本発明は、半導体用基板や発熱素子用ヒ−トシンク等の電子部品用部材、あるいは一般機械器具用部材、溶融金属用部材、または熱機関用部材等の構造用部材として好適な高強度・高熱伝導性に富んだ窒化ケイ素質焼結体および前記窒化ケイ素質焼結体を用いて構成される回路基板に関する。
窒化ケイ素質焼結体は、高温強度特性および耐摩耗性等の機械的特性に加え、耐熱性、低熱膨張性、耐熱衝撃性、および金属に対する耐食性に優れているので、従来からガスタ−ビン用部材、エンジン用部材、製鋼用機械部材、あるいは溶融金属の耐溶部材等の各種構造用部材に用いられている。また、高い絶縁性を利用して電気絶縁材料として使用されている。
近年、高周波トランジスタ、パワーIC等の発熱量の大きい半導体素子の発展に伴い、電気絶縁性に加えて良好な放熱特性を得るために高い熱伝導率を有するセラミックス基板の需要が増加している。このようなセラミックス基板として、窒化アルミニウム基板が用いられているが、機械的強度や破壊靭性等が低く、基板ユニットの組立て工程での締め付けによって割れを生じるという問題がある。また、Si半導体素子を窒化アルミニウム基板に実装した回路基板では、Siと窒化アルミニウム基板との熱膨張差が大きいため、熱サイクルにより窒化アルミニウム基板にクラックや割れを発生し実装信頼性が低下するという問題がある。
そこで、窒化アルミニウム基板より熱伝導率は劣るものの、熱膨張率がSiに近く、かつ機械的強度、破壊靭性および耐熱疲労特性に優れる高熱伝導窒化ケイ素質焼結体からなる基板が注目され、種々の提案が行われている。
例えば、特許文献1には、実質的に窒化ケイ素からなり、不純物として含有されるAlおよび酸素が共に3.5重量%以下であり、密度が3.15Mg/m3(3.15g/cm3)以上であり、40W/(m・K) 以上の熱伝導率を有する窒化ケイ素質焼結体が記載されている。
また、特許文献2には、85〜99重量%のβ型窒化ケイ素粒と残部が酸化物または酸窒化物の粒界相とから構成され、粒界相中にMg、Ca、Sr、Ba、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Gd、Dy、Ho、ErおよびYbのうちから選ばれる少なくとも1種の元素を0.5〜10重量%含有し、粒界相中のAl元素含有量が1重量%以下であり、気孔率が5%以下であり、かつβ型窒化ケイ素粒のうちで短軸径5μm以上を持つものの割合が10〜60体積%である窒化ケイ素質焼結体が記載されている。
また、非特許文献1、2および特許文献3には、原料粉末に柱状の窒化ケイ素粒子またはウイスカーを予め添加し、ドクターブレード法あるいは押出成形法を用いて、この粒子を2次元的に配向させた成形体を形成し、焼結することにより熱伝導に異方性を付与して特定方向の熱伝導率を高めた窒化ケイ素質焼結体が記載されている。
また、特許文献4には、窒化ケイ素質粒内の酸素、Al、Ca、Feの不純物量の合計を1500ppm以下、かつ短軸径が2μm以上に制御することで、熱伝導率と機械特性を向上させた窒化ケイ素質焼結体ならびにその製造方法が記載されている。
さらに、特許文献5には、原料粉末に柱状のウイスカーを予め添加し、焼成過程において当該ウイスカーを核として選択的に粒成長させたミクロ組織を構築することで、熱伝導率を向上させた窒化ケイ素質焼結体ならびに当該ウイスカーの製造方法が記載されている。
非特許文献3には、窒化ケイ素粉末の成形体を1.0MPaの窒素ガス中で2000℃×4hrで焼結した後に、さらに30MPaの窒素ガス中で2200℃×4hrの高温高圧での熱処理を行うことにより、100W/(m・K)以上の高い熱伝導率を有する窒化ケイ素質焼結体が製造できることを記載している。これには、高熱伝導化の発現は焼結体中の窒化ケイ素粒子の成長に加えて、高温熱処理による窒化ケイ素粒子内での六角形の析出相が関与していると記載されている。
特開平4−175268号公報
特開平9−30866号公報
安藤元英、秋宗淑雄、宗像文男、岡本裕介、広崎尚登、平尾喜代司著、日本セラミックス協会1996年年会講演予稿集、1G11
平尾喜代司、マヌエル・ブリト、渡利広司、鳥山素弘、神崎修三著、日本セラミックス協会1996年年会講演予稿集、1G12
特開平10−194842号公報
特開2001−19557号公報
特開2002−29848号公報
廣崎尚登、宗像文男、秋宗淑雄、佐藤誓、谷村誠、幾原雄一著、日本セラミックス協会1998年年会講演予稿集、2B04
以下、上記した従来技術の問題点について順を追って説明する。まず、特許文献1では40W/(m・K)以上の熱伝導率が得られているが、昨今ではさらに熱伝導率を高めた、機械的強度に優れる材料が望まれている。また、特許文献2、特許文献3に記載の方法では、窒化ケイ素質焼結体中に巨大な柱状粒子を得るために、成長核となる種結晶あるいはウィスカ−を予め添加し、2000℃以上および10.1MPa(100気圧)以上の窒素雰囲気下での焼成が不可欠である。したがって、ホットプレスあるいはHIP等の特殊な高温・高圧設備が必要となりコストアップを招来する。また、窒化ケイ素粒子を配向させた成形体を得るための成形プロセスが複雑であるため、生産性が著しく低下するという問題がある。
また、特許文献4に記載される窒化ケイ素質焼結体は、窒化ケイ素粒内の不純物量を低減する(純化効果と表記)ことで、粒子自身の熱伝導率を向上させ、これにより焼結体の熱伝導率を向上させることを特徴としている。また、この純化効果の助長に役立つ添加物として、Zrおよび/または、Hfを選定し、これらを酸化物換算として0.5wt%〜3.0wt%添加するとしている。しかしながら、ZrおよびHfの酸化物を添加すると、焼結過程でSi3N4中のNと容易に反応して粒界相中に電気伝導性のあるZrNおよびHfNが生成される。よって、本来、セラミックス基板に必須とされる電気絶縁性が保持できず、高周波で作動するパワー半導体モジュール用の絶縁基板として使用し難いという問題がある。
さらに、特許文献5に記載される製造方法は、構成する窒化ケイ素粒子の平均円形度が、0.8以上あり、β化率が10%以上80%未満、酸素量が0.5〜1.8質量%、比表面積が12〜22m2/gである窒化ケイ素粉末に、希土類酸化物、酸化珪素、および酸化マグネシウムよりなる群から選ればれる1種以上を、合計が2.5〜14質量%となるように添加し、更に、窒化珪素ウィスカ−を0.1〜8.5質量%添加した後、混合し、成形し、窒化雰囲気下で焼結させるものである。更に、焼結性向上のために窒化珪素ウィスカ−に対して、水沸点以上(例えば、110℃〜140℃の温度範囲下)で予め水熱処理することを特徴としている。しかしながら、この例で使用される窒化ケイ素ウィスカーの水熱処理は、表面を酸化させ助剤として作用するSiO2成分を増加させることで焼結性が改善できるが、その反面、実施例に記載がある様に緻密な焼結体を得るための水熱処理は、120℃で96hの処理が必要となりプロセスが煩雑になる。また、水熱処理により焼結性は改善できるものの、焼結体の酸素量、しいては窒化ケイ素粒子内の酸素量を低減することができず、高熱伝導材が得られ難いと言う難点がある。
次に、非特許文献3に記載の焼結体は、1MPa窒素ガス中2000℃での焼成後に、さらに30MPa窒素ガス中2200℃での高温高圧の熱処理を行うことにより100W/(m・K)以上の高い熱伝導率が得られる利点がある。更に、高熱伝導化の発現のメカニズムを、焼結体中の窒化ケイ素粒子の成長に加えて、高温熱処理によって窒化ケイ素粒子内の六角形の析出相が関与していると説明している。すなわち、焼結および粒成長時にY−Nd−Si−Oから構成される助剤成分が窒化ケイ素粒子内に取り込まれて固溶し、高温での熱処理および冷却時にY−Nd−Si−O組成のアモルファス相として、窒化ケイ素粒子内に析出し、析出物の一部は結晶化したものと考え、窒化ケイ素粒子の高純度化作用の1つとして考えられている。以上のことから上記の焼結体を得るには、特殊な高温・高圧設備が必要となりコストアップを招来する。更に焼結した上に熱処理を加えるため生産性が著しく低下するという問題がある。また、上記焼結体中の窒化ケイ素粒子内の析出相について詳細な組成分析ならびに観察がなされておらず、熱伝導率向上との関連性が明確にはなっていない。
本発明は上記従来の問題点に鑑みてなされたものであり、2000℃以上でかつ10.1MPa(100気圧)以上の高温・高圧焼成といったコストの高い焼成法を必要とせず、機械的強度に優れ、熱伝導の方向に異方性を持たずに従来に比べて熱伝導率を高めた高熱伝導型窒化ケイ素質焼結体を提供することを目的とする。また本発明は、窒化ケイ素粒子内に析出する微細粒子の組成と形態を詳細に調査することにより熱伝導率を高めた高熱伝導型窒化ケイ素質焼結体を提供することを目的とする。また本発明は、窒化ケイ素質粉末のβ分率、含有酸素量、不純物量およびα型窒化ケイ素質粉末との混合比及び保持過程を含む焼結工程等を規定することにより、高い熱伝導率と高い強度を有する窒化ケイ素質焼結体およびその製造方法を提供することを目的とする。また本発明は、上記した高強度・高熱伝導性に富んだ窒化ケイ素質焼結体用いて構成される放熱性の良好な回路基板を提供することを目的とする。
本発明者らは上記課題を達成するため、窒化ケイ素粒子内に少なくとも酸素および焼結助剤成分を組成に含む微細粒子を意識的に析出させることで、窒化ケイ素粒子自身の熱伝導率を向上させ、安定して100W/(m・K)以上の熱伝導率と十分な曲げ強度を有する窒化ケイ素質焼結体が得られることを知見した。また、このとき焼結助剤成分はMgO基とすることで焼結性が向上し、かつMgOと(RExOy)が特定量と特定比を持って含有していることが有効なことを知見した。また、上記窒化ケイ素質焼結体の製造方法においては、用いる窒化ケイ素質粉末のβ分率、含有酸素量、不純物およびα粉末との混合比等の粉末の特性及び保持過程を含む焼結工程等を規定することが肝要であることを知見した。以上により本発明に至ったものである。
即ち、本発明の窒化ケイ素質焼結体は、窒化ケイ素粒子内に、MgあるいはY及び希土類元素(RE)からなる群から選ばれた少なくとも1種の元素と、O元素を含む粒径100nm以下の微細粒子が存在することを特徴とする。また、本発明の窒化ケイ素質焼結体は、Mgと、Y及び希土類元素(RE)からなる群から選ばれた少なくとも1種の元素を焼結助剤として添加する窒化ケイ素質焼結体であって、窒化ケイ素粒子内に、MgあるいはLa、Y、Gd及びYbからなる群から選ばれた少なくとも1種の希土類元素と、O元素を含む粒径100nm以下の微細粒子が存在することを特徴としている。当該微細粒子は、焼成過程で窒化ケイ素粒子の粒成長とともに極微量ではあるが粒内に取り込まれた助剤成分が、窒化ケイ素粒子内に再析出したものであり、窒化ケイ素粒子自身の高熱伝導化に寄与する。このとき、透過型電子顕微鏡(TEM)による直接倍率10000倍以上の観察像において、窒化ケイ素粒子内に粒径100nm以下の前記微細粒子が5個/μm2以上存在することが望ましく、この微細粒子の析出現象と割合により焼結体の熱伝導率は向上する。
また、本発明の窒化ケイ素質焼結体は、前記微細粒子が少なくともSi−N−O−Mg−RE組成を有し、当該組成割合が異なる核と周辺部とから構成されることを特徴としている。この核部分についてはシリコン成分濃度が高く、かつ助剤成分として添加する(例えば、Mgおよび希土類元素)成分濃度が低い。一方周辺部分は、逆にシリコン成分濃度が低く、助剤成分濃度が高いという構成が望ましい。また当該微細粒子は、全体に非晶質相であることが望ましい。
本発明の窒化ケイ素質焼結体は、前記窒化ケイ素質焼結体が含有するMgを酸化マグネシウム(MgO)に換算し、同じく含有するLa、Y、Gd及びYbを含む希土類元素を希土類酸化物(RExOy)に換算したとき、これら酸化物に換算した酸化物含有量の合計が0.6〜10wt%で、かつ(RExOy)/(MgO)>1であることを特徴とする。前記酸化物換算含有量の合計が0.6wt%未満では焼結時の緻密化作用が不十分で相対密度が95%未満となり好ましくなく、10wt%超では窒化ケイ素質焼結体の第2のミクロ組織成分である熱伝導率の低い粒界相の量が過剰となり焼結体の熱伝導率が100W/(m・K)未満になる。これら酸化物含有量の合計は0.6〜6wt%がより好ましい。尚且つ、(RExOy)/(MgO)>1であることが望ましく、この場合に特に高強度・高熱伝導性が向上する。これについては後述するが、希土類酸化物(RExOy)のイオン半径が酸化マグネシウム(MgO)のイオン半径より大きく、窒化ケイ素粒子内に固溶するよりも析出した方が安定となることが新に知見されたことによる。また、本発明の窒化ケイ素質焼結体は、常温における熱伝導率が100〜300W/(m・K)であり、常温における3点曲げ強度が600〜1500MPaであり高強度・高熱伝導性に富んでいる。
また、本発明の窒化ケイ素質焼結体の製造方法は、β分率が30〜100%であり、酸素含有量が0.5wt%以下であり、平均粒子径が0.2〜10μmであり、アスペクト比が10以下である第一の窒化ケイ素質粉末1〜50重量部と、平均粒子径が0.2〜4μmの第ニのα型窒化ケイ素粉末99〜50重量部と、Mgと、Y及び希土類元素(RE)からなる群から選ばれた少なくとも1種の元素とを含む焼結助剤とを配合し、1800℃以上の温度及び0.5MPa以上の窒素加圧雰囲気にて焼結することを特徴とする。ここで、前記焼結工程において、昇温時1400℃〜1600℃の温度で1〜10時間にわたる保持工程を少なくとも1回有し、かつこの保持温度から前記焼結温度までの昇温速度を5.0℃/min以下とすることが好ましく、さらに好ましくは2.5℃/min以下である。
前記窒化ケイ素質粉末のβ分率が30%未満では成長核としての効果はあるものの部分的に核として作用するため、異常粒成長が起こり、最終的に得られる窒化ケイ素質焼結体のミクロ組織中に大きな粒子を均一分散できなくなり曲げ強度が低下する。したがって、窒化ケイ素質粉末のβ分率は30%以上が望ましい。また前記窒化ケイ素質粉末の平均粒子径が0.2μm未満では前記同様に柱状粒子が均一に発達したミクロ組織を呈する窒化ケイ素質焼結体を得られず、熱伝導率および曲げ強度を高めることが困難である。また前記窒化ケイ素質粉末の平均粒子径が10μmより大きいと焼結体の窒化ケイ素質の緻密化が阻害される。したがって、窒化ケイ素質粉末の平均粒子径は0.2〜10μmが好ましい。さらに、アスペクト比が10超の場合は窒化ケイ素質焼結体の緻密化が阻害され、結果として、常温における3点曲げ強度は600MPa未満になる。したがって、窒化ケイ素質粉末のアスペクト比を10以下とすることが好ましい。
前記焼結工程において、昇温時1400℃〜1600℃の温度で1〜10時間にわたる保持工程を入れること、およびこの保持温度から前記焼結温度までの昇温速度を5.0℃/min以下にすることは、焼結体の密度(焼結性)と最終ミクロ組織および窒化ケイ素粒子内への助剤成分および酸素成分の固溶量に影響を与える。すなわち1400℃〜1600℃の温度領域では、助剤成分とSi3N4粉末表面のSiO2成分が反応して液相を形成し、αからβへの相転位が起こり、続いて、粒成長が開始する。この温度領域で保持することにより成長核となるβ粒子の形状を均質化させる効果があり、この後の昇温工程における異常粒成長を抑制することができる。また、助剤成分として、希土類酸化物とともにMg成分を添加する利点は、液相生成温度を低下させ、焼結性を改善できることにある。しかしながら、Mg成分は蒸気圧が高いため、焼結過程において焼結体の内部から表面部へのMg成分の拡散が進行する。このため、内部と表面部との組成差が生じ、とりわけ肉厚品を焼結する場合には両者間で色調差を呈し、さらには焼結体内部の密度ならびに強度が著しく低下するといった難点がある。この点1400℃〜1600℃の温度領域における保持工程を追加することで、この傾向を抑制する効果があり、緻密質かつ高強度の焼結体を得るために望ましい工程である。
次に、この保持温度から焼結温度への昇温速度を5.0℃/min以下とすると、Mg成分の急激な系外への揮発を抑制することができる。特に2.5℃/min以下とすると、最終焼結体中のMg量を制御することが容易となり、とりわけ、薄物シート焼結体に対して、各試料間でのMg量の組成差がなく、しいては、密度、強度等の諸特性において差が無くなり、製品歩留りならびに品質を安定させることができる。このため、焼結体中に気孔を生成させることなく、低熱伝導の粒界相を効率よく低減することができ、焼結体の熱伝導率向上に寄与する。また、溶解・再析出を繰り返す粒成長過程で、窒化ケイ素粒子内に取り込まれる助剤成分量ならびに酸素量を低減することができ、この効果も焼結体の熱伝導率向上に繋がる。したがって、昇温時の工程で保持すること、かつ保持温度から焼結温度までの昇温速度を5.0℃/min以下にすることは、焼結体の熱伝導率および強度を両立させるために望ましい工程である。
また、予め1650〜1850℃の焼結温度で成形体を予備焼成し、次いで1850〜1900℃の熱処理を行うと高熱伝導化が顕著になり120W/(m・K)を超える窒化ケイ素質焼結体を得られ特に好ましい。この熱処理による高熱伝導化は窒化ケイ粒子の成長と、蒸気圧の高いMgO基とした粒界相成分が効率よく窒化ケイ素質焼結体外へ揮発することの複合効果による。尚、1850℃〜1950℃の焼成温度にて、焼成時間を延長することで、上記同様の高熱伝導化の効果が達成できる。
以上の通り、本発明の窒化ケイ素質焼結体は、窒化ケイ素粒子内にMgあるいはY、La、Gd、Yb等の希土類元素の内の少なくとも1種の元素と、酸素元素とを含む粒径100nm以下の微細粒子の存在により、本来有する高強度/高靭性に加えて高い熱伝導率を具備したものとなる。これは、高温・高圧焼結といったコストの高い焼成法、焼成装置を必要とせずに製造することが出来る。また、これを半導体素子用基板として用いた場合に半導体素子の作動に伴う繰り返しの熱サイクルによって基板にクラックが発生することが少なく、耐熱衝撃性ならびに耐熱サイクル性を著しく向上することができる。
以下、本発明の実施形態について説明する。本発明の窒化ケイ素質焼結体において、高温熱処理および焼成時間の延長により焼結体の熱伝導率は向上するが、これは、窒化ケイ素粒子の粒成長および焼結助剤成分の揮発による複合効果に加えて、窒化ケイ素粒子内に微細粒子が析出することが窒化ケイ素粒子自身の熱伝導率の上昇に影響を与えている。したがって、100W/(m・K)以上の熱伝導率を得るためには、窒化ケイ素粒子内の微細粒子析出効果は有効である。更に、強度と熱伝導率を両立するためには、破壊の起点として作用する窒化ケイ素粒子の寸法を一定にし、この粒子内の高純度化作用を適用することが肝要である。
焼結助剤としてはMgおよびYは有用であり、窒化ケイ素質原料粉末の緻密化に有効である。これらの元素は窒化ケイ素質焼結体を構成する第1ミクロ組織成分である窒化ケイ素質粒子に対する固溶度が小さいので、窒化ケイ素粒子、ひいては窒化ケイ素質焼結体の熱伝導率を高い水準に保つことができる。また、Yと同様に窒化ケイ素質粒子に対する固溶度が小さく、焼結助剤として有用な元素として、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、YbおよびLuの群から選択される少なくとも1種の希土類元素が挙げられる。そのうち、温度および圧力が高くなり過ぎずに焼成ができる点でLa、Ce、Gd、DyおよびYbの群から選択される少なくとも1種の希土類元素が好ましい。前記、微細粒子は、イオン半径の大きい元素が主で構成されており、焼結助剤として添加するMgを酸化マグネシウム(MgO)換算し、また含有するLa、Y、GdおよびYbを含む希土類元素(RE)から選択される少なくとも1種の元素を酸化物(RExOy)換算した場合、RExOy/MgO>1である場合に、微細粒子が析出し易くなる。換言すれば焼結助剤として添加するMgO量が多い場合にこの微細粒子が析出し難たくなる。
この理由は、前述の様にこの微細粒子は、助剤成分とSi、OおよびNから構成されるが、Mg元素のイオン半径(Mg2+)半径:0.07nmは、窒化ケイ素(Si3N4)を構成するSi元素のイオン半径:0.04nmに比較的近く、酸素と共に窒化ケイ素粒子内に固溶する形態が安定である。一方、希土類元素酸化物(RExOy)量が多い場合には、Yb以上の希土類元素のイオン半径(REx+)は、0.09nmでありSi元素のイオン半径:0.04nmの2倍以上であり、またMg元素のイオン半径(Mg2+)半径:0.07nmと比較して大きく、窒化ケイ素粒子内に固溶するよりも析出した形が安定となる。したがって、微細粒子を析出させるためには、焼結体の緻密化が達成できる範囲においては、希土類元素酸化物(RExOy)基であることが望ましい。ここで、微細粒子の粒子径が100nm超となると、それに伴い、窒化ケイ素粒子内に析出する100nm超の微細粒子の数が著しく増加する。微細粒子は、Si−N−O−Mg−REからなるガラス相で構成されており、これ自身の熱伝導率は低い。このため、100nm超の微細粒子の存在が多くなると、逆に目的とする窒化ケイ素粒子自身の熱伝導率向上が達成できない。したがって、微細粒子は粒径100nm以下に制御することが肝要である。
窒化ケイ素焼結体の熱伝導率は、ミクロ組織と密接な関係にあり、これらを構成する窒化ケイ素粒子と粒界相の熱伝導率に支配される。後者は、主にガラス相として存在し、それらの熱伝導率は高々3W/(m・K)程度である。また、所定の熱処理あるいは、焼結後の冷却速度を緩やかにすることで粒界ガラス相を結晶化させた場合でも30W/(m・K)程度である。前者の熱伝導率は、理論値でAlNの319W/(m・K)に近い300W/(m・K)と推定されており、また実測値でも180W/(m・K)が得られている。したがって、焼結体の高熱伝導化は、窒化ケイ素粒子自身の熱伝導率が多く関与している。ここで、窒化ケイ素粒子自身の熱伝導率を低下させる阻害要因として、粒内転位ならびに固溶元素がある。これらの阻害要因は、熱媒体であるフォノンの散乱を引き起こし熱伝達を著しく低減させる。このため、窒化ケイ素粒子の熱伝導率向上のため、しいては焼結体の熱伝導率向上のためには、これらの阻害因子を抑制することが肝要である。これら阻害要因のうち、粒内の固溶元素は焼結過程における液相生成段階でSi、Nおよび助剤成分からなるSi−N−O−Mg−REを生成し、更に粒成長段階で比較的小さな粒子がこの液相に溶解して、続いてSi、Nが大きな粒子の表面に再析出して粒成長が進行する。この際にSi、Nに混じってMg、REの助剤成分および酸素(O)も粒子表面に取り込まれる。上述した様に、元素のイオン半径が小さい程、この傾向は大きくなる。
よって、焼結後の最終のミクロ組織を構成する窒化ケイ素粒子内には、極微量の助剤成分および酸素が微細粒子に存在する。この固溶元素は例えばMg、Y、La、Gd、Yb等の希土類元素であり、これらを粒子内に微細に析出させれば、微細粒子の周りは高純度化され、粒子自身の熱伝導率は上昇する。このような固溶元素の存在が本発明の特徴的な点であり、これにより焼結体の高熱伝導化が達成できる。固溶元素の析出は上記した保持過程を含む焼結や焼結時間の延長また熱処理にて調整できる。しかしながら、焼結後の窒化ケイ素粒子内に固溶元素量が多い場合には、微細粒子析出による粒子の高純度化作用は起こらないため、適切な焼結助剤の選定ならびに焼結方法の適用が肝要である。
次に、窒化ケイ素焼結体の製造方法において、β分率が30〜100%の第一の窒化ケイ素質粉末と第二のα型窒化ケイ素質粉末との比率は1〜50wt%:99〜50wt%が好ましい。前記β分率が30〜100%の窒化ケイ素質粉末の比率が1wt%未満では成長核としての効果はあるものの、添加量が少ないために作用する成長核の数が少なく、異常粒成長が起こりミクロ組織中に大きな粒子を均一分散できなくなり、曲げ強度が低下する。また、50wt%超では成長核の数が多くなり、粒成長の過程で、粒子同士が互いに衝突するため成長阻害が起こり、強度は維持できるが、発達した柱状粒子からなる窒化ケイ素質焼結体のミクロ組織を得られず、従来に比べて高い熱伝導率を実現困難になる。前記窒化ケイ素質粉末の酸素量を0.5wt%以下としたのは、前記窒化ケイ素質粉末を成長核として作用させて窒化ケイ素質焼結体を形成する場合、窒化ケイ素質焼結体を構成する窒化ケイ素質粒子内に固溶する酸素量は、成長核として用いる窒化ケイ素質粉末の酸素量に強く依存し、この窒化ケイ素質粉末の酸素量が高いほど窒化ケイ素質粒子内に固溶する酸素量が高くなる。そして窒化ケイ素質粒子中に含有される酸素により熱伝導媒体であるフォノンの散乱が発生し、窒化ケイ素質焼結体の熱伝導率が低下する。100W/(m・K)以上という従来の窒化ケイ素質焼結体では得られなかった高い熱伝導率を発現するには、窒化ケイ素質粉末の含有酸素量を0.5wt%以下に抑えて、最終的に得られる窒化ケイ素質焼結体の酸素量を低減することが必要不可欠である。
窒化ケイ素質粉末中のFe含有量およびAl含有量がそれぞれ100ppm超では窒化ケイ素粒子内にFeまたはAlが顕著に固溶し、この固溶部分で熱伝導媒体であるフォノンの散乱を生じ、窒化ケイ素質焼結体の熱伝導率を低下させる。したがって100W/(m・K)以上の熱伝導率を得るには窒化ケイ素質粉末中のFe含有量およびAl含有量をそれぞれ100ppm以下に制御することが肝要である。
本発明の窒化ケイ素質焼結体からなる基板は高強度、高靭性ならびに高熱伝導率の特性を生かして、パワ−半導体用基板またはマルチチップモジュ−ル用基板などの各種基板、あるいはペルチェ素子用熱伝板、または各種発熱素子用ヒ−トシンクなどの電子部品用部材に好適である。例えば窒化ケイ素質焼結体を半導体素子用基板として用いた場合、半導体素子の作動に伴う繰り返しの熱サイクルを受けたときの基板のクラックの発生が抑えられ、耐熱衝撃性ならびに耐熱サイクル性が著しく向上し、信頼性に優れたものとなる。また、高出力化および高集積化を指向する半導体素子を搭載した場合でも、熱抵抗特性の劣化が少なく、優れた放熱特性を発揮する。さらに、優れた機械的特性により本来の基板材料としての機能だけでなく、それ自体が構造部材を兼ねることができるため、基板ユニット自体の構造を簡略化できる。
また、あるいは本発明の窒化ケイ素質焼結体をペルチェ素子用熱伝板として用いた場合、ペルチェ素子の印加電圧の極性の入れ替えに伴う繰り返し熱サイクルを受けたときの前記基板のクラックの発生が抑えられ、耐熱サイクル性が著しく向上し、信頼性に優れたものとなる。また、ゼーベック素子熱伝板として用いる場合、吸熱側では600℃前後の高温になるため、ここでも耐熱サイクル性かつ耐熱衝撃性が要求されるが、これに本発明の窒化ケイ素質焼結体を用いた場合には、これらの寿命特性が大幅に向上し、信頼性の優れたものとなる。
また、本発明の窒化ケイ素質焼結体は、上述の電子部品用部材以外に熱衝撃および熱疲労の耐熱抵抗特性が要求される材料に幅広く利用できる。構造用部材として、各種の熱交換器部品や熱機関用部品、アルミニウムや亜鉛等の金属溶解の分野で用いられるヒーターチューブ、ストークス、ダイカストスリーブ、溶湯攪拌用プロペラ、ラドル、あるいは熱電対保護管等に適用できる。また、アルミニウム、亜鉛等の溶融金属めっきラインで用いられるシンクロール、サポートロール、軸受、あるいは軸等に適用することにより、急激な加熱や冷却に対して耐割れ性に富んだ部材となり得る。また、鉄鋼あるいは非鉄の加工分野では、圧延ロール、スキーズロール、ガイドローラ、線引きダイス、あるいは工具用チップ等に用いれば、被加工物との接触時の放熱性が良好なため、耐熱疲労性および耐熱衝撃性を改善することができ、これにより摩耗が少なく、熱応力割れを生じにくくできる。
さらに、スパッタターゲット部材にも適用でき、例えば磁気記録装置のMRヘッド、GMRヘッド、またはTMRヘッドなどに用いられる電気絶縁膜の形成や、熱転写プリンターのサーマルヘッドなどに用いられる耐摩耗性皮膜の形成に好適である。スパッタして得られる被膜は、本質的に高熱伝導特性を持つとともに、スパッタレートも十分高くでき、被膜の電気的絶縁耐圧が高いものとなる。このため、このスパッタターゲットで形成したMRヘッド、GMRヘッド、またはTMRヘッド用の電気絶縁性被膜は高熱伝導ならびに高耐電圧の特性を有するので、素子の高発熱密度化や絶縁性被膜の薄膜化が図れる。また、このスパッタターゲットで形成したサ−マルヘッド用の耐摩耗性被膜は、窒化ケイ素本来の特性により耐摩耗性が良好であることはもとより、高熱伝導性のため熱抵抗が小さくできるので印字速度を高めることができる。
以下、実施例により本発明を説明するが、それら実施例により本発明が限定されるものではない。
(実施例1)
β化率が30%以上の第一の窒化ケイ素質粉末1〜50wt%と、平均粒径が0.7〜1.2μm、酸素量が0.5〜2.0wt%のα型の第二の窒化ケイ素質粉末を、1.0wt%または2.0wt%のMgOと、3wt%または6.0wt%のGd2O3あるいは表1に示す焼結助剤を添加した混合粉末を作製した。なお、第ニの窒化ケイ素粉末の割合は、第一の窒化ケイ素粉末と焼結助剤粉末のバランスとした。さらに2wt%の分散剤(商品名:レオガードGP)を配合し、エタノールを満たしたボ−ルミル容器中に投入し、次いで混合した。得られた混合物を真空乾燥し、次いで目開き150μmの篩を通して造粒した。次に、プレス機により直径20mm×厚さ10mmおよび直径100mm×厚さ15mmのディスク状の成形体を圧力3tonのCIP成形により得た。次いで1850℃〜1950℃、0.7〜0.9MPa(7〜9気圧)の窒素ガス雰囲気中で5〜40時間焼成した。なお、焼結工程において、昇温時1400℃〜1600℃の温度で1〜10時間にわたる保持工程を設け、かつこの保持温度から前記焼結温度までの昇温速度を5.0℃/min以下にした。個々の試料の製造条件は表1の試料No.1〜15の欄に示す。
また、得られた窒化ケイ素質焼結体の窒化ケイ素粒子内の微細粒子の観察は、透過型電子顕微鏡(日立製作所製HF2000)にて観察倍率×10000倍から600000倍で行った。更に、微細粒子の組成分析は付属のエネルギー分散型分析装置にて評価した。図1〜図4は、本発明の窒化ケイ素焼結体(表1中のNo.1からNo.4の試料)のTEM観察像の写真である。また、図5は比較例のTEM観察像(表1中のNo.31の試料)の写真である。図6〜図9は、微細粒子の高分解能観察像(表1中のNo.1からNo.4の試料)の写真、図10(表1中のNo.1試料)及び図11(表1中のNo.2試料)は、微細粒子の核および周辺部のSTEM観察像の写真である。
次に得られた窒化ケイ素質焼結体から、直径10mm×厚さ3mmの熱伝導率および密度測定用の試験片、ならびに縦3mm×横4mm×長さ40mmの曲げ試験片を採取した。密度はマイクロメ−タにより寸法を測定し、また重量を測定し、算出した。熱伝導率はレーザーフラッシュ法により常温での比熱および熱拡散率を測定し熱伝導率を算出した。3点曲げ強度は常温にてJIS R1601に準拠して測定を行った。以上の製造条件の概略および評価結果を、表1および表2の試料No.1〜15に示す。
(比較例1)
表1記載の試料No.31〜42の製造条件とした以外は実施例1と同様にして評価した。以上の製造条件の概略および評価結果を、表1および表2の試料No.31〜42に示す。
表1および表2に示したように、窒化ケイ素粒子内に微細粒子が認めれた焼結体については、いずれも100W/(m・K)以上の熱伝導率と600MPa以上の曲げ強度が得られた。しかも微細粒子の存在割合が増すほど熱伝導率が向上する傾向が確認できた。微細粒子が認められた焼結体について用いた焼結助剤成分のRExOy/MgO比は1以上であった。一方、窒化ケイ素粒子内に微細粒子が認められない焼結体については、いずれも100W/(m・K)未満の熱伝導率となった。これに加えて、試料No.37〜42については、焼結工程において昇温時1400℃〜1600℃の温度で保持しない場合、あるいはこの保持温度から焼結温度までの昇温速度を5.0℃/min超とした場合には、熱伝導率および強度ともに著しく低下した。
図1〜図5のTEM観察像、図6〜図9の微細粒子の高分解能電子顕微鏡(HREM)観察像及び図10、図11の微細粒子の核および周辺部のSTEM観察像について考察する。図1〜図4に、焼結助剤としてGd2O3(図1)、Yb2O3(図2)、Y2O3(図3)およびLa2O3(図4)を用いた本発明例の透過型電子顕微鏡(TEM)像を示す。また、図5に比較例のTEM観察像を示す。図1〜図4より、いずれにおいても窒化ケイ素粒子内に微細粒子が存在する。図1では右下部に8〜45nmの範囲で点在、図2では中央右部に10〜60nmの範囲で点在、図3では中央左右部に8〜60nmの範囲で点在、図4では右上部に4〜85nmの範囲で点在していることが分かり、これらの微細粒子の粒径はいずれも100nm以下であった。一方、図5の比較例については、この様な微細粒子は観察されなかった。なお、別の観察視野においても確認されなかった。ここで、微細粒子の粒子径が100nm超となると、それに伴い、窒化ケイ素粒子内に析出する100nm超の微細粒子の数が著しく増加し、所望の窒化ケイ素粒子自身の熱伝導率向上に寄与しない。
次に図6〜図9に、焼結助剤としてGd2O3(図6)、Yb2O3(図7)、Y2O3(図8)およびLa2O3(図9)を用いた本発明例の高分解能観察(HREM)像を示す。図6〜図9はそれぞれ図1〜図4で観察された微細粒子についての観察像である。図6〜図9から、窒化ケイ素粒子内に析出する微細粒子は、ランダムな格子像および電子回折像がガラス相特有のハローパターンを示したことから非晶質相からなることが判明した。更に、図7のHREM像においては、組成の異なる核7と周辺部8からなることを確認した。TEM−EDX分析の結果から、核はシリコン成分濃度が高く、Mg濃度とRE(本発明ではYbが該当)濃度とが低く、また周辺部の組成は、これと逆の評価結果であった。なお、HREM像においては極微小領域を長時間観察した場合には、電子線によるダメージのため核と周辺部を分離して観察することは困難であるが、このHREM像は微細粒子の構成要素の分離、さらに組成の定量化まで言及できた点で非常に優れている。図10および図11は、焼結助剤としてGd2O3(図10)およびYb2O3(図11)を用いた本発明例の走査透過型電子顕微鏡(STEM)像を示す。これらの図は、それぞれ、図1および図2にて観察された微細粒子についてのSTEM像である。STEM像は、ナノレベルの微小領域を観察する場合、特に、組成や成分量の僅かな差を画像コントラストとして表現するのに有効な観察方法である。図10および図11に示した様に、個々の微細粒子は、核と周辺部から構成されることが確認でき、核はシリコン成分濃度が高く、かつMg濃度とRE(本発明ではGd、Ybが該当)濃度とが低く、一方、周辺部はこれとは逆の組成であることが判明した。
(実施例2)
β化率が30%以上、酸素含有量が0.5wt%以下、平均粒子径が1μm〜10μm、アスペクト比が10以下の第一の窒化ケイ素質粉末を1〜50wt%と平均粒径が0.7〜1.2μm、酸素量が0.5〜2.0wt%のα型の第二の窒化ケイ素質粉末に1wt%のMgO、3wt%Gd2O3の焼結助剤を添加した混合粉末を作製した。次いで、アミン系の分散剤を2wt%添加したトルエン・ブタノール溶液を満たしたボールミルの樹脂製ポット中に作製した混合粉末および粉砕媒体の窒化ケイ素製ボールを投入し、48時間湿式混合した。次いで、前記ポット中の混合粉末100重量部に対しポリビニル系の有機バインダーを15重量部および可塑剤(ジメチルフタレ−ト)を5重量部添加し、次いで48時間湿式混合しシート成形用スラリーを得た。この成形用スラリーを調整後、ドクターブレード法によりグリーンシート成形した。次いで、成形したグリーンシートを空気中400〜600℃で2〜5時間加熱することにより、予め添加し有機バインダー成分を十分に脱脂(除去)した。次いで脱脂体を0.9MPa(9気圧)の窒素雰囲気中で1900℃×10時間の焼成を行い、その後室温に冷却した。焼結工程においては、昇温時1400℃〜1600℃の温度で1〜10時間にわたる保持工程を設け、かつこの保持温度から前記焼結温度までの昇温速度を2.0℃/minとした。得られた窒化ケイ素質焼結体シートに機械加工を施し縦50mm×横50mm×厚さ0.6mmの半導体モジュール用の基板を製造した。
この窒化ケイ素質焼結体製基板を用いて図12に示す回路基板を作製した。図12において、回路基板11は作製した前記縦50mm×横50mm×厚さ0.6mmの寸法の窒化ケイ素質焼結体製基板12の表面に銅製回路板13を設け、前記基板12の裏面に銅板14をろう材15により接合して構成されている。この回路基板11に対し、3点曲げ強度の評価および耐熱サイクル試験を行った。その結果、曲げ強度が600MPa以上と大きく、回路基板11の実装工程における締め付け割れおよびはんだ付け工程時の熱応力に起因するクラックの発生する頻度がほぼ見られなくなり、回路基板を使用した半導体装置の製造歩留まりを大幅に改善できることが実証された。また、耐熱サイクル試験は、−40℃での冷却を20分、室温での保持を10分および180℃における加熱を20分とする昇温/降温サイクルを1サイクルとし、これを繰り返し付与し、基板部にクラック等が発生するまでのサイクル数を測定した。その結果、1000サイクル経過後においても窒化ケイ素質焼結体製基板12の割れや銅製回路板13の剥離はなく、優れた耐久性と信頼性を兼備することが確認された。また、1000サイクル経過後においても耐電圧特性の低下は発生しなかった。
最後に実施例1および2で用いたβ分率が30%以上の窒化ケイ素粉末について述べておく、含有酸素量がSiO2換算で2.0wt%未満、平均粒子径0.2〜2.0μmのイミド分解法による窒化ケイ素質粉末をBN製るつぼに充填し、次いで常圧〜1.0MPa(10気圧)のN2雰囲気中にて1400℃〜1950℃で1〜20時間加熱する熱処理を施し、次いで室温まで冷却した。得られた窒化ケイ素質粉末のβ分率は90〜100%であり、酸素含有量は0.2〜0.4wt%であった。図13に得られた窒化ケイ素質粉末例のSEM観察像を示す。当該粉末のβ分率は100%、酸素量は0.2wt%、FeおよびAl量はそれぞれ、50ppmおよび40ppmであった。当該粉末には粒子の長軸方向と平行に溝部が形成されており、これは気相を介して粒成長が起こる場合の特徴で、特に酸素量が微量であるほど顕著となる。得られた窒化ケイ素質粉末のFe、Alの不純物分析はプラズマ発光分析(ICP)法により行った。また、酸素含有量は赤外線加熱吸収法により測定した。
また得られた窒化ケイ素質粉末のβ分率はCu―Kα線を用いたX線回折強度比から式(1)により求めた。
β分率(%)={(Iβ(101)+Iβ(210))/(Iβ(101)+Iβ(210)+Iα(102)+Iα(210))}×100 (1)
Iβ(101) :β型Si3N4の(101)面回折ピーク強度、
Iβ(210) :β型Si3N4の(210)面回折ピーク強度、
Iα(102) :α型Si3N4の(102)面回折ピーク強度、
Iα(210) :α型Si3N4の(210)面回折ピーク強度。
また、得られた窒化ケイ素質粉末の平均粒子径および平均アスペクト比は、SEM観察にて観察倍率×2000倍で得られたSEM写真を用い、200μm×500μm視野面積内にある計500個の窒化ケイ素質粒子を無作為に選定して画像解析装置により最小径と最大径を測定し、その平均値を求めて評価した。得られた窒化ケイ素質粉末は、β分率が30%以上、平均粒子径が0.5〜10μm、アスペクト比が10以下、FeおよびAlの含有量が、いずれも100ppm以下、また、酸素含有量は、0.5wt%以下であった。
本発明例の希土類酸化物にGd2O3を用いた場合の窒化ケイ焼結体の透過型電子顕微鏡(TEM)観察写真を示す。
本発明例の希土類酸化物にYb2O3を用いた場合の窒化ケイ焼結体の透過型電子顕微鏡(TEM)観察写真を示す。
本発明例の希土類酸化物にY2O3を用いた場合の窒化ケイ焼結体の透過型電子顕微鏡(TEM)観察写真を示す。
本発明例の希土類酸化物にLa2O3を用いた場合の窒化ケイ焼結体の透過型電子顕微鏡(TEM)観察写真を示す。
比較例の窒化ケイ焼結体の透過型電子顕微鏡(TEM)観察写真を示す。
本発明例の希土類酸化物にGd2O3を用いた場合の窒化ケイ焼結体において、窒化ケイ素粒子内に析出した微細粒子の高分解能観察写真(HREM)を示す。
本発明例の希土類酸化物にYb2O3を用いた場合の窒化ケイ焼結体において、窒化ケイ素粒子内に析出した微細粒子の高分解能観察写真(HREM)を示す。
本発明例の希土類酸化物にY2O3を用いた場合の窒化ケイ焼結体において、窒化ケイ素粒子内に析出した微細粒子の高分解能観察写真(HREM)を示す。
本発明例の希土類酸化物にLa2O3を用いた場合の窒化ケイ焼結体において、窒化ケイ素粒子内に析出した微細粒子の高分解能観察写真(HREM)を示す。
本発明例の希土類酸化物にGd2O3を用いた場合の窒化ケイ焼結体において、窒化ケイ素粒子内に析出した微細粒子の走査型透過電子顕微鏡写真(STEM)を示す。
本発明例の希土類酸化物にYb2O3を用いた場合の窒化ケイ焼結体において、窒化ケイ素粒子内に析出した微細粒子の走査型透過電子顕微鏡写真(STEM)を示す。
本発明例の窒化ケイ素質焼結体を用いた回路基板の要部断面図を示す。
本発明例の窒化ケイ素焼結体の製造に用いた窒化ケイ素質粉末のSEM観察像写真を示す。
符号の説明
11:回路基板
12:基板
13:銅製回路板
14:銅板
15:ろう材