JP4492039B2 - 水系リチウム二次電池 - Google Patents
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Description
【技術分野】
本発明は,水溶液電解液を含有する水系リチウム二次電池に関する。
【0002】
【従来技術】
非水系電解液を用いた非水系のリチウム二次電池は,高電圧でエネルギー密度が高く,また小型・軽量化が図れることから,パソコンや携帯電話等の携帯情報端末等を中心に情報機器及び通信機器の分野で実用が進み,広く一般に普及するに至っている。また他の分野では,環境問題や資源問題から電気自動車の開発が急がれる中,非水系のリチウム二次電池を電気自動車用電源として用いることが検討されている。
【0003】
しかし,上記非水系のリチウム二次電池は,電解液として有機溶媒等の非水系電解液を含有しており,過充電や短絡等により引火,爆発の危険性を有している。そのため,高温度条件下での使用を余儀なくされる上記電気自動車の電源等として用いることが懸念されている。
【0004】
また,上記非水系のリチウム二次電池は,その製造工程において徹底したドライ環境を維持する必要があるため,製造コストが高くなってしまうおそれがある。そのため,特に電気自動車用の二次電池をにらんだ将来の量産化に対応しにくく,価格的にもきわめて高価になってしまうという問題があった。
【0005】
一方,電解液として水溶液電解液を用いた水系のリチウム二次電池がある(特許文献1参照)。この水系のリチウム二次電池は,上記非水系のリチウム二次電池が有する上記のような問題に対して非常に有利である。
即ち,水系のリチウム二次電池は,上記有機溶媒を含有していないため,引火等の危険性がほとんどない。また,その製造時にドライ環境を必要としないため,製造コストを低くすることができる。さらに,一般的に水溶系電解液は,非水系電解液に比べて導電性が高い。そのため,水系のリチウム二次電池は,非水系のリチウム二次電池に比べて内部抵抗が低くなるという利点がある。
【0006】
【特許文献1】
特表平09−508490号公報
【0007】
【解決しようとする課題】
しかしながら,上記従来の水系のリチウム二次電池においては,水溶液電解液を有しているため,高い電位で充放電を行うと水の電気分解反応が起こるという問題がある。そのため,水系のリチウム二次電池においては,その理論的な起電力は1.2Vが限界となる。
【0008】
本発明は,かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので,高い起電力を安定に発揮できる水系リチウム二次電池を提供しようとするものである。
【0009】
【課題の解決手段】
本発明は,正極活物質及び正極集電体を有する正極と,負極活物質及び負極用集電体を有する負極と,電解質を水に溶解してなる水溶液電解液とを有し,Liイオンを可動イオンとするロッキングチェア型の水系リチウム二次電池において,
上記水溶液電解液は,そのpHが4〜9であり,
上記正極及び負極は,表面に酸化アルミニウムが形成されたアルミニウム又はアルミニウム合金よりなる上記正極集電体及び上記負極集電体に,それぞれ上記正極活物質及び上記負極活物質を塗布し加圧してなり,
上記正極集電体及び上記負極集電体は,厚さ10μm〜50μmの箔状であることを特徴とする水系リチウム二次電池にある(請求項1)。
【0010】
本発明の水系リチウム二次電池は,pHが4〜9という略中性な水溶液電解液を有すると共に,アルミニウム又はアルミニウム合金よりなる上記正極集電体及び負極集電体を有している。そして,このような範囲のpHを有する水溶液電解液においては,アルミニウム又はアルミニウム合金よりなる集電体は,大きなガス発生過電圧を有する。
【0011】
そのため,上記水系リチウム二次電池においては,より貴な電位を有する正極活物質及びより卑な電位を有する負極活物質を使用して,水の理論的な分解電位(1.2V)以上の高い起電力を有する電池を構成することができる。また,上記水系リチウム二次電池は,その高い起電力を安定に維持できるものとなる。
【0012】
上記のように,アルミニウム又はアルミニウム合金よりなる上記正極集電体及び負極集電体が特異的に大きなガス発生過電圧を有する理由は明らかではないが,アルミニウムが酸化され,上記正極集電体及び負極集電体の表面に不導体のAl2O3が形成されることが原因であると考えられる。また,この不導体膜は非常に薄い。そのため,電極作製時には,電極成形時の加圧によって,上記正極集電体及び負極集電体上に塗布した上記正極活物質及び上記負極活物質が不導体膜を突き破るので,該不導体膜が上記正極活物質及び負極活物質の集電を妨げるということもない。
【0013】
このように,本発明によれば,高い起電力を安定に発揮できる水系リチウム二次電池を提供することができる。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明(請求項1)において,上記水溶液電解液は,そのpHが4〜9である。
上記水溶液電解液のpHが4未満又は9を超える場合には,上記正極集電体又は/及び負極集電体中のアルミニウムが溶解してしまうという問題がある。より好ましくは,上記水溶液電解液のpHは,5〜8がよい。
【0015】
上記非水電解液中に溶解する上記電解質としては,水に溶解したときにpHが4〜9となるようなものを用いることができる。具体的には,例えば,硝酸リチウムや硫酸リチウム等を用いることができる。
【0016】
また,上記非水電解液中には,そのpHが4〜9という範囲から外れないように緩衝剤を加えることができる。
この場合には,上記水溶液電解液のpHが上記範囲から逸脱し難くなるため,上記水系リチウム二次電池は,高い出力をより安定に維持することができるものとなる。
【0017】
上記緩衝剤としては,弱酸とその共役塩基の混合溶液もしくは弱塩基と共役酸の混合溶液が一般的には用いられる。電解質としてのリチウム塩の他にこの緩衝液を添加することもできる。このような緩衝剤として中性近傍においては,例えばトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタンと塩酸との組み合わせや酢酸ナトリウムと酢酸との組み合わせ等を用いることができる。
また,緩衝剤の弱酸又は弱塩基として,上記電解質としてのリチウム塩を用いることもできる。
具体的には,上記電解質として例えば硝酸リチウムを用いた場合には,硝酸や水酸化リチウムを,また,上記電解質として硫酸リチウムを用いた場合には,硫酸や水酸化リチウムを上記緩衝剤として用いることができる。
【0018】
次に,上記正極活物質としては,リチウムと遷移金属との複合酸化物等,即ち例えば層状構造のリチウムマンガン複合酸化物,スピネル構造のリチウムマンガン複合酸化物,及びオリビン構造のリン酸鉄リチウム等を用いることができる。
【0019】
また,上記正極活物質は,AgとAgClとを含有してなるAg/AgCl電極を,基準電位として測定したときの電位が0〜1.5Vとなる範囲内において,充放電可能な物質よりなることが好ましい(請求項2)。
この場合には,水の電気分解がより起こりにくくなるため,上記水系リチウム二次電池は,高い出力電圧をより安定に維持できるものとなる。
なお,上記のAg/AgCl電極を,基準電位として測定したときの電位とは,Ag/AgCl電極の電位を0としたときの電位を意味する。
【0020】
このような正極活物質としては,具体的には,例えばLiFePO4,LiMn2O4,LiMnO2,LiMnNiO2,LiNi1/3Co1/3Mn1/3O2,及びLiNiO2等がある。
なお,上記の正極活物質中の遷移金属元素の一部を他の元素で置換してもよい。
【0021】
次に,上記負極活物質としては,バナジウム,鉄,チタン,マンガン等の金属を含有する酸化物や水酸化物,またこれらの金属とリチウムとの複合酸化物などを用いることができる。
【0022】
また,上記負極活物質は,AgとAgClとを含有してなるAg/AgCl電極を,基準電位として測定したときの電位が−1.5〜0Vとなる範囲内において,充放電可能な物質よりなることが好ましい(請求項3)。
この場合には,水の電気分解がより起こりにくくなるため,上記水系リチウム二次電池は,高い出力電圧をより安定に維持できるものとなる。
このような負極活物質としては,具体的に,例えばLiV3O8,FeOOH,LiV2O4及びVO2等がある。
【0023】
また,本発明において,上記正極集電体及び上記負極集電体は,アルミニウム又はアルミニウム合金よりなる。
アルミニウム合金としては,アルミニウムと,例えば銅,マンガン,シリコン,ニッケル,マグネシウム,亜鉛,リチウム,クロム,チタン,及び鉄等から選ばれる1種以上の金属との合金を用いることができる。
【0024】
また,上記正極集電体及び上記負極集電体は,厚さ10μm〜50μmの箔状であることが好ましい。
この場合には,電池の内部抵抗を低減させることができると共に,電池としての重量エネルギー密度もしくは体積エネルギー密度を確保することができる。
【0025】
上記正極集電体及び上記負極集電体の厚さが10μm未満の場合には,上記正極集電体及び負極集電体の導電性や強度が不充分となり,電池の製造が困難になるおそれがある。一方,50μmを超える場合には,電池内の集電体の重量及び体積が大きくなるため,電池としての重量エネルギー密度もしくは体積エネルギー密度が低下してしまう。
【0026】
上記水系リチウム二次電池は,正極,負極,上記正極と負極との間に狭装されるセパレータ,上記正極と負極との間でリチウムイオンを移動させる水溶液電解液,及びこれらを収容する電池ケースなどを主要構成要素として構成することができる。
【0027】
正極は,例えば上記正極活物質に導電材及び結着剤を混合し,適当な溶剤を加えてペースト状の正極合材としたものを,上記正極集電体の表面に塗布して乾燥し,必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成することができる。
導電材は,正極の電気伝導性を確保するためのものである。このような導電剤としては,例えばカーボンブラック,アセチレンブラック,黒鉛等の炭素物質粉状体の1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。
【0028】
結着剤は,活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものである。このような結着剤としては,例えばポリテトラフルオロエチレン,ポリフッ化ビニリデン,フッ素ゴム等の含フッ素樹脂,或いはポリプロピレン,ポリエチレン等の熱可塑性樹脂等を用いることができる。
また,これら活物質,導電材,結着剤を分散させる溶剤としては,例えばN−メチル−2−ピロリドン等の有機溶剤を用いることができる。
【0029】
負極は,上記正極と同様に,例えば上記負極活物質に導電材及び結着剤を混合し,適当な溶媒を加えてペースト状にした負極合材を,上記負極集電体の表面に塗布して乾燥し,その後必要に応じてプレスして形成することができる。
【0030】
また,正極及び負極に狭装させるセパレータは,正極と負極とを分離し,上記水溶液電解液を保持するものである。このようなセパレータとしては,例えばポリエチレン,ポリプロピレン,及びセルロース等の薄い微多孔膜を用いることができる。
【0031】
また,上記水系リチウム二次電池の形状としては,例えばコイン型,円筒型,及び角型等がある。上記電池ケースとしてはこれらの形状に対応したものを用いることができる。
【0032】
また,上記水系リチウム二次電池は,上記正極と上記負極とを,該正極及び負極の間に狭装したセパレータとともに捲回してなる捲回式電極を有することが好ましい(請求項5)。
この場合には,電極面積を増加させ,上記水系リチウム二次電池の内部抵抗を低減することができる。
【0033】
【実施例】
(実施例1)
次に,本発明の水系リチウム二次電池の実施例につき,図1を用いて説明する。
本例の水系リチウム二次電池は,正極活物質及び正極集電体を含有する正極と,負極活物質及び負極用集電体を含有する負極と,電解質を水に溶解してなる水溶液電解液とを有し,Liイオンを可動イオンとするロッキングチェア型の水系リチウム二次電池である。上記水溶液電解液は,そのpHが4〜9である。また,上記正極集電体及び負極集電体は,そのいずれもがアルミニウム又はアルミニウム合金よりなる。
【0034】
図1に示すごとく,本例の水系リチウム二次電池1は,正極2及び負極3を,これらの間にセパレータ4を狭んだ状態でポリエチレン製の袋5に入れてなる簡易電池セルである。なお,図1においては,図面作成の便宜のため正極2,負極3,及びセパレータ4を互いにずらして示してあるが,実際には,正極2及び負極3が互いに接触することを防止するために,セパレータ4は完全に両者を隔てるように,両者の間に挿入されている。
また,正極2は,正極活物質としてオリビン構造のLiFePO4を含有し,負極3は負極活物質としてLiV2O4を含有している。
【0035】
次に,本発明の水系リチウム二次電池の製造方法につき,説明する。
まず,以下のようにして,正極活物質及び負極活物質を準備し,これらを用いて正極及び負極を作製した。
【0036】
正極活物質としては,オリビン構造のリン酸鉄リチウム(LiFePO4)を固相反応法を用いて合成により作製した。即ち,まず,シュウ酸鉄・二水和物(FeC2O4・2H2O),リン酸水素二アンモニウム((NH4)2HPO4),及び水酸化リチウム(LiOH・H2O)を,組成式LiFePO4の化学量論比にしたがって自動乳鉢を用いて30分間混合した。得られた混合物をアルゴン雰囲気流中で,温度350℃で5時間仮焼した。その後,自動乳鉢で30分間混合し,さらにアルゴン雰囲気流中で,温度650℃で6時間焼成して正極活物質としてのリン酸鉄リチウム(LiFePO4)を得た。
【0037】
次に,上記のようにして作製した正極活物質100重量部に対して,導電剤としてのアセチレンブラックを11.8重量部,結着剤としてのポリフッ化ビニリデン(呉羽化学工業株式会社製,KFポリマー)を5.9重量部,及び溶剤としてのN−メチル−2−ピロリドンを60〜80重量部加え,これらを混練してペースト状の正極合材を作製した。
【0038】
次いで,この正極合材を,厚さ20μmのアルミニウム箔よりなる正極集電体の両面に塗布して,乾燥させた。その後,ロールプレスで高密度化させ,裁断,タブ部のはぎ取りをして,図1に示すごとく,幅20mm,長さ20mmの正極合材の塗布部分にタブ部25が突き出たような形状の正極2を作製した。なお,正極活物質の付着量は,片面当たり,7mg/cm2程度とした。
【0039】
次に,負極活物質としては,LiV2O4を合成により作製した。即ち,まず,炭酸リチウム(Li2CO3)及び五酸化バナジウム(V2O5)を,組成式LiV2O4の化学量論比にしたがって自動乳鉢を用いて20分間混合した。その後,得られた混合物100重量部に対して,ケチェンブラック(東海カーボン株式会社製,TB−5500)を2重量部添加し,自動乳鉢を用いてさらに20分間混合した。この混合物をアルゴン雰囲気流中で,温度750℃で24時間焼成後,急冷して負極活物質としてのLiV2O4を得た。
【0040】
続いて,上記の正極の作製と同様にして,負極活物質を用いて負極合材を作製し,この負極合材をアルミニウム箔よりなる負極集電体の両面に塗布し,乾燥させ,正極と同形状の負極を作製した。なお,負極活物質の付着量は,片面当たり,7mg/cm2程度とした。
【0041】
次に,図1に示すごとく,上記のようにして作製した正極2及び負極3をセルロース系のセパレータ4を介して対向させ,ポリエチレン製の袋5に入れた。そして,さらに水溶液電解液としての飽和硝酸リチウム水溶液(pH=7)を,セパレータが完全に含浸する程度に入れ,クリップで袋5の上部を止めた。このようにして,水系リチウム二次電池1を作製した。これを試料Eする。
【0042】
また,本例では,上記試料Eの優れた特性を明らかにするため,比較用として9種類の水系リチウム二次電池(試料C1〜試料C9)を作製した。この比較用としての試料C1〜試料C9は,試料Eにおける集電体の種類を変え,その他は実施例1と同様にして作製したものである。
【0043】
具体的には,試料C1は,正極集電体としてアルミニウム箔(厚み20μm)を,負極集電体としてSUS304箔(厚み20μm)を用いて作製したものである。
また,試料C2は,正極集電体としてアルミニウム箔(厚み20μm)を,負極集電体としてNi箔(厚み20μm)を用いて作製したものである。
また,試料C3は,正極集電体としてアルミニウム箔(厚み20μm)を,負極集電体としてTi箔(厚み10μm)を用いて作製したものである。
【0044】
次に,試料C4は,正極集電体としてSUS304箔(厚み20μm)を,負極集電体としてアルミニウム箔(厚み20μm)を用いて作製したものである。
また,試料C5は,正極集電体としてNi箔(厚み20μm)を,負極集電体としてアルミニウム箔(厚み20μm)を用いて作製したものである。
また,試料C6は,正極集電体としてTi箔(厚み10μm)を,負極集電体としてアルミニウム箔(厚み20μm)を用いて作製したものである。
【0045】
次に,試料C7は,正極集電体及び負極集電体として,ともにSUS304箔(厚み20μm)を用いて作製したものである。
また,試料C8は,正極集電体及び負極集電体として,ともにNi箔(厚み20μm)を用いて作製したものである。
また,試料C9は,正極集電体及び負極集電体として,ともにTi箔(厚み10μm)を用いて作製したものである。
【0046】
次に,上記のようにして作製した試料E及び試料C1〜C9の水系リチウム二次電池について,下記のようにして充放電試験を行いその特性を評価した。
【0047】
(充放電試験)
20℃の環境下において,上記試料E及び試料C1〜試料C9を,充電電流密度0.5mA/cm2の定電流で充電上限電圧1.4Vまで充電し,次いで放電電流密度0.5mA/cm2の定電流で放電下限電圧0.1Vまで放電を行う充放電を合計3回おこない,3回目の充電容量及び放電容量を測定した。なお,充電後の休止時間は1分間とした。また,3回目の充電容量及び放電容量から,このときの充放電効率を算出した。
その結果を表1に示す。
【0048】
【表1】
【0049】
表1より知られるごとく,試料Eは,1.4Vという高い電圧で充電を行っているにも拘わらず,90%を超える高い充放電効率を示すことができた。
これに対し,試料C1〜試料C9は,充放電効率が低くかった。これは試料C1〜試料C9においては,正極又は/及び負極で水の電気分解がおこったためであると考えられる。
【0050】
このように,本例によれば,上記試料Eの水系リチウム二次電池は,高い起電力を安定に発揮できることがわかる。
【0051】
(実施例2)
本例では,本発明の水系リチウム二次電池として,捲回式の電極を有する円筒型の電池を作製した。
図2に示すごとく,本例の水系リチウム二次電池10は,円筒型であり,正極20,負極30,セパレータ40,ガスケット59,及び電池ケース6等よりなっている。電池ケース6は,18650型の円筒形状の電池ケースであり,キャップ63及び外装缶65よりなる。電池ケース6内には,シート状の正極20及び負極30が,これらの間に挟んだセパレータ40と共に捲回した状態で配置されている。
【0052】
また,電池ケース6のキャップ63の内側には,ガスケット59が配置されており,電池ケース6の内部には,水溶液電解液が注入されている。
正極20及び負極30には,それぞれ正極集電リード23及び負極集電リード33が熔接により設けられている。正極集電リード23は,キャップ63側に配置された正極集電タブ235に熔接により接続されている。また,負極集電リード33は,外装缶65の底に配置された負極集電タブ335に熔接により接続されている。
また,水溶液電解液としては,飽和硝酸リチウム水溶液(pH=7)を用いており,該水溶液電解液は電池ケース6内に注入されている。
【0053】
次に,本例の水系リチウム二次電池の製造方法につき,説明する。
まず,実施例1と同様にして,ペースト状の正極合材及び負極合材を作製した。この正極合材及び負極合材を,それぞれ厚さ20μmのアルミニウム箔製の正極集電体及び負極集電体の両面に塗布して,乾燥させた。その後,ロールプレスで高密度化させ,正極合材を塗布した正極集電体については,幅54mm,長さ450mmの形状に切り出し,負極合材を塗布した負極集電体については,幅56mm,長さ520mmの形状に切り出し,シート状の正極及び負極をそれぞれ作製した。
【0054】
その後,正極において正極合材を塗工した塗工部の端部から正極合材を一部削りとり,最終的な正極合材の塗工部の長さが400mmとなるようにした。また,負極についても,同様にして,負極における最終的な負極合材の塗工部の長さが500mmとなるようにした。
なお,正極活物質及び負極活物質の付着量は,片面当たり,それぞれ7mg/cm2程度とした。
【0055】
次に,図2に示すごとく,上記のようにして得られたシート状の正極20及び負極30にそれぞれ正極集電リード23及び負極集電リード33を熔接した。次いで,正極20及び負極30を,これらの間に幅58mm,厚さ25μmのポリエチレン製のセパレータ40を挟んだ状態で捲回し,スパイラル状の捲回式電極を作製した。
【0056】
続いて,この捲回式電極を,外装缶65及びキャップ63よりなる18650型の円筒形状の電池ケース6に挿入した。このとき,電池ケース6のキャップ63側に配置した正極集電タブ235に,正極集電リード25を熔接により接続すると共に,外装缶6の底に配置した負極集電タブ335に負極集電リード33を熔接により接続した。
【0057】
次に,電池ケース6内に,水溶液電解液としての飽和硝酸リチウム水溶液(pH=7)を含浸させた。そして,キャップ63の内側にガスケット59を配置すると共に,このキャップ63を外装缶65の開口部に配置した。続いて,キャップ63にかしめ加工を施すことにより電池ケース6を密閉し,水系リチウム二次電池10を作製した。
【0058】
本例の水系リチウム二次電池は,上記実施例1の試料Eと同様に,pHが7の水溶液電解液を有すると共に,アルミニウムよりなる正極集電体及び負極集電体を有している。そのため,この水系リチウム二次電池は,上記試料Eと同様に,水の理論的な分解電位以上の高い起電力を安定に発揮できるものとなった。
【0059】
(実験例)
本例においては,水系リチウム二次電池の集電体としてアルミニウムが優れていることを明らかにするため,水溶液電解液中で6種類の金属と白金との間に電圧を印加し,そのときの水の分解電位を調べた。
【0060】
具体的には,まず,試料電極として,アルミニウム(Al),白金(Pt),ニッケル(Ni),チタン(Ti),銅(Cu),及びSUS304をそれぞれ準備した。これらの試料電極の形状は,20×20mmの箔状である。
また,試料電極の対極として白金ワイヤー(φ0.3×5mm;コイル状)を準備した。
また,試料電極の電位を測定するための基準となる参照電極としてAg/AgCl電極を準備した。
【0061】
次に,図3に示すごとく,水溶液電解液75として飽和硝酸リチウム水溶液(pH=7)を入れた容器7内に,試料電極8と白金ワイヤー9とをこれらが対向するように入れた。さらに,試料電極8と白金ワイヤー9との間に参照電極85を配置して3極式のビーカーセル70を作製した。
【0062】
続いて,試料電極8と白金電極9との間に電圧を印加し,このとき電流値及び参照電極85と試料電極8との電位差を2mV/secのスキャン速度でモニターした。測定は,各試料電極(6種類)について行った。その結果を図4に示す。
なお,図4において,横軸は参照電極との電位差(V),縦軸は電流値(mA)
【0063】
図4より知られるごとく,Alを試料電極とした場合には,参照電極からの電位差が−1.5V〜+1.5Vの間で水溶液電解液の電気分解はほとんど起こらず,Alが大きなガス発生過電圧を有していることがわかる。
これに対し,例えばNiを試料電極とした場合には,参照電極からの電位差が+1.5V超えたところ,及び−1.0Vを下回ったところで電流値が急激に上昇又は低下しており,水溶液電解液の水が電気分解され酸素ガスや水素ガスが発生したことがわかる。また,Ti,SUS,及びCuを試料電極とした場合においても,酸素ガスや水素ガスが発生するまでの電位差は,Alよりも小さかった。
【0064】
また,Ptを試料電極とした場合には,+1.5Vを超えても酸素ガスの発生は起こらなかったが,−1.0Vを下回ったときに水素ガスが発生した。また特にPtは高価であるため,実際の電池の集電体には適していない。
【0065】
以上のことから,水系リチウム二次電池の集電体としては,アルミニウムやアルミニウム合金が最も適していることがわかる。
【0066】
また,図4よりしられるごとく,アルミニウムは,Ag/AgCl電極を基準電位としたとき,−1.5V〜+1.5Vの範囲では水の電気分解をほとんど引き起こさない。したがって,Alを含有してなる集電体を用いる場合には,Ag/AgCl電極を基準電位として測定したときの電位が0〜1.5Vとなる範囲内において,充放電可能な物質よりなる正極活物質を用いることが好ましく,また−1.5〜0Vとなる範囲内において,充放電可能な物質よりなる負極活物質を用いることが好ましいことがわかる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1にかかる,簡易電池セルとしての水系リチウム二次電池の構成を示す説明図。
【図2】実施例2にかかる,捲回式電極を有する水系リチウム二次電池の構成をしめす説明図。
【図3】実験例にかかる,試料電極の参照電極に対する電位差を測定するための装置を示す説明図。
【図4】実験例にかかる,種々の試料電極の参照電極に対する電位差と電流値との関係を示す説明図。
【符号の説明】
1...水系リチウム二次電池(実施例1),
2...正極(実施例1),
3...負極(実施例1),
4...セパレータ(実施例1),
10...水系リチウム二次電池(実施例2),
20...正極(実施例2),
30...負極(実施例2),
40...セパレータ(実施例2),
6...電池ケース(実施例2),
Claims (5)
- 正極活物質及び正極集電体を有する正極と,負極活物質及び負極用集電体を有する負極と,電解質を水に溶解してなる水溶液電解液とを有し,Liイオンを可動イオンとするロッキングチェア型の水系リチウム二次電池において,
上記水溶液電解液は,そのpHが4〜9であり,
上記正極及び負極は,表面に酸化アルミニウムが形成されたアルミニウム又はアルミニウム合金よりなる上記正極集電体及び上記負極集電体に,それぞれ上記正極活物質及び上記負極活物質を塗布し加圧してなり,
上記正極集電体及び上記負極集電体は,厚さ10μm〜50μmの箔状であることを特徴とする水系リチウム二次電池。 - 請求項1において,上記正極活物質は,AgとAgClとを含有してなるAg/AgCl電極を基準電位として測定したときの電位が0〜1.5Vとなる範囲内において,充放電可能な物質よりなることを特徴とする水系リチウム二次電池。
- 請求項1または2において,上記負極活物質は,AgとAgClとを含有してなるAg/AgCl電極を基準電位として測定したときの電位が−1.5〜0Vとなる範囲内において,充放電可能な物質よりなることを特徴とする水系リチウム二次電池。
- 請求項1〜3のいずれか1項において,上記水系リチウム二次電池は,上記正極と上記負極とを,該正極及び負極の間に狭装したセパレータとともに捲回してなる捲回式電極を有することを特徴とする水系リチウム二次電池。
- 請求項1〜4のいずれか1項において,上記水溶液電解液には,pHの緩衝剤が添加されていることを特徴とする水系リチウム二次電池。
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