JP4458496B2 - 筒内噴射式内燃機関、筒内噴射式内燃機関用ピストン、筒内噴射式内燃機関用ピストンの製造方法 - Google Patents
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Description
(1)すなわち、本発明の筒内噴射式内燃機関用ピストンは、内燃機関のシリンダブロックのシリンダ内を往復動可能なピストン本体部と、該シリンダブロック上のシリンダヘッドに設けた燃料噴射弁から該シリンダ内へ噴射された液体燃料が衝突し得る燃料衝突域の少なくとも一部であって周囲よりも熱伝導率の低い低熱伝導域を形成する低熱伝導部材を該ピストン本体部の頂部に鋳込んだピストン頂部と、からなる筒内噴射式内燃機関用ピストンであって、
前記ピストン頂部は、アルミニウム合金製鋳物からなり、前記低熱伝導部材は、低熱伝導基材と、該低熱伝導基材の片面側で前記ピストン本体部に鋳込まれる鋳込面の少なくとも一部に付着したアルミナ(Al 2 O 3 )微粒子を含むコーティング材からなるコーティング層と、からなり、
該コーティング層には、前記コーティング材が残存又は共存した状態で空隙が形成されていることを特徴とする。
先ず、アルミナ微粒子は、いわゆるセラミック微粒子であり、それ自体がアルミニウム合金や鉄合金などに比べて熱伝導率が低い。このため、アルミナ微粒子からなるコーティング層自体がいわゆる断熱層となり、低熱伝導部材とピストン本体(アルミニウム合金製の鋳物部分)との間の熱伝達を妨げ、低熱伝導部材の温度が上昇し易くなる。
従って、この空隙層による断熱性が低熱伝導基材自体やコーティング層自体の断熱性に加わることで、結局、低熱伝導部材からピストン本体への熱伝達が従来になく確実に大きく阻害されることとなる。この結果、液体燃料の衝突する低熱伝導部材は、従来よりも遙かに、しかも確実に、周囲よりも高温になり易くなり、液体燃料の霧化または気化が促進され、ひいては、筒内噴射式内燃機関の燃費や排ガス浄化性能の向上が図られる。
しかも、本発明の場合、実質的にはコーティング層を低熱伝導基材の鋳込面に設けるだけであるから、コスト高となるような加工等も不要であり、低コスト化を図りやすい。
〈筒内噴射式内燃機関用ピストンの製造方法〉
低熱伝導基材の少なくとも片面側の一部にアルミナ微粒子を含むコーティング材を付着させる付着工程と、該コーティング材の付着したコーティング面をアルミニウム合金の溶湯に接触させつつ鋳造して、前記低熱伝導部材が鋳込まれて該低熱伝導部材と前記ピストン頂部との間に前記コーティング材が残存又は共存した状態で空隙が形成されたコーティング層を設けたアルミニウム合金製の前記ピストン頂部を得る鋳込工程と、を備えることを特徴とする筒内噴射式内燃機関用ピストンの製造方法であってもよい。
さらに本発明は、単なるピストンとしてのみならず、それを用いた筒内噴射式内燃機関自体としても把握できる。すなわち、本発明は、シリンダを有するシリンダブロックと、
該シリンダブロック上に設けたシリンダヘッドと、該シリンダヘッドに設けた燃料噴射弁と、上述した本発明の筒内噴射式内燃機関用ピストンと、を備えたことを特徴とする筒内噴射式内燃機関であってもよい。
本発明は、上述した構成に加えて、次に列挙する構成中から任意に選択した一つまたは二つ以上がさらに付加されるものであると好適である。なお、下記から選択された構成は、複数の発明に重畳的かつ任意的に付加可能であることを断っておく。
(i)前記低熱伝導基材は、全体を100質量%としたときに、マンガン(Mn):5〜35質量%と、炭素(C):0.5〜1.5質量%と、残部:鉄(Fe)および不可避不純物若しくは改質元素とからなる。
(ii)低熱伝導基材の鋳込面の少なくとも一部は凹凸状である。
(iii)アルミナ微粒子は、粒径が5〜50μmである。
(iv)コーティング層は、厚みが0.01〜0.30mmである。
(v)コーティング層は、アルミナ微粒子の存在割合が体積率で5〜100%である。
(vi)前記低熱伝導基材は、Ti合金またはステンレス(Fe−Cr合金)からなる。
(i)前記付着工程は、前記コーティング材を溶媒に分散させたコーティング溶液に前記低熱伝導基材の片面側の少なくとも一部を浸漬する浸漬工程である。
(ii)前記付着工程は、前記コーティング材を溶媒に分散させたコーティング溶液を前記低熱伝導基材の少なくとも片面側の一部に塗布する塗布工程である。
(iii)前記付着工程は、さらに、浸漬または塗布されたコーティング溶液を乾燥させる乾燥工程を有する。
(iv)前記溶媒は水またはアルコールである。
(v)前記コーティング溶液の配合は、コーティング材の溶媒に対する質量比(コーティング材/溶媒)が1〜2である。
(vi)コーティング材は、アルミナ粉末またはアルミナを含有するアルミナ含有粘土の一種以上からなる。
(vii)コーティング材は、アルミナ粉末とアルミナを含有するアルミナ含有粘土との混合物からなる。
(viii)前記混合物は、アルミナ含有粘土のアルミナ微粉末に対する質量比(アルミナ含有粘土/アルミナ微粉末)が0〜80である。
(ix)アルミナ含有粘土は、アルミナ−シリカ水和物である。
(x)前記乾燥工程の乾燥温度は、50℃以上である。
筒内噴射式内燃機関は、ガソリンエンジンは勿論のことディーゼルエンジンであってもよい。
(1)本発明に係る低熱伝導基材は、Fe−Mn−C系材料の他、ステンレス系材料、Ti系材料等でもよい。低熱伝導基材は、ピストンを構成するアルミニウム合金よりも熱伝導率が低い材料であると好ましい。もっとも、本発明の場合は、コーティング層による断熱効果が大きいため、必ずしも、低熱伝導基材の熱伝導率までは問わない。
低熱伝導基材は、高速で往復動すると共に大きな爆発力が作用するピストンに鋳込まれるものであるため、そのピストンの機能に支障をきたさないものでなければならない。具体的には、例えば、必要な機械的強度や剛性を備えると共に、繰り返される冷熱サイクルにも耐え得る熱疲労強度などを備えることも低熱伝導基材にとり必要である。特に、後者の観点から、低熱伝導基材の線膨張係数がピストンの主材料であるアルミニウム合金の線膨張係数に近似していると好ましい。さらに、低熱伝導基材は、コーティング層部分を除き、アルミニウム合金との密着性に優れる鋳造性(鋳込性)を有すると好ましい。
先ず、Mn量が5〜35質量%であると、所望の熱伝導率および線膨張係数が安定して得られる。これに対してMnが過少では熱伝導率が急増して好ましくない。Mnが過多では線膨張係数が低下して所望の線膨張係数が得られない。Mnが7〜30質量%であるとより好ましい。
(1)コーティング材
コーティング材はアルミナ微粒子を含むものである。このコーティング材を低熱伝導基材の片面側に付着させることでコーティング層が形成される。
ちなみにアルミナ含有粘土は、例えば、アルミナとシリカと水との混和物であるアルミナ−シリカ水和物(例えば、Al 2 O 3 ・2SiO 2 ・2H 2 O、2SiO 2 ・4H 2 Oなど)である。なお、コーティング材は、これら粉末や粘土以外にも、低熱伝導基材への付着に必要となるバインダー等を含んでいても良い。
付着工程は、コーティング材を低熱伝導基材に付着させる工程である。具体的な方法は問わないが、例えば、コーティング材を溶媒に分散させたコーティング溶液に低熱伝導基材を浸漬する浸漬法、そのコーティング溶液を低熱伝導基材へ塗布する塗布法などがある。さらに塗布法の場合は、刷毛塗り、噴霧(スプレー)などにより行うことができる。
コーティング材と溶媒との配合割合は、付着工程およびその後の乾燥工程を効率よく行える範囲であれば良い。例えば、コーティング材の溶媒に対する質量割合(コーティング材/溶媒)は、1〜2であると好ましい。
乾燥工程は、低熱伝導基材の表面に塗布されたコーティング溶液を乾燥させる工程である。これにより、低熱伝導基材の表面には主にアルミナ微粒子からなるコーティング層が形成される。
乾燥温度や乾燥時間は、コーティング溶液の組成や付着量にも依るため、一概に特定することは難しい。もっとも、本発明者が調査研究したところ、比較的高温・短時間で乾燥させた方が、所望する空隙以外の余計な膨れ等の発生を抑制し易い。
そこで例えば、乾燥温度は300〜600℃、乾燥時間は20〜60分間程度とするのが良い。また、乾燥させる雰囲気は蒸発した溶媒成分が排気される環境であれば、大気雰囲気中でも不活性雰囲気中でも良い。
〈筒内噴射式内燃機関〉
本発明の筒内噴射式内燃機関の一例である、ガソリンを燃料とする筒内噴射式火花点火機関1(以下、単に「エンジン1」という。)を図1に示した。
エンジン1は、シリンダブロック30と、シリンダブロック30上にガスケット(図略)を介してヘッドボルト(図略)で固定されたシリンダヘッド40と、シリンダブロック30のシリンダ31内に往復動可能に嵌挿されたピストン10とからなる。
(1)低熱伝導基材の製造
低熱伝導部材20を構成する低熱伝導基材は、Fe−Mn−C合金系の焼結材からなる。この焼結材は次のようにして製造される。
こうして得られた粉末成形体を、1atmのN 2 からなる焼結雰囲気中で、1250℃x30分間で焼結させた。こうして、Fe−25%Mn−1%C合金(単位:質量%)の焼結体からなる低熱伝導基材を得た。
得られた低熱伝導部材の片面側に、コーティング材を溶媒に分散させたコーティング溶液を塗布した。コーティング材は、アルミナ粉末(平均粒径50μm、嵩密度0.7〜1.2g/cm3)とアルミナ含有粘土であるアルミナ−シリカ水和物(木節粘土(キブシネンド))とを4:1の質量割合で配合したものである。このコーティング材をエタノール中に分散させてコーティング溶液を調製した。コーティング材とエタノールの配合は、質量割合で3:2とした。
図2(a)から明らかなように、コーティング処理された低熱伝導部材が鋳込まれた実施例の場合は、低熱伝導基材とピストン本体との間に薄いほぼ均一な空隙層(またはコーティング層)が形成されていることが分かる。この空隙層は単なる空洞ではなく、コーティング材が残存または共存した状態となっていた。なお、アルミナ微粒子がどの程度存在するかは、コーティング処理の程度や鋳造中の溶湯の流れ方などにより異なると思われる。
ちなみに、低熱伝導基材の内でコーティング層のない部分は、低熱伝導基材とアルミニウム合金とが密着接合してる。
10 ピストン
11 ピストン頂部
12 ピストン本体部
111 燃料衝突域
14 空隙層
20 低熱伝導部材
21 低熱伝導域
22 コーティング層
30 シリンダブロック
31 シリンダ
40 シリンダヘッド
50 インジェクタ(燃料噴射弁)
Claims (3)
- 内燃機関のシリンダブロックのシリンダ内を往復動可能なピストン本体部と、該シリンダブロック上のシリンダヘッドに設けた燃料噴射弁から該シリンダ内へ噴射された液体燃料が衝突し得る燃料衝突域の少なくとも一部であって周囲よりも熱伝導率の低い低熱伝導域を形成する低熱伝導部材を該ピストン本体部の頂部に鋳込んだピストン頂部と、からなる筒内噴射式内燃機関用ピストンであって、
前記ピストン頂部は、アルミニウム合金製鋳物からなり、
前記低熱伝導部材は、低熱伝導基材と、該低熱伝導基材の片面側で前記ピストン本体部に鋳込まれる鋳込面の少なくとも一部に付着したアルミナ(Al 2 O 3 )微粒子を含むコーティング材からなるコーティング層と、からなり、
該コーティング層には、前記コーティング材が残存又は共存した状態で空隙が形成されていることを特徴とする筒内噴射式内燃機関用ピストン。 - シリンダを有するシリンダブロックと、
該シリンダブロック上に設けたシリンダヘッドと、
該シリンダヘッドに設けた燃料噴射弁と、
請求項1に記載の筒内噴射式内燃機関用ピストンと、
を備えたことを特徴とする筒内噴射式内燃機関。 - 内燃機関のシリンダブロックのシリンダ内を往復動可能なピストン本体部と、該シリンダブロック上のシリンダヘッドに設けた燃料噴射弁から該シリンダ内へ噴射された液体燃料が衝突し得る燃料衝突域の少なくとも一部であって周囲よりも熱伝導率の低い低熱伝導域を形成する低熱伝導部材を該ピストン本体部の頂部に鋳込んだピストン頂部と、からなる筒内噴射式内燃機関用ピストンの製造方法であって、
低熱伝導基材の少なくとも片面側の一部にアルミナ微粒子を含むコーティング材を付着させる付着工程と、
該コーティング材の付着したコーティング面をアルミニウム合金の溶湯に接触させつつ鋳造して、前記低熱伝導部材が鋳込まれて該低熱伝導部材と前記ピストン頂部との間に前記コーティング材が残存又は共存した状態で空隙が形成されたコーティング層を設けたアルミニウム合金製の前記ピストン頂部を得る鋳込工程と、
を備えることを特徴とする筒内噴射式内燃機関用ピストンの製造方法。
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