JP4517459B2 - 超微細マルテンサイト組織を有する鋼材の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、均一な超微細組織を有した鋼材を工業的規模で安定して製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
鋼の結晶粒を微細化すると、強度、靱性および耐食性等が改善されることはよく知られており、微細組織を得る化学組成、製造プロセスが種々提案されている。
【0003】
結晶粒を微細化する技術の一つとして、フエライトからオーステナイトへの逆変態を利用する方法が知られている。特開平1−184224号公報および「鉄と鋼,vol.73,1987,No.5,S466」には、亜共析鋼をA3変態点以上の温度から焼入れして、焼戻した後、冷間加工を施し、引き続いてこれをA3変態点〜(A3変態点+50℃)の範囲の温度まで加熱し、マルテンサイトをオーステナイトへ逆変態させ、その後急冷することにより、1〜2μmの粒径を持つ超微細オーステナイト結晶粒鋼が得られることが開示されている。
【0004】
しかし、特開平1−184224号公報および上記「鉄と鋼」に記載の発明では、焼戻しマルテンサイトを有する鋼片に対して、加工率が80%もの冷間加工を施す必要があり、実際の製造プロセスにおいてこのような冷間での強加工を採用することは困難である。
【0005】
一方、焼戻しマルテンサイトを温間加工した後、引き続いてこれを850℃に加熱し、逆変態を起こさせることによっても5〜6μm程度の微細オーステナイト粒が得られることが、特開昭61−210120号公報および「鉄と鋼,vol.73,1987,No.5,S467」に開示されている。
【0006】
しかし、前記のような温間加工によって微細粒を得る方法は、確かに実プロセスで採用可能であるが、微細化の効果は冷間加工による方法よりも小さい。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、実製造プロセスで採用できる焼戻しマルテンサイト鋼の温間加工プロセスを導入して、冷間加工を実施した場合と同等、またはそれ以上の微細結晶粒を有する鋼材の製造方法を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、温間加工プロセスであっても、冷間加工プロセスと同程度以上の結晶粒微細化効果を得る加工方法を開発するため鋭意実験、検討をおこなった。その結果、温間加工前に高温に加熱して焼入れ処理を施すのみでは結晶粒の微細化は不十分となるが、温間加工前に適切な加工熱処理を実施すると、大幅に結晶粒が微細化するとの知見を得るに至った。本発明は、このような知見に基づきなされたもので、その要旨は以下の通りである。
【0009】
(1)質量%で、C:0.05〜0.35%、Si:0.05〜2%、Mn:0.1〜2%、Cr:0.1〜1.5%、Mo:0.1〜1%、Ti:0.005〜0.1%、Nb:0.005〜0.1%、sol.Al:0.005〜0.06%を含有し、残部がFeと不純物からなる鋼片を920〜1250℃の範囲内の温度に加熱し、累積加工率30%以上の熱間加工を施してAr3変態点以上の温度で仕上げ、Ar3変態点〜500℃の温度範囲を200℃/分以上の冷却速度で冷却し、引き続き350℃以下の温度まで冷却し、次いで、600℃〜Ac1変態点の範囲内の温度で、1〜60分間再加熱して保持した後、30%以上の加工率で温間加工をおこない空冷し、その後、Ac3変態点〜1000℃の温度範囲で1秒〜30分間再加熱して保持する熱処理によりオーステナイトへ逆変態させた後、焼入れすることを特徴とする超微細組織を有する鋼材の製造方法。
【0010】
(2)質量%で、C:0.05〜0.35%、Si:0.05〜2%、Mn:0.1〜2%、Cr:0.1〜1.5%、Mo:0.1〜1%、Ti:0.005〜0.1%、Nb:0.005〜0.1%、sol.Al:0.005〜0.06%を含有し、さらにV:0.01〜0.15%およびB:0.0005〜0.003%のうちの1種または2種を含み、残部がFeと不純物からなる鋼片を920〜1250℃の範囲内の温度に加熱し、累積加工率30%以上の熱間加工を施してAr3変態点以上の温度で仕上げ、Ar3変態点〜500℃の温度範囲を200℃/分以上の冷却速度で冷却し、引き続き350℃以下の温度まで冷却し、次いで、600℃〜Ac1変態点の範囲内の温度で、1〜60分間再加熱して保持した後、30%以上の加工率で温間加工をおこない空冷し、その後、Ac3変態点〜1000℃の温度範囲で1秒〜30分間再加熱して保持する熱処理によりオーステナイトへ逆変態させた後、焼入れすることを特徴とする超微細組織を有する鋼材の製造方法。
ここで、鋼片とは、鋳造ままあるいは鋼塊を分塊して得られたものをいい、具体的には丸ビレット、角ブルーム、スラブ等である。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明の鋼材の化学組成および製造条件を規定した理由について以下に詳述す。
【0012】
化学組成
C:
Cは、強度および靱性を向上させるのに必要であり、その効果を得るには0.05%以上が必要である。一方、0.35%を超えると高温焼入れにおける焼き割れが生じる。したがって、C含有量は0.05〜0.35%とした。
【0013】
Si:
Siは、脱酸および焼入れ性を向上させ強度を確保するために必要である。その含有量が0.05%未満ではこれらの効果を十分得ることができなく、一方2%を超えると、微細かつ均一に分散していた炭化物が粗大化し、靱性および耐食性を低下させることから、その含有量を0.05〜2%とした。
【0014】
Mn:
Mnは、焼入れ性の向上および結晶粒の微細化に有効である。その含有量が0.1%未満では所望の焼入れ性を確保することができず、一方2%を超えると鋼の清浄性を損ない靱性が低下する。したがって、その含有量を0.1〜2%と定めた。
【0015】
Cr:
Crは、焼入れ性および耐食性を向上させると共に一層結晶粒を微細化する効果がある。これらの効果を得るには0.1%以上含有させる必要があるが、1.5%を超えると焼入れ性が上がりすぎて焼割れが生じるようになり、また靱性が低下するため、1.5%以下とした。
【0016】
sol.Al:
Alは脱酸元素として必要で、sol.Al0.005%未満では十分な脱酸効果が得られなく、一方0.06%を超えると介在物が増加して耐食性が劣化するため、その含有量を0.005〜0.06%とした。
Mo:
Moは、焼入れ性の向上および逆変態時のオーステナイト粒の微細化に有効である。0.1%以上とするのが好ましく、一方1%を超えると鋼の強度は向上するものの靱性が低下することから、その含有量を1%以下とした。
【0017】
TiおよびNb:
Tiは鋼中の不純物元素として含まれるNと結合して、熱間圧延中のオーステナイト粒の微細化とオーステナイト粒の粒成長の抑制、さらには脱酸、脱窒の作用により後述のBの焼入れ性を発揮させるのに有効である。しかし、0.1%を超えると鋼が脆化するため、上限を0.1%以下とした。0.005%以上とし、望ましくは0.01%以上である。
【0018】
Nbは、鋼中のCと結合して、熱間圧延中のオーステナイト粒の微細化とオーステナイト粒の粒成長の抑制、および、逆変態時のオーステナイト粒の微細化に有効である。しかし、0.1%を超えるとその効果が飽和するので、その含有量を0.1%以下と定めた。0.005%以上とするのが好ましい。
【0019】
V:
Vは、必要により含有させるが、含有させると高温焼戻し時の強度向上に有効である。しかし、0.15%を超えると靱性が低下するので、その含有量を0.15%以下と定めた。含有させる場合は0.01%以上とするのが好ましい。
【0020】
B:
Bは、必要により含有させる元素で、含有させると熱間圧延後の冷却途中でのフエライトの生成を抑制し、マルテンサイト組織を得やすくする効果がある。0.003%を超えると靱性を低下させるので、その添加量を0.003%以下とした。含有させる場合は0.0005%以上とするのが好ましい。
【0021】
製造条件
図1は、本発明の製造方法を模式的に示した図である。各製造条件について以下に詳しく説明する。
【0022】
鋼片の加熱温度:
熱間圧延に供する鋼片の加熱は、加熱炉の後段で熱間圧延ができる温度である920℃以上とする。一方、加熱温度が1250℃を超えると、オーステナイト粒の粗大化が顕著になる。従って、加熱温度は920〜1250℃と定めた。
【0023】
加熱保持により鋼片の組織をオーステナイトに変態させる際にオーステナイト粒を細粒化させるためには、Ac3変態点以上でできるだけ低い温度域である920〜1050℃で加熱するのが好ましい。Nbおよび/またはTiの効果を十分に発揮させるには、Nbおよび/またはTiを十分に鋼中に固溶させる必要があり、そのためには少なくとも1100℃以上とするのがよい。
【0024】
熱間加工仕上温度、加工率:
加熱された鋼片は熱間加工されるが、この場合の仕上温度は、加工後の急冷処理によって所定のミクロ組織を得るためにAr3変態点以上としなければならない。前記仕上温度がAr3変態点未満になると、加工中あるいは急冷中にフエライトが生成し、マルテンサイトを主体とするミクロ組織が得られない。したがって、前記仕上温度は、Ar3変態点以上とした。
【0025】
また、熱間加工の加工率は、30%未満では、最終製品の結晶粒微細化が十分できないので30%以上とした。さらに、超微細組織を得る場合は、熱間加工率は70%以上とするのが好ましい。
【0026】
急冷条件:
フエライトとパーライトの生成を避け、マルテンサイトが50体積%以上、好ましくは90体積%以上を占めるマルテンサイトとベイナイトからなる組織を得るために、Ar3変態点〜500℃の温度範域の冷却速度は200℃/分以上とする必要がある。500℃未満の温度域での冷却速度は特に限定されないが、前記マルテンサイト+ベイナイト組織を得るためには350℃以下の温度まで冷却する必要がある。
なお、フェライト体積率は、点算法により求めることができる。すなわち、ミクロ組織を100倍の顕微鏡写真(7.3cm×9.5cm)を5視野撮って4倍に拡大し、5mmピッチで升目を写真に描いて、格子点がフェライト中にあれば1点、マルテンサイト中にあれば0点、フェライトとマルテンサイトの境界にあれば0.5点として全格子について調べて合計点を算出して、その点数を全格子点数で割って求められる。
【0027】
急冷後の再加熱温度:
急冷後の再加熱処理は、前記熱間加工後急冷処理で、マルテンサイト+ベイナイトに変態させた鋼片を実質的に焼戻すプロセスである。Ac1変態点以下の温度に再加熱すればオーステナイトの生成がないので、均一な組織が得られその後の逆変態組織の粒径が微細になる。一方、Ac1変態点を超えるとオーステナイトが生成するようになって、不均一な組織となり、その後の逆変態組織が混粒になる。また、再加熱温度を600℃未満にすると、マルテンサイトの分解が不十分で、次工程の温間加工による変形抵抗が上昇して加工が困難になる。以上のような理由から、再加熱温度を600℃〜Ac1変態点の範囲内と定めた。
【0028】
温間加工:
前記再加熱処理によって、焼戻しマルテンサイト組織にした600〜Ac1変態点間の温度の鋼片に温間加工を施すことにより、鋼片内に加工に伴う歪を導入する。鋼片内に歪みを導入することにより、マルテンサイト組織を構成するラス、ブロック、パケットの配列を分解し、さらに転位密度を増加させ、温間加工後の焼入れ処理においてオーステナイトへの逆変態時のオーステナイトの核生成サイトを増加させる。前記効果を得るためには、温間加工率を30%以上とする必要がある。さらに、超微細組織を得る場合は、温間加工率は70%以上とするのが好ましい。温間加工後は空冷でよい。
【0029】
空冷後の再加熱、焼入れ処理:
前記温間加工によって、分解された構成の組織(ラス、ブロック、パケット)を持ち、かつ転位密度を高められた焼戻しマルテンサイトを一旦冷却し、再加熱処理を施すことにより、オーステナイトに逆変態させる。逆変態前の焼戻しマルテンサイトの内部は、その規則性を壊された構成組織と、高い転位密度を有しているため、逆変態時のオーステナイトの核生成サイトが多量となり、焼入れ前の加熱により逆変態したオーステナイトは微細粒となる。
【0030】
以上の効果を十分に得ようとするためには、焼入れ前の加熱温度はAc3変態点以上で、かつ逆変態が十分に起こる温度でなければならず、また、この加熱温度が高すぎると、逆変態により微細に生成したオーステナイトが粒成長を起こし粗大化してしまう。従って、焼入れ前の加熱温度は、Ac3変態点〜1000℃の範囲内とした。また、この加熱温度での加熱時間は、短すぎると逆変態が十分に起こらず、長すぎると逆変態で微細に生成したオーステナイトが粒成長して粗大化してしまうため、この加熱時間は1秒〜30分とした。好ましくは1秒〜60秒である。短時間で加熱焼入れ処理を実現するためには、例えば誘導加熱方法を採用すればよい。
【0031】
【実施例】
表1に示した化学組成の3種の鋼を、真空溶解炉で溶製し、鋼塊とした後鍛造して50mm厚×80mm幅×500mm長の鋼片を製造した。
【0032】
【表1】
次に、これらの鋼片を用いて、表2の試験No.1〜12で示す製造条件にて鋼板を製造した。試験No.1〜8が本発明例であり、試験No.9、10が温間加工で製造する従来例、そして試験No.11、12が比較例である。
【0033】
【表2】
製造した鋼板の組織観察を光学顕微鏡にておこない、鋼板の平均結晶粒径をJIS G 0552に規定の切断法により求めた。測定した結晶粒径は表2に示す通りであった。表2から明らかなように、試験No.1〜6については、鋼片に加工率40%の熱間加工を施すことにより、最終焼入れ後のオーステナイト粒径は2〜3μmと微細組織となっていることが分かる。特に、試験No.5、6の結果から明らかなように、Nbを多量に添加した鋼記号BおよびCについては、熱間加工前の加熱温度を高くし、Nbを鋼中に固溶させた方が、より微細な組織が得られることが分かる。これは、鋼中に固溶したNbそれ自体が、および温間加工前の恒温保持にて鋼中のCと結合し、微細に析出した炭化物が、逆変態後のオーステナイト粒の成長を抑制した結果と考えられる。さらに試験No.8から明らかなように、加工率75%の熱間加工、および再加熱温度600℃にて加工率75%という大歪温間加工を施すことにより、オーステナイト粒径は1.1μmとなり、超微細組織が得られる。
【0034】
一方、試験No.9は、加熱後の熱間加工をおこなわない場合で、加熱温度が低いため、初期粒径は微細ではあるが、加熱後熱間加工を施した場合に比べると、最終焼入れ後のオーステナイト粒径はかえって大きくなる。試験No.10については、鋳造、冷却後の加熱温度が高く、鋳片に含有したNbが十分に鋼中に固溶しているため、前記の微細化効果が期待できるが、熱間加工を施していないため、加熱後のオーステナイト粒径が大きく、熱間加工を施した場合に比べ、最終焼入れ後のオーステナイト粒径は大きい。また、試験No.11については、熱間加工の仕上温度が低く、加工中にフエライトが生成したため、マルテンサイトを主体とする組織が得られず、最終焼入れ後のオーステナイト粒は混粒となっていた。試験No.12については、熱間加工を施したが加工度が小さく、初期粒径の微細化の効果が得られず、最終焼入れ後のオーステナイト粒の大きさは、熱間加工を施さなかった試験No.10の場合と同程度であった。
【0035】
【発明の効果】
本発明によれば、設備上の困難の多い冷間加工による大圧下の加工を必要とすることなく、超微細組織を有する鋼材を容易に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の造方法を模式的に示す図である。
Claims (2)
- 質量%で、C:0.05〜0.35%、Si:0.05〜2%、Mn:0.1〜2%、Cr:0.1〜1.5%、Mo:0.1〜1%、Ti:0.005〜0.1%、Nb:0.005〜0.1%、sol.Al:0.005〜0.06%を含有し、残部がFeと不純物からなる鋼片を920〜1250℃の範囲内の温度に加熱し、累積加工率30%以上の熱間加工を施してAr3変態点以上の温度で仕上げ、Ar3変態点〜500℃の温度範囲を200℃/分以上の冷却速度で冷却し、引き続き350℃以下の温度まで冷却し、次いで、600℃〜Ac1変態点の範囲内の温度で、1〜60分間再加熱して保持した後、30%以上の加工率で温間加工をおこない空冷し、その後、Ac3変態点〜1000℃の温度範囲で1秒〜30分間再加熱して保持する熱処理によりオーステナイトへ逆変態させた後、焼入れすることを特徴とする超微細組織を有する鋼材の製造方法。
- 質量%で、C:0.05〜0.35%、Si:0.05〜2%、Mn:0.1〜2%、Cr:0.1〜1.5%、Mo:0.1〜1%、Ti:0.005〜0.1%、Nb:0.005〜0.1%、sol.Al:0.005〜0.06%を含有し、さらにV:0.01〜0.15%およびB:0.0005〜0.003%のうちの1種または2種を含み、残部がFeと不純物からなる鋼片を920〜1250℃の範囲内の温度に加熱し、累積加工率30%以上の熱間加工を施してAr3変態点以上の温度で仕上げ、Ar3変態点〜500℃の温度範囲を200℃/分以上の冷却速度で冷却し、引き続き350℃以下の温度まで冷却し、次いで、600℃〜Ac1変態点の範囲内の温度で、1〜60分間再加熱して保持した後、30%以上の加工率で温間加工をおこない空冷し、その後、Ac3変態点〜1000℃の温度範囲で1秒〜30分間再加熱して保持する熱処理によりオーステナイトへ逆変態させた後、焼入れすることを特徴とする超微細組織を有する鋼材の製造方法。
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JP2000144244A (ja) * | 1998-11-10 | 2000-05-26 | Nkk Corp | 超微細組織を有する鋼材の製造方法 |
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