画像記録装置のうち電子写真プリンタの露光装置の一つである光プリンタヘッドとして用いられている発光装置として、PNPN構造を持つ負性抵抗素子である発光サイリスタを発光素子に使用し、これを発光素子列として配置して発光状態の転送が実現できる発光装置とするものが提案されており、これを光プリンタヘッドに用いることで、実装上簡便となること、発光素子アレイをコンパクトに作製できること等が示されている(例えば、特許文献1,2を参照。)。
図6に従来の発光サイリスタの基本構造を示す断面図を各層のキャリア密度の状態を表す線図とともに示す。図6において、21はGaAs等のn型半導体基板であり、このn型半導体基板21上にGaAsまたはAlGaAs等からなる各種の半導体層22〜26が積層される。一般的には、22はn型AlGaAs層、23はp型AlGaAs層、24はn型AlGaAs層、25はp型AlGaAs層であり、26はアノード端子27とのオーミック接触の容易性を得るためのp型GaAs層である。また、27はアノード端子、28はゲート端子、29はn型半導体基板21裏面のカソード端子である。
このような発光サイリスタの電流−電圧特性を図7に示す。図7は、発光サイリスタのアノード端子27−カソード端子29間の順方向電圧−電流特性を模式的に示す線図であり、横軸はアノード電圧を、縦軸はアノード電流を表わしており、実線および破線の特性曲線はアノード電圧とアノード電流との関係を示している。同図に実線の特性曲線で示すように、この発光サイリスタは、通常のサイリスタと同様のS字形負性抵抗を有している。そして、この電流−電圧特性は、同図に破線の特性曲線で示すように、ゲート端子28に印加する電圧もしくは電流によって、あるいは半導体層に光照射を行なうことによって、発光サイリスタの発光のしきい電圧もしくはしきい電流を変化させる(低下させる)ことができ、これによって発光サイリスタがスイッチとして機能することが知られている。この光照射による変化は、n型AlGaAs層22,p型AlGaAs層23,n型AlGaAs層24によるNPN層部が受光素子としてのホトトランジスタとして機能し、この部分で外部から照射された光を受光することによって、発光サイリスタの発光のしきい電圧もしくはしきい電流が変化する(低下する)ことによるものである。そして、発光サイリスタがオン状態のとき、その積層された半導体層22〜26の内部において、n型AlGaAs層24およびp型AlGaAs層25のPN接合部に順方向電流が流れることにより、発光する。この光が外部に放出され、この光を近接する他の発光サイリスタに入射させることによって、発光状態を順に転送させることができる自己走査機能を有するスイッチングアレイとして動作させることができる(例えば、特許文献1を参照。)。
図8に、従来の発光サイリスタを用いた、自己走査機能を有する従来の第1の発光装置の基本構造の概略回路構成を示す等価回路図ならびに各クロックパルスおよび発光強度の波形を示す線図を示す。発光サイリスタT0〜Tnは略直線状に配列され、その発光が順次隣接する発光サイリスタに入射するように構成されている。発光サイリスタT0〜Tnはそれぞれ光照射を受けることによってそのしきい電圧もしくはしきい電流が低下する特性を持つため、発光している発光サイリスタに隣接している発光サイリスタのしきい電圧が下がることとなる。また、各発光サイリスタのアノード端子に対して3本のクロックラインφ1,φ2,φ3がそれぞれ発光サイリスタ3個おきに繰返し接続されており、各クロックラインφ1,φ2,φ3にはそれぞれ電流源I1,I2,I3が接続されており、その電流量を発光信号φIが制御するように構成されている(例えば、特許文献2、特許文献3を参照。)。
図8に示す従来の第1の発光装置の動作について説明する。まず、スタートパルスラインφSがローレベルからハイレベルに変化し、これによって、最初の発光サイリスタT0がオフ状態からオン状態へ変化して発光する。発光サイリスタT0からの発光は隣接する発光サイリスタT1に入射し、光励起によりその発光のしきい電圧を下げる。このとき、発光サイリスタT2以降は発光サイリスタT1よりも発光サイリスタT0から離れているため、それらへの入射光は弱く、発光のしきい電圧の低下は小さい。この状態で、次にクロックラインφ1がローレベルからハイレベルに変化すると、発光サイリスタT1の発光のしきい電圧が発光サイリスタT0からの光照射により低下しているため、クロックラインφ1のハイレベルをそのしきい電圧に合わせたレベルとすることにより、発光サイリスタT1がオフ状態からオン状態へ変化して発光する。このとき、同じクロックラインφ1が接続されている発光サイリスタT4は、発光サイリスタT0から十分離れているためその発光のしきい電圧の低下はほとんどないので、発光サイリスタT1を発光させるレベルのクロックラインφ1のハイレベルでは発光せず、よって発光サイリスタT1のみがオン状態となって発光する。次に、スタートパルスφSをローレベルとすることで、発光サイリスタT0はオン状態からオフ状態へ変化して発光が終了する。これによりオン状態がT0からT1へ転送される。
以下同様に、各クロックパルスφ1〜φ3の波形を図8に示す線図のように変化させることにより、次に発光サイリスタT1から発光サイリスタT2へ、その次に発光サイリスタT2から発光サイリスタT3へと時間とともにオン状態(発光状態)が転送される。
例えば、クロックラインφ3のみがハイレベルにあり、発光サイリスタT3がオン状態にあるとき、発光サイリスタT3からの発光は隣接する発光サイリスタT2,T4に最も強く入射してこれらの発光のしきい電圧を低下させる。このとき、発光サイリスタT1,T5はそれぞれ発光サイリスタT2,T4に比べて発光サイリスタT3から遠方にあるためこれらに発光サイリスタT3から入射する光は弱く、これらの発光のしきい電圧はあまり低下しない。この状態でクロックラインφ1がローレベルからハイレベルに変化すると、発光サイリスタT4のしきい電圧VTH(T4)は発光サイリスタT1のしきい電圧VTH(T1)に比べてより低下しているため、クロックパルスφ1のハイレベル電圧VHをVTH(T4)<VH<VTH(T1)と設定することで発光サイリスタT4のみがオン状態となって発光し、発光サイリスタT1はオフ状態のままとなる。そして次にクロックラインφ3をハイレベルからローレベルにすることで発光サイリスタT3はオフ状態になり、オン状態(発光状態)は発光サイリスタT3から発光サイリスタT4へ転送される。
このようにクロックラインφ1,φ2,φ3のクロックパルスのハイレベルを互いに一部が重なるように設定することで、発光サイリスタT0〜Tnのオン状態(発光状態)は順次転送されていく。
また、図8の線図に示すように、発光サイリスタT3のみを強く発光させる場合には、発光サイリスタT3が発光するタイミングに合わせて発光信号φIをハイレベルにする。これにより、その時のオン状態の発光素子である発光サイリスタT3のみが印加される電流量が増加し、発光強度(L(T3))も大きくなる。
従来の第1の発光装置は、この発光サイリスタT3の発光を外部へ照射する光として利用するものである。
しかしながら、この従来の第1の発光装置では、図8に示す発光強度L(T0)〜L(T5)の線図からも分かるように、光プリンタヘッド等に適用する場合には、外部へ照射させる光を発光させる時以外でもスイッチング信号を転送するためのオン状態(発光状態)にある各発光サイリスタからある程度の発光(バイアス光)を生じる。これはオン状態を維持するための電流により各発光サイリスタから弱い発光が生じるためであるが、この従来の第1の発光装置を画像記録装置の光プリンタヘッド等に適用する場合は、このバイアス光も感光体に照射されてしまって本来の画像記録のための照射光に対してノイズとして作用するため、画像品質を悪化させる原因となるという問題点がある。
そこで、このような問題点を解消するため、スイッチング信号の転送のための素子を分離してそれらの素子を電気的に制御する構造のものが提案されている(例えば、特許文献4を参照。)。
図9にそのような自己走査機能を有する従来の第2の発光装置の基本構造の概略回路構成を等価回路図で示す。この従来の第2の発光装置における発光サイリスタアレイは、信号転送のためのスイッチ用のスイッチ用サイリスタ(T1〜Tn)が略直線状に配列された部分と、外部へ照射する光の発光用の発光用サイリスタ(L1〜Ln)が略直線状に配列された部分とを有している。スイッチ用サイリスタと発光用サイリスタとはそれぞれの対応したゲート端子同士が電気的に接続されており(例えば、n番目のスイッチ用サイリスタTnとn番目の発光用サイリスタLnとのゲート端子同士が接続される。)、1番目のスイッチ用サイリスタT1のゲート端子はスタートパルスラインφSに接続される。また、スイッチ用サイリスタT1〜Tnの各々のゲート端子は負荷抵抗RLを介して制御用電源VGKに接続され、アノード端子には2本のクロックラインφ1,φ2がそれぞれ1つおきに接続される。
また、2番目のスイッチ用サイリスタT2のゲート端子には1番目のスイッチ用サイリスタT1のゲート端子が転送方向指定ダイオードDを介して電気的に接続され、以後、同様の接続の繰り返しで各ゲート端子が電気的に接続されている。
このような従来の第2の発光装置における、従来の電気制御によるスイッチ素子を用いた発光状態の転送および発光について説明する。
発光状態の転送はスタートパルスラインφSがハイレベルからローレベルに変化することにより始まる。これにより、電気的に1番目のスイッチ用サイリスタT1の発光のしきい電圧が低下する。このときクロックラインφ2をローレベルからハイレベルにすることで、1番目のスイッチ用サイリスタT1がオン状態になり発光する。2番目のスイッチ用サイリスタT2以降は、転送方向指定ダイオードDにより、1番目のスイッチ用サイリスタT1から離れるほど転送方向指定ダイオードDの順方向電圧降下分に応じてスイッチ用サイリスタT2,T3・・のゲート端子にかかる電圧が上昇する。そのため、同じクロックラインφ2が接続されている3番目のスイッチ用サイリスタT3では発光のしきい電圧が転送方向指定ダイオードD2つ分の順方向電圧降下分だけ上昇することとなるので、クロックパルスφ2のハイレベルがこの3番目のスイッチ用サイリスタT3の発光のしきい電圧以下となるようなスタートパルスを用いることで、1番目のスイッチ用サイリスタT1のみがオン状態になり発光することとなる。
この状態で発光用サイリスタL1〜Ln用の電源ラインφIをローレベルからハイレベルにすると、1番目の発光用サイリスタL1においては発光のオン条件がゲート端子同士が電気的に接続されている1番目のスイッチ用サイリスタT1のオン条件と同じになるため、1番目の発光用サイリスタL1がオン状態になって発光し、1番目の発光部が発光して点灯することになる。次に、電源ラインφIをローレベルに戻すことにより、1番目の発光用サイリスタL1はオフ状態になり発光が終了する。
次に、1番目のスイッチ用サイリスタT1から2番目のスイッチ用サイリスタT2への発光状態の転送(オン条件の転送)について説明する。1番目の発光用サイリスタL1がオフ状態になってもクロックラインφ2がハイレベルのままなので、1番目のスイッチ用サイリスタT1はオン状態(発光状態)を保持する。このとき、2番目のスイッチ用サイリスタT2では1番目のスイッチ用サイリスタT1に比べて転送方向指定ダイオードD1つ分の順方向電圧降下分だけゲート端子にかかる電圧が高くなり、同じクロックラインφ1が接続されている4番目のスイッチ用サイリスタT4はそれよりさらに転送方向指定ダイオードD2つ分の順方向電圧降下分だけゲート端子にかかる電圧が高くなる。この状態でクロックラインφ1をローレベルからハイレベルにしたとき、2番目のスイッチ用サイリスタT2の発光のしきい電圧と2番目のスイッチ用サイリスタT4の発光のしきい電圧との間の電圧となるようにクロックパルスφ1のハイレベルを選べば、2番目のスイッチ用サイリスタT2のみがオン状態になり発光する。
こうして2番目のスイッチ用サイリスタT2がオン状態(発光状態)となった後、クロックラインφ2をハイレベルからローレベルにすることにより、1番目のスイッチ用サイリスタT1は1番目の発光用サイリスタL1がオフ状態となったのと同様にオフ状態になり発光か終了する。このとき、スタートパルスラインφSがローレベルからハイレベルに変化しているため、転送方向指定ダイオードDにより1番目のスイッチ用サイリスタT1のゲート端子にかかる電圧はほぼ制御用電源VGKの電圧に等しくなり、発光のしきい電圧が最も低いスイッチ用サイリスタは2番目のスイッチ用サイリスタT2となる。こうして、スイッチ用サイリスタのオン状態(発光状態)は1番目のスイッチ用サイリスタT1から2番目のスイッチ用サイリスタT2に転送される。そして、このとき電源ラインφIをローレベルからハイレベルにすると、2番目の発光用サイリスタL2のみがオン状態となり発光する。
以上の操作を順次繰り返すことにより、スイッチ用サイリスタT0〜Tnの発光状態が順次転送され、それに対応させて発光用サイリスタL1〜Lnの発光状態の制御を行なうことができる。
特開昭49−124992号公報
特許2577034号
特許3020177号
特許2577089号
特開2003−243696
以下、図面を参照して本発明の発光サイリスタおよびそれを用いた本発明の発光装置の実施の形態の例について説明する。
図1および図2は本発明の発光サイリスタの実施の形態の一例を示す図であり、図1は本発明の発光サイリスタの実施の形態の一例における層構造を示す断面図および各層に対応させてエネルギーギャップ(バンドギャップエネルギー)の状態を示す線図である。また、図2は本発明の発光サイリスタの実施の形態の一例における層構造を示す断面図および各層に対応させてキャリア密度の状態を示す線図である。
図1および図2に示す例において、1はSiやGaAs等からなるn型半導体基板、2はGaAs等からなる第1のn型半導体層、3はInGaAs等からなる第1のp型半導体層、4aはGaAs等からなる第2のn型半導体層、4bはAlGaAs等からなる第3のn型半導体層、5aはAlGaAs等からなる第2のp型半導体層、5bはAlGaAs等からなる第3のp型半導体層、5cはAlGaAs等からなる第4のp型半導体層、6はGaAs等からなる第5のp型半導体層であり、7はアノード端子、8はゲート端子、9はカソード端子である。
また、これら各半導体層のエネルギーギャップ(バンドギャップエネルギー)およびキャリア密度は、例えば図1および図2にそれぞれ線図で示すように異なっている。具体的には、第3のn型半導体層4bはエネルギーギャップが第2のn型半導体層4aより大きく、第3のn型半導体層4bおよび第3のp型半導体層5bはエネルギーギャップが第2のp型半導体層5aより大きく、第2のp型半導体層5aはエネルギーギャップが第1のp型半導体層3より大きい。
このようなエネルギーギャップおよびキャリア密度の関係とすることにより、主たる発光層となる第2のp型半導体層5aに電子および正孔を効率良く閉じ込めることができるので、内部量子効率が高く、発光効率の高い発光サイリスタを提供できるものとなる。また、主たる受光層となる第1のp型半導体層3のエネルギーギャップが主たる発光層である第2のp型半導体層5aからの発光のエネルギーより小さいものとなるので、隣接する発光サイリスタが発光する光を効率良く受光することができ、受光感度の高い発光サイリスタを提供できるものとなる。
本発明の発光サイリスタが発光状態(オン状態)のとき、半導体層の内部で発光して外部へ放出される光は、第2のp型半導体層5aが中心となって発光する。ここで図1の線図に示すように、第3のn型半導体層4bのエネルギーギャップを、第3のp型半導体層5bのエネルギーギャップとほぼ等しくし、かつ第2のp型半導体層5aのエネルギーギャップより大きくすることで、主たる発光層である第2のp型半導体層5aからの発光に対して第3のp型半導体層5bが透明とみなせるようになるので、第2のp型半導体層5aにおいて発生した光を第3のp型半導体層5bで吸収することがなくなり、外部への光の取り出し効率を大きくすることができる。ここで、第3のn型半導体層4bのエネルギーギャップは、第2のp型半導体層5aへの電子および正孔の閉じ込め効果が最大になるように、第2のp型半導体層5aのエネルギーギャップより大きいことが望ましい。
なお、このとき図1の線図に示すように、第4のp型半導体層5cのエネルギーギャップも第2のp型半導体層5aのエネルギーギャップより大きく、第3のp型半導体層5bのエネルギーギャップとほぼ等しくしておくことが好ましく、これにより、第3のp型半導体層5bと同様に、主たる発光層である第2のp型半導体層5aからの発光に対して第4のp型半導体層5cが透明とみなせるようになるので、第2のp型半導体層5aにおいて発生した光を第4のp型半導体層5cでも吸収することがなくなり、外部への光の取り出し効率をより大きくすることができるものとなる。
ここで、図1の線図に示すように、第5のp型半導体層6のエネルギーギャップは、アノード端子7とのオーミック接合を得るために他の半導体層に比べて小さいものであるが、外部への光の取り出し効率に対するこの第5のp型半導体層6による影響は、この層の厚みが通常は10nm〜20nmと非常に薄いため、主たる発光層である第2のp型半導体層5aからの発光の吸収は無視できる程度である。
また、図2の線図に示すように、第1のp型半導体層3のキャリア密度を第2のn型半導体層4aのキャリア密度より高くすることで、これらの層によるpn接合部における第2のn型半導体層4a側での空乏層が厚くなるので、半導体層に照射される光に対する受光感度を受光領域を増大させることができてより改善することができるものとなる。
また、図2の線図に示すように、第2〜第5のp型半導体層5a,5b,5c,6のキャリア密度がこの順に高くなるようにすることで、主たる発光層である第2のp型半導体層5aに注入できる正孔濃度を増加させることができ、さらに、アノード端子7とのオーミック抵抗も低減できるので、主たる発光層である第2のp型半導体層5aでの高い内部量子効率、およびアノード端子7との良好なオーミック接合を得ることができるものとなる。ここで、第2〜第5のp型半導体層5a,5b,5c,6のキャリア密度は、例えば、1×1018cm−3,5×1018cm−3,1×1019cm−3,2×1019cm−3とすればよい。
さらに、図1の線図に示すように、第1のn型半導体層2のエネルギーギャップを第1のp型半導体層3および第2のn型半導体層4aより大きくすることで、第1,第2のn型半導体層2,4aおよび第1のp型半導体層3で構成されるフォトトランジスタ部において、エミッタの注入効率が増すことにより電流増幅率が増大するので、効率良く外部からの光を受光することができるものとなる。このとき、具体的には、第1のp型半導体層3のエネルギーギャップは第1および第2のn型半導体層2,4aのエネルギーギャップより、第1のp型半導体層3から第1のn型半導体層2への正孔の注入が抑えられるように大きいことが望ましい。
さらに、この構成において、第1のp型半導体層3および第2のn型半導体層4aはGaAsからなり、第1のn型半導体層2はInAlGaPまたはAlGaAsからなるときには、第1のp型半導体層3のエネルギーギャップが第1のn型半導体層2より小さくなり、さらにその接合部でのマッチングが良好となるため、第1,第2のn型半導体層2,4aおよび第1のp型半導体層3で構成されるフォトトランジスタ部において、エミッタの注入効率が増すことにより電流増幅率が増大するので、効率良く外部からの光を受光することができるものとなる。
また、図2の線図に示すように、第3のp型半導体層5bのキャリア密度を、第2のp型半導体層5aのキャリア密度より高く、かつ第4のp型半導体層5cのキャリア密度を第3のp型半導体層5bのキャリア密度より高くすることで、主たる発光層である第2のp型半導体層5aに注入できる正孔の濃度を増加させることができるので、第2のp型半導体層5aにおける発光効率を注入される正孔の濃度に比例して改善することができる。
本発明の発光サイリスタにおいて、n型半導体基板1は、III/V族半導体層やII/VI族半導体層が成長可能なものであり、例えば、GaAs,InP,GaP,Si,Ge等からなる。なお、カソード端子9を第1のn型半導体層2に形成する場合は、n型半導体基板1に絶縁性基板や半絶縁性基板をベース基板として使用することもできる。例えば、GaAs,GaN,サファイア等をベース基板に用いてその表面にn型半導体層を形成したものであってもよい。
第1のn型半導体層2は、エネルギーギャップが主たる発光層である第2のp型半導体層5aより小さく、キャリア密度は1×1018cm−3程度のものであり、例えば、GaAs,AlGaAs,InGaP等からなる。
第1のp型半導体層3は、エネルギーギャップが第1のn型半導体層2より小さく、キャリア密度は1×1018cm−3程度のものであり、例えば、AlGaAs,GaAs等からなる。特に、この層の厚みを50〜1000Åとすると、フォトトランジスタ部の電流増幅率が大きくなるので、効率良く外部からの光を受光できるものとなる。
第2のn型半導体層4aは、エネルギーギャップが第1のn型半導体層2より小さく、キャリア密度は全層の中で最も小さく1×1016cm−3〜1×1017cm−3程度のものであり、例えば、GaAs,AlGaAs等からなる。
第3のn型半導体層4bは、エネルギーギャップが第2のp型半導体層5aより大きく、キャリア密度は1×1017〜1×1018cm−3程度のものであり、例えば、AlGaAs,InAlGaP等からなる。特に、AlyGa1−yAs(0<y≦0.5)からなるものとすると、電子のキャリア密度を高くでき、主たる発光層である第2のp型半導体層5aにより多くの電子を注入できるため、内部量子効率を高くすることができる。
第2のp型半導体層5aは、主たる発光層となる層であって、エネルギーギャップが第3のn型半導体層4bおよび第3のp型半導体層5bより小さく、キャリア密度は1×1018cm−3程度のものであり、例えば、AlGaAs,InAlGaP等からなる。特に、AlzGa1−zAs(0<z≦0.3)からなるものとすると、直接遷移型の半導体として機能するため、高い内部量子効率を得ることができる。
第3のp型半導体層5bは、エネルギーギャップが第2のp型半導体層5aより大きく、キャリア密度は1×1018cm−3程度のものであり、例えば、AlGaAs,InAlGaP等からなる。特に、AlyGa1−yAs(0<y≦0.5)からなるものとすると、正孔のキャリア密度を高くすることができ、主たる発光層である第2のp型半導体層5aにより多くの正孔を注入できるため、内部量子効率を高くすることができる。
第4のp型半導体層5cは、エネルギーギャップが第3のp型半導体層5bと同等もしくは大きく、キャリア密度は1×1019cm−3程度のものであり、例えば、AlGaAs,InAlGaP等からなる。特に、AlyGa1−yAs(0<y≦0.5)からなるものとすると、正孔のキャリア密度を高くすることができ、主たる発光層である第2のp型半導体層5aにより多くの正孔を注入できるため、内部量子効率を高くすることができる。
そして、第5のp型半導体層6は、アノード端子7とのオーミック接合を行なうための層であって、キャリア密度は1×1019cm−3以上のものであり、例えば、GaAs,InGaP等からなる。
また、アノード端子7は、第5のp型半導体層6とオーミック接合をしてアノード電極として機能するものであり、例えば、Au,AuGe,AuZn等からなる。
ゲート端子8は、第2のn型半導体層4aとオーミック接合をしてサイリスタにおけるゲート電極として機能するものであり、例えば、Au,AuGe,Ni等からなる。
カソード端子9は、n型半導体基板1または第1のn型半導体層2とオーミック接合をしてカソード電極として機能するものであり、例えば、Au,AuGe,Ni等からなる。
そして、本発明の発光サイリスタは、以上のような構成に対して、アノード端子7とカソード端子9との間に例えばしきい電圧より大きな値の電圧を印加することにより、第2のp型半導体層5aで主に発光し、また、第1,第2のn型半導体層2,4aおよび第1のp型半導体層3で構成されるフォトトランジスタ部において受光することによって光電流が流れるため、発光のしきい電圧またはしきい電流が低下するものとなる。
以上のように、本発明の発光サイリスタによれば、外部への光の取り出し効率および受光感度が高い発光サイリスタとすることができる。
次に、図3は、図1および図2に示した本発明の発光サイリスタを用いて構成した、光励起による転送スイッチ素子を集積した3端子発光スイッチ素子アレイと、3端子発光素子アレイとを具備してなる、本発明の発光装置の実施の形態の一例を示す平面図であり、図4は図3のA−A’線断面図である。
図3および図4に示すように、本発明の発光装置は、発光のしきい電圧またはしきい電流を外部から光を照射することによって制御可能な、アノード端子7とカソード端子9とゲート端子8とを有する3端子発光スイッチ素子を多数個、1つの3端子発光スイッチ素子からの発光が隣接する3端子発光スイッチ素子に入射するように直線状に配列するとともに、3端子発光スイッチ素子の各々のアノード端子7にクロックライン(φ1,φ2,φ3)13を接続した3端子発光スイッチ素子アレイ16と、発光のしきい電圧またはしきい電流を外部からゲート端子8を介して電気的に制御可能な、アノード端子7とカソード端子とゲート端子8とを有する3端子発光素子を多数個、3端子発光スイッチ素子に対応させて配列するとともに、3端子発光素子のゲート端子8をそれぞれ対応する3端子発光スイッチ素子のゲート端子8と電気的に接続し、3端子発光素子のアノード端子7を発光のための電圧または電流を供給するライン(φI)12に接続した3端子発光素子アレイ15とを具備しており、3端子発光スイッチ素子および3端子発光素子は、それぞれ本発明の発光サイリスタを用いて第5のp型半導体層6にアノード端子7を、n型半導体基板1または第1のn型半導体層2、この例ではn型半導体基板1にカソード端子9を、第2または第3のn型半導体層4a,4b、この例では第2のn型半導体層4aにゲート端子8をそれぞれ電気的に接続したものである。
この例において、発光サイリスタを発光素子として用いた素子アレイは、スイッチ用の発光サイリスタが直線状に配列された3端子発光スイッチ素子アレイ16に同様の発光サイリスタからなるスタート用スイッチサイリスタ17が接続された部分と、発光用の発光サイリスタが直線状に配列された3端子発光スイッチ素子アレイ15の部分とからなり、それぞれ素子アレイ15,16の対応した3端子発光スイッチ素子としての発光サイリスタのゲート端子8と、3端子発光素子としての発光サイリスタのゲート端子とが、この例ではゲート端子8同士を共通化した配線で電気的に接続されている。また、スタート用スイッチサイリスタ17としての発光サイリスタのゲート端子は、スタートパルスラインφSに接続されて信号入力部とされており、3端子発光スイッチ素子アレイ16の各発光サイリスタのアノード端子7には、3本のクロックライン(φ1,φ2,φ3)13がそれぞれ順次3個おきに1本ずつ接続されている。
そして、3端子発光スイッチ素子アレイ16と3端子発光素子アレイ15とが基板上、例えばn型半導体基板1上に並列に配設されることにより、電子写真方式の画像記録装置用の光プリンタヘッド等のラインヘッドとしての発光装置に用いられる。
また、10は3端子発光スイッチ素子アレイ16に用いられている発光サイリスタの第5のp型半導体層6とクロックライン13とのオーミックコンタクトを取るための単層あるいは積層構造の金属層であり、クロックライン13とともに発光サイリスタのアノード端子7として機能するものである。なお、この例では3端子発光素子アレイ15に用いられている発光サイリスタのアノード端子7は発光のための電圧または電流を供給するライン(φI)12の一部にその機能を持たせた構成としているが、こちらの発光サイリスタにも同様に第5のp型半導体層6とライン12とのオーミックコンタクトを取るための金属層を設けてアノード端子7として機能させてもよい。
11はクロックライン13(7)あるいは発光のための電圧または電流を供給するライン12(7)と、金属層10あるいは各半導体層との電気的絶縁を確保するための絶縁層であり、ポリイミド等の透光性があり、かつ平坦性のある絶縁性膜が用いられる。
また、14は遮光層であり、特に3端子発光スイッチ素子アレイ16と3端子発光素子アレイ15とが基板上に並列に配設されているときに、3端子発光スイッチ素子からの発光のうち基板の表面に垂直方向の発光と3端子発光素子方向の発光とを遮光するものである。このような遮光層14を設けることにより、3端子発光スイッチ素子アレイ16からの漏れ光のうち基板の表面に垂直方向の発光と3端子発光素子方向の発光と3端子発光素子の反対方向の発光とはこの遮光層14によって十分に遮光されるので、本発明の発光装置を電子写真方式の画像記録装置に露光装置として用いた場合に、そのような漏れ光による画像の劣化が発生せず優れた画像品質を得ることができるものとなる。このような遮光層14は、3端子発光スイッチ素子からの発光を2〜3μm程度の厚みでほぼ完全に吸収するようなものであれば種々の材料が使用可能であり、例えば、ポリイミド等をスピンコーティングし、フォトエッチングで所定のパターンに加工して形成すればよい。
次に、図5に本発明の発光サイリスタを用いて光励起による転送スイッチ素子を集積した本発明の発光装置の実施の形態の一例における基本構造の概略回路構成を示す等価回路図を示す。
図5に示す例では、3端子発光スイッチ素子アレイを構成する本発明の発光サイリスタT0〜Tnと、3端子発光素子アレイを構成する本発明の発光サイリスタL1〜Lnとが、それぞれ直線状に配列されて並列に配設されており、それぞれの素子アレイの対応した発光サイリスタT1〜Tnのゲート端子と発光サイリスタL1〜Lnのゲート端子とが電気的に接続されており(例えば、3端子発光スイッチ素子アレイのi番目(i<n)の発光サイリスタTiのゲート端子と、3端子発光素子アレイのi番目の発光サイリスタLiのゲート端子とが接続される。)、スタート用のスイッチサイリスタT0のゲート端子にはスタートパルスラインφSが接続されて信号入力部とされている。このスタート用のスイッチサイリスタT0を含めて、3端子発光スイッチ素子アレイの発光サイリスタのアノード端子には、3本のクロックライン(φ1〜φ3)がそれぞれ順次3個おきに1本ずつ接続されている。
このように構成された例を基に、本発明の発光装置におけるスイッチング信号の転送および発光の動作について説明する。
スイッチング信号の転送のスタートは、スタート用のスイッチサイリスタT0のアノード端子に接続されたクロックラインφ3がハイレベルになり、スタートパルスラインφSがハイレベルからローレベル(発光サイリスタT0の発光条件を満たすゲート電圧以下の電圧)に変化することにより始まる。これによりスタート用のスイッチサイリスタT0がオン状態になり、発光する。このスタート用のスイッチサイリスタT0からの発光は、その一部が近傍の次の発光サイリスタT1に最も強く入射するよう構成されており、この光照射により発光サイリスタT1の発光のしきい電圧が低下する。
次に、発光サイリスタT0から発光サイリスタT1へのオン条件の転送について説明する。発光サイリスタT0からの発光による光照射により、発光サイリスタT1の発光のしきい電圧が低下し、この状態で発光サイリスタT1のゲート端子に接続されているクロックラインφ1をローレベルからハイレベルに変化させる。このとき、同じクロックラインφ1がゲート端子に接続されている発光サイリスタT4は、スタート用のスイッチサイリスタT0から十分離れているため、スタート用のスイッチサイリスタT0の発光の光照射による発光のしきい電圧の低下はほとんどない。そこで、クロックラインφ1のハイレベルVH(φ1)を、発光サイリスタT4の発光のしきい電圧VTH(T4)と発光サイリスタT1の発光のしきい電圧VTH(T1)との間の電圧となるように設定すれば(すなわち、VH(φ1)をVTH(T1)<VH(φ1)<VTH(T4)と設定すれば)、発光サイリスタT1のみがオン状態になり発光する。
発光サイリスタT1がオン状態となって発光した後、クロックラインφ3をハイレベルからローレベルに変化させることにより、発光サイリスタT0はオフ状態になり発光が終了する。こうして3端子発光スイッチ素子アレイを構成する発光サイリスタのオン状態はスタート用のスイッチサイリスタT0から次の発光サイリスタT1に転送される。このとき、スタートパルスラインφSをローレベルからハイレベルに変化させることにより、再度クロックラインφ3をハイレベルに変化させても、スタート用のスイッチサイリスタT0はオフ状態を保つ。ここで、発光のための電圧または電流を供給するラインφIをローレベルからハイレベルにする。3端子発光素子アレイの1番目の発光サイリスタL1は対応する3端子発光スイッチ素子アレイの発光サイリスタT1がオン状態のため、そのゲート端子にかかる電圧はほぼ0Vとなるが、3端子発光素子アレイの2番目の発光サイリスタL2は3端子発光スイッチ素子アレイの対応する発光サイリスタT2がオフ(光励起)状態であり、3端子発光素子アレイの1,2番目の発光サイリスタL1,L2の発光のしきい電圧をそれぞれVTH(L1),VTH(L2)とすると、前述したようにクロックラインφ1のハイレベルVH(φI)をVTH(L1)<VH(φI)<VTH(L2)となるように設定すれば、発光サイリスタL1のみオン状態となり、発光する。そして、発光のための電圧または電流を供給するラインφIをハイレベルからローレベルにすると、3端子発光素子アレイの1番目の発光サイリスタL1はオフになり発光は終了する。
以上のようにして3端子発光スイッチ素子アレイによるスイッチング信号の転送とそれに対応させた3端子発光素子アレイによる発光の動作とを順次繰り返すことにより、スタート用のスイッチサイリスタT0のオン状態(発光状態)がスイッチング信号として発光サイリスタT1,T2,T3・・・へと順次転送され、それに対応して発光サイリスタL1,L2,L3・・・の発光動作の制御が行なわれる。
なお、3端子発光スイッチ素子アレイの動作のためにクロックパルスを供給するクロックラインとしてφ1,φ2,φ3の3本が必要な理由は、3端子発光スイッチ素子アレイにおいてスイッチング信号が転送されて発光状態にある例えば発光サイリスタT2に対しては、その発光による光が両隣の発光サイリスタT1およびT3に照射されてこれらが共に発光のしきい電圧またはしきい電流が低下した状態にあるため、クロックラインが2本では発光サイリスタT2の次にT1およびT3の両方が発光状態になってしまい、T1からT2へ、T2からT3へと順次転送していくことができないためである。
なお、3端子発光スイッチ素子アレイの各発光サイリスタT1,T2,T3・・・からの発光は、直線状に配列された隣接する発光サイリスタへ向かう方向のみでなく、基板の表面に垂直方向(基板の表面に対して各発光サイリスタT1,T2,T3・・・から外部へ向かう方向)および各発光サイリスタT1,T2,T3・・・に対応させて3端子発光スイッチ素子アレイに並列に配設された3端子発光素子アレイの発光サイリスタL1,L2,L3・・・へ向かう方向へも生じる。これら基板の表面に垂直方向の発光および3端子発光素子方向の発光は、発光装置からのバイアス光として画像記録において画像ノイズの原因となったり、3端子発光素子の発光に対して誤動作を引き起こすノイズとなったりすることがある。そこで、基板の表面に垂直方向の発光および3端子発光素子方向の発光は、図3および図4に示すように遮光層14を設けて遮光することが好ましい。これにより、3端子発光スイッチ素子アレイ16からの漏れ光を遮光膜14で確実に遮光することができるので、そのような漏れ光による画質の劣化がない、優れた画像品質を得ることができる発光装置となる。
このような遮光層14としては、3端子発光スイッチ素子からの発光を2〜3μm程度の厚みでほぼ完全に吸収するようなものであれば種々の材料が使用可能であり、例えば、ポリイミド等をスピンコーティングし、フォトエッチングで所定のパターンに加工して形成すればよい。
なお、図3および図4に示す例のような構成の場合には、基板の表面に垂直方向の発光に対する遮光層として発光サイリスタの半導体層の上に位置している金属層10を利用することができ、3端子発光素子方向の発光に対する遮光層として3端子発光スイッチ素子としての発光サイリスタのゲート端子8と3端子発光素子としての発光サイリスタのゲート端子8とを共通化した導体層を利用することができる。
また、図4に示すように3端子発光スイッチ素子としての発光サイリスタのアノード端子7を第5のp型半導体層6のほぼ全面を覆うように形成した金属層10で構成することにより、この金属層10を基板の表面に垂直方向の発光を遮光する遮光層として利用できるとともに、半導体層への電界を均一化でき、これによって積層された半導体層の側面方向へ放射される発光強度を増すことができる。
そして、本発明の画像形成装置は、電子写真方式の画像形成装置であって、本発明の発光装置を感光体への露光装置に使用しているものである。その構成例は、例えば、感光体と帯電装置と露光装置と現像装置と転写装置と定着装置とを有しており、その感光体への露光装置を、本発明の発光サイリスタによる3端子発光スイッチ素子および3端子発光素子を集積化したアレイを、回路基板上に直線状に配置してそれぞれ3端子発光スイッチ素子アレイおよび3端子発光素子アレイを有する発光装置とし、これを用いて同じ回路基板に駆動用ドライバーIC等を搭載して構成する。
このような構成の本発明の画像形成装置によれば、本発明の発光装置を感光体への露光装置に使用していることから、本発明の発光サイリスタによる3端子発光スイッチ素子および3端子発光素子を集積化したアレイを用いて露光装置を安価に製造することができ、また、露光装置からバイアス光や漏れ光も発生しないので、安価で高画質の画像が形成できる露光装置を備えた画像形成装置を提供できるものとなる。
なお、本発明は上述の実施の形態の例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々の変更・改良等が可能である。