JP4517983B2 - 高周波焼入れ後の疲労特性に優れた鋼材およびその製造方法 - Google Patents
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Description
他方、近年、環境問題から自動車用部材に対する軽量化への要求が強く、この観点から自動車用部材の疲労強度の一層の向上が要求されている。
例えば、ねじり疲労強度を向上させるためには、高周波焼入れによる焼入れ深さを増加させることが考えられる。しかしながら、焼入れ深さを増加してもある深さで疲労強度は飽和する。
また、ねじり疲労強度の向上には、粒界強度の向上も有効であり、この観点から、TiCを分散させることによって旧オーステナイト粒径を微細化する技術が提案されている(例えば特許文献1参照のこと)。
また、上記の特許文献1に開示された技術をもってしても、近年のねじり疲労強度に対する要求には十分に応えられないところにも問題を残していた。
しかしながら、この部品では、焼入れ硬化層の全厚にわたる旧オーステナイト粒径に考慮が払われていないため、やはり近年のねじり疲労強度に対する要求には十分に応えることができなかった。
その結果、以下に述べるように、鋼の化学組成、組織、焼入れ条件および焼入れ後の硬化層全厚にわたる旧オーステナイト粒径を最適化することにより、優れたねじり疲労強度が得られるとの知見を得た。
本発明は、上記の知見に立脚するものである。
1.C:0.35〜0.7 mass%、
Si:0.30〜1.1 mass%、
Mn:0.2 〜2.0 mass%、
Al:0.25mass%以下、
Ti:0.005 〜0.1 mass%、
Mo:0.05〜0.6 mass%、
B:0.0003〜0.006 mass%、
S:0.06mass%以下、
P:0.02mass%以下および
Cr:0.2 mass%以下
を、Ti(mass%)/N(mass%)≧3.42の下に含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になり、母材組織が、ベイナイト組織および/またはマルテンサイト組織を有し、かつこれらベイナイト組織とマルテンサイト組織の合計の組織分率が10%以上であることを特徴とする、高周波焼入れ後の疲労特性に優れた鋼材。
Cu:1.0 mass%以下、
Ni:3.5 mass%以下、
Co:1.0 mass%以下、
Nb:0.1 mass%以下および
V:0.5 mass%以下
のうちから選んだ1種または2種以上を含有する組成になることを特徴とする、高周波焼入れ後の疲労特性に優れた鋼材。
Si:0.30〜1.1 mass%、
Mn:0.2 〜2.0 mass%、
Al:0.25mass%以下、
Ti:0.005 〜0.1 mass%、
Mo:0.05〜0.6 mass%、
B:0.0003〜0.006 mass%、
S:0.06mass%以下、
P:0.02mass%以下および
Cr:0.2 mass%以下
を、Ti(mass%)/N(mass%)≧3.42の下に含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になる鋼素材を、900℃超〜1150℃の温度範囲で熱間加工し、その後0.2 ℃/s以上の速度で冷却することを特徴とする、高周波焼入れ後の疲労特性に優れた鋼材の製造方法。
Cu:1.0 mass%以下、
Ni:3.5 mass%以下、
Co:1.0 mass%以下、
Nb:0.1 mass%以下および
V:0.5 mass%以下
のうちから選んだ1種または2種以上を含有する組成になることを特徴とする、高周波焼入れ後の疲労特性に優れた鋼材の製造方法。
まず、本発明において、鋼材および鋼素材の成分組成を上記の範囲に限定した理由について説明する。
C:0.35〜0.7 mass%
Cは、焼入れ性への影響が最も大きい元素であり、焼入れ硬化層の硬さおよび深さを高めて疲労強度の向上に有効に寄与する。しかしながら、含有量が0.35mass%に満たないと必要とされる疲労強度を確保するためには焼入れ硬化深さを飛躍的に高めねばならず、その際焼割れの発生が顕著となり、またベイナイト組織も生成し難くなるため、0.35mass%以上を添加する。一方、0.7 mass%を超えて含有させると粒界強度が低下し、それに伴い疲労強度も低下し、また切削性、冷間鍛造性および耐焼き割れ性も低下する。このためCは、0.35〜0.7 mass%の範囲に限定した。好ましくは 0.4〜0.6 mass%の範囲である。
Siは、焼入れ加熱時にオーステナイトの核生成サイト数を増加させると共に、オーステナイトの粒成長を抑制し、焼入れ硬化層の粒径を微細化する作用を有する。また、炭化物生成を抑制し、炭化物による粒界強度の低下を抑制する。さらに、ベイナイト組織の生成にも有用な元素であり、これらのことにより疲労強度を向上させる。
このように、Siは、本発明において非常に重要な元素であり、0.30mass%以上の含有を必須とする。というのは、Si量が0.30mass%に満たないと、製造条件および焼入れ条件をいかように調整しても硬化層全厚にわたって旧オーステナイト粒径が12μm 以下の微細粒とすることができないからである。しかしながら、Si量が 1.1mass%を超えると、フェライトの固溶硬化により硬さが上昇し、切削性および冷間鍛造性の低下を招く。従って、Siは、0.30〜1.1 mass%の範囲に限定した。好ましくは0.40〜1.0 mass%の範囲である。
Mnは、焼入れ性を向上させ、焼入れ時の硬化深さを確保する上で不可欠の成分であるため、積極的に添加するが、含有量が 0.2mass%未満ではその添加効果に乏しいので、0.2mass%以上とした。好ましくは 0.3mass%以上である。一方、Mn量が 2.0mass%を超えると焼入れ後の残留オーステナイトが増加し、かえって表面硬度が低下し、ひいては疲労強度の低下を招くので、Mnは 2.0mass%以下とした。なお、Mnは含有量が多いと、母材の硬質化を招き、被削性に不利となるきらいがあるので、1.2 mass%以下とするのが好適である。さらに好ましくは 1.0mass%以下である。
Alは、脱酸に有効な元素である。また、焼入れ加熱時におけるオーステナイト粒成長を抑制することによって焼入れ硬化層の粒径を微細化する上でも有用な元素であり、好ましくは0.005mass%以上で添加する。一方、0.25mass%を超えて含有させてもその効果は飽和し、むしろ成分コストの上昇を招く不利が生じるので、Alは0.25mass%以下の範囲に限定した。好ましくは0.10mass%以下の範囲である。
Tiは、不可避的不純物として混入するNと結合することで、BがBNとなってBの焼入れ性向上効果が消失するのを防止し、Bの焼入れ性向上効果を十分に発揮させる作用を有する。この効果を得るためには、少なくとも 0.005mass%の含有を必要とするが、0.1 mass%を超えて含有されるとTiNが多量に形成される結果、これが疲労破壊の起点となって疲労強度の著しい低下を招くので、Tiは 0.005〜0.1 mass%の範囲に限定した。好ましくは0.01〜0.07mass%の範囲である。さらに、Nを確実に固定して、Bによる焼入れ性向上により、ベイナイトとマルテンサイト組織を得る観点からは、Ti(mass%)/N(mass%)≧3.42を満足させることが好適である。
Moは、ベイナイト組織の生成を促進することにより、焼入れ加熱時のオーステナイト粒径を微細化し、焼入れ硬化層の粒径を細粒化する作用がある。また、焼入れ加熱時におけるオーステナイトの粒成長を抑制することにより、焼入れ硬化層の粒径を微細化する作用がある。特にこの効果は、高周波焼入れ時の加熱温度を 800〜1000℃より好ましくは 800〜950 ℃とすることにより、一層顕著となる。さらに、焼入れ性の向上に有用な元素であるため、焼入れ性を調整するために用いられる。加えて、Moは、炭化物の生成を抑制し、炭化物による粒界強度の低下を有効に阻止する元素でもある。
このように、Moは、本発明において非常に重要な元素であり、含有量が0.05mass%に満たないと、製造条件や焼入れ条件をいかように調整しても硬化層全厚にわたって旧オーステナイト粒径が12μm 以下の微細粒とすることができない。しかしながら、 0.6mass%を超えて含有させると、圧延材の硬さが著しく上昇し、加工性の低下を招く。従って、Moは0.05〜0.6 mass%の範囲に限定した。好ましくは 0.1〜0.6 mass%の範囲である。さらに好ましくは 0.3〜0.4 mass%の範囲である。
Bは、ベイナイト組織あるいはマルテンサイト組織の生成を促進する効果を有する。またBは、微量の添加によって焼入れ性を向上させ、焼入れ時の焼入れ深さを高めることによりねじり強度を向上させる効果もある。さらにBは、粒界に優先的に偏析して、粒界に偏析するPの濃度を低減し、粒界強度を向上させ、もって疲労強度を向上させる作用もある。
このため、本発明では、Bを積極的に添加するが、含有量が0.0003mass%に満たないとその添加効果に乏しく、一方 0.006mass%を超えて含有させるとその効果は飽和し、むしろ成分コストの上昇を招くため、Bは0.0003〜0.006 mass%の範囲に限定した。好ましくは0.0005〜0.004 mass%の範囲である。さらに好ましくは0.0015〜0.003 mass%の範囲である。
Sは、鋼中でMnSを形成し、切削性を向上させる有用元素であるが、0.06mass%を超えて含有させると粒界に偏析して粒界強度を低下させるため、Sは0.06mass%以下に制限した。好ましくは0.04mass%以下である。
Pは、オーステナイトの粒界に偏析し、粒界強度を低下させることにより、疲労強度を低下させる。また、焼割れを助長する弊害もある。従って、Pの含有は極力低減することが望ましいが、0.020 mass%までは許容される。
Crは、炭化物を安定化させて残留炭化物の生成を助長し、粒界強度を低下させて疲労強度を劣化させる。従って、Crの含有は極力低減することが望ましいが、0.2 mass%までは許容できる。好ましくは0.05mass%以下である。
Cu:1.0 mass%以下
Cuは、焼入れ性の向上に有効であり、またフェライト中に固溶し、この固溶強化によって、疲労強度を向上させる。さらに、炭化物の生成を抑制することにより、炭化物による粒界強度の低下を抑制し、疲労強度を向上させる。しかしながら、含有量が1.0 mass%を超えると熱間加工時に割れが発生するため、1.0 mass%以下の添加とする。なお好ましくは0.5 mass%以下である。
Niは、焼入れ性を向上させる元素であるので、焼入れ性を調整する場合に用いる。また、炭化物の生成を抑制し、炭化物による粒界強度の低下を抑制して、疲労強度を向上させる元素でもある。しかしながら、Niは極めて高価な元素であり、3.5 mass%を超えて添加すると鋼材のコストが上昇するので、3.5 mass%以下の添加とする。なお、0.05mass%未満の添加では焼入れ性の向上効果および粒界強度の低下抑制効果が小さいので、0.05mass%以上含有させることが望ましい。好ましくは 0.1〜1.0 mass%である。
Coは、炭化物の生成を抑制して、炭化物による粒界強度の低下を抑制し、強度および疲労強度を向上させる元素である。しかしながら、Coは極めて高価な元素であり、1.0 mass%を超えて添加すると鋼材のコストが上昇するので、1.0 mass%以下の添加とする。なお、0.01mass%未満の添加では、粒界強度の低下抑制効果が小さいので、0.01mass%以上添加することが望ましい。好ましくは0.02〜0.5 mass%である。
Nbは、焼入れ性の向上効果があるだけでなく、鋼中でC, Nと結合し析出強化元素として作用する。また、焼もどし軟化抵抗性を向上させる元素でもあり、これらの効果によって疲労強度を向上させる。しかしながら、0.1 mass%を超えて含有させてもその効果は飽和するので、0.1 mass%を上限とする。なお、0.005 %未満の添加では、析出強化作用および焼もどし軟化抵抗性の向上効果が小さいため、0.005 mass%以上添加することが望ましい。好ましくは0.01〜0.05mass%である。
Vは、鋼中でC, Nと結合し析出強化元素として作用する。また、焼もどし軟化抵抗性を向上させる元素でもあり、これらの効果により疲労強度を向上させる。しかしながら、0.5 mass%を超えて含有させてもその効果は飽和するので、0.5 mass%以下とする。なお、0.01mass%未満の添加では、疲労強度の向上効果が小さいので、0.01mass%以上添加することが望ましい。好ましくは0.03〜0.3 mass%である。
すなわち、本発明においては、母材の組織、すなわち焼入れ前の組織(高周波焼入れ後の硬化層以外の組織に相当)が、ベイナイト組織および/またはマルテンサイト組織を有し、かつこれらベイナイト組織とマルテンサイト組織の合計の組織分率を体積分率( vol%)で10%以上とする必要がある。この理由は、ベイナイト組織あるいはマルテンサイト組織は、フェライト−パーライト組織に比べて炭化物が微細に分散した組織であるため、焼入れ加熱時にオーステナイトの核生成サイトである、フェライト/炭化物界面の面積が増加し、生成したオーステナイトが微細化するため、焼入れ硬化層の粒径を微細化するのに有効に寄与するからである。そして、焼入れ硬化層の粒径の微細化により、粒界強度が上昇し、疲労強度が向上する。
ここに、ベイナイト組織とマルテンサイト組織の合計の組織分率は20 vol%以上とすることがより好ましい。
また、ベイナイト組織とマルテンサイト組織の合計の組織分率の上限は90 vol%程度とするのが好適である。というのは、これらの合計の組織分率が90vol %を超えると焼入れによる硬化層の旧オーステナイト粒の微細化効果が飽和するだけでなく、被削性が急激に劣化するからである。
同図に示したとおり、ベイナイト組織とマルテンサイト組織は、微細化による高強度化の面ではほぼ同等であったが、被削性(硬さ)の面ではベイナイト組織の方が優れていた。特にベイナイト組織分率が25〜85%の範囲では、高強度化と被削性の両者をバランス良く得ることができた。特に好ましいベイナイト組織分率は30〜70%の範囲である。
高周波焼入れ後の本発明の鋼材では、高周波焼入れした部分の鋼材最表層は面積率で 100%のマルテンサイト組織を有する。そして、表面から内部にいくに従い、ある深さまでは 100%マルテンサイト組織の領域が続くが、ある深さから急激にマルテンサイト組織の面積率が減少する。
本発明では、高周波焼入れした部分について、鋼材表面から、マルテンサイト組織の面積率が98%に減少するまでの深さ領域を硬化層と定義する。
そして、この硬化層について、表面から硬化層厚の 1/5位置、1/2 位置および4/5 位置それぞれの位置における平均旧オーステナイト粒径を測定し、いずれの平均旧オーステナイト粒径も12μm 以下である場合に、焼入れ硬化層の全厚にわたる旧オーステナイト粒径が12μm 以下であるとする。
なお、平均旧オーステナイト粒径の測定は、光学顕微鏡により、400 倍(1視野の面積:0.25mm×0.225 mm)から1000倍(1視野の面積:0.10mm×0.09mm)で、各位置毎に5視野観察し、画像解析装置により平均粒径を測定することにより行う。
所定の成分組成に調整した鋼材を、棒鋼圧延または熱間鍛造後、必要に応じて冷間圧延、冷間鍛造または切削加工を施したのち、高周波焼入れを施して、製品とする。
本発明では、母材組織を、上述したベイナイト組織および/またはマルテンサイト組織を有し、かつこれらベイナイト組織とマルテンサイト組織の合計の組織分率が10 vol%以上の組織とするために、高周波焼入れを施す前の素材鋼材については、圧延・鍛造等の熱間加工により所定の形状に加工したのち、0.2 ℃/s以上の速度で冷却する必要がある。というのは、冷却速度が0.2 ℃/s未満の場合には、ベイナイトあるいはマルテンサイト組織が得られ難くなり、これら組織の合計の組織分率が10 vol%に達しない場合が生じるからである。熱間加工後の冷却速度の好適範囲は 0.3〜30℃/sである。
なお、熱間加工は 900℃超〜1150℃の温度範囲で行うことが好ましい。900 ℃以下では、必要なベイナイト組織および/またはマルテンサイト組織が得られず、一方1150℃超では加熱コストが大きくなるため、経済的に不利となるからである。
同図に示したとおり、Mo添加鋼およびMo無添加鋼いずれにおいても、高周波焼入れ時の加熱温度を低下させることで硬化層の旧オーステナイト粒径を小さくできるが、Mo添加鋼においては、加熱温度を1000℃以下好ましくは 950℃以下とすることにより、特に顕著に硬化層粒径の微細化が達成される。
なお、高周波焼入れを複数回繰り返す場合、少なくとも最終の高周波焼入れによる焼入れ深さは、それ以前の高周波焼入れによる焼入れ深さと同等またはそれ以上とすることが好ましい。というのは、硬化層の結晶粒径は、最後の高周波焼入れに一番強く影響されるので、最後の高周波焼入れによる焼入れ深さが、それ以前の高周波焼入れによる焼入れ深さよりも小さいと、硬化層全厚にわたる平均結晶粒径がむしろ大きくなり、かえって疲労強度が低下する傾向にあるからである。
さらに、高周波焼入れ時の加熱速度および上記加熱時間で保持した後の降温速度が大きいと、オーステナイトの粒成長が生じ易くなるので、高周波焼入れ時の加熱速度および加熱保持後の降温速度は 200℃/s以上とすることが好ましい。より好ましくは 500℃/s以上である。
ついで、この棒鋼から、平行部:20mmφ、応力集中係数α=1.5 の切欠を有するねじり試験片を作成し、このねじり試験片に、周波数:15 kHzの高周波焼入れ装置を用いて、加熱速度は 800℃/s、加熱保持後の降温速度は1000℃/sとして、表2に示す加熱温度、保持時間で焼入れを行った後、加熱炉を用いて 170℃×30分の条件で焼もどしを行い、その後ねじり疲労試験を行った。
ねじり疲労試験は、最大トルク:4900 N・m (= 500 kgf・m )のねじり疲労試験機を用いて、両振りで応力条件を変えて行い、1×105 回の寿命となる応力を疲労強度として評価した。
得られた結果を表2に併記する。
表2には、これらの結果も併記する。
ここで、硬化層厚みについては、前述したように、鋼材表面からマルテンサイト組織の面積率が98%に減少する深さまでとした。また、高周波焼入れを複数回実施したものについては、それぞれの焼入れ後の硬化層厚みを測定した。さらに、硬化層粒径については、表面から硬化層厚の 1/5位置、1/2 位置および4/5 位置それぞれの位置における平均旧オーステナイト粒径を測定し、それらの最大値を示した。なお、硬化層粒径の測定は、硬化層の厚さ方向に切断した断面について、水:500 gに対しピクリン酸:50gを溶解させたピクリン酸水溶液に、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム:11g、塩化第1鉄:1gおよびシュウ酸:1.5 gを添加したものを腐食液として作用させ、旧オーステナイト粒界を現出させて行った。また、高周波焼入れを複数回実施したものについては、最終焼入れ後の平均旧オーステナイト粒径を測定した。
なお、表2中のNo.1と2あるいはNo.4と5を比較すると、焼入れ回数を1回から2回に増やすことで、硬化層の粒径が微細化し、ねじり疲労強度がさらに上昇することが分かる。
また、No.8, No.36, No.37を比較すると、焼入れ回数を1回から2回に増やした場合において、2回目の焼入れ深さの方が浅い場合(No.36)には、1回しか施さなかった場合よりもねじり疲労強度はむしろ低下するのに対し、2回目の焼入れ深さを深くした場合(No.37)には、1回しか施さなかった場合に比べてねじり疲労強度は大幅に向上した。No.37では、硬化層厚方向で、表面から硬化層厚の 4/5位置で最も旧オーステナイト粒径が大きく、3.5 μm であったが、表層近傍(表面から硬化層厚の 1/5位置)では旧オーステナイト粒径は 2.6μm であり、表層の粒径が微細化していることが、疲労強度の向上に寄与したものと考えられる。
No.38〜47は、Al量がより好ましい範囲(0.05〜0.1 mass%)にあるものであるが、これらはいずれも粒径がより細かくなり、疲労強度も向上している。
No.24 は、硬化層粒径は微細であるものの、C含有量が本発明の範囲より高いため、粒界強度の低下を招き、そのためねじり疲労強度が劣っている。
No,25, 26, 27 は、それぞれC, Si, Moの含有量が本発明の適正範囲よりも低いため、硬化層粒径が粗大となり、ねじり疲労強度が劣っている。
No.28 はB含有量が低く、またNo.29 はMn含有量が、No.30 はSおよびP含有量が、No.31 はCr含有量が、それぞれ本発明の適正範囲を超えているため、いずれも粒界強度の低下を招き、ねじり疲労強度が劣っている。
No.32 は、Ti含有量が本発明の適正範囲を超えているため、ねじり疲労強度が劣っており、逆にNo.35 はTi含有量が低いため、硬化層粒径が粗大となり、ねじり疲労強度が劣っている。
No.52〜54は、Moを含有しない鋼の場合であるが、それぞれNo.6, 4, 3との比較から明らかなように、加熱温度が1000℃以下でMoによる細粒化効果が顕著になることが分かる。
Claims (4)
- C:0.35〜0.7 mass%、
Si:0.30〜1.1 mass%、
Mn:0.2 〜2.0 mass%、
Al:0.25mass%以下、
Ti:0.005 〜0.1 mass%、
Mo:0.05〜0.6 mass%、
B:0.0003〜0.006 mass%、
S:0.06mass%以下、
P:0.02mass%以下および
Cr:0.2 mass%以下
を、Ti(mass%)/N(mass%)≧3.42の下に含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になり、母材組織が、ベイナイト組織および/またはマルテンサイト組織を有し、かつこれらベイナイト組織とマルテンサイト組織の合計の組織分率が10%以上であることを特徴とする、高周波焼入れ後の疲労特性に優れた鋼材。 - 請求項1において、前記鋼材が、さらに
Cu:1.0 mass%以下、
Ni:3.5 mass%以下、
Co:1.0 mass%以下、
Nb:0.1 mass%以下および
V:0.5 mass%以下
のうちから選んだ1種または2種以上を含有する組成になることを特徴とする、高周波焼入れ後の疲労特性に優れた鋼材。 - C:0.35〜0.7 mass%、
Si:0.30〜1.1 mass%、
Mn:0.2 〜2.0 mass%、
Al: 0.25mass以下%、
Ti:0.005 〜0.1 mass%、
Mo:0.05〜0.6 mass%、
B:0.0003〜0.006 mass%、
S:0.06mass%以下、
P:0.02mass%以下および
Cr:0.2 mass%以下
を、Ti(mass%)/N(mass%)≧3.42の下に含有し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になる鋼素材を、900℃超〜1150℃の温度範囲で熱間加工し、その後0.2 ℃/s以上の速度で冷却することを特徴とする、高周波焼入れ後の疲労特性に優れた鋼材の製造方法。 - 請求項3において、前記鋼素材が、さらに
Cu:1.0 mass%以下、
Ni:3.5 mass%以下、
Co:1.0 mass%以下、
Nb:0.1 mass%以下および
V:0.5 mass%以下
のうちから選んだ1種または2種以上を含有する組成になることを特徴とする、高周波焼入れ後の疲労特性に優れた鋼材の製造方法。
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