JP4501655B2 - 方向性電磁鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
例えば、特許文献1には、インヒビターとしてAlN,MnSを使用する方法が、また特許文献2には、インヒビターとしてMnS,MnSeを使用する方法がそれぞれ開示され、いずれも工業的に実用化されている。
しかしながら、スラブの高温加熱は、設備コストが嵩むことの他、熱間圧延時に生成するスケールの量も多大になるため歩留りが低下し、また設備のメンテナンスが煩雑になる等の問題がある。
この技術は、二次再結晶におけるゴス方位粒の優先的成長の本質的要因は、一次再結晶組織中の高エネルギー粒界の分布状態にあり、インヒビターの役割は、高エネルギー粒界であるゴス方位粒と他の粒界の移動速度差を生じさせることにある、という理論に基づくものである。
すなわち、鋼中に存在する不純物元素は、粒界とくに高エネルギー粒界に偏析し易いため、不純物元素を多く含む場合には、高エネルギー粒界と他の粒界の移動速度に差がなくなっているものと考えられる。従って、素材を高純度化し、上記のような不純物元素の影響を排除することにより、高エネルギー粒界の構造に依存する本来的な移動速度差が顕在化し、ゴス方位粒の二次再結晶が可能になる。
この点、粒径分布が一様でない場合には、隣接する結晶粒同士の粒径差を駆動力とする正常粒成長が起こる、すなわち粒界の易動速度差と異なる要因で成長可能となる結晶粒が選択されるために、上記したTexture Inhibition効果が発揮されずに、ゴス方位粒の選択的粒成長が起こらなくなる。
この技術によれば、一次再結晶から二次再結晶までに増硫処理を行うことにより、一次再結晶粒界に偏析するS量が増すため、Goss方位以外の方位粒を囲む粒界の移動がさらに抑制され、その結果、二次再結晶が安定化するものと考えられる。
本発明は、上記の問題を有利に解決するもので、特許文献4に開示の増硫処理を施す場合に懸念された、鋼板内での磁気特性の偏差を効果的に低減した方向性電磁鋼板の有利な製造方法を提案することを目的とする。
(1)C:0.08mass%以下、Si:2.0〜8.0mass%およびMn:0.005〜3.0mass%を含み、かつAlを100ppm未満、SおよびSeをそれぞれ50ppm以下に低減し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になる鋼スラブを、熱間圧延後、熱延板焼鈍を施したのち、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施して最終冷延板とし、ついで脱炭焼鈍後、マグネシアを主体とする焼鈍分離剤を塗布してから、仕上焼鈍を施す一連の工程からなる方向性電磁鋼板の製造方法において、
上記焼鈍分離剤中に、硫化物および/または硫酸塩を含有させることにより、仕上焼鈍工程の昇温過程において鋼板に対して増硫処理を施すものとし、その際、コイル最内巻部からコイル径がコイル外径の90%となる位置に塗布される焼鈍分離剤中の硫化物および/または硫酸塩の濃度を、コイル径がコイル外径の90%を超えたところから最外巻部までの位置に塗布される焼鈍分離剤中の硫化物および/または硫酸塩の濃度の50%以上 400%以下の範囲で増加させることにより、昇温過程中 800℃でのコイル内における増硫量の最大値と最小値の差を30ppm以下に抑制することを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
上記焼鈍分離剤中に、硫化物および/または硫酸塩を含有させることにより、仕上焼鈍工程の昇温過程において鋼板に対して増硫処理を施すものとし、その際、700℃から800℃までのコイル滞留時間をt(h)、塗布した硫化物および/または硫酸塩中の硫黄分がすべて鋼板中に侵入したと想定した場合の増硫量をΔS(ppm)としたとき、仕上焼鈍工程の昇温過程における700℃から800℃までの滞留時間を、次式
0.837×exp(0.0177×ΔS)+5≦t≦50
を満足する範囲に制御することにより、昇温過程中 800℃でのコイル内における増硫量の最大値と最小値の差を30ppm以下に抑制することを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
まず、本発明の解明経緯について説明する。
さて、前述したとおり、発明者らは、前掲特許文献4に記載の技術を用いて方向性電磁鋼板コイルを製造した場合に、鋼板内の磁気特性にばらつきが生じる場合があることの知見を得た。
具体的には、コイルの圧延方向を長手方向としてエプスタイン試験片をコイルの各部で切り出し、SST測定を行ったところ、磁化力:800 A/m時におけるの磁束密度(B8)の最大値と最小値の差ΔB8=Max(B8)−Min(B8)が0.06Tと非常に大きくなる場合があることが判明した。
このような磁気特性の偏差が大きいコイルでは、JIS C 2550に定められた磁気特性試験の値よりも特性が劣る部分が存在するようになるため、トランス等の製品に加工した場合、加工品の特性ばらつきが大きくなってしまう不利が生じる。例えば、ΔB8が0.04T超では、B8平均値が2%以上変動するため、 ΔB8は0.04T以下とすることが好ましく、より好ましくは0.02T以下である。
なお、いずれの場合も、焼鈍分離剤中に、硫化物および/または硫酸塩を含有させ、仕上焼鈍工程の昇温過程において鋼板に対して増硫処理を施すことを前提としている。
a)鋼板に焼鈍分離剤を塗布するに際し、コイルの外巻部、すなわちコイル径がコイル外径の90%を超えたところから最外巻部までの部分の焼鈍分離剤中の硫化物および/または硫酸塩の濃度に対して、それよりコイル内側の中巻・内巻部での焼鈍分離剤中の硫化物および/または硫酸塩の濃度を所定の量だけ高くする。
b)コイル内で、増硫が不十分となり易い部分、すなわちコイルの中巻・内巻部においても、焼鈍分離剤に添加した硫黄分が鋼板中に侵入して、十分に増硫できるよう、増硫処理に適した温度域での滞留時間を適正な範囲内とする。
ここに、コイル内における増硫量の偏差、すなわちコイル内での増硫量の最大値と最小値の差は30ppm以下とすることが肝要である。というのは、このコイル内における増硫量の偏差が30ppmを超えると、仕上焼鈍後における磁気特性B8の最大値と最小値の差ΔB8が0.04T超となってしまい、前述したとおり、トランス等の製品においてB8平均値が2%以上変動するからである。
C:0.08mass%以下
Cは、一次再結晶集合組織を改善する上で有用な元素であるが、含有量が0.08mass%を超えると、脱炭焼鈍において磁気時効の起こらない50ppm以下まで低減することが困難になるので、0.08mass%以下に限定した。
Siは、電気抵抗を高めて鉄損の向上に有効に寄与するが、含有量が2.0mass%に満たな いと十分な鉄損低減効果が望めず、一方8.0mass%を超えると加工性が劣化するため、Si量は2.0〜8.0mass%の範囲に限定した。
Mnは、熱間加工性を良好にするために有用な元素であるが、含有量が0.005mass%未満ではその添加効果に乏しく、一方 3.0mass%を超えると磁束密度の低下を招くので、Mnは0.005〜3.0mass%の範囲に限定した。
AlやS,Seが、過剰に存在すると二次再結晶が困難となる。この理由は、スラブ加熱によって粗大化したAlN,MnS,MnSe等が一次再結晶組織を不均一にするためである。従って、Alは100 ppm未満、S,Seはそれぞれ50 ppm以下に限定した。
その他の窒化物形成元素であるTi,Nb,B,Ta,V等についても、それぞれ50ppm以下に低減することが、鉄損の劣化を防ぎ、良好な加工性を確保する上で有効である。
Ni:0.005〜1.50mass%
Niは、熱延板組織の均一性を高めることにより、磁気特性を改善する働きがある。しかしながら、含有量が0.005mass%に満たないとその添加効果に乏しく、一方1.50mass%を超えると二次再結晶が不安定となり、磁気特性が劣化するので、Niは0.005〜1.50mass%の範囲で含有させることが望ましい。
これらの元素はいずれも、鉄損の改善に有効に寄与するが、含有量が下限値に満たないとその添加効果に乏しく、一方上限値を超えると二次再結晶粒の発達が抑制されるため、それぞれ上記の範囲で含有させることが好ましい。
上記の好適成分組成に調整した溶鋼を、転炉、電気炉などを用いる公知の方法で精錬し、必要が有れば真空処理などを施したのち、通常の造塊法や連続鋳造法でスラブを製造する。また、直接鋳造法を用いて100mm以下の厚さの薄鋳片を直接製造してもよい。
鋼スラブは、通常の方法で加熱して熱間圧延するが、鋳造後、加熱せずに直ちに熱延してもよい。また、薄鋳片の場合には、熱間圧延を行っても良いし、熱間圧延を省略してそのまま以後の工程に供してもよい。
なお、熱間圧延前のスラブ加熱温度は、1250℃以下に抑えることが、熱延時に生成するスケール量を低減する上で特に望ましい。また、結晶組織の微細化および不可避的に混入するインヒビター成分の弊害を無害化して、均一な整粒一次再結晶組織を実現する意味でもスラブ加熱温度は低温化することが望ましい。
なお、冷間圧延に際しては、圧延温度を100〜300℃に上昇させて行うこと、および冷間圧延途中で100〜300℃の範囲で時効処理を1回または複数回行うことは、ゴス組織を発達させる上で有効である。
この脱炭焼鈍は、湿潤雰囲気を使用して700〜1000℃の範囲で行うことが好適である。また、この脱炭焼鈍後に、浸珪法によりSi量を増加させる技術を適用してもよい。
本発明では、この最終仕上焼鈍工程において、均一な二次再結晶組織を発現させるために仕上焼鈍工程の昇温過程において増硫処理を行うが、そのために本発明では、上記の焼鈍分離剤中に、アルカリ金属やアルカリ土類金属や遷移金属の硫化物および/または硫酸塩を含有させる。
また、焼鈍分離剤への硫酸塩や硫化物の添加量としては、0.2 mass%以上、15mass%以下程度とするのが好適である。というのは、硫酸塩や硫化物の添加量が0.2 mass%未満では、地鉄におけるS増加量が少なく、一方15mass%超では地鉄のS増加量が多くなりすぎて、いずれの場合も磁気特性改善効果が小さいからである。
ここに、800℃を超える温度では、一次再結晶の粒成長が顕著に生じてしまうため、一次再結晶の粒成長に対するTexture Inhibition効果を増硫処理により強めることの意味がなくなるため、800℃での増硫量の差を30ppm以下に抑制する必要がある。
0.837×exp(0.0177×ΔS)+5≦t≦50
を満足する範囲に制御する必要があるのは、以下の理由による。
まず、硫黄分が鋼板中に侵入を開始する温度は少なくとも700℃以上である。一方、800℃を超える温度では、一次再結晶の粒成長が顕著に生じてしまうため、一次再結晶の粒成長に対するTexture Inhibition効果を増硫処理により強めることの意味がなくなる。
そこで、滞留処理を施すべき温度範囲は、700〜800℃の範囲に定めた。
この図から明らかなように、焼鈍分離剤中の硫化物もしくは硫酸塩の濃度から求まるΔS(横軸)に対して、増硫量の差を30ppm以下とするに必要な最小滞留時間tmin(縦軸)との間には、tmin=0.837×exp(0.0177×ΔS)+5の関係があることが判明した。よって、滞留時間は、このtmin以上とした。一方、滞留時間が50時間を超えると、最終仕上焼鈍後に被膜不良が発生するため、滞留時間の上限は50時間とした。
そして、最終仕上焼鈍後は平坦化焼鈍にて形状を矯正する。また、鉄損を改善するために、鋼板表面に張力を付与する絶縁コーティングを施すことは有利である。
この時、コイル最内巻部からコイル径がコイル外径の90%となる位置(コイル中・内巻部)に塗布される焼鈍分離剤中の硫化物(SrSO4)の濃度、およびコイル径がコイル外径の90%を超えたところから最外巻部までの位置(コイル外巻部)に塗布される焼鈍分離剤中の硫化物(SrSO4)の濃度をそれぞれ表1に示すように種々に変化させることにより、仕上焼鈍工程の昇温過程中 800℃までの増硫量を表1に示すように変化させた。
仕上焼鈍後の コイルのB8の偏差は、仕上焼鈍後のコイルを10mおきにエッジ部から長手方向を圧延方向にとってエプスタイン試験片を順に切り出し、SST測定にて磁化力:800 A/m時における磁束密度(B8)の平均値および最大値と最小値の差ΔB8=Max(B8)−Min(B8)を測定した。
得られた結果を表1に示す。
この時、SrSO4を含有する焼鈍分離剤を塗布してから、700℃から800℃まで表2に示す時間だけ滞留させる増硫処理を施した。
仕上焼鈍後の コイルのB8の偏差は、仕上焼鈍後のコイルを10mおきにエッジ部から長手方向を圧延方向にとってエプスタイン試験片を順に切り出し、SST測定にて磁化力:800 A/m時における磁束密度(B8)の平均値および最大値と最小値の差ΔB8=Max(B8)−Min(B8)を測定した。
得られた結果を表2に併記する。
Claims (5)
- C:0.08mass%以下、Si:2.0〜8.0mass%およびMn:0.005〜3.0mass%を含み、かつAlを100ppm未満、SおよびSeをそれぞれ50ppm以下に低減し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になる鋼スラブを、熱間圧延後、熱延板焼鈍を施したのち、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施して最終冷延板とし、ついで脱炭焼鈍後、マグネシアを主体とする焼鈍分離剤を塗布してから、仕上焼鈍を施す一連の工程からなる方向性電磁鋼板の製造方法において、
上記焼鈍分離剤中に、硫化物および/または硫酸塩を含有させることにより、仕上焼鈍工程の昇温過程において鋼板に対して増硫処理を施すものとし、その際、コイル最内巻部からコイル径がコイル外径の90%となる位置に塗布される焼鈍分離剤中の硫化物および/または硫酸塩の濃度を、コイル径がコイル外径の90%を超えたところから最外巻部までの位置に塗布される焼鈍分離剤中の硫化物および/または硫酸塩の濃度の50%以上 400%以下の範囲で増加させることにより、昇温過程中 800℃でのコイル内における増硫量の最大値と最小値の差を30ppm以下に抑制することを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。 - C:0.08mass%以下、Si:2.0〜8.0mass%およびMn:0.005〜3.0mass%を含み、かつAlを100ppm未満、SおよびSeをそれぞれ50ppm以下に低減し、残部はFeおよび不可避的不純物の組成になる鋼スラブを、熱間圧延後、熱延板焼鈍を施したのち、1回または中間焼鈍を挟む2回以上の冷間圧延を施して最終冷延板とし、ついで脱炭焼鈍後、マグネシアを主体とする焼鈍分離剤を塗布してから、仕上焼鈍を施す一連の工程からなる方向性電磁鋼板の製造方法において、
上記焼鈍分離剤中に、硫化物および/または硫酸塩を含有させることにより、仕上焼鈍工程の昇温過程において鋼板に対して増硫処理を施すものとし、その際、700℃から800℃までのコイル滞留時間をt(h)、塗布した硫化物および/または硫酸塩中の硫黄分がすべて鋼板中に侵入したと想定した場合の増硫量をΔS(ppm)としたとき、仕上焼鈍工程の昇温過程における700℃から800℃までの滞留時間を、次式
0.837×exp(0.0177×ΔS)+5≦t≦50
を満足する範囲に制御することにより、昇温過程中 800℃でのコイル内における増硫量の最大値と最小値の差を30ppm以下に抑制することを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。 - 請求項1または2において、前記増硫処埋による鋼板地鉄中のS濃度の増加量が、2ppm 以上、200 ppm 以下であることを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
- 請求項1,2または3において、前記焼鈍分離剤中に含有させる硫化物および/または硫酸塩の量が 0.2〜15mass%であることを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
- 請求項1〜4のいずれかにおいて、前記鋼スラブが、さらに、Ni:0.005〜1.50mass%、Sn:0.01〜0.50mass%、Sb:0.005〜0.50mass%、Cu:0.01〜1.50mass%、P:0.0050〜0.50mass%およびCr:0.01〜1.50mass%のうちから選んだ一種または二種以上を含有する組成になることを特徴とする方向性電磁鋼板の製造方法。
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