JP4460108B2 - 光電変換装置用基板の製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、太陽電池などの光電変換装置用の基板に関し、さらに詳しくは、光電変換装置の光電変換効率を改善するために、高い光透過率と低い光反射率を有する光電変換装置用基板に関する。
【0002】
【従来の技術】
太陽電池などの光電変換装置には、透明導電膜(透明電極)を備えたガラス板が用いられる場合がある。薄膜型光電変換装置は、例えば、ガラス板上に、酸化錫を主成分とする透明導電膜、シリコン系光電変換層、アルミニウムなどからなる裏面電極を、この順に形成して製造される。ガラス板として、安価で大量に供給されているソーダライムガラスを用いる場合には、ガラス板から透明導電膜へのアルカリ成分の拡散を防止するために、ガラス板と透明導電膜との間に、バリア膜が形成されることもある。バリア膜としては、酸化シリコン膜が多用される。
【0003】
透明導電膜としては、フッ素をドープした酸化錫(以下、「SnO2:F」という)膜が多用されている。この膜は、錫をドープした酸化インジウム(ITO)膜よりも耐プラズマ性能などの化学的安定性に優れており、プラズマCVD法が適用される光電変換層の成膜時にも劣化が少ない。光電変換層へと光を取り込み、透明電極ともなる透明導電膜には、高い光透過率と高い導電性とを兼ね備えていることが望まれる。このため、特開平1−259572号公報には、SnO2:F膜の光透過率を改善するために、錫原料から膜中に取り込まれる塩素を低減させることが提案されている。
【0004】
透明導電膜を備えたガラス板は、建築物の窓ガラスにも用いられている。透明導電膜を形成したガラス板は、いわゆるLow−Eガラスとして、建築物の開口部からの熱の流出を抑制する。この利用分野においては、窓ガラスとして自然な外観を備えていることが重視される。酸化錫膜は、この分野においても代表的な透明導電膜の一つであるが、開口部からの熱損失の抑制に有効な膜厚に形成すると、透過光の干渉色(光彩)が問題となる。このため、特公平3−72586号公報には、ガラス板と透明導電膜との間に、2層の中間層を形成することが開示されている。この公報には、具体的には、ガラス板側から順に、厚さ約18nmの酸化錫膜と、厚さ約28nmのシリコン−酸化シリコン混合膜とを形成し、さらにこれらの膜の上に透明導電膜として、厚さ約200nmのSnO2:F膜を形成した膜構成が開示されている。上記公報では、窓ガラスとしての用途から、「現在の商業生産の殆どすべては前記光彩色を示す約0.1〜0.3ミクロンの厚さ範囲のフィルムを含んでいる」ことが指摘され、主として、この範囲の厚さを有する透明導電膜の無彩色化が検討されている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
上記のように、光電変換装置用基板の透明導電膜には、高い光透過率と高い導電性との両立が望まれているが、透明導電膜自体を改善することだけでは、光電変換装置の光電変換効率の向上にも限界がある。特公平3−72586号公報に記載のように、建築用窓ガラスの分野では、ガラス板と透明導電膜との間に複数の膜を挟み込むことも提案されている。しかしながら、ガラス板と透明導電膜との間の多層膜により、光電変換装置用基板として求められる特性を向上させることについては未だ検討されていない。
【0006】
そこで、本発明は、ガラス板と透明導電膜との間に複数の膜を形成した膜構成を採用し、この膜構成により、光電変換装置の光電変換効率を向上させる光電変換装置用基板を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するため、本発明では、
ガラス板上に、高屈折率膜、低屈折率膜および透明導電膜をこの順に形成した光電変換装置用基板の製造方法であって、
前記光電変換装置用基板は、
前記高屈折率膜が酸化錫膜であってその屈折率が前記ガラス板の屈折率よりも高く、前記低屈折率膜の屈折率が1.4以上1.8以下であって前記高屈折率膜の屈折率および前記透明導電膜の屈折率よりも低く、
前記高屈折率膜が表面に凹凸を有する多結晶膜であってその膜厚が28nm以上60nm以下であり、前記低屈折率の膜厚が10nm以上50nm以下であり、
前記透明導電膜が、フッ素をドープした酸化錫膜であるとともに、その膜厚が400nm以上1000nm以下であってその表面抵抗率が5Ω/□以上20Ω/□以下であり、
前記高屈折率膜、前記低屈折率膜および前記透明導電膜を、前記ガラス板を製造するフロート法におけるガラスリボン上に錫フロート槽内に配置したコータを用いて成膜する、
ことを特徴とする光電変換装置用基板の製造方法とした。
【0008】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好ましい実施形態について図面を参照しながら説明する。図1は、本発明による光電変換装置用基板の一形態の断面図である。ガラス板5上に、高屈折率膜1、低屈折率膜2および透明導電膜3がこの順に形成されている。以下、各膜について説明する。
【0009】
透明導電膜としては、酸化錫を主成分とする膜、具体的には、フッ素などの不純物をドープした酸化錫膜が多用される。この透明導電膜の膜厚は、太陽電池など光電変換装置用基板として用いるためには、必要な導電性を確保するために、概略、400nm以上1000nm以下、好ましくは500nm以上1000nm以下の範囲とされる。
【0010】
上記光電変換装置用基板において、高屈折率膜と低屈折率膜とは、透明導電膜の膜厚が上記範囲にあることを前提として、光電変換装置の光電変換効率を向上させるような膜厚と屈折率とを備えている。本発明者による光学的計算と後述する実施例に記載したような実測との結果、高屈折率膜の厚さは28nm以上60nm以下が好ましく、屈折率は1.7以上2.7以下が好ましいことが確認された。同様に、低屈折率膜の厚さは10nm以上50nm以下が好ましく、屈折率は1.4以上1.8以下が好ましい。
【0011】
高屈折率膜の材料としては酸化錫を用いる。一方、低屈折率膜の材料としては、例えば、酸化シリコン、酸化アルミニウム、酸炭化シリコン(SiOC)およびこれらの混合物から選ばれる少なくとも一つを用いることができる。
【0012】
また、高屈折率膜は、表面に凹凸を有する多結晶膜として形成する。この凹凸は、膜界面における光散乱をもたらし、入射した光の反射を抑制する。このような光の閉じこめ効果により、基板に入射する光の利用率は向上する。この高屈折率膜の凹凸は、膜厚が大きいほうが顕著となる傾向にある。このような観点からも、光電変換装置用基板では、例えば建築用窓ガラスとして用いられる場合よりも、ガラス板に接して形成する高屈折率膜を上記程度に厚膜化すると有利である。
【0013】
基板の光透過特性を向上させるためには、高屈折率膜と低屈折率膜とを、その膜厚の合計が40nm以上70nm以下となるように形成することが好ましい。また、これらの膜の膜厚は、透明導電膜の膜厚に応じてさらに細かく調整することができる。
【0014】
例えば、透明導電膜の膜厚が400nm以上700nm未満である場合には、高屈折率膜の膜厚は22nm以上40nm以下、低屈折率膜の膜厚は14nm以上36nm以下、両膜厚の和は40nm以上60nm以下が好適である。また例えば、透明導電膜の膜厚が700nm以上850nm未満である場合には、高屈折率膜の膜厚は22nm以上60nm以下、低屈折率膜の膜厚は10nm以上40nm以下、両膜厚の和は40nm以上70nm以下が好適である。また例えば、透明導電膜の膜厚が850nm以上1000nm以下である場合には、高屈折率膜の膜厚は22nm以上45nm以下、低屈折率膜の膜厚は12nm以上36nm以下、両膜厚の和は40nm以上70nm以下が好適である。
【0015】
SnO2:F膜は、フッ素以外に他の微量成分を含んでいても構わない。例えば、導電性を向上させるために、アンチモンを添加してもよい。また、この膜には、シリコン、アルミニウム、亜鉛、銅、インジウム、ビスマス、ガリウム、ホウ素、バナジウム、マンガン、ジルコニウムなどが含まれていても構わない。ただし、これら微量成分の濃度は0.02重量%以下が好ましい。また、SnO2:F膜には、錫原料中から塩素が取り込まれる場合が多い。この塩素は、光透過率を低下させる原因となるため、0.4重量%以下が好ましい。
【0016】
透明導電膜のシート抵抗値は、具体的には、5Ω/スクエア(Ω/□)以上20Ω/スクエア以下とする
【0017】
なお、ガラス板としては、安価で大量に供給されているソーダライムシリカガラス(屈折率約1.5)を用いればよい。このガラス板は、フロート法により製造され、極めて平滑な表面を有する。その厚さは、特に限定されないが、好ましくは0.5mm以上5mm以下である。
【0018】
本発明による光電変換装置用基板は、特に太陽電池用基板として好適である。アモルファスシリコン太陽電池用基板として用いる場合には、透明導電膜上に、光電変換層としてアモルファスシリコン膜が形成される。アモルファスシリコン膜は、例えば、水素ガスで希釈されたモノシランを原料とし、グロー放電を用いたプラズマCVD法により成膜される。アモルファスシリコン層は、通常、pin接合が形成されるように適宜メタン、ジボラン、フォスフィンなどをシリコン膜に添加しながら、透明導電膜側から順に、p層、i層、n層を成膜することにより形成される。さらに、アモルファスシリコン層上には、アルミニウム膜などからなる金属電極層が形成される。もっとも、アモルファスシリコン膜に代えて、結晶シリコン膜を光電変換層として形成しても構わない。
【0019】
本発明の各膜の成膜には、スパッタリング法、イオンプレーティング法、真空蒸着法などのいわゆる物理蒸着法ではなく、化学蒸着法である化学気相法(以下、「CVD法」という)を用いる。物理蒸着法では、膜厚の均一性には優れているが、量産時の製造効率や被膜の耐久性を考慮すると、原料の熱分解酸化反応を伴う化学蒸着法が優れている。
【0020】
化学蒸着法であるスプレー法としては、金属化合物を含む溶液を高温のガラス板上に噴霧する溶液スプレー法、上記溶液に代えて金属化合物の微粒子を液体に分散させた分散液を用いる分散液スプレー法、上記溶液に代えて金属化合物の粉末を用いる粉末スプレー法などが挙げられる。これに対し、CVD法では、少なくとも錫を含む被膜形成用の蒸気が用いられる。
【0021】
スプレー法は、比較的簡便な装置で実施できるという利点があるが、液滴の制御や排気されるべき生成物(反応生成物、未分解生成物など)の制御が難しいために均一な膜厚を得にくい。また、ガラスの歪みも大きくなる。このため、上記各膜の成膜法としては、総合的にはCVD法が優れている。
【0022】
CVD法による導電膜の成膜は、所定の大きさに切断し、加熱したガラス板にガス状の原料が吹きつけることにより行うことができる。例えば、ガラス板をメッシュベルトに乗せて加熱炉を通過させる間に原料を供給し、高温のガラス板の表面で原料を反応させれば、導電膜を成膜できる。
【0023】
しかし、CVD法による成膜は、フロート法によるガラス製造工程における高温のガラスリボン上に膜を成膜して、ガラス成形時の熱エネルギーを利用することが好ましい。この好ましい製法は、大面積の透明導電膜付きガラス板の製造には有利であり、屋根材用などとして大面積のガラス板への成膜も求められる太陽電池用基板の製造には特に適している。また、CVD法を錫フロート槽空間で行えば、軟化点以上の温度を有するガラス表面で成膜が行えるので、膜の性能および成膜反応速度、成膜反応効率の向上が可能となる。さらに、ピンホール(膜抜け)などの欠点も抑制される。
【0024】
フロート法におけるガラスリボン上にCVD法により成膜するための装置の一形態を図2に示す。図2に示したように、この装置では、溶融炉(フロート窯)11から錫フロート槽12内に流れ出し、錫浴15上を帯状に移動するガラスリボン10の表面から所定距離を隔て、所定個数のコータ16(図示した形態では3つのコータ16a,16b,16c)が配置されている。コータの数や配置は、形成する被膜の種類や厚さに応じて適宜選択される。これらのコータからは、ガス状の原料が供給され、ガラスリボン10上に連続的に被膜が形成されていく。このように、複数のコータを利用すれば、ガラスリボン10上に、下地膜となる高屈折率膜および低屈折率膜、さらには透明導電膜を、CVD法により連続的に形成することができる。各膜が形成されたガラスリボン10は、ローラ17により引き上げられて、徐冷窯13へと送り込まれる。なお、徐冷窯13で徐冷されたガラスリボンは、下流側の切断装置により切断され、所定の大きさのガラス板となる。
【0025】
なお、ガラスリボン上への成膜は、CVD法とスプレー法とを併用して行ってもよい。例えば、CVD法とスプレー法とをこの順に実施することにより(例えば、錫フロート槽空間内においてCVD法による成膜を実施し、錫フロート槽空間よりガラスリボン進行方向下流側においてスプレー法による成膜を実施することにより)、所定の積層構造を実現してもよい。
【0026】
CVD法を用いる場合の錫原料としては、四塩化錫、ジメチル錫ジクロライド、ジブチル錫ジクロライド、テトラメチル錫、テトラブチル錫、ジオクチル錫ジクロライド、モノブチル錫トリクロライドなどが挙げられ、特にジメチル錫ジクロライド、モノブチル錫トリクロライドが好ましい。また、錫原料から酸化錫を得るために用いられる酸化原料としては、酸素、水蒸気、乾燥空気などが挙げられる。また、フッ素原料としては、フッ化水素、トリフルオロ酢酸、ブロモトリフルオロメタン、クロロジフルオロメタンなどが挙げられる。また、アンチモンを添加する場合には、五塩化アンチモン、三塩化アンチモンなどを用いてもよい。
【0027】
低屈折率膜として好適な酸化シリコン膜をCVD法で成膜する場合のシリコン原料としては、モノシラン、ジシラン、トリシラン、モノクロロシラン、ジクロロシラン、1,2-ジメチルシラン、1,1,2-トリメチルジシラン、1,1,2,2-テトラメチルジシラン、テトラメチルオルソシリケート、テトラエチルオルソシリケートなどが挙げられる。また、この場合の酸化原料としては、酸素、水蒸気、乾燥空気、二酸化炭素、一酸化炭素、二酸化窒素、オゾンなどが挙げられる。なお、シランを使用した場合にガラス表面に到達するまでにシランの反応を防止する目的で、エチレン、アセチレン、トルエンなどの不飽和炭化水素ガスを併用しても構わない。
【0028】
同じく低屈折率膜として好適な酸化アルミニウム膜をCVD法で成膜する場合のアルミニウム原料としては、トリメチルアルミニウム、アルミニウムトリイソポプロポキサイド、塩化ジエチルアルミニウム、アルミニウムアセチルアセトネート、塩化アルミニウムなどが挙げられる。また、この場合の酸化原料としては、酸素水蒸気、乾燥空気などが挙げられる。
【0029】
【実施例】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例により制限されるものではない。
【0030】
参照例1)
一辺が10cmの正方形となるように切断した厚さ3mmのフロートガラス(ソーダライムシリカガラス)板を洗浄した後に乾燥させた。このガラス板の一方の表面に、大気開放型の搬送炉を用い、CVD法により2層の下地膜(高屈折率膜と低屈折率膜)と透明導電膜とを順次成膜した。なお、ガラス板は、炉内をメッシュベルトを用いて搬送し、炉内で約570℃まで加熱してから上記各膜を成膜した。
【0031】
・酸化錫膜(高屈折率膜)の成膜
モノブチル錫トリクロライド(蒸気)、酸素および窒素からなる混合ガスを供給し、ガラス板上に、膜厚が28nmの酸化錫膜を成膜した。
・酸化シリコン膜(低屈折率膜)の成膜
モノシラン、エチレン、酸素および窒素からなる混合ガスを供給し、酸化錫膜上に、膜厚が24nmの酸化シリコン膜を成膜した。
・SnO2:F膜(透明導電膜)の成膜
モノブチル錫トリクロライド(蒸気)、酸素、窒素およびフッ化水素(蒸気)からなる混合ガスを供給し、酸化シリコン膜上に、膜厚が620nmのSnO2:F膜を成膜した。なお、各膜の成膜に用いた混合ガスの組成を表1に示す。
【0032】
(表1)
――――――――――――――――――――――――――――――
膜の種類 混合ガスの組成(体積比)
2 /O2 /HF/Sn/Si/C24
――――――――――――――――――――――――――――――
酸化錫膜 6 4 0 1 0 0
酸化シリコン膜 200 4 0 0 1 6
SnO2:F膜 6 4 1 4 0 0
――――――――――――――――――――――――――――――
なお、表1では、モノブチル錫トリクロライドをSn、モノシランをSiと略記した。
【0033】
参照例2)
参照例1と同様にして、ガラス板上に、膜厚が32nmの酸化錫膜、膜厚が約22nmの酸化シリコン膜、および膜厚が720nmのSnO2:F膜を順次成膜した。
【0034】
参照例3)
参照例1と同様にして、ガラス板上に、膜厚が30nmの酸化錫膜、膜厚が約24nmの酸化シリコン膜、および膜厚が900nmのSnO2:F膜を順次成膜した。
【0035】
参照例4)
参照例1と同様にして、ガラス板上に、膜厚が23nmの酸化錫膜、膜厚が約26nmの酸化シリコン膜、および膜厚が450nmのSnO2:F膜を順次成膜した。
【0036】
(比較例1)
酸化錫膜と酸化シリコン膜との成膜を省略した点を除いては、参照例1と同様にして、ガラス板上に、直接、膜厚が620nmのSnO2:F膜を成膜した。
【0037】
(比較例2)
酸化錫膜の成膜を省略した点を除いては、参照例1と同様にして、ガラス板上に、膜厚が30nmの酸化シリコン膜、および膜厚が620nmのSnO2:F膜を順次成膜した。
【0038】
以上より得られた透明導電膜付きガラス板について、各膜を形成した表面とは反対側のガラス板の表面を入射側として、JIS R3106−1998に従って、可視光透過率および可視光反射率を測定した。結果を表2に示す。
【0039】
(表2)
―――――――――――――――――――――――――――――
可視光透過率(%) 可視光反射率(%)
―――――――――――――――――――――――――――――
参照例1 85.59 6.63
参照例2 85.52 5.74
参照例3 84.81 4.69
参照例4 85.8 6.89
―――――――――――――――――――――――――――――
比較例1 84.88 7.45
比較例2 84.73 7.62
―――――――――――――――――――――――――――――
【0040】
(比較例3〜6)
酸化錫膜と酸化シリコン膜との膜厚を変更する一方、SnO2:F膜の膜厚を参照例1〜4のいずれかと同一となるように調整して、ガラス板上に各膜を成膜した。比較例3〜6のいずれにおいても、酸化錫膜の膜厚は18nm、酸化シリコン膜の膜厚は28nmとした。また、成膜の方法は、参照例1と同様とした。こうして得た透明導電膜付きガラス板について、上記と同様にして可視光透過率および可視光反射率を測定した。表3に、参照例1〜4と比較例3〜6とから得られた数値を、透明導電膜の膜厚ごとに対比して示す。
【0041】
(表3)
―――――――――――――――――――――――――――――
可視光透過率(%) 可視光反射率(%)
―――――――――――――――――――――――――――――
参照例1 85.59 6.63
比較例3 85.50 6.75
―――――――――――――――――――――――――――――
参照例2 85.52 5.74
比較例4 85.28 6.02
―――――――――――――――――――――――――――――
参照例3 84.81 4.69
比較例5 84.62 4.93
―――――――――――――――――――――――――――――
参照例4 85.8 6.89
比較例6 85.7 6.97
―――――――――――――――――――――――――――――
【0042】
比較例3〜6で適用した膜厚は、透明導電膜の光彩を解消するために、特公平3−72586号公報の実施例に開示されている膜厚に相当する。この公報では、上記膜厚を膜厚200nmのSnO2:F膜の光彩を解消するために適用している。厚さ200nm程度のSnO2:F膜は、建築用窓ガラスの熱放射を低減するためには適している。しかし、光電変換装置用基板では、透明電極として用いるために、SnO2:F膜をさらに厚膜化して低抵抗化する必要がある。また、建築用窓ガラスとして用いるためには外観が特に重視されるが、太陽電池などに用いるためには、良好な光透過特性や反射特性がより重視される。したがって、ガラス板とSnO2:F膜との間に適用する膜も、用途およびSnO2:F膜の膜厚の相違に応じて適切に制御することが求められる。
【0043】
上記参照例1〜4では、酸化錫膜と酸化シリコン膜の膜厚を比較例よりも適切な範囲とすることによって、透明導電膜の膜厚を同一としながら、光学特性上、0.1〜0.2%程度の改善を実現している。なお、可視光反射率を低下させた要因の少なくとも一部は、多結晶膜である酸化錫膜の厚膜化によって膜の凹凸が大きくなったことにあると推察される。
【0044】
参照例5、実施例1
下では、上記で説明したようなガラスリボン上への成膜装置を用いて成膜した。なお、錫フロート槽空間内が槽外よりもやや高圧に維持されるように、錫フロート槽空間内には98体積%の窒素と2体積%の水素とを供給し、槽内を非酸化性雰囲気に保持した。溶融窯から錫フロート槽内に溶融した通常の板ガラス組成のソーダライムシリカガラス(無色)を流し込み、厚さ4mmのガラスリボンに成形した。成膜後、ガラスリボンは徐冷窯で徐冷し、さらに下流側で所定の大きさに切断した。また、ガラスリボンの温度を、パイロメーターを用い、膜が形成される部分よりもややガラス搬送上流側の位置で測定した。
【0045】
ガラスリボン上への成膜は、以下の手順で行った。参照例5では、まず、最上流側に位置するコータから、ジメチル錫ジクロライド、酸素、ヘリウムおよび窒素からなる混合ガスを供給し、ガラスリボン上に、膜厚26nmの酸化錫膜を成膜した。続いて、下流側のコータから、モノシラン、エチレン、酸素および窒素からなる混合ガスを供給し、膜厚25nmの酸化シリコン膜を成膜した。引き続いて、さらに下流側のコータから、ジメチル錫ジクロライド(蒸気)、酸素、水蒸気、窒素およびフッ化水素からなる混合ガスを供給し、酸化シリコン膜上に、膜厚450nmのSnO2:F膜を成膜した。なお、最上流側のコータ直前のガラスリボンの温度は700℃であった。
【0046】
実施例では、まず、最上流側に位置するコータから、参照例5と同様の混合ガスを供給し、ガラスリボン上に、膜厚28nmの酸化錫膜を成膜した。続いて、下流側のコータから、モノシラン、エチレン、酸素および窒素からなる混合ガスを供給し、膜厚20nmの酸炭化シリコン(SiOC)膜を成膜した。ここでは、エチレンの含有率を増やして膜に炭素を導入した。引き続いて、さらに下流側のコータから、参照例5と同様の混合ガスを供給し、酸炭化シリコン膜上に、膜厚680nmのSnO2:F膜を成膜した。ここでも、最上流側のコータ直前のガラスリボンの温度は700℃であった。
【0047】
表4に、参照例5、実施例1から得られた透明導電膜付きガラス板の特性を示す。
【0048】
(表4)
―――――――――――――――――――――――――――――
可視光透過率(%) 可視光反射率(%)
―――――――――――――――――――――――――――――
参照例5 85.7 7.04
実施例 85.5 6.42
―――――――――――――――――――――――――――――
【0049】
一般に、SnO2:F膜では、特性上、光透過率と導電性との双方を向上させることが難しく、むしろ、一方の特性の向上が他方の特性の劣化をもたらすことが多い。したがって、透明導電膜の導電性を損なわずに光透過特性を向上できる本発明の有する意義は大きい。
【0050】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、ガラス板と透明導電膜との間に、適切な膜厚と屈折率を有する2層の膜を配置することにより、光透過率や光反射率を改善した光電変換装置用基板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明による光電変換装置用基板の一形態を示す断面図である。
【図2】本発明を実施するために用いる装置の構成を示す図である。
【符号の説明】
1 高屈折率膜
2 低屈折率膜
3 透明導電膜
5 ガラス板
10 ガラスリボン
11 溶融炉
12 錫フロート槽
13 徐冷窯
16 コータ
17 ローラ

Claims (2)

  1. ガラス板上に、高屈折率膜、低屈折率膜および透明導電膜をこの順に形成した光電変換装置用基板の製造方法であって、
    前記光電変換装置用基板は、
    前記高屈折率膜が酸化錫膜であってその屈折率が前記ガラス板の屈折率よりも高く、前記低屈折率膜の屈折率が1.4以上1.8以下であって前記高屈折率膜の屈折率および前記透明導電膜の屈折率よりも低く、
    前記高屈折率膜が表面に凹凸を有する多結晶膜であってその膜厚が28nm以上60nm以下であり、前記低屈折率の膜厚が10nm以上50nm以下であり、
    前記透明導電膜が、フッ素をドープした酸化錫膜であるとともに、その膜厚が400nm以上1000nm以下であってその表面抵抗率が5Ω/□以上20Ω/□以下であり、
    前記高屈折率膜、前記低屈折率膜および前記透明導電膜を、前記ガラス板を製造するフロート法におけるガラスリボン上に錫フロート槽内に配置したコータを用いて成膜する、
    ことを特徴とする光電変換装置用基板の製造方法。
  2. 高屈折率膜の膜厚と低屈折率膜の膜厚との和が40nm以上70nm以下である請求項1に記載の光電変換装置用基板の製造方法。
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