JP4868771B2 - 耐水素脆化特性に優れた超高強度薄鋼板 - Google Patents
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全組織に対する面積率で、
・残留オーステナイトが1%以上、
・ベイニティックフェライト及びマルテンサイトが合計で85%以上、
・フェライト及びパーライトが合計で9%以下(0%を含む)であると共に、
上記残留オーステナイト結晶粒の平均軸比(長軸/短軸)が5以上であり、
更に引張強度が1180MPa以上であるところに特徴がある(以下「本発明鋼板1」ということがある)。
全組織に対する面積率で、
・残留オーステナイトが1%以上、
・ベイニティックフェライト及びマルテンサイトが合計で85%以上、
・フェライト及びパーライトが合計で9%以下(0%を含む)であると共に、
上記残留オーステナイト結晶粒の平均軸比(長軸/短軸)が5以上であり、
更に引張強度が1180MPa以上あるところに特徴がある(以下「本発明鋼板2」ということがある)。
(a)粒界破壊の起点を減少させること
(b)水素トラップ能力の向上による水素の無害化
本発明では、上述の通りベイニティックフェライトとマルテンサイトの二相組織(ベイニティックフェライトが主体)とする。前述した通り、ベイニティックフェライト組織は硬質であり、高強度が得られ易い。また、母相の転位密度が高く、この転位上に水素が多数トラップされる結果、他のTRIP鋼に比べて多量の水素を吸蔵できるという利点もある。更に、ラス状のベイニティックフェライトの境界に、本発明で規定するラス状の残留オーステナイトが生成し易く、非常に優れた伸びが得られるといったメリットもある。この様な作用を有効に発揮させるには、全組織に対する面積率で、ベイニティックフェライトとマルテンサイトを合計で80%以上、好ましくは85%以上、より好ましくは90%以上とする。尚、その上限は、他の組織(残留オーステナイト)とのバランスによって決定され得、後述する残留オーステナイト以外の組織(フェライト等)を含有しない場合には、その上限が99%に制御される。
残留オーステナイトは、上述の通り、全伸びの向上に有用であるのみならず、耐水素脆化特性の向上にも大きく寄与するため1%以上存在させることとした。好ましくは3%以上、より好ましくは5%以上である。
本発明の鋼板は、上記組織のみ(即ち、ベイニティックフェライト+マルテンサイトと残留オーステナイトとの混合組織)から構成されていても良いが、本発明の作用を損なわない範囲で、他の組織としてフェライト(尚、ここでいう「フェライト」とは、ポリゴナルフェライト、即ち、転位密度がないか或いは極めて少ないフェライトを意味する)やパーライトを有していても良い。これらは、本発明の製造過程で必然的に残存し得る組織であるが、少なければ少ない程好ましく、本発明では9%以下に抑える。好ましくは5%未満、更に好ましくは3%未満である。
Cは、1180MPa以上の高強度を確保するのに必要である。また、オーステナイト相中に充分なC量を含ませて、室温でも所望のオーステナイト相を残留させるのに重要な元素でもあり、本発明では0.10%以上含有させる。好ましくは0.12%以上、より好ましくは0.15%以上である。但し、耐食性や溶接性を確保する観点から、本発明ではC量を0.25%以下に抑える。好ましくは0.23%以下である。
Siは、残留オーステナイトが分解して炭化物が生成するのを有効に抑える重要な元素である。また、材質を十分に硬質化させるのに有効な置換型固溶体強化元素でもある。この様な作用を有効に発現させるには、1.0%以上含有させることが必要である。好ましくは1.2%以上、より好ましくは1.5%以上である。但し、Si量が過剰であると、熱間圧延でのスケール形成が顕著になり、またキズの除去にコストがかかり経済的に好ましくないため、3.0%以下に抑える。好ましくは2.5%以下、より好ましくは2.0%以下である。
Mnは、オーステナイトを安定化させ、所望の残留オーステナイトを得るのに必要な元素である。この様な作用を有効に発揮させるには1.0%以上含有させる必要がある。好ましくは1.2%以上、より好ましくは1.5%以上である。一方、Mn量が過剰になると偏析が顕著となり、加工性が劣化する場合があるので3.5%を上限とする。好ましくは3.0%以下である。
Pは、粒界偏析による粒界破壊を助長する元素であるため、低い方が望ましく、その上限を0.15%とする。好ましくは0.1%以下、より好ましくは0.05%以下に抑える。
Sは、腐食環境下で鋼板の水素吸収を助長する元素であるため、低い方が望ましく、その上限を0.02%とする。
<Al:0.5%以下(0%含まない)>(本発明鋼板2の場合)
Alは脱酸のために0.01%以上を添加してもよい。またAlは、脱酸作用のみならず、耐食性向上作用と耐水素脆化特性向上作用を有する元素でもある。
Moは、オーステナイトを安定化させて残留オーステナイトを確保し、水素侵入を抑制して耐水素脆化特性を向上させる効果がある。また鋼板の焼入れ性を高めるのにも有効な元素である。加えて粒界を強化し水素脆化を抑制する効果もある。この様な作用を有効に発揮させるには、Moを0.005%以上含有させることが推奨される。より好ましくは0.1%以上である。但し、Mo量が1.0%を超えても上記効果が飽和してしまい経済的に無駄である。好ましくは0.8%以下、より好ましくは0.5%以下とする。
Nbは、鋼板の強度上昇及び組織の細粒化に非常に有効な元素であり、特にMoとの複合添加により該効果が十分に発揮される。この様な効果を発揮させるには0.005%以上含有させることが推奨される。より好ましくは0.01%以上である。但し、Nbを過剰に含有させても、これらの効果が飽和して経済的に無駄であるため0.1%以下に抑える。好ましくは0.08%以下である。
Bは、鋼板の強度上昇に有効な元素であり、該効果を発揮させるには0.0002%以上(より好ましくは0.0005%以上)含有させることが好ましい。一方、Bが過剰に含まれていると熱間加工性が劣化するため、0.01%以下(より好ましくは0.005%以下)の範囲で含有させることが好ましい。
Mg:0.0005〜0.01%、及び
REM:0.0005〜0.01%
よりなる群から選択される1種以上>
Ca、Mg、REM(希土類元素)は、鋼板表面の腐食に伴う界面雰囲気の水素イオン濃度の上昇を抑制、即ちpHの低下を抑制して鋼板の耐食性を高めるのに有効な元素である。また、鋼中硫化物の形態を制御して加工性を高めるのにも有効であり、該効果を十分に発揮させるには、Ca、Mg、REMのいずれの場合も0.0005%以上含有させることが好ましい。一方、過剰に含まれていると加工性が劣化するため、Caは0.005%以下、Mg、REMはそれぞれ0.01%以下に抑えることが好ましい。
仕上温度(FDT):850℃
冷却速度:40℃/s
巻取温度:550℃
<冷延工程>冷延率:50%
<連続焼鈍工程>各供試鋼について、A3点+30℃で120秒間保持した後、平均冷却速度20℃/sで表2中のTo℃まで急速冷却(空冷)し、該To℃で240秒間保持した。その後は室温まで気水冷却した。
製品板厚1/4の位置で圧延面と平行な面における任意の測定領域(約50μm×50μm、測定間隔は0.1μm)を対象に観察・撮影し、ベイニティックフェライト(BF)及びマルテンサイト(M)の面積率、残留オーステナイト(残留γ)の面積率を前述した方法に従って測定した。そして任意に選択した2視野において同様に測定し、平均値を求めた。またその他の組織(フェライトやパーライト等)を、全組織(100%)から上記組織の占める面積率を差し引いて求めた。更に残留オーステナイト結晶粒の平均軸比を前述の方法に従って測定し、平均軸比が5以上のものを本発明の要件を満たす(○)とし、平均軸比が5未満のものを本発明の要件を満たさない(×)と評価した。
引張試験はJIS5号試験片を用いて行い、引張強度(TS)と伸び(El)を測定した。尚、引張試験の歪速度は1mm/secとした。そして本発明では、上記方法によって測定される引張強度が1180MPa以上の鋼板を対象に、伸びが8%以上のものを「伸びに優れる」と評価した。
耐水素脆化特性を測定するに当たり、上記の各鋼板から150mm×30mmの短冊試験片を切り出して試験片とした。この短冊試験片を、曲げ部のRが15mmとなる様な曲げ加工を施した後、1000MPaの応力を負荷し、5%塩酸水溶液中に浸漬して割れ発生までの時間を測定した。
代表的な鋼種であるNo.1とNo.14について溶接性試験を行なった。試験は、1.2mm厚さの供試材を用いてJIS Z 3136、JIS Z 3137に従って試験片を作製し、下記条件でスポット溶接を行った後、せん断引張試験(引張速度:20mm/minで最大荷重を測定)と十字引張試験(引張速度:20mm/minで最大荷重を測定)を行い、せん断引張強度(TSS)と十字引張強度(CTS)を求めた。そして、前記せん断引張強度(TSS)と十字引張強度(CTS)の比で表される延性比(CTS/TSS)が0.2以上の場合を溶接性に優れると評価した。その結果、No.14(従来鋼)の延性比が0.19であるのに対し、No.1(開発鋼)の延性比は0.22と溶接性に優れていた。
・初期加圧時間:60サイクル/60Hz,加圧力450kgf(4.4kN)
・通電時間:1サイクル/60Hz
・溶接電流:8.5kA
まず、表1の鋼種記号A、Hの鋼板と比較鋼板を用いてそれぞれ図1に示す様な部品(試験体,ハットチャンネル部品)1を作成し、次の様にして圧壊性試験を行なった。即ち、図1に示す部品のスポット溶接位置2に、先端径6mmの電極から、チリ発生電流よりも0.5kA低い電流を流して、図1に示す通り35mmピッチでスポット溶接を行った。そして図2に示す様に、部品1の長手方向中央部の上方から金型3を押し付けて最大荷重を求めた。また荷重−変位線図の面積から吸収エネルギーを求めた。その結果を表3に示す。
表1の鋼種記号A、Hの鋼板と比較鋼板を用いてそれぞれ図3に示す様な部品(試験体,ハットチャンネル部品)4を作成し、次の様にして耐衝撃特性試験を行なった。尚、図4は、前記図3における部品4のA−A断面図を示している。耐衝撃特性試験は、上記耐圧壊性試験の場合と同様に部品4のスポット溶接位置5にスポット溶接を行った後、図5に模式的に示す通り部品4を土台7にセットし、該部品4の上方から、落錘(質量:110kg)6を高さ11mの位置から落下させて、部品4が40mm変形(高さ方向が収縮)するまでの吸収エネルギーを求めた。その結果を表4に示す。
2,5 スポット溶接位置
3 金型
4 耐衝撃特性試験用部品(試験体)
6 落錘
7 (耐衝撃特性試験用)土台
Claims (4)
- 質量%で、
C :0.10〜0.25%、
Si:1.0〜3.0%、
Mn:1.0〜3.5%、
P :0.15%以下、
S :0.02%以下、
Al:1.5%以下(0%を含まない)、
Mo:1.0%以下(0%を含まない)、
Nb:0.1%以下(0%を含まない)
を満たし、残部が鉄及び不可避不純物からなるものであって、
全組織に対する面積率で、
残留オーステナイトが1%以上、
ベイニティックフェライト及びマルテンサイトが合計で85%以上、
フェライト及びパーライトが合計で9%以下(0%を含む)であると共に、
上記残留オーステナイト結晶粒の平均軸比(長軸/短軸)が5以上であり、
更に引張強度が1180MPa以上であることを特徴とする耐水素脆化特性に優れた超高強度薄鋼板。 - 質量%で、
C :0.10〜0.25%、
Si:1.0〜3.0%、
Mn:1.0〜3.5%、
P :0.15%以下、
S :0.02%以下、
Al:0.5%以下(0%を含まない)、
Mo:1.0%以下(0%を含まない)、
Nb:0.1%以下(0%を含まない)
を満たし、残部が鉄及び不可避不純物からなるものであって、
全組織に対する面積率で、
残留オーステナイトが1%以上、
ベイニティックフェライト及びマルテンサイトが合計で85%以上、
フェライト及びパーライトが合計で9%以下(0%を含む)であると共に、
上記残留オーステナイト結晶粒の平均軸比(長軸/短軸)が5以上であり、
更に引張強度が1180MPa以上であることを特徴とする耐水素脆化特性に優れた超高強度薄鋼板。 - 更に、質量%で、
B:0.0002〜0.01%を含む請求項1または2に記載の超高強度薄鋼板。 - 更に、質量%で、
Ca:0.0005〜0.005%、
Mg:0.0005〜0.01%、及び
REM:0.0005〜0.01%
よりなる群から選択される1種以上を含む請求項1〜3のいずれかに記載の超高強度薄鋼板。
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