JP4512542B2 - 浮揚溶解鋳造法及び該鋳造法で使用される水冷坩堝 - Google Patents

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本発明は、誘導加熱により金属材料を溶解する浮揚溶解鋳造法及びこの鋳造法で使用される水冷坩堝に関するものである。
高純度金属、高活性金属、高融点金属等の特殊な金属材料の鋳造方法として、従来から浮揚溶解鋳造法と称される方法が知られている。この方法は、導電性を有する水冷坩堝内に配置された金属材料を電磁誘導作用により加熱して溶解するという誘導溶解法の一種であり、金属材料はその表面に生じる渦電流により抵抗加熱される。この際、金属材料と水冷坩堝の内周面との間には電磁気的な反発力が生じるため、金属材料が水冷坩堝壁面から離れた状態(浮揚した状態)で溶解される。このように浮揚溶解鋳造法では、溶解する金属材料が水冷坩堝に直接接触しないので、溶湯の汚染が極めて少なく、また、電磁気力による溶湯の強撹拌作用が期待できるため、合金材料を溶成する際に非常に好適なものである。更に、イリジウム(融点2447℃)等のような融点が極めて高い金属材料を溶解するためには、誘導溶解法によらざるを得ないことが多く、この観点からも好適な方法である(特許文献1参照)。
特開平5−79768号公報
図3は、浮揚溶解鋳造法で従来から用いられている水冷坩堝100を示すものである。この水冷坩堝100は、冷却水の循環経路となる水冷管10が長手方向に内挿された導電材料からなるセグメント20を備える。そして、各セグメントは所定幅のスリット30を隔てて円周状に複数配列されており、セグメントの配列により坩堝部となる凹部40が形成される。水冷坩堝100の外周側には図示せぬ高周波誘導コイルが配置されている
浮揚溶解鋳造法による金属材料の溶解では、上記水冷坩堝100の坩堝部となる凹部40内に溶解対象となる金属材料を配置して、高周波誘導コイルに通電することで金属材料が誘導加熱されて溶解する。この溶解の際には、セグメント20が溶解熱で破損が生じないように、水冷管10に冷却水を循環させている。そして、金属材料の溶解が完了した時点で高周波誘導コイルへの通電を停止し、金属材料を冷却・凝固させる。
通常、鋳造後の金属材料は、更に、鍛造加工や圧延加工を経て所望の形状に成形される。この点、従来の水冷坩堝を用いる浮揚溶解鋳造法によって得られる金属材料は、ボタン形状又は球形状の塊上のものであるが、このような形状ではその後の加工において工具の位置決め、被加工物の固定等が困難となり、加工効率が良くない。特に、浮揚溶解鋳造法は、イリジウム等の高融点材料の鋳造に用いられるが、かかる高融点材料は同時に硬度が高いことが多いことから、浮揚溶解鋳造法による塊状の鋳造物は加工がし難い。
そこで、本発明は、浮揚溶解鋳造法による金属材料の鋳造法において、その後の加工がし易い形状の鋳造物を得ることのできる方法、及び、この方法で使用するのに好適な水冷坩堝を提供する。
浮揚溶解鋳造法による鋳造物が玉形状等の塊状を呈するのは、これに用いられる水冷鋳型の鋳型部が筒状であること、及び、その底部が半球状をしているものが多いことによる。
一方、一般的な鋳造法においては、金属材料を溶解させる坩堝と、それを凝固させる鋳型とが別々に存在し、鋳型で溶融させた金属材料を鋳型に流し込み凝固させる形式を採られる。そこで、浮揚溶解鋳造法での金属材料の鋳造においても、先ず、水冷坩堝で金属材料を溶解し、これを後の加工を考慮した鋳型へ移して凝固させることも考えられる。しかし、高融点金属を取り扱う浮揚溶解鋳造法においては、水冷坩堝とは別の鋳型へ溶融する金属材料を流し込む際に、金属材料が冷却されて湯流れが悪くなる。
本発明者等は、上記した点を考慮し、金属材料の溶融状態を維持しつつ、これを好適な形状で凝固させる方法として、金属材料の溶融が完了した段階で水冷坩堝を水平状態とし、溶融した金属材料が坩堝の内壁面に広く行き渡るようにすることとし、本発明に想到した。
即ち、本発明は、冷却水の循環経路となる水冷管が長手方向に内挿された導電性のセグメントが複数配列され、前記セグメントの配列により坩堝部となる凹部が形成された水冷坩堝を用い、前記凹部内に配置された金属材料を誘導加熱により溶解した後に凝固させる浮揚溶解鋳造法において、金属材料を凝固させる際に、水冷坩堝を傾動して略水平な状態として凝固させることを特徴とする浮揚溶解鋳造法である。
本発明では、金属材料の溶解時には水冷坩堝を垂直状態とし、溶解が完了したときに水冷坩堝を傾動させて略水平状態にする。水冷坩堝を水平状態とすることで坩堝内壁面が下になり、溶融状態の金属材料は重力により凹部内壁面に行き渡るようになる。これにより、凝固した金属材料は、箔状、板状となりその後の加工が容易なものとなる。
本発明において、金属材料を加熱するための高周波誘導コイルへの通電は水冷坩堝の傾動が完了するまで継続しておくことが好ましい。金属材料の溶解状態を維持し、流動性を確保するためである。従って、水冷坩堝の傾動の際には、これに連動して高周波誘導コイルも傾動するようにすることが好ましい。
ここで、係る鋳造法では、従来と同じ構造の水冷坩堝を使用することができる。但し、従来と同じ水冷坩堝を用いる場合、水冷坩堝を水平にした際に溶融した金属材料が凹部から流れ出すおそれがあるため、凹部の体積に対してかなり少量の金属材料しか処理できない。そこで、本発明者等は、本発明に適用可能な水冷坩堝として、新たな構成の水冷坩堝を見出した。
この水冷坩堝は、水冷管が長手方向に内挿されたセグメントが垂直状態で円周状に複数配列されており、セグメントの配列により坩堝部となる凹部(第1の凹部)が形成されている点においては従来のものと同じであるが、一部の連続するセグメントが、他のセグメントより長尺となっている。そして、この連続する一部のセグメントの長尺部分の配列により、坩堝部となる凹部と連通する鋳型部となる第2の凹部が形成されている。この第2の凹部は、セグメント(水冷坩堝)が略水平となったときに坩堝部となる凹部から流れ込んでくる金属材料を保持することができる。これにより、処理量が増大し効率的な鋳造が可能となる。
この水冷坩堝において、長尺とするセグメントの割合は、全セグメントの半数とし、これらを略半円状に配列するものが好ましい。少なすぎると鋳型部となる第2の凹部が浅すぎるものとなり、十分な処理量を確保することができない。また、水冷坩堝を水平にした際の金属材料の高さは水冷坩堝の半径以上にはできないため、多すぎても意味は無い。
また、鋳型部である第2の凹部については、その底面と第1の凹部の底面とがフラットな状態で連通しており、一体化していることが好ましい。溶解した金属材料の流れが良好となるからである。また、このように両者を一体化することで、水冷坩堝水平時の金属材料は第1の凹部と第2の凹部の双方に滞留することとなる。これにより、滞留する金属材料の高さ(厚さ)が低くすることができ、冷却管による冷却を効率的にすることができる。この点、本発明では、第1の凹部と第2の凹部との間に流路を有する敷居板(バッフル)を設けても良いが、金属材料の流れが良くなることも無く、セグメントの加工を複雑にするだけである。尚、鋳型部となる第2の凹部の底面は、セグメント内部の水冷管と略平行であることが好ましい。金属材料の冷却を効率的なものとするためである。
本発明による凝固後の金属材料は、従来の方法で得られるボタン形状、球形状といいた塊状のものとは異なり、細長の板状、箔状のものである。この形状は、鋳造後の圧延加工、鍛造加工が容易であり、特に、イリジウムのような高硬度の難加工材料の鋳造、加工に際して有益である。
また、本発明で開示した水冷坩堝によれば、水平状態であっても十分な量の金属材料を保持することができ、処理量を確保することができる。更に、本発明に係る水冷坩堝では、セグメント内の冷却管による作用を有効に活用することができ、金属材料を均一に冷却、凝固させることができる。
本発明の好ましい実施形態について、以下に記載する実施例及び比較例に基づいて説明する。図1は、本発明に係る第1の水冷坩堝の具体例としての実施形態の水冷坩堝101を示すものである。図1において、水冷坩堝101は、金属材料を溶解するための坩堝部となる凹部41を備えたものであり、凹部41は、複数のセグメント20を、所定間隔のスリット30を設けて円周状に配列されている。そして、これらのセグメントのうち、半数のセグメント20‘が長尺となっており、それらの端部には鋳型を水平にした際に金属材料が流出しないようにするためのキャップ50が取り付けられており、これにより鋳型部となる凹部42が形成される。
セグメント20の内部には、冷却水の循環経路となる水冷管10が長手方向に設けられている。この水冷管10は、内管と外管とからなる2重管であり、冷却水は、内管下方から供給され、内管の上部開口まで上昇した後、外管に流動、下降して排水される。また、図示は省略するが、水冷坩堝100の外周側には高周波誘導コイルが配置され、高周波電力を供給できるようにされている。この実施形態に係る水冷坩堝の各寸法は以下の通りである。
・水冷坩堝本体:全幅 55mm
全長 157mm/215mm(長尺セグメント部)
水冷坩堝部幅36mm 鋳型部幅 18mm
・セグメント:タフピッチ銅製 16個 スリット間隔 0.2mm
・水冷管:外管内径 5.8mm
内管外径 4.2mm(内管材質SUS316)
内管内径 3.64mm
配置位置 坩堝部中心から38.4mm径の円周状に水冷管の中心が配置されている
そして、この水冷坩堝を用いてイリジウムの鋳造を行なった。鋳造工程は、溶解対象となるイリジウム500gを投入し、冷却水(水圧6.0気圧 循環水量50L/min)を循環させながら、溶解高周波電力42kWを加えて、溶解処理を行い、全溶解した段階で、溶解高周波電力を48.5kWにパワーアップし、冷却水の循環水量45L/minとしたところ、冷却水入口温度25.5℃、排出温度35.5℃となり、イリジウムを完全溶解することができた(図2(a))。
そして、この状態でパワーをかけたまま水冷坩堝を90度傾動させ、坩堝部及び鋳型部に溶湯を行き渡らせた後、パワーオフして冷却しイリジウムを凝固させた(図2(b))。鋳造後のイリジウムは板状(かまぼこ形状)であり、水冷坩堝から容易に取り出すことができた。
比較例:上記実施形態に対する比較として、従来の水冷坩堝を用いて、従来と同様の工程でイリジウムの鋳造作業を行なった。用いた水冷坩堝は図3と同一構造の物である。水冷坩堝の寸法は下記の通りである。
・水冷坩堝本体:全幅 55mm
全長 157mm
坩堝部幅36mm
・セグメント:タフピッチ銅製 16個 スリット間隔 0.2mm
・水冷管:外管内径 5.8mm
内管外径 4.2mm(内管材質SUS316)
内管内径 3.64mm
配置位置 坩堝部中心から38.4mm径の円周状に水冷管の中心が配置されている
比較例におけるイリジウムの鋳造条件は、冷却水の水圧を6.0気圧で循環水量60L/min(全溶解時55L/min)とし、冷却水入口温度25.5℃、排出温度35.5℃、溶解高周波電力40kW(全溶解時50kW)とした。そして、金属材料が完全に溶解した後も、水冷坩堝を傾動させることなく垂直状態のまま冷却した。
比較例による鋳造物は、球状体であった。これをその後の用途を考慮して鍛造加工等を行なう場合、イリジウムのような硬度の高い金属の場合には、加工作業に熟練を要する。この点、本実施形態で得られる鋳造物は板状であり比較的加工しやすく、比較例の1/3の程度の時間で同じ加工が可能となった。
本実施形態で使用した浮揚溶解鋳造法用の水冷坩堝の構造を示す図。 本実施形態での鋳造工程を示す図。 従来の浮揚溶解鋳造法で使用される水冷坩堝の構造を示す図。
符号の説明
100、101 水冷坩堝
10 水冷管
20 セグメント
30 スリット
40 凹部
41 第1の凹部(坩堝部)
42 第2の凹部(鋳型部)
50 キャップ

Claims (3)

  1. 冷却水の循環経路となる水冷管が長手方向に内挿された導電性のセグメントが複数配列され、前記セグメントの配列により水冷坩堝部となる凹部が形成された水冷坩堝を用い、前記凹部内に配置された金属材料を誘導加熱により溶解した後に凝固させるものであり、当該金属材料を凝固させる際に、水冷坩堝を傾動して略水平な状態として凝固させる浮揚溶解鋳造法で使用される水冷坩堝であって、
    冷却水の循環経路となる水冷管が長手方向に内挿された導電性のセグメントが垂直状態で円周状に複数配列されてなり、
    一部の連続するセグメントが、他のセグメントより長尺となっており、
    全てのセグメントの配列により坩堝部となる第1の凹部が形成されると共に、
    前記連続する一部のセグメントの長尺部分の配列により、前記第1の凹部と連通し、かつ、セグメントが略平水平となったときに溶解した金属材料を保持できる鋳型部となる第2の凹部が形成されることを特徴とする水冷坩堝。
  2. 長尺のセグメントは略半円状に配列されてなる請求項1記載の水冷坩堝。
  3. 鋳型部となる第2の凹部の底面は、セグメント内部の水冷管と略平行である請求項1又は請求項2記載の水冷坩堝。
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