JP4518292B2 - Hanモード液晶表示装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、液晶表示装置に係わり、特に、液晶分子の配列が一方の基板面との界面で基板面に対してほぼ垂直で、他方の基板面との界面で基板面とほぼ平行であるHAN(Hybrid Aligned Nematic)方式の液晶セルを使用する液晶表示装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
図16(A)に従来のHAN型液晶セルの構造を示し、図16(B)にTN型液晶セルの構造を示す。HAN型液晶セルは、電圧無印加時に、液晶分子14が一方の基板11との界面に対して垂直なホメオトロピック配列状態と、他方の基板12との界面に対して水平なホモジニアス配列状態とが並存し、さらに液晶分子14は一対の基板間で一方から他方に向かって基板面に垂直な面内でその配列方向(極角)が連続的に90°変化している。
【0003】
一方、従来のTN(Twist Nematic)型液晶セルでは、液晶分子24は一対の基板21、22とのそれぞれの界面に対していずれも平行に配向しており、さらに液晶分子24は一対の基板間で一方から他方に向かって基板面に平行な面内でその配列方向(方位角)が連続的に90°変化している。そして偏光軸が互いに直交する2枚の偏光板(偏光子と検光子)25,26を少なくとも一方の偏光軸を隣接する液晶分子の配列方向に合わせ、液晶セル20の両側に配置して表示を行う。図16(B)は両方の偏光板の偏光軸が共に液晶分子と平行に配置されている。ノーマリホワイト表示の場合であり、2枚の偏光板の配向軸を互いに平行に配置すればノーマリブラック表示となる。
【0004】
従来の一軸HANモード液晶表示装置では、偏光軸が互いに直交する2枚の偏光板(偏光子と検光子)15,16を液晶セル10の両側に配置し、水平配向側の基板12の配向方向と偏光板16の偏光軸方向とが45°の角度をなすように設定して表示を行うが、これだけでは、図16(B)に示すようなTNモードと同様な黒レベルを表示するのが困難であり、通常は液晶セル10と偏光板15との間に光学位相差補償用の位相差板13を配置して黒表示を実現している。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、HANモード液晶セルに位相差板を使用しても、温度変化による黒レベルの変化が生じる温度依存性を有する。これは液晶の屈折率異方性の温度依存性によるものである。TNモード液晶セルでは温度変化に対して黒レベルが著しく変化することはない。そのために、HANモード液晶セルでは、セルの駆動回路側で温度補償を必要とし、回路が複雑となる。
【0006】
本発明の目的は、位相差板を用いることなく、しかもTNモード液晶セルと同等な黒レベルが実現できるHANモード液晶表示装置を提供することである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明のHANモード液晶表示装置は、液晶層を一対の対向する基板で挟持し前記液晶層の液晶分子の配列が、一方の基板との界面で該基板に平行で、他方の基板との界面で該基板に垂直であるHANモード液晶表示装置において、前記一対の基板外側に偏光軸が互いに直交するように配置された一対のクロス偏光板を有し、前記液晶分子は正の誘電率異方性を有し、前記液晶層は、前記一対の基板間で一方から他方に向かって液晶分子の配列方向が基板面に平行な方位角方向で連続的に変化するように所定のねじれ角が与えられており、該所定のねじれ角を与える条件として、前記一対の基板間の間隔をdとし、前記ねじれ角のピッチをpとしたときに、0.3≦d/p≦0.45を満たすように設定され、前記一方の基板と平行に配列した側の界面の液晶分子の配向方向が前記一方の基板外側の前記偏光板の偏光軸の方向と平行あるいは直交するように配置されている。
【0008】
【発明の実施の形態】
TNモード液晶セルは、中間調レベルにおけるレスポンスが階調に著しく依存し、特に低電圧のしきい値付近においてレスポンスが非常に遅くなる傾向がある。ところが、HANモード液晶セルは中間調レベルにおけるレスポンスが階調に大きく依存しない特徴を持つモードである一方、位相差フィルム(板)を挿入して黒レベルを実現する必要がある。
【0009】
図16(B)に示すノーマリホワイト表示のTNモードは、90°ツイストの場合、電圧無印加時の透過光強度Tは、次の式1で表されるGooch & Tarry の式により近似される。
【0010】
【数1】
Figure 0004518292
【0011】
ここで、dはセル厚、Δnは液晶の屈折率異方性、λは入射光波長を示す。この式で、λを固定した条件で(一般にλ=550nmと設定する。)、Δnd(一般にはセルリタデーションと呼ばれる。)値を調整することにより、T=1(透過率最大)になる条件が存在する。この条件をミニマム条件と呼ぶ。90°ツイストのTNモードセルではこのミニマム条件に一致したリタデーションに設定することにより良好な正面黒レベルが得られる。なお、ツイスト角90°でΔndが最小限で最大透過率が得られる条件を1stミニマム条件と言う。
【0012】
なお、上記のGooch & Tarry の式は、元来はノーマリブラックモードの場合において、セルリタデーションの値を低い値から大きな値に徐々に変化させていくと、それに伴いTの値が変化していく間で、T=0(暗表示)になる複数の異なるセルリタデーション値が見られるということを示している。その場合に、最初にT=0が得られる最も低いセルリタデーションの値を1stミニマム条件としている。しかし、本明細書での説明例は、ノーマリホワイトモードであるので、T=1(明表示)が最初に現れる最も低いセルリタデーションの値を1stミニマム条件と定義している。
【0013】
ところで、HANモードは液晶層全体の平均ティルト角は(基板面に対する角度)約45°であるので、この配列状態にしたまま、液晶層にカイラル剤を添加し、液晶層の一方の界面から他方の界面まで、電圧無印加時に液晶分子の配向(基板面と平行な方位角方向)が90°ねじれるようにしたツイストHANモードセルとして、さらに液晶層のリタデーション(セルリタデーション)を1stミニマム条件のTNセルの2倍に設定すると電気光学的にはTNモードと同等の動作が期待できる。その理由を以下に説明する。
【0014】
一般に液晶の屈折率異方性Δnは材料固有の物性値であるが、液晶セル内に液晶を満たした状態では。見かけの(実効的な)屈折率異方性は、液晶層を挟む一対の基板の配向処理によって変化する。すなわち、基板との界面の液晶分子のプレティルト角により見かけのΔnは変化する。見かけの屈折率異方性をΔneffとし、プレティルト角をθとすると、一軸配向において次の式2が成立することが知られている。
【0015】
【数2】
Figure 0004518292
【0016】
ここで、neは異常光屈折率、noは常光屈折率を示す。式2をグラフにしたものが図17である。図から明らかなように、プレティルト角θを45°としたとすると、見かけの屈折率異方性Δneffは液晶の固有値のΔnの1/2になることが分かる。このことは、プレティルト角が0°の水平配向TNモード液晶セルの電圧無印加時の光学的特性と同等になるようなプレティルト角が45°のTNモード液晶セルを実現するためには、後者のセルのリタデーション値(Δnd)をプレティルト角が0°の水平配向TNモード液晶セルのリタデーション値(Δnd)の2倍に設定しなければならないことを意味する。従って、平均ティルト角が約45°で、カイラルを与えたツイストHANモードセルでは、液晶層のリタデーションを1stミニマム条件のTNセルの2倍に設定すると電気光学的にはTNモードと同等の透過率が得られるのである。
【0017】
そこで、液晶セルの製作方法は従来のHANモードと同等とした場合、様々なパラメータを変化させた場合のシミュレーションをシンテック社製LCDシミュレータLCDmasterで行った。使用液晶は、誘電率異方性が正のZLI−4792、カイラルは右ねじれ(p)、水平配列側の界面の液晶のプレティルト角は基板面を基準として1°、垂直配列側のプレティルト角は90°として固定した。
【0018】
なお、誘電率異方性が負の液晶を使用するHANモードセルは、電圧無印加時には誘電率異方性が正のHANモードセルと同等な配向状態と光学的性質を持つ。ところが、前者の負の液晶セルは電圧印加時には液晶分子の配向が基板に対して平行になる傾向があり、後者の正の液晶セルは垂直になる傾向がある。液晶分子が基板に対して垂直に並んだ方が平行の場合よりも液晶の屈折率異方性の温度依存が可視化されにくい傾向がある。つまり、誘電率異方性が負の液晶をHANモードセルに使用すると、温度依存性が顕著に可視化されることになる。特に黒表示を行う際に温度によって透過率が変化するのは液晶表示素子として好ましくない。よって、誘電率異方性が負の液晶はHANモードセルでは、温度特性的に不利と判断される。
【0019】
シミュレーション用のツイストHANモード液晶表示装置の構成を図1に示す。図1の(A)は、電圧無印加時で、(B)は電圧印加時の状態を示す。ツイストHANモード液晶セル10は、基板1,2間に挟まれた液晶層3を有する。液晶層3には、基板面に平行な方位角方向で液晶分子4が所定のねじれ角のピッチ(カイラルピッチ)pを示すようにカイラル剤を添加してある。セル10の両側の2枚の偏光板5、6の配置はそれぞれの偏光軸が互いに直交するクロス配置(クロス偏光板と称す。)である。図1のように水平配向側基板2のラビング方向(水平配向方向)と隣接する偏光板6の偏光軸とが平行になるよう配置し、カイラル角を変化させた場合と、d/p=0の場合(カイラルピッチpが∞)の場合に偏光板の偏光軸方向と液晶分子のダイレクタの方位角方向とが45°の関係となるようにした場合とをシミュレーションした。
【0020】
図2に、セル厚(d)を6μmに固定したときの印加電圧(横軸)対光透過率(縦軸)特性をd/p値をパラメータとして変化させてシミュレーションした結果を示す。
【0021】
なお、偏光板はクロス配置とし、水平配向する液晶分子のダイレクタと隣接する偏光板の偏光軸とをd/p=0の場合は45°の配置とし、d/p>0の場合は平行の配置とした。
【0022】
d/p値を大きくする(カイラルピッチpを小さくする)に従って、0V時の透過率が低下し、かつ黒レベルが低下していることが分かる。特に、d/p>0.25において良好な黒レベルが得られる可能性がある。またカイラル剤の添加により駆動電圧を低くできる効果もある。
【0023】
図3は、d/pが0.3から0.5の領域をより詳細にシミュレーションした結果を示す。この結果から、良好な黒レベルが得られ、無しきい値特性が得られるのは、0.3≧d/p≧0.45であった。
【0024】
次に、同じ液晶セル10を使用し、セル厚d=6μmのまま、いくつかの異なるd/p値の各条件のもとで、クロス偏光板間で液晶セル10を光軸を中心に回転させて、図4に示したような偏光子(および検光子)の透過軸方向と液晶セルのラビング方向(配向方向)との角度θ(Angle of Crossed Pol.)を変化させて、最大コントラスト値が得られる角度θを求めたシミュレーション結果を図5に示す。
【0025】
図5の結果から、d/p値が大きくなる(カイラルピッチが少なくなる)につれて、最大コントラスト値が得られる角度θは、徐々に増大し、クロス偏光板の一方の偏光板の透過軸をラビング方向にそろえる方向にむかう。特に、0.3≧d/p≧0.45においては、TNモードと同様、片方の偏光板透過軸をラビング方向と平行または直交する(θ=90°)ような配置で最大コントラストが得られる。なお、d/p=0.6では最大コントラストが得られる角度は約15°(他方の偏光板に対しては約75°)となった。2枚の偏光板を入れ替えても特性に変化はなかった。
【0026】
次に、0.3≧d/p≧0.45の条件で透過率が最大になるセルリタデーションの値を求めるシミュレーションをおこなった。図6にその結果を示す。なお、クロス偏光板配置で、図4でのθを90°に固定して行った。すなわち、ラビング方向と隣接する偏光板の透過軸方向とが一致している。同様に、0.3≧d/p≧0.45の条件でコントラストが最大になるセルリタデーションの値を求めるシミュレーション結果が図7である。
【0027】
図6の結果から、d/p値が大きくなる(ねじれが小さくなる)につれて、最大透過率は高くなり、かつ高いリタデーション値の方にシフトしていく傾向が見られる。最大透過率は、セルリタデーションの値が0.8μm〜0.9μmの領域で得られている。一方、図7の結果から、コントラストは、セルリタデーション値及びd/p値が大きくなるにつれて低下する。良好な透過率とコントラストを得るためには、0.3≧d/p≧0.45で、セルリタデーションが0.7μm〜0.9μmの範囲が最適と考えられる。
【0028】
図8は、ツイストHANモード液晶セルと、従来の90°ツイストTNモード液晶セルの電気光学的特性を比較したグラフである。図8において、横軸は印加電圧を示し、縦軸は光透過率を示す。実線のカーブが従来のTN液晶セルであり、その他の破線のカーブは表1に示す異なる三つの条件(A,B,C)でのツイストHANモード液晶セルの各々の特性カーブである。
【0029】
【表1】
Figure 0004518292
【0030】
図8の結果から、TN液晶セルとツイストHANモード液晶セルは、透過率と黒レベルともに同等のレベルにある。また、HANモードは無しきい値特性を維持しているために、中間階調表示時のダイナミックレンジが大きくなるが、デューティ駆動は透過率を犠牲にしなければならないと考えられる。(ブラックマスクが必要となる。)
【0031】
【実施例】
次に、以上説明したシミュレーションによる得られた結果に基づいて良好なツイストHANモード液晶表示装置が実際に得られるか、サンプルのセルを作製し実験した結果を説明する。作製したセルの製造条件は、次の通りである。
【0032】
基板:TSP−14 電極の面抵抗100Ω
配向膜成膜:スピンナー使用(2000rpm/60sec)
水平側配向膜:水平配向膜(推定厚み400Å)
垂直側配向膜:垂直配向膜(推定厚み600Å)
プリベーク:ホットプレートにて90°Cで2分間
ポストベーク:水平配向膜に対して240°C/60分間、
垂直配向膜に対して160°C/60分間
配向処理:水平側のみラビング処理(プレティルト角約1.5°)
セル厚:5μmねらい
液晶: d/p=0用 ZLI−5200−000,Δn=0.12
d/p>0用 RDP−00333+S−811,Δn=0.157
注入:毛細管注入
なお、比較のために用意した従来の90°ツイストTNモード液晶セルは、水平配向膜、セル厚ともに上記ツイストHANモードセルと同じで、液晶は、ZLI−3054−100+S−811(Δn=0.097)を毛細管注入で使用した。
【0033】
上記の条件によるセルを製造して、それらの特性を測定した結果を説明する。
図9は、d/p=0.0、0.35、0.4、0.45に設計した4つのHANモードセルの印加電圧(横軸)対光透過率(縦軸)特性を示す。本測定では、偏光板にSQX852−AP−HC(シミュレーションではSH1832AP)を用いている。シミュレーションの結果の通りに、本実験においても0.3≧d/p≧0.45の条件では良好な黒レベルが得られている。
【0034】
図10は、TNセルとの特性比較を示す。本実験の結果も、図8に示したシミュレーションの結果と非常によく一致した。d/p=0.4と0.45の場合では、TNモードセルとほとんど遜色のない透過率と黒レベルの性能が得られている。
【0035】
次に、中間調レスポンスの傾向を大まかにつかむために、従来のTN液晶セルと、ツイストのないHAN液晶セル(d/p=0)と、ツイストのあるHAN液晶セル(d/p>0)とで応答時間の比較を行った。図11は、その立ち上がり時間の特性で、横軸が印加電圧で縦軸が立ち上がりの応答時間である。また、図12は、その立ち下がり時間の特性で、横軸が印加電圧で縦軸が立ち下がりの応答時間である。
【0036】
立ち上がり応答時間では、ツイストのないHANモードセルでは階調に対する応答性の違いがほとんど見られないが、ツイストHANモードセルとTNセルでは、電圧が小さい場合には遅くなる傾向が見られる。立下り特性では、ツイストなしHANモードセルとTNセルとではほぼ一定の応答時間であるが、ツイストHANモードセルでは電圧が小さい場合に遅くなる傾向を有する。
【0037】
以上説明したツイストHANモード液晶セルは、一方の基板の界面の液晶分子が完全に垂直配向であった。片面が垂直配列であるツイストHANモードセルではTNセルに比べてセル厚(リタデーション)を大幅に大きく(約0.5〜0.8μm)取る必要がある。また、応答性においても、立下り時間の挙動は、垂直配向側に方位角方向の配向規制力が無いために生じている現象と考えられる。以下の説明では、この垂直配向側にも配向処理をすると、どのような特性となるかをシミュレーションにより検討した結果を示す。
【0038】
まず、垂直配向側の方位角方向の配向規制力が弱いという観点から、垂直配向側のプレティルト角を変化させた場合、液晶層内におけるツイスト角がどう変化するのか計算を行った。図13のグラフは、垂直配向側のプレティルト角を5つの値(90°が完全な垂直配向)に設定し、d/p値(横軸)を変化させた場合に見かけのツイスト角(縦軸)がどのように変化するかを求めたものである。
【0039】
ツイストHANモードセルでは、垂直配向側の配向方位は、水平側から90°ねじられている。プレティルト角90°の条件において、d/p=0.4にてほぼ90°のツイスト角が得られている。d/p=0.4よりも小さな領域では、プレティルト角が小さくなるにつれて、見かけ上のツイスト角が大きくなることが分かる。また、d/p=0.4よりも大きな領域では、逆にプレティルト角が大きくなるにつれて、見かけ上のツイスト角が小さくなることが分かる。これは、プレティルト角が小さくなるにつれて界面の方位角配向規制力が有効に作用するようになるためである。
【0040】
すなわち、垂直配向側のプレティルト角を小さく設定すれば小さいd/p値で良好な特性が得られる可能性がある。またセルリタデーションを低減することも可能になると予想できる。
【0041】
次に、図14は、d/p=0.25の条件で、垂直配向側の異なる5つのプレティルト角(90°が完全な垂直配向)でセルリタデーション値(横軸)を変化させた場合に各セルリタデーション値での透過率(縦軸)を求めたグラフである。図15は、d/p=0.4の条件で同様な特性を求めたものを示す。
【0042】
求めた特性グラフから、プレティルト角が小さくなるに従って、最大透過率が上昇し、最大透過率がセルリタデーションが小さいところで得られる傾向がある。しかし、良好な透過率とコントラストが得られるd/p値条件は、プレティルト角が変化しても0.4前後であり、最大透過率を重視するのであれば、d/p値を低下させることはできない。ただし、方位角規制が有効になるためプレティルト角を89°以下にすると立下りレスポンスへの効果は期待できると予想する。また、最大透過率を得るセルリタデーション値はプレティルト角を80°に設定すれば、90°の場合の0.8μmから約0.7μmに低下させることができる。
【0043】
以上のとおり、位相差板(フィルム)なしでも良好な黒レベルが得られるツイストHANモード液晶表示装置について、シミュレーションと実測結果とにより検討した結果、0.3≧d/p≧0.45で、セルリタデーションが0.7μm〜0.9μmの範囲にてTNモード液晶表示装置と同等な黒レベルと透過率のものが実現できることが分かった。また、シミュレーション解析によりHANモードセルではd/p=0.4の場合に液晶層内で実質的に90°のねじれが発生することが分かった。さらに、垂直配向側にプレティルト角を付与すると、方位角配向規制が有効に作用して、透過率が上昇する傾向があるが、良好な電圧対透過率特性が得られるのはプレティルト角がない条件とほぼ同等であった。
【0044】
以上、実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせが可能なことは当業者に自明であろう。
【0045】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明のツイストHANモード液晶表示装置は、0.3≧d/p≧0.45の条件を満たすように設定したことによって、液晶分子に基板間でねじれを与え、これによって、位相差板をなくしても、TNモード液晶表示装置と同等な黒レベルと透過率を得ることができる。位相差板をなくしたことによって、黒レベルの温度依存性がなくなる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施例によるツイストHANモード液晶表示装置の構成を示す模式図である。
【図2】 ツイストHANモード液晶表示装置のいくつかの異なるd/p値におけるシミュレーションによる電圧対透過率の特性グラフである。
【図3】 ツイストHANモード液晶表示装置のいくつかの異なるd/p値におけるシミュレーションによる電圧対透過率の特性グラフである。
【図4】 偏光板の偏光軸方向と液晶セルのラビング方向との関係を示す図である。
【図5】 偏光板の透過軸方向と液晶セルのラビング方向(配向方向)との角度θを変化させて、最大コントラスト値が得られる角度θを求めたシミュレーション結果のグラフである。
【図6】 ツイストHANモードセルで、0.3≧d/p≧0.45の条件で透過率が最大になるセルリタデーションの値を求めるシミュレーション結果を示す透過率対セルリターデーションのグラフである。
【図7】 ツイストHANモードセルで、0.3≧d/p≧0.45の条件でコントラストが最大になるセルリターデーションの値を求めるシミュレーション結果を示すコントラスト対セルリタデーションのグラフである。
【図8】 ツイストHANモード液晶セルと、従来の90°ツイストTNモード液晶セルの電気光学的特性を比較したグラフである。
【図9】 異なる4つのd/p値のHANモードセルの印加電圧に対する光透過率特性を示すグラフである。
【図10】 ツイストHANモード液晶セルと、従来のTNモード液晶セルの電気光学的特性を比較したグラフである。
【図11】 従来のTN液晶セルと、ツイストのないHAN液晶セルと、ツイストのあるHAN液晶セルとにおける立ち上がり応答時間の比較グラフである。
【図12】 従来のTN液晶セルと、ツイストのないHAN液晶セルと、ツイストのあるHAN液晶セルとにおける立ち下がり応答時間の比較グラフである。
【図13】 垂直配向側の異なる5つのプレティルト角の場合、d/p値を変化させた時に見かけのツイスト角がどのように変化するかを求めたツイスト角対d/pのグラフである。
【図14】 d/p=0.25の条件で、垂直配向側の異なる5つのプレティルト角でセルリタデーション値を変化させた場合に各セルリタデーション値での透過率を求めた光透過率対セルリターデーションのグラフである。
【図15】 d/p=0.4の条件で、垂直配向側の異なる5つのプレティルト角でセルリタデーション値を変化させた場合に各セルリタデーション値での透過率を求めた光透過率対セルリターデーションのグラフである。
【図16】 従来のHANモード液晶セルとTNモード液晶セルの構成を示す模式図である。
【図17】 プレティルト角θと見かけの屈折率異方性Δneffとの関係を示すΔneff対θのグラフである。
【符号の説明】
1,2 基板
3 液晶層
4 液晶分子
5,6 偏光板
10 液晶セル

Claims (5)

  1. 液晶層を一対の対向する基板で挟持し前記液晶層の液晶分子の配列が、一方の基板との界面で該基板に平行で、他方の基板との界面で該基板に垂直であるHANモード液晶表示装置において、前記一対の基板外側に偏光軸が互いに直交するように配置された一対のクロス偏光板を有し、前記液晶分子は正の誘電率異方性を有し、前記液晶層は、前記一対の基板間で一方から他方に向かって液晶分子の配列方向が基板面に平行な方位角方向で連続的に変化するように所定のねじれ角が与えられており、該所定のねじれ角を与える条件として、前記一対の基板間の間隔をdとし、前記ねじれ角のピッチをpとしたときに、0.3≦d/p≦0.45を満たすように設定され、前記一方の基板と平行に配列した側の界面の液晶分子の配向方向が前記一方の基板外側の前記偏光板の偏光軸の方向と平行あるいは直交するように配置されたHANモード液晶表示装置。
  2. 前記d/pが、0.3≦d/p≦0.4である請求項1記載のHANモード液晶表示装置。
  3. 前記液晶層のセルリタデーション値が0.7μmから0.9μmの範囲に設定されている請求項1又は2記載のHANモード液晶表示装置。
  4. 液晶分子の配列が垂直である前記他方の基板の界面は配向処理がされてない請求項1又は2記載のHANモード液晶表示装置。
  5. 液晶分子の配列が垂直である前記他方の基板の界面は配向処理がされて該界面の液晶分子に基板面に対して90°より小さなプレティルト角が与えられている請求項1又は2記載のHANモード液晶表示装置。
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