JP4520074B2 - マイクロミラー駆動装置及びそのオフセット電圧調整方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、マイクロミラー駆動装置に関し、特にミラーをトーションバーの軸の回りに揺動させて、ミラーによって反射した光ビームを走査する静電駆動方式のガルバノマイクロミラーの駆動装置に関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
マイクロミラー装置(MEMS:Micro electro Mechanical System、アクチュエータとも呼ぶ)は、光ディスクやレーザプリンタなどで光ビームを走査するために用いられている。
マイクロミラー装置の1つとして、特開平8−211320号公報や特開2000−162538号公報に記載されているような静電駆動方式のガルバノマイクロミラーが利用されている。
【0003】
図1に、一般的なガルバノマイクロミラーの平面図及び断面図を示す。
ガルバノマイクロミラーは、主として、固定された電極板4(以下、固定部と呼ぶ)と、その上に位置する可動基板100を備えている。
可動基板100は、図1(a)に示すように、一方の表面にミラー(高反射率膜)が形成されたミラー部3を持つ可動部1と、可動部1を回動可能に支持する一対のトーションバー部2とを備えている。
また、図1(b)に示すように、可動部1の他方の表面上に、トーションバー部2の軸を中心としてその両側に一対の電極5a’,5b’が設けられている。
一方、固定部4において、電極5a’,5b’と対向する表面には、電極5a,5bが配置されている。
【0004】
ここで、対向する一方の電極間、たとえば電極5bと5b’との間に電位差を与えると、可動部1は、静電引力により、トーションバー部2を軸として時計回りの方向に回動する。
【0005】
この静電引力Fは次の(1)式で与えられる。
【数1】
ε:電極間媒質の誘電率
A:各電極の面積
V:電極間に印加される電位差
D:電極の間隔
【0006】
また、可動部1の回動のトルクTは、力Fと、静電引力Fが働くトーションバー部2の軸からの距離Lの積T=F×Lで与えられる。トーションバー部2の軸に対して回転トルクが働いた場合、可動部1はトーションバー部2の軸回りに揺動し、光を所定の角度に反射させる。
このときの振れ角θはガルバノマイクロミラーの捻り剛性をKsとすると、θ=T/Ksで与えられる。
【0007】
ところで、(1)式によれば、静電引力Fは、電位差Vの2乗に比例している。そこで、図22に示すように、端子T0とT1及びT0とT2間にオフセット電圧V0を与え、かつT0とT1間に正の電位差+δVを、又T0とT1間に負の電位差−δVを与えることにより、F−δFよりF+δFが大きくなり、時計回りに可動部1が回動する。
【0008】
このように、一定のオフセット電圧V0を電極に加えることにより、静電引力Fの電圧Vの2乗項がキャンセルされるような駆動方法が従来用いられている。
【0009】
ガルバノマイクロミラーは例えば、光ディスク装置の光ビームの照射位置の制御に用いられ、今日その小型化、低電力化が要求されている。特に光ディスク装置では、光ディスクを回転させて使用するため、ガルバノマイクロミラーを揺動させて、光ディスク媒体面上での光ビームの位置を動かすときの最大発生加速度αが大きいことが要求される。しかし、光ディスク装置へ組み込む場合、装置の設計から設定されるガルバノマイクロミラーの大きさにより発生加速度αは制限される。すなわち発生加速度αに起因する外形上の条件、たとえば電極面積、慣性モーメントなどは、設計上限定される。
ここで発生加速度αは次式のように表される。
【0010】
【数2】
【0011】
この式によれば、発生加速度αを大きくするためには、電圧V0を大きくするか、又は電極間隔Dを小さくする必要がある。しかし、一般に、電圧V0には上限があるので、仕様設計上、発生加速度αを大きくするために、電極間隔Dを小さくすることになる。
【0012】
可動部1と固定部4の電極間隔Dを小さくした場合、次のような別の問題が発生する。
1)製造・組み立てに起因する電極間隔の誤差の影響が相対的に大きくなり、同じ駆動力に対し、発生加速度αや揺れ角θのばらつきが大きくなる。
2)静電引力Fは(1)式のように、電極間隔Dの2乗に反比例している。そのため揺れ角θが大きくなると、実質的な電極間隔Dが狭くなり、ある臨界点を超えると、静電引力が急激に増大し、一対の電極がはりついてしまう現象が起こる。すなわち、設計上の電極間隔D0(電極間隔の初期値)が狭くなるほど臨界点が近くなる。
3)実際の製造,組立工程において、電極間隔Dの誤差、あるいは可動部1の捻り剛性の誤差あるいは温度等の外的要因が発生すると、可動部と固定部の初期的な位置ずれや角度ずれも生じ、十分な回動性能を発揮することができない。
また、オフセット電圧V0は一定としていたので、製造,組立時の誤差により、製造されたガルバノマイクロミラーごとに性能の固体差、すなわち物理的なばらつきが大きいという問題があった。
【0013】
そこで、この発明は以上のような事情を考慮してなされたものであり、製造時に、電極間隔等に誤差やはりつきが生じた場合でもその影響を小さくし、電極のはりつきを防止し、十分な設計性能を発揮することのできるマイクロミラー駆動装置を提供することを課題とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
この発明は、反射ミラーと反射ミラーと異なる表面に少なくとも1つの電極とを備えた可動部材と、可動部材を揺動可能に支持する支持部材と、前記可動部材と所定の距離をあけて対向配置され、かつ前記可動部材の電極と対向する位置に電極を有する固定部材と、前記可動部材を揺動させるための駆動電圧を前記可動部材の電極と固定部材の電極との間に印加する電圧印加部とを備えたマイクロミラー駆動装置であって、可動部材が所定の範囲内を揺動するように、電圧印加部が、前記可動部材の電極と固定部材の電極との間の間隔及び可動部材の揺動の一次共振周波数に対応づけられたオフセット電圧を有する駆動電圧を印加し、前記オフセット電圧は、前記可動部材の電極と固定部材の電極との間の電極間隔の設計値Doと、製品ごとに計算された電極間隔Doxとの比(Dox/Do)の3/2乗と、前記一次共振周波数の設計値fsと、製品ごとに求められた一次共振周波数fsxとの比(fsx/fs)との積に比例しており、前記Dox及び前記fsxを測定することによって求められ、可動部材と固定部材の電極間隔の設計値からの誤差を吸収していることを特徴とするマイクロミラー駆動装置を提供するものである。
【0015】
ここで、前記可動部材及び固定部材が互いに対向する位置に複数個の電極を備えた場合に、前記可動部材の電極と前記固定部材の電極との間隔が、その所定の初期間隔とほぼ一致するように、前記電圧印加部が、前記複数個の電極間に異なるオフセット電圧を加えた駆動電圧を印加してもよい。
【0016】
また、この発明は、反射ミラーと反射ミラーと異なる表面に少なくとも1つの電極とを備えた可動部材と、可動部材を揺動可能に支持する支持部材と、前記可動部材と所定の距離をあけて対向配置され、かつ前記可動部材の電極と対向する位置に電極を有する固定部材と、前記可動部材を揺動させるためのオフセット電圧と揺動変化電圧とからなる駆動電圧を前記可動部材の電極と固定部材の電極との間に印加する電圧印加部とからなるマイクロミラー駆動装置のオフセット電圧調整方法であって、所定のオフセット電圧を印加しない場合の可動部材の振れ角θ1を測定し、所定のオフセット電圧Voと振動変化電圧δVとを印加した場合の可動部材の振れ角θ2の周波数特性を測定し、前記振れ角θ2の周波数特性から可動部材の揺動の一次共振周波数fsxを求め、前記振れ角θ1と、前記一次共振周波数fsxとを用いて、前記電極間の間隔Doxを計算し、前記計算された電極間隔Doxと一次共振周波数fsxと、所定の設計値である電極間隔Doおよび一次共振周波数fsとを用い、電極間隔の比(Dox/Do)の3/2乗と、一次共振周波数の比(fsx/fs)との積に比例させ、可動部材と固定部材の電極間隔の設計値からの誤差を吸収するオフセット電圧Voxを設定することを特徴とするマイクロミラー駆動装置のオフセット電圧調整方法を提供するものである。
【0017】
ここで、前記揺動変化電圧として一定周期を持つ電圧を印加した場合に、前記可動部材の振れ角θ2の周波数特性は、周期的な電圧に対応して変化する可動部材の振れ角を反映する電気信号を測定することにより求めてもよい。
【0018】
この発明によれば、マイクロミラー駆動装置の製造時に、その物理的な位置ずれ等のばらつきが生じた場合でも、駆動電圧のうちオフセット電圧として適切な電圧値を印加することができるので、そのばらつきによる影響の抑制、たとえば電極のはりつきを防止でき、所望の性能を有するマイクロミラー駆動装置を提供することができる。
【0019】
この発明において、オフセット電圧とは、直接可動部材を揺動させるために加えられる電圧ではないが、その揺動をより安定にし、可動部材と固定部材の電極間隔誤差を吸収するために印加される電圧である。
マイクロミラー駆動装置が設計値どおりに製造された場合は、設計値どうりの一定のオフセット電圧V0を印加すればよいが、物理的な寸法などが設計値どうりに製造されていないマイクロミラー駆動装置では、一定のオフセット電圧V0とは異なる電圧V0+dV0が印加される。
【0020】
電圧V0+dV0は、製造されたマイクロミラー駆動装置ごとに設定されるものであり、変化させる電圧分dV0が、可動部材の電極と固定部材の電極との間の間隔Dと、可動部材の揺動の一次共振周波数fsに対応づけられた電圧である。
また電圧dV0は、個々の製品ごとに、物理的な寸法などの設計値からのずれをなくすように設定される。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、図面に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳述する。なお、これによってこの発明が限定されるものではない。
図1に、この発明のマイクロミラー装置の一実施例であるガルバノマイクロミラーの平面図及び断面図を示す。
図1に示すガルバノマイクロミラーの構造自体は従来と同様のものを用いることができる。
【0022】
図1に示すように、ガルバノマイクロミラーは、可動部1と固定部4とから構成される。可動部1は、一方の表面にミラー部3を備え、他方の表面に電極5a’,5b’を備え、一対のトーションバー部2によって回動可能に支持されている。
固定部4は、その一方の表面上にあって、電極5a’及び5b’と対向する部分に電極5a,5bを備えている。可動部1はシリコン等の半導体基板から構成され、ミラー部3は、アルミニウム,金等の金属材料あるいは誘電体多層膜で構成される。
4つの電極5a,5a’,5b,5b’は、アルミニウム,銀,金等の金属材料の薄膜や該金属に誘電体多層膜をシリコン基板等に成膜することにより形成される。
【0023】
このようなガルバノマイクロミラーは、たとえば、電極5b’と5bとの間に電位差Vを与えるとこの間に静電引力が働くことにより、駆動される。このとき、トーションバー部2の軸に対する回転トルクTが時計回りに生じるが、可動部1はこの回転トルクTにより、時計回りに回転しようとする。逆に、電極5a’と5aとの間に電位差Vを与えると可動部1は反時計回りに回転しようとする。
【0024】
この発明では、このガルバノマイクロミラーの2つの基板に配置された電極間に印加するオフセット電圧V0を、製造された各ガルバノマイクロミラーごとに最適なものを設定することを特徴とする。
以下には、製造された各ガルバノマイクロミラーごとに、仕様設計時に設定された所定のオフセット電圧V0から可変させるべき可変電圧値dV0を求め、個別に印加すべきオフセット電圧を決定するための装置及び方法についての実施例を示す。
【0025】
まず、従来の場合の駆動方法について説明する。前記したように、電極間に働く静電引力Fは次のような(1)式で与えられる。
【数3】
【0026】
また一般にトルクTは力Fと軸からの距離Lの積(F×L)で与えられるので、ガルバノマイクロミラーにかかる全トルクTは、ある面積δAにかかる微小トルクδTを全電極面積で積分したもので表すことができる。すなわち、Tは次の(2)式で与えられる。
【数4】
【0027】
ここで、ミラーにかかる微小な静電引力dFは、振れ角θだけ傾いたときを考慮すると、次の(3)式で表される。
【数5】
【0028】
Wは、トーションバー部2の中心から、ミラー部3の左右方向への距離を表す変数である。また、Lmは、図1に示すミラー部3の上下方向の長さを示す。
ここでcosθ=1,sinθ=θ(θ≒0)と近似すると、(2)式は、次の(4)式のように変形できる。
【数6】
【0029】
ミラーの振れ角θは回転トルクTとガルバノマイクロミラーの捻り剛性をKsとすると、次の(5)式で表される。
【数7】
【0030】
(5)式に(4)式を代入すると次の(6)式が得られる。
【数8】
この式より、印加電圧Vを制御することによりミラーの揺れ角θを制御できることがわかる。
【0031】
ここでθは、印加電圧の2乗に比例している。そこで、従来は左右の電極間に同一のオフセット電圧V0を与え、左右の電極間の電位差Vにそれぞれ差動の電位差V0+δV、V0−δVを与えることにより、電圧の2乗項をキャンセルする駆動方法が用いられている。
【0032】
例えば、電極5b’,5b間、電極5a’,5a間にそれぞれオフセット電圧V0をかけることにより両側のトルクをつりあわせる。
電極5b’,5b間をV0+δV、電極5a’,5a間をV0−δVとして静電引力の不均衡により、回転トルクを時計回りに生じさせる。反時計回りは電圧を逆にする。これにより、電圧Vの二乗の項がキャンセルでき、振れ角θを電圧δVに対して線形にすることができる。すなわちV0 2,δV2を無視すると、θとδVとは次の(7)式の関係が導かれる。
【数9】
【0033】
ここで、振れ角θを、傾きの影響を考えた(6)式から求めると、次の(8)式のようになる。
【数10】
【0034】
ところで、(6)式及び(8)式には、右辺にもθ項が含まれており、傾きθに対しては非線型である。
これは静電引力を用いたガルバノマイクロミラーで、固有の問題である。すなわち、電極間隔Dは揺れ角θが大きくなるほど実質的に狭くなってしまい、最外周Wmでの電極間隔Dは、次の(9)式のように、初期電極間隔D0よりかなり狭くなる(θ≒0,sinθ≒θ)。
【数11】
【0035】
図3に、可動部1が振れ角θだけ時計方向に回動した状態の断面図を示す。
電極間隔Dが狭くなりある臨界点を超えると、静電引力Fが急激に増大し、前記したように電極間が吸引し、はりついてしまう現象が発生することになる。
【0036】
図4に、初期状態の電極間間隔D0を変化させた場合に、(6)式から計算した振れ角θの値と印加電圧Vとの関係を示したグラフを示す。
ここでは、電極間隔D0を5μmまたは7μmとし、ミラー面積=4×6.5mm程度、ねじり剛性の共振周波数を1300Hz程度とする。
どちらのグラフも、屈曲ポイントを持ち、このポイントの振れ角θが大きいと、電極間吸引が発生することを示している。
また、2つのグラフを比べると、初期電極間隔D0が狭いほど、屈曲ポイントの振れ角θは小さくなることがわかる。
【0037】
図5に、最大振れ角(横軸)と、最大印加電圧(縦軸)との関係のグラフを示す。ここで、両パラメータとも規格化された値を示している。
この図5によれば、(D0−Wmθ)/D0=0.6程度で屈曲ポイントが生じており、0.6以下において臨界点を超え、電極間吸引が発生することがわかる。
【0038】
したがって、少なくとも最大振れ角θmaxとしては、
θmax<0.4D0/Wm ……(10)
を満たすことが必要と考えられる。
さらに、製造誤差などを考慮すれば、
θmax≒0.2D0/Wm ……(11)
とすることが望ましいと考えられる。
【0039】
このような考察と(11)式によれば、初期電極間隔D0を狭くすればするほど、最大振れ角θmaxは狭くなってしまい、マイクロミラー装置として要求仕様を満たさなくなる場合もある。
【0040】
次に、ガルバノマイクロミラーを光ディスク装置に利用した場合の光ビームの照射位置について説明する。
図2に、光ビームの光ディスク媒体に対する変位の説明図を示す。
光源から出射されコリメートされた光ビーム8は、ガルバノマイクロミラー9で反射され、少なくとも1つの対物レンズ7で光ディスク媒体6の記録面に集光される。媒体6は回転しており、記録トラックの偏心に光ビームを精度よく追従する必要がある。
【0041】
その機構として、図示しない粗動のキャリッジと微動のガルバノマイクロミラー9の2組で、追従する。ここで、ガルバノマイクロミラーの揺れ角θに対し、対物レンズ7の焦点距離をfとすると、媒体面上での光ビームの変位xは(12)式であらわされる。
x=2fθ ……(12)
【0042】
ガルバノマイクロミラーに要求される性能の一つに、走査される光ビームの媒体上での加速度が重要となっている。この媒体上の加速度は変位Xに比例しており、(7)式を考慮すると、媒体上の加速度αは次の(13)式で示される。すなわち発生加速度αを大きくするためには、オフセット電圧V0を高くするか、電極間隔Dを狭くする必要がある。
【数12】
【0043】
以上のような原理から、従来のガルバノマイクロミラーでは、次のような指針のもとに、振れ角や捻じり剛性値Ksなどの設計パラメータを決定していた。
(A)必要な媒体加速度αを見積もる。
(B)印加できる最大電圧Vmaxのほぼ半分をオフセット電圧V0の上限とする。
(C)印加できる最大電圧Vmaxにおいて、必要な媒体加速度αを満たす電極間隔D0を、(13)式によって決定する。
(D)決定された電極間隔D0から、(11)式より概略最大揺れ角θmaxを決める。
(E)印加できる最大電圧Vmaxにおいて、最大揺れ角θmaxを超えないように、捻り剛性Ksを決める。
【0044】
ところで、製造誤差のために所望の初期電極間隔D0をすべての製品について得ることは不可能である。すなわち、電極間隔D0にばらつきが生じることを完全に防止することはできない。
前記したように、この電極間隔D0のばらつきは、発生加速度αや最大振れ角θmaxに影響を与える。また、振れ角θは(2)式に示すように捻じり剛性Ksに反比例している。捻じり剛性Ksは、トーションバー部2の形状によって決まるので、逆にトーションバー部2の形状誤差は振れ角θに影響を与える。
すなわち、ガルバノマイクロミラーの製造及び組立のばらつきにより、各製品ごとに発生加速度α及び振れ角θに誤差が生じることがある。
【0045】
このような誤差が生じる場合において、電極に印加するオフセット電圧V0が一定のままでは、最大電圧Vmaxをかけたときに、電極吸引を発生させる製品がある場合もあり、ミラーとしての要求性能を十分に満たすことができない。
【0046】
この発明では、上記のような製造上のばらつきが発生した場合でも要求仕様を満たすことができるように、各製品ごとにその印加すべきオフセット電圧V0の可変量を決定しようとするものである。オフセット電圧V0の可変量の決定方法について説明する前に、振れ角θと印加電圧Vの関係について説明する。
【0047】
図6に、この発明のガルバノマイクロミラーの一実施例の断面図を示す。ここでは、可動部1に対して、その両側に固定部4aと4bとを配置したものを示す。可動部1のミラー部3が形成されている表面にも、電極5c’,5d’が形成され、固定部4bの対向する表面に電極5c,5dが形成されている。
また、各電極がトーションバー部2の中心を原点としてWm1の位置からWm2の位置まであるとする。電極5aと5dに同電位の電圧を印加し、電極5b,5cに同電位の電圧を印加し、可動部1の4つの電極5a’,5b’,5c’,5d’に同電位の電圧を印加するものとする。ここで、端子T0とT2との間に電位差Vの電圧を印加し、端子T0とT1間には電圧を印加しないものとする。
【0048】
その時のトルクTは、(4)式より次の(14)式のように表すことができる。
【数13】
【0049】
(5)式より、θ=T/Ksであるので、(14)式は次の(15)式のように表せる。
【数14】
【0050】
次に、オフセット電圧V0(≠0)を印加した場合を考えると、(8)式より、θとδVとは次の(16)式で表すことができる。
【数15】
【0051】
図7に、(16)式より計算した印加電圧δVと振れ角θとの関係のグラフを示す。ここで、前記したような設計指針に基づいて各パラメータを設定し、オフセット電圧V0を16Vとし、電極間隔D0=7μm、一次共振周波数fsを1300Hzとする。
グラフg1は、電極間隔D0にずれがなく、設計値どうりの場合を示しており、屈曲ポイントが発生していない。すなわち電極がはりつくという現象は発生しない。
【0052】
グラフg2は、電極間隔D0が設計値よりも0.5μmだけ短く(D0=6.5μm)、かつ一次共振周波数が設計値よりも50Hzだけ小さい場合を示している。このときのオフセット電圧も16Vで一定であるが、グラフg2によれば、振れ角θ=0.02度程度で、屈曲ポイントが発生している。すなわち、従来のように、電極間隔D0が設計値(7μm)からずれたものについて、設計値どうりの一定のオフセット電圧V0=16Vを印加した場合には、電極吸引を引き起こし、電極のはりつき現象が生じてしまうことになる。
【0053】
そこで、電極のはりつき現象を防止するというこの発明の目的を達成するために電極間隔D0のばらつきに対応させて、オフセット電圧V0を可変とした場合の実施例を以下に示す。
【0054】
図8に、図7と同様の印加電圧Vと振れ角θとの関係のグラフを示す。ここで、グラフg1は、図7と同じものであり、設計値どうりに製造されたガルバノマイクロミラーについてのグラフである。
グラフg3は、電極間隔D0が設計値よりも0.5μmだけ短く、かつ一次共振周波数が設計値よりも50Hzだけ小さく、さらにオフセット電圧V0を設計値の約0.86倍の13.8Vとした場合を示している。
【0055】
このグラフg3によれば、屈曲ポイントは発生せず、電極のはりつき現象を防止できることがわかる。また、この場合、(13)式、(16)式により、振れ角θ、媒体加速度αをほぼ一定にできることがわかる。(16)式等によれば、振れ角θとオフセットV0とは次のような比例関係にある。
【数16】
【0056】
ここでfsはガルバノミラーの捻じれ1次共振周波数であり、Ksはfs2に比例する。また最大振れ角θmaxは(11)式によれば、電極間隔D0に比例する(式(18))。
【数17】
【0057】
電極に印加する電圧VをV0+δVまたはV0−δVとし、オフセット電圧V0以外の可変電圧分をδVとする。可変電圧分の駆動電圧δVがV0に等しくなったときに、最大振れ角θmaxとなるとした場合、上記(17)式と(18)式より、オフセット電圧V0は、電極間隔D0と次式(19)のような関係が成り立つ。
【数18】
【0058】
(19)式を別の表現で書き直すと次式(19)’で表される。
V0x/V0=(D0x/D0)3/2・(fsx/fs) ……(19)’
ここで、V0xは、各製品ごとに実際に印加すべきオフセット電圧であり、D0x,fsxは、それぞれ、各製品ごとに測定された実際の電極間隔、一次共振周波数である。
(19)’式において、V0,D0,fsは設計時に決められた値であるので、製造されたガルバノマイクロミラーごとに、後述するような方法で、電極間隔D0xと一次共振周波数fsxとを測定すれば、(19)’式よりその製品に印加すべきオフセット電圧V0xが求められる。
【0059】
たとえば、前記したように、設計値がV0=16V、D0=7.0μm、fs=1300Hzであったのに対して、ある製品の電極間隔がD0x=6.5μm、一次共振周波数がfsx=1250Hzである場合には、それぞれの数値を(19)’式に代入すると、印加すべきオフセット電圧はV0x≒0.86V0=13.8Vとなる。これは、前記した図8のグラフg3の場合に相当する。
【0060】
この発明においては、製造されたガルバノマイクロミラーの各製品ごとに、その電極間隔D0xと一次共振周波数fsxとを測定し、その測定値を(19)’式に代入することにより、その製品ごとに適切な実際に印加すべきオフセット電圧V0xを求める。これにより、各製品ごとに適切なオフセット電圧を調整できる。
【0061】
次に、電極間隔D0x、及び一次共振周波数fsxとを測定する方法の実施例について説明する。図9に、この発明の印加オフセット電圧V0xを求めるための概略フローチャートを示す。
【0062】
ステップS1:
まず、測定対象のガルバノマイクロミラーに対してオフセット電圧V0=0として、所定の印加電圧Vのみを各電極に印加する。ここで各電極に印加する電圧の極性は、図1に示すものとし、電極5a,5a’,5b’を同電位とし、電極5bが+V(v)である。そして印加電圧Vに対する振れ角θ1を測定する。振れ角の測定は、たとえばオートコリメータを用いればよい。したがって、この段階で、印加電圧Vに対する振れ角θ1が求められる。
【0063】
ステップS2:
所定の設計値どうりのオフセット電圧V0(≠0)を加えた電圧(V0+δV)を、各電極に印加する。この電圧(V0+δV)を印加したときの振れ角θ2をステップS1と同様の方法で測定する。ここで可変電圧分δVは、十分に小さい範囲で変化させ、振れ角θの周波数特性を、後述するような装置を用いて測定する。
【0064】
ステップS3:
ステップS2で求めた振れ角θの周波数特性から、測定対象のガルバノマイクロミラーの一次共振周波数fsxを求める。
【0065】
ステップS4:
ステップS1で求めた印加電圧Vに対する振れ角θ1と、ステップS3で求めた一次共振周波数fsxとを利用し、(15)式から、測定対象のガルバノマイクロミラーの電極間隔D0xを計算する。但し、一次共振周波数fsxは、(15)式には直接現れていないが、Ksはfsx 2に比例するので、このKsを用いればよい。
【0066】
ステップS5:
前記した(19)’式に、ステップS4で求めた電極間隔D0x、ステップS3で求めた一次共振周波数fsx、設計値D0,fsを代入し、実際に印加すべきオフセット電圧V0xを計算する。あるいは、オフセット電圧の可変電圧分dV0=V0x−V0を計算する。
測定対象としたガルバノマイクロミラーについてこのようにして求められたオフセット電圧V0xを印加するようにすれば、電極間のはりつき現象を防止できることになる。
【0067】
次に、ステップS1に示した振れ角の測定の実施例について説明する。図10に、この発明の振れ角θ1の測定の一実施例の説明図を示す。
図10において、オートコリメータ11とは、振れ角θ1を測定するものである。ここで、電圧Vは、たとえば1対の電極5b,5b’の間に印加する。この電圧Vにより、可動部1は、トーションバー部2の軸に対し、時計回りの方向に傾くので、オートコリメータ11を用いてこの時の振れ角θを測定する。
【0068】
印加電圧Vは、たとえば0から屈曲ポイントがおこらない程度の範囲について変化させ、その間の振れ角θ1を測定する。また、図9の場合は、4つの対向する電極間が存在するので、5bと5b’以外の電極間それぞれについても、同様の測定により印加電圧Vに対する振れ角θ1を求める。また、ステップS1の振れ角θ1の測定は、図11に示すような構成でも測定できる。図11(a)は、この発明の振れ角θ1測定の構成ブロック図である。主として、ガルバノマイクロミラー9に印加電圧を与える駆動部19と、ガルバノマイクロミラー9に光ビームを照射した光の位置、強度変化を検出する検出部21とから構成される。図11(b)は、主として検出部21の構成を説明した図である。
【0069】
図11において、光源14から照射された光ビームは、ガルバノマイクロミラー9で反射されると、プリズム13で図の右方向に分岐され、集光レンズ15で2分割ディテクタ16上に集光される。
図11(b)に示すように、ガルバノマイクロミラー9が振れ角θだけ傾くと、2分割ディテクタ16上では、集光された光点は位置x=2fθだけ移動することになる。ここでfは、集光レンズ15の焦点距離である。
【0070】
2分割ディテクタ16は、光照射面が2つの領域AとBに分割された光検出器であり、2つの領域に照射された光量に相当するそれぞれの出力信号の差分演算が演算回路17で行われる。
また、演算回路17から差分信号18(センサ信号)Voutが出力されるが、この信号Voutから振れ角θが求められる。一般に、Vout=Kθ(ここでKは定数)で与えられることが知られている。そこで定数Kをオートコリメータ等で校正することにより決定すれば、この式を用いることにより、Voutから振れ角θが一意的に決められる。
【0071】
次に、ステップS2及びS3の測定方法について説明する。
図12に、この発明において、印加電圧に対する振れ角θ2の周波数特定を測定する装置の構成ブロックを示す。ここで、駆動部19、検出部21は、図11に示したものである。FFTアナライザ22は、検出部21から出力されるセンサ信号Voutを入力し、駆動部19に、可変電圧δVに相当する電圧Vinを印加するものであり、印加電圧と、Vin,Voutとから振れ角θの周波数特性を測定するためのものである。
【0072】
FFTアナライザ22のSource端子からは、可変電圧分に相当する駆動信号Vin=δVsin(wt)が出力され、このVinは、FFTアナライザ22のCH1端子と、駆動部19の両方に与えられる。駆動部19では、一定値のオフセット電圧V0とサイン波形の可変電圧Vinとを合成したもの(V0+δVsin(wt)またはV0−δVsin(wt))をガルバノマイクロミラー9の各電極に対して出力する。このような一定周期のサイン波形の電圧が印加されたガルバノマイクロミラー9は、振れ角θ2がsin(wt)によって変化し、この変化した振れ角θ2に対応した信号が演算回路17に入力され、センサ信号18として、前記したVout=Kθsin(wt)が出力される。
【0073】
このセンサ信号Voutは、FFTアナライザ22のCH2端子に入力される。FFTアナライザ22では、CH1及びCH2に入力されたVinとVoutとを用い、印加電圧(V0+δV)に対する振れ角θ2の周波数特性を測定する。
【0074】
図13に、この印加電圧に対する振れ角θ周波数特性のグラフを示す。横軸が周波数であり、図13(a)の縦軸がゲイン(dB)、図13(b)の縦軸が位相(度)である。また、ガルバノマイクロミラーの一次共振周波数fsは、位相が90度のときの周波数を意味する。
【0075】
図13においては、位相が90度のとき、その周波数は1300Hz程度である。したがって、この周波数特性のグラフを見ることにより、現在の測定対象のガルバノマイクロミラーについてステップS3の一次共振周波数fsxを求めることができる。図13の場合、一次共振周波数fsxは1300Hzである。
【0076】
次に、ステップS4において、電極間隔D0xを計算する方法について説明する。印加電圧Vに対する振れ角θは、次の(15)’式で与えられる。ここで、一電極間のみであるので、振れ角θは、(15)式で与えられたθの1/2となる。
【数19】
【0077】
ステップS1で測定した印加電圧Vに対する振れ角θ1について(15)’式を用いて、電極間隔D0をパラメータとしたフィッティングをすることにより、電極間隔D0を求めることができる。このフィッティングとは、具体的には、測定値と計算値の比較をすることを意味する。
【0078】
したがって、ステップS3及びS4でそれぞれ求められた一次共振周波数fsx、電極間隔D0xと、設計値D0及びfsとから、(19)’式を用いれば、現在の測定対象のガルバノマイクロミラーに印加すべきオフセット電圧V0xを求めることができる(ステップS5)。また、(19)式によれば、オフセット電圧の可変量(率)を求めることができる。
【0079】
図9に示したフローチャートのステップS1において、図11に示したような装置を用いて、振れ角に比例するセンサ信号Voutを検出することにより、振れ角θ1を求める方法を説明したが、この他にトラッキングエラー信号(TES)を用いて、振れ角θ1を求めてもよい。
【0080】
図2に示したように、ガルバノマイクロミラーの傾き、すなわち振れ角θは媒体上の変位xに関係している(x=2fθ)。ここで、変位xは、トラッキングエラー信号(TES)として検出することができ、トラッキングエラー信号TES≒Kθと考えることができる。ここでKは比例定数であり、トラックピッチから校正して求められる。したがって、ステップS1において、図11の構成を用いて、トラッキングエラー信号(TES)を測定し、このTESを定数Kで割ることにより、振れ角θ1を求めることができる。
【0081】
また、ガルバノマイクロミラーの一次共振周波数fsは、次のようなレーザドップラー振動計を、前記した検出部21の代わりに用いて測定することもできる。図14に、この発明において、レーザドップラー振動計を用いた印加電圧に対する振れ角の周波数特性の測定装置の構成ブロック図を示す。
【0082】
ここで、レーザドップラー振動計により可動部の速度vを検出し、これから振れ角に変換することにより、出力Vout=K’vsin(wt)を出力するものである。FFTアナライザ22にこのVoutをCH2端子に入力することにより、以後前記したのと同様の方法で、一次共振周波数fsxを測定すればよい。
【0083】
また、図1に示したガルバノマイクロミラーの場合、理想的には、初期的な電極5aと5a’との間隔、電極5bと5b’との間隔のどちらも設計値D0に等しいかまたは同じようなばらつきがあることが望ましいが、実際には、製造時の初期的な両電極間隔が同一であることはまれであり、異なることの方が多いと考えられる。
そこで、図12等の測定のときのように、各電極に一定のオフセット電圧V0を印加するのではなく、各電極に異なるオフセット電圧を印加するようにすれば、初期的なばらつきがあっても、初期傾き誤差をなくすことができる。
【0084】
図15に、2つの電極間隔が異なる場合のオフセット電圧の印加方法の一実施例の説明図を示す。図15において、製造時において、初期的な電極5aと5a’との間隔がD2で、電極5bと5b’との間隔がD1であり、D1>D2であったとする。このとき、通常のオフセット電圧V0をすべての電極に印加すると、間隔D1>D2であるので、可動部1は反時計方向に傾くことになる。
【0085】
したがって、この傾きをキャンセルして、電極間の両間隔がほぼ等しくなるようにするためには、間隔D1側の電極5bにV0+dV00を印加し、電極5bと5b’との間に電位差dV00を与えるようにすればよい。ここで、与えるべき適切な電位差dV00は、たとえばオートコリメータを用いて決めることができる。
【0086】
また、図6に示したように、2つの固定部を持つようなガルバノマイクロミラーについても、各電極間隔の違いにより、印加するオフセット電圧V0を異ならせればよい。
このように、各電極に印加するオフセット電圧の一定値の部分を、各電極間の間隔のばらつきに基づいて異ならせることにより、より高性能で、初期誤差なしであるガルバノマイクロミラーを提供できる。
【0087】
次に、センサ信号Voutを用いて駆動部19から与えられるオフセット電圧V0を可変にする方法について説明する。前記した図12などの装置では、駆動部19から与えられるオフセット電圧は一定値V0であったが、ここでは、測定対象ごとに得られるセンサ信号Voutを利用して、このオフセット電圧を変化させて、所望の特性を得ようとするものである。たとえば、センサ信号Voutから所定の調整を行うことにより、オフセット電圧のゲインCを得て、CV0なるオフセット電圧をガルバノマイクロミラーの電極に与えるようにすれば、その測定対象のガルバノマイクロミラーに電極間隔のばらつきがあっても、電極のはりつきを防止できるという効果がある。
【0088】
まず、図16に設計値のオフセット電圧V0=16Vを印加した場合の印加電圧δV(V)に対する振れ角θと、設計値の振れ角の傾きを基準として規格化した振れ角の傾きのグラフを示す。
図16(a)は、印加電圧に対する振れ角θのグラフであり、図16(b)は、印加電圧に対する振れ角の傾き(規格値)のグラフである。また、グラフg2は、電極間隔にばらつきのない設計どおりの場合のグラフであり、グラフg1及びg3はばらつきのある場合のグラフである。
【0089】
ここで、ばらつきのないグラフg2の場合、一次共振周波数fs2=1300Hz、電極間隔D02=7μmであるのに対し、グラフg1では、一次共振周波数fs1=1300−50Hz、電極間隔D01=7−0.5μmとし、グラフg3では一次共振周波数fs3=1300+50Hz、電極間隔D03=7+0.5μmのばらつきがあるものとする。
【0090】
図16(a)によれば、ばらつきのあるグラフg1の場合は、屈曲ポイントが発生しており、グラフg3の場合は、ばらつきのないグラフg2と比べて、振れ角の感度が低くなっていることがわかる。
図16(b)の振れ角の傾きは、ばらつきのないグラフg2の約1.5(V)のときの振れ角の傾きθaを“1”とした場合、各印加電圧に対する振れ角θの傾きをθaで規格化して表したものである。
【0091】
図16(b)によれば、ばらつきのないグラフg2では、印加電圧が高くなるにしたがって、振れ角の傾きも高くなり、印加電圧が16V付近で2.5程度となっている。
これに対して、ばらつきのあるグラフg1の場合は、印加電圧が低い場合振れ角の傾きは小さいが、印加電圧を約12V以上に高くすると急激に高くなってしまう。すなわち、振れ角の傾きが急激に高くなるということは、電極を吸収してしまう点で好ましくない。ただし、ばらつきのあるグラフg3の場合は、印加電圧を高くしても振れ角の傾きは1.5程度でありかなり小さいので感度が低いことがわかる。
【0092】
図17に、電極に印加するオフセット電圧V0を異ならせた場合の印加電圧δV(V)に対する振れ角θと、その傾きのグラフを示す。図17(a)は、印加電圧に対する振れ角のグラフであり、図17(b)は、印加電圧に対する振れ角の傾き(規格値)のグラフである。
【0093】
グラフg2は、図16と同様にばらつきのない場合のグラフであり、オフセット電圧V0=16Vである。グラフg1及びg3は、ばらつきのある場合であるが、そのばらつきは図16の場合のものと同一とする。また、グラフg1の場合に印加したオフセット電圧はV01=13.8V、グラフg3の場合に印加したオフセット電圧はV03=18.4Vとする。
【0094】
図17(a)及び図17(b)によれば、ばらつきのあるグラフg1及びg3のグラフの変化は、どちらもばらつきのないグラフg2のグラフとほぼ同じ傾向の変化を示していることがわかる。また、グラフg1及びg3からは、屈曲ポイントもなく急激な傾きの変化もない。
【0095】
図18に、図17のグラフの横軸の印加電圧をさらにオフセット電圧V0で規格化したグラフを示す。これによっても、3つのグラフg1,g2,g3はほぼ同様の傾向で振れ角の傾きが変化していることがわかる。理想的には、ばらつきのある場合のグラフg1及びg3をグラフg2とほぼ一致させるようにした方が好ましいが、たとえば、ある印加電圧Vに対する振れ角の傾きがグラフg2の振れ角の傾きを中心として±10%の範囲内にあれば、マイクロミラーとしての所定の性能を発揮できると判断される場合は、振れ角の傾きが±10%の範囲内に入るように、印加すべきオフセット電圧の変化分を設定すればよい。
【0096】
したがって、以上の考察によれば、一次共振周波数及び電極間隔にばらつきがあっても、そのばらつきに対応させて印加すべきオフセット電圧V0を変化すれば、ばらつきのない設計値に近い振れ角の変化をさせることができ、電極吸収することなしに所定の必要加速度を満足するという効果が得られる。オフセット電圧V0を変化させるためには、たとえば、ばらつきに対応するセンサ信号Voutを利用することができる。
【0097】
そこで、センサ信号Voutを用いてオフセット電圧を変化させる方法を実現する構成の一実施例について説明する。図19に、この発明において、センサ信号Voutを用いてオフセット電圧V0を変化させる装置構成のブロック図を示す。
【0098】
図19において、比較調整部23は、検出部21から出力されるセンサ信号18(Vout)を用いて、オフセット電圧のゲインCを調整する部分であり、駆動部19に対して、得られたゲインCを出力するものである。駆動部19は、印加電圧の可変電圧Vin=δVsin(wt)を与える電圧生成源19−1を備え、その内部に設計値のオフセット電圧V0に、比較調整部23から与えられたゲインCを与える増幅器とを備える。
【0099】
また、駆動部19は、ゲインC倍されたオフセット電圧CV0と、電圧生成源19−1から与えられたVinとを加算又は減算した印加電圧信号(CV0+δVsin(wt)),CV0−δVsin(wt))を出力する。
ゲインCの初期値は1である。すなわち、初期状態では、オフセット電圧の一定値電圧V0と、電圧生成源19−1から与えられる可変電圧分Vin=δVsin(wt)とを組み合わせた2つの印加電圧(V0+δVsin(wt),V0−δVsin(wt))がガルバノマイクロミラー9の電極に与えられる。このとき、可変電圧分Vinは、1次共振周波数より十分低いため、10Hz程度の低周波数のサイン波を用いることが好ましいが、直流電圧でもよい。
【0100】
また、Vinの振幅δVは、オフセット電圧V0に比べて十分小さい値、たとえばオフセット電圧V0の1/10以下とする。
このような印加電圧に対して、ガルバノマイクロミラー9は振れ角θsin(wt)で回動させられるが、前記したのと同様に、検出部21からセンサ信号Vout=Kθsin(wt)が出力される。ここで定数B=Kθとする。定数Bは、図18などに示した振れ角の傾きに比例する。
【0101】
ところで、オフセット電圧として、設計どおりの一定電圧V0を与えた場合の出力センサVoutから、製造上のばらつきがないとした場合の定数Bの値は予め計算できる。このときの定数Bの値をB0とする。図18の説明において前記したように、製造上のばらつきがあっても、振れ角の傾きがばらつきがない場合に対して±10%以内にあれば、性能上問題ないとすると、振れ角の傾きに対応するBの値を、B0±10%以内となるように決めればよい。
すなわち、比較調整部23のおいて、Bmin=(1−0.1)B0=0.9B0,Bmax=(1+0.1)B0=1.1B0とすると、センサ信号Voutを測定して、Bmin<B<Bmaxとなるように駆動部19に与えるゲインCを調整すればよい。
【0102】
たとえば、一次共振周波数fs=1300±50Hz、電極間隔D0=7±0.5μmのばらつきがある場合には、センサ信号Voutの測定から、Bmin<B<BmaxとするためにはゲインCを0.85〜1.15程度とすればよい。
このようにゲインCを調整すれば、ばらつきのない設計値どおりの場合と同様に、振れ角の傾きを調整でき、所定の必要加速度を満足するという効果が得られる。
ただし、以上の実施例では、定数Bの値をB0±10%となるようにゲインCを決めるものを示したが、この10%という範囲はこれに限定するものではなく、要求される設計仕様によって別の数値を設定してもよい。
【0103】
次に、センサ信号Voutを用いてオフセット電圧を変化させる他の実施例を説明する。図16に示したように、ガルバノマイクロミラーに製造上のばらつきが発生した場合、その影響が振れ角の傾きとして現れるが、図16のグラフg1に示すように、屈曲ポイントが生じて電極が吸引されてしまう場合と、図16のグラフg3に示すように、振れ角の傾きの感度が低くなる場合とがある。
すなわち、製造上のばらつき方により、振れ角の傾きとして2通りの傾向があることがわかる。ここで、前記した定数Bの印加電圧Vに対する傾きdB/dVを求めれば、ばらつきがどちらの傾向を示すかがわかる。
【0104】
まず、図16によれば、振れ角の傾きが急激に大きくなる場合は、電極吸引が発生していることから、印加電圧を増加した場合に、dB/dVの値が急に大きく変化する場合には電極吸引が発生すると考えられる。
ここで、電圧生成源19−1からVin=δVsin(wt)を与えたとき、C=1の初期値の場合、ガルバノマイクロミラーに与えられる印加電圧は、V0+δVsin(wt)とV0−δVsin(wt)であり、検出部21の出力センサ信号Vout=Bsin(wt)、定数Bの傾きはdB/dVで表される。
【0105】
一方、δV’>>δVで、電極吸引が起こらない程度のdV’sin(wt)を電圧生成源19−1から与えたとすると、印加電圧はV0+δV’sin(wt)とV0−δV’sin(wt)である。このときの出力センサ信号をVout’=B’sin(wt)、定数Bの傾きをdB’/dVで表すことができる。
したがって、電極吸引が発生するとすれば、dB’/dV>>dB/dVという関係が成立する場合である。たとえば(dB’/dV)>3×(dB/dV)となるような場合には、電極吸引が発生するとみなして、電極吸引を防止するためにゲインCを下げる方向に調整すればよい。
【0106】
また、ばらつきのない設計どおりの製品に対して、オフセット電圧V0±δVを印加した場合に、検出部21の出力センサ信号VoutがVout=B0sin(wt)であり、オフセット電圧V0±δV’を印加した場合に、Vout=B0’sin(wt)であったとする。前記したような振れ角の傾きの感度が低い場合とは、図16からわかるように、(dB/dV)<(dB0<dV)、かつ(dB’/dV)<(dB0’/dV)のときである。
【0107】
すなわち、比較調整部23において、δVと、δV’>>δVを満たすδV’について出力センサ信号Voutを測定し、dB/dV及びdB’/dVを計算することにより、(dB/dV)<(dB0/dV)、かつ(dB’/dV)<(dB0’/dV)を満たしているような場合、たとえば、dB/dV、dB’/dVが、それぞれdB0/dV、dB0’/dVに対して0.7程度以下である場合には感度が低いとみなして、感度を上げる方向(オフセット電圧を上げる方向)に、すなわちゲインCを上げる方向に調整すればよい。
【0108】
図20に、上記したようなばらつきの傾向に対応させて、ゲインCを調整する実施例の概略説明図を示す。図20では、図19の構成によって得られる出力センサ信号Voutから、dB/dV及びdB’/dVを計算し、この値が図20の▲1▼及び▲2▼のどちらの傾向に当てはまるかを判断することにより、ゲインCの調整をする。
また、ゲインCの調整範囲は、図19の説明で示したのと同様に、たとえば、振れ角の傾きの範囲を、ばらつきがない場合の振れ角の傾きを中心として±10%以内に納まるようにすればよい。
【0109】
さらに、駆動部19で生成する印加電圧に関して、図21に示すように、オフセット電圧の変化電圧分dV0を一定のオフセット電圧V0に加算又は減算するような構成を備えてもよい。
すなわち、この場合、印加電圧として、V0+dV0+δVsin(wt)及びV0+dV0−δVsin(wt)を与えることができる。図21のようにして、dV0を調整するようにした場合もゲインCをかける場合と同等である。
【0110】
以上の実施例では、すべてガルバノマイクロミラーについて、オフセット電圧を調整する方法を説明したが、この発明のオフセット電圧の設定方法は、ガルバノマイクロミラー以外のMEMSアクチュエータにも適用することができる。
【0111】
【発明の効果】
この発明によれば、マイクロミラー駆動装置の製造又は組立時に、設計値に対して物理的なばらつきが発生した場合でも、そのばらつきに基づく影響、たとえば電極のはりつきを防止しつつ、所定の必要加速度を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明のガルバノマイクロミラーの一実施例の概略構成図である。
【図2】この発明のガルバノマイクロミラーについて、光ビームと媒体上の変位の説明図である。
【図3】この発明において、可動部1が時計方向に角度θだけ回動した状態の説明図である。
【図4】電極間隔を変えた場合の印加電圧と振れ角との関係グラフである。
【図5】最大振れ角と印加電圧規格値との関係グラフである。
【図6】この発明のガルバノマイクロミラーの一実施例の概略構成図である。
【図7】オフセット電圧が設計値(一定)の場合の、印加電圧と振れ角の関係グラフである。
【図8】この発明において、オフセット電圧を設計値と異ならせた場合の印加電圧と振れ角の関係グラフである。
【図9】この発明において、実際に印加すべきオフセット電圧を求めるための概略フローチャートである。
【図10】この発明の振れ角測定の一実施例の説明図である。
【図11】この発明の振れ角測定の一実施例の説明図である。
【図12】この発明の印加電圧に対する振れ角の周波数特性を測定する装置の構成ブロック図である。
【図13】印加電圧に対する振れ角の周波数特性のグラフである。
【図14】この発明において、レーザドップラー振動計を用いて印加電圧に対する振れ角の周波数特性を測定する装置の構成ブロック図である。
【図15】この発明において、2つの電極間隔が異なる場合のオフセット電圧の印加方法の一実施例の説明図である。
【図16】設計値のオフセット電圧V0を印加した場合の振れ角、振れ角の傾きのグラフである。
【図17】オフセット電圧V0を異ならせた場合の振れ角、振れ角の傾きのグラフである。
【図18】この発明における印加電圧規格値に対する振れ角の傾きのグラフである。
【図19】この発明において、オフセット電圧V0を調整するための一実施例の構成ブロック図である。
【図20】この発明において、オフセット電圧V0を調整するための一実施例の構成ブロック図である。
【図21】この発明の駆動部の一実施例の構成ブロック図である。
【図22】ガルバノマイクロミラーが時計回り方向に回動した場合の説明図である。
【符号の説明】
1 可動部
2 トーションバー部
3 ミラー部
4 固定部
4a 固定部
4b 固定部
5a 電極
5a’電極
5b 電極
5b’電極
5c 電極
5c’電極
5d 電極
5d’電極
6 媒体(光ディスク)
7 対物レンズ
8 光ビーム
9 ガルバノマイクロミラー
12 アパーチャ
13 プリズム
14 光源
15 集光レンズ
16 ディテクタ
17 演算回路
18 センサ信号
19 駆動部
20 検出部
Claims (4)
- 反射ミラーと反射ミラーと異なる表面に少なくとも1つの電極とを備えた可動部材と、可動部材を揺動可能に支持する支持部材と、前記可動部材と所定の距離をあけて対向配置され、かつ前記可動部材の電極と対向する位置に電極を有する固定部材と、前記可動部材を揺動させるための駆動電圧を前記可動部材の電極と固定部材の電極との間に印加する電圧印加部とを備えたマイクロミラー駆動装置であって、
可動部材が所定の範囲内を揺動するように、電圧印加部が、前記可動部材の電極と固定部材の電極との間の間隔及び可動部材の揺動の一次共振周波数に対応づけられたオフセット電圧を有する駆動電圧を印加し、
前記オフセット電圧は、前記可動部材の電極と固定部材の電極との間の電極間隔の設計値Doと、製品ごとに計算された電極間隔Doxとの比(Dox/Do)の3/2乗と、前記一次共振周波数の設計値fsと、製品ごとに求められた一次共振周波数fsxとの比(fsx/fs)との積に比例しており、前記Dox及び前記fsxを測定することによって求められ、可動部材と固定部材の電極間隔の設計値からの誤差を吸収していることを特徴とするマイクロミラー駆動装置。 - 前記可動部材及び固定部材が互いに対向する位置に複数個の電極を備えた場合に、前記可動部材の電極と前記固定部材の電極との間隔が、その所定の初期間隔とほぼ一致するように、前記電圧印加部が、前記複数個の電極間に異なるオフセット電圧を加えた駆動電圧を印加することを特徴とする請求項1のマイクロミラー駆動装置。
- 反射ミラーと反射ミラーと異なる表面に少なくとも1つの電極とを備えた可動部材と、可動部材を揺動可能に支持する支持部材と、前記可動部材と所定の距離をあけて対向配置され、かつ前記可動部材の電極と対向する位置に電極を有する固定部材と、前記可動部材を揺動させるためのオフセット電圧と揺動変化電圧とからなる駆動電圧を前記可動部材の電極と固定部材の電極との間に印加する電圧印加部とからなるマイクロミラー駆動装置のオフセット電圧調整方法であって、
所定のオフセット電圧を印加しない場合の可動部材の振れ角θ1を測定し、所定のオフセット電圧Voと振動変化電圧δVとを印加した場合の可動部材の振れ角θ2の周波数特性を測定し、
前記振れ角θ2の周波数特性から可動部材の揺動の一次共振周波数fsxを求め、
前記振れ角θ1と、前記一次共振周波数fsxとを用いて、前記電極間の間隔Doxを計算し、
前記計算された電極間隔Doxと一次共振周波数fsxと、所定の設計値である電極間隔Doおよび一次共振周波数fsとを用い、電極間隔の比(Dox/Do)の3/2乗と、一次共振周波数の比(fsx/fs)との積に比例させ、可動部材と固定部材の電極間隔の設計値からの誤差を吸収するオフセット電圧Voxを設定することを特徴とするマイクロミラー駆動装置のオフセット電圧調整方法。 - 前記揺動変化電圧として一定周期を持つ電圧を印加した場合に、前記可動部材の振れ角θ2の周波数特性が、周期的な電圧に対応して変化する可動部材の振れ角を反映した電気信号を測定することにより求められることを特徴とする請求項3のマイクロミラー駆動装置のオフセット電圧調整方法。
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