〔実施の形態1〕
本実施の一実施形態について図1、図7(a)から図9および図11から図13に基づいて説明すると以下の通りであるが、本発明はこれに限定されるものではない。
図1(a)は磁気情報を記録する記録用の光アシスト用磁気ヘッド1と、光アシスト媒体50が設けられた基板52とを横から見た断面図であり、図1(b)は光アシスト用磁気ヘッド1の記録面を光アシスト媒体50側から見た平面図となっている。光アシスト用磁気ヘッド1は、基板52上に形成された光アシスト媒体50に、記録マーク51を書き込み、磁気記録情報を記録するものである。
図1(a)・(b)に示すように、光アシスト用磁気ヘッド1は、光源10(図中直方体形状)と、磁界発生機構11(図中直方体形状)を備えており、これらは隣接して配置される。また、上記光アシスト用磁気ヘッド1の記録面は、基板52上に形成された光アシスト媒体50の表面対向しており、各面は互いに水平となるように配置されている。
光アシスト媒体50の走査方向15(図中矢印で記載)は、光アシスト用磁気ヘッド1を基準として、光源10から磁界発生機構11へ向かう方向に設定されている。なお、以下の説明では、説明の便宜上、「光アシスト媒体50の走査方向15」を適宜「走査方向15」と略す。光源10の光アシスト媒体50の対向面には、金属膜12が備えられており、磁界発生機構11の光アシスト媒体50の対向面には、電磁変換部である記録磁極17が備えられている。この記録磁極17は、金属膜12と隣接する部分に配置される。図1(b)では、金属膜12と隣接するほぼ中央部に配置されている。
さらに、上記金属膜12には、光学的開口13が3箇所形成されており、上記光学的開口13は、記録磁極17と対向し走査方向15に沿って、複数並べられている。また、上記光源10から照射される光の偏光方向16は走査方向15に対し平行である。
光源10は、発光源を有しているものであれば特に限定されるものではない。光源10としては、例えば、レーザー光源を有していればよい。また金属膜12へ光を導入するための光学的集光部材を備えていてもよい。光学的集光部材は、透明誘電体で形成された導波路や集光レンズなどで構成されたもので、発光源で発生した光を効率よく金属膜12へと導く役割をもつ。本実施の形態では、光源10として波長405nmの半導体レーザーを用いるとともに、光学的集光部材として図示しないが集光レンズを用いている。
図1(a)では光源10は光アシスト用磁気ヘッド1と一体型となっているが、別の部材として、光アシスト用磁気ヘッド1とは分かれた外部光源を持つ構成となっていてもよく、その場合でも本発明の効果は同様である。
一例として、図示しないが、光アシスト用磁気ヘッド1は、複数の光学的開口13を備えた金属膜12を備えており、この複数の光学的開口13に光を照射するための、外部光源を備えていてもよい。外部光源は、レーザーなどの発光源と、集光レンズと、光学的開口13に常に光を当てるためのサーボ機構等とを備えていれば良い。外部光源を備えることにより、例えば、使用する発光源の変更・発光源の老朽化による取り替えを容易に行うことができる。
金属膜12は、光源10からの光を光アシスト媒体50に伝えないようにする役割を持つ。金属は大きい吸収損失をもっているため、厚みが50nm程度あれば、90%以上の光を遮ることが可能で、金属膜12として使用可能である。なお、金属のみで金属膜12を形成した場合、強度不足になりやすい。このため、例えば、金属膜12は、光源波長に対して透明な材質(例えばガラス基板など)上に、スパッタ成膜や蒸着などの薄膜形成方法で金属を成膜して作製することができる。
金属膜12の材質としては、その材質が、銀(Ag)、金(Au)、アルミニウム(Al)、白金(Pt)、銅(Cu)、またはこれらの材質を含む合金が用いられていることが好ましい。本実施の形態では、最も好ましい例として銀(Ag)を挙げることができるが、もちろんこれに限定されず、要求する遮光性等の物性に応じて適切な金属や合金を選択することができる。
上述した金属は誘電率の実部の符号がマイナスで値が大きく、かつ、誘電率の虚部が小さい材質であるため、本発明では、金属膜12として好適に用いることができる。上述した金属を用いて形成される金属膜12は、光学的開口13周辺に表面プラズモンポラリトンが励起しやすくなるため、近接場61の増強が期待できる。
本実施形態では、例えば、として、0.1mmのガラス基板上に銀(Ag)を50nm、スパッタ装置で成膜したものを好ましく用いることができる。
上記表面プラズモンポラリトンとは、金属表面に生じる電子波(plasmon)のことである。一般に光は電子波とは共鳴しないが、金属表面では近接場と共鳴を起す電子波のモードが生じる。このため、近接場と表面プラズモンポラリトンとの間に強めあう、または、弱めあうといった相互干渉が生じる。この表面プラズモンポラリトンを有効的に利用すると近接場の増強が可能となる。
なお、用語「近接場」はその名の通り近接の(電磁)場のことであり、用語「近接場光」はその近接場に存在する光(電磁波)である。このため、用語「近接場」と「近接場光」との明確な意味の違いはなく、同義の用語とし、本明細書では、用語「近接場」を用いることとする。
光学的開口13は、光源10からの伝播光を近接場に変換し、光アシスト媒体50に伝える役割を果たすものである。近接場61を発生させるため、その径の上限は光源波長以下の微細なものでなくてはならない。一方、光学的開口13の径の下限は特に限定されるものではなく、伝播光を近接場に変換することが可能な程度の径であればよい。好ましくは、光源波長の1/2以下であり、より好ましくは光源波長の1/4以下である。本実施の形態では、光源波長が400nmのレーザー光源を用いているので、光学的開口13の径は200nm以下の範囲内であればよく、100nm以下の範囲内がより好ましい。この範囲内であれば、効率的に近接場を発生することが可能である。
また、光学的開口13は、記録磁極17に近接した位置に形成されることが好ましい。記録磁極17から離れた位置にある光学的開口13で光アシスト媒体50を加熱昇温すると、記録磁極17の位置に来たときには熱が拡散してしまい、温度分布をなだらかにしてしまう。
光学的開口13の形成数は特に限定されるものではなく、光アシスト媒体50の走査速度・材質(熱伝導度等)・厚み、光学的開口13の形状・大きさなどによって、最適な形成数を設定すればよい。例えば、本実施の形態では、図1(b)に示すように、円形の光学的開口13が3箇所の構成を好ましく例示するが、光学的開口13の数が2箇所または4箇所以上であってもよい。本発明では、光学的開口13を設けることによる作用効果と、光学的開口13を形成するコストの両面から見れば、一般的には、3箇所設けることが好ましい。
光学的開口13の数が増えるほど、光アシスト媒体50を加熱昇温しやすくなるが、後述する温度分布の幅は広がる傾向がある。この温度分布の幅が記録マーク51の幅を決定するため、数を増やせばより効果があるわけではない。したがって、本発明において、金属膜12に形成される光学的開口13の数は、要求する温度分布の幅や、金属膜12の材質等の諸条件に基づいて適宜設定することができる。
光学的開口13の形成位置としては、記録磁極17と対向し走査方向15に沿って、複数並べられていることが好ましい。上記の形成位置であることにより、光アシスト媒体50の同じ箇所を光学的開口13で繰り返し加熱昇温することができ、記録磁極17の位置における光アシスト媒体50の温度分布の幅を狭めることができる。その結果、記録マーク51の幅を短くすることが可能である。
光学的開口13の形状は円形に限定されるものではなく、四角形や多角形であってもよい。近接場61の分布は、光学的開口13の形状に似た分布となるが、光学的開口13が多角形である場合には、そのエッジ部分である頂点周辺の強度が高くなる傾向がある。このため、光学的開口13の形状も、記録マーク51の幅に影響を与える可能性がある。したがって、本発明における光学的開口13の形状は、要求される近接場61の分布状態や、記録マーク51の幅等といった諸条件に応じて、適切な形状を選択することができる。一般的には、上記のように円形が最も作製しやすい。
複数の光学的開口13同士の間隔は、所定の間隔(一定の間隔)に限定されるものではない。ただし、後述のように、近接場増強を行う場合には、光学的開口13同士の間隔は光源波長λの1/10以上1/2以下であることが好ましい。これにより、光学的開口13から発生する近接場の強度を増強できるという利点がある。図1(b)に示した本実施の形態では、同形状の光学的開口13が3箇所に等間隔で形成されているが、この間隔が異なっても、本発明の効果は得られる。
しかし、光アシスト媒体50の走査速度は一定なため、光アシスト媒体50に与える熱量が、時間的に一定ではなくなってしまう。この結果、温度分布の幅の変動が生じる原因となるため、光学的開口13の大きさが各々異なっていても同様の現象が生じてしまう。
このため、光学的開口13は3箇所以上であり、所定間隔で形成されていることが特に好ましい。これにより、光アシスト媒体50に与える熱量を、時間的に一定とすることができ、温度分布の変動をさらに抑えることができる。
この温度分布の幅の変動は少ないほど、少ないエネルギーで所望の温度に加熱昇温できるので、変動が大きいと余計なエネルギーが必要となるため、エネルギー効率が落ちてしまう。また、後述する表面プラズモンポラリトンを用いた近接場の増強効果を行う場合でも、光学的開口13は同形状なものが等間隔で並んでいることが好ましい。
金属膜12上に、光学的開口13を設けるための微細加工を行う手段としては、FIB(フォーカスイオンビーム)装置を用いる方法や、エッチングを用いる方法などを用いることができる。また、光学的開口13の内部は、理想的には、全て空気や透明誘電体等の透明体であることが望ましい。ただし、光学的開口13の内部が完全に貫通している必要はなく、例えば10nm程度の金属膜が残っていても、光を透過し近接場を発生することが可能である。
本実施形態では、銀(Ag)の表面側から、FIB装置で直径100nmの円形の穴を3箇所加工しているが、もちろんこれに限定されるものではない。また、穴の深さは銀(Ag)の膜厚である50nm以上として、ガラス基板まで光学的開口13は貫通して形成されているが、もちろんこれに限定されるものではない。なお、光学的開口13の内部は空気で満たされている。
近接場61は、光学的開口13周辺に発生し、その分布形状は、光学的開口13と同程度の形状となる。光学的開口13と垂直の方向には、光学的開口13の径程度までの距離に存在する。周波数は、光源10からの光の周波数と同一である。存在する範囲が非常に狭いため、近接場61で光アシスト媒体50を加熱するためには、光学的開口13と光アシスト媒体50の距離を可能な限り短くする必要がある。
このため、金属膜12は金属膜側を光アシスト媒体50側に設置することが特に好ましい。また、ハードディスクのフライングヘッド技術によって、光アシスト用磁気ヘッド1と光アシスト媒体50の距離を数10nm程度に保つことが特に好ましい。
上記光アシスト用磁気ヘッド1の磁界発生機構11には、上述したように記録磁極17が設けられているが、この記録磁極17の具体的な構成は特に限定されるものではない。例えば、本実施の形態では、その周りにコイルを巻いたパーマロイからなる構成を用いている。なお、記録磁極17以外の磁界発生機構11の構成も特に限定されるものではなく、公知の構成を好適に用いることができる。
磁界発生機構11は、記録磁極17から記録磁界を発生させる役割を持つ。記録磁極17のコイルに電流を流すことで、記録磁極17の先端に記録磁界が発生する構造となっている。電流の向きで、発生する記録磁界の向きを変更している。
基板52は、光アシスト媒体50を支持するものであれば、その具体的な形状や材質等は得に限定されるものではなく、公知の形状や材質を適宜選択して用いることができる。例えば、本実施の形態では、平滑なガラスディスク等が用いられる。
光アシスト媒体50は、温度の上昇により保磁力の低下もしくは、漏洩磁束が大きくなる媒体である。構成としては、基板52の表面に、軟磁性層、磁気記録情報の存在する面としての磁性膜、及び保護潤滑層をこの順に配したものである。なお、本実施の形態では、この光アシスト媒体50は、説明の簡便のために、磁性膜がその表面に垂直な方向に磁化容易軸を持つ理想的な垂直光アシスト媒体であるとする。
また、光アシスト媒体50の保磁力に関しては、その表面に垂直方向に印加される磁界に関する保磁力のみを考慮し、これを単に光アシスト媒体50の保磁力と呼ぶ。
光アシスト媒体50の保磁力は、室温では磁界発生機構11から発生される磁界以上であり、磁界発生機構11から発生される磁界では磁化反転しないようになっている。光アシスト媒体50を近接場61で加熱昇温すると、温度上昇と共に保磁力が低下し、磁界発生機構11から発生される磁界で磁化反転可能となる。保磁力が低下した部分のみ、磁化反転が行われ記録マーク51を書き込むことができるため、記録マーク51の幅は、記録磁界の幅(記録磁極17の幅とほぼ同等)によらず、加熱昇温によって保磁力が低下した部分の幅と同程度になる。
光アシスト媒体50は、走査方向15の方向に回転しており、光アシスト媒体50の速度は一定速度であることが好ましい。
光アシスト媒体50がディスク等であり、その速度がディスク半径によって変化する場合には、同じ強度の近接場61で光アシスト媒体50を加熱昇温しても、光アシスト媒体50上の温度分布は変化する。この場合、光アシスト媒体50の速度に応じて光源10の強度を調整することで、温度分布を一定に保つことが可能である。
まず、光アシスト媒体50は近接場61で加熱昇温される。光アシスト媒体50上に形成される、記録磁界以下の保持力となるまで加熱昇温された部分(温度分布)に、記録磁極17から発生する記録磁界を印加すると、記録マーク51が形成される。そのため、記録マーク51の形状・幅は温度分布に準ずるものである。温度分布の幅を短くすることは、記録マーク51の幅を短くすることと同意である。
また、記録磁極17から発生する記録磁界の方向を切り替えることで、記録マーク51の長さを任意に設定することもできる。つまり、記録マーク51の長さは、光アシスト媒体50の走査速度と、磁界発生機構11の記録磁界反転速度によって決定し、光アシスト媒体50の走査速度が速いほど長く、磁界発生機構11の記録磁界反転速度が速いほど短くなる。
上述したように、高密度記録を行うためには、記録マーク51の長さと幅とを短くする必要があるが、本発明の実施形態に係る光アシスト用磁気ヘッド1によれば、記録マーク51の幅を短くすることができる。換言すれば、本技術は、光アシスト媒体50上の加熱昇温された温度分布の幅を短くするための技術である。
本実施の形態では、図1(a)において上述した記録用の光アシスト用磁気ヘッド1において、磁界発生機構11を磁気再生機構に、電磁変換部である記録磁極17をGMRおよびTMR素子等の磁気センサーに変更することで、高密度な再生を可能とする再生用のものを提供することもできる。
高密度再生に対応する光アシスト媒体50の特性は、例えば、磁気補償温度が室温近傍にあればよい。この媒体は、室温で漏洩磁束が小さく、温度が上昇するに従い磁化が大きくなり漏洩磁束が磁気センサーで検出可能となる。ここでの加熱昇温する温度は、記録時よりも小さな温度であるため、熱により記録マークが消去されることはない。昇温範囲でのみ漏洩磁束が発生し、昇温範囲外からは磁界が発生しないため、磁気センサーより短い幅の記録マークからの磁気信号を、再生することが可能となる。
また、光アシスト用磁気ヘッド1は、磁界発生機構11に加えて図示しない磁気再生機構を共に備えていても良い。この場合、近接場発生機構(本実施の形態の場合、光源10)、磁界発生機構11、磁気再生機構の順で配置されていることが望ましい。記録時に必要な温度と再生時に必要な温度では、記録時に必要な温度のほうが高いため、光アシスト媒体50の加熱昇温に用いる近接場発生機構と磁界発生機構11が隣接しているほうが、近接場の出力を低く抑えることができる。
次に、表面プラズモンポラリトンの共鳴について以下に説明する。
表面プラズモンポラリトンは一般に光は電子波とは共鳴しないが、金属表面では近接場と共鳴を起す電子波のモードが生じる。このため、近接場と表面プラズモンポラリトンの間に強めあったり弱めあったりといった相互干渉が生じる。この表面プラズモンポラリトンを有効的に利用すると近接場の増強が可能となる。
一つの光学的開口13から発生する近接場の強度を増強すると、金属膜12上の光学的開口13以外の場所と、光学的開口13周辺の近接場発生部との温度差を大きくすることができる。その結果、光アシスト媒体50上の温度分布をより急峻にすることができ、記録マーク幅を短くすることができる。
金属膜12上の光学的開口13以外の場所においても、光源10からの光が照射されることによって熱が生じており、光源10の強度を上げるほど、その発熱量も増えてしまう。同じ強度の近接場61を、少ない光源10の出力で発生させることができれば、光学的開口13以外の場所における発熱を低減することができる。
図1(b)に示す光アシスト用磁気ヘッド100のように、光学的開口13が所定間隔で並んでいる場合、光源10から照射される光は直線偏光で、かつ、偏光方向16は光学的開口13の並んでいる方向と平行であることが好ましい。
これにより、複数の光学的開口13で生じた表面プラズモンポラリトンが互いに共鳴し、それぞれの光学的開口13から出力される近接場61を増強することができる。この近接場61の増強率は、直線偏光の波長と光学的開口13の間隔によって大きく異なる。
光源10から照射される光は、厳密に直線偏光でなくともよい。上記表面プラズモンポラリトンの共鳴が生じる条件であればよく、略直線偏光であってもよい。同様に、直線偏光の偏光方向16は厳密に平行でなくともよく、上記表面プラズモンポラリトンの共鳴が生じる条件であれば、略平行であってもよい。
この近接場61の増強が生じる理由は以下のように推測される。光学的開口13で生じた近接場61は、表面プラズモンポラリトンと共鳴し、金属膜12表面を伝播する。その伝播方向は、入射光の偏光方向(光の電場振動方向)と平行な面内となる。
金属膜12上に他の光学的開口13が存在すると、表面を伝播する波(表面プラズモンポラリトンや近接場)が反射・散乱する。光学的開口13が伝播方向に所定間隔(周期)で存在すると、各光学的開口13で反射・散乱した波は干渉を起す。光学的開口13の周期が表面を伝播する波を強める条件であるとき、光学的開口13で発生する近接場61の強度は増強される。つまり近接場61の増強には表面プラズモンポラリトンが重要な役割を担っており、表面プラズモンポラリトンの伝播範囲内に光学的開口13が存在しないと、近接場61の増強は生じない。例えば、金属膜12の材質を表面プラズモンポラリトンが生じにくく伝搬しにくいタンタル(Ta)などに変更すると、近接場61はほとんど増強されない。
この増強率は金属膜12の厚みや表面形状によって大きく変化する。光学的開口13や微小表面形状の周期と増強される波長領域には一定の関係があるため、増強を行うには、光源10の波長によって最適な周期を選ぶ必要がある。
例えば、光学的開口13の中心間の間隔を100nmとすることで、各光学的開口13から出力される近接場61の強度が、光学的開口13が単体で存在するときよりも増強される。ただし、この条件は、金属膜12の材質や膜厚などによっても異なるため、条件が異なると最適な間隔も異なる。
表面プラズモンポラリトンは、金属表面の状態によって励起状態が大きく異なる。金属表面は滑らかである程、表面プラズモンポラリトンが金属表面を伝播しやすく、近接場の増強度も大きくなる。表面プラズモンポラリトンを励起するのに最も適した金属は銀(Ag)であるが、銀は非常に酸化しやすく、時間が経つと表面形状が荒れてしまう。
その結果、表面プラズモンポラリトンが伝播しにくくなってしまい、近接場増強効果も急激に悪化してしまう。
上記酸化を防止するために、上記金属膜12の表面に、誘電体薄膜が積層されていれもよい。誘電体薄膜の材料としてはAlN、SiN、SiO2といった公知の無機系材料を挙げることができるが、これに限定されるものではない。この誘電体薄膜を、金属膜12上に数nm積層することで、金属の酸化を防止することができるが、その積層方法も特に限定されず、化学蒸着法(CVD)やスパッタリング等の公知の方法を好適に用いることができる。誘電体薄膜を設けることで、表面プラズモンポラリトンは若干励起しにくくなってしまうが、酸化による経時変化が少なくなるため、金属膜12の耐久性が増す。
本実施の形態では、さらに、上述した光アシスト用磁気ヘッド1を備える磁気記録装置を提供することができる。
磁気記録装置としては、ハードディスクドライブなどを挙げることができる。これらにおいて、大容量の記録情報を扱うことが可能となる。
次に、本実施の形態にて説明した光アシスト用磁気ヘッド1について、その特徴をより明確とするために、従来の光アシスト用磁気ヘッド100・200(背景技術の項他参照)とを比較した具体例としてより詳細に説明する。なお、本発明は、以下の具体例に限定されるものではない。当業者は本発明の範囲を逸脱することなく、種々の変更、修正、および改変を行うことができる。
まず、本実施形態に係る光アシスト用磁気ヘッド1の第1の具体例1について、図7(a)・(b)を用いて、より具体的に説明する。
前述したように、本実施形態に係る光アシスト用磁気ヘッド1では、光源10に波長405nmの半導体レーザーを用いるとともに、光学的集光部材として集光レンズを用いており、基板52として、0.1mmのガラス基板を用い、金属膜12として、銀(Ag)を50nm、スパッタ装置で成膜したものを用いている。この金属膜12には、銀(Ag)の表面側から、FIB装置を使用し、直径100nmの円形の光学的開口13を3箇所に形成している。光学的開口13の深さは銀(Ag)の膜厚である50nm以上として、ガラス基板まで光学的開口13は貫通して形成されている。光学的開口13の内部は空気で満たされている。
図7(a)は光アシスト用磁気ヘッド1を光アシスト媒体50側から見た光学的開口13の形状および配置を示す模式図である。また、図7(b)は光アシスト媒体50上の温度分布19aを示す模式図である。
図7(b)において温度分布19a中の3つの曲線は、それぞれ外側より低温部、中温部、高温部を表している。この温度分布は、光学的開口13に入射する光の強度や、光アシスト媒体50の走査速度、光アシスト媒体50の熱伝導率などによって形状や分布の大きさが異なる。ここで示した温度分布は、一例である。
図7(a)に示すように、本実施形態に係る光アシスト用磁気ヘッド1では、走査方向15の方向と平行に、光学的開口13が3箇所に所定間隔で形成されている。光アシスト媒体50は常に一定速度で走査方向15(図右方向)に移動している。このため、まず左側の光学的開口13から発生する近接場61によって加熱昇温された光アシスト媒体50は、次に、真中の光学的開口13の位置に移動し、そこでも近接場によって加熱昇温される。さらに右に移動すると、右側の光学的開口13の近接場61でさらに加熱昇温される。この結果、温度分布19aの形状は、図7(b)に示すように、走査方向15に沿って伸び、かつ、走査方向15に直交する方向には略一定の幅を持った帯状の形状となる。
記録マーク51は、光学的開口13の図右方向である走査方向15の方向に設置した記録磁極17の位置で記録されるため、記録磁極17が設置されている光学的開口13の右側における温度分布19aが記録マーク51に影響を与える。図7(b)に示す温度分布19aの形状では、光学的開口13の右側部が十分加熱昇温されており、記録マーク51が形成可能である。また、光学的開口13の左側部においても温度分布が末広がりとならず、光学的開口13とほぼ同等の幅となっていることから、記録マーク51の幅を短くすることが可能となり、高密度な記録が可能である。
ここで、本実施形態において、複数の光学的開口13を代表的な配置にした場合について、計算モデルにより、光アシスト媒体上の温度分布を計算する。計算モデルとして、図8(a)に示すように、2次元媒体上に光学的開口13に対応した熱源18を設け、光アシスト媒体50を一定速度で移動した場合を用いる。この計算モデルについて、有限要素法解析を用いて、光アシスト媒体50上の温度分布19bについて計算する。図8(b)に示す温度分布19bがその計算結果である。
上記計算モデルについて具体的に説明すると、図8(a)に示すように、平板上に一辺100nmの正方形の熱源18を2つ設け、熱源18を固定した状態で、平板を走査方向15の方向に一定速度で移動させるものである。平板の材質にはTbFeCo合金を用い、材料物性値として、密度:7874(kg/m3)、比熱:0.435(J/g・K)、熱伝導率:84(W/m・K)を用いている。また、熱源18の温度を300℃、平板の環境温度を25℃とし、移動速度を20(m/s)としている。図8(b)に示すように、上記計算モデルによる温度分布19bでは、熱源18の箇所が最も温度が高く外周部になるほど温度が低くなる等温度曲線となっている。
次に、上記具体例に対する従来例について具体的に説明する。まず、前記背景技術の項で説明した、図11(a)・(b)に示す従来の光アシスト用磁気ヘッド100を例示する。この従来の光アシスト用磁気ヘッド100では、図11(a)に示すように、単独の円形開口としての光学的開口113aを形成した金属膜112を備えている。なお、光学的開口113a以外については、前記具体例で挙げた本実施形態に係る光アシスト用磁気ヘッド1(および光アシスト媒体50)と同一構成のものを用いる。また、図中115は、光アシスト媒体150の走査方向を示し、以下の説明では、便宜上、単に「走査方向115」と記載する。
光学的開口113aが光源の波長以下の直径を有する微小な単一の開口であるため、光アシスト媒体150は、1箇所の光学的開口113aからのみの近接場161によってしか、加熱昇温されない。加熱された光アシスト媒体150の温度はすぐに低下してしまうため、温度分布119aの形状は、幅が狭い形状となっている。これは、所望の温度まで光アシスト媒体150を昇温させることができないことを示している。
次に、前記背景技術の項で説明した、図12(a)・(b)に示す従来の光アシスト用磁気ヘッド200を例示して、他の従来技術について具体的に説明する。この従来の光アシスト用磁気ヘッド200では、図12(a)に示すように、単独の長方形(矩形)開口としての光学的開口113bを形成した金属膜112を備えている。なお、光学的開口113a以外については、前記具体例で挙げた本実施形態に係る光アシスト用磁気ヘッド1(および光アシスト媒体50)と同一構成のものを用いる。
上記光学的開口113bは単一の矩形開口であるため、本発明のように光学的開口13が複数である場合のような、光学開口同士の間に存在する加熱を妨げる間隔がない。そのため、光アシスト媒体150は、常に近接場161によって加熱昇温されてしまう。このため走査方向115側(図右側)の光アシスト媒体150ほど熱が蓄積し、光アシスト媒体150上の温度分布119bの形状は走査方向115(図右側部分)の幅が広い形状(略雫形状)となってしまう。
図7(b)に示す温度分布19aの形状と比較すると、温度分布119bの図左側部分では、光学的開口113bの短軸方向と同等の幅を有しているが、温度分布119bの右側部分は幅が広くなってしまっている。このような温度分布では、記録マーク151は形成可能であるが、記録マーク151の幅は温度分布119bの最大幅に依存するため、その幅は広くなる。
図13(a)に、光学的開口を矩形開口にした場合におけるモデル条件を、図13(b)に計算結果の温度分布119cを示す。熱源118の形状は、100nm×500nmの矩形とした。その他の条件は図8(a)・(b)を用いて説明した場合と同様である。計算結果は図12(b)のように、図8(b)に比べて若干広がった温度分布119cとなっている。
図8(b)と図13(b)とに示す、上記2つのモデルの温度分布19b(本発明の具体例)・119c(従来例)を比較し、記録密度がどれだけ向上するかを考察する。
熱源18または118の右端面より光アシスト媒体50の走査方向15または光アシスト媒体150の走査方向115(x軸方向)に400nm離れた点を原点とし、この原点に記録磁極17または記録磁極117を設置した場合をモデル条件とする。原点でのy軸上の温度分布が急峻であるほど、記録マークの幅を狭めることができる。温度分布の急峻さを比較すると、形成される記録マーク幅を比較することができる。例えばy軸上の温度分布の最高温度に対して80%以上の温度範囲内で記録が可能と設定すると、記録マーク幅は80%以上の温度範囲の幅に依存する。
本発明の具体例および従来例の計算結果の温度分布を比較したグラフを図9に示す。縦軸は最大値を100として規格化している。開口が複数である本発明の光学的開口13のモデルでは、最高温度に対して80%以上の温度範囲での幅は220nm、開口形状が矩形である光学的開口113bのモデルでは272nmとなっており、複数の光学的開口13が形成されている本発明の実施の形態では、矩形開口(光学的開口113b)が1つ形成された従来例の場合に比べ、約20%の幅を短くすることができる。記録マーク長さを一定とすると、記録マーク幅を20%短くすることで、記録密度は25%向上することが可能となる。
これらの計算結果は一例であり、平板の材質や熱源の形状、移動速度等を変更すると計算結果は変化する。しかし、熱源の配置を本発明の光学的開口の配置とした場合、温度分布の広がりは矩形形状の熱源のものより急峻になるという傾向は同様である。
〔実施の形態2〕
本発明の他の実施形態について図2(a)から図6(b)に基づいて説明すれば以下の通りである。なお、説明の便宜上、実施の形態1で用いた部材と同一の機能を有する部材には同一の部材番号を付記し、その説明を省略する。
図2(a)に示す光アシスト用磁気ヘッド2では、光学的開口13の周辺に光散乱部14が形成されていること、および、光源10から照射される直線偏光の偏光方向は光アシスト媒体50の走査方向15に対して垂直となっている。上記走査方向15に垂直とは、厳密に垂直である必要はなく、後述する以下、光散乱部14による近接場61の増強が生じるならば、略垂直であってもよい。
光散乱部14による近接場61の増強について説明を行う。近接場増強以外の効果は実施の形態1と同様である。
図2(a)は、本実施の形態の光アシスト用磁気ヘッド2を示す断面図であり、図2(b)は本実施の形態の光アシスト用磁気ヘッド2を光アシスト媒体50側から見た平面図である。
本実施の形態は、上述した表面プラズモンポラリトンを用いた近接場の増強を、より積極的に利用したものである。光アシスト用磁気ヘッド2では、各光学的開口13の周辺に、光散乱部14が形成されている。この光散乱部14は、光学的開口13で発生した近接場や表面プラズモンポラリトンを散乱させることにより、近接場の増強を図るものである。本実施の形態では、上記光散乱部14は、例えば、直線の偏光方向16に対し平行な方向に沿って配置されている。
実施の形態1では、光学的開口13での表面プラズモンポラリトンを用いた近接場61の増強を行ったが、記録マーク51の幅を狭くするために最適な光学的開口13の間隔と、近接場61を増強するために最適な間隔は異なる。そのため、光学的開口13を形成する間隔には制限が加わることとなる。
一方、本実施の形態では、光学的開口13ではなく光散乱部14にて近接場61の増強を行う。それゆえ、光学的開口13については、近接場61を増強するための間隔に制限されることなく、光学的開口13の間隔や設置数を、設定することが可能である。
つまり、常に記録マーク51の幅を狭めるための最適な間隔で光学的開口13を形成することができ、近接場61の増強に関しては、光散乱部14の形成箇所・間隔を調整することで行うことが可能である。
光散乱部14の形成数は1箇所でもよく、近接場61の強度を増強することができる。形成数は、1箇所に限られることはなく、光散乱部14を複数形成することもできる。光散乱部14が複数形成されている場合、複数の光散乱部14にて、表面プラズモンポラリトンの共鳴が生じ、さらなる近接場61の増強が可能なため、より好ましい。
光散乱部14は、凸形状および凹形状の少なくとも一方の形状を有する微小構造物である。光散乱部14の材質としては金属膜12に用いられている材質に限られず、異なる材質を用いることもできる。つまり、金属膜12に表面プラズモンポラリトンが伝搬しやすい材質である銀を用い、光散乱部14には銀とは誘電率の異なる別の物質を埋め込むこともできる。この場合、光散乱部14は、凸形状および凹形状の少なくとも一方の形状を有する微小構造物でなく、平面であっても構わない。光散乱部14の形成方法としては、光学的開口13と同様に、FIB装置を使用し金属膜12に凹形状の穴を形成する方法や、半導体作製で一般的に用いられるリソグラフィー技術を用いた形成方法などがある。
光散乱部14の形状・大きさについては特に限定されないが、光学的開口13と同程度の大きさであることが好ましい。これにより、表面プラズモンポラリトンの伝達可能範囲に可能な限り多くの光散乱部14を、近接場を増強する条件で配置することができ、近接場の増強率を高めることができる。
光散乱部14の有無による近接場61の強度分布について、図3(a)を用いて説明する。図3(a)は金属膜12を光源10側より見た図である。円形の光学的開口13が3箇所に等間隔で配置されており、複数の光学的開口13に対して、光散乱部14が所定間隔で形成されている。図3(b)は、図3(a)にて光学的開口13より発生する近接場の強度分布21と図3(a)にて光散乱部14が全く形成されていない場合での、近接場の強度分布20とを表した図である。
縦軸に近接場の強度を示しており、光散乱部14が形成されていない場合の近接場の強度分布20に対し、光散乱部14を形成した場合の近接場の強度分布21は、各々の光学的開口13より発生する近接場の強度が大幅に増強されている。ここで光散乱部14の最適な所定間隔は、光源10の波長によって、変化する。また光散乱部14の数を増やすと、近接場を、より増強することが可能となる。
なお、上記近接場の強度の増強率は金属膜12の厚みや表面形状によって大きく変化する。光学的開口13や微小表面形状の周期、すなわち光散乱部14を形成する所定間隔と増強される波長領域には一定の関係があるため、近接場の増強を行う場合、光源10から照射される光の波長に応じて、光散乱部14の最適な間隔が決定される必要がある。
上記光散乱部14が形成される金属膜12の面については特に限定されるものではなく、いずれの面に形成されていてもよい。形成面にかかわらず、表面プラズモンポラリトンの共鳴による近接場の増強効果を得ることができる。しかし、光散乱部14が形成される金属膜12の面によって近接場61の増強率は異なる。
以下に、具体的な光散乱部14の形成位置の一例を示す。
図4(a)は、金属膜12において光散乱部14を形成した一例を示す斜視図である。また、図4(b)〜(g)は、光散乱部14の具体的な形成例を示すものであり、図4(a)に示す金属膜12のA−B断面図に相当する。
図4(a)に示すように、金属膜12の図中中央部に光学的開口13が3箇所一列に形成されている。光散乱部14は、1箇所の光学的開口13に対応して形成されており、本実施の形態では、所定間隔で2箇所並んで形成された光散乱部14・14の対により、1箇所の光学的開口13が挟まれた状態となっている。言い換えれば、3つの光学的開口13が、金属膜12の「縦方向」に沿って一列に並んで形成されているのに対して、2つの光散乱部14と1つの光学的開口13と2つの光散乱部14が、金属膜12の「横方向」に沿って一列に並んで形成されている。
上述したように、光散乱部14は、凹形状であってもよいし凸形状であってもよい。具体的には、図4(b)に示すように、金属膜12を貫通して形成される光学的開口13に対して、凹形状の光散乱部14は、貫通しないような「穴」の状態で形成される例を挙げることができる。一方、図4(c)に示すように、凸形状の光散乱部14は、金属膜12の表面から突出するように形成される例を挙げることができる。
ここで、金属膜12において、入射光60が照射される側の表面を「照射面」とし、その反対側の表面を「裏面」とすれば、図4(b)・(c)に示すように、光散乱部14は、少なくとも照射面側に形成されていることが好ましい。図4(b)〜(g)においては、図中上側が照射面であり図中下側が裏面に相当する。入射光60が入射する側の照射面に光散乱部14が形成されているため、直線偏光である入射光60が光学的開口13に入射すると、周囲の光散乱部14にも入射光が照射され、光学的開口13に入射しなかった光も近接場となり金属膜12の表面(照射面)を伝播する。これにより、金属膜12の表面(照射面)において表面プラズモンポラリトンの共鳴が増加するため、近接場61をさらに増強することができる。
上記光散乱部14は、図4(d)・(e)に示すように、照射面だけでなく裏面にも形成されていることが好ましい。なお、図4(d)は、凹形状の光散乱部14を形成する例を示しており、図4(e)は凸形状の光散乱部14を形成する例を示している。このように、金属膜12の両面に光散乱部14を形成することで、金属膜12の表面(照射面および裏面の双方)において表面プラズモンポラリトンの共鳴を増加し、近接場61を増強することができる。さらに、図4(d)・(e)では、光散乱部14は照射面および裏面の双方において対称に形成されている。これによって、照射面および裏面のそれぞれにおいて、表面プラズモンポラリトンの共鳴が生ずる条件を同様の条件にできるため、共鳴の増加効果をより強めることが可能となる。
なお、図4(d)に示す例では、両面とも凹形状の光散乱部14が形成されており、図4(e)に示す例では、両面とも凸形状の光散乱部14が形成されているが、もちろん本発明はこれに限定されるものではなく、一方の面に形成される光散乱部14が凹形状であり、他方の面に形成される光散乱部14が凸形状であってもよい。また、図示しないが、1つの光散乱部14が凹凸を組み合わせた形状となっていてもよい。すなわち、本発明において用いられる光散乱部14は前述したように凹形状または凸形状が好ましいが、もちろんこれに限定されるものではなく、凹凸を組み合わせた形状やその他の形状など、表面プラズモンポラリトンの共鳴を増強できるような微小構造であればよい。
さらに、本発明では、図4(f)・(g)に示すように、金属膜12の裏面のみに光散乱部14が形成されていてもよい。なお、図4(f)は、凹形状の光散乱部14を形成する例を示しており、図4(g)は凸形状の光散乱部14を形成する例を示している。この場合、裏面のみにおいて表面プラズモンポラトリンの共鳴が増加することになるため、照射面側に光散乱部14が設けられている図4(b)〜(e)の各場合と比較して、近接場61の増強の程度は低くなる。したがって、近接場61の大幅な増強が必要ないような場合には、裏面のみに光散乱部14を設ければよい。また、近接場61の増強のレベルをより細かく設定したいような場合には、照射面の光散乱部14の数に対して、裏面の光散乱部14の数を変えること等で対応することが可能である。
光散乱部14の深さは、光散乱部14が凹形状である場合、入射光60が、金属膜12を光学的に貫通しない深さであることが好ましい。光散乱部14から光が透過してしまうと、透過した部分から近接場61が発生する。そのため、光学的開口13以外の箇所で近接場61の発生を望まない場合には、光散乱部14の深さをあまり深くしないことが好ましい。例えば、金属膜12の厚みが50nm程度あれば、90%以上の入射光60を遮光できる場合、金属膜12の膜厚と光散乱部14の深さの差が50nm以上であることが好ましい。
次に、光散乱部14を形成する所定間隔と近接場61の増強率について説明する。
図5(a)・(b)に光散乱部14の所定間隔と近接場61の増強率についての計算結果を示す。図5(a)は計算に用いたモデルで、厚み100nmの金属膜12を横から見た模式的断面図となっている。金属膜12には、幅100nmの光学的開口13が中心部に開いており、その周りを所定間隔にて凹形状の4箇所の光散乱部14が配置されたものとなっている。
ここで、光散乱部14の幅、および、光散乱部14同士の所定間隔を間隔Pとする。光散乱部14の深さは50nmで設定されている。波長λの入射光60を光散乱部14の設けられた金属膜12の面から入射すると、他面より近接場61が発生する。間隔Pを変更したときの、近接場の増強率について計算を行った。
金属膜12の材質は、表面プラズモンポラリトンが生じやすい金属の中から、Ag(誘電率の実部ε’=−6.53、誘電率の虚部ε’’=0.74:λ=459nm)、Al(誘電率の実部ε’=−30.7、誘電率の虚部ε’’=7.18:λ=459nm)、Au(誘電率の実部ε’=−14.4、誘電率の虚部ε’’=1.21:λ=688nm)を選んだ。金属の誘電率は波長λによって大きく異なるため、金属ごとに表面プラズモンポラリトンが生じやすい入射光波長を選んでいる。
図5(b)に上記の結果を示す。銀(Ag)およびアルミニウム(Al)では、間隔Pが100nm以上150nm以下の場合、金(Au)では間隔Pが150nm以上250nm以下の場合に、近接場61の増強率が高くなっていることが示されている。このように、光散乱部14の配置と近接場61の増強率には相関関係があり、効率的に増幅するためには適正な光散乱部14の配置が必要である。
また、入射光60の波長λや金属膜12の材質が異なれば、最適な間隔Pは変化する。このため、上記の条件に応じて最適な間隔Pが設定されることが好ましい。さらに本計算例では、金属膜12の厚み、光学的開口13の幅、光散乱部14の深さを固定しているが、これらの値が変わっても増強率は増減する。
上記計算例では、光散乱部14の数を4箇所に固定しているが、光散乱部14の数は多いほど増強率が向上する。ただし、表面プラズモンポラリトンを利用した近接場61の増幅を行っているため、光学的開口13を中心として、表面プラズモンポラリトンの伝播長外の距離にある光散乱部14は増強に寄与できない。つまり表面プラズモンポラリトンの伝播長内に可能な限り多くの光散乱部14を配置するほうが増強率は高くなる。このためには、光散乱部14の間隔Pは可能な限り短いほうが良い。
以上の計算結果より、近接場61の増強率を高めるためには、間隔Pは金属膜12の材質や入射光60の波長λに適した値で、かつ、最小の値が設定されることが好ましい。
光散乱部14の間隔Pの長さは、特に限定されないが、入射光60の波長λの1/10以上1/2以下であることが好ましい。
図7(b)に示す計算結果は、材質による差はあるが、入射光60の波長λに対して、間隔Pがλ/10からλ/2の範囲で近接場の増強効果を示す傾向が明らかとなっている。この範囲内で最小の間隔Pを選び、光散乱部14を複数配置すれば、より増強率を高くすることができる。
光散乱部14を用いた、近接場61の増強は、上述したような、光源10からの光の偏光方向16が光アシスト媒体50の走査方向15に対し垂直な場合だけでなく、平行な場合であっても可能である。
例えば、図6(a)に示す光アシスト用磁気ヘッドの模式図のように、磁界発生機構11に形成された記録磁極17を通り、偏光方向16の図左側方向に沿う直線上に、まず、金属膜12には、光学的開口13が3箇所形成され、さらに光散乱部14が3箇所形成されていてもよい。また、図6(b)に示す光アシスト用磁気ヘッドの模式図のように、光学的開口13同士の間に光散乱部14が設置されていてもよい。これらの配置は一例であり、適宜変更が可能である。
近接場は、光学的開口13の端部が光源10からの光の偏光方向に垂直な場合に集中する傾向があるため、図6(a)・(b)に示す偏光方向16で近接場61を発生させると、光学的開口13の中心部に近接場61が集中し、より光アシスト媒体50上の温度分布を急峻にすることができる。そのため、共に近接場の増強が可能な配置となっている。ただし、この配置では、光学的開口13も近接場の増強に関わってくるため、光学的開口13の所定間隔を近接場61の増強に適したものにしなくてはならない。このため、光アシスト媒体50上の温度分布の観点から光学的開口13の所定間隔の設定が制限される。
上記のように、光散乱部14を設けることで近接場61を増強すれば、光源10の強度を小さくしても、強い近接場61を発生することが可能である。金属膜12に入射する光源10の強度が小さければ、近接場61が発生する光学的開口13以外での光源10からの熱の伝播を防止し、金属膜12上の温度も低く抑えることができる。その結果、光アシスト媒体50上の温度分布も急峻にすることが可能となる。つまり、近接場61の増強率を高めると、消費電力を抑えることができ、かつ、より高密度な記録を行うことができる。
本実施の形態では、さらに、上述した光アシスト用磁気ヘッド2を備える磁気記録装置を提供することができる。
磁気記録装置としては、ハードディスクドライブなどを挙げることができる。これらにおいて、大容量の記録情報を扱うことが可能となる。
なお、本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。