JP4441183B2 - 金属製薄板製品の残留応力低減方法 - Google Patents

金属製薄板製品の残留応力低減方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、主としてプレス加工された金属製薄板製品の残留応力を低減する加工方法と、および特に金型内で薄鋼板を冷却する金型装置に関する。本発明で、薄板製品とは板厚5mm以下の製品と定義する。
【0002】
【従来の技術】
金属製薄板のプレス加工技術は、機械製造業や電気機器製造業をはじめとして、輸送用機器製造業、鉄鋼業など、様々な業界で用いられ、金属製薄板に対しては、生産性の高い、高精度加工法として、最も一般的に用いられている加工法である。
一方、金属製薄板に、塑性加工を加えると、残留応力により、スプリングバックやしわといった形状変化が発生したり、また腐食環境下では応力腐食割れといった問題を引き起こすことがある。
【0003】
これに対して、加工後の残留応力を低減する方法としては、製品を加熱炉で焼き鈍す方法、製品が板状の場合には、張力を負荷したり、複数のロールで繰り返し曲げ変形を与える方法などが、一般に用いられる。一方、薄板の形状矯正あるいは、加工性を向上させるため、金型や金属製原板を加熱してプレスする温間加工法がある。
【0004】
しかして、固体接触界面の伝熱現象に関し、固体の熱弾性挙動により、特定な条件下で、接触が不安定になる熱弾性不安定現象が誘起されることが知られており(例えば非特許文献1)、例えば、ディスクブレーキの異常加熱の発生予測などに利用されているが、残留応力の低減といった積極的な目的で、この現象を利用した例は無い。
また、特許文献1に、鍛造部品の残留応力低減を目的として、熱間鍛造後、温度500〜700℃で30分〜2時間保持する発明が開示されている。
また特許文献2に、プレス材料の割れやしわなどの成形不具合の発生を防止するため、プレス材料に接する金型表面の一部若しくは全面に、複数の凹部を形成し、この凹部の平均直径を30μm〜100μmに、平均深さを1μm〜10μmにそれぞれ形成すると共に、複数の凹部の平均間隔をその平均直径の1.3倍〜3倍に形成する発明が開示されている。
【0005】
【非特許文献1】
J. R. Barber and M. Comninou, Thermoelastic contact problems,
in Thermal Stresses III (ed. R. Hetnarski), North Holland,
Amsterdam (1989), pp.1-106.
【特許文献1】
特開昭60−6235号公報
【特許文献2】
特開平6−210370号公報
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
焼鈍により残留応力を低減する方法は、加工時間が長く生産性が低いこと、またエネルギー効率が悪いこと、さらに、残留応力が開放されることにより冷却後の形状が変化するといった問題がある。
また張力を負荷したり、複数ロールで繰り返し曲げ変形を与える方法は、圧延板など板状の製品のみに適用可能で、複雑な形状にプレス成形された製品に用いることはできない。
【0007】
一方、温間プレス方法は、金型の加熱に、多量のエネルギーを要するという問題があり、また、金属製原板を加熱する場合でも、金型に接触した面から冷却されるため、均一な冷却を行うことが困難であり、不均一な温度分布により更に大きな残留応力が発生する、といった問題がある。
また、圧延板など板状製品を温間プレスで形状矯正する場合には、板厚方向に塑性変形を与えるため、非常に大きな加圧力を必要とする、という問題がある。
また、特許文献1に開示された発明は、高温で長時間保持する必要があるため、エネルギー効率および生産性が低いという問題がある。
また、特許文献2に開示された発明は、プレス成形時に金型表面とプレス材料間に潤滑油を封じ込めて摺動特性を向上させる目的であり、潤滑油を用いない熱間プレス加工では効果が得られない。
【0008】
本発明は、以上の従来技術の問題点を解決するためになされたもので、主としてプレス加工された金属製薄板製品の残留応力を、極めて簡易に、かつ迅速に低減させることを課題とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上述の課題を解決するため、金属接触面の伝熱現象を利用し、金属板の熱変形挙動を詳細に検討した結果、本発明を完成させたもので、その要旨とするところは以下の通りである。
(1)加工された金属製薄板製品の温度を600〜800℃とし、前記金属製薄板製品の表裏面を、前記金属製薄板製品より温度の低い金型で保持し、押し付け圧を、前記金属製薄板製品の降伏応力の10%以下として保持するとともに、金型と金属製薄板製品の隙間を0以上金属製薄板製品の板厚の10%以下とすることを特徴とする金属製薄板製品の残留応力低減方法。
(2)金型を冷却しながら金属製薄板製品を保持することを特徴とする前記(1)記載の金属製薄板製品の残留応力低減方法。
(3)上下金型の何れか又は双方の表面の一部又は全部に複数の突起を形成した金型で、金属製薄板製品を保持することを特徴とする前記(1)又は(2)記載の金属製薄板製品の残留応力低減方法。
(4)上下金型の何れか又は双方の底部及び/又は縦壁部の一部又は全部に複数の突起を形成した金型で、金属製薄板製品を保持することを特徴とする前記(1)又は(2)記載の金属製薄板製品の残留応力低減方法。
(5)上下金型の何れか又は双方の縦壁部の一部又は全部のみ複数の突起を形成した金型で、金属製薄板製品を保持することを特徴とする前記(1)又は(2)記載の金属製薄板製品の残留応力低減方法。
(6)金型の突起のピッチを金属板の板厚より大きくすることを特徴とする前記(3)〜(5)の何れか1項に記載の金属製薄板製品の残留応力低減方法。
(7)金型の突起の最大高さを、ポンチ及びダイスの隙間と金属板の板厚の差よりも小さく、かつ金属板の表面粗さよりも大きくすることを特徴とする前記(3)〜(6)の何れか1項に記載の金属製薄板製品の残留応力低減方法。
【0010】
【発明の実施の形態】
以下に図面を用いて詳細を説明する。
図1には、本発明に係わる、内部に冷却パイプ3を有する金型2、2′で、加工された金属製薄板製品1を上下から挟んだ状態を示す。この時、金属製薄板製品1は、予め700℃に加熱されており、金型の温度は室温と同一である。
【0011】
図2は、金型2、2′と金属製薄板製品1の接触状態を示す原理図である。ある瞬間、図2(a)で示されるように、金属製薄板製品1と金型2、2′が接触していたとする。この状態では、高温の金属製薄板製品1の接触部は、金型2、2′から冷却されるため、表層部分は熱収縮のため浮き上がり、微少時間後には図2(b)のような状態に変化し、(a)の状態と半波長ずれた位置が、反対側の金型2、2′と接触することになる。上下金型2、2′と金属製薄板製品1の隙間を適正にすることにより、(a)と(b)の状態が繰り返され、繰り返し曲げ変形により、板厚方向の残留応力を低減させることが可能である。
【0012】
上下金型は押し付け圧を付与しなくても上記の効果を得ることができるが、押し付け圧が過大であると、接触部の熱伝達が飽和してしまい、上記現象が発生しにくくなるため、押し付け圧は金属製薄板製品の降伏応力の10%以下とすることが好ましい。一方、押し付け圧の下限は特に定めることなく本発明の効果を得ることができるが、機械動作精度上、少なくとも正の圧下力とすることが好ましい。
【0013】
図2は、模式上、上下金型2、2′と金属製薄板製品1の隙間を誇張して描いているが、実際には、この隙間は金属製薄板製品1の板厚の10%以下にすることにより、上記効果が得られる。一方、金型2、2′間の隙間が金属製薄板製品の板厚より小さいと、製品の板厚方向に塑性変形され、製品寸法精度が低下することになるので、上下金型2、2′と金属製薄板製品1の隙間を製品板厚の0.01%以上として薄板製品が塑性変形しないようにすることが好ましい。
【0014】
また、上下金型2、2′と金属製薄板製品1の隙間を、0として、金属板の全面が金型に接触する場合でも、押し付け圧力を適正な範囲に保持する事によって、接触面圧の分布が変化し、上記と同様なメカニズムで、板厚方向の残留応力を低減させることが可能である。これらは、いずれも図3に示すような、金属接触面の熱抵抗に対する、接触面圧の影響、すなわち接触面圧の増大により接触熱抵抗が低減する性質を利用したものである。接触熱抵抗は、接触面の表面性状(粗さ、酸化スケールの有無等)や、界面の雰囲気などにより変化するため、上記、金型2、2′と金属製薄板製品間の隙間や、押し付け圧力の適正な範囲も、場合により変化する。
【0015】
さらに図5には、金型2の表面に複数の突起4を形成した場合の、金属板1との接触状態を示す原理図を示す。図5(a)では平滑な金型2に、ある表面粗さを有する金属板1が接触する様子を示す。金属板1は一般に表面粗さより周期が長く、かつ高さも高いうねりを有しており、特に鋼板の場合に顕著であり、そのため図5(a)に示すように金型2との接触点が少なく、不均一な冷却となってしまう。これに対して、金型表面の一部又は全部に複数の突起を形成することにより、金属板1との接触点数が増大し、均一な冷却が可能となる。
【0016】
すなわち、図5(b)に示すように、金型2の表面に金属板1の粗さ周期よりも長周期で、かつ粗さよりも高い、複数の突起4を形成することにより、金属板1との接触点数が格段に増大し、均一な冷却が可能となる。図5では、金属板の片面側のみに突起を形成する例を示しているが、この例に限定されるものではなく、金属板1の両面側に突起を設けても良いし、また突起の配置も必ずしも規則的でなくとも良い。
【0017】
また、突起4のピッチpを、金属板1の少なくともうねりのピッチよりは小さく、かつ板厚より大きくすることにより、金属板1との接触点数が増大し、良好な成形が可能となる。
また、突起4の最大高さを、ポンチ及びダイスの隙間と金属板の板厚の差よりも小さく、かつ金属板1の表面粗さよりも大きくすることにより、金属板1と金型2がかじること無く、金属板1との接触点数を増大させることができるので、良好な成形が可能となる。
【0018】
また、本発明は、図6に示すようなポンチ5、ダイス6及びしわ押さえ金型7を有する金型装置を用いて成形を行う場合にも有効であり、この場合、ポンチ5及びダイス6が上下金型2、2′に相当し、ポンチ5、ダイス6の何れか又は双方の縦壁部及び底部は一般に、均一な接触をさせることが困難であり、縦壁部及び/又は底部の金型表面の一部又は全部に前述したような突起を設けることにより更に良好な成形が可能となる。
また、縦壁部は一般に金属板1と金型5、6のかじりを防止するため、隙間を設けてあるため、上下金型の何れか又は双方の縦壁部の一部又は全部のみ、複数の突起を形成することにより、金属板1と金型2がかじること無く、金属板1との接触点数を増大させることができるので、良好な成形が可能となる。
【0019】
【実施例】
本発明の効果を実証するため、予め反り形状を付与した鋼製薄板を用いた実験を行った。図4に、その実験方法を示す。
予め曲げ加工により、所定の曲率に塑性変形させた軟鋼板を、加熱炉内で均一に加熱し、一対の水冷金型で、所定圧力で保持した後、軟鋼板を取り出し、大気中で放冷後、残留変形量を測定した。この時、変形量は、試験片を定盤の上に置いて、反りの高さ(最大値)を測定して表した。
【0020】
実験条件は、下記の通りである。
試験片寸法:長さ=100mm 幅=50mm 厚さ=1.2mm
初期変形量(高さ):1.0mm
試験片材質:SPCC
試験片表面粗度:1.0μm
試験片加熱温度:700℃
金型材質:S45C
金型表面粗度:2.0μm
金型表面温度:20℃
雰囲気:大気中
突起形状:円筒状(直径1.0[mm])
【0021】
表1に実験結果を示す。
試験片加熱温度が低い場合や圧下力が小さい場合には、十分な効果が得られず、また試験片加熱温度が高い場合や圧下力が大きい場合には、変形を助長することが明らかとなった。
次に、原理確認実験結果に基づき、図1に示した、ハット型断面を有するプレス成形品に対して本発明の残留応力低減方法を適用した結果、従来金型開放後に発生していた側壁の反りを、解消することができた。
【0022】
【表1】
Figure 0004441183
【0023】
【発明の効果】
本発明により、主としてプレス加工された金属製薄板製品の残留応力を、極めて簡易な構成で、かつ迅速に低減させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施形態例を示す図である。
【図2】本発明の原理を示す図である。
【図3】接触面圧と接触熱抵抗の関係の一例を示すグラフである。
【図4】本発明の実施例において用いた実験方法を示す図である。
【図5】金型の表面に複数の突起を形成した場合の、金属板との接触状態を示す原理図を示す。
【図6】ポンチ、ダイス及びしわ押さえ金型を有する金型装置を用いて本発明の成形を行う場合の断面図を示す。
【符号の説明】
1:金属製薄板製品
2、2′:金型
3:冷却パイプ
4:突起
5:ポンチ
6:ダイス
7:しわ押さえ金型
p:突起のピッチ

Claims (7)

  1. 加工された金属製薄板製品の温度を600〜800℃とし、前記金属製薄板製品の表裏面を、前記金属製薄板製品より温度の低い金型で保持し、押し付け圧を、前記金属製薄板製品の降伏応力の10%以下として保持するとともに、金型と金属製薄板製品の隙間を0以上金属製薄板製品の板厚の10%以下とすることを特徴とする金属製薄板製品の残留応力低減方法。
  2. 金型を冷却しながら金属製薄板製品を保持することを特徴とする請求項1記載の金属製薄板製品の残留応力低減方法。
  3. 上下金型の何れか又は双方の表面の一部又は全部に複数の突起を形成した金型で、金属製薄板製品を保持することを特徴とする請求項1又は2記載の金属製薄板製品の残留応力低減方法。
  4. 上下金型の何れか又は双方の底部及び/又は縦壁部の一部又は全部に複数の突起を形成した金型で、金属製薄板製品を保持することを特徴とする請求項1又は2記載の金属製薄板製品の残留応力低減方法。
  5. 上下金型の何れか又は双方の縦壁部の一部又は全部のみ複数の突起を形成した金型で、金属製薄板製品を保持することを特徴とする請求項1又は2記載の金属製薄板製品の残留応力低減方法。
  6. 金型の突起のピッチを金属板の板厚より大きくすることを特徴とする請求項3〜5の何れか1項に記載の金属製薄板製品の残留応力低減方法。
  7. 金型の突起の最大高さを、ポンチ及びダイスの隙間と金属板の板厚の差よりも小さく、かつ金属板の表面粗さよりも大きくすることを特徴とする請求項3〜6の何れか1項に記載の金属製薄板製品の残留応力低減方法。
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