JP4497131B2 - 生体性物質の酸化装置及び生体性物質酸化測定方法 - Google Patents

生体性物質の酸化装置及び生体性物質酸化測定方法 Download PDF

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Description

本発明は、酸化性物質によって酸化される生体性物質の酸化を測定するために、前記生体性物質を酸化させる装置及び生体性物質の酸化を測定する方法に関する。
生体内で生じた活性酸素種ROS(Reactive Oxygen Species)は、生体内にある抗酸化防御系又は免疫作用によって不活性化される。しかし、生体そのもの、又は外部要因(紫外線、放射能、大気汚染、過度な運動など)によって生体内での抗酸化能力を超えた場合、生体内での活性酸素種が過剰となり、いわゆる酸化ストレスが発生する。酸化ストレスが高くなると、脂質、タンパク質、糖質、核酸、SH基を含む還元性有機物質等、生体を形成する生体組織が酸化損傷を受け、これが老化や疾病の原因になることが報告されている。例えば、酸化ストレスの外部要因の一つである大気汚染の原因として、自動車などの内燃機関の排気ガスが挙げられている。
実際に、このような排気ガス等が生体にどのような影響を及ぼすかについては、ラットなどに吸引させた動物実験により、病理学的、生化学的、生理学的な影響を検討することは既に行われている。このような動物実験は、最終的な生体への影響を知る上で有効であるが、結果を得るまでに非常に長い時間を要し、また実験を場所を変更して随時実行することは難しい。また、多種多様の工業製品の特性を測定するための手段としては困難が多い。
生体が外部から受ける要因によって生体内で過剰に生成された活性酸素種ROSの中で例えばO2 -(スーパーオキシド)は、生体内のこのような活性酸素を分解する酵素SOD(Surperoxide Dismutase)量を測定することで、間接的ではあるが、上記外的要因が生体に及ぼす酸化力を評価することができる。SODを測定する方法として以下が考えられる。
(i)吸光光度測定法
SODの中でも上記O2 -を検出する方法として、ヘムタンパク質の一種であるシトクロムCや、ニトロブルーテトラゾリウム(NBT)が用いられる。シトクロムCでは、還元型シトクロムCが有する550nmの強い吸収を用いて定量する。一方、ニトロブルーテトラゾリウムは、O2 -によって還元され560nmに強い吸収を生ずるブルーホルマザンを用いて定量する。
(ii)化学発光法
SODの活性測定に用いられる化学発光法の発光プローブとしては、ウミホタルルシフェリン類縁体(MCLA)やルシゲニンが有名であり、これらにより、O2 -の化学発光を検出する。
(iii)電子スピン共鳴ESR(Electron Spin Resonance)法
2 -は、室温、溶液中では、ESRで信号を検出することができない。このため、スピントラップ剤である5,5−ジメチル−1−ピロリンN−オキシド(DMPO)を併用することにより、O2 -を補足したDMPOのESR信号を、O2 -として定量する。
気体の酸化力を示す指標としてオキシダントが知られている。自動車や工場から排出される窒素酸化物やガス状の炭化水素などが太陽光線に含まれる紫外線によって大気中で光化学反応を起こし、オゾンを主成分とした酸化性物質を生成する。この酸化生成物質がオキシダントであり、大気中で生成されるオキシダントの約80%がオゾンであるため、オキシダントが有する酸化力はオゾンの有する酸化力のみを評価している。その測定法は、ヨウ素カリウムを用いた吸光光度法や、紫外線吸収法が存在する。
ディーゼル排気粒子(DEP)については、大気汚染物質として指摘されており、その酸化能の測定として非特許文献1のような提案がある。この非特許文献1では、DEPをフィルタ上に捕集し、その可溶性有機成分SOF(Soluble Organic Fraction)に存在し、ヘキサンに不溶な有機成分に関し、還元性有機物であるジチオトレイトールDTT(Dithiothreitol)を用い、その有機成分が有する酸化能を測定している。
国立環境研究所,島浩稔ら,「ディーゼル排気粒子中の酸化能を有する画分の毒性及び化学的性状解析」,第46回大気環境学会年会予稿集,2005年9月 p.524
上記各種方法では、生体環境にできる限り近く、そして気体或いは排気粒子等の全体としての酸化能を検出することができないという問題がある。
例えば、上記SOD測定方法としてあげた各方法については以下の課題がある。
(i)吸光度測定法
シトクロムCは、還元酵素や還元物質が共存すると強い妨害を受けるため、実際には様々な物質が存在しうる生体環境に近い環境での酸化状況を知ることが難しい。また、NBTは、水に不溶であり、水溶液内で均一に分散せず、測定の精度や再現性に課題がある。
(ii)化学発光法
化学発光法では、pH依存性がきわめて強く、特にルシゲニンによる発光はpH9以上のアルカリ領域で極端にその発光強度が増す。したがって、pHが7前後の生理的な条件でのSODの活性測定には適していない。一方、ウミホタルルシフェリン類縁体(MCLA)は、中性領域でも強い発光を示すことから、pH7.8においてヒト脳内のCu、Zn−SOD活性の測定に利用されている。但し、MCLAは、O2 -だけではなく、溶存酸素と反応してバックグランド発光を示し、また、遷移金属イオンが共存する場合は、酸化反応が促進されるなどの短所がある。このため、排気ガス中に約10%前後の酸素分があったり、エンジンオイル由来の多くの金属イオンを含む排出粒子を前提とするディーゼル排気ガスのSODの活性評価には適していない。
(iii)ESR
この方法は、上記のようにO2 -を補足したDMPOのESR信号を、O2 -として定量するのであり、O2 -を直接補足した測定ではない。またDMPOは、O2 -に対してのみ特異性反応するので、ROSとしてO2 -しか検出することができない。
また、上述のオキシダント測定は、ヨウ素カリウムを用いた吸光光度法や、紫外線吸収法を用いて行うことになっている(昭和48年環境庁告示第25号)。しかし、上記の通りオキシダントは酸化性物質の総称であってオゾンのみではない。このため、気体、又は気体に含まれる粒子状物質が、オゾン以外の成分で構成されている場合は、ヨウ素カリウムを用いた分析方法では測定ができない。
さらに、上記DTTを用いた酸化能の測定方法では、気体が有している酸化能を測定することができない。この方法では、フィルタ捕集したDEPをジクロロメタンでソックレー抽出後、減圧乾燥して、ヘキサンに不溶な有機成分のみを選び、その成分に関してだけDTTを用いた酸化測定を行う。つまり、特定の有機成分の酸化能しか測定していないからである。また、抽出作業等に多くの薬品処理が加わるため、気体に含まれる粒子状物質が本来備えている酸化能も減少させてしまう可能性がある。よって、気体に含まれる粒子状物質が備える酸化能を正しく求めることができない。
そこで、本発明では、気体、又は気体に含まれる粒子状物質中の酸化性物質の生体性物質に対する酸化能の正確な測定を実現する。
本発明は、酸化性物質によって酸化される生体性物質の酸化を測定するために、前記生体性物質を酸化させる生体性物質酸化装置であり、酸化性物質によって酸化される生体性物質として、タンパク質、脂質、核酸、SH基を備える還元性有機化合物の少なくとも一種類を含有する水溶液を保持した反応室と、該水溶液中に酸化能測定対象である気体を導入する気体導入手段と、前記反応室内を排気する排気手段と、を備える。


本発明の他の態様では、上記装置において、さらに、前記測定対象の気体を非酸化性気体によって所定希釈率で希釈する希釈器を備え、前記希釈器からの希釈気体を前記気体導入手段に供給する。
本発明の他の態様では上記装置において、前記酸化能測定対象の気体は、内燃機関の排気ガスであり、前記希釈器は、前記内燃機関の排気管からの該排気ガスを前記非酸化性気体によって希釈してから前記反応室内に供給する。
本発明の他の態様では、上記装置において、前記内燃機関からの前記排気ガスが集塵フィルタを通過させてから前記水溶液に供給される。
本発明の他の態様では、上記のような装置において、前記水溶液中に、粒子状物質を含む気体から該粒子状物質を捕集した捕集基体を保持する基体保持手段を備え、該水溶液中には、気体導入手段によって非酸化性気体を導入してもよい。
本発明の他の態様では、上記装置において、前記反応室は、複数設けられ、各反応室の前記水溶液中への導入気体量を制御するための流量調整手段が、各反応室に対応して設けることができる。
本発明の他の態様では、上記装置において、さらに、前記反応室の水溶液温度を調整する温度調整手段と、前記反応室と前記排気手段との間に、該反応室に対応して配された水蒸気除去手段と、を備え、前記水蒸気除去手段によって、前記反応室の排気から水蒸気が除去され、前記排気手段に供給される。
本発明の他の態様では、生体性物質酸化測定方法であり、反応室内に、酸化性物質によって酸化される生体性物質として、タンパク質、脂質、核酸、SH基を備える還元性有機化合物の少なくとも一種類を含有する水溶液を保持し、気体導入手段によって、該水溶液中に、酸化能測定対象である気体を連続的に導入し、かつ、排気手段によって前記反応室内を排気し、所定期間、前記水溶液中に前記気体を導入した後に、該水溶液中に含まれる前記生体性物質の酸化物量を検出し、前記導入した気体の前記生体性物質に対する酸化能を測定する。
上記方法において、測定対象である気体は、例えば、内燃機関の排気ガスや、車道沿道の大気などを採用することができる。
また、本発明では、上記のような測定方法において、水溶液中に粒子状物質を含む気体から該粒子状物質を捕集した捕集基体を保持し、気体導入手段からは、該水溶液中に、非酸化性気体を連続的に導入し、かつ、排気手段によって前記反応室内の気体を自然に又は強制的に排気し、水溶液中に含まれる前記生体性物質の酸化物量を検出し、前記粒子状物質の前記生体性物質に対する酸化能を測定することも可能である。
さらに本発明の他の態様では、上記測定方法において、前記反応室が複数設けられ、各反応室から排気される気体がそれぞれ独立して制御され、それぞれの反応室の前記水溶液中の測定ターゲットをそれぞれ測定することができる。
本発明は、水溶液内に、生体内に存在する物質又はその類似物質(タンパク質、脂質、核酸、SH基を含む還元性有機化合物、又はそれらの類似物質)(本発明において、これら生体内存在物質又はその類似物質を生体性物質と称する)を含有させ、この水溶液内に、生体性物質に対する酸化能を測定する気体、粒子状物質を導入し、酸化処理を行う。
生体性物質であるタンパク質、脂質、核酸、SH基を含む還元性有機物質などは、気体や粒子状物質による酸化力により、それぞれ、タンパク質→変性(酵素→失活)、脂質→過酸化物、核酸→分解という変化を示す。
そこで、水溶液中のターゲット(酸化マーカ)として用いた上記生体性物質の酸化物量を酸化処理後に測定することにより、上記気体や、粒子状物質が供給された場合に、これらが生体性物質を酸化する程度(酸化能)を数値化することが可能となる。ターゲットとしては、水溶液中に存在することができ、かつ測定が確立されている生体性物質であれば良く、選択の範囲が広い。
この気体又は粒子状物質として、内燃機関の排気ガス、粉塵など、又はこれらを含む大気を用いることで、いわゆる排気ガス成分の生体性物質に対する酸化能を測定することができる。
また、生体性物質をターゲットとして用い、排気ガスなどによるその酸化程度を知ることができるため、排気ガスなどによって生体が受ける損傷(酸化ストレス)を生体そのものを用いることなく推定することができる。
以下、図面を参照して本発明の実施の形態(実施形態)について説明する。図1は、本実施形態に係る生体性物質酸化測定方法に用いる酸化装置の概略構成を示す図である。この装置は、酸化性物質によって酸化される生体性物質を含有する水溶液16を保持可能な反応室を備え、この反応室は、具体的にはガラスなどの反応器10によって構成される。また酸化装置は、反応器10内の水溶液16に、気体(図1では酸化能の測定対象である気体)を供給する気体導入部14、反応器10内の気体18を排気するための排気部(排気ポンプ)50を備える。また、本実施形態では、反応器10から排気ポンプ50までの間に、水蒸気トラップ40を設けており、反応器10から排出される気体から水蒸気を除去してから排気ポンプ50に供給している(詳しくは後述する)。
水溶液16は、生体性物質を含有し、この生体性物質は、生体内に存在する物質又はその類似物質(細胞もしくは細胞抽出液もしくは細胞を構成する生体成分及びそれらの類似成分)であり、本実施形態では、特に、その酸化物が直接又は間接的に測定可能な物質である。具体的には、生体性物質は、それら生体成分中などに含まれるタンパク質、脂質、核酸、SH基を含む還元性有機化合物など又はこれらの類似物質であり、少なくともこれらのいずれか一種類を含む。生体環境により近い状況での酸化状況を測定するためには、複数種類の生体性物質を含むことが好ましい。
気体導入部14は、導入管14aと、その先端に設けられ、所望の大きさの気泡を吐出(噴出)可能な複数の気泡孔を備えた気泡吐出部14bを備える。排気ポンプ50は、反応器10内に開口部を備える排気管38に接続されており、排気ポンプ50を動作させることにより、反応器10の気体が強制排気され、反応器内への気体の引き込み(気体導入)を可能とし、かつ反応器内の圧力を一定に保つことができる。また、導入気体が後述するように例えば大気などである場合には、排気ポンプ50を動作させることで、反応器への気体導入を可能としている。
排気管38と排気ポンプ50との間には、流量調整手段として、流量調整弁42及び流量計44が取り付けられており、排気ポンプ50による反応器10からの排気量が一定となるように流量調整弁42を制御することができる。
流量調整弁42及び流量計44の位置は、それぞれ特に限定されるものではなく、流量計44の後段に流量調整弁42が設けられていても良いし、反応器10への気体導入管側や、反応器10と後述する水蒸気トラップ40との間に設けても良い。しかし、水蒸気の影響を防ぐには、水蒸気トラップ40の後ろに設けることが好ましく、後述する集塵フィルタ34を採用せず、導入ガスに浮遊粒子が含まれることが想定されるような場合には、目詰まり等の防止の観点から少なくとも反応器10よりも後段に設けることが好適である。なお、反応器10内に気体が加圧されずに導入される場合、排気ポンプ50、流量調整弁42、流量計44等を省略し、排気管38の外部端を空気中への開放端として自然排気しても良い。
気体導入管14aと排気管38は反応器10の上部から挿入されており、挿入深さを固定するために反応器10の上部には蓋を兼ねた固定部36が設けられている。この固定部36により気体導入管14aの先端の気泡吐出部14bが水溶液16中に十分浸るように位置決めされる。本実施形態においては、反応器10は、水溶液の温度を生体環境に近い温度例えば37℃程度としたり、酸化反応を加速して測定する等の目的のためにそれ以上の温度とするための温度調整手段を備える。この温度調整手段は、内部に水が入れられ、水温を一定に保つ恒温槽(水槽)60と、水温を制御する温度制御部(図示しない)とによって構成することができ、反応器10をこの恒温槽60の中に設置することができる。また、恒温槽60は、反応器10内での反応を、遮光されたより生体内環境に近い状態で実行するため、槽材料として反応器10を外光から遮蔽するため遮光性材料が用いられていることが好ましい。例えばステンレス槽などによって構成することで遮光性の恒温槽60とすることができる。
気泡吐出部14bは、生体成分もしくはその類似成分等の生体性物質を含有する水溶液16に導入する気体の成分に応じた最適な気泡の大きさを吐出することが好適である。具体的には気体の水溶液への溶解性に応じ、溶解性が低い場合にはより微小な気泡を吐出できることが好ましい。用いる気体によって最適な吐出孔を持つ吐出部14bを選択することで容易に対応することができる。なお、気体成分は必ずしも水溶液に溶解しなくてもミクロな泡として溶液中に気泡が安定に存在する状態、すなわち溶存状態であってもよい。
上記のように反応器10内の水溶液16は、恒温槽60により生態環境温度程度又はそれ以上の例えば37℃〜60℃程度の範囲で制御される。したがって、排気ポンプ50によって、反応器10から排気管38を通じて吸引される気体には、非常に多くの水蒸気が含まれることとなる。このような水蒸気は、そのまま排気ポンプ50に引き込まれるとポンプ内部で凝集して水滴を生じ、ポンプの性能を低下させる。したがって、本実施形態では、反応器10と排気ポンプ50との間に水蒸気トラップ40を設けている。この水蒸気トラップ40は、水蒸気が凝集して水滴を生ずる程度の温度、例えば10℃〜室温程度の温度に維持された恒温槽62の中に、ガラスなどからなる容器を配置し、反応器10からの排気管38をトラップ容器の導入口に接続して湿潤排気を導入し、トラップ容器内で水蒸気を凝集させる。トラップ容器の排気口側には排気ポンプ50が接続されており(図1では流量調整弁42及び流量計44を介して排気ポンプ50に接続されている)、排気ポンプ50には、乾燥した状態の排気が吸引される。
本実施形態において、反応器10に導入する酸化能測定対象である気体は、例えば、内燃機関30の排気ガスである。内燃機関30の排気管(車両の排気管でもよい)からの排気ガスを本実施形態の反応器10に導入することで、内燃機関30毎の排気ガスの酸化能を数値化することができる。本実施形態において、内燃機関30の排気ガスは、その成分によっては、まま直接反応器10内に導入することもできるが、本実施形態では、内燃機関30からの排気ガスは希釈器32によって非酸化性気体(例えば窒素ガス、アルゴンガス)によって所定倍に希釈してから水溶液16中に導入している。排気ガスの希釈率は例えば20倍とすることで、精度良く、排気ガスの酸化能測定が可能となる。
一般的なガソリンエンジン、ディーゼルエンジンなどの場合、排気ガスには10%程度もの酸素が燃焼残りとして存在しており、この酸素は大気中の酸素(酸素濃度が約20%)と同様に生体性物質を酸化する。つまり、希釈せずに水溶液16に導入すると、水溶液16には清浄な大気の存在下でも、既に所定量の酸素が溶存しており、溶存酸素による生体性物質の酸化と、排気ガス中の酸素以外の酸化性物質の影響による酸化の測定が難しくなると予想される。そこで、例えば排気ガスを非酸化性の窒素ガスやアルゴンガスなどで20倍に希釈して、排気ガス中に残る酸素濃度が、水溶液中の大気下での溶存酸素と同程度以下となるようにすることが好適である。もちろん、排気ガス中の酸素量が非常に少ない場合には、希釈器32は省略することができる。
図1において、希釈器32と気体導入部14との間には、集塵フィルタ34を設けており、希釈器32で希釈され、集塵フィルタ34を通過した希釈排気ガスが反応器10の水溶液16内に導入されている。この集塵フィルタ34は、排気ガスの気体成分の生体への影響を測定する場合に取り付けることで、排気ガスから粒子状物質を除去して気体成分のみ水溶液に16に供給することを可能とする。なお、粒子状物質を気体中に含んだ状態の排気ガスそのままの生体性物質の酸化能を測定する場合には、集塵フィルタ34は、省略することができる。また希釈器32と、内燃機関30との間に集塵フィルタ34を設け、希釈する前に粒子を除去しても良い。なお、集塵フィルタ34で捕集した浮遊粒状物質は、後述する図2に示すようにその物質自体が生体に及ぼす影響を測定する場合等に用いることができる。もちろん、粒子状物質は、別途、排気ガスを希釈する前に集塵フィルタ(捕集フィルタ)で捕集してその酸化能を測定することができる。
導入する気体は、内燃機関30からの排気ガスに限られず、大気汚染の程度を測定する地点、例えば車両交通量の多い幹線道路など、車道の沿道の大気(その場所で採集された気体)でもよい。特に、強い日射に晒された状態の大気を導入することでいわゆるオキシダントを含んだ気体を反応器10内に導入することもできる。もちろん、車道沿道の大気には限られず、酸化能を測定したい地点の気体を採用することができる。このような大気や、任意の気体を導入する場合には、排気ポンプ50の排気量(流量)を、水溶液中に導入したい測定対象の気体量に応じて設定することで、気体導入部14の外部吸引口から測定対象気体を水溶液中に引き込むことが可能となる。排気量の調整は、上述のように流量計44の測定値にしたがって流量調整弁42を制御すればよい。
本実施形態では、以上のような酸化装置を用い、酸化性物質によって酸化される生体性物質として、タンパク質、脂質、核酸、SH基を備える還元性有機化合物の少なくとも一種類を含有する水溶液中に、酸化能測定対象である排気ガスなどの気体を連続的に導入する。導入気体が酸化能を備える場合、所定期間後に、水溶液中に含まれる酸化された生体性物質の酸化ターゲットを検出することにより、導入気体の生体性物質に対する酸化能を評価することができる。
以上では、単一の反応器10を用いた構成について説明したが、図1に示すように、反応器10を複数設けてもよい。この場合、各反応器10に対応して流量調整手段(流量調整弁42,流量計44)をそれぞれ配置することが好ましい。また、水蒸気トラップ40についても各反応器10に個別に対応させて設けることが好ましい。このように、1つの反応器10に対し、水蒸気トラップ40、流量調整弁42、流量計44をそれぞれ設け、各反応器10からの排気経路を分配器46を介して排気ポンプ50に接続することで、単一の排気ポンプ50によって、各反応器10への気体導入量(排気量)を個別に制御しながら水溶液16内の酸化ターゲットを酸化させることができる。もちろん、反応器10毎に対応してそれぞれ排気ポンプ50を設けても良いし、複数の排気ポンプ50を用いて多数の反応器10からの排気を分担して実行する構成としてもよい。いずれの場合においても、反応器10から排気ポンプ50までの(ここでは分配器46までの)排気経路を反応器10毎に独立させることが好適である。即ち、排気管、水蒸気トラップ40、流量調整弁42、流量計44(排気側に設けられる場合)を反応器10毎に設けることで、ある反応器10の容器内に他の反応器10からの排気が混入することを防止でき、各反応器10での導入気体による反応を精度良く実行することが可能となる。
複数の反応器10を設ける場合、各反応器10の水溶液として、同一成分を採用すれば、同時に同一条件の酸化反応についての測定結果が得られ、測定精度を向上することができる。また、それぞれに異なる成分を採用したり、成分の一部を変更したり、導入気体量、反応時間等を変更した場合には、同時期に、多数の異なる酸化反応を測定することができる。内燃機関30からの排気ガス成分、大気の成分などは、測定タイミングによって異なる可能性もあるが、どの反応器10に対しても同じ条件の測定対象気体を供給できるため、測定対象気体の成分変動による測定結果のばらつきをなくすことが容易となる。なお、反応器10は、一例として8基程度を容易に併設配置することができるが、もちろん併設数は、さらに多くても、少なくてもよい。このように複数の反応器10を併設する場合、恒温槽60を各反応器10で共用することができる。温度条件を反応器10によって変更する場合には、異なる恒温槽60を用いればよい。
次に、図2を参照して、粒子状物質の酸化能測定のための装置構成について説明する。図1と相違する点は、内燃機関の排気ガスや大気中などから粒子状物質を集塵フィルタなどによって捕集した捕集基体20を、水溶液16中に保持し、気体導入部14は窒素やアルゴンなど非酸化性気体源に接続し、非酸化性気体を水溶液16中に導入することである。他の点、即ち、恒温槽60、水蒸気トラップ40、流量調整弁42、流量計44等や、複数の反応器10を併設配置する構成の適用などは上記図1についての説明と共通する。
捕集基体20は、生体性物質を酸化させる期間中、常時、水溶液16内に保持することが必要であり、図2の例では、この捕集基体20の保持手段22として、気体導入部14を用いている。つまり、基体導入部14の先端の気泡吐出部14bを捕集基体20に押し当てるように固定部36で調整して位置決めし、水溶液16の水面に捕集基体20が浮き上がらないようにしている。また、保持手段22として、反応器10の水溶液格納部分に捕集基体20の固定部を設け、ここに捕集基体20を固定保持してもよい。
基体導入部14から非酸化性気体を吐出させることで、水溶液16に大気が導入されて大気中の酸素が溶存し、この酸素によって水溶液内の生体性物質が酸化させることを防ぐ。また、同時に、この非酸化性気体の気泡12を水溶液中に噴出することで、水溶液中を適宜攪拌する。特に、捕集基体20の表面に向けて非酸化性気体の気泡12を噴出することで、水溶液中に溶解しない成分を含む粒子状物質が存在しても、これを常時水溶液中で均一に分散させるように混合・攪拌することを可能とする。
このように図2の方法では、生体性物質を含む水溶液16に粒子状物質をフィルタごと浸漬させ、酸化能を持たないガスの微少な気泡(ミクロな気泡)でフィルター表面を攪拌し、フィルター上に捕集された粒子状物質と生体性物質との反応を促進させる。酸化能を持たないガスを導入することで、溶存酸素による生体性物質の酸化を最低限に抑制しながら、捕集した粒子状物質に含まれる酸化性物質のみによって酸化される生体性物質を測定する。
以上の図1又は図2のような構成により、反応器10内の水溶液16に気体を導入し、所定期間後に水溶液16中の各生体性物質の酸化量を測定する。気体の導入条件は、水溶液16の温度、含有する生体性物質濃度、そして、導入する気体の酸化能、又は水溶液中に保持される粒子状物質の酸化能によって調整する。一例として、水溶液温度37℃で、排気ガスや大気などを200ml/分の流量で2時間などとすることができる。また、水溶液中に保持して粒子状物質の酸化能を測定する場合には、一例として、水溶液温度を上記同様37℃とし、非酸化性気体を200ml/分の流量で8時間導入する。このような気体導入処理により、反応器10内で、水溶液中に含まれる生体性物質が、導入気体または導入される粒子状物質によって、その酸化能に応じて酸化される。上記のような所定期間酸化処理を実行した後、生体性物質の酸化量等を測定することで、水溶液内に導入した気体や粒子状物質の酸化能を定量することができる。
以下、この生体性物質の酸化ターゲット(酸化ストレスのマーカ)の種類や検出方法の例について説明する。
<タンパク質がターゲット物質の場合>
測定する生体性物質としてタンパク質を採用する場合、例えば、酸化により生ずるタンパク質カルボニルをターゲットとし、そタンパク質の酸化量として定量する。検出試薬としては、例えばDNPH(2,4-dinitrophenylhydrazine)を用いることができる。DNPHは、タンパク質カルボニルと反応してヒドラゾン(吸光度:360nm〜385nm)を発生する。よって、このヒドラゾンを吸光度分析によって定量することで、タンパク質の酸化量を求めることができる。
<脂質がターゲット物質の場合>
測定する生体性物質として脂質を採用する場合、脂質の不飽和脂肪酸部分に活性酸素が付加して得られるヒドロペルオキシド類を酸化ターゲットとする。このヒドロペルオキシド類は、温和な条件下(メタノール中、60℃、60分)で、DPPP(Diphenyl-pyrenylphoshine)と定量的に反応し、蛍光性のDPPP酸化物を生ずる(励起波長λex=352 nm、蛍光波長λem=380 nm)。よって、DPPP酸化物量を測定することで、ヒドロペルオキシド類、つまり脂質の酸化量を高精度に求めることができる。
また、別の方法として、脂質の過酸化物であるヒドロペルオキシド類を用いて2−チオバルビツール酸(TBA)反応によりマロンジアルデヒドに代表される酸化第二次生成物の濃度を測定することにより実行することも可能であり、簡便かつ高感度な測定方法である。
<SH基を有する還元性有機化合物がターゲット物質の場合>
測定する生体性物質として、SH基を有する還元性有機化合物を採用する場合、例えばこの有機化合物としては、ジチオスレイトール(DTT)、N−アセチルシステイン、グルタチオンなどが採用可能である。これらの化合物は、DTNB(5,5'-dithiobis(2-nitrobenzoic acid)を用いた吸光分析法によって高感度に検出することができる。この吸光分析法は、DTNBが、還元性有機化合物を酸化すると同時に自身が還元されて得られるチオール(5-mercapto-2-nitrobenzoic acid)に還元される。よって、このチオールの412nmの波長による吸光度によりその濃度を測定することで、SH基を有する還元性有機化合物を定量することができる。
<核酸がターゲット物質の場合>
核酸DNAをターゲットとした場合、その一部に含まれる8−ヒドロキシグアニン(DNA中のグアニン塩基)は、活性酸素により酸化損傷を受け、その8位の炭素が酸化され、8−ヒドロキシ−デオキシグアノシン(8−OHdG)が生成される。この8−OHdGは、比較的安定な物質であり、活性酸素による生体損傷を鋭敏に反映するバイオマーカである。このようにして得られる8−ヒドロキシ−2’−デオキシグアノシン(8−OHdG/8−oxo−dG)を特異的なモノクローナル抗体を使用した酵素免疫測定法:ELISA法(Enzyme-Linked Immunosorbent Assay)によりELISAキットを用いて定量することができる。
<糖質について>
糖質も生体性物質であるが、糖質の酸化物質を定量的に測定することは現在では難しいとされている。しかし、上記のような他の生体性物質と共に水溶液中に含有させ、糖質と、他のタンパク質、脂質、SH基を有する還元性有機化合物、核酸などとの共存状態させることで、つまり、より生体環境に近い環境を水溶液中に構成することに利用することができる。もちろん、糖質の酸化物についても特異的に検出することができる方法により、糖質についてもこれをターゲットとして定量することが好適である。
以下に、上記実施形態で説明した方法を用いて、実際に生体性物質の酸化量を測定した例について説明する。
[実施例1.NO2モデルガス酸化能の計測]
上述の図1に記載した装置を用いて、NO2をモデルガスとした場合のこのNO2の酸化能を計測した。
NO2 50ppm[mg/L]のガスを窒素にて1.74ppm[mg/L]と3.47ppm[mg/L]に希釈し、200ml/分の流量で2時間装置の水溶液16中に微小な気泡状態で導入した。
反応器10中には、生体性物質(生体類似成分)としてジチオスレイトール(DTT)を0.1モルのリン酸カリウム緩衝液pH7.5にて250マイクロモルの濃度になるように調整した水溶液を50mlを入れ、37℃に保温しつつ上記NO2ガスを流入させた。流入開始から30分ごとにDTT溶液を250マイクロリットルずつ4回サンプリングした。
次に、上記NO2モデルガスにより酸化されたDTTの定量を行った。具体的には、サンプリングしたDTT溶液に対し、同容量の10%トリクロロ酢酸水溶液を加えた。ついで、0.4モルトリス塩酸緩衝液(0.02モルエチレンジアミン4酢酸(EDTA)含有)で調製した5,5’−ジチオビス2−ニトロ安息香酸(DTNB)の10ミリモル溶液を25マイクロリットルずつ加えた。
DTTのSH基とDTNBの反応によって生じた化合物の量を412nmの波長による吸光度で測定し、標準DTTの検量線からDTT濃度を測定し、NO2によって消費されたDTT量を算出した。結果を図3に示す。縦軸はガス導入前のDTT量を100%としたときの経時的なDTTの残存量、横軸はガスとの反応時間を表す。DTTは時間とともに減少し、2時間後のDTT消費量とNO2濃度をプロットすると、図4のように良好な直線関係が得られた。つまり、NO2ガスが生体性物質(ここではDTT)に対して酸化能を持ち、さらにその濃度の上昇に伴って酸化量が増大していることが理解できる。
[実施例2:実排気ガス中のガス成分の酸化能測定]
実施例2として、ディーゼルエンジンからの実排気ガス中の酸化能を計測した。ディーゼルエンジンを低負荷A運転条件として得られた実排気ガスから集塵フィルタ34を通して粒子状成分を除去し、ガス成分だけとして図1の反応器10の水溶液16中に導入した。なお、排気ガスは、窒素にて20倍希釈し、200ml/分の流速で2時間、水溶液16中に導入した。なお、このとき排気ポンプ50は、同量のガスを反応器10から引き抜き、反応器10内の気圧を一定に維持している。また、比較例として、空気を窒素で20倍に希釈したものを同時に測定した。生体性物質としては、上記実施例1と同様DTTを採用し、実施例1と同じ溶液調整条件、測定条件にて、DTTの残存量を測定した。結果を図5に示す。
図5に示すように、実施例2の条件においては、2時間の排気ガス導入により、約90%のDTTが酸化された。一方、空気では低負荷A排気ガスに比べて、10%未満の消費であった。実施例2とその比較例のDTT残存量の差を計算すると、低負荷A排気ガスにより、DTTは209マイクロモルが酸化されたことになる。このことから、ディーゼルエンジンの低負荷A時の排気ガスには非常に高濃度の酸化性気体が含まれており、生体性物質の酸化能が高いことが理解できる。
[実施例3:実排気ガス中の粒子状成分の酸化能測定]
実施例3では、図2に示すように、捕集基体(集塵フィルタ)20に捕集した粒子状成分のDTT酸化能を計測した。捕集基体20としては、上記実施例2と同じ条件で駆動したディーゼルエンジンの実排気ガスを直接集塵して得ている。捕集時間は、2時間とした。捕集後の基体20を図2にのように反応器10の水溶液16中に保持した。水溶液は、上記実施例1と同じ条件のDTT水溶液とし、気体導入部14からは、非酸化性ガスである窒素ガスを、毎分200mlの流速で水溶液中に噴出させ、バブリングさせつつ8時間反応させた。この窒素ガスによるバブリングは、常にフィルター20への付着物質(粒子状成分)をDTT水溶液内で攪拌すると同時に、DTT水容液中もしくは気相中に存在する酸素の影響を除外する目的で実行した。比較例(コントロール)として、捕集に用いたフィルターのみを捕集せず清浄なまま、DTT水溶液16内に導入して同一条件で計測した。結果を図6に示す。
図6に示されるように、実施例3では、時間の経過とともに酸化反応が進行し、8時間後には約70%のDTTが酸化された。一方、実施例3の比較例では、DTTの数%が酸化されたのみであった。実施例3とその比較例の差より、捕集基体に捕集された粒子成分により酸化されたDTTは1.5マイクロモルと計算された。すなわち、排気ガスに含まれる粒子状物質についても排気ガスだけでなく、酸化能を備えることが理解できる。
[実施例4:グルタチオンを用いた排気ガス中酸化能の測定]
実施例4では、生物細胞内の還元力を維持する物質(抗酸化物質)であるSH基を備える還元型グルタチオンを用いて、ディーゼルエンジンの排気ガスの酸化能を測定した。
具体的には、実施例1で用いたDTTを還元型グルタチオンに代え、ディーゼルエンジンは低負荷B運転条件としたときの排気ガス成分のみを実施例2と同じ条件で、気泡として水溶液16中に導入した。なお、グルタチオン濃度は500マイクロモルとした。比較例(コントロール)としては、導入する気体を空気として他は同一条件で酸化を行った。結果を図7示す。
図7に示されるように、グルタチオンについても、時間の経過と共に酸化が進み、比較例である空気導入時との差から、実施例4では、酸化されたグルタチオン量は336マイクロモルと計算された。このように、グルタチオンについても排気ガスによって酸化されることが解る。
[実施例5:道路沿道より採取した粒子状成分のグルタチオン酸化能]
実施例5では、通行量の多い道路の沿道にて、1週間にわたって捕集基体(フィルタ)上に、連続採取した粒子状物質の酸化能を計測した。
粒子状物質は、ジメチルスルフォキシド(DMSO)で抽出して有機成分を得た。還元型グルタチオンを0.25モルのトリス塩酸緩衝液pH8.9に500マイクロモルになるように溶解し、有機成分10マイクログラムを加えこれを水溶液16として用い、非酸化性気体として窒素を導入しながら、37度30分間反応させた。実施例5の比較例(コントロール)としては同量のDMSO(粒子状成分の抽出分なし)を用いた。反応後に残存する還元型グルタチオンを定量した。この結果、酸化された還元型グルタチオンは168ナノモルと計算された。
したがって、いわゆる路上の空気中から集めた粒子状物体についてもグルタチオンへの酸化能があることが確認された。
[実施例6:タンパク質を用いた排気ガスの酸化能の測定]
生体性物質としてタンパク質の一種であるヒトアルブミンを含有する水溶液を用い、このヒトアルブミン0.1mg/ml(リン酸緩衝液pH7.4)中に、ディーゼルエンジンを高負荷運転条件において動作させたときに、フィルター上に捕集した粒子状成分を入れ、窒素ガスを導入しながら、37度8時間反応させた。
比較例として、捕集に用いたフィルターのみを同条件で計測した。
タンパク質カルボニルを測定する方法としては、2,4−ジニトロフェニルヒドラジン(DNPH)を用いた。タンパク質カルボニルはフリーラジカルによるタンパク質酸化の指標として定量に用いることができる。
測定の結果、比較例のカルボニル量は1.2ng/mgタンパク質であったが、粒子状物質を水溶液中に配置した実施例6では、カルボニル量は、5.9ng/mgタンパク質に上昇していた。このことから、高負荷条件の際にディーゼルエンジンから排出される粒子状物質のタンパク質に対する酸化能が確認された。
[実施例7:細胞懸濁液を用いたディーゼル排気ガスの酸化能の検出]
ヒトHL−60細胞を、10%ウシ胎児血清を含むRPMI1640培地中で培養し、1x106 cel(個)/mlの濃度とした。培地を血清不含RPMI1640に交換し、図1の水溶液16として、反応器10に入れた。ディーゼルエンジンを低負荷A運転条件とした時の実排気ガスを集塵フィルタ34を通過させて粒子状成分を除去し、ガス成分だけとしたものを窒素で20倍希釈し、200ml/分の流速で2時間、水溶液16中に導入し酸化処理を行った。比較例として、同一条件の水溶液16に、空気を窒素で20倍に希釈して同じ流速、時間にて導入し酸化処理を行った。
ガスを導入して酸化処理を実行した後、細胞を可溶化して過酸化脂質を定量した。過酸化脂質は、2−チオバルビツール酸(TBA)反応によりマロンジアルデヒド濃度を測定することにより行った。
また同時にタンパク質濃度を定量し、過酸化脂質レベルを求めた。この結果、比較例の空気では、過酸化脂質量は1.45nmol/mg protein(タンパク質を分母として規格化した過酸化脂質量の数値が1.45nmol/mg)であったものが、実施例7の低負荷Aガスでは4.21nmol/mg protein(タンパク質を分母として規格化した過酸化脂質量の数値が4.21nmol/mg)に上昇していた。このように、低負荷A時の排気ガスは、より生体に近い細胞懸濁液中の脂質、タンパク質への酸化能を備えていることが解る。
本発明の実施形態に係る生体性物質の酸化装置の概略構成を示す図である。 本発明の実施形態に係る生体性物質の酸化装置の他の概略構成を示す図である。 実施例1及びその比較例のDTT残存量を示すグラフである。 実施例1で得られたNO2濃度とDTT消費量との関係を示すグラフである。 実施例2及びその比較例のDTT残存量を示すグラフである。 実施例3及びその比較例のDTT残存量を示すグラフである。 実施例4及びその比較例の還元型グルタチオン残存量を示すグラフである。
符号の説明
10 反応器、12 導入気体(気泡)、14 気体導入部、14a 気体導入管、14b 気泡吐出部、16 水溶液(生体性物質含有)、18 反応容器内気体、20 捕集基体、22 基体保持部、30 内燃機関、32 希釈器、34 集塵フィルタ、36 固定部、38 気体排気管、40 水蒸気トラップ、42 流量調整弁、44 流量計、46 分配器、50 排気部(排気ポンプ)、60 恒温槽(反応器用の遮光性の恒温槽)、62 恒温槽(水蒸気トラップ用の恒温槽)。

Claims (18)

  1. 酸化性物質によって酸化される生体性物質の酸化を測定するために、前記生体性物質を酸化させる生体性物質酸化装置であって、
    酸化性物質によって酸化される生体性物質として、タンパク質、脂質、核酸、SH基を備える還元性有機化合物の少なくとも一種類を含有する水溶液を保持した反応室と、
    該水溶液中に酸化能測定対象である気体を導入する気体導入手段と、
    前記反応室内を排気する排気手段と、
    を備えることを特徴とする生体性物質酸化装置。
  2. 請求項1に記載の装置において、
    さらに、前記測定対象の気体を非酸化性気体によって所定希釈率で希釈する希釈器を備え、前記希釈器からの希釈気体を前記気体導入手段に供給することを特徴とする生体性物質酸化装置。
  3. 請求項2に記載の装置において、
    前記酸化能測定対象の気体は、内燃機関の排気ガスであり、前記希釈器は、前記内燃機関の排気管からの該排気ガスを前記非酸化性気体によって希釈してから前記反応室内に供給することを特徴とする生体性物質酸化装置。
  4. 請求項3に記載の装置において、
    前記内燃機関からの前記排気ガスは、集塵フィルタを通過させてから前記水溶液に供給することを特徴とする生体性物質酸化装置。
  5. 酸化性物質によって酸化される生体性物質の酸化を測定するために、前記生体性物質を酸化させる生体性物質酸化装置であって、
    酸化性物質によって酸化される生体性物質として、タンパク質、脂質、核酸、SH基を備える還元性有機化合物の少なくとも一種類を含有する水溶液を保持した反応室と、
    前記水溶液中に、粒子状物質を含む気体から該粒子状物質を捕集した捕集基体を保持する基体保持手段と、
    該水溶液中に非酸化性気体を導入する気体導入手段と、
    前記反応室内を排気する排気手段と、
    を備えることを特徴とする生体性物質酸化装置。
  6. 請求項5に記載の装置において、
    前記気体導入手段は、前記非酸化性気体の気泡を前記捕集基体に向けて吐出することを特徴とする生体性物質酸化装置。
  7. 請求項1〜請求項6のいずれか一項に記載の装置において、
    前記反応室は、複数設けられ、
    各反応室の前記水溶液中への導入気体量を制御するための流量調整手段が、各反応室に対応して設けられていることを特徴とする生体性物質酸化装置。
  8. 請求項1〜請求項7のいずれか一項に記載の装置において、
    さらに、前記反応室の水溶液温度を調整する温度調整手段と、
    前記反応室と前記排気手段との間に、該反応室に対応して配された水蒸気除去手段と、を備え、
    前記水蒸気除去手段によって、前記反応室の排気から水蒸気が除去され、前記排気手段に供給されることを特徴とする生体性物質酸化装置。
  9. 反応室内に、酸化性物質によって酸化される生体性物質として、タンパク質、脂質、核酸、SH基を備える還元性有機化合物の少なくとも一種類を含有する水溶液を保持し、
    気体導入手段によって、該水溶液中に、酸化能測定対象である気体を連続的に導入し、かつ、排気手段によって前記反応室内の気体を排気し、
    所定期間、前記水溶液中に前記気体を導入した後に、該水溶液中に含まれる前記生体性物質の酸化物量を検出し、前記導入した気体の前記生体性物質に対する酸化能を測定することを特徴とする生体性物質酸化測定方法。
  10. 請求項9に記載の方法において、
    前記導入する気体は、内燃機関の排気ガスであり、
    該排気ガスは、希釈器において、非酸化性気体によって所定希釈率で希釈された後、前記水溶液中に導入されることを特徴とする生体性物質酸化測定方法。
  11. 請求項10に記載の方法において、
    前記内燃機関からの前記排気ガスは、集塵フィルタを通過させてから前記水溶液に供給することを特徴とする生体性物質酸化測定方法。
  12. 請求項9に記載の方法において、
    前記酸化能測定対象である気体は、車道沿道の大気であることを特徴とする生体性物質酸化測定方法。
  13. 反応室内に、酸化性物質によって酸化される生体性物質として、タンパク質、脂質、核酸、SH基を備える還元性有機化合物の少なくとも一種類を含有する水溶液を保持し、
    前記水溶液中には、粒子状物質を含む気体から該粒子状物質を捕集した捕集基体を保持し、
    気体導入手段によって、該水溶液中に、非酸化性気体を連続的に導入し、かつ、排気手段によって前記反応室内の気体を自然に又は強制的に排気し、
    所定期間、前記水溶液中に前記気体を導入した後に、該水溶液中に含まれる前記生体性物質の酸化物量を検出し、前記粒子状物質の前記生体性物質に対する酸化能を測定することを特徴とする生体性物質酸化測定方法。
  14. 請求項9〜請求項13のいずれか一項に記載の方法において、
    前記酸化性物質によって酸化されたタンパク質として、タンパク質カルボニルを測定ターゲットとすることを特徴とする生体性物質酸化測定方法。
  15. 請求項9〜請求項14のいずれか一項に記載の方法において、
    前記酸化性物質によって酸化された脂質として、脂質過酸化物であるヒドロペルオキシドを測定ターゲットとすることを特徴とする生体性物質酸化物測定方法。
  16. 請求項9〜請求項15のいずれか一項に記載の方法において、
    前記酸化性物質によって酸化された核酸として、8−ヒドロキシ−デオキシグアノシンを測定ターゲットとすることを特徴とする生体性物質酸化測定方法。
  17. 請求項9〜請求項16のいずれか一項に記載の方法において、
    前記酸化性物質によって酸化されたSH基を有する還元性有機化合物として、該SH基を有する還元型有機化合物として用いたSH基を持つジチオスレイトール、N−アセチルシステイン、グルタチオンおよびそれらの誘導体のいずれかを測定ターゲットとすることを特徴とする生体性物質酸化測定方法。
  18. 請求項9〜請求項17のいずれか一項に記載の方法において、
    前記反応室が複数設けられ、
    各反応室から排気される気体をそれぞれ独立して制御し、それぞれの反応室の前記水溶液中の測定ターゲットをそれぞれ測定することを特徴とする生体性物質酸化測定方法。
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