JP4517483B2 - 複合強化繊維基材およびプリフォーム - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、繊維強化複合材料として優れた特性を発揮する複合強化繊維基材並びにその基材を用い三次元賦形に優れたプリフォームに関する。
【0002】
【従来の技術】
炭素繊維をはじめとする高強度、高弾性率の強化繊維からなる繊維強化プラスチック(以下FRPと呼称)は、機械的性質に優れていることから、航空機の構造材料として多用されている。
【0003】
FRPは繊維配向方向の機械的性質に極めて優れるが、繊維軸から外れると機械的特性が急激に低下する、すなわち大きな異方性があるから、航空機の構造材料などは薄いプリプレグを多数枚積層し、FRPの面方向には機械的特性が疑似等方性になるように積層され使用されることが多い。
【0004】
しかし、このようなFRP板に厚さ方向に衝撃が加わると、各層の機械的特性は大きな異方性があるから、衝撃によってFRPの層間にクラックが発生し、層間が剥離して衝撃を受けたFRP板の圧縮強度が大幅に低下させることが知られている。
【0005】
この対策として、たとえばプリプレグの表面に熱可塑性粒子を付着させ、成形した積層体の層間に粒子を配し、衝撃力によるクラックの伝播エネルギーを粒子を破壊させることによって吸収し、層間剥離の面積を小さくすることが行われている。この対策により衝撃を受けたFRP板の残存圧縮強度が大幅に改善され、大型民間航空機の一次構造材料として実用化されることになった。
【0006】
しかしながら、この方法は下記のようにFRP構造材料の製造コストが高くなる。
【0007】
A.粒子系が小さく、粒子系が均一な熱可塑性粒子を製造するコストが高い。
【0008】
B.これらの粒子をプリプレグの樹脂表面に均一に付着させるため、プリプレグの加工速度が遅くなったり、また、Bステージ状態のマトリックス樹脂に粒子が分散した樹脂フィルムを作製するなどの別の新たな工程が必要となる。
【0009】
C.プリプレグの製造および成形条件によっては粒子はプリプレグやプリプレグの樹脂を硬化した後のFRPの層内に入り、正確に所定の粒子を層間に配置させるのは困難である。
【0010】
D.プリプレグを使用してのオートクレーブ成形は、タックのあるプリプレグを使うから、プリプレグとプリプレグの間の空気を脱法しながらの積層が必要であり、また、所定の構造材の厚みにするには薄いプリプレグを何層も積層することが必要となり手間がかかる。
【0011】
原油の価格低迷もあり軽量化はさほどの経済効果が得られず、航空機メーカからFRP構造材料の製造コストダウンが強く要望されている。
【0012】
一方、最近成形型のキャビティに強化繊維基材の積層体を充填し、樹脂を注入するレジン・トランスファー・モールディング(RTM)成形法が低コスト成形法として注目されている。しかし、この方法では積層体の層間に熱可塑性粒子を正確に配置することはできない。また樹脂のみの改善では耐衝撃性に優れる高靭性なFRPとすることは困難である。また、単に強化繊維基材を積み重ねたのでは、各層の基材がずれ、取り扱いが困難であるばかりか繊維配向が乱れ、所定の機械的特性を有するFRPを得ることは困難である。
【0013】
また、特開平8−134757号公報では、平織や繻子織などの織布とニードルパンチやスパンボンド、メルトブロー法などで作られた50〜200g/m2目付の不織布をニードルパンチなどの方法で絡合一体化させた複合布からなる補強材によって層間剥離強度をはじめ曲げ強度や圧縮強度などの機械的特性のバランスに優れた成型物に提供し得る繊維補強材などが提案されている。しかしながら、これらの形態では、不織布の目付が大きいためにFRPにおける強化繊維以外の繊維量が大きくなり、強度や弾性率といった機械的性質が低下するので好ましくない。
【0014】
また、ニードルパンチやスパンボンド、メルトブロー法などで得られる不織布の繊維は通常ランダムに配向しており、これらのランダムに配向した不織布と織物基材を接着やニードルパンチなどの方法によって一体化した基材をRTM成型などで使用する型に賦形する場合、織物はその型に剪断変形によって賦形されるが、一体化させたランダムに繊維配向した不織布では、繊維が不規則な方向に多数配されているため、ある方向に繊維が延びようとしても周りの異なる方向に配した繊維が邪魔をして伸縮の自由度が小さくなり、ヘルメットなどの深絞りの賦形では織物基材の剪断変形に追従することができなく皺が発生したり、不織布が基材から剥がれやすくなるなど根本的な解決には到っていない。
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、この様な現状に着目し、賦形性に優れて、成形されたときに耐衝撃性に優れる複合強化繊維基材を提供することにある。また、前記の複合強化繊維基材を使用して、繊維配向が乱れず、ハンドリング性および成形されたときに耐衝撃性に優れるプリフォームを提供することにある。
【0016】
【課題を解決するための手段】
本発明の目的は、強化繊維織物と、熱可塑性繊維を一方向に配向させた不織布とが積層され、かつ、該強化繊維織物のたて糸方向またはよこ糸のいずれかの方向に該不織布の繊維配向方向が平行になるように積層されていることを特徴とする複合強化繊維基材によって達成される。
【0017】
また本発明の目的は、該複合強化繊維基材を、強化繊維織物と不織布とが交互になるように複数枚積層したプリフォームによって達成される。
【0018】
【発明の実施の形態】
本発明の複合強化繊維基材1の斜視図を図1に示した。
【0019】
強化繊維織物2(以下織物と呼称する)と一方向配向不織布3(以下不織布と呼称する)が、織物2の繊維方向に沿って積層一体化されたものである。
【0020】
また、図2は図1の断面図を示したもので、不織布3の繊維が織物2に貫通して一体化している様子を示したものである。不織布3を構成する短繊維5が不織布の内面で絡み合い、また、織物の強化繊維層の途中まで貫通した短繊維5からなっている。また、強化繊維層を完全に貫通した繊維の方向が反転した繊維が再び貫通している状態であってもよい。
【0021】
本発明に用いる強化繊維としては、ガラス繊維、アラミド繊維、炭素繊維などの高強度・高弾性率の強化繊維である。なかでも、引張弾性率が200GPa以上、引張強度が4.5GPa以上の炭素繊維は高強度・高弾性率であるのみならず、耐衝撃性にも優れる。また、強化繊維糸条の太さとしては、550デシテックスから23,000デシテックスの範囲が好ましい。
【0022】
また、強化繊維糸条は扁平な強化繊維マルチフィラメントが好ましい。扁平な織糸からなる織物は、織糸の繊度を大きくしても、各織糸の交錯部におけるクリンプが極めて小さく抑えられ、FRPやCFRPにした際に高い強度特性が得られる。強化繊維糸条が550デシテックスから23,000デシテックスの場合、糸幅が4〜30mm、糸厚みが0.1〜1.0mmの範囲の扁平な強化繊維糸条が好ましい。
【0023】
また、本発明に用いる強化繊維織物は、平織、綾織、繻子織などの二方向織物が適用できる。
【0024】
次に本発明の複合強化繊維基材を構成する不織布を説明する。複合強化繊維基材を成形型に添わせる、すなわちフィットさせる場合、型の曲面部で強化繊維や不織布の繊維の位置が部分的にずれたり、強化繊維の交錯角度が変化する。したがって、複合強化繊維基材には変形に対する自由度が必要であり、たとえば紙やフィルムなどは変形に対する自由度が無く、曲面部に添わせると必ず皺が発生する。また、不織布においてもメルトブロー法やスパンボンド法などで得られる連続繊維不織布や、カード法で得られる短繊維不織布の場合でも、高目付で交絡度が大きい変形に対する自由度が小さい不織布では、曲面部に添わせると皺が発生する。基材に皺が入ると皺部で強化繊維が折れ曲がるので、FRPにすると皺部が弱くなり、破壊の起点となるので好ましくない。
【0025】
通常、強化繊維からなる二方向織物が剪断変形によって交錯角度が変化するに必要な力はさほど大きいものでなく、2N程度の伸張によって変形する。例えば、東レ製のT300−3K織物(平織組織)の場合、2Nの伸張によって約20%剪断方向に繊維が移動し、それ以上の荷重で伸張させてもたて糸とよこ糸の交錯点がロックし交錯角度は変化しない。また、東レ製のT700−12K織物(平織組織)においても同様に2N程度の伸張によって40%程度剪断方向に繊維が移動する。すなわち、複合強化繊維基材を構成する不織布は、強化繊維の剪断変形によって強化繊維が移動するのに必要な力、つまり2N程度の小さな荷重で同じ方向に同じ量だけ移動できるものでなければ一体化した不織布が剥がれたり、余分な力を加えることによって成形型にフィットしなくなったり基材に皺を発生させたりすることになる。
【0026】
このような観点から、不織布は一方向に繊維が配向した不織布である必要がある。
【0027】
一方向に繊維が配向した不織布を、不織布の繊維配向方向が強化繊維織物のたて糸方向かよこ糸方向のいずれか一方に平行になるように配置して積層一体化させると、強化繊維基材が剪断変形によって強化繊維織物の交錯角度が変化し強化繊維が移動したときに強化繊維は平行に隣接する強化繊維の平行移動によって変形、移動するので、一方向不織布のたて方向の繊維は強化繊維とおおむね同じように平行に移動するので、基材に皺を発生させることなく成形型にフィットさせることができる。不織布のたて方向の伸度は強化繊維の伸度と同程度の小さなものであってもよい。ここで平行になるように配置するとは、上記の効果を奏する程度に平行であれば良く、強化繊維織物のたて糸方向またはよこ糸方向と不織布の繊維配向方向が−10度から+10度の範囲にあることが好ましい。
【0028】
また、強化繊維の平行移動によって変形、移動した変位量は、不織布のヨコ方向の伸度が高いものであれば吸収することができ、例えば平織組織の強化繊維織物の場合、剪断変形による最大変位量は、織物ピッチの約40%程度であることから、不織布の剪断方向の伸度が40%以上あれば織物基材の剪断変形に対して不織布を追従させることが可能となる。しかし、不織布の剪断方向の伸度とは、不織布のたて方向とよこ方向の伸度が合成された方向であり、たて方向またはよこ方向のいずれかの伸度が40%以上あればよいというものではなく、あくまで剪断方向に40%以上の伸度が2N以下の力で伸長した時に得られるものでなければならない。
【0029】
一方向に繊維が配向した不織布としては、2N荷重時の不織布の伸度が、不織布のたて方向伸張時の伸度とよこ方向の伸張時の伸度の比が下式を満足するものが好ましい。
【0030】
Lb/La≧15
La(%):2N荷重時のたて方向の不織布の伸度
Lb(%):2N荷重時のよこ方向の不織布の伸度
Lb/Laが15以上であると強化繊維の剪断変形によって強化繊維の交錯角度が変化し強化繊維が移動した時に一体化された不織布の繊維は剥がれたり皺になったりすることなく強化繊維の移動に対して追従することが可能となる。一方、Lb/Laが15未満になると一体化した不織布が、強化繊維の剪断変形によって強化繊維が移動した場合に追従できず基材から剥がれたりする場合がある。
【0031】
なお、上式のLb/Laの測定方法は、不織布のたて方向とよこ方向について幅4cm、長さ14cmなるようにそれぞれ5枚ずつ裁断し、引張試験を行った。この時、裁断した不織布の試長が10cmになるように上下チャック共2cmチャックにはさんで固定し、3cm/minの引張速度で引張試験を行い、測定後チャートから、荷重が2Nの時の変位量と伸度を求め、各5枚のLaとLbを単純平均してLb/Laを求めた。
【0032】
図3は、深絞りした型に本発明の複合強化繊維基材シートを賦形させた模式図を示したものであり、一方向に配向させた不織布の繊維が、強化繊維と同じ方向に移動し、直交方向の繊維がわずかに移動するのみで賦形することが可能となる様子を示したものである。
【0033】
また、本発明の不織布は、不織布と織物基材との一体化を、不織布を形成する繊維が基材を形成する強化繊維層を貫通することによって行うという観点からも、繊維は短繊維となっていることが好ましい。繊維長は、通常は20〜120mmで、僅かな繊維量でより強化繊維と交絡数を多くするために繊維の端部数が多くなるようにするため20〜70mmがより好ましい。同様に繊維径もわずかな繊維量でより強化繊維層を貫通する繊維本数を多くするために0.005〜0.03mmが好ましい。
【0034】
また、繊維を一方向に配向させた不織布であって同時に一体化した基材を容易に他数枚積層させるという意味で、不織布を形成する繊維が低融点繊維とブレンドしたもの、または芯鞘糸の鞘部が低融点成分からなる繊維をブレンドまたは単体で使用したもが好ましい。
【0035】
この不織布はカード法などにより短繊維をブレンドし、ウエブ形成段階で一方向(長さ方向)に繊維を引き揃え、熱風で熱融着させて作ることができる。従って、不織布繊維の結節にも低融点繊維をブレンドすることは有効で、熱融着によらない他の、ニードルパンチや空気や水などの流体による機械的結節方法によって繊維を絡めて結節したものに比べ、結節力を保持することが容易であるし、また低目付な不織布を形成するためには、熱風で熱融着させた不織布が好ましい。
【0036】
これらの不織布の目付は5〜30g/m2程度の低目付なものが好ましい。この範囲の下限値未満であると、FRP基材層間のインターリーフとしての不織布の繊維量が少なくなり、十分な耐衝撃性向上が得られない。また、この範囲の上限値を越えるとFRPにおける強化繊維以外の繊維量が大きくなり、強度や弾性率といった機械的特性が低下するので好ましくない。
【0037】
また、不織布を構成する繊維は、低融点繊維とのブレンドまたは芯鞘糸の鞘部が低融点成分から成る芯鞘繊維が好ましい。繊維を形成するポリマーには、ポリアミド、ビニロン、ビニリデン、ポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリオレフィン、ポリウレタン、アクリル、ポリアラミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリエーテルイミド、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサドール、ポリベンゾビスオキサゾール、ポリグリルアミド、PBT、PVA、PBI、PPSなどが使用できる。
【0038】
なかでも結晶性の高いナイロン6、ナイロン66等の有機繊維と低融点の共重合ナイロン繊維とのポリアミド系繊維のブレンドや芯部にナイロン6またはナイロン66、鞘部に低融点の共重合ナイロンを用いた芯鞘繊維が好ましい。特にナイロン6やナイロン66は衝撃によりFRPの層間にクラックが発生しても、有機繊維の損傷によって衝撃エネルギーが吸収されてクラックの進展を抑え、僅かな繊維量で大きな耐衝撃性向上効果が得られ、また、汎用的なポリマーなので不織布が安価となり好ましい。
【0039】
不織布を構成する繊維に低融点繊維をブレンドする場合、ブレンドする他の繊維より融点の低いものであればよいが、例えば共重合ナイロン、変性ポリエステルやビニロンなどが使用でき、融点が不織布を形成する他の繊維より低く60〜160℃程度のものが好ましい。
【0040】
また、不織布を構成する繊維が芯鞘型繊維の場合、芯部のポリマーの融点は200〜300℃が好ましく、鞘部を構成する低融点ポリマーは、融点が芯部を構成するポリマーより低ければよく、融点が60〜160℃程度のものが好ましい。なかでも、鞘部が共重合ナイロンで芯部がナイロン6またはナイロン66の組み合わせは、同種のポリマーであるから芯部と鞘部がよく接着する。また、芯部と鞘部のポリマーの融点差は50℃以上が好ましい。この範囲の下限値を下回ると芯部のポリマーと鞘部のポリマーとの温度差が小さくなり、鞘部のポリマーを溶融する際、芯部のポリマーまで溶融されることがあり、また、芯部の分子配向が乱れ芯部のポリマーによる耐衝撃性改善効果が小さくなるからである。
【0041】
前記芯鞘型繊維において芯部の占める割合が、繊維断面積の30〜70%の範囲が好ましい。芯部の割合が30%未満であると、衝撃エネルギーを吸収するポリマー成分が少なくなりFRPの耐衝撃性を向上させる効果が小さくなる。また、所定の衝撃エネルギーを吸収させるには不織布の繊維量を大きくすることが必要になり、FRPに占める強化繊維の割合が少なくなり、FRPの機械的特性が低下する。一方、70%を越えると鞘部の低融点ポリマーの量が少なくなり、単体で不織布を形成させた場合に基材との接着が不十分となる。
【0042】
また、不織布を形成する繊維に低融点の熱可塑性ポリマーが含まれることによって、型に沿わせながら複合強化基材を賦形し、その上に複合強化繊維基材を賦形しながら積層し、これを低融点繊維の融点以上に加熱、加圧させて接着しながらプリフォームを形成することが簡単にできるし、かつその他の繊維を耐衝撃性を高めるためのインターリーフとして作用させることができるので好ましい。
【0043】
低融点繊維をブレンドする場合、不織布における低融点繊維の割合は、あまり少ないと不織布を形成する際の繊維同士の結合を弱めたり、プリフォームを形成させるときの接着が不十分となり、また、多いとインターリーフとして作用が損なわれたりするので20〜70重量%が好ましく、より好ましくは40〜60重量%である。
【0044】
次に、本発明の複合強化繊維基材における不織布と基材との一体化状態について説明する。不織布を形成する繊維が基材を形成する強化繊維層を貫通することによって基材と接合されることによって、フィット性に優れる不織布が基材のドレープ性を阻害するようなことはなく、好ましい。かかる効果を発現させるためには、前記貫通は1〜100パンチ/cm2であることが好ましく、2〜50パンチ/cm2であることがより好ましく、5から20パンチ/cm2であることがさらに好ましい。
【0045】
不織布を形成する繊維を強化繊維に貫通させるには、たとえば不織布を基材の上に置き、ニードルパンチや、ウオータージェット、エアジェットなどの流体によるパンチングなどの機械的接結法によって行うことができる。中でもニードルパンチによるパンチングが低目付の不織布を確実に強化繊維に貫通させることができ好ましく用いられる。
【0046】
なお、強化繊維と不織布の一体化は、成形準備のため複合強化繊維基材を裁断したり、ハンドリングする際、基材と不織布が剥がれない程よく、繊維の絡み度合いを強くする必要はない。
【0047】
また、本発明における不織布は、成形の際、複合強化繊維基材の積層体の層方向への樹脂の含浸性を確保する観点からポーラスな状態であることが必要であり、不織布を形成する繊維によって覆われない、すなわち繊維が存在しない空隙部の占める割合が不織布全体の面積の30%〜95%の範囲が好ましい。30%未満であると樹脂含浸速度が遅くなり、常温硬化型の樹脂を使用した場合、樹脂が全体に行き渡らない状態で樹脂の硬化が始まるので好ましくない。また、95%を越えると不織布の繊維量が少なくなり、本発明の目的とするFRPの耐衝撃性向上効果が小さくなってしまう。より好ましくは、40%〜80%の範囲である。
【0048】
また、本発明のプリフォームは、本発明の複合強化基材を、強化繊維織物と不織布とが交互になるように複数枚積層したものである。
【0049】
また、本発明のプリフォームは不織布を形成する繊維に含まれる低融点繊維を加熱・加圧し、融着することにより一体化することが好ましい。
【0050】
なお、プリフォームにおける基材の繊維配向は基材同士が同じ方向となるように各層を積層してもよいし、また繊維配向が0°、90°、±45°となるように、FRPにしたときの機械的性質が疑似等方性になるようにするなど、特に限定されるものではない。
【0051】
本発明のプリフォームは型に対するフィット性に優れる複合基材からなるから、プリフォームは型との間に隙間を形成することなく密着した形に充填されるので、FRPにしたとき表面層に樹脂過多層を作ることなく、また型に賦形する際、皺が入らないから、均一に繊維が分散した表面が平滑なFRP成型品を得ることができる。
【0052】
また、本発明の目的である基材の層間に耐衝撃性を高めるための繊維からなるインターリーフ層を簡単に成型され、FRPの耐衝撃性が向上させることができるのである。
【0053】
本発明の複合基材は、従来から知られている方法でFRPを成形することができるが、なかでもレジン・トランスファー成形法や真空バッグ成形法では大型の成型品が安価に製造することができるので、好ましく用いられる。
【0054】
【実施例】
以下に本発明の望ましい実施例について説明する。
実施例1
強化繊維織物として、繊度8000デシテックス、引張強度4800MPa、弾性率230GPa、破断伸度2.1%、フィラメント数12,000本の扁平状の炭素繊維をたて糸およびよこ糸に用い、たて糸およびよこ糸の密度が1.25本/cm、織物目付約200g/m2の炭素繊維織物を得た。
【0055】
次に、繊維径が約0.02mm、繊度が約3.3デシテックス、繊維長が約70mmの融点が260℃の高融点ナイロン短繊維を60重量%と、繊維径が0.016mm、繊度が約2.2デシテックス、繊維長が約70mmの融点が140℃の低融点ナイロンを40重量%の割合でブレンドし、カード機にかけ、一方向に引き揃えた後、熱風を吹き付けて低融点繊維を溶融して一方向に配向させた目付約8g/m2の不織布を得た。
【0056】
得られた不織布についてLb/Laを求めるために、不織布のたて方向とよこ方向について幅4cm、長さ14cmなるようにそれぞれ5枚ずつ裁断し、引張試験を行った。この時、裁断した不織布の試長が10cmになるように上下チャック共2cmチャックにはさんで固定し、3cm/minの引張速度で引張試験を行った。測定後チャートから、荷重が2Nの時の変位量と伸度を求め、各5枚のLaとLbを単純平均してLb/Laを求めた結果、その値は42.8と高い値を示すものであった。
【0057】
上記の炭素繊維織物のたて糸方向と一方向に繊維配向した不織布の繊維が平行になるようにし、炭素繊維織物の上面に不織布を積層した後、フォスター社製のニードル(15×18×40×3.5RB F.20 6−3B/LI/CC)を針密度10本/cm2となるようにセットし、ニードリングして炭素繊維織物と不織布を一体化した複合強化繊維基材を得た。得られた複合強化繊維基材は不織布が剥がれない程度に一体化されており、また、炭素繊維織物の繊維配向をほとんど乱すことなく不織布繊維が貫通しており、また、不織布の配向した繊維が強化繊維織物のたて糸方向と平行になって一体化されたものであった。
【0058】
次に、この複合強化繊維基材を50cm角に裁断し、ヘルメットから型取りした雌型にのせ、その複合強化繊維基材の炭素繊維織物の織糸配向方向が深絞り中心を向く方向に対して斜めの方向となる各々の隅を固定して、その上から雄型を押し付けて賦形させた。
【0059】
以上の方法によって得られたプリフォームは、ヘルメットの型通りで、かつ、皺の発生がなく賦形されたものであった。
【0060】
また、同様にしてもう一枚のプリフォームを作り、できた2枚のプリフォームを繊維配向が45度向きの違うようにして疑似等方にして積層し、雄型と雌型の間に入れ200℃に加熱、加圧して30秒保持したのち型からプリフォームを取りだしたところ、不織布の低融点成分が溶融して二枚のプリフォームを皺の発生もなく融着されたものができた。
【0061】
前記プリフォームを成形型によって熱硬化性ビニルエステル樹脂を含浸させて成形品を得た。得られた成形品は、樹脂が偏在するような部分がなく、表面平滑な成形品が得られた。また、成形品の断面観察においてもボイドはなく均一に樹脂含浸されていた。
【0062】
次に一体化基材のコンポジット特性を評価するために真空バッグ成形で硬化板を作製した。
【0063】
用いた樹脂は3M社製エポキシ樹脂PR500で、110℃に樹脂を加熱して注入し、177℃×4時間で硬化させた。
【0064】
積層方法は、強化繊維基材と不織布が交互となる様に積層し、1枚積層する毎にアイロンで不織布に含まれる低融点ナイロンを溶融させて互いに接着させた。
【0065】
一体化基材がずれたり、皺が発生することなく成形型板上にセットすることができた。
【0066】
繊維体積割合(Vf)評価用の硬化板を、350mm×350mmサイズでカットし、同方向に6枚積層して成形した。ここでVfとは不織布を除く強化繊維の体積割合であり、下式より算出した。
【0067】
Vf(%)=〔(強化繊維の目付×積層枚数)/強化繊維の密度〕/成形品の厚み
ここで、強化繊維の目付は、成形前に使用する強化繊維基材の重量を研精工業株式会社製の化学天秤にて測定して算出した。また、成形品厚みは、成形後の硬化板の端部と中央部合計9カ所を厚みゲージで測定し、その単純平均で求めた。
【0068】
引張試験は、硬化板を幅25.0mm×長さ250mmに切断し、両端にガラスタブを接着して引張試験片とし、JIS K7073に基づき引張試験を行い、破断荷重を測定し、引張強度を求めた。
【0069】
また、衝撃特性であるCAI(落錘衝撃後の圧縮強度)評価用としては、一体化複合基材を350mm×350mmサイズに切断し、織物のたて糸方向を0°、よこ糸方向を90°として、積層構成は(±45°)/(0°、90°)を6回繰り返して12枚積層した上に、(0°、90°)/(±45°)の構成で12枚を対称積層し、それぞれ成形型板上にセットして〔(±45°)/(0°、90°)〕6Sの疑似等方板を得た。
【0070】
かくして得られた平板から101.6mm×152.4mmの試験片を切り出し、ボーイング社試験法BMS7260記載の衝撃圧縮強度(CAI)の測定を行った。なお、この時の落錘衝撃のエネルギーは67J/cmで行った。その結果、CAIは277.2Paと高い値を示し、また、Vfおよび引張強度は58%、1166MPaと本発明の複合強化繊維基材は複合材料用基材として優れていることが判った。
【0071】
実施例2
炭素繊維織物は実施例1と同じものを用いた。不織布としては、鞘部に軟化点110℃のイソフタル酸を共重合したポリエステル、芯部に融点255〜260℃のポリエステルを用い、芯部と鞘部の繊維断面積の割合が50%対50%であり、繊維径が約0.02mm、繊度が約3.9デシテックスの芯鞘糸を作り、該芯鞘糸を繊維長が約70mmになるようにカットした短繊維をカード機にかけ、一方向に引き揃えた後、熱風を吹き付けて鞘部の低融点成分を溶融して一方向に配向させた目付約8g/m2の不織布を得た。
【0072】
得られた不織布のLb/Laは実施例1と同様の方法で測定した結果、38.3と高い数値を示すものであった。
【0073】
上記の炭素繊維織物と不織布を実施例1と同じ条件で一体化した結果、炭素繊維織物の繊維配向をほとんど乱すことなく不織布を貫通しており、実施例1と同様の良好な複合強化繊維基材が得られた。
【0074】
次に、この複合強化繊維基材を50cm角に裁断し、実施例1と同様にヘルメット型にて賦形させた結果、プリフォームは同様に皺の発生のないヘルメット型通りに賦形されていた。
【0075】
また、同様にもう一枚のプリフォームを作り、できた2枚のプリフォームを繊維配向が45度向きの違うようにして疑似等法に積層し、雄型と雌型の間に入れ200℃に加熱、加圧して30秒保持した後に型からプリフォームを取りだしたところ、不織布の低融点成分が溶融して二枚のプリフォームを皺の発生もなく実施例1同様に融着されたものができた。
【0076】
前記プリフォームを成形型によって熱硬化性ビニルエステル樹脂を含浸させて成形品を得た。得られた成形品は、実施例1同様に均一に樹脂含浸されたいた。
【0077】
次に一体化基材のコンポジット特性を評価するために真空バッグ成型で実施例1と同じ条件で硬化板を作製し評価した。CAIの評価結果は、265.8Paと実施例1に比べれば若干低い値であるが、不織布が積層されていない比較例1より高い値であった。また、Vfおよび引張強度は、58%、1158MPaと本発明の複合強化繊維基材は複合材料用基材として優れていることが判った。
【0078】
比較例1
不織布を一体化せず、実施例1と同じ炭素繊維織物のみを用い、実施例1と同様に50cm角に裁断し、ヘルメット型にて賦形させた結果、ヘルメットの型どおりに賦形でき、皺の発生もなかったが、型から取り外すと腰がなく形態を保持することができなかった。
【0079】
また、実施例1と同様にCAIの評価を行った結果、235.1Paと実施例1に比べ低い値を示した。なお、Vfおよび引張強度は60%、1060MPaであった。
【0080】
比較例2
不織布として、融点が260℃の高融点ナイロン100%からなる、目付が48g/m2の高目付スパンボンドタイプのランダム繊維配向の不織布を用い、実施例1と同じ強化繊維基材とニードルパンチを行い一体化した基材を用い、実施例1と同じ方法でヘルメット型に賦形させたが、一体化基材は、不織布自身の伸度が小さいため、一体化の状態では曲面に添わせることができず、無理矢理添わせようとすると、不織布が剥がれ、不織布に皺が発生する問題があった。なお、この不織布のLb/Laの値は実施例と同様の方法で求めた結果、1.7と小さい値であった。
【0081】
また、CAIの値は261.2Paと高い値を示したが、不織布が厚いためにVfが45%と低かったことから、904MPaと低い引張強度であった。
【0082】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の複合強化基材は、成形型に対するフィット性に優れ、皺を発生させず三次元賦形に優れたプリフォームを形成することができる。
【0083】
また、本発明のプリフォームは、耐衝撃性に優れるFRPとなる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の複合強化繊維基材の斜視図
【図2】不織布と基材が繊維の貫通により一体化している状態を示す断面図
【図3】本発明に係わる複合強化繊維基材を立体賦形させた時の模式図の一例
【符号の説明】
1:複合強化繊維基材
2:強化繊維織物
3:一方向配向不織布
4:強化繊維糸条
5:不織布の繊維
Claims (16)
- 強化繊維織物と、熱可塑性繊維を一方向に配向させた不織布とが積層され、かつ、該強化繊維織物のたて糸方向またはよこ糸のいずれかの方向に該不織布の繊維配向方向が平行になるように積層されていることを特徴とする複合強化繊維基材。
- 不織布の繊維が、強化繊維織物に貫通して一体化している請求項1記載の複合強化繊維基材。
- 不織布が、2N荷重時の伸度において、下式を満足する請求項1記載の複合強化繊維基材。
Lb/La≧15
La(%):2N荷重時のたて方向の不織布の伸度
Lb(%):2N荷重時のよこ方向の不織布の伸度 - 不織布を構成する繊維のうち20から70重量%が、融点が60〜160℃の低融点繊維である請求項1記載の複合強化繊維基材。
- 不織布を構成する繊維が、鞘部が芯部より融点の低いポリマーからなる芯鞘型繊維であって、かつ、該芯鞘型繊維の芯部の占める割合が、芯鞘型繊維断面積の30から70%である請求項1記載の複合強化繊維基材。
- 不織布を形成する熱可塑性繊維がポリアミド系繊維である請求項1記載の複合強化繊維基材。
- 不織布が熱融着されて形成された不織布である請求項1記載の複合強化繊維基材。
- 強化繊維が炭素繊維である請求項1記載の複合強化繊維基材。
- 熱可塑性不織布の目付が、5から30g/m2であることを特徴とする特許請求項1記載の複合強化繊維基材。
- 強化繊維織物が、二方向織物である請求項1記載の複合強化繊維基材。
- 該二方向織物において、長さ方向および幅方向の少なくとも一方の強化繊維糸条が、糸幅が4〜30mm、糸厚みが0.1〜1.0mmの範囲にある扁平な強化繊維糸条である請求項10記載の複合強化繊維基材。
- 一体化が、ニードルパンチによってされたものである請求項2記載の複合強化繊維基材。
- 複合強化繊維基材のニードルパンチ密度が5から20パンチ/cm2である請求項12記載の複合強化繊維基材。
- 不織布を形成する繊維が短繊維であって、繊維長が20から120mmである請求項1ないし13のいずれかに記載の複合強化基材。
- 請求項1ないし14のいずれかに記載の複合強化繊維基材を、強化繊維織物と不織布とが交互になるように複数枚積層したプリフォーム。
- 複合強化基材同士が、不織布に含まれる前記融点が60〜160℃の低融点繊維の融着により一体化されている請求項15記載のプリフォーム。
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