JP4505073B2 - 化学蒸着装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本願の発明は、所定の高温に維持された発熱体を用いて所定の薄膜を作成する化学蒸着装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
LSI(大規模集積回路)を始めとする各種半導体デバイスやLCD(液晶ディスプレイ)等の製作においては、基板上に所定の薄膜を作成するプロセスが存在する。このうち、所定の組成の薄膜を比較的容易に作成できることから、従来から化学蒸着(Chemical Vapor Deposition、CVD)法による成膜が多く用いられている。
CVD法には、プラズマを形成してプラズマのエネルギーにより気相反応を生じさせて成膜を行うプラズマCVD法や基板を加熱して基板の熱により気相反応を生じさせて成膜を行う熱CVD法等の他に、所定の高温に維持した発熱体を経由して原料ガスを供給するタイプのCVD法(以下、発熱体CVD法)がある。
【0003】
発熱体CVD法を行う化学蒸着装置は、処理容器内に基板を配置し、処理容器内に設けられた発熱体を所定の高温に維持しながら原料ガスを導入するよう構成される。導入された原料ガスが発熱体の表面を通過する際、分解や活性化等の変化が原料ガスに生じ、この変化による生成物が基板に到達することにより最終的な目的物である材料の薄膜が基板の表面に堆積する。尚、このような発熱体CVDのうち、ワイヤー状の発熱体を用いるものについては、ホットワイヤ(Hot
Wire)CVDと呼ばれる場合がある。
【0004】
このような発熱体を経由して原料ガスを基板に到達させると、基板の熱のみによって反応を生じさせる熱CVD法に比べて基板の温度を低くできる長所がある。また、プラズマCVD法のようにプラズマを形成することがないので、プラズマによる基板へのダメージといった問題からも無縁である。このようなことから、上記発熱体CVD法は、高集積度化や高機能化が益々進む次世代の半導体デバイスの製作に有力視されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、発明者の研究によると、発熱体CVD法では、通常の熱CVD法やプラズマCVD法では考えられない不純物が薄膜中に混入することが判明した。図5は、この問題を確認した実験の結果を示す図であり、実験用の化学蒸着装置で作成した窒化シリコン膜を二次イオン質量分析法(Secondary Ion Mass Spectroscopy;SIMS)により分析した結果を示す図である。尚、基板には、ガリウム砒素ウェーハが使用された。
【0006】
図5の横軸は、基板の厚さ方向の位置を示している。また、図5の右側の縦軸は、検出器に二次イオンが入射することにより流れる電流から単位時間あたりの入射二次イオン数(カウント/秒)を示しており、左側の縦軸は、二次イオン数から定量的に算出される各元素の濃度(単位体積あたりの元素の数,atoms/cc)を示している。尚、各元素の濃度の定量は、標準試料を使用して得られた二次イオン数のデータと比較して行われている。
【0007】
図5において、基板の表面(横軸の0の点)から2000オングストローム程度の位置まではSiが1平方センチあたり1018個以上の濃度で検出されており、表面から2000オングストローム程度の厚さで窒化シリコン膜が作成されていると判断される。そして、この0〜2000オングストロームの領域に、Fe,Ni,W,Mnに相当する二次イオン電流が計測されている。二次イオン数から換算すると、平均して、Feが5×1017atoms/cc程度、Niが1×1017atoms/cc程度、Wが1×1016atoms/cc程度、Mnが1×1015atoms/cc程度の濃度で混入しているとされる。但し、この分析に使用されたSIMS装置は、検出系のSN比等から、1×1015atoms/cc程度が検出限界となっており、Mnについては、本当にこの程度の濃度の混入があるかどうか不明である。
【0008】
いずれにしても、上記図5に示すデータから、従来の化学蒸着装置を使用して作成した薄膜中に、FeやNiが高い濃度で混入しているのが確認された。このような金属元素の混入は、通常の熱CVD装置やプラズマCVD装置では見られなかった現象である。このような意図しない金属元素の高濃度の混入があると、デバイス特性を阻害する結果となる可能性が高い。どのように阻害されるかは、薄膜の種類や目的によって変わる。例えば、シランと水素の混合ガスを使用して作成したシリコン膜の場合、1016atoms/cc程度の金属元素の混入があると、キャリアの移動度が減少し始める。そして、1017atoms/cc以上になると、極端なキャリア移動度の低下によりデバイスが正常に動作しない等の著しい特性阻害が生じる。また、窒化シリコン膜など、薄膜が素子形成後の表面保護膜や表面不動態(パシベーション)膜として作成される場合、膜中に上述のような重金属の不純物が混入すると、絶縁耐圧が低下して電気的な保護膜としての機能が阻害される恐れがある。
【0009】
本願発明は、上記発明者の実験により確認された発熱体CVD法を行う化学蒸着装置に特有の課題、即ち薄膜中への不純物混入という課題を解決するために成されたものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するため、本願の請求項1記載の発明は、内部で基板に対して所定の処理がなされる処理容器と、処理容器内に所定の原料ガスを供給するガス供給系と、供給された原料ガスが表面を通過するように処理容器内に設けられた発熱体と、発熱体が所定の高温に維持されるよう発熱体にエネルギーを与えるエネルギー供給機構と、所定の高温に維持された発熱体の表面での原料ガスの分解及び又は活性化により所定の薄膜が作成される処理容器内の位置に基板を保持する基板ホルダーとを備えた化学蒸着装置であって、
前記発熱体は、基体とこの基体の表面に形成された被覆膜とからなり、この被覆膜は、融点が基体の材料の昇華温度より高い高融点金属の膜であって不純物金属含有量が0.01重量%以下の膜であり、基体の材料は、前記所定の薄膜が作成される際に維持される前記の所定の高温よりも高い融点を持つという構成を有する。
上記課題を解決するため、本願の請求項2記載の発明は、上記請求項1の構成において、前記被覆膜は、前記基体が前記所定の高温に加熱された際に基体中の不純物が放出されるのを防止するよう基体の表面を被覆しているという構成を有する。
上記課題を解決するため、本願の請求項3記載の発明は、上記請求項1又は2の構成において、前記被覆膜は、高融点金属としてのタングステンから成っており、不純物金属含有量が0.01重量%以下であるタングステン粉末を蒸発源とした電子ビーム蒸着法によって形成されたものであるという構成を有する。
上記課題を解決するため、本願の請求項4記載の発明は、上記請求項1の構成において、前記基体は熱分解窒化硼素から成っており、前記被覆膜はタングステンから成っており、前記発熱体は、ワイヤー状であるという構成を有する。
【0011】
【発明の実施の形態】
以下、本願発明の実施の形態について説明する。
図1は、本願発明の実施形態である化学蒸着装置の概略構成を示す正面図である。図1に示す装置は、内部で基板に対して所定の処理がなされる処理容器1と、処理容器1内に所定の原料ガスを供給するガス供給系2と、供給された原料ガスが表面を通過するように処理容器1内に設けられた発熱体3と、発熱体3が所定の高温に維持されるよう発熱体3にエネルギーを与えるエネルギー供給機構30と、所定の高温に維持された発熱体3の表面での原料ガスの分解及び又は活性化により所定の薄膜が作成される処理容器1内の所定位置に基板9を保持する基板ホルダー4とを備えている。
【0012】
処理容器1は、排気系11を備えた気密な容器であり、基板9の出し入れを行うための不図示のゲートバルブを備えている。尚、処理容器1には、ゲートバルブを介して不図示のロードロックチャンバーが気密に接続されている。処理容器1は、ステンレス又はアルミニウム等の材質で形成されており、電気的には接地されている。
排気系11は、ターボ分子ポンプ等の真空ポンプを備えており、処理容器1内を1×10−4Pa以下に排気可能に構成されている。尚、排気系11は、不図示の排気速度調整器を備えている。
【0013】
ガス供給系2は、所定の原料ガスを溜めた不図示のガスボンベと、処理容器1内に設けられたガス供給器21と、ガスボンベとガス供給器21とを繋ぐ配管上に設けられたバルブ22や不図示の流量調整器とから構成されている。
ガス供給器21は中空の部材であり、基板ホルダー4に対向した前面を有している。この前面には、小さなガス吹き出し孔210が多数形成されている。ガスボンベ21から配管23を通してガス供給器21にガスが導入され、このガスがガス吹き出し孔210から吹き出して処理容器1内に供給されるようになっている。
【0014】
基板ホルダー4は、処理容器1の底面から上方に突出するよう設けられた台状の部材であり、上面に基板9を載置して保持するようになっている。尚、ガス供給器21が下側で、基板ホルダー4が上側に設けられる場合もある。この場合、基板ホルダー4の下面に基板9が保持される。
基板ホルダー4には、基板9の温度を調節する温度調節機構が内蔵される場合がある。例えば、基板ホルダー4内にはヒータが内蔵され、基板9を所定の温度に加熱するよう構成される場合がある。
【0015】
図2は、図1に示す発熱体3の形状を説明する平面概略図である。図1及び図2から分かるように、発熱体3はワイヤー状の部材からなるものであり、鋸波状に折り曲げられ、枠体31に保持されている。発熱体3は、溶接等の方法によって枠体31に固定されている。
【0016】
本実施形態の装置の大きな特徴点は、上記発熱体3が、不純物金属含有量が0.01重量%以下である高融点金属の被覆膜を基体の表面に形成して成るものである点である。この点を、図3を使用してさらに詳しく説明する。図3は、図1及び図2に示す発熱体3の断面図である。図3に示すように、発熱体3は、基体301と、基体301の表面に形成された被覆膜302とから成るものである。
そして、被覆膜302は、不純物金属含有量が0.01重量%以下であるタングステンより成る膜である。
発熱体3をこのように高純度の被覆膜302を形成した構成とすることは、前述した薄膜中への重金属の混入という現象を分析した発明者の研究に基づくものである。発明者は、基板9に作成する薄膜中に混入する重金属がどこからもたらされるのかについて鋭意検討した結果、発熱体3から来るのではないかという結論に達した。
【0017】
具体的に説明すると、従来使用されているタングステン製の発熱体3は、タングステン粉末を焼結させて形成されるが、タングステン粉末の段階では、99.999%程度という極めて高い純度であり、上述した重金属を多く含んでいることはないと考えられる。しかしながら、焼結したタングステン材をワイヤー状に加工していく際、タングステン材は金属製の圧縮器で圧縮されながら圧延される。そして、タングステン材に接触する圧縮器は金属性であり、その表面には鉄やニッケル等が存在し、圧延の際にこれらの重金属がタングステン材中に混入するものと考えられる。発明者の調査によると、タングステン材をワイヤー状に加工すると、その純度は99.9%(3N)程度になり2桁低下してしまう。
【0018】
このように重金属が混入した発熱体3を用いて成膜を行うと、発熱体3が高温に加熱される結果、混入した重金属が蒸発し、これが基板9に達して薄膜中に取り込まれることになる。前述した薄膜中への高濃度の鉄やニッケル等の混入は、これが原因であると考えられる。
【0019】
タングステンは融点が3400℃と高いので、発熱体3の材料としては好適であるが、上述の通り、このタングステンのみで所定の形状の発熱体3を得ようとすると、成形の過程で不純物が混入してしまう。発明者は、この問題を解決するために、発想を転換し、タングステンのみで発熱体3を構成するのではなく、ある基体の表面にタングステンの被覆膜を形成した構成とすれば良いのではないかと考えた。このような考えには、発熱体3の作用は後述するように表面における原料ガスの分解や活性化等の変化にあり、表面の材料が重要であること、及び、表面に被覆膜を形成する場合には蒸着法が採用でき、純度が極めて高いものが形成できること、の二つが念頭に置かれている。
【0020】
発明者は、上述した考えのもと、タングステンの被覆膜302を蒸着法により表面に形成した構成の発熱体3を製作した。具体的には、基体301としてはPBN(Pyrolitic Boron Nitride,熱分解窒化硼素)が採用された。PBNは、昇華性物質であり、その昇華温度は2300℃と高い。また、PBNは多くの材料メーカーから市販されており、不純物金属濃度がppmオーダー以下のものを容易に入手することができる。PBNより成る基体301は、直径0.2mm程度の針状である。そして、この基体301の表面に電子ビーム蒸着法によりタングステンの被覆膜302を10μm程度の厚さで形成した。電子ビーム蒸着は、99.999%(5N)の純度のタングステン粉末をるつぼに入れ、電子ビームで加熱して蒸発させ、基体301の表面に被着させることにより行った。蒸着開始前の雰囲気の圧力を1×10−4Pa以下とし、蒸着時の不純物混入を極力少なくした。尚、純度の高いタングステン粉末も、多くの材料メーカーから市販されており、5N程度のものも容易に入手できる。
【0021】
発明者は、このようにして製作した発熱体3を使用し、図5に示した従来例と同様に窒化シリコン膜の作成を行い、SIMS分析を行った。その結果、膜中の不純物金属濃度は、SIMSの検出限界(約1×1015atoms/cc)程度以下に激減していることが確認された。この結果から、作成する薄膜中に混入する不純物金属は発熱体3から放出されるとの推定が正しいものであり、発熱体3の表面に純度の高い被覆膜302を形成することで不純物金属の放出が大幅に抑制されることが確認された。
【0022】
このような発熱体3にエネルギーを供給するエネルギー供給機構30は、発熱体3を通電して発熱体3にジュール熱を発生させるよう構成されている。つまり、エネルギー供給機構30は電気エネルギーを供給して発熱体3を所定の高温に維持するものであり、直流電源又は交流電源が採用されている。エネルギー供給機構30は、発熱体3を通電して発熱体3を1500〜2000℃程度の高温に維持できるよう構成されている。尚、この例では、基体301は絶縁物であるので、通電されるのはタングステンよりなる被覆膜302の部分のみである。
また、発熱体3の温度を検出する不図示の温度センサが必要に応じて設けられている。温度センサの検出信号は、エネルギー供給機構30にフィードバックされ、発熱体3の通電電流が負帰還制御される。
【0023】
次に、上記構成に係る本実施形態の装置の動作について説明する。
まず、処理容器1に隣接した不図示のロードロックチャンバーに基板9を配置するとともにロードロックチャンバー及び処理容器1内を所定の圧力まで排気し、その後、不図示のゲートバルブを開けて基板9を処理容器1内に搬入する。基板9は、基板ホルダー4に保持される。基板ホルダー4に保持された基板9は、必要に応じて基板ホルダー4に内蔵された温度調節機構により所定の温度に調節される。並行してエネルギー供給機構30が動作し、発熱体3を通電して発熱させ所定の高温に維持する。
【0024】
この状態で、ガス供給系2が動作する。即ち、バルブ22が開き、ガス供給器21を通して原料ガスが処理容器1内に供給される。供給された原料ガスは、発熱体3の表面を経由して基板9に達する。この際、発熱体3の表面で原料ガスが分解及び又は活性化する。そして、これら分解及び又は活性化した原料ガスが基板9の表面に到達することで、基板9の表面に所定の薄膜が堆積する。薄膜が所定の厚さに達したら、バルブ22を閉じて原料ガスの供給を停止するとともにエネルギー供給機構30の動作を停止し、処理容器1内を再度排気する。その後、基板9を処理容器1から取り出す。
【0025】
蒸着の具体例について、前述と同様に窒化シリコン膜を作成する場合を例にして説明すると、原料ガスとして、モンシランを0.1〜20.0cc/分、アンモニアを10.0〜2000.0cc/分の割合で混合して導入する。発熱体3の温度を1600〜2000℃、基板9の温度を200〜350℃、処理容器1内の圧力を0.1〜100Paに維持して蒸着を行うと、1〜10nm/分程度の成膜速度で窒化シリコン膜の作成が行える。尚、このような窒化シリコン膜は、パッシベーション膜や保護膜として効果的に利用できる。
【0026】
次に、上述したような発熱体3を利用した成膜のメカニズムについて以下に説明する。発熱体3を利用することは、前述したように成膜時の基板9の温度を低くするためであるが、何故基板9の温度を低くしても成膜が行えるかについては、必ずしも明らかではない。一つのモデルとして、以下のような表面反応が生じていることが考えられる。
【0027】
図4は、本実施形態の装置における成膜の一つの考えられるモデルについて説明する概略図である。上記シリコン窒化膜を作成する場合を例にとると、導入されたモノシランガスが、所定の高温に維持された発熱体3の表面を通過する際、水素分子の吸着解離反応に類似したシランの接触分解反応が生じ、SiH3及びH* という分解活性種が生成される。詳細なメカニズムは明かではないが、モノシランを構成する一つの水素がタングステン表面に吸着又は接触することで、その水素とシリコンの結合が弱まってモノシランが分解し、タングステン表面への吸着又は接触が熱によって解かれてSiH3及びH* という分解活性種が生成されると考えられる。アンモニアガスにも同様な接触分解反応が生じ、NH2及びH* という分解活性種が生成される。そして、これらの分解活性種が基板9に到達してシリコン窒化膜の堆積に寄与する。即ち、反応式で示すと、
SiH4(g)→SiH3(g)+H*(g)
NH3(g)→NH2(g)+H*(g)
aSiH3(g)+bNH2(g)→cSiNx(s)
となる。尚、gの添え字はガス状態、sの添え字は固体状態であることを意味する。
【0028】
また、発熱体3の作用について、Jan. J. Appl. Pys. Vol.37(1998)pp.3175-3187 の論文で詳細な議論がされている。この論文では、発熱体の温度をパラメータにした成膜速度の傾きが発熱体の材料によって異なることから、発熱体の表面で生じているのは単なる熱分解ではなく触媒作用であるとしている(同 Fig.7参照)。このことから、この種のCVD法を触媒化学蒸着(catalytic CVD、cat−CVD)法と呼んでいる。
【0029】
さらに、本実施形態の装置におけるような成膜方法は、発熱体3の表面での熱電子の作用によるものとの考え方もできる。つまり、高温に維持された発熱体3の表面からは、トンネル効果により熱電子がエネルギー障壁を越えて原料ガスに作用し、この結果、原料ガスが分解したり活性化したりするとの考え方を採ることができる。
【0030】
本実施形態の装置における成膜のメカニズムについては、上記いずれの考え方も採り得る。また、これらの現象が同時に生じているとの考え方を採ることもできる。いずれの考え方を採るにしても、発熱体3の表面では、原料ガスの分解、活性化、又は、分解及び活性化の双方が生じており、これらいずれかの原料ガスの変化に起因して成膜がされている。そして、このような発熱体3を経由して原料ガスを基板9に到達させることにより、基板9の温度を比較的低くして成膜を行うことができる。
【0031】
上記構成及び動作に係る本実施形態の装置では、前述した通り、高純度の被覆膜302が形成された構成の発熱体3を用いるので、発熱体3から不純物金属が放出されることが極めて少ない。このため、作成する薄膜中への不純物金属の混入も極めて少なくなり、良質な薄膜が得られる。
【0032】
次に、発熱体3の他の構成について説明する。
前述した発熱体3は、基体301の材料としてPBNを使用しているが、これに限られるものではない。成膜時に維持される所定の高温よりも充分に高い融点を持つものであれば、基体301の材料として使用可能である。例えば、タングステン、モリブデン、タンタル等の高融点金属や炭素等が基体301の材料として採用可能である。尚、基体301の形状は、前述した針状の他、棒状、線状、板状、筒状、箔状等でもよい。
また、被覆膜302の材料は、成膜時に維持される所定の高温よりも充分に高い融点であることは勿論であるが、原料ガスの分解や活性化を生じさせる上でその選定は重要である。前述したタングステンの他、モリブデン、タンタル等でも同様の効果が得られることが確認されている。
【0033】
さらに、被覆膜302の形成については、電子ビーム蒸着の他、化学蒸着によることも可能である。発熱体3の他の構成について、タングステンの基体301の表面にタングステンの被覆膜302を化学蒸着によって形成する例を説明する。
基体301は、従来と同様にタングステンワイヤー(純度3N)でも良い。線径は0.2mm程度である。この基体301の表面に、六フッ化タングステンを使用した化学蒸着によりタングステンの被覆膜302を形成する。処理容器内にこの基体301を配置し、通電加熱により基体301を約500℃に維持しながら、処理容器内に六フッ化タングステンと水素の混合ガスを導入する。六フッ化タングステンと水素の流量比を1:10程度とし、処理容器内を5×103Pa程度に維持しながら、水素による六フッ化タングステンの還元反応を利用し、基体301の表面にタングステンの被覆膜302を100μm程度の厚さで堆積させる。
【0034】
尚、この際の化学蒸着は、本実施形態の装置とは別の装置によって行うことが一般的であるが、ガス供給系2に六フッ化タングステンガスと水素ガスとの供給ラインを付加しておけば、本実施形態の装置を利用して行うことも可能である。処理容器1内で上述の通り被覆膜302の形成を行って発熱体3を製作し、その発熱体3をそのまま使用して基板9への成膜を行うことができる。この場合、製作された発熱体3が大気側に取り出されることなく基板9への成膜に利用されるので、発熱体3の表面の酸化や汚損が無く、基板9への成膜の品質の向上に寄与できる。
【0035】
上記のようにして製作した発熱体3を前述した実施形態の装置における発熱体3と交換して同様に成膜処理を行ったところ、作成された薄膜中の不純物金属濃度がSIMSの検出限界以下となっていることが確認された。これは、上記六フッ化タングステンの水素還元反応によるタングステン膜の形成は、半導体デバイスにおけるプラグ配線膜の形成に採用されている技術であり、形成される被覆膜302の純度が極めて純度の高い(ppmオーダー以上)ためである。基体301のタングステンが従来と同様の3N即ち99.9%程度の純度であっても、その表面に極めて高純度の被覆膜302が形成されるため、発熱体3からの不純物金属の放出は激減するのである。
【0036】
上述した各例の発熱体3において、基体301の純度が低い場合には、被覆材302の厚さを厚くする必要がある。例えば、基体301が3N以下の純度である場合には、被覆材302の厚さ50μm以上あることが好ましい。また、被覆材302の厚さを100μm以上にしておくと、基体301の純度に関係なく不純物の放出を防止できるので非常に好ましい。
【0037】
本願発明の化学蒸着装置で作成する薄膜としては、窒化シリコン膜の他、シリコン酸窒化膜、シリコン酸化膜等の絶縁膜等も作成できる。さらには、アモルファスシリコン膜やポリシリコン膜などの半導体膜の作成にも、本願発明の装置を用いることができる。
【0038】
【発明の効果】
以上説明した通り、本願の各請求項の発明によれば、高純度の被覆膜が形成された構成の発熱体を用いるので、発熱体から不純物金属が放出されることが極めて少ない。このため、作成する薄膜中への不純物金属の混入も極めて少なくなり、良質な薄膜が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本願発明の実施形態である化学蒸着装置の概略構成を示す正面図である。
【図2】図1に示す発熱体3の形状を説明する平面概略図である。
【図3】図1及び図2に示す発熱体3の断面図である。
【図4】本実施形態の装置における成膜の一つの考えられるモデルについて説明する概略図である。
【図5】従来の化学蒸着装置の問題を確認した実験の結果を示す図であり、実験用の化学蒸着装置で作成した窒化シリコン膜を二次イオン質量分析法により分析した結果を示す図である。
【符号の説明】
1 処理容器
11 排気系
2 ガス供給系
3 発熱体
30 エネルギー供給機構
301 基体
302 被覆膜
4 基板ホルダー
9 基板
Claims (4)
- 内部で基板に対して所定の処理がなされる処理容器と、処理容器内に所定の原料ガスを供給するガス供給系と、供給された原料ガスが表面を通過するように処理容器内に設けられた発熱体と、発熱体が所定の高温に維持されるよう発熱体にエネルギーを与えるエネルギー供給機構と、所定の高温に維持された発熱体の表面での原料ガスの分解及び又は活性化により所定の薄膜が作成される処理容器内の位置に基板を保持する基板ホルダーとを備えた化学蒸着装置であって、
前記発熱体は、基体とこの基体の表面に形成された被覆膜とからなり、この被覆膜は、融点が基体の材料の昇華温度より高い高融点金属の膜であって不純物金属含有量が0.01重量%以下の膜であり、基体の材料は、前記所定の薄膜が作成される際に維持される前記の所定の高温よりも高い融点を持つことを特徴とする化学蒸着装置。 - 前記被覆膜は、前記基体が前記所定の高温に加熱された際に基体中の不純物が放出されるのを防止するよう基体の表面を被覆していることを特徴とする請求項1記載の化学蒸着装置。
- 前記被覆膜は、高融点金属としてのタングステンから成っており、不純物金属含有量が0.01重量%以下であるタングステン粉末を蒸発源とした電子ビーム蒸着法によって形成されたものであることを特徴とする請求項1又は2記載の化学蒸着装置。
- 前記基体は熱分解窒化硼素から成っており、前記被覆膜はタングステンから成っており、前記発熱体は、ワイヤー状であることを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載の化学蒸着装置。
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