JP4474835B2 - 磁気インピーダンス素子 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、磁界検出を行なう磁気センサおよびそれを用いた電流センサ、特に磁気インピーダンス効果を利用した高感度磁気インピーダンス素子に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、情報機器や計測・制御機器の高性能化,小型薄型化,低コスト化が急速に進み、これらの急速な発展に伴い、それらに用いられる磁気センサ,電流センサなどにも小型,低コスト,高感度などの要求が大きくなっている。
従来から用いられている磁気センサとしてはホール素子、磁気抵抗効果素子(MR素子)、巨大磁気抵抗効果素子(GMR素子)、フラックスセンサなどが知られており、また電流センサとしてはカレントトランスを用いた方式などが知られている。
【0003】
例えばコンピュータの外部記憶装置となるハードディスク装置に用いられる磁気ヘッドには、従来のバルクタイプの誘導型磁気ヘッドからMRヘッドへと高性能化が進んでおり、現在では巨大磁気抵抗効果(GMR)を適用しようとする研究が活発に行なわれている。また、モータの回転センサであるロータリエンコーダではマグネットリングの微小化に伴い、外部に漏れる磁束が微弱になっており、現在のMR素子に代わり高感度な磁気センサが要求されている。ブレーカなども従来の機械式に代わり、電流センサを用いた電子式の開発が進んでいるが、従来のカレントトランスを用いた方式では小型化が困難であり、また感度,検出レンジなどの点で、磁気センサの高感度化,大レンジが求められている。
【0004】
これらの要求を満たすために、アモルファスワイヤの磁気インピーダンス効果(MI効果ともいう)を用いた磁気インピーダンスセンサが、例えば特許文献1に提案された。磁気インピーダンス効果とは、磁性体に高周波電流を通電した状態で外部磁界が変化すると磁性体の透磁率が変化し、それに伴い磁性体のインピーダンスが、磁界0のときと比較して数十〜数百%変化する現象である。このような効果を利用するセンサでは、磁性体の両端の電圧を測定することにより、数百マイクロテスラ(μT)程度の微小な外部磁界変化を検出することができる。
上記のような磁気インピーダンス効果は、アモルファスワイヤだけでなく磁性薄帯や磁性薄膜でも同様に見られ、特に薄膜については小型,薄型が可能であり信頼性,量産性に優れるため、様々な構造のものが提案されており、その1つに例えば特許文献2に示すものがある。
【0005】
薄膜を用いた磁気インピーダンス素子は、磁気異方性を付与され、一軸異方性を誘導した高透磁率軟磁性膜を短冊状に加工した磁性薄膜パターンで構成される。磁気異方性は磁性膜の成膜時に磁界を印加しながら行ない、さらに回転磁界中や静止磁界中で150〜400℃程度の熱処理をすることにより誘導される。磁化容易軸の方向は、一般的には短冊状構造の短軸(線幅)方向である。磁気インピーダンス素子は、その長さ方向成分の磁界によってインピーダンスが変化するという特性を示す。このときの磁気インピーダンス特性は、磁化容易軸が線幅の場合、磁場の正負でそれぞれインピーダンスのピークをとり、磁場の正負で対称であるという特性を示す。また、その変化率は数十〜数百%と非常に大きな変化を示す。
【0006】
長さ方向に磁気異方性を付与しても、磁気インピーダンス特性が発現する。その時の特性は磁界0のときインピーダンスが最も大きく、磁界の絶対値が大きくなるにつれて減少する特性になる。この場合もインピーダンスは磁界の正負で対称になる。この場合の検出磁界方向も、磁性薄膜パターンの長さ方向成分である。
これらの磁気インピーダンス特性におけるインピーダンスの変化は、磁性薄膜パターンに高周波電流を印加している状態での透磁率が変化することによって引き起こされるものである。インピーダンスを抵抗成分とインダクタンス成分とに分離すると両者ともに透磁率が変化することによって変化するが、絶対値の大きい抵抗成分がその変化には支配的である。透磁率変化による抵抗変化は、基本的には高周波電流が磁性体中を流れるときに発生する表皮効果に起因するため、表皮効果を大きくするためには高周波電流の周波数を上げるか、または磁性薄膜パターンである磁性体の膜厚を厚くする方法が有効となる。
【0007】
以上のように、磁気インピーダンス素子は磁界に対してインピーダンスが大きく変化することが特徴であるが、素子にバイアス磁界を印加し、磁界に対してインピーダンスの変化が大きい点で動作させることにより、さらに磁界に対して高感度に応答するセンサとなる。このバイアス磁界を印加するためには、素子の周りにコイル(バイアスコイル)を形成し、そのコイルに電流を印加することで磁界を発生させることが必要である。また、感度の直線性を向上する目的で、負帰還磁界をかける方式についてもコイルが必要になる。アモルファスワイヤを用いた場合、そのワイヤの周りに直接Cuワイヤなどを巻き、コイルを形成する構造がとられているが、薄膜で形成した磁気インピーダンス素子と同一基板上にコイルを薄膜で形成するものもある(例えば、特許文献3参照)。
【0008】
【特許文献1】
特開平06−281712号公報(第2−4頁、図1)
【特許文献2】
特開平08−075835号公報(第4頁、図1)
【特許文献3】
特開平11−109006号公報(第3−4頁、図1)
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
上述のように、磁気インピーダンス素子にはアモルファスワイヤを用いたものと薄膜を用いたものとがあるが、特性の再現性(安定性),信頼性,量産性の面では薄膜を用いた方が有利であると言える。薄膜を用いた場合、ガラスなどの非磁性基板上にスパッタ法などを用いて成膜し、レジストなどの感光性材料を用いて微細パターンを形成し、ウエットエッチングやイオンビームエッチングなどのドライエッチングを用いて、微細パターンに加工している。
【0010】
以上のような工程において、安価な磁気インピーダンス素子を提供するためには、製造工程での歩留まりを向上させる必要がある。磁気インピーダンス素子の製造現場でのゴミ付着や加工時の付着物の影響で、磁性薄膜の一部で短絡や断線が起こることによって歩留まりが低下する。このような問題の外に、磁気インピーダンス素子の感度ばらつきを低減することが重要になる。ここで、感度とは、検出磁界〔A/m〕あたりのインピーダンス変化量(または変化した割合)であり、外部磁界に対するインピーダンス変化曲線の傾きとなる。磁気インピーダンス素子間の感度ばらつきが大きく、或る感度範囲に入っていないものは特性不良となり、1枚の非磁性基板からとれる磁気インピーダンス素子の取れ数が減少する。この感度を揃えるために、回路を調整する方法がとられているが、人手が掛りコスト高となる。
【0011】
この磁気インピーダンス素子の感度ばらつきに影響を与えている要因として、磁性薄膜と非磁性基板との間に密着性向上のために用いている絶縁膜の影響がある。その絶縁膜からの脱ガスや絶縁膜表面の凹凸,ボイドなどが磁性薄膜の磁気特性に影響を及ぼし、それが磁気インピーダンス素子の感度に影響してしまう。例えば、磁気インピーダンス素子を製造するときに、200℃以上の高温にする工程があり、局所的に構造,磁性薄膜に加わる応力が変化し、それが磁気特性に影響を及ぼす。
【0012】
先に述べたバイアス磁界発生用コイルや負帰還用コイルを、磁性薄膜と同一基板上に薄膜で形成した薄膜コイルをもつ磁気インピーダンス素子(コイル一体型磁気インピーダンス素子)を作製する場合、薄膜コイルと磁性薄膜の間には絶縁膜が必要である。特に、薄膜コイルの凹凸を緩和するために、絶縁膜としてポリイミドなどの有機物の使用が必須となり、磁気インピーダンス素子の感度への影響が避けられない。
したがって、この発明の課題は、磁気インピーダンス素子の感度ばらつきの問題を解決し、素子製造での歩留まりを向上させることにある。
【0013】
上記の課題を解決するため、請求項1の発明は、磁性薄膜と非磁性基板との密着性向上のために、非磁性基板上に有機物薄膜を形成するが、その有機物薄膜の影響を除外するために、有機物薄膜と磁性薄膜との間にCr薄膜を介在させることを特徴とする。これにより、有機物薄膜を必要とする構造の磁気インピーダンス素子の感度ばらつきを低減させるものである。
請求項2の発明は、請求項1記載の磁気インピーダンス素子において、磁性薄膜上に保護膜として有機物薄膜を形成する場合、保護膜からの影響を除外するために、保護膜と磁性薄膜との間に非有機物薄膜を形成することを特徴とする。
【0014】
請求項3の発明は、バイアス磁界発生用コイルまたは負帰還コイルを、薄膜コイルの形で磁性薄膜と同一基板上に一体化させた、コイル一体型磁気インピーダンス素子において、磁性薄膜と薄膜コイルの間に形成する絶縁膜と磁性薄膜との間にCr薄膜を形成することを特徴とする。つまり、コイル一体型磁気インピーダンス素子を作製する場合には、磁性薄膜と薄膜コイルの間に絶縁膜を形成するのは必須であり、その絶縁膜として有機物薄膜が用いられる。この有機物薄膜と磁性薄膜との間にCr薄膜を形成することで、有機物薄膜の影響を除外できるようにし、コイル一体型磁気インピーダンス素子の感度ばらつきを低減させるものである。
また、請求項4の発明は、請求項2または3記載の磁気インピーダンス素子において、磁性薄膜の上面および側面側を非有機物材料で覆うことを特徴とする。これにより、磁性薄膜の側壁に対する有機物薄膜の影響をも除外できるようにする。
【0015】
請求項5の発明は、非有機物薄膜として絶縁性材料を単層または積層で用いることを特徴とする。これは、磁性薄膜の膜厚が薄い場合、金属薄膜を使用すると金属薄膜に流れる電流成分が大きくなり、磁気インピーダンス特性が低下してしまう。また、金属薄膜を薄くするのが困難になったり、薄すぎるとその効果が得られない場合がある。そこで、酸化物材料や窒化物材料といった絶縁性材料を用いることにより、磁気インピーダンス特性を低下させることなく、有機物薄膜からの影響を除外できるようにする。
【0017】
【発明の実施の形態】
図1はこの発明の第1の実施の形態を示す構成図である。
ここでは、磁気インピーダンス素子を図示のように、有機物薄膜4を表面に形成したガラス基板1上に、例えばマグネトロンスパッタ法を用いてCr薄膜2,アモルファス磁性薄膜3の順に成膜し、レジストなどの感光性材料を用いて微細パターンを形成し、磁界熱処理後に例えばイオンビームエッチングによってアモルファス磁性薄膜3およびCr薄膜2を微細パターンに加工した。アモルファス磁性薄膜3は、図1(b)の平面図に示すように、つづら折れパターンとしている。
【0018】
図2は図1に対する比較例を示し、図1でCr薄膜がない磁気インピーダンス素子を示す。
つまり、図1は非磁性基板上に形成した有機物薄膜と磁性薄膜との間にCr薄膜を入れた場合であり、図2はそのCr薄膜が無い場合である。
図3は両者の感度ばらつきを示すもので、図3(a)のCr薄膜有りでは、σを標準偏差として3σが18%、図3(b)のCr薄膜無しでは3σは24%となっており、3σの値が大きいほどばらつきが大きいことを示すので、Cr薄膜を設けることにより感度ばらつきが低減することが分かる。
【0019】
このように、Cr薄膜を磁性薄膜の下に有することにより、Cr薄膜に流れる電流成分は大きくなるが、実施例1の磁性薄膜4μmに対しCr薄膜を0.03μmとすることによって、磁性薄膜に流れる電流を約5%の減少に抑えることができ、磁気インピーダンス特性への影響は小さい。
第1の例では金属材料単層で用いたが、別の金属材料を組み合わせた積層膜でも良いし、後述する酸化物材料,窒化物材料の単層膜または積層膜でも良い。ただし、磁性薄膜に面する材料を絶縁性材料とし、有機物材料と面する材料を金属などの低抵抗材料にすると、コンデンサを接続しているのと同じ状況になり、磁気インピーダンス特性に影響を与えてしまうので、そのような組み合わせは回避することが必要である。
【0020】
図4はこの発明の第2の実施の形態を示す断面図である。
これは、アモルファス磁性薄膜3と保護膜6との間に、SiO2薄膜5を形成した点が特徴である。有機物材料による保護膜を有する磁気インピーダンス素子をこのような構造とすることによって、下地の有機物薄膜4の他に保護膜6からの影響を除外することができ、磁気インピーダンス素子間の感度ばらつきを低減することができる。
ここでは、アモルファス磁性薄膜3の上にSiO2薄膜、下にCr薄膜を形成したが、上下の材料を入れ替えても良い。また、別の金属材料を組み合わせた積層膜でも良いし、後述する酸化物材料,窒化物材料の単層膜または積層膜でも良い。
【0021】
図5はこの発明の第3の実施の形態を示す構成図である。
これは、ガラス基板上に下部薄膜コイルパターンおよび有機物材料による絶縁膜を形成し、Cr薄膜2と磁性薄膜3を形成し、その磁性薄膜の上にSiO2薄膜5を形成後、図1と同じく微細パターンに加工後、有機物材料による絶縁膜,上部薄膜コイルパターンを形成したコイル一体型磁気インピーダンス素子の例である。
コイル一体型磁気インピーダンス素子を作製するためには、薄膜コイル7とアモルファス磁性薄膜3との間に有機物材料による絶縁膜を形成する必要があるので、アモルファス磁性薄膜3と有機物薄膜4との間の非有機物薄膜の形成が、磁気インピーダンス素子間の感度ばらつき低減に有効である。
ここでは、磁性薄膜の上にSiO2薄膜、下にCr薄膜を形成したが、上下の材料を入れ替えても良く、積層膜としても良い。
【0022】
図6はこの発明の第4の実施の形態を示す構成図である。
アモルファス磁性薄膜3の下に面する有機物薄膜4との間にCr薄膜2を形成し、保護膜6と面する磁性薄膜3の上面および側面側にはSiO2薄膜を形成した点が特徴である。こうすることで、磁性薄膜下面にある有機物薄膜の他に磁性薄膜の周りに保護膜として形成した有機物薄膜からの影響を除外することができ、磁気インピーダンス素子間の感度ばらつきを低減できる。
【0023】
ここでは、磁性薄膜を覆う材料として、磁性薄膜3の下にはCr薄膜2、上および側面にはSiO2薄膜5を形成したが、製造プロセスを考慮すると、上面と側面の非有機物薄膜は同一工程で形成することになり、また、磁性薄膜を隙間無く覆うためには、どうしても上面と側面の非有機物薄膜の断面積は大きくなってしまう。このことから、使用する非有機物材料の抵抗率が高い材料を磁性薄膜の上面,側面に用いた方が、磁気インピーダンス特性への影響を小さくすることができる。なお、非有機物薄膜として積層膜を用いても良い。また、図6のような構成は、図5で説明したコイル一体型磁気インピーダンス素子についても、同様にして適用することができる。
【0024】
図7はこの発明の第5の実施の形態を示す構成図である。
これは、アモルファス磁性薄膜3に面する非有機物材料をCr薄膜2とし、非磁性基板1上に形成した有機物薄膜4と保護膜6に面する非有機物材料をSiO2薄膜5としたものである。使用する有機物材料や磁性材料によって使用する材料との密着性を考慮する必要性があり、その場合、図7のような構造にすることにより、密着性を向上させつつ有機物からの影響を除外することができ、磁気インピーダンス素子間の感度ばらつきを低減できる。なお、この構成も図5の素子に適用可能である。
【0025】
【発明の効果】
この発明によれば、磁性薄膜と非磁性基板との間に有機物薄膜を有する磁気インピーダンス素子や、保護膜,絶縁膜としての有機物薄膜が磁性薄膜の周りに形成されている磁気インピーダンス素子において、磁性薄膜と有機物薄膜との間にCr薄膜を形成することにより、磁性薄膜の磁気特性に対する有機物薄膜の影響を除外することができ、その結果、磁気インピーダンス素子の感度ばらつきが低減され、磁気インピーダンス素子の製造歩留まりが向上するという利点がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明の第1の実施の形態を示す構成図
【図2】図1に対する比較例を示す断面図
【図3】図1と図2の場合の感度ばらつき説明図
【図4】この発明の第2の実施の形態を示す断面図
【図5】この発明の第3の実施の形態を示す構成図
【図6】この発明の第4の実施の形態を示す構成図
【図7】この発明の第5の実施の形態を示す構成図
【符号の説明】
1…ガラス基板、2…Cr薄膜、3…磁性薄膜、4…有機物薄膜、5…SiO2薄膜、6…保護膜、7…薄膜コイル。
Claims (5)
- 基板に高透磁率磁性膜を形成し短冊状に加工して形成される磁性薄膜に、高周波電流を印加することで外部磁界によって磁性体のインピーダンスが変化する、磁気インピーダンス効果を利用する素子であって、
前記磁性薄膜との密着性が良好な有機物薄膜を表面に形成した非磁性基板と、前記磁性薄膜との間にCr薄膜を介在させたことを特徴とする磁気インピーダンス素子。 - 前記磁性薄膜上に有機物材料で形成される保護膜と磁性薄膜との間に、非有機物薄膜を形成したことを特徴とする請求項1に記載の磁気インピーダンス素子。
- 基板上に下部薄膜コイルパターンと有機物材料による絶縁膜と磁性薄膜とを順次形成し、この磁性薄膜の上に非有機物薄膜を形成後に有機物材料による絶縁膜と上部薄膜コイルパターンとを形成し、前記磁性薄膜に高周波電流を印加することで外部磁界によって磁性体のインピーダンスが変化する、磁気インピーダンス効果を利用するコイル一体型磁気インピーダンス素子であって、
前記磁性薄膜と前記下部薄膜コイルパターン上に形成された前記有機物材料からなる絶縁膜との間に、Cr薄膜を形成したことを特徴とする磁気インピーダンス素子。 - 前記磁性薄膜の上面および側面側を非有機物材料で覆ったことを特徴とする請求項2または3に記載の磁気インピーダンス素子。
- 前記非有機物薄膜は、絶縁性材料を単層または積層で用いることを特徴とする請求項2または4に記載の磁気インピーダンス素子。
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