しかしながら、従来のアンカー金物は、センターピースとこれを挟み込む一対のサイドピースとの3ピース構造物でかつ1本のねじをやや大きめの貫通孔を貫通させて連結する構造であるため、単独でそれぞれのピース・部材がねじを中心に回転しあるいは軸平面で揺動することから、陶板側の一対の平行な定着用溝に左右のサイドピースを爪で引っかけてからねじの締め付けにより互いに引っ張り合って左右のサイドピースの間隔を狭めることで陶板に固定する場合に、左右のサイドピース間での捩れや歪みが起こりやすく、陶板への固定位置や固定姿勢などが安定しない問題がある。そして、アンカー金物が陶板に対して正確に位置決めできないときには、それらの間を連結するネジが水平面内あるいは垂直面内において傾斜して、建物躯体側に取り付けられるセンターピースの角度引いては建物躯体に対する陶板の角度が微妙にずれてくる施工上の問題が伴う。さらに、センターピースと陶板の裏面との間のクリアランスも一定しないため、建物躯体側に取り付けられるセンターピースに対する陶板のがたつきが大きくなる虞もある。
しかも、センターピースと一対のサイドピースとの3部品を1本のねじを貫通させるだけで連結するため、互いにがたつきさらには向きがばらばらになってしまい、陶板に組み付ける際に一々各ピースの向きや位置合わせが必要となって、作業に手間がかかってしまう問題がある。加えて、部品点数が多くなるため、製造コスト並びに管理コストがかかる問題を有している。
また、板を繰り返し逆方向に折り返すようにして、レ形に曲げ加工して爪を成形するため、鋭角な曲面のコーナを得ることができない。他方、陶板に開けた溝の縁はグラインダー回転砥石などで研削されるため、鋭角なナイフエッジとなる。このため、金物の爪を引っかけてねじを締め上げたときに、爪の根本の曲面のコーナー部分が陶板側のエッジに当たって陶板の定着用溝のエッジを欠いてしまう問題を有している。
また、ねじの締め付けで左右のサイドピースを引き寄せながら陶板側の一対の定着用溝への引っかかり具合を安定させるためには、一定の締め付け力を付与することが望まれる。このため、従来は締め付けの際にトルクレンチを用いることでトルク管理を行うことが必要とされている。
本発明は、2ピース構造のアンカー金具を提供することを目的とする。さらに、本発明は陶板の定着用溝のエッジが欠損するのを防ぎうるアンカー金具を提供することを目的とする。
かかる目的を達成するため、本発明のアンカー金物は、陶板の裏面の一対の平行な定着用溝に引っ掛けられる一対の爪とこの爪の間で陶板の裏面と接する平坦な基板とを有して爪の定着用溝への引っかけにより陶板側に取り付けられる1枚の陶板固定用ピースと、陶板固定用ピースの上に載置され建物躯体側に取り付けられるセンターピースと、陶板固定用ピースとセンターピースとを連結するとともに陶板固定用ピースを変形させて陶板に固定させるための締結具とを備え、陶板固定用ピースの一対の爪の間に締結具の締め付けにより陶板固定用ピースを局所的に変形させて一対の爪の間隔を調整を可能とする塑性変形部を備えるようにしている。
ここで、塑性変形部は、陶板固定用ピースの基板を一方の爪を含む第1の領域と他方の爪を含む第2の領域とに分断するスリットと、該スリットの両端に設けられている連結ブリッジとによって構成され、第1及び第2の領域が連結されて陶板固定用ピースが一体化されることが好ましい。また、塑性変形部は、陶板固定用ピースに陶板に対して直交する一対の垂直壁とこれら垂直壁を連結する陶板と平行な水平壁とを有する溝形の骨格部を両端にそれぞれ備え、この骨格部の水平壁に、該水平壁の中央部分を残して締結具の締め付け方向と直交する方向の前後端からスリットを入れて、残された水平壁部分を連結ブリッジとして構成するようにしても良い。さらには、基板に設けられる塑性変形部と骨格部に設けられる塑性変形部とは併用されるようにしても良い。
また、請求項4記載の発明は、請求項1から3のいずれか1つに記載のアンカー金物において、前記陶板固定用ピースが、前記陶板に対して直交する一対の垂直壁とこれら垂直壁を連結する陶板と平行な水平壁とを有する溝形の骨格部を両端にそれぞれ備えると共に、該骨格部の外側の垂直壁の下端縁が前記陶板の前記定着用溝に嵌入する角度で内側に折り曲げられて前記爪が前記垂直壁と連続的に形成されていることを特徴とするものである。
また、請求項5記載の発明は、請求項1から4のいずれか1つに記載のアンカー金物において、前記陶板固定用ピースの四隅には前記爪よりも外側に突出し、かつ前記基板と同じ高さの平面となるつばが設けられていることを特徴とするものである。
さらに、請求項6記載の発明は、請求項1から5のいずれか1つに記載のアンカー金物において、前記締結具がねじとナットとから成り、前記ナットは前記ねじよりも大径の無ねじの孔を有すと共に外径部がレンチに嵌合される頭部と前記ねじがねじ込まれるねじ孔を有する雌ねじ部とを有し、かつ前記頭部と前記雌ねじ部との境界に縊れ部を有し、前記頭部を介して所定のトルクを超えるトルクがかかったときに前記縊れ部で破断するものである。
請求項1記載のアンカー金物によれば、締結具を締め付けることにより陶板固定用ピースに設けた塑性変形部を潰して爪間隔を調整可能としているので、1ピース構造の陶板固定用ピースでも陶板の定着用溝を挟み付けて陶板を支持可能とすることができる。
また、本発明のアンカー金物によれば、陶板固定用ピースとその上に載置されるセンターピースとの2ピース構造であるため、部品数を少なくすることで製造コスト並びに管理コストを削減することができる。しかも、陶板固定用ピースの上にセンターピースが載置されて締結具で連結されることにより、センターピースが縦方向(ねじ軸周りに)に回転不能に載置されているので、互いにばらばらに動く3ピース構造のアンカー金物に比べて、陶板への固定作業時のアンカー金物の取り扱いが容易となると共に取り付け作業が簡便となり、さらにセンターピースの縦方向へのがたつきも少なくなる。
また、陶板固定用ピースは、一対の爪の間の基板を陶板の裏面と当接させることにより陶板の裏面に対する平行を保ちながら一対の爪を陶板の一対の定着用溝に嵌入させることができる。したがって、締結具の締め付けにより陶板固定用ピースの爪と爪との間隔を調整することで、陶板の定着用溝間のありを一対の爪と基板とで挟み付けることができ、安定した深さで固定することにより施工後の陶板の落下を防ぐことができる。しかも、左右の爪と定着用溝との間のかかり具合に偏りがなくなるので、一方の定着用溝のオーバーハング部分に力が集中することによる欠損などを防ぐことができる。また、陶板固定用ピースの基板の上にセンターピースが載置されて、センターピースと陶板固定用ピースとが一定高さに保たれるため、センターピースを介して建物躯体に取り付けられる陶板の高さが揃い、陶板から成る壁面の仕上がりを良好なものにできる。
また、請求項2記載のアンカー金物によれば、陶板固定用ピースの基板を一方の爪を含む第1の領域と他方の爪を含む第2の領域とに分断するスリットと、該スリットの両端に設けられている連結ブリッジとによって塑性変形部が構成され、第1及び第2の領域が連結されて陶板固定用ピースが一体化されているので、陶板に沿って基板が変形することにより幅調整され、1ピース構造の陶板固定用ピースが陶板に対して平行を保持させて固定できる。
また、陶板固定用ピースの両端に設けられた骨格部の水平壁にスリットを入れて中央部分を残した水平壁を連結ブリッジとする塑性変形部を構成する請求項3記載のアンカー金物によれば、骨格部の変形だけで陶板固定用ピースの幅調整が実施可能であり、陶板固定用ピースの平行が保たれる。特に、基板のほぼ中央に配置された塑性変形部と骨格部に配置された塑性変形部とを併用する場合には、締結具による陶板固定用ピースの幅調整を大きな締め付け力を必要とせずに実施可能となる。
さらに請求項4記載のアンカー金物によれば、骨格部の垂直壁に対し鈍角に折り曲げられた爪の曲げ箇所には、エッジがきれいにでて陶板の定着用溝のエッジと干渉する丸みが発生することがないので、エッジを欠損させる虞がない。
さらに請求項5記載のアンカー金物によれば、陶板固定用ピースの四隅には爪よりも外側に突出し、かつ基板と同じ高さの平面となるつばが設けられているので、定着用溝に嵌入された爪は定着用溝を挟んで陶板に接する基板と鍔とで定着用溝に対して同じ角度で保持される。しかも、陶板固定用ピースの基板を陶板から浮かせ爪をはずす方向へ作用しようとする力が相対的にセンターピース側から働く際にも、この力を抑制する方向に鍔が働くので陶板固定用ピースを陶板に固定する力が強化され、爪の引っかかり具合を安定なものとして、施工後の陶板の落下を防ぐことができる。
さらに、請求項6記載の発明によると、ナットの頭部に所定の値を超えるトルクがかかったときに縊れ部から破断して雌ねじ部を残してちぎれるので、一定の締め付け力以下で陶板用固定ピースの連結ブリッジを座屈させて一対の爪の間の間隔を狭めて陶板側の一対の定着用溝を爪で挟み付けることができ、安定した固定力を発揮させることができる。即ち、トルクレンチによるトルク管理をしなくとも、アンカー金物として陶板に対して安定した固定力を発揮させ得る。
以下、本発明の構成を図面に示す実施形態に基づいて詳細に説明する。
図1から図9に本発明のアンカー金物の第1の実施形態を示す。このアンカー金物1は、一般にステンレススティール製であり、建物躯体側に取り付けられるセンターピース2と、陶板3の裏面3aの定着用溝3bに爪8が引っかけられて陶板3側に取り付けられる1枚の陶板固定用ピース4と、陶板固定用ピース4とセンターピース2とを連結するとともに陶板固定用ピース4を局所的に変形させて陶板3に固定させるための締結具5とで構成され、センターピース2と陶板固定用ピース4との2ピース構造とされている。尚、陶板3の裏面3aの定着用溝3bは、陶板3の上下のこば面に溝加工されたものであり、図2に示すように陶板裏面3aに対して斜めに切り込まれて陶板固定用ピース4の爪8が引っかかるオーバーハング部3cが形成されている。この一対の溝3bの間で囲まれる陶板3の形状はあり形(本明細書では、あり部と呼ぶ)を成し、その両端を区画する溝3bの斜面でオーバーハング部3cを形成している。また、本実施形態において、締結具5はねじ6とナット7とから構成されている。
陶板固定用ピース4は、陶板3の裏面3aの一対の平行な定着用溝3bに引っ掛けられる一対の爪8と陶板3の裏面3aと接する平坦な基板9と、強度補強のための骨格部12とを有する。骨格部12は、陶板3に対して直交する一対の垂直壁12a,12bとこれら垂直壁12a,12bを連結する陶板3と平行な水平壁12cとで溝形を成し、基板9の両端にそれぞれ備えられている。そして、この骨格部12の外側の垂直壁12bの下端縁が内側に折り曲げられて陶板3の定着用溝3bに嵌入する爪8が形成されている。したがって、垂直壁12bの下端からやや内向きに折り曲げられて爪8がそれぞれ形成された対称形状を成している。この爪8と垂直壁12bとの成す曲げ角θは、0度よりも大きく90度未満、好ましくは10°〜80°、より好ましくは30゜〜60°、最も好ましくは40°〜50°の範囲に設定されている。つまり、この爪8と垂直壁12bとの挟角φは、90°以上180°未満の角度、好ましくは100°〜170°、より好ましくは120゜〜150°、最も好ましくは130°〜140°の範囲の鈍角を成すように折り曲げられている。
さらに、爪8の両端、即ち陶板固定用ピース4の四隅には、爪8よりも外側に突出し、かつ基板9と同じ高さの平面となる鍔13が設けられている。本実施形態の場合、陶板固定用ピース4の基板9・骨格部12から定着用溝3bの長さ方向に突出するように骨格部12よりも爪8が長く形成され、その爪8の骨格部12からはみ出した部分に定着用溝3bよりも外側に突出しかつ陶板3の面3aと平行を成す鍔部13が曲げ加工により一体にそれぞれ形成されている。この鍔部13と、骨格部12の間の基板9とは、一直線上に配置され、陶板3に対して面一に設けられている。つまり、鍔部13の裏面と骨格部12の間の基板9の裏面とが同じ高さになるように配置されている。これにより、陶板固定用ピース4の四隅の鍔13は陶板3側の溝3bを乗り越えて陶板3の裏面に接触するため、陶板固定用ピース4が陶板3から浮き上がるのを抑制して、建物躯体(図示省略)側から働く回転モーメントで陶板固定用ピース4が捲り上がり難くする。ここで、鍔13の大きさ例えば幅(定着溝3bの長手方向)及び長さ(定着溝3bの幅・短手方向)は、左右で同じとしても良いが、場合によっては必要に応じて異ならせることも可能である。
また、この陶板固定用ピース4は、骨格部12の間の基板9にスリット10を設けることによって一方の爪8を含む第1の領域9aと他方の爪8を含む第2の領域9bとに分断されながらも、スリット10の両端に設けられている連結ブリッジ11によって第1及び第2の領域9a,9bが連結されて一体化・1ピース化されている。スリット10は、両端の連結ブリッジ11を座屈・塑性変形させることでその幅Wを変更させて陶板固定用ピース4の爪8と爪8との間隔を調整するためのもので、陶板3の定着用溝3bの間で構成されるあり部(凸部)を一対の爪8と基板9とで挟み付けることができる縮み代を生み出すものである。つまり、スリット10は陶板固定用ピース4の幅調整即ち一対の爪8の間の間隔の調整を可能とするものであり、調整代が十分得られる幅Wを有している。本実施形では、連結ブリッジ11が座屈する前のスリット10の幅W(図1参照)は、陶板固定用ピース4の基板9を陶板3の裏面3aと当接させ陶板3の裏面3aに対する平行を保ちながら一対の爪8を陶板3の一対の定着用溝3bに嵌入させ定着用溝3b内を移動可能とするものであり、連結ブリッジ11を座屈させた後のスリット10の幅W’(図3参照)は、一対の爪8で陶板3のあり部を強く挟みつけ固定する締め代を発揮するものとしている。尚、スリット10と連結ブリッジ11とで構成される塑性変形部が、陶板3の定着用溝3bの間のあり部を挟み付けるように一対の爪8の間の間隔の調整を可能とする調整代が十分得られるものであれば、図示のスリット10や連結ブリッジ11の形状などに特に限られるものではない。
本実施形態のスリット10は、軸承部14の配置される中央部分において、第1の領域9a側では第2の領域9bに向けて突出する台形状(凸)を成し、他方の第2の領域9b側では台形状の凹部を成す非対称形状でかつ幅一定の非直線形状に形成されている。また、スリット10は骨格部12から連結ブリッジ11までの距離が第1の領域9aよりも第2の領域9b側が長くなる位置に配置され、第1の領域9aと第2の領域9bとで広さを異ならせ、第2の領域9b側にセンターピース2を載置するためのスペースが設定されている。また、連結ブリッジ11は、本実施形態の場合、半円形の帯状を成し、締結具5によって発生する圧縮力の作用方向と直交するスリット10の外側へ向けて突出するように形成されている。この場合、幅方向に圧縮力が作用することで、連結ブリッジ11が座屈して塑性変形し、スリット10の幅・間隔Wが図3のW’へと狭まることによって、第1の領域9aと第2の領域9bの間隔、即ち一対の爪8の間隔を調整可能としている。
陶板固定用ピース4の第1の領域9aと第2の領域9bとにそれぞれ設けられている骨格部12の各垂直壁12bのほぼ中央には貫通孔(所謂ばか孔)17が設けられている。また、陶板固定用ピース4の第1の領域9aと第2の領域9bの内側の垂直壁12aの付近には、切り起こしによって軸承部14が形成されている。この軸承部14にも、骨格部12の各垂直壁12bのほぼ中央に穿孔された貫通孔17と同軸となるように貫通孔(所謂ばか孔)16が設けられている。したがって、本実施形態の場合には都合6箇所においてねじ6が支持され、連結ブリッジ11を座屈させる際に、陶板固定用ピース4そのものが反り返らないように考慮されている。勿論、ねじ6の支持点は多い方が支持剛性が高くなり好ましいが、必ずしも6点において支承しなければならない理由はない。少なくとも両端の2点において支持されれば、本来の目的は達成される。
他方、センターピース2にも、陶板固定用ピース4と同様に、陶板3に対して直交する一対の垂直壁24a,24bとこれら垂直壁24a,24bを連結する陶板3と平行な水平壁9とを有する溝形の骨格部24が形成されて、支持構造物としての強度が保たれている。このセンターピース2には建物躯体(図示省略)に固定される取付部19が設けられるとともに、少なくとも1つの垂直壁24aが延長形成されて折り曲げ構造とされることにより断面二次モーメントが増やされている。また、本実施形態の場合、センターピース2の水平壁12cには陶板固定用ピース4の軸承部14が貫通しセンターピース2の横移動(揺動を含む)を許容する範囲の幅の孔21が設けられている。そして、この孔21に軸承部14が嵌入されることで孔21の幅の範囲内でのセンターピース2の相対的横移動を許容する。また、センターピース2の垂直壁24a,24bの底面には、下側へ向けて突出する凸部22が軸承部周辺に設けられ、一方が軸承部14の周りの切り起こし後の孔15に、他方がスリット10の台形状の凹部の中に嵌入している。これにより、センターピース2は凸部22を除く垂直壁24aの底面において陶板固定用ピース4の基板9の上に平行を保って載置されると共に、凸部22が軸承部14あるいはスリット10の台形状の凹部の辺に当接する範囲内で横方向移動(揺動を含む)可能とされる。尚、図中の符号20はセンターピース2を建物躯体側の支持構造物に固定するためのビスなどを通す孔である。
ここで、陶板固定用ピース4の軸承部14とセンターピース2の孔21とのクリアランスを狭くすると、地震時などに相対的にセンターピース2が動き得る許容幅が狭くなるため、センターピース2の動きが制限されて陶板3側に力が直に伝わってしまう問題がある。その反面、センターピース2の動きうる範囲を広げ過ぎると、センターピース2の位置が安定せずに、平常時(地震負荷などがかからない時など)におけるセンターピース2ひいては陶板3のがたつきが大きくなる問題がある。そこで、上記クリアランスを2mm程度とすることにより、平常時におけるがたつきを低減させながらも、地震時に胴縁や下地が動いたときにセンターピース2が相対的に自由に動くことで振動を吸収し、陶板3側に力が直に伝わり難くくしている。
しかして、陶板固定用ピース4とセンターピース2とは、陶板固定用ピース4の貫通孔16,17とセンターピース2の貫通孔23とが同軸上に配置された状態でねじ6を貫通させてナット7を螺合させることで、陶板固定用ピース4とこの上に載置されるセンターピース2とが連結され、ねじ6を介して陶板固定用ピース4に主に横方向に平行移動ないし揺動可能にセンターピース2が支持される。さらに、陶板固定用ピース4並びにセンターピース2の各貫通孔16,17,23を貫通するねじ6は骨格部12の外でナット7と螺合され、ナット7を締め上げることで連結ブリッジ11を座屈させる圧縮力を付与可能とする。
ここで、ナット7は、図9に示すように、ねじ6よりも大径の無ねじの孔7aを有すと共に外径部がレンチに嵌合される頭部7aとねじ6がねじ込まれるねじ孔7eを有する雌ねじ部7bとを有し、かつ頭部7aと雌ねじ部7bとの境界に縊れ部7cを有し、頭部7aを介して所定のトルクを超えるトルクがかかったときに縊れ部7cで破断するように構成されている。即ち、一定値以上のトルクが作用したときに、ナット7の頭部7aがちぎれてそれ以上の締め付け力が付与されないように設けられている。このためトルクレンチでトルク管理をしながらねじ6を回さなくとも、一定の締め付け力を付与することが可能となり、安定した締め付け力で陶板固定用ピース4を陶板3に固定することができる。また、陶板固定用ピース4のねじ6の頭部6aが当接される側の骨格部12の外側の垂直壁12bには、主に図4及び図5に示すように、ねじ頭部6aを挟んでその回転を阻止する突起18が設けられている。この突起18によりねじ頭部6aが回転不能に支承されるため、ナット7側を回転させるだけで締結具5の締め付けが可能となる。
以上のように組合わされたセンターピース2と陶板固定用ピース4及び締結具5を用いて、陶板3を把持しかつ建物躯体(図示省略)に取り付ける工法について説明する。因みに、アンカー金物1を利用した工法は、図示していないが下地そのものあるいは下地に取り付けられている下地金具に固定する標準的な方式と、下地金物の胴縁に引っ掛ける引っ掛け方式あるいはこれらの併用方式があり、それに応じて用いられるセンターピースの形状が異なる。
まず、図1及び図2に仮想線で示すように、陶板3の裏面3aの上下のこば面にかけて適宜位置に一対の定着用溝3bを加工する。この定着用溝3bは、陶板3の上下のこば面に溝加工されたものであり、陶板裏面3aに対して斜めに切り込まれて陶板固定用ピース4の爪8が引っかかるオーバーハング部3cが形成されている。この定着用溝3bに、仮組み立て状態のアンカー金物1の陶板固定用ピース4の一対の爪8をそれぞれ嵌め込む。
このとき、本実施例では、軸承部14並びにその周りの切り起こし後の孔15は、第1の領域9aと第2の領域9bとでは、骨格部12から同位置にそれぞれ形成されている。他方、スリット10は、軸承部14の配置される中央部分においては、第1の領域9a側では第2の領域9bに向けて突出する台形状(凸)を成し、他方の第2の領域9b側では台形状の凹部を成す非対称形状とされている。また、センターピース2の天井に相当する水平壁12cに設けられている軸承部14を受け入れる孔21はセンターピース2の中心から右側半分の領域に偏って配置されている。したがって、センターピース2は、図1に示すように、陶板固定用ピース4の第2の領域9bの上の軸承部14と骨格部12との間に、軸承部14を受け入れる孔21が穿孔された側(右半分側)を配置するときにのみ、センターピースの突起22がスリット10の中および切り起こし後の孔15にそれぞれ嵌入して、陶板固定用ピース4の基板9の上にセンターピース2を平行を保って安定に載置させ得る。これ以外の位置や向きでは、センターピースの突起22のいずれか一方が基板9に乗り上げあるいは軸承部14が孔21に嵌入できずに傾き、ねじ6がセンターピース2を貫通し得なくなり、センターピース2を陶板固定用ピース4の上にセットできない。このことから、センターピース2は陶板固定用ピース4に対して一義的に定まる向きと位置にオフセットして配置されるため、向かい合わせに他の陶板から突出するセンターピースとの間で干渉せずに配置することができる。
そして、所定の位置に陶板固定用ピース4を移動させた後、ナット7の頭部7aをレンチなどで回転させることにより、ねじ6を締付けて連結ブリッジ11を座屈させながら陶板固定用ピース4の第1の領域9aと第2の領域9bとを互いに引き寄せ、定着用溝3bに爪8を引っ掛けて陶板3に固定する。その後、センターピース2の取り付け部19を利用して建物躯体側の部材にセンターピース2を取り付け、陶板3を建物躯体に固定する。
図10〜図12に、本発明の第2の実施形態について説明する。尚、以下に説明する他の実施形態において上述の実施形態と同様の構成要素については、同一符号を付してその詳細な説明を省略する。
この実施形態のアンカー金物1は、スリット10及び連結ブリッジ11を含めて陶板固定用ピース4の基板9を左右対称形状とし、左右の骨格部12の間でセンターピースの横方向への平行移動ないし揺動を規制するようにしたものである。スリット10は矩形状を成し、その中央に内方へ向けて突出するように配置されたV形の連結ヒンジ11で左右の第1の領域9aと第2の領域9bとが連結されて基板9として一体化されたものである。連結ヒンジ11が座屈する前の基板9の間隔は例えば図16あるいは図17及び図18に示すようなセンターピース2’,2”を載置した状態で左右の骨格部12との間に相当の隙間を伴うが、ねじ6を締め付けて両骨格部12の垂直壁12bを介して圧縮力を付与すれば、連結ヒンジ11が内側に向けて座屈して、両骨格部12の内側の垂直壁12bの間の間隔を狭め、センターピース2’,2”との間で適宜クリアランス例えば2mm程度の横方向のがたつきを形成するように設けられている。尚、本実施形態では、V形の連結ヒンジ11の谷底部分を中心に第1の領域9aと第2の領域9bとを左右線対称に設けられているが、場合によっては図1の実施形態のように非対称形状に設けても良い。この場合においても、基板9の上に載置されるセンターピース2’,2”の横方向への平行移動ないし揺動を左右の骨格部12で規制するにあたって何ら支障はない。
ここで、本実施形態の陶板固定用ピース4には軸承部14が設けられないため、センターピース2’,2”にも軸承部14を受け入れる孔21が設けられていない。また、陶板固定用ピース4の左右の骨格部12の間でセンターピース2’,2”の位置規制を行うため、センターピース2’,2”は陶板固定用ピース4のほぼ中心に配置される。このため、センターピース2’,2”の左右の垂直壁24a,24bの底面には突起22が存在せず、平坦な面とされている。勿論、センターピース2’,2”の左右の垂直壁24a,24bの底面に突起22を設けて、この突起22を幅が狭まった後のスリット10内に嵌入されるようにして、突起22とスリット10の縁との間のクリアランスでセンターピース2’,2”の横方向の位置規制を図るようにしても良い。この場合には、スリット10の両側の縁(辺)の中央付近に突起22を嵌入させる凹部を設けることにより、センターピース2’,2”の左右の垂直壁24a,24bの底面をスリット10の周りの基板9で支持させることがセンターピース2’,2”の縦方向のがたつきを少なくする上で好ましい。
この実施形態のアンカー金物においては、向かい合わせにアンカー金物1を配置する場合には、突出するセンターピース同士が干渉しないように、陶板3に形成する定着用溝3bの位置を互いにずらすか、あるいは図17及び18に示すようなオフセットした取り付け部19を有するセンターピース2”を逆向きに組み合わせて用いることが望まれる。因みに、図17及び18に示すセンターピース2”は、陶板固定用ピース4の左右の骨格部12の間に配置される部分の中心よりも僅かに外側に取り付け部19がオフセットして形成されており、一直線上に在る定着用溝3bに対して互いに逆向きに組み合わせたときでも、互いの取り付け部19が干渉せずに並設されることとなる。
さらに、爪8は骨格部12の垂直壁12bから直に突出するように設ける必要はない。場合によっては、1ピースの陶板固定用ピースにおいて、爪の構造のみを特許文献1記載の発明の爪構造を適用するようにしても良い。例えば図13〜図15に示すように、陶板固定用ピース4の左右の骨格部12の外側の垂直壁12bの下端を基板9の延長線上で一旦外側に折り曲げて陶板3と平行な水平壁25を形成し、さらにその水平壁25の先端を下向きに折り返すように曲げることによってレ形の爪8を形成するようにしても良い。この実施形態のアンカー金物においても、一対の定着用溝3bにそれぞれの爪8を挿入してからねじ6で締め付けることにより互いに引っ張ることによって、陶板固定用ピース4の連結ブリッジ11を座屈させて一対の爪8の間の距離を縮めてレ形を成す水平壁25と爪8とで定着用溝3bの間で形成されるあり部(凸部)を挟み付けるように爪8をオーバーハング部分3cに引っかけて陶板に固定することができる。尚、この実施形態のアンカー金物においても、図16あるいは図17及び図18に例示されるような、突起22を底面に備えないセンターピース2’,2”が使用される。
なお、上述の実施形態は本発明の好適な実施の一例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば本実施形態では、締結具5は、陶板固定用ピース4から独立したねじ6とナット7とで構成されているが、場合によっては陶板固定用ピース4の第1及び第2の領域9a,9bの骨格部12の外側の垂直壁12bに雌ねじを切ってナット7の代わりとするようにしても良い。
また、センターピースは、図18や図16〜図18に示す直接建物躯体側に固定されるタイプのものに特に限られるものではなく、図19に示すようなL形のフック26を有する引っ掛け式のセンターピース2”’などでも良い。即ち、引っ掛けタイプのアンカー金物に本発明を適用することも可能である。引っ掛けタイプのアンカー金物は、センターピース2”’がフック26を有し、建物躯体側に設置される下地金物の胴縁(図示省略)にフック26部分を引っ掛けるようにして使用するものである。この場合における胴縁は、フック26部分で囲まれる凹部27に収められるフランジを有し、陶板と直交する方向にはがたつきなく引っ掛けられるように設けられている。通常、このアンカー金物は、陶板の下側に取り付けられ下地金物に引っ掛けられて陶板を支える。このセンターピース2”’においても、図1の実施形態のアンカー金物として適用する場合には、突起22を備え、該突起22をスリット10及び軸承部14の周りの孔15に嵌入させることで陶板固定用ピース4に対する位置規制を行うようにしている。
また、図4〜図7に示す爪構造は、特許文献1記載の発明の3ピース構造のアンカー金物に適用する場合にも陶板の定着用溝のエッジ(オーバーハング部)の欠損を防ぐという点で効果的である。即ち、一対のサイドピースの各々に強度確保のために形成されている骨格部の外側の垂直壁の下端縁が、図4〜図7に示すように、陶板の定着用溝に嵌入する角度で内側に直接折り曲げられて垂直壁に対して鈍角で爪が連続的に形成されるようにしても良い。この場合には、各サイドピースの爪の両端には陶板の定着用溝を跨いで爪よりも外側に突出する鍔を設けることが好ましい。例えば、図4〜図7に示すように、骨格部から定着用溝の長さ方向に突出するように骨格部よりも爪が長く形成され、その爪の骨格部からはみ出した部分に定着用溝よりも外側に突出しかつ陶板の裏面と平行を成す鍔部が曲げ加工により一体にそれぞれ形成される。この鍔部と、骨格部の内側の垂直面の底面とは、一直線上に配置され、陶板に対して面一に設けられる。これにより、各サイドピースは、骨格部の内側の垂直壁の底面と鍔との間で傾きを保って設置されることから、特許文献1記載のサイドピースのように、定着用溝で形成されるあり部のエッジ・オーバーハング部分を抱持するようなレ形に爪を形成しなくとも、定着用溝内でオーバーハング部分に対する爪の傾きを保つことができる。
また、陶板固定用ピース4を局所的に変形させて第1及び第2の領域9a,9bの爪8と爪8との間隔を調整を可能とする塑性変形部は、場合によっては骨格部12に設けるようにしても良い。例えば、図20に示すように、骨格部12の水平壁12cに、該水平壁の前後端(ねじ6と直交する方向の両端)からスリット(切り欠き)28を入れて、中央部分の水平壁12cを残すことで、塑性変形部を構成するようにしている。つまり、水平壁12cの長さを短くすることにより骨格部の幅方向(一対の爪8の間の間隔方向)への強度を落として締結具5による圧縮力の付与で水平壁12cが座屈することにより骨格部12を幅方向に潰して爪間隔を調整可能としている。この場合、水平壁12cが連結ブリッジの働きを成し、該水平壁12cを座屈させてスリット28の幅を変更することにより、1ピース構造の陶板固定用ピースでも陶板を支持可能である。図20に示す実施形態では、基板9のほぼ中央に配置されたスリット10と連結ブリッジ11とから成る塑性変形部と骨格部12の水平壁12cに開けられたスリット28と残された水平壁12cとから成る塑性変形部とを併用している。これにより、陶板固定用ピースの締結具6による圧縮力付与方向への強度を図1に示す実施形態のものより更に落として、一層変形させ易くしている。また、場合によっては骨格部12に形成される塑性変形部のみで陶板固定用ピース4の幅調整を可能とするようにしても良い。