以下に、本発明の実施の形態を図面を用いて説明する。
図1は、本実施形態の超音波診断装置における信号処理についての基本構成を示す概略図である。超音波診断装置10は、送信部12を備えている。送信部12は、送信信号を生成し、アレイ探触子14に対し生成した送信信号を供給する送信信号供給部として機能している。また、こうした送信信号を複数の振動数成分を合成して生成する機能も備えている。
アレイ探触子14は、患者の体表面に当てられて、体内に超音波を送信するとともに、体内において反射した超音波を受信する超音波の送受信部である。この送受信を直接的に担っているのは、アレイ探触子14に1次元または2次元のアレイ状に配置された圧電素子群である。各圧電素子は、送信信号に基づく電圧が印加されると、振動して超音波を発生する。また、反射波の振動が各圧電素子に加わると電気的な受信信号が出力される。なお、これらの圧電素子群は、その送受信タイミングを全体として制御されており、送受波の方向や焦点位置を自在に変更することができる。この制御は、送信部12及び受信部16によって行われている。
アレイ探触子14が出力する受信信号は、まず受信信号処理部としての受信部16によって処理される。受信部16は、受信プリアンプ部16aを備え、受信信号の増幅などを行っている他、受信ビームフォーマ部16bを備え、各圧電素子からの受信信号を遅延時間を考慮して整相加算する処理も行っている。ビームデータ処理部20は主として受信信号の解析を行う部位であり、受信部16からの信号に対し、高速フーリエ変換(FFT)を用いて周波数解析を行うなどしてドプラ情報の抽出や、受信信号の振幅の計算等を行っている。必要に応じてパルス圧縮処理を行うことも可能である。そして、これらの結果は画像構成部22に送られる。画像構成部22は、様々な走査方式の信号を表示部24の走査方式に変換するデジタルスキャンコンバータ機能などを備えている。そして、変換された信号は、モニタ等で構成される表示部24に画像表示される。
図2は、送信部12における処理内容を説明する概略図である。送信部12は、波形発生器30、D/A(デジタル/アナログ)変換器34、増幅器36を含んでいる。波形発生器30は、波形発生部30aにより送信信号の波形を発生させ、遅延生成器30bにより各圧電素子毎に遅延処理を行う。波形が複数の送波方向や焦点位置からなる場合には、そのような信号成分を合成して全体の波形を生成する。また、遅延処理は、圧電素子毎に送信タイミングを遅延させるものであり、送波方向や焦点位置に応じて定められる遅延時間を当初の波形に与えるものである。そして、遅延された信号は、D/A変換器34によってアナログ信号に変換され、さらに増幅器36によって所定の強さに増幅されて、アレイ探触子14に送られる。なお、波形生成器30に対し、パルス圧縮のための変調を行わせることも可能である。
本実施の形態において特徴的な点の一つは、上記の送信部12が、複素信号の実数部に対応する信号と虚数部に対応する信号を送信する点である。すなわち、波形発生器30は、互いに直交関係にある実数部信号と虚数部信号を適切な送波タイミングで発生させることが可能となっている。これによりアレイ探触子14は対応した実数部超音波と虚数部超音波を送波し、その反射波である実数部反射波と虚数部反射波を受信して実数部受信信号と虚数部受信信号とを出力する。この実数部受信信号と虚数部受信信号とをセットとして解析処理する点もまた、本実施の形態の特徴的な点である。
図3は、複素信号を用いることの利点の一つを説明する図であり、異なる周波数をもつ二つの複素信号Aと複素信号Bが重ね合わされて送受信されている状況を示している。横軸は実数部、縦軸は虚数部である。超音波あるいは対応する送受信信号の実体は、複素信号の実数部に対応する。したがって、従来の送受信方式においては、複素信号Aの実数部Arと複素信号Bの実数部Brの重ね合わせAr+Brが測定される。図示した状況では、Ar+Br=0であり、振幅は打ち消されて測定されないことを意味する。
一方、本実施の形態においては、複素信号Aの虚数部に相当する信号と、複素信号Bの虚数部に相当する信号の送受信も行う。したがって、図示した瞬間においては、複素信号Aの虚数部Aiと複素信号Bの虚数部Biの重ね合わせAi+Biが測定される。この値は十分大きく、十分に測定可能な大きさとなっている。このように、複素信号の実数部と虚数部を送受信することにより、情報量が増大して精度よい測定が可能となる。特に、干渉により実数部の振幅が小さい箇所において、虚数部の信号を解析する利点は大きい。
以下では、まず、パルス圧縮の手法を用いない場合について、第1の態様から第3の態様までの具体的な3つの走査態様を示し、そこでこの実数部及び虚数部の送信信号の生成過程と、対応する実数部及び虚数部受信信号の処理過程について説明する。続いて、パルス圧縮の手法を導入した場合の走査態様及び処理態様について、第4の態様から第7の態様までを例に挙げて説明する。
[第1の態様]
図4は、アレイ探触子14を模式的に表した図である。アレイ探触子14は、圧電素子40,42,44,...を備えている。そして、ここでは、図中に数字で示した0,1,2,...,M−2,M−1の計M個の圧電素子を送信アパーチャ(開口部)として用いている。このM個の圧電素子の送信タイミングは波形発生器30によって制御されており、番号が小さな素子ほど大きな遅延時間を取られている。この結果送信アパーチャから送波される超音波ビーム50は、垂直方向から角度αだけ傾いた方向を向き、また位置52にその焦点を有している。超音波ビーム50の反射波は、やはりアレイ探触子14によって検出される。これにより、超音波ビーム50上、特に位置52付近の構造を測定することが可能となる。
超音波ビーム50は、典型的にはパルス波である。本実施の形態においては、1回目の超音波ビーム50の送受信が行われた後、短い時間間隔をおいて2回目の超音波ビーム50の送受信が行われる。1回目と2回目とでは、周波数、振幅、送波方向が同一であるが、位相がπ/2ずれている。すなわち、この二つの超音波は、それぞれの送信時を基準としてみれば、複素表現された超音波の実数部と虚数部を形成していることになる。したがって、この超音波を送波させるための送信信号も、形式的に複素送信信号として表現することが可能であり、m番目の圧電素子に対する複素送信信号x
m(t)は次式で表される。
ここでω
0は送信周波数、τ
mは各圧電素子に対する遅延時間、A
m(t)は各圧電素子に対する振幅変調関数、φ
0は初期位相である。この場合に、第1送信信号はx
m(t)の実数部Re[x
m(t)]であり、第2送信信号はx
m(t)の虚数部Im[x
m(t)]に相当する。
図5は、この送信信号をアレイ探触子14に供給するための送信部12の圧電素子1素子分に対する構成を示している。実際は、最大開口分に対応する圧電素子数分だけこの構成が存在する。図2に示した波形発生器30は、この構成においては、読出しアドレス発生器60と送信波形メモリ62を備えている。読出しアドレス発生器60は、超音波診断装置の演算制御機能等により実装される部位であり、送信波形態様のプログラミングに基づいて、送信波形メモリ62上のアドレスを指定する。また、送信波形メモリ62は一般のメモリ等を用いて実装可能であり、実数送信波形データ64と虚数送信波形データ66を記憶している。この実数送信波形データ64と虚数送信波形データ66はやはりプログラミングに基づいて予め生成され記憶されたものである。読出しアドレス発生器60が出力するアドレスの発生タイミングは、対応する圧電素子に対する遅延が考慮された送信タイミングに基づいて入力される読み出し開始トリガー信号によって制御されている。そして、やはり送信態様のプログラミングに基づいて入力される実数か虚数かの選択アドレスと合わせることで、送信波形メモリ62から、実数送信波形データ64または虚数送信波形データ66が選択されて出力される。出力された波形データは、D/A変換器68、送信アンプ70を経て各圧電素子へ第1送信信号及び第2送信信号として伝えられる。
図6は、この場合における、ビームデータ処理部20の処理構成を説明する概略ブロック図である。この場合の入力信号は、各圧電素子からの信号を遅延時間を考慮して足し合わせる整相加算処理がなされた後の信号である。BPF(バンドパスフィルタ)80は送信周波数ω0近傍の成分のみを通過させることによりノイズ成分の除去を行う。そして、メモリ82を経由して、あるいは、直接ベクトル振幅演算器84に入力される。メモリ82に入力されるのは、第1送信信号に対応した第1受信信号である。そして、第2受信信号が直接ベクトル振幅演算器84に入力されるタイミングでメモリ82に一次的に格納されていた第1受信信号もベクトル振幅演算器84に入力される。これにより、ベクトル振幅演算器84は、第1受信信号と第2受信信号とを直交関係をなす受信信号のセットとして振幅演算を行うことができる。振幅は、両成分をそれぞれ二乗して足し合わせ、平方根をとることで計算される。こうして得られた振幅は、Log演算器86で対数演算されて、画像構成部22に出力される。
図7のフローチャートは、これらの構成に基づく超音波の送受信過程をまとめたものである。この過程では、まず、実数部送信信号及び虚数部送信信号からなる複素送信信号の波形データが生成され送信波形メモリ62に記憶される(S10)。そして、遅延時間が考慮された読み出し開始トリガー信号に基づいて、実数部送信信号の波形データが読み出され、D/A変換処理、増幅処理を経て各圧電素子に送られ、実数部超音波が送波される(S12)。実数部超音波は、生体内において反射され実数部反射波となる。そこで、この実数部反射波を各圧電素子において受波して実数部受信信号を取得し、整相加算を行って、実数部受信ビーム信号を得る(S14)。次に、同様にして虚数部送信信号に基づいて虚数部超音波を送信し(S16)、対応する虚数部反射波を受波して虚数部受信信号を取得する。そして、整相加算によって虚数部受信ビーム信号を得る(S18)。この虚数部受信ビーム信号は、メモリ82に一時的に格納しておいた実数部受信ビーム信号とセットにして、ベクトル振幅演算器84において振幅等の解析処理を受ける。
図8は、受信信号処理についての変形例を説明するブロック図であり、図6に示したBPF80を乗算器90とLPF(ローパスフィルタ)92に置き換えたものである。ここでは、乗算器90において、入力される受信信号に対し、ローカル信号として式(1)の送信周波数ω0をもつ搬送波信号を掛け合わせている。これにより、受信信号は、低周波のベースバンド信号と、高周波のその他の信号に分離される。そこで、LPF92で低周波のベースバンド信号のみを取り出すことにより、ベクトル振幅演算器84ではベースバンド信号のみに基づく解析が可能となる。
[第2の態様]
図9は、別の態様に関し、アレイ探触子14を模式的に表した図である。ここでは、M個の圧電素子を送信アパーチャとし、送信焦点数N=3の送受信を行っている。すなわち、M個の圧電素子は、それぞれが異なる3つの周波数の超音波を発することで超音波ビーム100を送波している。超音波ビーム100上に示した位置102,104,106は、周波数毎に異なる焦点位置が設定されていることを表している。
この態様におけるm番目の圧電素子の複素送信信号x
m(t)は次式で表される。
ここで添字nは、焦点位置がn番目である組を表しており、ω
nは送信周波数、τ
mnは(m,n)成分の遅延時間、A
mn(t)は(m,n)成分に対する振幅変調関数である。このnについての和は、m番目の圧電素子においては、n=0からN−1番目までの計N個の成分が合成されていることを表現している。なお、異なる焦点距離成分同士は、必ずしも同時送信しなくてよい。例えば、合成した波形の実数部または虚数部、あるいは両部における最大振幅値が安全基準を超える場合には、相互に波形が重ならない程度に時間間隔をあけて合成すればよい。
図10は、この送信信号をアレイ探触子14に供給するための送信部12の構成を示したものであり、図5に対応したひとつの圧電素子に対するものである。したがって、実際には、最大開口分に対応する圧電素子数分だけこの構成が存在する。特徴的な点は、波形発生器30の構成である。波形発生器には、送信焦点数N=3に対応して、0〜2までの3個の読出しアドレス発生器110,112,114と、同じく0から2までの3個の送信波形メモリ116,118,120を備えている。そして、送信波形メモリ116,118,120の中には、それぞれ、実数送信波形データ122と虚数送信波形データ124、実数送信波形データ126と虚数送信波形データ128、実数送信波形データ130と虚数送信波形データ132が記憶されている。
各読出しアドレス発生器110,112,114は、遅延が考慮された読出しタイミングに合わせてそれぞれ入力される読出し開始トリガー信号0,1,2に基づいて読出しアドレスを出力する。そして、別途生成される実数/虚数データ選択アドレスと合わせて、各送信波形メモリ116,118,120に入力され、実数部あるいは虚数部の波形データを選択・出力する。これらの波形メモリ116,118,120の出力は加算器134によって加算される。D/A変換器68,送信アンプ70を経て圧電素子へ実数部送信信号及び虚数部送信信号として伝えられる点は、図5と同様である。
図11は対応するビームデータ処理部20の構成を示す概略ブロック図であり、図6に対応したものである。入力信号は、遅延時間を考慮して整相加算された後の信号である。実数部送信信号に対応した実数部受信信号、及び、虚数部送信信号に対応した虚数部受信信号は3つに分岐される。そして、分岐された信号は、0〜2までの3個のBPF(バンドパスフィルタ)140,142,144のいずれかの処理をうける。このBPF140,142,144は送信焦点数N=3に対応して設けられたものであり、その中心周波数及び周波数帯は、それぞれの送信周波数ωnに対応した成分を抽出できるように定められる。フィルタ処理された受信信号は、それぞれメモリ146,148,150に一時記憶された後に合成器154で合成される。また、フィルタ処理された虚数部受信信号は直接合成器152で合成される。合成においては、各信号のもつ焦点位置に応じた重み付けがなされ、これにより、分解精度が深さ方向に比較的均質化された情報を得ることができる。合成された実数部と虚数部の信号はベクトル振幅演算器84に入力されて解析処理を受け、Log演算器86によって対数演算がなされ、画像構成部22に出力される。
図12のフローチャートは、これらの構成に基づく超音波の送受信過程をまとめたものである。この過程では、まず、波形発生器30において波形が生成される。すなわち、第1の周波数成分をもち、第1の焦点に収束するように遅延が施された第1の複素送信信号が生成され送信波形メモリ116に記憶される(S30)。同様にして、第2の周波数成分をもち第2の焦点距離をもつ第2の複素送信信号の生成及び送信波形メモリ118への記憶(S32)と、第3の周波数成分をもち第3の焦点距離をもつ第3の複素送信信号の生成及び送信波形メモリ120への記憶が行われる(S34)。そして、トリガー信号に基づいて、まず、これらの複素信号の実数部を合成した実数部信号を生成し、実数部超音波を送波する(S36)。対応する実数部反射波を受波して出力される実数部受信信号は、整相加算された後BPF140,142,144により周波数成分に分離され、合成器154で再合成され、実数部受信ビーム信号となる(S38)。同様にして虚数部送信信号が合成器152で合成されて虚数部超音波が送波され(S40)、対応する虚数部反射波を処理することで虚数部受信ビーム信号を得る(S42)。最後に実数部受信ビーム信号と虚数部ビーム信号とがセットにされて解析が実施される(S44)。
[第3の態様]
図13は、さらに別の態様に関し、アレイ探触子14を模式的に表した図である。ここでは、M個の圧電素子を送信アパーチャとし、送信焦点数N=3、送信ビーム方向D=2の送受信を行っている。すなわち、M個の圧電素子は、それぞれが異なる3つの周波数の超音波を発することで、超音波ビーム160,170を送波している。両超音波ビームは角度θだけ方向が異なっている。そして、超音波ビーム160に対しては、3つの周波数に対応して3つの焦点位置が位置162,164,166に設定されており、超音波ビーム170に対しては、位置172,174,176に3つの周波数に対応した焦点位置が設定されている。
この態様におけるm番目の圧電素子の複素送信信号x
m(t)は次式で表される。
ここで添字dは、送波方向がd番目nである組を表しており、τ
mndは(m,n,d)成分の遅延時間である。この例においては、送信ビーム方向は遅延時間τ
mndによって制御されており、周波数による区別は行っていない。したがって、受信時の分離が容易となるように、両ビーム方向の角度差θを比較的大きめにとっている。このdについて成分の和をとる計算は、m番目の圧電素子の送信信号が各送信焦点の成分のみならず送信ビーム方向の成分についても合成されて生成されることを表現している。なお、異なる送波方向の成分同士は必ずしも同時送信する必要がなく、重ね合わせた場合の最大振幅値が安全基準を超える場合に若干の時間間隔を空けて送信するなどしてもよい。
図14は、この送信信号をアレイ探触子14に供給するための送信部12の構成を示したものであり、図5、図10に対応したものである。ここでは、波形発生器30は、送波ビーム方向D=2に対応して、波形発生部180aと波形発生部182bが備えられている。そして、波形発生部180aと波形発生部180bはそれぞれ、送信焦点数N=3に対応した図10の構成と同様の構成を備えている。すなわち、波形発生部180aは、3個の読出しアドレス発生器182a,184a,186aと、3個の送信波形メモリ188a,190a,192aを備えている。そして、送信波形メモリ188a,190a,192aの中には、それぞれ、実数送信波形データ194aと虚数送信波形データ196a、実数送信波形データ198aと虚数送信波形データ200a、実数送信波形データ202aと虚数送信波形データ204aが記憶されている。そして、各読出しアドレス発生器182a,184a,186aは、対応する圧電素子に応じて遅延が施された読出しタイミングに合わせてそれぞれ入力される読出し開始トリガー信号0A,1A,2Aに基づいて読出しアドレスを出力する。各送信波形メモリ188a,190a,192aは、この読み出しアドレスと、別途生成された実数/虚数データ選択アドレスとが入力されると、対応する実数部あるいは虚数部の波形データを選択・出力する。また、波形発生部182bも同様の構成を備え、同様に実数部あるいは虚数部の波形データを選択・出力する。これらの出力は、加算器206において足し合わされる。そして、D/A変換器68,送信アンプ70を経て圧電素子へ実数部送信信号及び虚数部送信信号として伝えられる。
次に図15を用いて、対応するビームデータ処理部20の構成を説明する。ビームデータ処理部20は、送波ビーム方向D=2に対応したビームデータ処理部210aと、ビームデータ処理部210bの二つからなり、各々は、図11に示した装置構成とよく似た構成からなる。すなわち、入力される受信信号は、まず、DBF(デジタルビームフォーマ)212a,DBF212bに送られて所定の受波方向の信号が取り出される。今の例においては、周波数による区分けは異なる焦点距離をもつビームに対してのみ行っており、異なる送波方向のビームに対してはDBF212a,212bが各圧電素子の遅延時間に基づいて分離を行っている。分離された信号はそれぞれビームデータ処理部210aとビームデータ処理部210bで処理される。具体的には、ビームデータ処理部210aは、送信焦点数N=3に対応して設けられた3個のBPF214a,216a,218aを用いて受信信号をそれぞれの焦点毎に分離する。フィルタ処理された受信信号は、実数部受信信号がメモリ220a,222a,224aに一時記憶された後に合成器228aで合成される処理、虚数部受信信号が直接合成器226aで合成される処理、合成された実数部と虚数部の信号がベクトル振幅演算器230a、Log演算器232aで処理されて画像構成部22に出力される過程は図11で説明した通りである。なお、ビームデータ処理部210bにおいても同様の処理がなされる。画像構成部22は、2方向の信号を適宜処理して表示部24に画像表示させる。
次に、図16のフローチャートを用いて、超音波の送受信過程を説明する。まず、波形発生器30において波形が生成される。ステップS50,S52,S54は第1の方向の波形に係る複素送信信号の生成・記憶過程であり、波形発生部180aで実行される。また、ステップS56,S58,S60は第2の方向についての同様の処理であり、波形発生部180bで実施される。そして、トリガー信号に基づいて、これらの複素信号の実数部を合成した実数部信号を生成し、実数部超音波を送波する(S62)。対応する実数部反射波の受波により得られる実数部受信信号は、DBF212a,212bにより第1の方向と第2の方向に分離される。分離された信号はそれぞれビームデータ処理部210aとビームデータ処理部210bにおいてさらにBPFを用いて周波数毎に分離される。そして再合成がなされて、第1の方向と第2の方向の実数部受信ビーム信号が得られる(S64)。続いて、虚数部信号に基づく超音波が送波され(S66)、その反射波を処理することで第1の方向と第2の方向の虚数部受信ビーム信号を得る(S68)。最後に第1の方向と第2の方向について、それぞれ実数部受信ビーム信号と虚数部ビーム信号とをセットにした解析がなされる(S70)。
以上の説明においては、ある瞬間にある方向に送波される超音波ビーム(例えば図4、図9、図13)を例に挙げて説明した。この超音波ビームの送波方向や焦点位置は、時間的に固定されていてもよいが、もちろん、時間的に変動させることも可能である。また、言うまでもなく、直交関係にない他の種類の超音波を用いた走査が、適当な頻度で行われるなどしてもよい。
ここで、超音波ビームを短時間に滑らかに送信するために行われる時間的な重みづけの影響について説明する。図17は、時間的な重みづけについて説明する信号波形の模式図である。図17(a),17(b)は、送信信号に時間的な重みづけを行わない場合であり、図17(a)は実数部送信信号を、図17(b)は虚数部送信信号を表している。この信号は共に単一の同じ周波数をもつ正弦波形であり、時刻tから時刻t+ΔtまでのΔtの間に2.5周期分が組み入れられている。すなわち、この二つの信号は単一の周波数をもつ理想的な複素信号を構成している。しかし、この信号は、このΔtの期間において、周期境界条件を満たしておらず、対応する受信信号の周波数解析を行った場合に、高周波の信号が検出されてしまうことになる。また、図17(b)の虚数部送信信号のように、初期時刻tにおいて瞬間的に最大振幅に達する超音波を生成することは困難である。このため、図17(a),17(b)の信号をさらに0.5周期分延ばして3周期分とし周期境界条件を満たすように設定した場合にも、やはり、完全に単一の周波数からなる超音波を生成することは困難である。そこで、このような信号を用いた場合には、必要に応じて高周波成分をフィルタアウトすればよい。
図17(c),17(d)は、それぞれ図17(a),17(b)の波形に対し、時間的に局在する重み関数を掛け合わせて送信波形を生成したものである。すなわち、図に破線で示すガウス分布によって重み付けを行うことで、実線で示す送信波形は、時刻tから時刻t+Δtの間に局在する滑らかな波形を形成している。これにより、送信波形の急激な立ち上がりや、周期境界条件を満たさないことに起因した高周波成分の発生を回避することが可能となる。ただし、重みづけを行うことで重み付け関数の周波数成分が若干混入してしまう。例えば、実空間におけるガウス関数は、フーリエ空間においてやはりガウス関数として検出されることになる。そこで、解析の際には、必要に応じてこのような周波数成分を除去するなどの措置をとればよい。
このように、複素信号をなす実数部送信信号と虚数部送信信号を送受信するという本実施の形態は、重み付けの有無に係わらず実施可能である。
続いて、パルス圧縮の手法を組み合わせた態様について説明する。
図18(a),18(b)は、図17(c),17(d)に対応した図であり、送信波形例としての実数部送信信号300及び虚数部送信信号304を示している。すなわち、実数部送信信号300及び虚数部送信信号304は、図17(a),17(b)のような一種類の周波数からなり互いに位相がπ/2だけ異なる正弦曲線に対し、周波数を線形的に変化させる変調を行い、さらにガウス関数302,306を用いて重み付けを行うことで生成されたものである。線形的な周波数変調は、具体的には、送信時間Tの間に周波数がf1からf2へと線形的に高周波化させることで行っている。このように変調された信号は、線形FM信号、あるいは、チャープ変調信号などと呼ばれることもある。
この線形FM信号は、信号の先頭部ほど遅延時間を大きくして時間的に集中させるパルス圧縮処理を行うことで、短い時間帯にパワーが集中するパルス状の信号へと変換される。このパルス圧縮を線形FMされた送信信号に対応した受信信号に対して行えば、空間分解能を向上させた情報が得られることになる。
図19は、二つの異なる線形FM信号の合成波形を送波した場合のパルス圧縮前の受信信号の一例を示す図である。横軸は時間(探触子からの距離に比例する)であり、縦軸は振幅の強さを表している。実線308は実数部受信信号であり、点線310は虚数部受信信号である。すなわち、実線308は複素信号を実数軸に投影した成分を表し、点線310は複素信号を虚数軸に投影した成分を表している。
これによれば、実線308は点線310を時間的にやや遅延させたパターンを示している。これは、複素信号が複素平面を回転する波動として振る舞っていることを反映している。この波動においては、振幅や周波数は一様ではない。実線308及び点線310のパターンの不規則性は、この非一様性を反映したものである。一般的には、受信信号の振幅及び位相は、一回の受信信号を複素信号の実数成分であるとみなし、直交検波を行うことで求められる。しかし、図19に示したように、直交関係にある送信信号に対応した二つの受信信号を実数部受信信号及び虚数部受信信号とみなすことで、直交検波を行うことなく、直接的にその位相と振幅が得られることになる。また、二つの信号がもつ情報を利用して解析を行うため、解析精度も高められる。
以下では、このパルス圧縮に基づいて超音波診断を行う四つの態様を、第4の態様から第7の態様として説明する。
[第4の態様]
第4の態様は、第1の態様にパルス圧縮の手法を取り入れたものである。すなわち、アレイ探触子14からは、一方向を進行方向とし、その途上に一つの焦点を有する超音波が送波される。
図20は、送信信号の送信シーケンスと受信信号との対応関係を示す模式図である。図の上段は、各送信信号に基づいて、超音波が次々と送信される様子を下向き矢印で模式的に示している。すなわち、実数部送信320,虚数部送信322,実数部送信324,虚数部送信326,実数部送信328,虚数部送信330,...が、一定の時間間隔で次々に行われている。各超音波が同一あるいはほぼ同一の深さ位置に一つの焦点をもつことは、各矢印上の×印で示されている。例えば、実数部送信320は焦点320aをもち、虚数部送信322では焦点322aをもつ。
図20の中段は、各送信超音波のビーム方向を方向につけられた番号で示したものである。実数部送信320と虚数部送信322は方向#Nへ、実数部送信324と虚数部送信326は方向#(N+1)へ、実数部送信328と虚数部送信330は方向#(N+2)へ送波されている。
図20の下段は、送信超音波に対応した受信信号を用いて行われる受信処理について示している。例えば、方向#Nの実数部送信320が行われると、その反射波に対応した実数部受信信号340についての処理が行われる。同様にして、方向#Nの虚数部送信322に対応して、虚数部受信信号342が行われる。これらはともに、方向#Nについての受信信号であり、方向#Nの複素信号を構成するものである。同様にして、方向#(N+1)の実数部送信324と虚数部送信326からは、方向#(N+1)の複素信号を構成する実数部受信信号344と虚数部受信信号346が得られる。また、方向#(N+2)については、実数部受信信号348と虚数部受信信号350が得られ、このビーム方向についての複素信号を構成する。このように、同一方向に対する実数部送信信号と虚数部送信信号とからそれぞれ実数部受信信号と虚数部受信信号とが得られ、その方向についての複素信号として処理される。
図21は、受信信号の処理構成を説明するブロック図である。ここでは、図1の受信ビームフォーマ部16b及びビームデータ処理部20に対応する部分について示している。受信ビームフォーマ部(RxBF)360は、各圧電素子からの受信信号を遅延時間を考慮して整相加算し、バンドパスフィルタ(BPF)362に出力する。バンドパスフィルタ362は、線形FM信号成分のみを通過させる。そして、セットを構成する二つの受信信号のうち先に送受信がなされた受信信号(例えば実数部受信信号340)は遅延メモリ(DL)364によって送信時間間隔だけ遅延されてパルス圧縮フィルタ366に入力される。一方、後に送受信がなされた受信信号(例えば虚数部受信信号342)は直接パルス圧縮フィルタ366に入力される。パルス圧縮フィルタ366では、こうして入力される実数部及び虚数部の受信信号に対してパルス圧縮を行い、振幅演算器368は振幅計算を行う。さらにLog演算器370が可視化のための対数演算圧縮を行い、ゲイン・コントラスト・リサンプリング部372が対応する処理を行って画像構成部22に出力する。
図22は、パルス圧縮フィルタ366の詳細を説明するブロック図である。パルス圧縮フィルタ366には、複素FFT部380、複素乗算部382、複素逆FFT部384が直列に接続されている。これらは、各二つの入力部と出力部を有しており、それぞれ実数部及び虚数部の受信信号の入力と出力に用いられる。複素FFT部380は、バンドパスフィルタ362と遅延メモリ364から入力した二つの受信信号(例えば、実数部受信信号340,虚数部受信信号342)のそれぞれをソフトウエア的またはハードウエア的に高速フーリエ変換(FFT)して周波数の情報にする。この周波数の情報に対しては、記憶領域に記憶された複素パルス圧縮フィルタ係数386との乗算処理がなされる。そして、複素逆FFT部384において複素逆FFTが行われ、再度時間軸上の振幅情報に変換される。
以上の処理において複素FFT及び複素逆FFTを行ったのは、計算効率を考慮したためであり、各受信信号に対し別々にFFT処理及び逆FFT処理を行っても良い。また、パルス圧縮をフーリエ変換により得られた周波数情報に対して行ったのは、一般に計算効率の向上と回路構成の簡略化が図れるからである。
図23には、パルス圧縮フィルタ366の別の構成例を示した。この構成は、周波数成分に対してではなく、時間軸上のデータ自体に対してパルス圧縮を実施するためのものである。パルス圧縮フィルタ366は、バンドパスフィルタ362と遅延メモリ364からの入力に対応して、二つのFIR(Finite Impulse Response)フィルタ390,392を備えている。各FIRフィルタ390,392には、記憶部に記憶された実数部用フィルタ係数394,396が与えられ、パルス圧縮が行われる。同じフィルタ係数によってパルス圧縮を行っているのは、実数部及び虚数部が同じ方式で線形FMを受けているとの理由による。得られた結果は、複素振幅器368に入力される。なお、この構成においては、遅延メモリ364による処理をパルス圧縮フィルタ366による処理の後で行ってもよい。
この態様においては、同一の地点に対して2回の信号送信を行うことによるフレームレートの低減が生じてしまう課題があるものの、きわめて高精度な超音波診断を行うことができる。また、解析精度の向上の結果として、SNR改善度合いの劣化低減やレンジサイドローブレベルの低減が期待できる。
[第5の態様]
第5の態様は、第4の態様を変形し、各送信信号の送信方向の間において、両側の送信信号を利用して受信処理を行うようにしたものである。すなわち、第4の態様と同様に、アレイ探触子14からは、一方向を進行方向とし、その途上に一つの焦点を有する超音波が送波される。しかし、同一方向には実数部または虚数部のいずれか一つの超音波しか送波されない。その代わりに、ここでは、近傍方向についての実数部と虚数部のセットを用いて、それらの方向付近における受信処理を行っている。
図24は、図20と同様の図であり、送信信号の送信シーケンスと受信信号との対応関係を示す模式図である。ここでは、実数部と虚数部の送信超音波が、次々と一つ飛ばしに各方向に送波されている。すなわち、実数部送信400,虚数部送信402,実数部送信404,虚数部送信406,実数部送信408,虚数部送信410が、それぞれ、送信方向#N,#(N+2),#(N+4),#(N+6),#(N+8),#(N+10)に送波されている。焦点は、第4の態様と同様に各一つである。
対応する受信処理は、各方向間に設定された箇所に対して行われる。すなわち、方向#Nへの実数部送信400に基づいて、方向#(N−1)について実数部受信信号420の解析が行われるとともに、方向#(N+1)について実数部受信信号422の解析が行われる。また、方向#(N+2)の実数部受信信号402に基づいては、方向#(N+1)と方向#(N+3)についてそれぞれ虚数部受信信号424,426の解析が行われる。この結果、方向#(N+1)については、実数部受信信号422と虚数部受信信号424からなる複素信号が構成される。同様にして、方向#(N+3)については、虚数部受信信号426と実数部受信信号428からなる複素信号が、方向#(N+5)については、実数部受信信号430と虚数部受信信号432からなる複素信号が構成される。なお、一番端の方向(この図で言えば方向#(N−1)の実数部受信信号420)については、対となる受信信号がない。このような場合には、この方向について解析を行わないようにしてもよいし、通常の直交検波を利用した信号処理を行うなど適宜別処理をしてもよい。
図25は、受信信号の処理構成を説明するブロック図である。この構成は、図21に示した第4の態様を変形したものであり、同一の構成には同一の番号を付して説明を省略する。図25において特徴的な点は、受信プリアンプ16aより信号入力を受け付ける二つの受信ビームフォーマ部440,442を備えている点である。これらに対しては、それぞれバンドパスフィルタ(BPF)444,446が取り付けられている。そして、一方のバンドパスフィルタ444からは直接、他方のバンドパスフィルタ446からは遅延メモリ364を経由してパルス圧縮フィルタ366に出力が送られる。
受信ビームフォーマ部440とバンドパスフィルタ444、及び、受信ビームフォーマ部442とバンドパスフィルタ446は、それぞれ、各送信信号に基づいて、受信信号の処理を行う。例えば実数部送信400に基づいて、前者は実数部受信信号429を得てパルス圧縮フィルタ366に出力し、後者は実数部受信信号422を得て遅延メモリ364に出力する。そして、次に、虚数部送信402に基づいて、前者は虚数部受信信号424を得てパルス圧縮フィルタ366に出力し、後者は虚数部受信信号426を得て遅延メモリ364に出力する。このとき、それ以前に遅延メモリ364に記憶されていた実数部受信信号422はパルス圧縮フィルタ366に出力される。この結果、パルス圧縮フィルタ366には、方向#(N+1)についての実数部受信信号422と虚数部受信信号424が入力される。以下、パルス圧縮等が行われ、この方向#(N+1)についてのパルス圧縮等がなされる過程は、図21を用いて説明した通りである。同様にして、実数部送信#(N+4)がなされると方向#(N+3)についての複素信号のセットに基づく信号処理がなされ、虚数部送信#(N+6)がなされると方向#(N+5)についての複素信号のセットに基づく信号処理がなされる。
なお、図25に示した構成では、2系統設けられた受信ビームフォーマ部440,442及びバンドパスフィルタ444,446で同じ処理が重複して行われる。この代わりに一系統のハードウエアだけを用意し、時分割処理を行ったり、重複する計算結果をメモリに格納したりするようにしてもよい。
この第5の態様では、第4の態様と異なり、同一方向に超音波を重複して送波することがないため、フレームレートの低下を防ぐことが可能となる。
[第6の態様]
第6の態様は、第4の態様を変形し、各送信超音波において二つの焦点を設定したものである。すなわち、アレイ探触子14からは、進行方向は一方向であり、その途上に第2の態様と同様に複数の焦点を有する超音波が送波される。各方向について、実数部と虚数部の二つの送信がなされる点は、第1の態様と同様である。
図26は、送信信号の周波数スペクトルを模式的に示した図である。横軸は周波数であり、縦軸は各周波数成分のパワーの大きさを示している。送信信号においては、第2の態様で説明したように、焦点毎に異なる周波数が与えられており、浅い部位用の中心周波数は深い部位用の中心周波数よりも高く設定されている。そして、ここでは、線形FM処理によりその周波数スペクトルの帯域が広げられており、さらに、ガウス関数を作用させることでその形状も変形されている。
この結果、浅い焦点についての送信信号である浅部用送信信号帯域490は高周波側において山型の分布をなしており、深い焦点についての送信信号である深部用送信信号帯域492は低周波側において山型の分布をなしている。これらの分布は、アレイ探触子14が送信可能な探触子帯域494のほぼ全域に広がるように設定され、また互いの周波数帯がほとんど重ならないように設定されている。なお、例えば浅い位置と深い位置とで異なる空間分解能を均一化するように、各帯域幅を調整するなど、周波数分布を適宜変更することも有効である。
図27は、図20に対応した図であり、この態様における送信信号の送信シーケンスと受信信号との対応関係を示す模式図である。ここでは、各方向について、実数部及び虚数部の送信が行われる。すなわち、方向#Nに対しては実数部送信450,虚数部送信452が、方向#(N+1)に対しては実数部送信454,虚数部送信456が、方向#(N+2)に対しては実数部送信458,虚数部送信460が送信される。各送信においては、二つの焦点が設定されている。例えば、実数部送信450については、焦点450a,450bが設定され、虚数部送信452については、焦点452a,452bが設定される。
送信した各超音波に対しては、第4の態様と同様にそれぞれの方向についての受信信号が算出される。この結果、方向#Nに対しては実数部受信信号470,虚数部受信信号472が、方向#(N+1)に対しては実数部受信信号474,虚数部受信信号476が、方向#(N+2)に対しては実数部受信信号478,虚数部受信信号480が得られる。各方向におけるこれら二つの信号は、複素信号を構成するセットとして解析処理される。
図28は、図21に対応した図であり、受信信号の処理構成を説明するブロック図である。同一の構成には同一の番号を付して説明を省略する。ここで特徴的な点は、受信ビームフォーマ部360からの出力が2系統の構成によって処理される点である。一系統は、バンドパスフィルタ500、遅延メモリ502、パルス圧縮フィルタ504、振幅演算器506を備える。また、もう一系統は、バンドパスフィルタ510、遅延メモリ512、パルス圧縮フィルタ514、振幅演算器516を備える。振幅演算器506と振幅演算器516の出力はともに振幅合成器508に入力されて合成され、その結果は、Log演算器370及びゲイン・コントラスト・リサンプリング部372で処理される。
バンドパスフィルタ500は、受信信号から、図26に示した浅部用送信信号帯域490に対応した帯域の信号を取り出す。一般に受信信号の周波数帯域は、送信信号の周波数帯域と同程度である。ドプラシフトが発生する場合にも、一般にその変化の程度は小さい。したがって、バンドパスフィルタ500においては、焦点を浅く設定した送信信号に対応した受信信号が選別されることになる。同様にして、バンドパスフィルタ510は、受信信号から、図26に示した深部用送信信号帯域492に対応した帯域の信号を取り出す。
各系統においては、図21を用いた説明と同様にして処理が行われる。そして、両結果は、振幅合成器508において合成される。すなわち、浅い部位に対しては焦点の浅い送信信号に対応した振幅演算器506の出力結果が用いられ、深い部位に対しては焦点の深い送信信号に対応した振幅演算器516の出力結果が用いられる。そして、両焦点間では、両者の出力を滑らかに結合させ、一本のビーム情報に合成する。
この態様においては、第4の態様が備える特徴に、複数の焦点をもつことによる深さ方向の精度向上の特徴が加わり、いっそうの高精度化が実現する。
[第7の態様]
第7の態様は、第5の態様と第6の態様を組み合わせたものである。すなわち、第5の態様と同様に、実数部送信と虚数部送信を次々と異なる方向に向けて行い、受信処理はその間の方向について、両側の実数部送信及び虚数部送信に基づいて行う。また、各送信は、第5の態様と同様に一方向に向けて二つの焦点をもつ超音波を送波することで行う。
図29は、図24に対応する図であり、送信信号の送信シーケンスと受信信号との対応関係を示す模式図である。ここでは、実数部と虚数部の送信超音波が、次々と一つ飛ばしに各方向に送波されている。具体的には、実数部送信520,虚数部送信522,実数部送信524,虚数部送信526,...が、それぞれ、送信方向#N,#(N+2),#(N+4),#(N+6),...に送波されている。各超音波には、第6の態様と同様に二つの焦点が設定されている。例えば、実数部送信520には浅部焦点520aと深部焦点520bが、虚数部送信522には浅部焦点522aと深部焦点522bが設定されている。
対応する受信処理は、各方向間に設定された箇所に対して行われる。例えば、方向#(N+1)においては、方向#Nの実数部送信520に基づく実数部受信信号530と、方向#(N+2)の虚数部送信522に基づく虚数部受信信号532をセットにして解析が行われる。また、方向#(N+3)においては、方向#(N+2)の虚数部送信522に基づく虚数部受信信号532と、方向#(N+4)の実数部送信524に基づく実数部受信信号534をセットにして解析が行われる。
図30は、受信信号の処理構成を説明するブロック図である。この構成は、図25に示した構成及び図28に示した構成を組み合わせたものであり、同一の構成には同一の番号を付して説明の簡略化あるいは省略化を行う。
ここでは、受信信号は、二つに分けられて受信ビームフォーマ部440と受信ビームフォーマ部442に入力されて、それぞれ整相加算される。そして、受信ビームフォーマ部440の出力は、バンドパスフィルタ542とバンドパスフィルタ546に出力される。バンドパスフィルタ542は、焦点を浅く設定された超音波の周波数帯域を通過させるフィルタであり、その結果をパルス圧縮フィルタ504に出力する。また、バンドパスフィルタ546は焦点を深く設定された超音波の周波数帯域を通過させるフィルタであり、その結果をパルス圧縮フィルタ514に出力する。
一方、受信ビームフォーマ部442の出力は、遅延メモリ540に入力されて一回の送信間隔分だけ遅延されたのち、バンドパスフィルタ544とバンドパスフィルタ548に出力される。バンドパスフィルタ544は、焦点を浅く設定された超音波の周波数帯域を通過させるフィルタであり、その結果をパルス圧縮フィルタ504に出力する。また、バンドパスフィルタ548は焦点を深く設定された超音波の周波数帯域を通過させるフィルタであり、その結果をパルス圧縮フィルタ514に出力する。
これにより、パルス圧縮フィルタ504では焦点が浅く設定された送信信号に対応する受信信号の処理が行われる。また、パルス圧縮フィルタ514では焦点が深く設定された送信信号に対応する受信信号の処理が行われる。両者は振幅合成器508で合成により一本のビーム情報にされてLog演算器370に出力される。
この第7の態様によれば、第6の態様におけるフレームレートの低下を回避することが可能となる。なお、重複する装置構成については、時分割処理を行って簡略化することができる。
以上に示した第4〜第7の態様の他にも、様々な変形例を実施することができる。例えば、第3の態様のように、複数の方向に同時に超音波を送信する場合にも、パルス圧縮の手法を導入したり、隣接する方向に送波された実数部と虚数部の超音波に基づいて受信信号のセットを構成したりすることができる。
なお、以上の説明においては、複素表現される実数部及び虚数部の送信信号を用いる場合を例示した。しかし、複素表現は、直交関係に二つの信号を表現するための一つの表現形式に過ぎず、例えばcos関数とsin関数を利用した実数表現形式を用いることも可能なことは言うまでもない。
10 超音波診断装置、12 送信部、14 アレイ探触子、16 受信部、20 ビームデータ処理部、22 画像構成部、24 表示部、30 波形発生器、34 変換器、36 増幅器、50 超音波ビーム、60 アドレス発生器、62 送信波形メモリ、64 実数送信波形データ、66 虚数送信波形データ、68 D/A変換器、70 送信アンプ、80 BPF、82 メモリ、84 ベクトル振幅演算器、86 Log演算器。