JP4504481B2 - 長鎖二塩基酸組成物及びこれを用いる電解液 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、長鎖二塩基酸混合物、電解コンデンサ駆動用電解液用組成物並びに、電解コンデンサ駆動用電解液に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来の電解コンデンサ駆動用電解液において、特に中高圧電解液としては、エチレングリコールを溶媒として用い、ほう酸又はほう酸アンモニウム塩を電解質として添加されたものが使用されている。このような電解液は、ほう酸分子から水が容易に脱離されてメタホウ酸が生じるばかりでなく、エチレングリコールとほう酸との間のエステル化反応により多量の縮合水が生成し、電解液系内の水分含有量が高くなり、その結果、100℃を超える使用温度条件下で、この電解液を使用すると、電解液中の水が水蒸気となって蒸発し、それに伴って電解コンデンサのパッケージ内の内圧が上昇し、破壊が生じるのを避け得ないと言う問題点を有している。
【0003】
この様な欠点を改良するために、電解質としてアゼライン酸、セバシン酸、ドデカン二酸等の直鎖型飽和ジカルボン酸又はその塩を含有する電解液が用いられる様になった。しかし、このような直鎖型飽和ジカルボン酸は、エチレングリコール等の溶媒に対する溶解性が低いために、低温で該直鎖型飽和ジカルボン酸が結晶として析出し易く、それ故に過大電流が生じコンデンサの低温特性を劣化させるという欠点を免れ得なかった。
【0004】
さらに、近年では2−ブチルオクタン二酸(特開昭60−13293号)、8−ビニル−10−オクタデセン二酸(特開平4−186713号)、2−メチルノナン二酸(特開平2−224217号)等の二塩基酸やその塩を電解質として使用する試みがなされている。これらのジカルボン酸又はその塩の、エチレングリコール等の溶媒に対する溶解度は、前述の直鎖型飽和ジカルボン酸又はその塩のそれに比し、改良されているため、有用である。
【0005】
中でも、2−メチルノナン二酸は、有用な長鎖二塩基酸であり、1,7−オクタジエンをパラジウム−ホスフィン触媒の存在下、ジカルボキシレーションする方法(米国特許第4629807号)で生産される。しかしながら、この方法によれば、目的とする二塩基酸が19.1%という低収率で得られるに過ぎないため、この方法では、十分な機能を有する電解液が製造できない。
【0006】
さらに、2−メチルノナン二酸が十分に供給できたとしても、低温での特性は十分に改善されたとは言えず、依然として、低温における結晶析出の問題点は解決されていないため、一層の改善が望まれているのが現状である。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、2−メチルノナン二酸等の側鎖にアルキル基を有する長鎖二塩基酸を主要な電解質としつつ、低温において結晶が析出することがない、電解コンデンサ駆動用電解液が求められていた。
【0008】
【課題を解決するための手段】
斯かる現状に鑑み、本発明者らは鋭意研究した結果、上記2−メチルノナン二酸の欠点、特に、低温特性の劣化を改善する為に、2−メチルノナン二酸を単独で使用するよりも、2−メチルノナン二酸と、側鎖にアルキル基とアルコキシカルボニル基とを有し、両端カルボキシル基に挟まれた炭素鎖が8以上の長鎖二塩基酸の1種又はそれ以上とを混合することにより、低温において結晶の析出がないばかりでなく、高温においても電導度の劣化等を生じず、耐電圧性も向上するという新たな知見を得て、所望の電解コンデンサ駆動用電解液になり得ることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、側鎖にアルキル基を有する第1の長鎖二塩基酸と、側鎖にアルキル基とアルコキシカルボニル基とを有し、かつ両端カルボキシル基に挟まれた主鎖の炭素数が8以上の第2の長鎖二塩基酸を1種又はそれ以上含有する、長鎖二塩基酸混合物に関する。
【0010】
好適な実施態様においては、前記長鎖二塩基酸混合物が、アルコキシカルボニル基を2個又はそれ以上含む第2の長鎖二塩基酸を1種又はそれ以上含有する。
【0011】
また、好適な実施態様においては、前記アルコキシカルボニル基が、メトキシカルボニル基である。
【0012】
より好適な実施態様においては、本発明の長鎖二塩基酸混合物には、2−メチルノナン二酸と、2,4−ジメチル−4−メトキシカルボニルウンデカン二酸、2,4,6−トリメチル−4,6−ジメトキシカルボニルトリデカン二酸及び8,9−ジメチル−8,9−ジメトキシカルボニルヘキサデカン二酸が含まれる。
【0013】
さらに好適な実施態様においては、本発明の長鎖二塩基酸混合物には、前記2−メチルノナン二酸、2,4−ジメチル−4−メトキシカルボニルウンデカン二酸、2,4,6−トリメチル−4,6−ジメトキシカルボニルトリデカン二酸及び8,9−ジメチル−8,9−ジメトキシカルボニルヘキサデカン二酸が、長鎖二塩基酸混合物の全重量に対して、重量で、30〜60:8〜20:8〜20:15〜30の割合で含まれる。
【0014】
また、好適な実施態様においては、本発明の二塩基酸混合物は、以下の工程:
(1)酸触媒の存在下、メタノール中でシクロヘキサノンと過酸化水素とを反応させる工程;
(2)(1)の反応生成物にメタクリル酸メチルを金属塩の存在下、反応させる工程;及び
(3)(2)で得られる反応生成物を加水分解する工程;
を含む方法により得られる、二塩基酸混合物である。
【0015】
また、本発明は、前記いずれかの二塩基酸混合物及び/又はその塩を含有する、電解液用組成物である。
【0016】
好適な実施態様においては、前記塩がアンモニウム塩である。
【0017】
また、好適な実施態様においては、本発明の電解液用組成物には、前記二塩基酸又はその(アンモニウム)塩がエチレングリコールに溶解されている。
【0018】
さらに、本発明は、前記二塩基酸混合物及び/又はその塩を含有する電解コンデンサ駆動用電解液に関する。
【0019】
好適な実施態様においては、前記塩がアンモニウム塩である。
【0020】
さらに、好適な実施態様においては、本発明の電解コンデンサ駆動用電解液は、前記長鎖二塩基酸又はその塩がエチレングリコールに溶解されている。
【0021】
本発明は、また、側鎖にアルキル基を有する第1の長鎖二塩基酸と、側鎖にアルキル基とアルコキシカルボニル基とを有し、かつ両端カルボキシル基に挟まれた主鎖の炭素数が8以上の第2の長鎖二塩基酸を1種又はそれ以上含有する、長鎖二塩基酸混合物の製造方法であって、以下の工程:
(1)一般式(I):
【0022】
【化4】
Figure 0004504481
【0023】
(式中、nは2〜4の整数、RはH、又は炭素数1〜4の分岐してもよい低級アルキル基を示す)で表されるアルキル置換シクロアルカノンとメタクリル酸アルキルとを反応させて、長鎖二塩基酸エステル混合物を合成する工程;及び、
(2)得られた長鎖二塩基酸エステルを加水分解する工程;を含む、方法に関する。
【0024】
また、本発明は、側鎖にアルキル基を有する第1の長鎖二塩基酸及び/又はそのアンモニウム塩と、側鎖にアルキル基とアルコキシカルボニル基とを有し、かつ両端カルボキシル基に挟まれた主鎖の炭素数が8以上の第2の長鎖二塩基酸及び/又はそのアンモニウム塩を1種又はそれ以上含有する電解用組成物の製造方法であって、以下の工程:
(1)一般式(I):
【0025】
【化5】
Figure 0004504481
【0026】
(式中、nは2〜4の整数、RはH、又は炭素数1〜4の分岐してもよい低級アルキル基を示す)で表されるアルキル置換シクロアルカノンとメタクリル酸アルキルとを反応させて、長鎖二塩基酸エステル混合物を合成する工程;
(2)得られた長鎖二塩基酸エステル混合物を加水分解して、長鎖二塩基酸混合物を製造する工程;及び
(3)得られた長鎖二塩基酸混合物をアンモニアで処理する工程;
を含む、方法に関する。
【0027】
さらに、本発明は、側鎖にアルキル基を有する第1の長鎖二塩基酸及び/又はそのアンモニウム塩と、側鎖にアルキル基とアルコキシカルボニル基とを有し、かつ両端カルボキシル基に挟まれた主鎖の炭素数が8以上の第2の長鎖二塩基酸及び/又はそのアンモニウム塩を1種又はそれ以上含有する電解コンデンサ駆動用電解液の製造方法であって、以下の工程:
(1)一般式(I):
【0028】
【化6】
Figure 0004504481
【0029】
(式中、nは2〜4の整数、RはH、又は炭素数1〜4の分岐してもよい低級アルキル基を示す)で表されるアルキル置換シクロアルカノンとメタクリル酸アルキルとを反応させて、長鎖二塩基酸エステル混合物を合成する工程;
(2)得られた長鎖二塩基酸エステル混合物を加水分解して、長鎖二塩基酸混合物を製造する工程;
(3)得られた長鎖二塩基酸混合物をアンモニアで処理する工程;及び、
(4)得られた長鎖二塩基酸混合物及び/又はそのアンモニウム塩を溶媒に溶解する工程;を含む、方法に関する。
【0030】
【発明の実施の形態】
本発明の二塩基酸混合物は、側鎖にアルキル基を有する第1の長鎖二塩基酸と、側鎖にアルキル基とアルコキシカルボニル基とを有し、かつ両端カルボキシル基に挟まれた主鎖の炭素数が8以上の長鎖二塩基酸を1種又はそれ以上含有する。
【0031】
側鎖にアルキル基とアルコキシカルボニル基とを含有することにより、長鎖二塩基酸の双極子が分極し、溶媒への溶解性が改善されるとともに、電解コンデンサ駆動用電解液に用いた場合、耐電圧性が向上する。
【0032】
本発明に用いられる、側鎖にアルキル基とアルコキシカルボニル基とを有する第2の長鎖二塩基酸は、両端カルボキシル基に挟まれた主鎖の炭素数が8〜21の長鎖二塩基酸が好ましい。両端カルボキシル基に挟まれた主鎖の炭素数は8〜15がより好ましく、9〜12がさらに好ましい。
【0033】
第1および第2の長鎖二塩基酸の側鎖のアルキル基としては、分岐を含んでいてもよい低級アルキル基が用いられる。疎水性をあまり大きくしないために、好ましくは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基及びイソプロピル基が用いられる。導入される側鎖アルキル基の数は、2以上であることが好ましい。
【0034】
側鎖のアルコキシカルボニル基としては、低級アルコキシカルボニル基が用いられる。疎水性をあまり大きくしないために、好ましくは、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、及びイソプロポキシカルボニル基が用いられる。最も好ましくは、メトキシカルボニル基である。導入されるアルコキシカルボニル基の数は、1〜4が好ましい。
【0035】
導入すべきアルキル基及びアルコキシカルボニル基とその数は、第2の長鎖二塩基酸の炭素数を考慮して決定すればよい。
【0036】
側鎖にアルキル基を有する長鎖二塩基酸としては、2−メチルオクタン二酸、2−メチルノナン二酸、2−メチルデカン二酸が挙げられる。
【0037】
側鎖にアルキル基とアルコキシカルボニル基とを有する長鎖二塩基酸としては、2,4−ジメチル−4−メトキシカルボニルデカン二酸、2,4,6−トリメチル−4,6−ジメトキシカルボニルドデカン二酸、7,8−ジメチル−7,8−ジメトキシカルボニルテトラデカン二酸;2,4−ジメチル−4−メトキシカルボニルウンデカン二酸、2,4,6−トリメチル−4,6−ジメトキシカルボニルトリデカン二酸、8,9−ジメチル−8,9−ジメトキシカルボニルヘキサデカン二酸;2,4−ジメチル−4−メトキシカルボニルドデカン二酸、2,4,6−トリメチル−4,6−ジメトキシカルボニルテトラデカン二酸、9,10−ジメチル−9,10−ジメトキシカルボニルオクタデカン二酸が挙げられる。
【0038】
本発明の二塩基酸混合物は、側鎖にアルキル基を有する長鎖二塩基酸に、側鎖にアルキル基とアルコキシカルボニル基とを有する長鎖二塩基酸を1種以上、好ましくは3種添加して調製できる。
【0039】
本発明の二塩基酸混合物の例としては、2−メチルノナン二酸と2,4−ジメチル−4−メトキシカルボニルウンデカン二酸、2,4,6−トリメチル−4,6−ジメトキシカルボニルトリデカン二酸及び8,9−ジメチル−8,9−ジメトキシカルボニルヘキサデカン二酸が含まれ、好適には、長鎖二塩基酸混合物中、重量で、30〜60:8〜20:8〜20:15〜30の割合で含まれる。これらの範囲を外れると、耐電圧性が低下し、結晶が析出しやすくなる。
【0040】
また、本発明の長鎖二塩基酸混合物は、アルキル置換シクロアルカノンとメタクリル酸アルキルとを反応させて、長鎖二塩基酸エステルを合成する工程、及び得られた長鎖二塩基酸エステルを加水分解する工程を含む方法でも得られる。
【0041】
アルキル置換シクロアルカノンとしては、一般式(I)で表されるアルキル置換シクロアルカノンが好適に用いられる。
【0042】
【化7】
Figure 0004504481
【0043】
(式中、nは2〜4、RはH、又は炭素数1〜4の分岐してもよい低級アルキル基を示す)。低級アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基が好ましく用いられ、ブチル基も用いられる。すなわち、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、シクロヘプタノン及びこれらのアルキル置換誘導体が用いられる。
【0044】
メタクリル酸アルキルのアルキル基としては、分岐していてもよい低級アルキル基、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基が好ましい。これらのアルキル基の長さ、分岐が長鎖二塩基酸の溶解性に大きく寄与している。メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、及びメタクリル酸イソプロピルが好適に用いられる。
【0045】
アルキル置換シクロアルカノンとメタクリル酸アルキルとを反応させて、長鎖二塩基酸を合成するには、まず、酸触媒の存在下、アルコール(好ましくはメタノール)中でアルキル置換シクロアルカノンと過酸化水素とを反応させ、その反応生成物にメタクリル酸アルキルを金属塩の存在下、反応させ、次いで、得られた反応生成物を加水分解することにより得られる。
【0046】
酸触媒としては、硫酸、塩酸、燐酸、トリフルオロ酢酸等を挙げることができ、この中でも硫酸及び燐酸が特に好適である。アルキル置換シクロアルカノンと過酸化水素との反応において、両者の使用割合は特に限定されないが、通常、アルキル置換シクロアルカノン100重量部(以下、単に「部」と記す)当たり、80〜130部程度、好ましくは100〜110部程度である。上記アルコール(好ましくはメタノール)は、アルキル置換シクロアルカノン100部当たり、通常、200〜700部程度、好ましくは250〜350部程度用いるのが好ましい。又、酸触媒は、アルキル置換シクロアルカノン100部当たり、通常、5〜10部程度、好ましくは6〜8部程度用いるのが好ましい。この反応は、通常冷却下、好ましくは−20℃〜10℃付近にて好適に進行し、短時間でこの反応は終了する。
【0047】
上記反応でアルキル置換シクロアルカンメトキシペルオキシドが中間体として生成するが、本発明ではこれを単離することなく、反応生成物のまま次の反応に供するのが良い。
【0048】
上記反応生成物とメタクリル酸アルキルを反応させるに際しては、金属塩が用いられる。金属塩としては、鉄、銅、コバルト、チタン、錫等の金属の硫酸塩、塩化物、アンモニウム塩等の塩やこれらの水和物が挙げられる。この中でも硫酸第一鉄塩が好適である。第一鉄塩としては、例えば、硫酸第一鉄、塩化第一鉄、硫酸第一鉄アンモニウム塩等やこれらの水和物等が挙げられる。これらの中でも特に硫酸第一鉄が好ましく、硫酸第一鉄は、反応後にこれを硫酸と鉄で還元して硫酸第一鉄を回収し、再使用が可能である。上記メタクリル酸アルキルは、使用したアルキル置換シクロアルカノン100部当たり、メタクリル酸アルキル70〜300部程度、好ましくは100〜110部程度用いる。メタクリル酸アルキルとアルキル置換シクロアルカノンとのモル比率を高めることにより、導入されるアルコキシカルボニル基の数が増加し、例えば、メタクリル酸メチルとシクロヘキサノンとを、モル比で2:1で反応させた場合は、メトキシカルボニル基は、1〜4個導入される。さらにモル比を大きくすれば、メトキシカルボニル基を4個以上導入することも可能である。
【0049】
上記中間体とメタクリル酸アルキルとの反応においては、上記中間体を含む反応混合物にメタクリル酸アルキルを加えて、攪拌下、金属塩をそのまま添加するか、又は、予めアルコール(好ましくはメタノール)に出来るだけ溶解して得た金属塩の懸濁液ないし均一溶液を徐々に滴下する。
【0050】
上記反応は、冷却下通常−20℃〜10℃付近、好ましくは−10℃〜5℃付近にて好適に進行し、一般に0.3〜2時間程度で反応は完結する。
【0051】
上記反応で得られる二塩基酸エステル混合物の加水分解は、常法に従い行われる。
【0052】
シクロヘキサノンとメタクリル酸メチルを原料として上記反応を行なった場合、本発明の二塩基酸混合物には、2−メチルノナン二酸と2,4−ジメチル−4−メトキシカルボニルウンデカン二酸、2,4,6−トリメチル−4,6−ジメトキシカルボニルトリデカン二酸及び8,9−ジメチル−8,9−ジメトキシカルボニルヘキサデカン二酸が含まれ、長鎖二塩基酸混合物中、重量で、30〜60%:8〜20%:8〜20%:15〜30%の割合で含まれる。少量のその他の長鎖二塩基酸を含んでいても良い。
【0053】
上記の方法で得られた長鎖二塩基酸混合物は、アンモニアあるいはアミン等で処理し、電解液用組成物に調製することができる。好ましくはアンモニアで処理する。アンモニア処理は、溶解すべき長鎖二塩基酸あるいは長鎖二塩基酸混合物を溶媒(例えば、エチレングリコール、γ-ブチロラクトン、メチルセロソルブあるいはこれらの混合物)に適当な濃度(例えば、長鎖二塩基酸混合物が約10〜60重量%、好ましくは約15〜40重量%、より好ましくは約20重量%)となるように溶解してアンモニア、アミン等を吹き込んで行なう。pHが約6〜8、好ましくは約6.5〜約7.5になったところで反応(アンモニアの吹き込みを)を停止する。これにより、電解液用組成物が製造される。
【0054】
本発明の好適な電解液用組成物は、2−メチルノナン二酸と2,4−ジメチル−4−メトキシカルボニルウンデカン二酸、2,4,6−トリメチル−4,6−ジメトキシカルボニルトリデカン二酸及び8,9−ジメチル−8,9−ジメトキシカルボニルヘキサデカン二酸及び/又はこれらのアンモニウム塩を含み、これらが、重量で、それぞれ30〜60:8〜20:8〜20:15〜30の割合で含まれる。少量のその他の長鎖二塩基酸及び/又はそのアンモニウム塩を含んでいても良い。
【0055】
得られた電解液用組成物は、エチレングリコール、γ-ブチロラクトン等の溶媒に溶解して、電解コンデンサ駆動用電解液を調製する。好ましい溶媒は、エチレングリコールである。
【0056】
電解コンデンサ駆動用電解液は、長鎖二塩基酸混合物が適切な濃度、例えば、約0.1重量%〜約15重量%となるように含まれる。好ましくは、約2重量%〜12重量%、より好ましくは、約5〜10重量%含まれる。長鎖二塩基酸混合物中の2−メチルノナン二酸と2,4−ジメチル−4−メトキシカルボニルウンデカン二酸、2,4,6−トリメチル−4,6−ジメトキシカルボニルトリデカン二酸及び8,9−ジメチル−8,9−ジメトキシカルボニルヘキサデカン二酸及び/又はこれらのアンモニウム塩を含み、これらが、重量で、それぞれ30〜60:8〜20:8〜20:15〜30の割合で含まれる。少量のその他の長鎖二塩基酸(例えば、ドデカン二酸および2−ブチルオクタン二酸)及び/又はそのアンモニウム塩を含んでいても良い。
【0057】
上記説明のように、本発明において、長鎖二塩基酸混合物が電解コンデンサ駆動用電解液の電解質として十分に使用可能であることが示された。さらに、また、従来用いられている電解コンデンサ駆動用電解液の電解質は、側鎖にアルキル基を1個有する長鎖二塩基酸のみであり、製造後、複数の工程を要して単離して使用しなければならなかった。これに対して、本発明の長鎖二塩基酸混合物は、単離する必要がなくそのまま電解コンデンサ駆動用電解液として用いられるので、極めて簡単に電解コンデンサ駆動用電解液が製造できる。従って、極めて有用性が高い。
【0058】
【実施例】
以下に実施例を掲げて、本発明をより一層明らかにするが、本発明はこの実施例に限定されない。
【0059】
(実施例1〜7:長鎖二塩基酸混合物の製造)
攪拌機付反応容器に無水メタノール460kgを入れ、これを5℃に冷却し、シクロヘキサノン80kg(816mol)及び濃硫酸10kgを加えた。攪拌しながら更に35%過酸化水素80kgを徐々に加えた。反応温度を5℃に保ちながら、さらに、10分間攪拌を続けて反応させた。この反応液に表1に示す所定量のメタクリル酸メチルを溶解し、硫酸第一鉄(7水塩)240kgを、反応温度を−5℃に保ちながら徐々に添加して反応させた。反応後、静置分液し、上層のエステル層と下層の第二鉄塩溶液を分離した。エステル層は水洗、乾燥し、未反応のシクロヘキサノンを減圧下(110℃/10mmHg)で留去し、二塩基酸エステル混合物を得た後、常法による加水分解により二塩基酸混合物を得た。実施例4の場合、155kg(収率:78.4mol%)の二塩基酸混合物が得られた。
【0060】
得られた二塩基酸混合物をガスクロマトグラフィーにより分析した結果、2−メチルノナン二酸(成分1)、2,4−ジメチル−4−メトキシカルボニルウンデカン二酸(成分2)、2,4,6−トリメチル−4,6−ジメトキシカルボニルトリデカン二酸(成分3)、8,9−ジメチル−8,9−ジメトキシカルボニルヘキサデカン二酸(成分4)が主成分であり、表1に示す割合で含有されることが分かった。このシクロヘキサノンとメタクリル酸メチルとが1:1のモル比である実施例4の場合には、成分1が45.5%、成分2が13.1%であり、成分3が、12.6%であり、そして成分4が21.8%の割合で含有されており、さらに、その他の成分として2−メチルノネン二酸1.2%と未知物質が5.8%含まれていた。酸価は、403mgKOH/gであった。
【0061】
なお、ガスクロマトグラフィーは、得られた長鎖二塩基酸混合物をメチル化して行なった。メチルエステル化は、酸触媒(p−トルエンスルホン酸)の存在下、長鎖二塩基酸混合物とメタノールとを混合して、10時間、還流した。得られたメチルエステルをジエチルエーテルに分配した。有機層を水で数回洗い、有機層に分配してガスクロマトグラフィーで分析した。ガスクロマトグラフィーの条件は以下の通りであった。
機器: 島津製作所 GC−7A
カラム: SE30、10m×0.25mm(内径)
キャリアーガス: ヘリウム、30ml/分
温度: 120−280℃、8℃/分
検出器: FID
【0062】
シクロヘキサノンとメタクリル酸メチルとのモル比を変えて長鎖二塩基酸混合物を作成した結果を表1に示す。
【0063】
【表1】
Figure 0004504481
【0064】
モル比を変えることにより、種々の組成の長鎖二塩基酸混合物が製造された。
【0065】
(実施例8:電解液用組成物の製造)
表1の実施例1〜7の二塩基酸混合物500gをエチレングリコール2,000gに溶解し、これにアンモニアをpH7.4となる様に吹き込んで上記二塩基酸混合物のアンモニウム塩を20重量%含有する、黄色透明なエチレングリコール溶液を得た。
【0066】
(実施例9〜16:電解液の製造および性能)
実施例8で得られた7種の長鎖二塩基酸アンモニウム塩の混合物を20重量%含む溶液の各々を表2に示す量だけエチレングリコール(EG)に加えて、長鎖二塩基酸アンモニウム塩の混合物濃度が5重量%または10重量%の電解液を8種作製した。その電導度(mS/cm)、火花開始電圧(Vsp)および含水率を測定した。結果を表2に示す。実施例9〜11は各々実施例1〜3由来のアンモニウム塩溶液、実施12および13は実施例4由来のアンモニウム塩溶液、そして実施例14〜16は各々実施例5〜7由来のアンモニウム塩溶液を使用した。
【0067】
(実施例17〜18)
実施例1で得られた二塩基酸混合物から2−メチルノナン酸(成分1)と2,4−ジメチル−4−メトキシカルボニルウンデカン二酸(成分2)とを常法により単離した。これらの化合物のアンモニウム塩を調製し、エチレングリコールに溶解させ、各々の20重量%溶液を調製した。これらの表2に示す量をエチレングリコールに混合して、二塩基酸アンモニウム塩の混合物濃度が10重量%の電解液を調製した。これを用いて、実施例9〜16と同様に試験を行なった。結果を表2に示す。
【0068】
(比較例1〜4)
実施例1で得られた二塩基酸混合物から2−メチルノナン酸(成分1)を常法により単離した。シクロへキサノンを酸化還元条件下、反応させて、2−ブチルオクタン二酸(成分5)を得た。これらの化合物のアンモニウム塩を調製し、エチレングリコールに溶解させ、各々の20重量%溶液を調製した。これらの表2に示す量をエチレングリコールに混合して、二塩基酸アンモニウム塩の混合物濃度が5重量%または10重量%の電解液を調製した。これを用いて、実施例9〜16と同様に試験を行なった。結果を表2に示す。
【0069】
【表2】
Figure 0004504481
【0070】
表2から明らかな様に、実施例9〜18の電解液は、火花開始電圧(耐電圧性)が比較例よりも高く、優れていた。比較例1および2の電解液は、成分5(2−ブチルオクタン二酸)を含むが、側鎖にアルキル基とアルコキシカルボニル基とを有し、かつ両端カルボキシル基に挟まれた主鎖の炭素数が8以上の長鎖二塩基酸を含んでいない。また、比較例3および4は、成分1(2−メチルノナン二酸)を含むが、側鎖にアルキル基とアルコキシカルボニル基とを有し、かつ両端カルボキシル基に挟まれた主鎖の炭素数が8以上の長鎖二塩基酸を含んでいない。他方、実施例9〜18に使用した電解液には、成分1の他に、成分2、成分3、および成分4を有している。成分2は、両端カルボキシル基に挟まれた主鎖の炭素数が9であり、1個のメトキシカルボニル基を側鎖に有している。成分3は、両端カルボキシル基に挟まれた主鎖の炭素数が11であり、2個のメトキシカルボニル基を側鎖に有している。成分4は、両端カルボキシル基に挟まれた主鎖の炭素数が14であり、2個のメトキシカルボニル基を側鎖に有している。これらの二塩基酸のそれぞれは、両端カルボキシル基に挟まれた主鎖の炭素数が大きく、1またはそれ以上のメトキシカルボニル基を側鎖に有しているので、溶媒への溶解性が高くなる。このような長鎖二塩基酸を使用することにより、耐電圧性が改善される。
【0071】
また、実施例9〜16のそれぞれの電解液は、成分1と成分2に加えて、成分3及び4を含有し、成分1および2のみを含有する実施例17及び18より耐電圧性が高いことが示された。
【0072】
尚、二塩基酸混合物濃度を10重量%とした実施例13を除く他の電解液を零度に冷却しても、結晶の析出が認められなかった。これは、本発明に含まれる二塩基酸が、アルキル基(本実施例ではメチル基)を有する他、極性基であるアルコキシカルボニル基(本実施例では、メトキシカルボニル基)を有しており、両置換基の存在が分子全体の双極子の分極を起こし、溶媒エチレングリコールへの溶解性を高揚しているためと考えられる。
【0073】
上記実施例から、二塩基酸混合物のアンモニウム塩濃度を高めることにより電導度を調節することができることがわかる。
【0074】
(実施例19〜25)
実施例1〜7の二塩基酸混合物及び/又はそのアンモニウム塩を成分とする電解液(実施例19〜25)を調製した。いずれも、長鎖二塩基酸及び/又はそのアンモニウム塩の濃度は、5重量%であった。得られた電解液を無負荷での熱劣化試験に供した。即ち、各電解液を105℃の条件下に2000時間保持し、2000時間後の電導度(mS/cm)、含水率(%)およびpHを調べた。その結果を表3に示す。
【0075】
(比較例5〜6)
成分5及び/又はそのアンモニウム塩を電解質として含有する電解液を調製した(比較例5)。別途、成分1及び/又はそのアンモニウム塩を電解質として含有する電解液を調製した(比較例6)。それぞれの電解質濃度は、5重量%であった。得られた電解液を、実施例19〜25と同様に評価した。結果を表3に示す。
【0076】
【表3】
Figure 0004504481
【0077】
表3の比較例5及び6から明らかな様に、初期電導度が1.37〜1.38mS/cmあったのが、熱劣化によりその値が0.77〜0.78mS/cmに低下しているのに比較して、実施例19〜25では、1mS/cm前後に保持されていた。これは、系内で時間の経過と共に進行するエチレングリコールと二塩基酸の間のエステル化反応により、水分率が上昇し、それと同時にpHの上昇が起こっている。この程度が、比較例に比べて実施例の場合はかなり緩和されおり、使用期間が長く保証できる傾向にある。
【0078】
この現象から、比較例の電解質(二塩基酸)の単独使用よりも、成分2〜4(2,4−ジメチル−4−メトキシカルボニルウンデカン二酸、2,4,6−トリメチル−4,6−ジメトキシカルボニルトリデカン二酸、及び8,9−ジメチル−8,9−ジメトキシカルボニルヘキサデカン二酸)が混在した実施例の方が、各成分の分子間相互作用(双極子反発、分子配列作用など)により化学的安定性が増加していると考えられる。
【0079】
【発明の効果】
本発明の電解コンデンサ駆動用電解液は、側鎖にアルキル基を有する長鎖二塩基酸と、側鎖にアルキル基とアルコキシカルボニル基とを有し、かつ両端カルボキシル基に挟まれた主鎖の炭素数が8以上の長鎖二塩基酸を各々1種又はそれ以上含有する二塩基酸混合物及び/又はそのアンモニウム塩を含んでいる。従って、低温における析出がなく、耐電圧性に優れている。従来用いられている電解コンデンサ駆動用電解液の電解質(長鎖二塩基酸)は、製造後、複数の工程を要して単離しなければならなかった。これに対して、本発明の長鎖二塩基酸混合物は、単離する必要がなくそのまま電解コンデンサ駆動用電解液として用いられるので、極めて簡単に電解コンデンサ駆動用電解液が製造できる。

Claims (12)

  1. −メチルノナン二酸、2,4−ジメチル−4−メトキシカルボニルウンデカン二酸、2,4,6−トリメチル−4,6−ジメトキシカルボニルトリデカン二酸及び8,9−ジメチル−8,9−ジメトキシカルボニルヘキサデカン二酸を含む、長鎖二塩基酸混合物。
  2. 前記2−メチルノナン二酸、2,4−ジメチル−4−メトキシカルボニルウンデカン二酸、2,4,6−トリメチル−4,6−ジメトキシカルボニルトリデカン二酸及び8,9−ジメチル−8,9−ジメトキシカルボニルヘキサデカン二酸が、長鎖二塩基酸混合物の全重量に対して、重量で、30〜60:8〜20:8〜20:15〜30の割合で含まれる、請求項に記載の長鎖二塩基酸混合物。
  3. 以下の工程:
    (1)酸触媒の存在下、メタノール中でシクロヘキサノンと過酸化水素とを反応させる工程;
    (2)(1)の反応生成物にメタクリル酸メチルを金属塩の存在下、反応させる工程;及び
    (3)(2)で得られる反応生成物を加水分解する工程;
    を含む方法により得られる、請求項又はに記載の長鎖二塩基酸混合物。
  4. 請求項1ないしいずれかの項に記載の長鎖二塩基酸混合物及び/又はその塩を含有する、電解液用組成物。
  5. 前記塩がアンモニウム塩である、請求項に記載の電解液用組成物。
  6. 前記長鎖二塩基酸及び/又はそのアンモニウム塩がエチレングリコールに溶解されている、請求項に記載の電解用組成物。
  7. 請求項1ないしいずれかの項に記載の二塩基酸混合物及び/又はその塩を含有する、電解コンデンサ駆動用電解液。
  8. 前記塩がアンモニウム塩である、請求項に記載の電解コンデンサ駆動用電解液。
  9. 前記二塩基酸及び/又はそのアンモニウム塩がエチレングリコールに溶解されている、請求項に記載の電解コンデンサ駆動用電解液。
  10. 2−メチルノナン二酸、2,4−ジメチル−4−メトキシカルボニルウンデカン二酸、2,4,6−トリメチル−4,6−ジメトキシカルボニルトリデカン二酸及び8,9−ジメチル−8,9−ジメトキシカルボニルヘキサデカン二酸を含有する、長鎖二塩基酸混合物の製造方法であって、該方法は、以下の工程:
    (1)酸触媒の存在下、メタノール中でシクロヘキサノンと過酸化水素とを反応させる工程
    (2)(1)の反応生成物にメタクリル酸メチルを金属塩の存在下、反応させる工程;及び
    (3)(2)で得られる反応生成物を加水分解する工程;を含む、方法。
  11. 2−メチルノナン二酸及び/又はそのアンモニウム塩、2,4−ジメチル−4−メトキシカルボニルウンデカン二酸及び/又はそのアンモニウム塩、2,4,6−トリメチル−4,6−ジメトキシカルボニルトリデカン二酸及び/又はそのアンモニウム塩、並びに8,9−ジメチル−8,9−ジメトキシカルボニルヘキサデカン二酸及び/又はそのアンモニウム塩を含有する電解用組成物の製造方法であって、該方法は、以下の工程:
    (1)酸触媒の存在下、メタノール中でシクロヘキサノンと過酸化水素とを反応させる工程;
    (2)(1)の反応生成物にメタクリル酸メチルを金属塩の存在下、反応させる工程;
    (3)(2)で得られる反応生成物を加水分解して、長鎖二塩基酸混合物を製造する工程;及び
    )得られた長鎖二塩基酸混合物をアンモニアで処理する工程;
    を含む、方法。
  12. 2−メチルノナン二酸及び/又はそのアンモニウム塩、2,4−ジメチル−4−メトキシカルボニルウンデカン二酸及び/又はそのアンモニウム塩、2,4,6−トリメチル−4,6−ジメトキシカルボニルトリデカン二酸及び/又はそのアンモニウム塩、並びに8,9−ジメチル−8,9−ジメトキシカルボニルヘキサデカン二酸及び/又はそのアンモニウム塩を含有する電解コンデンサ駆動用電解液の製造方法であって、該方法は、以下の工程:
    (1)酸触媒の存在下、メタノール中でシクロヘキサノンと過酸化水素とを反応させる工程;
    (2)(1)の反応生成物にメタクリル酸メチルを金属塩の存在下、反応させる工程;
    (3)(2)で得られる反応生成物を加水分解して、長鎖二塩基酸混合物を製造する工程;
    )得られた長鎖二塩基酸混合物をアンモニアで処理する工程;及び、
    )得られた長鎖二塩基酸混合物及び/又はそのアンモニウム塩を溶媒に溶解する工程;を含む、方法。
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