは困難であり、また、標的となる合成経路が複数存在する場合には複数の経路に関与する遺伝子のすべてを抑制することは不可能に近く、また、一方では生育に重要な遺伝子やその関与する代謝経路は完全にその機能を抑制してしまうと生育状態が著しく悪化することから、適切なレベルで制御することが必要であるが、その制御は容易ではない。またそれぞれの植物ごとに標的遺伝子の塩基配列が微妙に異なるため、アンチセンス法などで遺伝子の機能を抑制する方法は植物一般に適用できる汎用性のある技術とはいえなかった。
また、モデル植物であるシロイヌナズナ由来の遺伝子について網羅的に過剰発現コンストラクトを作成し、それをシロイヌナズナに導入することにより、矮小化を誘導、原因遺伝子を特定するなどして、At4g31910, At1g04910, At4g35700, At1g49770遺伝子(WO2005/026345)、At1g66820遺伝子(特許文献2)を同定し、これら遺伝子を過剰発現させて矮小化させる方法(特許文献2)も開発されたが、これらによって植物を一般的に完全に矮小化させるという目的が達成されたともいえない。また、一般的にこれらの技術を用いた場合、草丈が低くなると同時に、枝、葉の数の減少や、葉の厚み、茎の太さの変化をも誘導されることが多く、バイオマス全体が減少してしまう傾向にあり、観賞用植物としてはともかく、野菜、穀物など作物として多収性が重要とされる栽培植物一般に適用できる汎用的技術ではなかった。
したがって、草丈だけが低くなりバイオマスはほとんど変化しない、従来の植物と遜色ない枝・葉の数を有する優良植物の作出が可能であり、同時に栽培植物一般に適用できる汎用性もある、簡便で確実な技術が求められていた。
本発明者等は、上記課題を解決するため、シロイヌナズナの転写制御遺伝子に着目し、鋭意研究の結果、At2g43060遺伝子に典型的な転写抑制ドメインのSRDXを繋いだキメラタンパク質を植物体内で過剰に発現させた場合に、顕著な植物の矮性化機能を有することを見出し、そのキメラタンパク質が植物細胞の伸長を促進する酵素群の発現抑制をするというメカニズムも解明した。さらに、At2g43060遺伝子がコードするタンパク質には、それ自体を過剰に発現させた場合にも植物細胞の縦方向の伸長を抑制する機能があり、形質転換植物を矮性化させる機能を有することも見出した。
そして、当該遺伝子、および、これに転写抑制ドメインを結合してリプレッサーに機能変換したものを用いてタバコ植物を形質転換した結果、生物種を超えて草丈の低い優れた矮性植物が作出できる知見を得たことで、本発明を完成させた。
すなわち、本発明において、矮性形質を優性的に誘導する遺伝子を単離同定することができ、当該遺伝子に転写抑制ドメイン遺伝子を結合してリプレッサーに機能変換したものを異所的に発現させることによって、確実かつ簡便に矮性植物の作出を可能にするものである。
さらに、このシロイヌナズナのキメラ遺伝子(35S:At2g43060SRDX)をタバコ植物体に導入し、得られた形質転換植物を観察したところ、これらのタバコは野生型と比較して節間が短くなり、草丈が著しく低くなることが判った。さらにその原因を解明するためにタバコの茎についても表皮細胞の観察を行なったところ、シロイヌナズナの花茎の細胞と同様に縦方向の伸長が抑制されている事が判明した。これらのことから、シロイヌナズナの転写制御因子At2g43060を用いて作製したキメラ遺伝子は植物の種、および、生育ステージを問わず茎の細胞の縦方向の伸長を抑制し、植物の矮性化を誘導することが示された。
〔1〕 以下の(a)〜(b)のいずれかに記載のアミノ酸配列を含むタンパク質であって、植物細胞の伸長抑制機能を有するタンパク質;
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列、
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列、
(c)配列番号2に示される塩基配列がコードするアミノ酸配列、
(d)配列番号2に示される塩基配列の相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列がコードするアミノ酸配列。
〔2〕 前記タンパク質が、そのC末側に転写抑制ドメインを結合させたキメラタンパク質であることを特徴とする、前記〔1〕に記載のタンパク質。
〔3〕 前記転写抑制ドメインが、(L/F)DLN(L/F)(X)Pからなるモチーフ(但し、Xは任意のアミノ酸残基を示す。)又は「DLELRL」である、前記〔2〕に記載のタンパク質。
〔4〕 前記転写抑制ドメインが、下記式(I)で示されるアミノ酸配列からなる、植物の転写機能を有するペプチドである、前記〔2〕に記載のタンパク質;
式(I)
X1−X2−Leu−Phe−Gly−Val−X3
(式中、X1及びX3は1〜10個の任意のアミノ酸で構成されるアミノ酸配列を表し、X2はLys又はArgを表す。)。
〔5〕 前記〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載のタンパク質をコードする核酸分子。
〔6〕 前記〔5〕に記載の核酸分子を含む、発現ベクター。
〔7〕 前記〔5〕に記載の核酸分子が発現可能な状態で導入されている、形質転換細胞。
〔8〕 前記〔5〕に記載の核酸分子が導入された、矮性化された形質転換植物およびその子孫。
〔9〕 前記〔7〕に記載の形質転換細胞を培養し、採取することを特徴とする、植物細胞の伸長抑制機能を有するタンパク質の製造方法。
〔10〕 前記〔5〕に記載の核酸分子を植物細胞に導入し、該植物細胞から植物体を再生させることを特徴とする、矮性化された形質転換植物体の製造方法。
〔11〕 前記〔5〕に記載の核酸分子を植物体の細胞内で発現させることを特徴とする、植物の矮性化方法。
また、本発明の遺伝子による植物体の矮性化の誘導は植物一般に適用でき、本遺伝子は植物の茎の細胞の伸長には影響を及ぼすが、葉や枝の数などには影響しないので、各種植物の育種分野において非常に有用である。
本発明において用いられる転写制御因子をコードする遺伝子は、典型的にはシロイヌナズナ由来のAt2g43060遺伝子であり、配列番号2で表される。
当該遺伝子がコードするタンパク質は、単独でまたは転写制御ドメインと融合したキメラ蛋白質として形質転換植物体内で過剰発現されることで、植物体内の細胞内の縦方向の伸長に関わる酵素遺伝子の発現を抑制するものと考えられる。このような発現抑制機構は、本発明者らが従来からCREST−T法として開発してきた転写制御機構と同様であり、本願発明は、イネなどの単子葉植物も包含する汎用性のある植物一般に適用可能な酵素遺伝子の発現の抑制方法である。
具体的には、下記のタンパク質をコードする核酸分子として表現することができる。
以下の(a)〜(d)のいずれかに記載のアミノ酸配列を含むタンパク質であって、植物細胞の伸長抑制機能を有するタンパク質;
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列、
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列、
(c)配列番号2に示される塩基配列がコードするアミノ酸配列、
(d)配列番号2に示される塩基配列の相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列がコードするアミノ酸配列。
ここで、ストリンジェントな条件とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいう。
また、1若しくは数個のアミノ酸とは、1〜30個、好ましくは1〜10個程度をいう。
式(I)
X1−X2−Leu−Phe−Gly−Val−X3
上記式(I)中、X2はLys又はArgを表す。X1及びX3についてはどのようなアミノ酸であってもよく、X1及びX3のアミノ酸配列を構成するアミノ酸の数はそれぞれが1〜10個の範囲内であればいくつでもよい。使用するペプチドの合成のし易さからみれば短い方がよいが、確実に抑制効果を上げるためには、X1及びX3をあわせた数が3以上であることが好ましい。より好ましくは、X1+X3が6以上、さらに好ましくは10以上であることが好ましい。ここに含まれる保存モチーフを一文字表記で示せば、「(R/K)LFGV」または「(X)(R/K)LFGV(X)」となる。(但し、Xは任意のアミノ酸残基を示す。)(配列番号6)このモチーフに含まれる典型的な塩基配列は、シロイヌナズナ転写因子のAt3g11580、At2g46870、At1g13260、At1g68840、At4g36990及びAt4g11660などに含まれる(R/K)LFGVモチーフに対応する塩基配列として取得できる。
CRES−T法は、植物から単離された転写抑制ドメイン(ドミナントリプレッサー)を用い、転写活性化因子のカルボキシル基末端に結合して、当該転写活性化因子に強力な転写抑制活性を付与する技術であり、それぞれをコードする核酸分子のキメラ遺伝子を生体内で発現させることで、該標的遺伝子の転写を強く抑制する。転写抑制ドメインを融合したキメラ遺伝子は該転写活性因子のみではなく、同一遺伝子に対して重複して働く他の転写活性因子の機能も全て抑制することから、CRES−T法を用いて作成された植物は標的遺伝子の発現を完全に抑制した形態を示す利点がある。
CRES−T法で用いられる転写抑制ドメインは、(L/F)DLN(L/F)(X)Pなるモチーフや(X)(R/K)LFGV(X)モチーフ(但し、Xは、いずれも任意のアミノ酸残基を表す)シロイヌナズナのみならず、タバコ、イネなど広範囲な植物の転写抑制因子でも多数同定されており、またCRES−T法においては配列と機能が類似した近縁遺伝子についても機能抑制が可能であり、種を超えて植物一般に適用可能であることが確認されている。
本発明の遺伝子又は組換えベクターを植物中に導入する方法としては、アグロバクテリウム法、PEG−リン酸カルシウム法、エレクトロポレーション法、リポソーム法、パーティクルガン法、マイクロインジェクション法等が挙げられる。
遺伝子が植物に組み込まれたか否かの確認は、PCR法、サザンハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法等により行うことができる。
形質転換に用いられる植物としては、アブラナ科、ナス科、イネ科、マメ科等に属する植物が挙げられるが、これらの植物に限定されるものではない。
このように、本発明においては、ナス科植物等の野菜類と共に、イネ、小麦等の穀物、豆類、トウモロコシなど食糧生産性植物の育種一般に適用できるので、将来的な食糧生産技術の上からも大きな期待がもてる。
タバコは、ナス科のモデル植物として古くから研究に使用されてきた植物であるが、その遺伝子資源についての知見は非常に少ない。しかし、タバコにおける知見はトマト、ジャガイモなどの主要作物を多く含むナス科において広く利用可能であることが期待できる。
また、タバコは、交配育種方法でも分子育種でも形質の改変が困難な複二倍体である。倍数体植物の中には食用・飼料用として重要な作物であるダイズ、コムギなどが含まれ、タバコにおいて得られた知見はこれら倍数体植物の育種に有用であると思われる。
さらに、シロイヌナズナはロゼット性であり、栄養成長期には節間の伸長がみられないため、栄養成長期の矮性化の評価が困難であることに対して、タバコにおいては栄養成長期・生殖成長期ともに節の伸長がみられることから、矮性化の評価が簡単である。本発明のキメラタンパク質による植物の矮性化は茎の細胞の縦方向の伸長抑制によるものである。このことを立証するために本発明者らは該キメラタンパク質を異所的に発現した茎の表皮細胞において走査型電子顕微鏡を用いた表皮細胞の詳細な観察を行ない、細胞が縦に伸長していないことを確認した。
また、本発明のタンパク質又はキメラタンパク質を植物細胞宿主又は大腸菌など他の微生物宿主、動物細胞宿主などを用いて産生することもできる。これらタンパク質は、植物体に直接作用させることにより、植物体を矮小化できる可能性がある。
まず、転写制御因子であるAt2g43060遺伝子に転写抑制ドメインSRDXを融合したキメラ遺伝子のみではなく、この遺伝子にコードされる転写制御因子そのものがシロイヌナズナの矮性化を誘導することを示すために、本発明者らは該転写制御因子をCaMV35Sプロモーター制御下で異所的に発現させた形質転換植物において詳細な解析を行なった。
該転写制御因子をCaMV35Sプロモーター制御下で異所的に発現させた形質転換シロイヌナズナにおいては、SRDXを融合したキメラタンパク質を異所的に発現させた形質転換シロイヌナズナと同様に、著しい矮性化が観察された。
該転写制御因子をCaMV35Sプロモーター制御下で異所的に発現させた形質転換シロイヌナズナからRNAを抽出し、各遺伝子の発現量を解析したところ、この植物においては、SRDXを融合したキメラタンパク質を異所的に発現させた形質転換シロイヌナズナと同様に、細胞の縦方向の伸長を促進する酵素群の発現が抑制されていることが判明した。
該キメラコンストラクトを導入したタバコにおいては茎の節間が短くなり、最終的な草丈も低くなった。走査型電子顕微鏡を用いて茎の表皮細胞の観察を行なったところ、シロイヌナズナと同様に、茎細胞の縦方向の伸長抑制が観察されたことから、該キメラコンストラクトの作用はシロイヌナズナとタバコで共通していることが判明した。
さらに、該キメラコンストラクト導入タバコにおける節間の縮小は栄養成長期と生殖成長期の茎に共通してみられたことから、該キメラコンストラクトの作用は栄養成長期と生殖成長期に共通していることが判明した。
すなわち、該キメラコンストラクトの作用はロゼット性植物の花茎の伸長抑制に限定されるものではなく、植物の栄養成長期の茎の伸長抑制に対しても広く機能するものである。
また、該キメラコンストラクト導入タバコにおいては植物体が矮性化したにもかかわらず、葉の枚数は減少しなかった。このことは該キメラコンストラクトの作用が茎の細胞の縦方向の伸長抑制に限定されており、果実の形成やバイオマスに大きな影響を与える枝や葉の形成パターンに対しては作用しないことを示す。
実施例2は、At2g43060遺伝子をカリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーターの下流につないで形質転換プラスミドを構築し、該プラスミドをシロイヌナズナ植物体に導入し、形質転換植物の形態を観察、および、細胞伸長促進酵素の発現に対する影響を解析することにより、At2g43060遺伝子のシロイヌナズナにおける草丈伸長抑制効果を調べたものである。
実施例3は、At2g43060遺伝子に転写抑制ドメインであるSRDXをコードする遺伝子断片を結合させ、これをカリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーターの下流につないで形質転換プラスミドを構築し、該プラスミドをタバコ植物体に導入し、形質転換植物の形態を観察することにより、At2g43060遺伝子のタバコにおける草丈伸長抑制効果を調べたものである。
(1−1)形質転換用ベクターpBIG2の構築
クローンテック社製(Clontech社,USA)のプラスミドp35S−GFPを制限酵素HindIIIとBamHIで切断し、カリフラワーモザイクウイルス35Sプロモーター(CaMV 35S)を含むDNA断片をアガロースゲル電気泳動で分離し回収した。米国ミシガン州立大学より譲渡された植物形質転換用ベクターpBIG−HYG(Becker,D.1990 Nucleic Acid Research,18:203)を制限酵素HindIIIとSstIで切断し、アガロースゲル電気泳動によってGUS遺伝子を除いたDNA断片を得た。
以下の配列を有するDNAを合成し、70℃で10分加温した後、自然冷却によりアニールさせて2本鎖DNAとした。このDNA断片には、5’末端にBamHI制限酵素部位、翻訳効率を高めるタバコモザイクウイルス由来のomega配列、及び制限酵素部位SmaI、SalIを有する。
5’-GATCCACAATTACCAACAACAACAAACAACAAACAACATTACAATTACAGATCCCGGGGGTACCGTCGACGAGCTC-3’(配列番号7)
5’- CGTCGACGGTACCCCCGGGATCTGTAATTGTAATGTTGTTTGTTGTTTGTTGTTGTTGGTAATTGT-3’(配列番号8)
CaMV 35Sプロモーター領域をふくむDNA断片と合成した2本鎖DNAを、GUS遺伝子を除いたpBIG−HYGのHindIII、SstI部位に挿入し、植物形質転換用ベクターpBIG2を得た。
SUPERMANの部分塩基配列)の5’にGGGを3‘にストップコドンを付与した相補的な二本のDNA配列
5’-GGGCTCGATCTGGATCTAGAACTCCGTTTGGGTTTCGCTTAAG-3’(配列番号9)
5’-CTTAAGCGAAACCCAAACGGAGTTCTAGATCCAGATCGAGCCC-3’(配列番号10)
をアニールし、SmaIでカットした上記のpBIG2ベクターに挿入、シークエンスを確認して順方向に導入されたものを選抜し、p35SRDXとした。
シロイヌナズナAt2g43060cDNAを鋳型として、5末アッパープライマー5’-GATGGCCTCTGCAGACAAACTCATAAACAC-3’(配列番号11)
3末ローアープライマー
5’-TTTGGGAGATAAGCCATCAACGAGACACTG-3’(配列番号12)
を用いてPCR反応によりAt2g43060の全長配列からストップコドンを除いたものを増幅した。なお上記PCR反応の条件は、変性反応94℃1分、アニール反応50℃1分、伸長反応72℃3分を1サイクルとして30サイクル行った。次いで、SmaIでカットしてアガロールゲル電気泳動で回収した上記のp35SRDXに挿入し、シークエンスを確認してAt2g43060遺伝子が順方向に導入されたものの中からさらにAt2g43060遺伝子とSRDXの読み枠が一致しているものを選抜、35S:At2g43060SRDXとした。
35S:At2g43060SRDXによるシロイヌナズナ植物の形質転換は、Transfomation of Arabidopsis thaliana byvacuum infiltration(http://www.bch.msu.edu/pamgreen/protocol.htm)に従った。ただし、感染させるのにバキュウムは用いないで、浸すだけにした。上記プラスミドを、土壌細菌[(Agrobacterium tumefaciens strain GV3101(C58C1Rifr)pMP90(Gmr)(koncz and Schell 1986))株にエレクトロポレーション法で導入した。導入した菌を250ミリリットルのLB培地で二日間培養した。
次いで、培養液から菌体を、回収し、500ミリリットルの感染用培地(Infiltration medium)に懸濁した。この溶液に、14日間生育したシロイヌナズナを1分間浸し、感染させた後、再び生育させ結種させた。回収した種子を50%ブリーチ、0.02%Triton X−100溶液で7分間滅菌した後、滅菌水で3回リンスし、滅菌した種子を30mg/lのハイグロマイシンを含む1/2MS選択培地に蒔種した。
上記ハイグロマイシンプレートで生育する形質転換植物体を選抜し、土壌に植え換え、生育した。
35S:At2g43060SRDXで形質転換した植物体の形質を図1のAおよびBの左側に示す。Bの右側の植物は野生型である。35S:At2g43060SRDXで形質転換したシロイヌナズナにおいては著しい花茎の矮性化の形態が確認された。このことより、35S:At2g43060SRDXキメラコンストラクトはシロイヌナズナにおいて花茎の矮性化を誘導することが証明された。
この形質転換シロイヌナズナの茎の表皮細胞の形態を走査型電子顕微鏡を用いて観察した図を図1のCに示す。Dは同じスケールで撮影した野生型の茎の写真である。35S:At2g43060SRDXで形質転換したシロイヌナズナにおいては茎の細胞の縦方向の著しい縮小がみられた。このことより、35S:At2g43060SRDXキメラコンストラクトはシロイヌナズナにおいて花茎の細胞の縦方向の伸長を阻害することが証明された。
35S:At2g43060SRDXで形質転換したシロイヌナズナ植物体(10日目実生)よりRNAを抽出し、これを鋳型として逆転写反応を行なって、cDNAを得た。
これを鋳型とし、定量的PCR反応を行なって、EXP8およびEXT遺伝子の発現量を解析した。ここで、EXP8はシロイヌナズナ由来エクスパンシンであり、ENTはシロイヌナズナのエンドキシログルカントランスフェラーゼであって、いずれも、細胞の縦方向の伸長に関与する酵素である。なお、定量的PCR反応においては内部標準として一般的に使用されるシロイヌナズナのUBQ遺伝子(ユビキチン遺伝子)の発現量を1として対象遺伝子がそれと比較して何倍量発現しているかを定量しており、以下の実験でも同様である。
EXP8のPCRには、センスプライマーとして
5’-GTTCCTGTCTCTTTCCGAAGAG-3’(配列番号13)
アンチセンスプライマーとして
5’-TACGTCTCCTGCTCCTCCTA-3’(配列番号14)
を用いた。
ENTのPCRには、センスプライマーとして
5’- CCTTTGGAACATGTACCAGATCGT-3’ (配列番号15)
アンチセンスプライマーとして
5’- GGTTGAATGGGAAACGTACTCCTA-3’ (配列番号16)
を用いた。
この定量的PCRの結果を図1のE,Fに示す。35S:At2g43060SRDXで形質転換したシロイヌナズナにおいては細胞の縦方向の伸長に関与する酵素遺伝子EXP8およびENTの発現量が低下していた。このことより、35S:At2g43060SRDXキメラコンストラクトはシロイヌナズナにおいて細胞の縦方向の伸長に関与する酵素の遺伝子発現を阻害することが証明された。
(2−1)形質転換ベクター35S:At2g43060の構築
シロイヌナズナAt2g43060cDNAを鋳型として、5末アッパープライマー-GATGGCCTCTGCAGACAAACTCATAAACAC(配列番号17)
3末ローアープライマー
GGGGTCGACTCATTTGGGAGATAAGCCATC(配列番号18)
を用いてPCR反応によりAt2g43060の全長配列を増幅した。なお上記PCR反応の条件は、変性反応94℃1分、アニール反応50℃1分、伸長反応72℃3分を1サイクルとして30サイクル行った。この増幅断片を、SmaIでカットしてアガロールゲル電気泳動で回収したpBIGベクターに挿入し、シークエンスを確認してAt2g43060遺伝子が順方向に導入されたものを選抜、35S:At2g43060とした。
35S:At2g43060によるシロイヌナズナ植物の形質転換は、Transfomation of Arabidopsis thaliana byvacuum infiltration(http://www.bch.msu.edu/pamgreen/protocol.htm)に従った。ただし、感染させるのにバキュウムは用いないで、浸すだけにした。上記プラスミドを、土壌細菌[(Agrobacterium tumefaciens strain GV3101(C58C1Rifr)pMP90(Gmr)(koncz and Schell 1986))株にエレクトロポレーション法で導入した。導入した菌を250ミリリットルのLB培地で二日間培養した。
次いで、培養液から菌体を、回収し、500ミリリットルの感染用培地(Infiltration medium)に懸濁した。この溶液に、14日間生育したシロイヌナズナを1分間浸し、感染させた後、再び生育させ結種させた。回収した種子を50%ブリーチ、0.02%Triton X−100溶液で7分間滅菌した後、滅菌水で3回リンスし、滅菌した種子を30mg/lのハイグロマイシンを含む1/2MS選択培地に蒔種した。
上記ハイグロマイシンプレートで生育する形質転換植物体を選抜し、土壌に植え換え、生育した。
35S:At2g43060で形質転換した植物体の形質を図2のAの左側に示す。Aの右側の植物は野生型である。これは図1のA、Bに示される35S:At2g43060SRDXで形質転換した植物体と類似していた。このことより、35S:At2g43060コンストラクトはSRDXと融合しなくてもシロイヌナズナにおいて花茎の矮性化を誘導することが証明された。
35S:At2g43060で形質転換したシロイヌナズナ植物体(10日目実生)よりRNAを抽出し、これを鋳型として逆転写反応を行なって、cDNAを得た。
これを鋳型とし、定量的PCR反応を行なって、EXP8およびEXT遺伝子の発現量を解析した。
EXP8のPCRには、センスプライマーとして
5’-GTTCCTGTCTCTTTCCGAAGAG-3’(配列番号13)
アンチセンスプライマーとして
5’-TACGTCTCCTGCTCCTCCTA-3’(配列番号14)
を用いた。
ENTのPCRには、センスプライマーとして
5’- CCTTTGGAACATGTACCAGATCGT-3’ (配列番号15)
アンチセンスプライマーとして
5’- GGTTGAATGGGAAACGTACTCCTA-3’ (配列番号16)
を用いた。
この定量的PCRの結果を図2のB,Cに示す。35S:At2g4306S0で形質転換したシロイヌナズナにおいては細胞の縦方向の伸長に関与する酵素遺伝子EXP8およびENTの発現量が低下していた。このことより、35S:At2g43060コンストラクトはシロイヌナズナにおいて細胞の縦方向の伸長に関与する酵素の遺伝子発現を阻害することが証明された。
(3−1)35S:At2g43060SRDXで形質転換したタバコ植物体の作成
35S:At2g43060SRDXによるタバコの形質転換は、リーフディスク法により行なった。
上記プラスミドを、土壌細菌[(Agrobacterium tumefaciens strain GV3101(C58C1Rifr)pMP90(Gmr)(koncz and Schell 1986))株にエレクトロポレーション法で導入した。導入した菌を100ミリリットルのLB培地で二日間培養した。
次いで、培養液から菌体を、回収し、5ミリリットルのLB培地に懸濁し、これに、無菌状態で生育させたタバコの葉を約1センチメートル角に切ったディスクを5分間浸し、感染させた後、MSプレート上で2日間、24℃16時間明期8時間暗期条件下で生育させた。そののち、リーフディスクをクラフォラン0.5mg/l, ベンジルアミノプリン 1mg/l,カナマイシン100 mg/l を含む培地に移植し、除菌と選抜、および、不定芽の形成を行なった。形成された不定芽を単離し、クラフォラン0.5mg/l, ナフタレン酢酸 1mg/l,カナマイシン100 mg/l を含む培地に移植し、発根を誘導した。発根した個体をクラフォラン0.5 mg/l,カナマイシン100mg/l を含む培地に移植し、生育させ、ある程度大きくなったところで土に移植して結種させた。回収した種子を50%ブリーチ、0.02%Triton X−100溶液で7分間滅菌した後、滅菌水で3回リンスし、滅菌した種子を100mg/lのカナマイシンを含むMS選択培地に蒔種した。
上記カナマイシンプレートで生育する形質転換植物体を選抜し、土壌に植え換え、生育した。
35S:At2g43060SRDXで形質転換したタバコ植物体の次世代の形質を図3のAの右側に示す。Aの左側の植物はベクターコントロールである。これは図1のA,Bに示される35S:At2g43060SRDXで形質転換したシロイヌナズナ植物体と同様に矮性の形態を示していた。また、形質転換タバコにおける節間伸長阻害は栄養成長期・生殖成長期を通じて観察された。植物の草丈を調査したグラフを図3のDに示す。形質転換植物においては野生型と比較して草丈が40%以上矮性化していた。一方で、図3のEに示すように一個体に形成される葉の枚数は減少していなかった。このことより、35S:At2g43060SRDXコンストラクトはタバコにおいても広く茎の伸長阻害を誘導する一方で、葉の形成数などには影響を与えないことが証明された。
この形質転換タバコの茎の表皮細胞の形態を走査型電子顕微鏡を用いて観察した図を図4のBに示す。Cは同じスケールで撮影した野生型の茎の写真である。35S:At2g43060SRDXで形質転換したタバコにおいては同コンストラクトを導入したシロイヌナズナと同様に茎の細胞の縦方向の著しい縮小がみられた。このことより、35S:At2g43060SRDXキメラコンストラクトはタバコにおいても茎の細胞の縦方向の伸長を阻害することが証明された。
この形質転換タバコの葉の形を上方から撮影した写真を図4のBに示す。図4のAは野生型の図である。形質転換タバコにおいては葉の縦方向の伸長が阻害され、葉が丸くなっていることが観察された。葉のサイズ変化をより明確に示すために各個体の大きい方から三枚の葉の縦横長を測定したところ、形質転換体の葉の縦の長さはコントロールを1としたときに0.5〜0.8であり、横の長さはやはりコントロールを1としたときに0.7〜1.0であった。この結果から葉の横の伸長よりも縦方向の伸長が顕著に抑制されていることが明確に示された。また、形質転換体の草丈の変化がコントロールを1としたときに0.2〜0.45であることから、本形質転換体においては葉のサイズダウンよりも、茎の伸長抑制の方が顕著に観察されることが明白となった。
Claims (13)
- 以下の(a)〜(d)のいずれかに記載のアミノ酸配列を含むタンパク質を有効成分とする、植物細胞の伸長抑制剤;
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列、
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列、
(c)配列番号2に示される塩基配列がコードするアミノ酸配列、
(d)配列番号2に示される塩基配列の相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列がコードするアミノ酸配列。 - 前記タンパク質が、そのC末側に転写抑制ドメインを結合させたキメラタンパク質であることを特徴とする、請求項1に記載の植物細胞の伸長抑制剤。
- 前記転写抑制ドメインが「DLELRL(配列番号4)」を含むペプチドである、請求項2に記載の植物細胞の伸長抑制剤。
- 以下の(a)〜(d)のいずれかに記載のアミノ酸配列を含むタンパク質であって、当該アミノ酸配列のC末側に「DLELRL(配列番号4)」を含む転写抑制ドメインが結合されている、植物細胞の伸長抑制機能を有するキメラタンパク質;
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列、
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列、
(c)配列番号2に示される塩基配列がコードするアミノ酸配列、
(d)配列番号2に示される塩基配列の相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列がコードするアミノ酸配列。 - 請求項4に記載のキメラタンパク質をコードする核酸分子。
- 請求項5に記載の核酸分子を含む、発現ベクター。
- 請求項5に記載の核酸分子が発現可能な状態で導入されている、形質転換細胞。
- 請求項5に記載の核酸分子が導入された、矮性化された形質転換植物およびその子孫。
- 請求項5に記載の核酸分子を植物体の細胞内で発現させることを特徴とする、植物の矮性化方法。
- 以下の(a)〜(d)のいずれかに記載の塩基配列を含む核酸分子又は当該核酸分子を含む発現ベクターを有効成分とする、植物細胞の伸長抑制剤;
(a)配列番号1に示されるアミノ酸配列をコードする塩基配列、
(b)配列番号1に示されるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列をコードする塩基配列、
(c)配列番号2に示される塩基配列、
(d)配列番号2に示される塩基配列の相補配列とストリンジェントな条件下でハイブリダイズする塩基配列。 - 前記核酸分子が、請求項10に記載された(a)〜(d)のいずれかの塩基配列の3’末端側に、転写抑制ドメインをコードする塩基配列が結合されたものであることを特徴とする、請求項12に記載の植物細胞の伸長抑制剤。
- 前記転写抑制ドメインが「DLELRL(配列番号4)」を含むペプチドである、請求項11に記載の植物細胞の伸長抑制剤。
- 請求項10〜12のいずれかに記載の植物細胞の伸長抑制剤を植物体の細胞内で発現させることを特徴とする、植物の矮性化方法。
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