JP4498524B2 - 耐熱性フィルムの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、耐熱性フィルムの製造方法に関するものであり、さらに詳しくは、磁気記録媒体用ベースフィルムとして有用な耐熱性フィルムの製造方法に関するものである。
【0002】
【従来技術】
耐熱性に優れたフィルムとしては、アラミドフィルムやポリイミドフィルムが知られている。(特開昭49−131247号公報、特開昭51−81854号公報、特開昭52−84245号公報、特開昭52−85251号公報、特開昭58−42649号公報、特開昭59−45124号公報、特開昭61−246918号公報、特開昭62−70421号公報、特開昭60−15436号公報、特開昭60−15437号公報、特開昭62−488726号公報など参照.)
また、このような耐熱性フィルムを磁気記録媒体のベースフィルムとして用いた場合に、そのフィルムの表面平滑性を調整する技術が、特開昭61−246919号公報、特開昭63−297038号公報、特開平2−1741号公報、特開平2−133434号公報、特開平3−119512号公報、特開平3−114830号公報、特開平4−34716号公報、特開平4−149245号公報、特開平6−195679号公報、特公平5−64594号公報などに開示されている。
【0003】
一方、このようなフィルムの表面性の調整においては、原料の濾過が重要であることも知られており、具体的にフィルターを用いて原料を濾過することによってフィルムの表面性を調整する方法が、特開平8−147664号公報、WO96/06128号公報、WO97/39876号公報、WO99/08853号公報、特開平9−194607号公報、特開平10−139895号公報、特開平9−169859号公報などに記載されている。これらの濾過、特に10μm以下の高精度濾過において用いられるフィルターの材質として、工業的に入手可能なものはステンレスであり、ステンレス316Lの不織布焼結タイプのフィルターが主に用いられた。
【0004】
しかしながら、ステンレス材料を用いたフィルターを用いた場合でも、フィルムの表面性が間欠的に長期間悪くなり、また、フィルム中のピンホールも間欠的に長期間生じる。このため、従来の方法では磁気記録媒体用ベースフィルムとして高品質なフィルムを得ることができず、耐熱性フィルムを得るための工業的な生産方法としては十分な方法とは言えなかった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は、高品質な耐熱性フィルムを安定して生産するための製造方法を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、耐熱性フィルムのピンホール、表面性などフィルムの品質の影響因子に関して鋭意検討したところ、これらの原因がステンレスフィルターの腐食挙動にあることを発見した。そして、この発見に基づき、ステンレスフィルターの防食技術を発明し、さらにその発明を利用することにより本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本願は、以下の発明を提供する。
(1)貴金属が導通しているステンレスフィルターを用いて耐熱性樹脂溶液を濾過した後、その樹脂溶液をフィルム状に成形することを特徴とする耐熱性フィルムの製造方法。
ここで、上記耐熱性樹脂溶液がステンレスフィルターを腐食性雰囲気にさらす系、例えば、硫酸を主成分とする耐熱性樹脂溶液(硫酸分50wt%以上の溶液)の系である場合には、特に本発明の効果が発揮される。
(2)濾過面積に対する貴金属の表面積の比が1/1000〜1000/1であることを特徴とする上記(1)の耐熱性フィルムの製造方法。
ここで、用いられる貴金属が金(Au)または白金(Pt)またはこれらの合金である場合は、本発明の好ましい実施態様である。
【0008】
また、濾過面積に対する貴金属の表面積の比が1/20〜2/1である場合は、本発明の好ましい実施態様である。
本発明に用いられる耐熱性樹脂としては、アラミド樹脂やポリイミド樹脂のような耐熱性を有する樹脂が用いられ、特に、溶融製膜方法よりも溶液製膜方法を用いる方が有用な樹脂が用いられる。例えば、アラミド樹脂としては、次の構成単位からなる群より選択された単位より構成される。
−NH−Ar1−NH− (1)
−CO−Ar2−CO− (2)
−NH−Ar3−CO− (3)
ここでAr1、Ar2、Ar3は少なくとも1個の芳香環を含み、同一でも異なっていてもよく、これらの代表例としては下記化1が挙げられる。
【0009】
【化1】
【0010】
また、これらの芳香環の環上の水素の一部が、ハロゲン基、ニトロ基、アルキル基、アルコキシ基などで置換されているものも含む。また、Xは−O−、−CH2−、−SO2−、−S−、−CO−などである。
特に、全ての芳香環の80モル%以上がパラ位にて結合されているアラミド樹脂は、高品質な磁気記録媒体用ベースフィルムを製造する上で好ましい。
ポリイミド樹脂としては、ポリマーの繰り返し単位の中に芳香環とイミド基をそれぞれ1個以上含むものであり、下記化2または化3の一般式で表されるものである。
【0011】
【化2】
【0012】
【化3】
【0013】
ここでAr4およびAr6は少なくとも1個の芳香環を含み、イミド環を形成する2個のカルボニル基は芳香環上の隣接する炭素原子に結合している。このAr4は、芳香族テトラカルボン酸またはその無水物に由来する。代表例としては、下記化4がある。ここでYは、−O−、−CO−、−CH2−、−S−、−SO2−などである。
【0014】
【化4】
【0015】
また、Ar6は無水トリカルボン酸、あるいはそのハライドに由来する。
Ar5、Ar7は、少なくとも1個の芳香環を含み、芳香族ジアミン、芳香族イソシアネートに由来する。Ar5またはAr7の代表例としては下記化5がある。
【0016】
【化5】
【0017】
ここで、これらの芳香環の環上の水素の一部が、ハロゲン基、ニトロ基、アルキル基、アルコキシ基などで置換されているものも含む。Zは、−O−、−CH2−、−S−、−SO2−、−CO−などである。
特に、Ar5、Ar7の80%以上がパラ位に結合された芳香環であるポリイミド樹脂が、高品質な磁気記録媒体用ベースフィルムを製造する上で好ましい。
また、本発明においてアラミド樹脂またはポリイミド樹脂などの耐熱性樹脂には、フィルムの物性を損ねたり、本発明の目的に反しない限り、滑剤、酸化防止剤、その他本発明の目的に反しない限り、滑剤、酸化防止剤、その他の添加剤などや、他のポリマーが含まれていてもよい。
【0018】
本発明に用いられる耐熱性樹脂溶液とは、耐熱性樹脂を溶剤に溶解させた溶液であり、耐熱性樹脂の前駆体の溶液も含まれる。例えば、有機溶剤に可溶なポリマーでは、直接溶剤中で重合し、樹脂を単離することなくそのままフィルムの原液として用いてもよく、塩化カルシウムなどの無機塩を溶解助剤として添加して用いてもよい。また、一旦ポリマーを単離した後、再溶解するなどして溶液としてもよい。ポリパラフェニレンテレフタルアミド(以下、PPTAと称する)等の有機溶剤に難溶のものについては、濃硫酸などに溶解して溶液としてもよい。
【0019】
本発明は、特にこのような硫酸系溶液(ステンレスフィルターが腐食性雰囲気にさらされる系)において効果が発揮される。
また、ポリイミド樹脂については、有機溶剤中にてテトラカルボン酸無水物と芳香族ジアミンを反応させて、ポリアミド酸とし、この溶液をそのまま、または一旦閉環処理してポリイミドとした後再度溶剤に溶解して溶液としてもよい。溶液中の樹脂の濃度はそれぞれの樹脂において適宜条件が選ばれる。一般に0.1〜50重量%、特に1〜30重量%の濃度が用いることが多い。
【0020】
本発明において、高品質な磁気記録媒体用ベースフィルムを製造する上で樹脂溶液に滑材を分散させた溶液を用いるのは本発明の好ましい態様である。ここで滑材とはフィルムとしたときにフィルム表面の微細突起を形成するための微粒子である。フィルム表面に微細突起が存在することにより、フィルム相互の滑り性がよくなりブロッキング現象などを回避することができる。このような滑材としては、有機化合物、無機化合物の微粒子が挙げられ、例えばポリスチレン、シリカ、アルミナ、酸化チタン、硫酸カルシウム、炭酸カルシウム、ゼオライト、カーボンブラック、その他金属や金属化合物などの微粒子やコロイダルシリカなども用いることができる。
【0021】
このような微粒子の大きさとしては、フィルムにした際に平均粒径が500nm以下、特に10〜200nmとなるように溶液に含まれるのが好ましい。また滑材の量としては、フィルム中に0.001〜2重量%、特に0.01〜1重量%含まれるように溶液を調整するのが好ましい。この調整は、溶液中の樹脂濃度と滑材の濃度の調整により行うことができる。
樹脂溶液に滑材を分散する場合に、樹脂溶液に滑材のみを直接添加するのでは十分な分散状態が達成できず、避けられるべきである。滑材は、上記樹脂の重合に用いる溶剤に予め分散するか、樹脂を再溶解する場合は、溶解に用いる溶剤に予め分散するか、または、溶剤の一部を取り出して滑材を分散させた後、樹脂溶液に添加し混合するなどの方法により、樹脂溶液に分散される。
【0022】
滑材を分散する手段としては、各種のホモジナイザが用いられてよく、特に超音波ホモジナイザは分散力が優れていて推奨される。
滑材の分散状態を改良する方法として、コロイド状に滑材を単分散したものが市販されており、それを希釈して用いることは平均凝集度が10以下の分散状態を実現する上で好ましいが、用いる溶剤や希釈条件によっては滑材の凝集が生じやすく、期待した効果が得られにくいことがあるため、注意すべきである。特に無機塩を溶解助剤として溶解したアミド系溶剤や、濃硫酸を溶剤とする場合には、コロイド状の滑材の凝集が起こりやすいため、コロイド状分散液を一旦分散液と同じ溶剤で希釈した後十分なかき混ぜ下に樹脂を溶解する溶剤に混合するなどの配慮が大切である。
【0023】
本発明に用いられるステンレスフィルターとは、ステンレスを主構成要素とするフィルターエレメントであり、具体的には、ステンレス316、316L、304、430等が挙げられ、その中でステンレス316Lが主として用いられる。
フィルターの微細形状としては、ステンレス微細繊維の不織布を焼結したタイプ、金網状に編んだものを焼結したタイプ、パウダーを焼結したタイプのものが用いられる。これらの内特に高精度濾過には不織布を焼結したタイプのものが用いられる。
【0024】
本発明に用いられるステンレスフィルターの全体形状としては、上記フィルターエレメントをリーフディスク形状に成形・加工したもの、キャンドルタイプ(円筒形)に成形・加工したもの、プリーツ状に成形・加工したもの、板状に成形・加工したものなどがあり、特に制約はされない。
本発明において、貴金属とは原子番号44〜47のRu(ルテニウム)、Rh(ロジウム)、Pd(パラジウム)、Ag(銀)、および原子番号76〜79のOs(オスミウム)、Ir(イリジウム)、Pt(白金)、Au(金)であり、さらに、これらの合金であってもよい。これらの貴金属は濾過する溶液の性質に応じて適宜選択されるが、硫酸系溶液においては特にPt、Auおよびこれらの合金が耐食性に優れている。ここで用いられる合金としては、PtまたはAuの合計の含有量が50%以上のものが特に好ましい。
【0025】
本発明において、貴金属が導通しているステンレスフィルターとは、該貴金属表面が樹脂溶液に接触し、また、電気的にステンレスフィルターと絶縁されることなく金属を介して導通していることを意味する。貴金属がステンレスフィルターと導通していることによって、ステンレスフィルターの防食が可能となり、安定した品質のフィルムを得ることができる。
貴金属のステンレスフィルターへの導通方法については特に制約されないが、濾過容器の内面や部品などに貴金属をメッキ、クラッド、蒸着、溶射、スパッタリング、イオンプレーティングなどにより設置し、これとステンレスフィルターとを金属などの電気伝導性のよいもの、例えばステンレス鋼などを介して導通させる。フィルターは金属製すなわち電気伝導性のガスケット、パッキン、ボルトなどを用いて、貴金属を有する濾過容器の内面または部品などと導通させることができる。
貴金属のステンレスフィルターとの位置関係としては、できるだけ貴金属表面をフィルター表面に近いところに設けることが本発明の好ましい実施態様である。腐食防止の観点から、貴金属表面とフィルター表面との距離が50cm以下であることが好ましく、20cm以下であることが特に好ましい。
【0026】
貴金属の厚みとしては特に制約はないが、0.01μm〜10mmが実用的である。0.01μm以下であると使用中に剥がれることもあり、また、この厚みが10mm以上だと非常に高価であるため実用上実施しがたい。
本発明において、濾過面積に対する貴金属の表面積の比が1/1000〜1000/1であることが好ましい。ここで、濾過面積とはステンレスフィルターの溶液接触表面積ではなく、ステンレスフィルターの形状(リーフディスク、キャンドル、板状など)から計算される濾過表面積をいう。また、貴金属の表面積とは、濾過する溶液に接する面積いう。この濾過面積に対して貴金属の樹脂溶液と接触している表面積の比が1/1000以下だと腐食の防止が十分でなく、一方、濾過面積に対する貴金属の表面積の比が1000/1以上であると貴金属を多量に使用することになり装置として高価となるため、好ましくない。これらの範囲の内、1/20〜20/1が特に好ましい。
【0027】
濾過面積としては、用いる耐熱性樹脂溶液にもよるが、フィルターでの初期圧力損失が0.01MPa〜10MPa、特に0.1〜5MPaの範囲となるように設定することが好ましい。ここで、初期圧力損失とは溶液を濾過し始めた初期状態の濾過前と濾過後の溶液の圧力差をいう。この初期圧力損失が大きいと濾過精度が悪くなる傾向があり、またフィルターの使用できる期間も短くなる傾向がある。逆に、この初期圧力損失が小さいと用いるステンレスフィルターが多量に必要であり実用的でない。
【0028】
本発明においては、貴金属が導通しているステンレスフィルターにて耐熱性樹脂溶液を濾過することが必須である。耐熱樹脂溶液中には、各種不純物が存在しており、これらの不純物を濾過する必要があるためである。このような不純物としては、溶媒の不純物、耐熱性樹脂の不純物、滑材などの添加物に起因する不純物などがあり、各種操作、例えば樹脂の投入操作、溶解操作などの際に混入してしまう不純物などがある。
滑材の場合にはさらに、滑材の凝集物や好ましくない粒径の滑材の除去のためにも濾過は行われる。不純物を濾過して除くことにより、粗大な不純物によるフィルムのピンホールや破れ、また粗大突起を少なくすることができる。さらに、滑材を使用する場合には、フィルムの表面形状の制御を容易にすることができる。
そして、貴金属による防食効果により、ステンレスフィルターの腐食による腐食生成物(鉄、クロム、ニッケルなどの金属成分や溶剤、樹脂成分などの還元生成物)の流出なく、安定した品質のフィルムを得ることができる。
【0029】
濾過精度は特に制約されないが、高品質の磁気記録媒体用ベースフィルムを得るためには、10μm好ましくは5μm以上の粒径のものを99.5%以上補足可能なフィルターが好ましく用いられ、濾過精度としては5μm以下のフィルターが好ましく用いられる。このような高精度濾過を行うことにより、粗大突起が少なく、ピンホールも少ない高品質なフィルムを得ることができる。
耐熱性樹脂溶液を濾過する際には、できるだけフィルターの圧力変動がないよう定量性のよいギアポンプで一定流量濾過するのが好ましい。圧力変動としては1時間当たりの変動がフィルターでの圧力損失の10%以内、特に1%以内になるよう濾過流量の定量性を確保するのが好ましく用いられる。圧力変動を小さくすることにより、安定した異物の濾過ができ、フィルムの粗大突起やピンホールを少なくすることができる。
【0030】
本発明において、フィルム状に成形する方法は特に制約されず、それぞれの耐熱樹脂溶液に適した方法でフィルム状に成形される。例えば、アラミド樹脂、ポリイミド樹脂共に、その製膜は、乾式法では、溶液はダイから押し出され、金属ドラムやエンドレスベルトなどの支持体上にキャストされ、キャストされた溶液が自己支持性あるフィルムを形成するまで乾燥され凝固される。また湿式法では、溶液はダイから直接凝固液中に押し出されるか、乾式と同様に金属ドラムまたはエンドレスベルト上にキャストされた後、凝固液中に導かれ、凝固される。
【0031】
本発明においてキャスティング雰囲気をクリーンな環境下で行うことは好ましい。クリーン度としてはアメリカ連邦規格Fed. Std.209Bによるクリーンルーム規格で、クラス100以下であることは最も好ましく用いられる。キャスティング雰囲気をクリーンにすることにより、ピンホールの少ない高品質なフィルムを得ることができる。またキャスティング以外のフィルムの走行ラインをクラス1000以下にすることは好ましい実施態様である。
【0032】
製膜されたフィルムは、必要あれば重合時に副生する酸や溶解に用いた酸を中和処理した後、溶剤や無機塩等の溶解助剤を除去するために水または温水、更に必要あれば有機溶剤により洗浄される。
洗浄されたフィルムは乾燥されるが、望むならば乾燥に先立って延伸することもできる。即ち、乾燥前の湿潤フィルムを1方向または2方向に1.01から1.4倍程度延伸することにより機械的性質を向上させることができる。
【0033】
フィルムの乾燥は、通常緊張下、定長下または僅かに延伸しつつ、行うのが好ましい。このような乾燥を行う方法として、例えばテンター乾燥機やフィルムの両耳を固定できるドラム乾燥機で乾燥する方法等がある。この場合の乾燥温度は、通常、100℃から300℃の範囲に選ばれる。
乾燥フィルムは、必要あれば300℃以上、500℃以下の熱処理を受けた後、巻芯上に巻き取られてフィルムロールが形成される。ここで熱処理は、緊張下、定長下または弛緩状態で行うことができ、これらの組み合わせで2段階以上で行うこともできる。
【0034】
上記の各工程は可能な限り清浄な雰囲気下、例えばクラス1000以下のクリーン度に管理された室内などで実施することが好ましい。
フィルムのピンホール検出のため、上記の適当な工程に約200μm以上のピンホールが検出できる光学式検査機および、またはフィルム両面に電圧を加えてピンホール部を通電検出する検査機を設置し、製造と同時にピンホールを検出することも許される。勿論、一旦フィルムを巻き取った後、再度巻返すなどしてピンホールを検出することも可能である。これらに用いられる検査機は、自ら組み立てることも可能であるが、市販のものから適当に選択して用いることも可能である。
本発明の方法は、高品質の磁気記録媒体用ベースフィルムなどの高品質フィルムの製造方法として適している。フィルムの厚さとしては、12μm以下、特に1〜9μのフィルムを製造する方法に適している。
【0035】
【発明の実施の形態】
以下に図および実施例により発明の実施態様の例、効果を示す。
図1にリーフディスクフィルターを用いた一例を示した。3は外径7インチ、濾過精度3μmのリーフディスクフィルター(SUS316L製不織布焼結タイプ)で、このフィルターの濾過面積に対する比表面積は150m2/m2のものを用いた。リーフディスクフィルター3は外径178mm、内径60mmであり、8枚用いているため、その濾過面積は、
((外径÷2)2−(内径÷2)2)×円周率×2×8
で計算し、3529cm2である。
【0036】
スペーサ4としては厚さ2mmのSUS316製円板(外径7インチ)の表層に、厚さ2〜3μmのAuを均一に電解メッキしたものを設置した。貴金属は容器6の内面には設置していない。リーフディスクフィルター3とスペーサー4の間には、溶液の流路を確保するため、SUS304製の放射状に配置したΦ1mm棒状のディスタンスバー(図示せず)を設置した。濾過する溶液は、N1から容器内に入り、リーフディスクフィルター3で濾過した後、センターポール2を通ってN2から濾過溶液が得られる。リーフディスクフィルター3とAuメッキしたスペーサー4は金属製ガスケット(図示せず)でシールされ、電気的に導通している。また、濾過面積に対する貴金属の表面積(Auメッキ面積)の比率は約7/8である。リーフディスクフィルターとAuメッキ表面との最大距離は10mmである。
【0037】
図2にキャンドルタイプのフィルターを用いた一例を示した。10はSUS304製の金網焼結タイプのキャンドル型フィルターであり、9はキャンドルフィルター内に設置している流量均一化のためのSUS316製円錐状物である。
また、キャンドルフィルター9の濾過精度は10μmのものを用いた。このフィルターの外径は35mmであり高さは150mmのものを用いたのでその濾過面積は、(外径×円周率×高さ)で計算でき、165cm2と計算できる。容器6の内面を電解メッキで表層1〜2μmにPtを設置した。容器6とキャンドルフィルターとは金属製パッキンを用いているので電気的に導通している。濾過面積に対するPtメッキ表面積(貴金属の表面積)の比は約5/1の比率である。キャンドルフィルター10の濾過面積に対する比表面積は20m2/m2のものを用いた。キャンドルフィルター表面とPtとの最大距離は15mmである。
【0038】
(特性の測定法)
本発明の特性値の測定法は次の通りである。
(1)濾過精度
水分散ISOミディアムダスト10mg/Lを濾過し、濾過前後の粒子を粒子カウンターで測定して、99.5%の捕捉効率を有する粒子径を濾過精度とした。
(2)フィルムの元素分析
フィルム5gを精密秤量し、600℃以上の温度で灰化した。その後これを酸に溶解してICP-MASSにて金属成分を1ppbの精度で分析した。
(3)フィルターの比表面積
フィルターのガス吸着面積をBET法により求め、濾過面積に対する表面積を比表面積とした。(単位:m2/m2)
【0039】
(4)フィルムの厚み
フィルムの厚みは、デジタル電子マイクロメータ(アンリツ株式会社製K351C型)により直径2mmの測定子を用いて無作為に10点を測定しその平均値で表す。
(5)ピンホール
炭素繊維が植え付けられ、その先端がフィルム面に接触しているブラシ式電極がフィルムのほぼ全幅にわたりフィルム上面に設置されおり、対向してフィルム下面に接触してフィルムと同じ線速度で回転する金属ロール式電極が設置されている通電検出式ピンホール検査機(春日電気社製PFVI−1AVR型機)により連続的に走行させつつピンホール検査を行った。検査電圧は400V一定とした。
(6)粗大突起
フィルムの表面を100cm2の視野で検査し、粗大突起高さを多重干渉法により測定した。検査は同一サンプルについて5回行い、その平均個数を100cm2当たりの個数とした。
【0040】
【実施例1】
水中に平均粒径約80nmの球状シリカを40%含有するコロイド状シリカ分散液を、蒸留水にて5%の濃度に希釈した後、予めテフロンフィルター(濾過精度0.1μm)で濾過精製した101%硫酸に撹拌しつつ添加し、1μmカットのテフロン製フィルターでろ過し、シリカ濃度が0.035%の濃硫酸とした。得られたシリカ分散濃硫酸を用いてPPTA(ポリp-フェニレンテレフタルアミド)をポリマー濃度が11.5%になるように溶解し、PPTAの樹脂溶液(以後 樹脂溶液をドープと称する)を調整した。ドープは撹拌時に光を乱反射し、また、光学顕微鏡下の観察で、偏光顕微鏡のクロスニコルの暗視野を明視野にする光学的異方性を示す等、液晶状態にあることが分かった。
【0041】
調整したドープを65℃の一定温度に保ち、定量性の高いギアポンプを用い、図1に示したフィルターで濾過を行った。この時、初期圧力損失は1.1Mpaであった。また圧力変動は1時間当たり0.5%以下であった。濾過したドープは、ダイからクラス10〜100の雰囲気下で鏡面に研磨されたタンタル製のエンドレスベルト上にドラフト率が1.5となるようにキャストした。次いで、ベルト上で露点が10℃のクラス100以下の空気を100℃に加熱して吹き付けて、ドープを液晶相から等方相に相転換した後、5℃の30%硫酸中にて凝固させて膨潤フィルムを形成した。
【0042】
次いでこの膨潤フィルムを中和、水洗し、縦方向に1.2倍に延伸した後、フィルムの両耳をクリップで把持して横方向に1.2倍の延伸を施し、耳を把持したままで定長状態を保ちつつ熱風乾燥および420℃での熱処理を実施した。次いでクリップで把持した部分をスリット、除去して幅を620mmとした。
次いで、炭素繊維が植え付けられ、その先端がフィルム面に接触しているブラシ式電極がフィルムのほぼ全幅にわたりフィルム上面に設置されおり、対向してフィルム下面に接触してフィルムと同じ線速度で回転する金属ロール式電極が設置されている通電検出式ピンホール検査機(春日電気社製PFVI−1AVR型機)により連続的に走行させつつピンホール検査した後、フィルムを10000m毎に巻き取った。
【0043】
得られたPPTAフィルムは4.1μmの厚みであり、定期的に抜き取って、表面性の検査及びフィルムの元素分析を実施した。それらの結果を表1に要約した。なお、フィルムの元素分析においては主に検出されたのがステンレス成分だったので、表1には代表として鉄、クロム、ニッケルの合計値を示した。
【0044】
【比較例1】
図1のフィルターにおいて、スペーサー4を用いずに組み立てたフィルターを用いた以外は、実施例1と同様にフィルムを製造した。その結果を表1に要約した。成膜3日目から10日目までフィルターの差圧が段階的に上昇する傾向があった。
多発した3日目と7日目の粗大突起をSEM−EDXで解析したところ、粗大突起のあるところに粒子状のS元素が存在しているものとシリカの凝集に起因していることが分かった。S元素起因の粗大突起は、ステンレスフィルターの腐食時に硫酸が還元されて生成されたものと考えられる。また、シリカの凝集はステンレスフィルターの腐食による表層の剥離が原因と考えられる。
また同様に3日目と7日目の多発したピンホールを解析したところ、ピンホール部にステンレス成分と考えらる鉄、クロム、ニッケル、モリブデン等が検出された。ピンホールの発生がステンレスフィルターの腐食に起因していると考えられる。
【0045】
【実施例2】
実施例1では、Auメッキしたスペーサーをステンレスフィルターと交互に配置させたが、実施例2では、ステンレスフィルター8枚に対して、Auメッキしたスペーサーを3枚にして配置した以外は、実施例1と同様に行った。フィルターの濾過面積に対する、Auメッキしたスペーサーの面積すなわち貴金属の表面積の比は、約3/8である。Auメッキ表面とフィルター表面との最大距離は、約20mmである。その結果を表1に要約した。
【0046】
【実施例3】
図1のフィルターにおいて、Auメッキしたスペーサーを用いず、容器6の内面にAuを電解メッキしたものを用い、他は実施例1と同様にしてドープの濾過を行った。この時、フィルターの濾過面積に対する、容器内面のAuメッキ面積すなわち貴金属の表面積の比は、約1/3である。Auメッキ表面とフィルター表面との最大距離は、約60mmである。その結果を表1に要約した。
【0047】
【表1】
【0048】
実施例において粗大突起の約8割以上が270nm〜540nmの突起であり、810nm以上の突起はほとんどなかったので表1には270nm以上の突起の合計を記載した。比較例においては特に3日目以降に810nm以上の突起も多数見られたが、実施例と比較のため同様の評価結果を記載した。
表1の比較例から明らかなように、ステンレスフィルターから金属成分が多量に流出している。また腐食挙動によりフィルムの品質も悪く、その期間も長いため工業的には十分でないことが明確になった。本発明の実施例においては品質すなわちフィルムの表面性、欠陥、金属成分含有量に優れ、また、工業的に実用的であった。
【0049】
【実施例4】
N−メチルピロリドン(NMP)に粒子径70nmのシリカ微粒子を樹脂に対して0.5重量%となるよう超音波ホモジナイザーで分散させた。シリカを分散させたNMP溶液を1μ濾過精度のテフロンフィルターで濾過・精製した。濾過精製したNMPに2−クロルパラフェニレンジアミンを溶解させ、その後、等モル量の3,3',4,4-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物を添加し重合して、10重量%のポリアミド酸溶液を調製した。
【0050】
調製したポリアミド酸溶液を定量性の高いギアポンプを用い、図2に示したフィルターで濾過を行った。この時、初期圧力損失は1.8Mpaであった。また圧力変動は1時間当たり0.5%以下であった。濾過したポリアミド酸溶液は、ダイからクラス10〜100の雰囲気下で鏡面に研磨されたタンタル製のエンドレスベルト上にドラフト率が1.1となるようにキャストした。次いで、ベルト上で160℃に加熱空気を吹き付けて、自己支持性を有するまで乾燥し、ベルトから連続的に剥離させた。その後、NMP/純水(40/60)浴と純水浴で残存する溶媒などを純水と置換した。次にテンター乾燥機を用いて150℃で乾燥後、380℃の熱処理を行い、環化を完結させた。なお延伸倍率は1.0倍で定長とした。フィルムとしては厚さ7.2μm、幅150mmのフィルムを得た。
【0051】
次いで、通電検出式ピンホール検査機(春日電気社製PFVI−1AVR型機)により連続的に走行させつつピンホール検査した。
それらの結果を表2に要約した。
【0052】
【比較例2】
図2のフィルターにおいて容器6の内面にPtメッキしていないものを用いた以外は、実施例4と同様に行った。その結果を表2に要約した。
【0053】
【表2】
【0054】
粗大突起については540nm以上の突起の合計を記載した。
【0055】
【発明の効果】
本発明の方法により、ステンレスフィルターからの金属成分の流出や腐食生成物の流出を押さえることができ、フィルムの表面性に優れ、欠陥の少ない高品質の耐熱性フィルムを製造することができる。また、金属成分含有量の非常に少ない高品質の耐熱性フィルムを製造することができる。
さらに、本発明は、ステンレスフィルターが腐食性雰囲気にさらされるような耐熱性樹脂溶液の系(例えば、硫酸を主成分とする耐熱性樹脂溶液の系)で耐熱性フィルムを製造する場合に特に有効である。
このような高品質の耐熱性フィルムは、磁気記録媒体用ベースフィルムとして有用であり、本発明の方法は高品質の耐熱性フィルムを工業的に製造するのに有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】リーフディスクフィルターの一例を示す図である。
【図2】キャンドルタイプのフィルターの一例を示す図である。
【符号の説明】
1 仕切り板
2 センターポール
3 リーフディスクフィルター
4 スペーサー
5 エンドプレート
6 容器
7 容器保温のためのジャケット
8 蓋(ジャケット付き)
9 SUS316製円錐状物
10 キャンドルフィルター
11 フィルターをセットするフランジ
N1 溶液入り口
N2 濾過した溶液の出口
Claims (2)
- 貴金属が導通しているステンレスフィルターを用いて耐熱性樹脂溶液を濾過した後、その樹脂溶液をフィルム状に成形することを特徴とする耐熱性フィルムの製造方法。
- 濾過面積に対する貴金属の表面積の比が1/1000〜1000/1であることを特徴とする請求項1記載の耐熱性フィルムの製造方法。
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