JP4506971B2 - 成形性に優れた高強度冷延鋼板およびめっき鋼板 - Google Patents

成形性に優れた高強度冷延鋼板およびめっき鋼板 Download PDF

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Description

本発明は、成形性に優れた高強度冷延鋼板およびめっき鋼板に関し;詳細には、引張強度と伸び(全伸びのこと)のバランス、及び、引張強度と伸びフランジ性のバランスに優れているという意味での「成形性に優れた」高強度冷延鋼板、並びに当該鋼板にめっきを施して得られるめっき鋼板に関するものである。より具体的には、本発明の高強度冷延鋼板またはめっき鋼板は、引張強度[TS(MPa)]と伸び[El(%)]の積が20,000以上で、且つ、引張強度[TS(MPa)]と伸びフランジ性[λ(%)]の積が40,000以上を満足するものである。
上記鋼板は、自動車、電機、機械等といった様々な産業分野で広く有効に活用されるものであるが、以下では代表的な用途例として、自動車の車体に使用する場合を中心に説明を進める。
自動車鋼板の軽量化に伴う燃費の軽減を図り、衝突時の安全性確保を主な背景として、高強度鋼板の需要は益々増大しており、最近では、排ガス低減による地球環境保全の観点からもその需要が一層高まっている。
しかしながら、高強度鋼板といえども成形性に対する要求は強く、夫々の用途に応じ、適切な成形性を兼ね備えていることが求められている。特に複雑形状のプレス加工が施される用途においては、伸びと伸びフランジ性の両方を兼備した高強度鋼板の提供が切望されている。
一方、優れた延性を示す高強度鋼板として、TRIP(TRansformation Induced Plasticity;変態誘起塑性)鋼板が注目されている。TRIP鋼板は、オーステナイト組織が残留しており、マルテンサイト変態開始温度(Ms点)以上の温度で加工変形させると、応力によって残留オーステナイト(γR)がマルテンサイトに誘起変態して大きな伸びが得られる鋼板であり、例えば、ポリゴナル・フェライトを母相とし、残留オーステナイトを含むTRIP型複合組織鋼(TPF鋼);焼戻マルテンサイトを母相とし、残留オーステナイトを含むTRIP型焼戻マルテンサイト鋼(TAM鋼);ベイニティック・フェライトを母相とし、残留オーステナイトを含むTRIP型ベイナイト鋼(TBF鋼)等が知られている。
このうちTBF鋼は古くから知られており(例えば非特許文献1等)、硬質のベイナイト組織によって高強度が得られ易い;当該ベイナイト組織中には、ラス状のベイニティック・フェライトの境界に微細な残留オーステナイトが生成し易いことから、非常に優れた伸びが得られるといった特徴がある。また、TBF鋼は、1回の熱処理(連続焼鈍工程またはめっき工程)によって容易に製造できるという製造上のメリットもある。
ところが従来のTBF鋼は、特に伸びフランジ性等の観点から、未だ満足のいく特性が得られていない。最近になって本発明者らは、高い強度と優れた伸びフランジ性を兼ね備えた高強度/超高強度鋼板として、SiをAlに置換したAl−Mn系TBF鋼板、及び当該鋼板にNbとMoを複合添加したAl−Mn−Nb−Mo系TBF鋼(非特許文献2)を開示しているが、従来の如くSiを添加したTBF鋼においても、更なる特性の改善が切望されている。
NISSHIN STEEL TECHNICAL REPORT(日新製鋼技報)、No. 43、Dec. 1980、p.1-10 長坂明彦、他5名,「Nb−Mo添加TRIP型ベイニティック・フェライト鋼板の成形性」,CAMP-ISIJ,2004年,第17巻,p.330
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、引張強度と伸びのバランス、及び引張強度と伸びフランジ性のバランスに優れた高強度冷延鋼板、並びに当該鋼板にめっきを施して得られるめっき鋼板を提供することにある。
本発明に係る成形性に優れた高強度冷延鋼板は、鋼中成分が、質量%で(以下、化学成分について同じ)、
C:0.10〜0.28%、
Si:1.0〜2.0%、
Mn:1.0〜3.0%、
Nb:0.03〜0.10%
を含有し、
Al:0.5%以下、
P :0.15%以下、
S :0.02%以下
に抑制されていると共に、
組織が、全組織に対する占積率で、
残留オーステナイト:5〜20%、
ベイニティック・フェライト:50%以上、
ポリゴナル・フェライト:30%以下(0%を含む)を満たし、且つ、
該残留オーステナイトは、EBSP(Electron Back Scatter Diffraction Pattern)により任意の面積(15μm×15μm)を観察したときの平均個数が20個以上である
ところに要旨を有するものである。
上記鋼中成分として、更に、Mo:1.0%以下(0%を含まない)、Ni:0.5%以下(0%を含まない)、及びCu:0.5%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される少なくとも一種の元素を含有するもの;Ca:0.003%以下(0%を含まない)、及び/又はREM:0.003%以下(0%を含まない)を含有するもの;Ti:0.1%以下(0%を含まない)、及び/又はV:0.1%以下(0%を含まない)を含有するものは、いずれも本発明の好ましい態様である。
更に本発明には、上記冷延鋼板の他に、当該冷延鋼板にめっきが施されためっき鋼板も包含される。
本発明によれば、引張強度[TS(MPa)]と伸び[El(%)]の積が20,000以上で、且つ、引張強度[TS(MPa)]と伸びフランジ性[λ(%)]の積が40,000以上を満足しており、引張強度と伸びのバランス、及び、引張強度と伸びフランジ性のバランスに極めて優れた高強度冷延鋼板及びめっき鋼板を提供することができる。これらの鋼板は特に、高強度が求められる自動車部品その他の産業機械部品等を製造する際に極めて有用であり、成形加工を良好に行うことができる。
本発明者らは、引張強度と伸びのバランス、及び、引張強度と伸びフランジ性のバランスに極めて優れた高強度冷延鋼板及びめっき鋼板を提供すべく、特にTBF鋼に着目して研究を重ねてきた。本発明においてTBF鋼に着目した理由は前述した通りであるが、一方、鋼板のなかでも特に冷延鋼板に着目したのは、冷延鋼板は、熱延鋼板に比べて板厚が薄く、表面品質の精度が高い等の理由から特に自動車用ボディ等へのニーズが非常に高いにもかかわらず、板厚が薄い為に伸びや伸びフランジ性に劣る傾向にあり、これまで、優れた成形特性を兼ね備えた冷延鋼板が提供されていない、という実情を考慮したものである。
その結果、(1)組織面では、母相組織をベイニティック・フェライト主体とし、かつ残留オーステナイト(残留γ)を含むTRIP鋼板とすることで、高強度鋼板の伸びおよび伸びフランジ性を高めると共に、該鋼板の伸びフランジ性をより確実に高める為に、ポリゴナル・フェライトの生成を極力抑制すること;(2)特に、引張強度と伸びフランジ性のバランスを著しく高める為には、とりわけ、鋼中にNbを積極的に添加して第二相組織である残留オーステナイト(残留γ)を微細化すれば良いこと;(3)この様なNb添加による作用を有効に発揮させる為には、所定量のNbを含有するNb添加鋼を用い、熱延工程における熱延開始温度(SRT)を従来法に比べて高め(1250〜1350℃)に制御すれば良いことを見出し、本発明を完成した。
まず、本発明を最も特徴付ける組織について説明する。
ベイニティック・フェライト:50%以上
本発明鋼板は、第2相組織として後述する残留オーステナイトを含有しており、母相組織は、ベイニティック・フェライト主体の金属組織で構成されている(従って、後記するポリゴナル・フェライトの占積率は少ない方が好ましく、当該ポリゴナル・フェライトの占積率は0%であっても良い)。
本発明におけるベイニティック・フェライトは、組織内に炭化物を有していない点で、ベイナイト組織とは明らかに異なる。また、ベイニティック・フェライトは板状のフェライトであるが、転位密度の高い下部組織(ラス状組織は、有していても有していなくても良い)を意味し;転位密度がないか或いは極めて少ない下部組織を有するポリゴナル・フェライト組織や、細かいサブグレイン等の下部組織を持った準ポリゴナル・フェライト組織とも異なっている(日本鉄鋼協会 基礎研究会 発行『鋼のベイナイト写真集−1』参照)。ベイニティック・フェライトとポリゴナル・フェライトとは、SEM観察によって以下の通り、明瞭に区別される。
・ポリゴナル・フェライト:SEM写真において黒色であり、多角形の形状で、内部に、残留オーステナイトやマルテンサイトを含まない。
・ベイニティック・フェライト:SEM写真では濃灰色を示し、ベイニティック・フェライトと、残留オーステナイトやマルテンサイトとを分離区別できない場合も多い。
この様なベイニティック・フェライトを主体とする本発明のTRIP鋼板と、ポリゴナル・フェライトを主体とする従来のTRIP鋼板とは、機械的特性の点で大きく相違する。即ち、従来のTRIP鋼板では、ポリゴナル・フェライトが塊状(ブロック状)に存在し易く、該ブロック状ポリゴナル・フェライトの粒界に存在する島状の残留γやマルテンサイト等が破壊の起点となって、優れた伸びフランジ性を確保できないというデメリットがあった。これに対し、本発明鋼板の主体組織であるベイニティック・フェライトは、転位密度(初期転位密度)がある程度高い為に強度を容易に高めることができるのみならず、優れた伸びフランジ性も発揮し得る。また、後述するオーステンパ処理により、従来のベイニティック・フェライトよりも転位密度が低くなっているので、降伏比を低下し得るという他のメリットもある。
ベイニティック・フェライトによる上記作用を有効に発揮させるには、全組織に対する占積率で50%以上とする。好ましくは70%以上、より好ましくは80%以上である。特に伸びフランジ性に優れた鋼板を得るには、ポリゴナル・フェライトの生成をできるだけ抑制することが好ましく、組織構成を、ベイニティック・フェライトと残留γの実質的に2相組織となるように制御することが推奨される。
残留オーステナイト(残留γ):5〜20%
残留γは、TRIP(変態誘起塑性)効果を発揮するための本質的な組織であり、伸びの向上に有用である。この様な作用を有効に発揮させるには、残留γを全組織に対する占積率で5%以上とする。より優れた延性(伸び等)を確保する為には、好ましくは7%以上である。一方、多量に存在すると局部変形能や伸びフランジ性が劣化するので、上限を20%に定めた。より好ましくは17%以下である。
更に上記残留γ中のC濃度(CγR)は0.8%以上であることが推奨される。このCγRは、TRIPの特性に大きく影響し、0.8%以上に制御すると、特に伸び等の向上に有効である。好ましくは1%以上である。尚、上記CγRの含有量は多い程好ましいが、実操業上、調整可能な上限は概ね1.6%と考えられる。
残留オーステナイトの平均個数:EBSP(Electron Back Scatter Diffraction Pattern)により、ポリゴナル・フェライト部を除いた任意の面積(15μm×15μm)を観察したとき20個以上
更に本発明では残留γに関し、上述した占積率の他に、EBSPにて任意の測定面積中に観察される平均個数の下限を定めている。残留γの平均個数が上記要件を満足するということは、換言すれば「非常に微細な残留γを含有する[厳密には、ベイニティック・フェライト内(特に旧オーステナイト粒内)に微細な残留γを含有する]ことを意味しており、この様な残留γ(微細な残留γ)は、特に伸びフランジ性の向上に寄与するものである。実際のところ、残留γの占積率が本発明の範囲を満足していても微細な残留γが得られないものは、特にTS×λの積が所望レベル(40,000以上)を満足しないことを、後記する実施例において確認している。本発明によれば、残留γの占積率を制御すると共に、更に微細な残留γも生成させている為に、従来のTBF鋼に比べて、引張強度と伸びのバランス、引張強度と伸びフランジ性のバランスを格段に向上させることが可能になった。
以下、残留γの平均個数の算出方法について説明するが、説明の便宜上、本発明鋼板を構成する母相組織(ベイニティック・フェライト、ポリゴナル・フェライト)及び第2相組織(残留γ)の測定方法についても併記する。
まず、鋼板をナイタールで腐食し、板厚1/4の位置で圧延面と平行な面をSEM(走査型電子顕微鏡)観察し(倍率:4000倍)、画像処理にて、ポリゴナル・フェライト(PF)の面積率と、該ポリゴナル・フェライト(PF)以外の組織(ベイニティック・フェライト+残留γ;以下、「PF以外の組織」と呼ぶ場合がある。)の面積率を求める。
ちなみに図1〜2は、後記する実施例1の表2のNo.5(本発明例)、及び実施例2の表5のNo.12(比較例)における上記SEM観察写真であるが、SEM観察により、PFと「PF以外の組織」とを明瞭に区別できることが分かる。
一方、残留γの占積率は、飽和磁化測定法によって測定する[特開2003−90825号公報、R&D神戸製鋼技報/Vol.52,No.3(Dec.2002)参照]。
次に、前述して求めた「PF以外の組織」の面積率から、残留γの占積率(体積率)を差し引くことにより、ベイニティック・フェライトの占積率を求める。
以上が、本発明を構成する各組織の占積率の測定方法であるが、本発明を特徴付ける「残留γの平均個数」を算出するに当たっては、前述した残留γの占積率測定方法(飽和磁化測定法)とは異なり、EBSP検出器を備えた高分解能型FE−SEM(Philips社製、XL30S−FEGを使用)を使用する。
本発明で使用するFE−SEM装置によれば、SEM観察した領域をその場で同時に、EBSP検出器によって解析することができるというメリットがある。ここで、EBSP法について簡単に説明すると、EBSPは、試料表面に電子線を入射させ、このときに発生する反射電子から得られた菊池パターンを解析することにより、電子線入射位置の結晶方位を決定するものであり、電子線を試料表面に2次元で走査させ、所定のピッチごとに結晶方位を測定すれば、試料表面の方位分布を測定することができる。このEBSP観察によれば、通常の顕微鏡観察では同一と判断される組織であって結晶方位差の異なる板厚方向の組織を、色調差によって識別できるという利点がある。
以下、上記FE−SEM装置を用いて残留γの平均個数を算出する方法について、詳細に説明する。
まず、残留γの変態を防ぐ目的で鋼板を電解研磨した後、腐食せずに前記FE−SEMの鏡筒内にセットし、板厚1/4の位置で圧延面と平行な面における任意の測定面積(約30×30μm)に電子線を照射する(電子線のピッチ:0.15μm)。詳細には、上記測定面積を4分割した各測定領域(約15μm×15μmの領域が合計4箇所)について、夫々、電子線を照射する。次いで、スクリーン上に投影されるEBSPを高感度カメラ(Dage-MTI Inc.製 VE-1000-SIT)で撮影し、コンピューターに画像として取込む。コンピューターで画像解析を行い、既知の結晶系[残留γの場合はFCC相(面心立方格子)]を用いたシミュレーションによるパターンとの比較によって決定したFCC相をカラーマップする(残留γは赤色に着色される。ちなみにポリゴナル・フェライトは緑色に着色される)。尚、上記解析に係るハードウェアおよびソフトは、TexSEM Laboratories Inc.のOIM(Orientation Imaging MicroscopyTM)システムを用いた。
但し、上記のEBPS解析法では、残留γでないものも誤って残留γと認識して赤色に着色される場合がある。そこで本発明では、より精度良く残留γを検出する目的で、TexSEM Laboratories Inc.のソフトを使用してConfidence Index(CI;信頼度)が0.2(20%)以下のデータ(信頼性の低いデータ)をカットしている。図3は、前述した表2のNo.5(本発明例)のEBSP写真であり、このうち図3(a)はEBSP測定ままの写真であり、図3(b)はCI0.2以下をカットした後の写真である。図3(a)と図3(b)を対比すると、図3(b)では、図3(a)の赤色着色部分(残留γ)のうち、信頼性の低い残留γは黒色に着色されてカットされていることが分かる。
この様にしてCI0.2以下の残留γをカットした後の、赤色着色部分における残留γの個数を、各測定領域(約15μm×15μm)毎に合計4箇所測定し、その平均値を「残留γの平均個数」と定める。
本発明では、この様にして算出される残留γの平均個数を20個以上とする。より優れた成形性(特に伸びフランジ性)を確保する為には、微細な残留γの平均個数は多ければ多い程よく、好ましくは25個以上である。
尚、残留γの平均個数を上記範囲に制御する為には、後述する通り、とりわけ、Nbを積極的に添加したNb添加鋼を用い、熱延時の加熱開始温度(SRT)を従来に比べて高く制御して熱処理することが有効であり、コストや生産性等を考慮すると最も推奨される方法である。但し、本発明では必ずしもこの方法に限定するものではなく、他の方法により、残留γの平均個数を上記範囲に制御することも可能である。具体的には例えば、Nbを添加しないNb無添加鋼(但し、鋼中の基本成分は、後記する本発明の範囲を満足する)を用い、熱延工程は従来と同様にして実施し(従って、熱延時の加熱開始温度SRTは従来法と同程度の約1050〜1150℃とする)、冷延率を従来に比べて高くする(約75%超)方法;上述したNb無添加鋼を用い、熱延工程及び冷延工程は従来と同様にして実施し、焼鈍時のオーステンパ処理温度を極力下げて長時間保持する方法;或いは、上述したNb無添加鋼を用い、熱延工程は従来と同様にして実施するが、冷延率を高く設定し、且つ、焼鈍時のオーステンパ処理温度を下げて長時間保持する方法等が挙げられ、これらの方法によっても、微細な残留γの平均個数を20個以上に制御し得ることを、後記する実施例(参考例)により確認している。
ポリゴナル・フェライト:30%以下(0%を含む)
前述した通り、本発明は、母相組織をベイニティック・フェライト主体とし、微細な残留オーステナイトを含むTRIP鋼板とすることにより、高強度鋼板の伸びおよび伸びフランジ性を高めると共に、ポリゴナル・フェライトの生成を抑制して当該鋼板の伸びフランジ性を一層向上させるというものである。従って、ポリゴナル・フェライトの占積率は少ない方がよく、本発明では、その上限を30%とする。好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下であり、最も好ましくは0%である。
その他:パーライトやベイナイト、マルテンサイト(0%を含む)
本発明の鋼板は、上記組織のみ(即ち、ベイニティック・フェライトと残留γの混合組織;或いは、ベイニティック・フェライトと、残留γと、ポリゴナル・フェライトの混合組織)で構成されていても良いが、本発明の製造過程で残存し得る他の組織(パーライト、ベイナイト、マルテンサイト等)の混入を一切排除するものではなく、本発明の作用を損なわない範囲で、これら他の組織を含有する鋼板も本発明の範囲内に包含される。但し、これら組織の占積率は少なければ少ないほど好ましく、その合計量を10%以下(より好ましくは5%以下)に制御することが推奨される。
次に、本発明鋼板を構成する基本成分について説明する。以下、化学成分の単位:%はすべて質量%である。
C:0.10〜0.28%
Cは、高強度を確保し、且つ残留γを確保するのに必要な元素である。詳細には、γ相中に充分なC量を含ませ、室温でも所望のγ相を残留させる為に重要な元素である。この様な作用を有効に発揮させるには、Cを0.10%以上含有させることが必要であり、好ましくは0.12%以上、より好ましくは0.15%以上である。但し、溶接性確保の観点から0.28%以下に抑えるのがよく、好ましくは0.25%以下、より好ましくは0.23%以下、更により好ましくは0.20%以下である。
Si:1.0〜2.0%
Siは、残留γが分解して炭化物が生成するのを有効に抑える元素であり、また固溶強化元素としても有用である。この様な作用を有効に発揮させるには、Siを1.0%以上含有させることが必要である。好ましくは1.2%以上である。但しSi量が過剰になると、上記効果は飽和し、熱間脆性を起こすなど却って問題が生じるため、その上限を2.0%とする。好ましくは1.8%以下である。
Mn:1.0〜3.0%
Mnは、γを安定化し、所望の残留γを得る為に必要な元素である。この様な作用を有効に発揮させるには、1.0%以上含有させるのがよい。好ましくは1.3%以上、より好ましくは1.6%以上である。但し3.0%を超えると、鋳片割れが生じる等の悪影響が現れる。好ましくは2.5%以下に抑える。
Nb:0.03〜0.10%
本発明鋼板は前述した通り、残留γを微細化させ、特に引張強度と伸びフランジ性のバランスを著しく高めたところに特徴があり、この様な作用を有効に発揮させる為の成分として、Nbは極めて重要である。Nb添加により残留γが微細化されるメカニズムは詳細には不明であるが、以下の様に推定される。即ち、Nbは析出強化作用及び組織微細化作用を有する元素として知られているが、本発明では特に、熱延時の加熱開始温度(SRT)を従来法よりも高く制御してNbを完全に固溶させている為、上記作用が極めて有効に発揮される結果、熱延工程(熱延→巻取)では、ポリゴナル・フェライト(またはベイナイト)組織中に微細なNb系炭化物(NbC;更には、必要に応じて鋼中に添加されるMoとの間で形成されるNbMoC等)が多数析出した熱延板が得られることになる。この様な微細な炭化物は、熱延後に冷延して冷延鋼板とした場合も、略そのまま残存すると考えられ、その結果、引続いて行なわれる焼鈍工程またはめっき工程にて、Ar3点以上に加熱してフェライト→オーステナイトへ逆変態する際、所望とする微細な残留γが得られるものと思料される。
Nb添加により、上述した残留γ微細化作用を有効に発揮させる為には、Nbを少なくとも0.03%以上添加する。好ましくは0.04%以上、より好ましくは0.05%以上である。但し、過剰に添加しても上記作用が飽和してしまい、経済的に無駄である為、上限を0.1%とする。
Al:0.5%以下
Al含有量が増加すると、ポリゴナル・フェライトが生成し易くなって伸びフランジ性を十分に高めることができない。また、AlはA3点を高める作用があり、生産性が低下する。よってポリゴナル・フェライトの生成を抑えて伸びフランジ性を高めるには、Al量の低減を図ることが有効であり、本発明では0.5%以下に抑える。好ましくは0.2%以下、より好ましくは0.1%以下である。
P:0.15%以下
Pは、残留γを確保し、強度を高めるのに有効な元素である為、含んでいてもよいが、P量が過剰になると加工性が劣化するので、0.15%以下に抑える。好ましくは0.1%以下である。
S:0.02%以下
Sは、MnS等の硫化物系介在物を形成し、割れの起点となって加工性を劣化させる有害な元素である。よってS量は0.02%以下、好ましくは0.015%以下に抑える。
本発明の鋼板は上記成分を基本的に含有し、残部は実質的に鉄であるが、原料、資材、製造設備等の状況によって持ち込まれる元素としてN(窒素)や0.01%以下のO(酸素)等の不可避不純物の混入も許容され得る。但し、Nが過剰に存在すると、窒化物が多量に析出し、延性の劣化を引き起こす恐れがあるので、N量は0.0060%以下に抑えることが好ましく、より好ましくは0.0050%以下、更に好ましくは0.0040%以下である。鋼板中のN量は少ないほど好ましいが、操業上の低減可能性を考慮すると、N量の下限値は0.0010%程度である。
更に本発明の作用に悪影響を与えない範囲で、更に下記元素を積極的に含有させることも可能である。
Mo:1.0%以下(0%を含まない)、Ni:0.5%以下(0%を含まない)、及びCu:0.5%以下(0%を含まない)よりなる群から選択される少なくとも一種
これらの元素は、鋼の強化元素として有用であると共に、残留γの安定化や所定量の確保に有効な元素である。上記元素は単独で使用しても良いし、2種以上を併用しても構わない。このうち特にMoを添加すれば、熱延段階にて微細なNb系炭化物(NbMoC)が生成し、残留オーステナイトの微細化作用が一層促進される為、所望の特性発揮に極めて有効である。この様な作用を有効に発揮させる為には、Mo:0.05%以上(より好ましくは0.1%以上)、Ni:0.05%以上(より好ましくは0.1%以上)、Cu:0.05%以上(より好ましくは0.1%以上)を含有させることが推奨される。但し、過剰に添加しても上記効果が飽和してしまい、経済的に無駄である為、その上限を夫々、Mo:1.0%、Ni:0.5%、Cu:0.5%と定めた。より好ましくはMo:0.8%以下、Ni:0.4%以下、Cu:0.4%以下である。
Ca:0.003%以下(0%を含まない)、及び/又はREM:0.003%以下(0%を含まない)
Ca及びREM(希土類元素)は、鋼中硫化物の形態を制御し、加工性向上に有効な元素であり、単独で、若しくは併用することができる。ここで本発明に用いられる希土類元素としては、Sc、Y、ランタノイド等が挙げられる。上記作用を有効に発揮させるには、夫々、0.0003%以上(より好ましくは0.0005%以上)含有させるのがよい。但し、0.003%を超えて添加しても上記効果は飽和してしまい、経済的に無駄である。より好ましくは0.0025%以下である。
Ti:0.1%以下(0%を含まない)、及び/又はV:0.1%以下(0%を含まない)
これらの元素は、Nbと同様、析出強化作用及び組織微細化作用を有しており(但し、その程度は、Nbに比べてやや劣ると考えられる)、高強度化に有用な元素である。この様な作用を有効に発揮させる為には、Ti:0.01%以上(より好ましくは0.02%以上)、V:0.01%以上(より好ましくは0.02%以上)を、夫々添加することが推奨される。但し、いずれの元素も0.1%を超えて添加すると上記効果が飽和してしまい、経済的に無駄である。より好ましくはTi:0.08%以下、V:0.08%以下である。
次に、本発明鋼板を製造する為の代表的な方法について説明する。
本発明の製造方法は、上述した成分組成を満足する鋼材を用いて熱延工程、冷延工程、及び焼鈍工程またはめっき工程を施すものであるが、製法上のポイントは、特に熱延工程における加熱開始温度(SRT)、及び焼鈍またはめっき工程における加熱温度(均熱温度)を適切に制御したところにある。以下、各工程について、順次説明する。
熱延工程
まず、本発明では、所望の「微細化された残留γ」を得る為に、特に熱延時の加熱開始温度(SRT)を1250〜1350℃と、従来に比べて高く制御したところに特徴がある。Nbは一般に、約1100℃以上の温度で加熱することにより鋼中に固溶し始めると考えられており、従来は、製造コスト等を考慮してSRTを通常、1100〜1150℃の範囲か、高くても1200℃に制御していた。しかしながら、上記温度範囲ではNbを完全に固溶させることはできない為、Nb添加による残留γ微細化作用を充分有効に発揮させることができず、所望とする強度−伸びフランジ性の特性(TS×λ≧40,000)が得られないことが本発明者らの検討結果により明らかになった(後記する実施例を参照)。従って、本発明では、SRTを1250〜1350℃とする。ここでSRTの上限を1350℃と定めたのは、SRTが高過ぎるとスラブが劣化してしまうからである。好ましくは1270℃以上、1330℃以下である。
この様に熱延工程では、上記の如くSRTを高めに制御したところに特徴があり、SRT以外の熱延条件は特に限定されず、通常実施される条件を適切に選択して実施すればよい。具体的には、熱延終了温度(FDT)をAr3点以上とし、平均冷却速度約3〜50℃(好ましくは約20℃/s)で冷却し、約500〜600℃の温度で巻き取る等の条件を採用することができる。
冷延工程
上記熱延工程に引続き、冷延するが、冷延率は特に限定されず、通常実施される条件(約30〜75%の冷延率)にて冷間圧延すれば良い。但し、再結晶の不均一化を防止するという観点からすれば、特に好ましくは冷延率を40%以上、70%以下に制御することが推奨される。
焼鈍工程またはめっき工程
この工程は、最終的に所望の組織(母相組織をベイニティック・フェライト主体の組織とし、残留γを含むTBF鋼)を確保する為に重要であり、特に本発明では、均熱温度(後記するT1)及びオーステンパ処理温度(後記するT2)を適切に制御することにより、所望のベイニティック・フェライトを得るところに特徴がある。
具体的には、
(i)A3点以上の温度(T1)で10〜200秒間温度保持(均熱)すること、
(ii)10℃/秒以上の平均冷却速度(CR)でフェライト変態およびパーライト変態を避けながら、温度(T1)からベイナイト変態温度域(T2;約450〜320℃)まで冷却すること、および
(iii)該温度域(T2)で60〜600秒間保持すること(オーステンパ処理)が推奨される。
まず、A3点以上の温度(T1)での均熱は、炭化物を完全に溶解して所望の残留γを形成するのに有効であり、また、均熱後の冷却工程でベイニティック・フェライトを得る上でも有効である。更に上記温度(T1)での保持時間は10〜200秒とするのがよい。短すぎると加熱による上記効果を十分享受することができず、一方、保持時間が長すぎると結晶粒が粗大化するからである。好ましくは20〜150秒である。
次いで、温度(T1)からベイナイト変態温度域(T2;約450〜320℃)までを、平均冷却速度(CR)で10℃/秒以上、好ましくは15℃/秒以上、より好ましくは20℃/秒以上で、パーライト変態を避けながら冷却するのがよい。冷却方法として、空冷、ミスト冷却または冷却時に使用するロールを水冷するなどして平均冷却速度を上記の通り制御することで、規定量のベイニティック・フェライトを確保できる。平均冷却速度の上限は特に規定されず、大きければ大きい程良いが、実操業を考慮して適切に制御することが推奨される。
上記冷却速度の制御は、ベイナイト変態温度域(T2;約450〜320℃)まで行うのがよい。該温度域(T2)よりも高温域で早期に制御を終了し、その後、例えば著しく遅い速度で冷却した場合には、残留γが生成し難く、優れた伸びを確保できなくなるからである。一方、より低温域まで上記冷却速度で冷却する場合も、残留γが生成し難く、優れた伸びを確保し難くなるので好ましくない。
その後は、当該温度域(T2)で60〜600秒間保持するのがよい。60秒間以上温度保持することによって、残留γへのC濃縮を短時間で効率よく進めて安定した多量の残留γが得られ、結果として、該残留γによるTRIP効果を確実に発現させることができる。より好ましくは120秒間以上、更に好ましくは180秒間以上保持する。一方、温度保持時間が600秒間を超えると、上記残留γによるTRIP効果が十分に発揮されなくなるので好ましくない。該保持時間は、480秒間以下とするのがより好ましい。
実操業を考慮すると、上記焼鈍処理は、連続焼鈍設備を用いて行うのが簡便である。上記熱処理の具体的な手法としては、連続焼鈍ライン(CAL、実機)や連続合金化溶融亜鉛めっきライン(CGL、実機)、CALシュミレーター、ソルトバス等を用いた加熱・冷却などが挙げられる。
上記温度保持後に常温まで冷却する方法については、特に限定されず、水冷やガス冷却、空冷等を採用することができる。また、所望の金属組織が改変するなど本発明の作用が損なわれない範囲で、冷間圧延板にめっき、更には合金化処理を行ってもよく、この様な鋼板も本発明の範囲に包含される。尚、冷間圧延板にめっきを施して溶融亜鉛めっきとする場合には、めっき条件が上記熱処理条件を満足するように設定し、該めっき工程で上記熱処理を行ってもよい。
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
実施例1(鋼中成分の検討)
本実施例では、表1に示す種々の成分組成からなる鋼種A〜J(残部:Fe及び不可避不純物)を溶製してスラブを得た後、該スラブに熱間圧延を施した。熱間圧延に際しては、SRTを1300℃、FDTを900℃に制御して圧延を行い、500℃で巻き取り、板厚2.4mmの熱延鋼板を得た。更に、得られた熱延鋼板を酸洗した後、冷間圧延(圧延率:50%)を施して板厚1.2mmの冷延鋼板とした。
その後、CALシミュレーターで熱処理を行った。詳細には900℃の温度域(T1)で60秒間保持した後、20℃/秒の冷却速度(CR)で約400℃(T2)まで強制空冷し、当該温度域(T2)で約4分間(約240秒間)保持し、その後、室温まで冷却してコイルに巻き取った。
この様にして得られた各種鋼板の金属組織、及び残留γの平均個数を、前述した方法により算出した。
更に、JIS5号試験片を用いて引張試験を行い、引張強度(TS)および伸び[全伸びのこと(EI)]を測定した。
また、伸びフランジ性試験を行って伸びフランジ性(λ)を評価した。具体的には直径100mm、板厚1.0〜1.6mmの円盤状試験片を作成し、φ10mmの穴をパンチで打ち抜いた後、60°円錐パンチを用いてバリを上にして穴広げ加工することにより、亀裂貫通時点での穴広げ率(λ)を測定した(鉄鋼連盟規格JFST 1001)。
これらの結果を表2に示す。尚、表2中、「n(個)」とは、所定面積当たりに存在する残留γの平均個数である。
Figure 0004506971
Figure 0004506971
表2より以下の様に考察することができる。
まず、表2のNo.2、5〜6,8〜9はいずれも、本発明で規定する鋼中成分を満足する鋼材(表1の鋼種No.B、E〜F、H〜I)を用い、本発明で規定する条件で熱処理した冷延鋼板であり、引張強度と伸びのバランス、及び引張強度と伸びフランジ性のバランスに極めて優れている。
これに対し、本発明で特定する要件のいずれかを欠く下記例は、夫々以下の不具合を有している。
このうちNo.1は、C量が少ない鋼種Aを用いた例であり、所定量の残留γを十分に確保できず、かつベイニティック・フェライトが少なくてポリゴナル・フェライト主体の組織となり、その結果、引張強度と伸びのバランスに劣っている。
一方、No.10は、C量が多い鋼種Jを用いた例であり、伸びフランジ性が低く、強度と伸びフランジ性のバランスに劣っている。
No.7は、Si量が少ない鋼種Gを用いた例であり、所定量の残留γを確保できず、平均個数も0となり、引張強度と伸び、及び引張強度と伸びフランジ性のバランスが共に低下している。
また、No.3は、Nb無添加の鋼種Cを用いた例;No.4は、Nbの添加量が少ない鋼種Dを用いた例であり、いずれも残留γの占積率は本発明の範囲を満足しているが所望とする微細な残留γの平均個数が得られない為、引張強度と伸びフランジ性のバランスが低下しており、特にNo.4では、更に引張強度と伸びのバランスが本発明の目標レベル(20,000以上)を下回っている。
次に、上記表2のNo.6の鋼板と比較鋼板(従来品である590MPa級の高張力鋼板)を用いて部品を成形し、下記の通り、耐圧壊性試験及び耐衝撃特性試験を行って、成形品としての性能(耐圧壊性及び耐衝撃特性)を調べた。
<耐圧壊性試験>
まず、表2のNo.6の鋼板と比較鋼板を用いてそれぞれ図4に示す様な部品(試験体,ハットチャンネル部品)1を作成し、次の様にして圧壊性試験を行なった。即ち、図4に示す部品のスポット溶接位置2に、先端径6mmの電極から、チリ発生電流よりも0.5kA低い電流を流して、図4に示す通り35mmピッチでスポット溶接を行った。そして図5に示す様に、部品1の長手方向中央部の上方から金型3を押し付けて最大荷重を求めた。また荷重−変位線図の面積から吸収エネルギーを求めた。その結果を表3に示す。
Figure 0004506971
表3より、本発明の鋼板を用いて作成した部品(試験体)は、強度の低い従来の鋼板を用いた場合より高い荷重を示し、また吸収エネルギーも高くなっていることから、優れた耐圧壊性を有していることがわかる。
<耐衝撃特性試験>
表2のNo.6の鋼板と比較鋼板を用いてそれぞれ図6に示す様な部品(試験体,ハットチャンネル部品)4を作成し、次の様にして耐衝撃特性試験を行なった。尚、図7は、前記図6における部品4のA−A断面図を示している。耐衝撃特性試験は、上記耐圧壊性試験の場合と同様に部品4のスポット溶接位置5にスポット溶接を行った後、図8に模式的に示す通り部品4を土台7にセットし、該部品4の上方から、落錘(質量:110kg)6を高さ11mの位置から落下させて、部品4が40mm変形(高さ方向が収縮)するまでの吸収エネルギーを求めた。その結果を表4に示す。
Figure 0004506971
表4より、本発明の鋼板を用いて作成した部品(試験体)は、強度の低い従来の鋼板を用いた場合より高い吸収エネルギーを示し、優れた耐衝撃特性を有していることがわかる。
実施例2(熱処理条件の検討)
本実施例では、表1の鋼種F(本発明の範囲を満足する鋼種)を用い、実施例1の製造方法において、熱処理条件のいずれかが本発明の要件を外れて作成した冷延鋼板(No.11〜17)における、組織や機械的特性に及ぼす影響について調べた。本実施例における熱処理条件の変更点は表5に示す通りであり、それ以外の条件は、実施例1に記載した通りである。具体的にはNo.11は、熱延時の加熱開始温度SRTを変えた例であり、No.12〜17は焼鈍時の熱処理条件を変えた例である。
得られた結果を表5に併記する。参考までに、表1の鋼種Fを用いた表2の実験No.6の結果も併記する。
Figure 0004506971
まずNo.11は、熱延時における加熱開始温度(SRT)が1100℃と低い例であり、微細な残留γの平均個数(n)が少なくなって、引張強度と伸びフランジ性のバランスが著しく低下した。
一方、焼鈍時の熱処理条件を変えたNo.12〜17のうちNo.12は、通常のTRIP鋼の製法と同様、焼鈍時の加熱温度(均熱温度:T1)をAc3点未満(820℃)で行った例であり、ポリゴナル・フェライト主体の組織となり、引張強度と伸びフランジ性のバランスが著しく低下した。
No.13/14は、オーステンパ処理時の変態温度(T2)が500℃と高い/300℃と低い例であり、所望の残留γが得られない為に伸び及び伸びフランジ性が低下している。
No.15は、焼鈍工程において加熱後の冷却速度(CR)が2℃/sと緩やかであるため、フェライト変態やパーライト変態が生じて所望の組織が得られず、強度と伸びフランジ性のバランスが低下している。
参考例1(他の製造方法の検討)
本参考例は、前述した実施例1とは異なり、Nbを添加しないNb無添加鋼(但し、鋼中の基本成分は、本発明の範囲を満足する)を用いても残留γの平均個数を20個以上に制御でき、成形性に優れた高強度冷延鋼板が得られることを実証すべく(ちなみに本参考例では、冷延率を高くしている)、実施したものである。
具体的には、表1の鋼種C(本発明の鋼中成分を満足する鋼種)を満足する鋼材を、熱延工程(SRT:1150℃、FDT:800℃、巻取温度:600℃)、冷延工程(冷延率:80%)、及び焼鈍工程[900℃の温度域で120秒間保持した後、20℃/秒の平均冷却速度で約400℃まで強制空冷し、当該温度域で約4分間(約240秒間)保持(オーステンパ処理)]に付し、その後、室温まで冷却してコイルに巻き取った。
この様にして得られた冷延鋼板について、実施例1と同様にして各種組織及び残留γの平均個数を測定すると共に、種々の機械的特性も同様にして測定した。
その結果、上記冷延鋼板は、ベイニティック・フェライト主体とし、残留γを有するTBF鋼であって、残留γの平均個数も20個以上を満足している為、引張強度と伸びの積が20,000以上、引張強度と伸びフランジ性の積が40,000以上と、極めて優れた成形性を有することが分った。
実施例1のNo.5(本発明例)のSEM写真(倍率:4000倍)である。 実施例2のNo.12(比較例)のSEM写真(倍率:4000倍)である。 実施例1のNo.5(本発明例)のEBSP解析写真である。 実施例における耐圧壊性試験に用いた部品の概観斜視図である。 実施例における耐圧壊性試験の様子を模式的に示した側面図である。 実施例における耐衝撃特性試験に用いた部品の概観斜視図である。 上記図6におけるA−A断面図である。 実施例における耐衝撃特性試験の様子を模式的に示した側面図である。
符号の説明
1 耐圧壊性試験用部品(試験体)
2,5 スポット溶接位置
3 金型
4 耐衝撃特性試験用部品(試験体)
6 落錘
7 (耐衝撃特性試験用)土台

Claims (5)

  1. 鋼中成分は、質量%で(以下、化学成分について同じ)、
    C :0.10〜0.28%、
    Si:1.0〜2.0%、
    Mn:1.0〜3.0%、
    Nb:0.03〜0.10%
    を含有し、
    Al:0.5%以下、
    P :0.15%以下、
    S :0.02%以下
    に抑制されていると共に、残部は鉄および不可避不純物であり、
    組織は、全組織に対する占積率で、
    残留オーステナイト:5〜20%、
    ベイニティック・フェライト:50%以上、
    ポリゴナル・フェライト:30%以下(0%を含む)を満たし、且つ、
    該残留オーステナイトは、EBSP(Electron Back Scatter Diffraction Pattern)により任意の面積(15μm×15μm)を観察したときの平均個数が20個以上であることを特徴とする成形性に優れた高強度冷延鋼板。
  2. 更に他の元素として、
    Mo:1.0%以下(0%を含まない)、
    Ni:0.5%以下(0%を含まない)、及び
    Cu:0.5%以下(0%を含まない)
    よりなる群から選択される少なくとも一種の元素を含有する請求項1に記載の高強度冷延鋼板。
  3. 更に他の元素として、
    Ca :0.003%以下(0%を含まない)、及び/又は
    REM:0.003%以下(0%を含まない)
    を含有する請求項1または2に記載の高強度冷延鋼板。
  4. 更に他の元素として、
    Ti:0.1%以下(0%を含まない)、及び/又は
    V :0.1%以下(0%を含まない)
    を含有する請求項1〜3のいずれかに記載の高強度冷延鋼板。
  5. 請求項1〜4のいずれかに記載の高強度冷延鋼板にめっきが施されたものであることを特徴とするめっき鋼板。
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