JP4488386B2 - 温熱間加工用金型および温熱間加工用金型材の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明が属する技術分野】
本発明は、たとえば自動車部品であるクランクシャフト、コンロッド、アーム等を製造するために、温間から熱間領域での成形に使用する金型および金型材の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
クランクシャフトなどの製造に用いられる温熱間加工用金型は、700℃以上、通常は800℃以上の温度における耐熱衝撃性、耐摩耗性の確保が重要な課題であり、金型の成分の研究あるいは、それに合わせた金型材への鍛造等の加工方法の改善が進んできた。(たとえば、特公平7−65141等参照)
従来の金型の製造方法は、大型鋼塊を高温均質焼きなまし後分塊し、その後焼きなまし−鍛造加熱−鍛造−焼入れ焼もどし−型彫り加工により硬さを調整して金型を使用している。
【0003】
このような塑性加工と高温加熱を繰り返しにより、炭化物は固溶化および球状化することができる。これにより、金型の耐熱衝撃性を改善することが可能である。
また、成分の検討から金型の耐熱衝撃性、耐摩耗性を改善するばかりでなく、金型面に耐熱衝撃性あるいは耐摩耗性の高い材料を肉盛する技術が提案されるようになった。たとえば、金型表面に炭化物密度の高い高Cr鋼や軟化抵抗の高いCo基合金、高温強度の高い超耐熱合金の肉盛りにより温熱間の耐摩耗性を向上することができる。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者の検討によれば、金型表面を肉盛する技術の適用において、特に炭化物を多く含んだ合金を肉盛りすることにより耐摩耗性向上という効果が大きく現れ、一般に適用されている製造方法(加熱鍛伸の繰り返し)で金型を製造するものよりも炭化物密度も多く残存し、かつ軟化抵抗が高くなり耐摩耗性が向上するという利点をもたらす。
ところが、金型への肉盛り処理は、耐摩耗性を向上させる利点を有する一方、処理コスト、金型の製造にかかる時間の延長、並びに溶接欠陥等の弊害をもたらす。
したがって、金型に肉盛りする方法は最適なものとはいえない。
【0005】
本発明者は、肉盛りによる方法から展開して炭化物を多く含有させ耐摩耗性を向上させる手法として、鋳鋼を温熱間金型として使用することを試みた。
砂型を用いて鋳造した鋳鋼をそのまま温熱間加工用金型材とすることは、塑性加工と高温加熱を繰り返す従来の温熱間金型材に比べ、製造時間の短縮も期待される。
しかし、実際は、マトリックスおよび炭化物組織が粗いため靭性が確保できず、温熱間金型として使用すると早期破壊となることが判明した。特に温熱間プレス等の熱衝撃や衝撃荷重が大きく加わる用途では問題であった。
本発明は、上述した問題点に鑑み、金型材製造の時間を短縮できるとともに、金型の温熱間耐摩耗性を向上でき、耐熱衝撃性も確保できる温熱間金型および温熱間加工用金型材の製造方法を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者は、耐摩耗性を確保するのに有効な鋳鋼を温熱間加工用金型として使用を鋭意検討した。そして、従来の鋳鋼にもっとも欠けていた耐熱衝撃性を改善する手法として、積層凝固させた鋳塊を適用することが有効であることを見いだし、本発明に到達した。
すなわち、本発明は、鍛造比2以下で鍛造され、積層凝固した鋳造組織を残存させ、機械加工により型彫り面が形成された温熱間加工用金型である。
【0007】
本発明でいう積層凝固した鋳造組織というのは、ESR法(エレクトロスラグ再溶解法)、VAR法(真空アーク再溶解法)等の凝固単位が小さく、積層状に凝固させて得られる組織である。
凝固単位の小さい積層凝固した鋳造組織は、鋳造組織であっても炭化物が粗大にならず、均一に分散した組織となる。また、結晶粒も均一微細にすることができる。
これにより、鋳塊の靱性が飛躍的に高まり、鋳造組織であっても温熱間領域での熱衝撃に耐えうる金型とすることができる。
なお、鋳塊でなる鋳塊を金型として使用する場合、たとえば焼入れ焼戻しして金型材とした後、型彫りを行い金型とする。
【0008】
また、本発明において、耐摩耗性を保ったまま靱性をより高めるためには、積層凝固組織を破壊しない程度の軽鍛造を適用することが好ましい。
本発明においては、積層凝固組織を破壊しない鍛造比として、鍛造比2以下を適用する。
すなわち、もう一つ本発明は、鍛造比2以下で鍛造され、積層凝固組織を残存させた温熱間加工用金型である。
【0009】
また、上述した鍛造を適用する場合する場合、積層凝固鋳塊を鍛造比2以下の鍛造加工を施し成形し、鍛造による加熱状態から直接焼入れを行い、次いで機械加工により型彫り面を形成することが好ましい。
このような直接焼き入れを行うことにより、一旦冷却してから焼入れ加熱する場合に問題となる炭化物のマトリックスへの固溶による耐摩耗性の低下を防止することができる。
【0010】
また、本発明に適用する金型は、少なくとも、C 0.1〜0.8wt%、Cr 18wt%以下を含有する鋳鋼を適用することが望ましい。
なお、本発明においては、鍛造比3以下の加工を施したものも鋳造組織を残存するという意味で鋳鋼と呼ぶ。
具体的な組成としては、たとえば、
重量比で、C0.25〜0.55wt%、Si 1.20%以下、Mn1.5%以下、Ni3.0%以下、Cr3.0〜18.0%を含有する鋳鋼。
重量比で、C0.25〜0.55wt%、Si 1.20%以下、Mn1.5%以下、Ni3.0%以下、Cr3.0〜18.0%、WとMo1種または2種を1/2W+Moで10.0%以下を含有する鋳鋼。
【0011】
重量比で、C0.25〜0.55wt%、Si 1.20%以下、Mn1.5%以下、Ni3.0%以下、Cr3.0〜18.0%、WとMo1種または2種を1/2W+Moで10.0%以下、V2.0%以下を含有する鋳鋼。
重量比で、C0.25〜0.55wt%、Si 1.20%以下、Mn1.5%以下、Ni3.0%以下、Cr3.0〜18.0%、WとMo1種または2種を1/2W+Moで10.0%以下、V2.0%以下、Co10.0%以下を含有する鋳鋼。
重量比で、C0.25〜0.55wt%、Si 1.20%以下、Mn1.5%以下、Ni3.0%以下、Cr3.0〜18.0%、WとMo1種または2種を1/2W+Moで10.0%以下、V2.0%以下、Co10.0%以下、Nb 0.3%以下を含有する鋳鋼。
が適用できる。
【0012】
以下に本発明に適用する鋳鋼の組成として好ましい組成範囲を説明する。
1)C
Cは材料をマルテンサイト硬化させるために必要であり、かつ耐摩耗性に寄与する炭化物形成に必須の元素である。少なすぎると耐摩耗性に劣り、逆に多すぎると粗大炭化物が析出し靭性劣化の原因となり、使用荷重に合わせて選択する必要があり、0.1〜0.8wt%とした。
2)Cr
Crは、Cと結合して炭化物を生成し耐摩耗性を向上すると同時に、焼入れ性を増す効果がある。さらに、熱間摩耗時に表面に形成する酸化皮膜を緻密化かつすべり性を持たせる重要な役割を有する。しかしながら、添加量が増えすぎると高温強度・軟化抵抗が低下するが、本発明ではこの低下分を鋳造組織の高軟化抵抗性で補うことができる。好ましくは3wt%以上添加する。
また、18wt%を越えると高温強度が低下したり、炭化物が粗大化する傾向があるため、18wt%以下とすることが望ましい。
【0013】
3)Si,Mn
SiおよびMnは、脱酸剤や脱硫剤として添加するものであり、Si1.2%、Mn1.5%を越えると非金属介在物として鋼中に残存する量が増え、靱性等の機械的特性を劣化するため、それぞれSi1.2%以下、Mn1.5%以下とした。
4)Ni
Niは、焼入れ性を改善し、焼入れ冷却速度の低下により靱性が低下するのを防止すると同時に、基地の本質的な靱性を改善する。しかし、多すぎると、A1変態点を低下させたり、機械加工性を劣化するので、3%以下、好ましくは2%以下とすることが望ましい。
【0014】
5)W、Mo
WおよびMoは、本発明鋼の用途に必要とされる高温耐力、軟化抵抗を保つ上で重要である。W,Moは、焼戻し処理時に微細な特殊炭化物を析出して、軟化抵抗、高温耐力を高める。しかし。多すぎると機械加工性を劣化するため、WとMoの1種または2種で、Mo当量1/2W+Moで10%以下が望ましく、上述した明確な作用を得るには、0.5%以上添加することが望ましい。
6)V
Vは、固溶しにくい炭化物を形成するため耐摩耗性および耐焼付き性を向上に効果を有し、焼入れ加熱時には基地中に固溶し、焼戻し時に凝集しにくい微細な炭化物を析出するため高い温度域における軟化抵抗を大とし、大きな高温耐力を与えるための重要な元素である。多すぎると機械加工性を劣化するため、2%以下添加することが望ましい。上述した明確な作用を得るためには、0.1%以上添加することが望ましい。
【0015】
7)Co
Coは、母材の固溶強化並びに軟化抵抗を高めると同時に、高温使用時においてきわめて緻密性の高い酸化皮膜を形成するのに寄与し、相手材と金型表面の金属接触を防ぎ、表面温度の上昇を防ぐため耐摩耗性の向上をもたらす。Coは高価であり、添加する場合でも10%以下とすることが望ましい。
8)Nb
Nbは、Vと同様に、固溶しにくい炭化物を形成するため耐摩耗性および耐焼付き性を向上に効果を有し、焼入れ加熱時には基地中に固溶し、焼戻し時に凝集しにくい微細な炭化物を析出するため高い温度域における軟化抵抗を大とし、大きな高温耐力を与えるための重要な元素である。さらに、微細なNb炭化物が結晶粒界に析出することにより、焼き入れ加熱時の結晶粒粗大化を防止する効果もある。多すぎると、機械加工性を劣化するため、0.3%以下が望ましい。
【0016】
本発明は、さらに精錬効果が期待できるエレクトロスラグ再溶解法(ESR法)による積層凝固方法を利用することにより、靭性を確保する上で有害となるS等の不純物を低減させることが可能となる。また、上記合金元素を多量に含む合金、例えばCr3%以上含有する合金は砂型の鋳造方法では偏析が多くとても使用に耐え得るものではない。したがって、Cr3%以上の材料が本発明を適用するのにより好ましい。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下に実施例に基づき本発明を詳細に説明する。
表1に実験に供した試験材の化学成分を示す。
本発明においては、まず、鋳造によって電極材となる母合金を作製し、ついで溶融スラグを用いるESR法により、この電極材を再溶解して積層凝固させ、インゴットを製造した。
比較例の試料1においては、インゴットを切断し、ついで1000℃の焼入れ、600℃の焼戻しを行ない硬さを調整して、断面寸法350mm×350mmの金型材とした。
また、本発明の試料2,3,7〜9および比較例4においては、インゴットを表2に示す鍛造比で鍛造し、鍛造温度から一旦室温に冷却することなく1000℃から直接焼入れを行った。その後600℃の焼戻しを行い硬さを調整して試料1と同形状の金型材を得た。
【0018】
比較例、試料5として、鋳塊を分塊と仕上げ鍛造により、鍛造比7で仕上げ、最終的に1000℃焼入れ、600℃焼戻し処理により、硬さを調整した試料1と同形状の金型材を製造した。
また、比較例6として従来の砂型鋳造を適用し、インゴットを切断し、ついで1000℃の焼入れ、600℃の焼戻しを行ない硬さを調整して、試料1と同形状の金型材とした。
表2に得られた金型材から鍛伸方向に垂直に採取した試料を用いてシャルピー衝撃値を測定した結果を示す。
熱間摩耗を評価するため、ワーク材をS45として、600℃に加熱した試験片を800℃に加熱したワーク材に14MPaの圧力で押しつけながら、試験片を400rpmで5秒間回転させた後、水冷した。そしてこのサイクルを250サイクル繰り返したときの摩擦深さを測定した。その結果を表2に付記する。
【0019】
【表1】
【0020】
【表2】
【0021】
表2に示すように、本発明は、従来の砂型鋳造では得られない高い靱性を示し、かつ高い耐摩耗性を確保できる。
さらに、鍛造比3以下で鍛造した本発明の金型材は、従来の鍛造材により近い靱性を持ち、かつ耐摩耗性に優れるものとなり、温熱間加工用金型としてより有効であることがわかる。
【0022】
【発明の効果】
本発明によれば、基本的に鋳造組織を残存させた状態を使用するため、従来の分塊−鍛造法による工程を大幅に削減できる。
さらに、鋳造組織とすることにより、耐摩耗性を大幅に改善することが可能となり、工業上の価値は大きい。
Claims (4)
- 鍛造比2以下で鍛造され、積層凝固した鋳造組織を残存させ、機械加工により型彫り面が形成されたことを特徴とする温熱間加工用金型。
- 少なくとも、C0.1〜0.8wt%、Cr18wt%以下を含有する鋳鋼よりなることを特徴とする請求項1に記載の温熱間加工用金型。
- 積層凝固した鋳塊を鍛造比2以下の鍛造加工を施し成形し、鍛造による加熱状態から直接焼入れ焼戻し処理を行い、次いで機械加工により型彫り面を形成して金型材とすることを特徴とする温熱間加工用金型材の製造方法。
- 少なくとも、C0.1〜0.8wt%、Cr18wt%以下を含有する鋳鋼よりなることを特徴とする請求項3に記載の温熱間加工用金型材の製造方法。
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