JP4437589B2 - ガウス型写真レンズ - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、一眼レフカメラ用に適した高性能なガウス型写真レンズに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来より、写真用の明るい標準レンズとして、ガウス型レンズが多用されており、大口径化、小型化、高性能化、低コスト化等、種々の目的を達成するため様々なレンズが開発されている。
【0003】
従来より、特開平6−337348号公報や特開平11−183792号公報等に開示されたガウス型レンズが知られており、これらのレンズは、絞りを挟んだ前後群のどちらかに接合レンズを含んでいる。
【0004】
これらの接合レンズにおける接合面は、レンズ系全体のペッツバール和を小さくしたり、色消しを行うために曲率が大きくってしまい、レンズ収差上極めて重要なものとなっている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、上述した従来のガウス型レンズにおいて、接合レンズの接合を分離すると、パラメーターが増加してレンズ設計上の自由度が増し、球面収差や非点収差等を良好に補正することが可能となり、レンズ性能を向上させることができる。
【0006】
しかしながら、接合レンズの接合を分離した場合には、部分的に大きな収差が発生してしまい、要求精度が厳しくなって製造適正を欠いてしまうおそれがある。そこで、従来より、接合レンズの接合を分離することにより得られる利点を犠牲にしても、接合面を維持しがちであった。
【0007】
また、大口径化、小型化、高性能化、低コスト化等の諸要求をレンズに反映させようとすると、加工性の悪い高屈折率ガラス材料を使用しなければならなかったり、加工しづらいレンズ形状となったり、組立精度の厳しいレンズとなったりする。このため、従来、カメラ用の標準レンズとして量産を行う場合には、製造適正のみが重要視されており、レンズの高性能化という点において十分検討がなされているとは言い難かった。
【0008】
なお、接合面のないガウス型レンズとして、特公平8−33512号公報や特開平8−220424号公報に記載された実施例のなかに、分離型6群6枚構成のガウス型レンズが開示されている。しかしながら、これらのガウス型レンズは、画角がやや狭いため、像面を平坦化するために接合面の曲率を大きくする必要がなく、接合面の分離を図ることができるものである。
【0009】
本発明は上述した事情に鑑み提案されたもので、コストを含めた従来並みの製造適正を確保しつつ、接合面を分離することによる利点を最大限に生かして、中心から軸外周辺画角まで像面が平坦で高性能なガウス型写真レンズを提供することを目的とするものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、上述した目的を達成するため、物体側から順に、前群、絞りおよび後群を配設してなり、
前記前群は、物体側から順に、それぞれ物体側に凸面を向けた正のメニスカス形状を有する第1レンズおよび第2レンズ、物体側に凸面を向けた負のメニスカス形状を有する第3レンズを配設してなり、
前記後群は、物体側から順に、物体側に凹面を向けた負のメニスカス形状を有する第4レンズ、それぞれ像側に凸面を向けた正のメニスカス形状を有する第5レンズおよび第6レンズを配設してなり、
前記各レンズ間に接合面をもたないガウス型写真レンズにおいて、
以下の条件式(1)〜(5)を満足するように構成されてなることを特徴とするものである。
【0011】
2.6 <(N1−N2)/(N3−N2)< 4.3 ・・・ (1)
1.0 < R4/f < 2.3 ・・・ (2)
1.0 < R4/R5 < 1.3 ・・・ (3)
−3.5 < R10/f < −1.4 ・・・ (4)
1.1 < R9/R10 < 1.6 ・・・ (5)
ただし、
N1 :第1レンズの屈折率
N2 :第2レンズの屈折率
N3 :第3レンズの屈折率
R4 :第2レンズにおける像面側の面の曲率半径
R5 :第3レンズにおける物体側の面の曲率半径
R9 :第4レンズにおける像面側の面の曲率半径
R10 :第5レンズにおける物体側の面の曲率半径
f :レンズ全系の焦点距離
【0012】
また、上記ガウス型写真レンズは、以下の条件式(6)〜(8)を満足するように構成されてなることが好ましい。
0.001 <(D4+D9)/f < 0.017 ・・・ (6)
0.22 < D6〜7/f < 0.30 ・・・ (7)
0.18 < D8 〜 12/f < 0.25 ・・・ (8)
ただし、
D4 :第2レンズと第3レンズの面間隔
D6〜7 :第3レンズと第4レンズの面間隔
D9 :第4レンズと第5レンズの面間隔
D8 〜 12 :第4レンズにおける物体側の面から第6レンズにおける像面側の面までの光軸上の距離
f :レンズ全系の焦点距離
【0013】
さらに、上記ガウス型写真レンズは、以下の条件式(9)〜(11)を満足するように構成されてなることが好ましい。
12.0 <ν2−ν1< 25.0 ・・・ (9)
18.0 <ν2−ν3< 30.0 ・・・ (10)
35.0 < ν3 < 45.0 ・・・ (11)
ただし、
ν1 :第1レンズの硝材のアッベ数
ν2 :第2レンズの硝材のアッベ数
ν3 :第3レンズの硝材のアッベ数
【0014】
ところで、上述した構成からなるガウス型写真レンズでは、第2レンズと第3レンズの互いに対向する面、および第4レンズと第5レンズの互いに対向する面において、その曲率半径が比較的大きくかつ近似した値となるようなレンズ形状とすることにより、これらの対向面における収差発生を極力小さくすることができる。また、このようなレンズ形状を備えた上で、レンズ全体として、球面収差や像面湾曲等を極めて小さなものとする必要がある。
【0015】
そこで、本発明に係るガウス型写真レンズでは、第1レンズを球面収差の発生が極力小さくかつ像面湾曲が小さくなるような正のメニスカス形状とし、その硝材には屈折率が高いながら比較的安価で加工性のよいアッベ数を有する比較的大口径のガラス材料を選択した。
また、第2レンズと第3レンズとは、それぞれ互いに対向する面の曲率が強くならないような硝材を選択する必要がある。
【0016】
そこで、本発明に係るガウス型写真レンズでは、第2レンズの硝材として、屈折率は低いがアッベ数の大きなものを使用し、第3レンズの硝材として、アッベ数がやや大きくかつ屈折率が比較的低いものを使用した。
【0017】
また、前群のレンズには上述したような硝材を使用し、ペッツバール和および色収差の補正に配慮しながら、第2レンズと第3レンズの空気間隔を、第2レンズの像面側の面に対して第3レンズの物体側の面の曲率がより強い正の空気レンズとして作用させ、高次の球面収差を発生させることにより、前群における球面収差の発生を極めて小さいものとするとともに、軸外におけるサジタル方向のコマ収差の発生を抑えることができた。
【0018】
また、後群のレンズには、その最も物体側に配設された第4レンズの硝材として、比較的屈折率が高くかつアッベ数が小さいものを使用し、第5レンズの硝材として、第4レンズと比較して屈折率が高くかつアッベ数が大きいものを使用し、第4レンズと第5レンズの空気間隔を、第4レンズの像面側の面に対して第5レンズの物体側の面の曲率がより強い負の空気レンズとして作用させ、高次の球面収差の発生を抑えながら像面湾曲や特に非点隔差の是正に役立てることができた。
【0019】
また、第6レンズにおいて、第5レンズと同様に屈折率が高くかつアッベ数が大きい硝材を使用し、後群全体における色収差、像面特性などを良好なものとした。
【0020】
このようにして、所期のレンズ形状を備えた上で各レンズに対して上述した硝材を使用し、絞りに対して、物体側に配設した前群と像面側に配設した後群をほぼ対称的に配設し、ガウス型レンズの特徴である色収差や歪曲収差等を最少化することを可能とするとともに、第2レンズと第3レンズの空気間隔を利用した正の空気レンズにより球面収差とサジタル方向を含めたコマ収差を極小化し、第4レンズと第5レンズの空気間隔を利用した負の空気レンズにより像面特性を最良化し、上記各条件式を満足することにより、光軸付近から軸外周辺画角まで像面が平坦で高性能であり、かつ製造適正が良好で大量生産が可能なガウス型写真レンズとすることができた。
【0021】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態に係るガウス型写真レンズを実施例1〜4を用いて説明する。
【0022】
図1は本発明の実施形態(実施例1に対応させたものを代表的に示す)に係るガウス型写真レンズのレンズ基本構成図である。
本発明に係るガウス型写真レンズは、図1に示すように、物体側から順に、前群I、絞り2および後群IIを配設してなり、物体側から光軸Xに沿って入射した光束は結像面1の結像位置Pに結像される。
【0023】
上記前群Iは、物体側から順に、それぞれ物体側に凸面を向けた正のメニスカス形状を有する第1レンズL1および第2レンズL2、物体側に凸面を向けた負のメニスカス形状を有する第3レンズL3を配設してなる。
【0024】
また、上記後群IIは、物体側から順に、物体側に凹面を向けた負のメニスカス形状を有する第4レンズL4、それぞれ像側に凸面を向けた正のメニスカス形状を有する第5レンズL5および第6レンズL6を配設してなる。
【0025】
また、これらのレンズは、以下の条件式(1)〜(11)を満足する。
2.6 <(N1−N2)/(N3−N2)< 4.3 ・・・ (1)
1.0 < R4/f < 2.3 ・・・ (2)
1.0 < R4/R5 < 1.3 ・・・ (3)
−3.5 < R10/f < −1.4 ・・・ (4)
1.1 < R9/R10 < 1.6 ・・・ (5)
0.001 <(D4+D9)/f < 0.017 ・・・ (6)
0.22 < D6〜7/f < 0.30 ・・・ (7)
0.18 < D8 〜 12/f < 0.25 ・・・ (8)
12.0 <ν2−ν1<25.0 ・・・ (9)
18.0 <ν2−ν3<30.0 ・・・ (10)
35.0 < ν3 <45.0 ・・・ (11)
ただし、
N1 :第1レンズの屈折率
N2 :第2レンズの屈折率
N3 :第3レンズの屈折率
R4 :第2レンズにおける像面側の面の曲率半径
R5 :第3レンズにおける物体側の面の曲率半径
R9 :第4レンズにおける像面側の面の曲率半径
R10 :第5レンズにおける物体側の面の曲率半径
D4 :第2レンズと第3レンズの面間隔
D6〜7:第3レンズと第4レンズの面間隔
D9 :第4レンズと第5レンズの面間隔
D8 〜 12:第4レンズにおける物体側の面から第6レンズにおける像面側の面までの光軸上の距離
ν1 :第1レンズの硝材のアッベ数
ν2 :第2レンズの硝材のアッベ数
ν3 :第3レンズの硝材のアッベ数
f :レンズ全系の焦点距離
【0026】
次に、上記各条件式の意義について説明する。
上記条件式(1)は、前群Iを構成する各レンズにおいて硝材を選択する際に必要な各レンズの屈折率N1,N2,N3の値を規定するための条件式である。
【0027】
すなわち、第1レンズL1は、球面収差の発生が極力小さくかつ像面湾曲が小さくなるような正のメニスカス形状とし、硝材には屈折率が高いガラス材料を選択した。また、第2レンズL2と第3レンズL3は、互いに対向する面が強い曲率とならないような硝材とする必要があるので、第2レンズL2の硝材として屈折率の低いものを、第3レンズL3の硝材としてアッベ数がやや大きくかつ屈折率が比較的低いもの使用して、ペッツバール和および色収差等の補正に配慮しながら、第2レンズL2と第3レンズL3の空気間隔D4により適度の高次の球面収差を発生させ、レンズ全系における球面収差の発生を極めて小さいものとした。
【0028】
この条件式(1)において、(N1−N2)/(N3−N2)の値が下限を下回ると、第2レンズL2に対する第1レンズL1の屈折率差が小さくなるか、あるいは第3レンズL3に対する第2レンズL2の屈折率差が大きくなるので、以下の問題が生じる。
【0029】
すなわち、第1レンズL1の屈折率が小さくなるために、球面収差や像面湾曲が増大してしまう。また、第2レンズL2の屈折率が大きくなるとともに第3レンズL3の屈折率も大きくなるために、第2レンズL2と第3レンズL3の互いに対向する面で構成される空気レンズが色消し条件等で負の屈折力を持つようになる。このため、適度の高次の球面収差を発生させることができなくなり、レンズ全系における球面収差や軸外のサジタル方向のコマ収差が増大する。
【0030】
一方、条件式(1)において(N1−N2)/(N3−N2)の値が上限を上回ると、第2レンズL2に対する第1レンズL1の屈折率差が大きくなるか、あるいは第3レンズL3に対する第2レンズL2の屈折率差が小さくなるので、次の問題が生じる。
【0031】
すなわち、第1レンズL1の屈折率を大きくするために、硝材費が上昇したり、硬くて加工しづらいレンズとなってしまう。また、第2レンズL2の屈折率が小さくなるとともに第3レンズL3の屈折率も小さくなるので、第2レンズL2と第3レンズL3の互いに対向する面の曲率半径が小さくなり過ぎて、色消しを行うことが困難になるとともに収差が発生してしまう。
【0032】
上記条件式(2)は、第2レンズL2と第3レンズL3を分離させたことにより生じる製造上の問題点を解決するための条件式である。
この条件式(2)において、R4/fの値が下限を下回ると、第2レンズL2の像面側の面の曲率半径R4が小さくなり、これに伴って第3レンズL3の物体側の面の曲率半径R5も小さくなり、収差が発生しやすくなるとともに、コマ収差等が劣化してレンズ性能が低下してしまう。
【0033】
一方、条件式(2)において、R4/fの値が上限を上回ると、製造上の問題はより軽減されるものの、屈折力をある程度大きく維持する必要があるため、第2レンズL2の物体側の面の曲率半径R4が大きくなり、これに伴って第3レンズL3の像面側の面の曲率半径R5も大きくなって、球面収差等は良好となるものの、像面湾曲等が劣化してしまう。これに対して、第2レンズL2の物体側の面の曲率半径R4および第3レンズL3の像面側の面の曲率半径R5を大きくせずに、屈折力をある程度大きく維持するためには、硝材費が上昇したり、硬くて加工しづらいレンズとなってしまう。
【0034】
上記条件式(3)は、上記条件式(2)の範囲内で、第2レンズL2と第3レンズL3の互いに対向する面の空気間隔D4により構成される空気レンズが、適度の高次球面を発生させることにより、レンズ全系における球面収差や軸外のサジタル方向のコマ収差等の諸収差をバランス良く補正するための条件式である。
【0035】
この条件式(3)において、R4/R5の値が下限を下回ると、第2レンズL2と第3レンズL3の互いに対向する面の空気間隔D4により構成される空気レンズの正の屈折力が小さくなり過ぎて、高次の球面収差を発生させるには不十分となり、レンズ性能を高めることができない。
【0036】
一方、条件式(3)において、R4/R5の値が上限を上回ると、第2レンズL2と第3レンズL3の互いに対向する面の空気間隔D4により構成される空気レンズの正の屈折力が大きくなり過ぎて、高次の球面収差の発生が過度となり、コマ収差等の劣化を招いたり、偏芯感度が厳しくなり、レンズの製造が難しくなってしまう。
【0037】
上記条件式(4)および条件式(5)は、後群IIにおける第4レンズL4および第5レンズL5の互いに対向する面の曲率半径R9およびR10の値に基づいて、第4レンズL4と第5レンズL5の互いに対向する面の空気間隔D9により構成される空気レンズの屈折力を規定することにより、主として像面特性を良好に維持するための条件式である。
【0038】
この条件式(4)において、R10/fの値が下限を下回ると、第5レンズL5の物体側の面の曲率半径R10が負方向に大きくなるとともに、全系の焦点距離等の諸条件を一定に保つために第4レンズL4の像面側の面の曲率半径R9も負方向に大きくなって、ペッツバール和を小さくして像面特性を良好とすることができるものの、球面収差との間でアンバランスを生じたり、色収差を劣化させてしまう。これに対して、第4レンズL4および第5レンズL5の硝材を変更することも可能であるが、各々の屈折率を変更することが必要となり、硝材費が上昇したり、硬くて加工しづらいレンズとなってしまう。
【0039】
一方、条件式(4)において、R10/fの値が上限を上回ると、第5レンズL5の物体側の面の曲率半径R10が負方向に小さくなるに従って第4レンズL4の像面側の面の曲率半径R9も負方向に小さくなって、像面特性を悪化させてしまう。
【0040】
上記条件式(5)は、上記条件式(4)の範囲内で、第4レンズL4と第5レンズL5の互いに対向する面の空気間隔D9で構成される空気レンズに対して、わずかな正の屈折力を持たせることにより、タンジェンシャル方向とサジタル方向との非点隔差をなくして良好な軸外性能を得るための条件式である。
【0041】
この条件式(5)において、R9/R10の値が下限を下回ると、タンジェンシャル方向の像面倒れがサジタル方向の像面倒れよりも大きくなって非点隔差が大きくなってしまう。
【0042】
一方、条件式(5)において、R9/R10の値が上限を上回ると、タンジェンシャル方向の像面がサジタル方向の像面に比べてオーバー方向に大きくなり、逆の非点隔差が大きくなってしまう。
【0043】
上記条件式(6)〜(8)は、各レンズの配置条件を規定することにより、コストを含めた製造の適正化をさらに推し進めるための条件式であり、これらの条件式を満足することにより、鏡胴上のメカ部品の点数削減や接合面を分離したことによる製造上の問題を解決することができる。
【0044】
上記条件式(6)は、第2レンズL2と第3レンズL3の空気間隔D4を狭めることにより、第2レンズL2と第3レンズL3の空気間隔D4において1枚のマイラー板を挟むだけで十分な間隔精度を引き出すことができるとともに、間隔環のような金属加工部品を必要としないのでコスト的にも有利となる。また、第4レンズL4と第5レンズL5の空気間隔D9の間隔を狭めることにより、第4レンズL4および第5レンズL5をエッジコンタクトとすることができ、メカ部品を削減することができるとともに、間隔精度を向上させることができる。
【0045】
この条件式(6)において、(D4+D9)/fの値が下限を下回ると、空気間隔D4およびD9が小さくなり過ぎて、対向する面の間でニュートン干渉縞を発生させたり、マイラー板が薄くなり過ぎて組立が難しくなる。
【0046】
一方、条件式(6)において、(D4+D9)/fの値が上限を上回ると、マイラー板を使用することができずに間隔環を使用せざるを得なくなったり、エッジコンタクトにおける当り径が大きくなるため、レンズ有効径以上の無駄なレンズ外径が必要となってコストが上昇する。
【0047】
ところで、接合面を分離することにより増透コートが2面増加したり、メカ部品点数が増えたりしてコストが上昇する場合もある。しかしながら、接合工程もかなりの時間と作業を必要とするため、同レベルの接合コストが生じて、接合レンズがコスト的に有利であるとはいえない。
【0048】
上記条件式(7)は、前群Iと後群IIの空気間隔D6〜7に関する条件式である。
この条件式(7)において、D6〜7/fの値が下限を下回ると、前群Iおよび後群IIにおける周辺光量が増加するものの、軸外中間画角におけるサジタル方向の過剰なコマ収差をカットすることができずにコントラストが低下する。また、レンズ押さえ環をレンズ面で受けることができなくなるため、精度良くレンズを固定することができずに空気間隔D6〜7が変動し、像面湾曲のバラつきを助長してしまう。
【0049】
一方、条件式(7)において、D6〜7/fの値が上限を上回ると、軸外周辺光束の光線高さが大きくなり過ぎて、周辺光量が低下したり、レンズ系の口径が大きくなり過ぎてしまう。
【0050】
上記条件式(8)は、後群IIにおいて、最も物体側に配設された第4レンズL4の物体側の面から、最も物体側に配設された第6レンズL6の像面側の面までにおける、光軸上の距離D8〜12に関する条件式である。
【0051】
すなわち、一眼レフカメラ用レンズは、適度のバックフォーカスを必要とする一方、レンズ厚が大きくなり過ぎても不適当であるため、この条件式(8)により適度なバックフォーカスおよびレンズ厚となるように規定している。
【0052】
この条件式(8)において、D8〜12の値が式の下限を下回ると、レンズの薄肉化には有利であるものの、バックフォーカスが短くなり過ぎて一眼レフカメラ用レンズとして適さなくなる。
【0053】
一方、条件式(8)において、D8〜12の値が上限を上回ると、十分なバックフォーカスを得られるものの、レンズが厚くなり過ぎてコストが上昇するとともに、レンズの大型化に繋がってしまう。
【0054】
上記条件式(9)〜(11)は、前群Iを構成する第1レンズL1〜第3レンズL3の硝材に関するもので、コストや製造上の問題を軽減するための条件式である。特に、本発明に係るガウス型写真レンズの特徴である前群Iを構成する第1レンズL1〜第3レンズL3の屈折率の割り振りに鑑みて、各硝材を選択する意味で重要な条件式となっている。これらの条件式(9)〜(11)を満足することにより、上記条件式(1)〜(5)を満足した上で、コストを低減するとともに、加工が比較的容易な硝材の組み合わせが可能となり、製造上の適正化を図ることができる。
【0055】
上記条件式(9)は、第1レンズL1および第2レンズL2の材料選択に関する条件式である。
【0056】
この条件式(9)において、ν2−ν1の値が下限を下回ると、第1レンズL1および第2レンズL2の硝材のアッベ数の差が小さくなリ過ぎる。このため、第1レンズL1の硝材のアッベ数が大きくなれば負の倍率色収差が大きくなり、第2レンズL2の硝材のアッベ数が小さくなれば軸上色収差が補正不足となって、倍率色収差と軸上色収差とのバランスが崩れてしまう。このような問題を解決するためには、たとえ第3レンズL3の硝材のアッベ数を変更したとしても倍率色収差を良好に補正することは極めて困難である。このため、第2レンズL2と第3レンズL3の互いに対向する面において収差補正を行わなければならず、上記条件式(2)の範囲から外れてしまう。
【0057】
一方、条件式(9)において、ν2−ν1の値が上限を上回ると、第1レンズL1の硝材のアッベ数が小さくなれば正の倍率色収差が大きくなり、第2レンズL2の硝材のアッベ数が大きくなれば軸上色収差が補正過剰となり過ぎる。このような問題を解決するためには、上述したように、第2レンズL2と第3レンズL3の互いに対向する面において収差補正を行わなければならず、上記条件式(2)の範囲から外れてしまう。
【0058】
上記条件式(10)は、第2レンズL2および第3レンズL3の材料選択に関する条件式である。
この条件式(10)において、ν2−ν3の値が下限を下回ると、第2レンズL2および第3レンズL3の硝材のアッベ数の差が小さくなり過ぎる。このため、軸上色収差が補正不足となって十分な色消しを行うことができず、たとえ第1レンズL1の硝材のアッベ数により補正したとしても、倍率色収差の変化が大きすぎて補正しきれない。このため、第2レンズL2と第3レンズL3の互いに対向する面において収差補正を行わなければならず、上記条件式(2)の範囲から外れてしまう。
【0059】
一方、条件式(10)において、ν2−ν3の値が上限を上回ると、軸上色収差が大きくなり過ぎてしまい、これを補正しようとすると、第2レンズL2と第3レンズL3の互いに対向する面において収差補正を行わなければならず、上記条件式(2)の範囲から外れてしまう。
【0060】
上記条件式(11)は、第3レンズL3の硝材のアッベ数に関して使用する硝材を制限するための条件式である。
この条件式(11)において、ν3の値が下限および上限を超えると、軸上色収差の補正が過剰あるいは不足となって、バランス良く軸上色収差を補正することができない。このため、第2レンズL2の硝材のアッベ数をより小さいものとしたり、あるいはより大きいものとしなくてはならず、上記条件式(1)〜(5)を満足した上で前群Iにおける第1レンズL1〜第3レンズL3の硝材を選択することが困難となる。
【0061】
以下、実施例1〜4の各々について具体的数値を用いて説明する。
【0062】
<実施例1>
実施例1における各レンズ面の曲率半径R(mm)、各レンズの中心厚および各レンズ間の空気間隔D(mm)、各レンズのd線における屈折率Ndおよびアッベ数νdを下記表1に示す。
ただし、この表1および後述する表2〜4において、各記号R,D,Nd,νdに対応させた数字は物体側から順次増加するようになっている。
【0063】
また、表1の中段に、この実施例1におけるレンズ系全体の合成焦点距離f、バックフォーカスBf、FNo、画角2ωの値を示す。
さらに、表1の下段に、この実施例1における上記条件式(1)〜(11)に関する(N1−N2)/(N3−N2)、R4/f、R4/R5、R10/f、R9/R10、(D4+D9)/f、D6〜7/f、D8〜12/f、ν2−ν1、ν2−ν3、ν3の各値を示す。
【0064】
【表1】
【0065】
上記表1から明らかなように、実施例1では条件式(1)〜(11)の全てが満足されている。
【0066】
<実施例2>
実施例2における各レンズ面の曲率半径R(mm)、各レンズの中心厚および各レンズ間の空気間隔D(mm)、各レンズのd線における屈折率Ndおよびアッベ数νdを下記表2に示す。
【0067】
また、表2の中段に、この実施例2におけるレンズ系全体の合成焦点距離f、バックフォーカスBf、FNo、画角2ωの値を示す。
さらに、表2の下段に、この実施例2における上記条件式(1)〜(11)に関する(N1−N2)/(N3−N2)、R4/f、R4/R5、R10/f、R9/R10、(D4+D9)/f、D6〜7/f、D8〜12/f、ν2−ν1、ν2−ν3、ν3の各値を示す。
【0068】
【表2】
【0069】
上記表2から明らかなように、実施例2では条件式(1)〜(11)の全てが満足されている。
【0070】
<実施例3>
実施例3における各レンズ面の曲率半径R(mm)、各レンズの中心厚および各レンズ間の空気間隔D(mm)、各レンズのd線における屈折率Ndおよびアッベ数νdを下記表3に示す。
【0071】
また、表3の中段に、この実施例3におけるレンズ系全体の合成焦点距離f、バックフォーカスBf、FNo、画角2ωの値を示す。
さらに、表3の下段に、この実施例3における上記条件式(1)〜(11)に関する(N1−N2)/(N3−N2)、R4/f、R4/R5、R10/f、R9/R10、(D4+D9)/f、D6〜7/f、D8〜12/f、ν2−ν1、ν2−ν3、ν3の各値を示す。
【0072】
【表3】
【0073】
上記表3から明らかなように、実施例3では条件式(1)〜(11)の全てが満足されている。
【0074】
<実施例4>
実施例4における各レンズ面の曲率半径R(mm)、各レンズの中心厚および各レンズ間の空気間隔D(mm)、各レンズのd線における屈折率Ndおよびアッベ数νdを下記表4に示す。
【0075】
また、表4の中段に、この実施例4におけるレンズ系全体の合成焦点距離f、バックフォーカスBf、FNo、画角2ωの値を示す。
さらに、表4の下段に、この実施例4における上記条件式(1)〜(11)に関する(N1−N2)/(N3−N2)、R4/f、R4/R5、R10/f、R9/R10、(D4+D9)/f、D6〜7/f、D8〜12/f、ν2−ν1、ν2−ν3、ν3の各値を示す。
【0076】
【表4】
【0077】
上記表4から明らかなように、実施例4では条件式(1)〜(11)の全てが満足されている。
【0078】
また、実施例1〜4における各収差(球面収差、像面湾曲、歪曲収差)を図2〜5に示す。なお、各球面収差の収差図には正弦条件を併せて示し、各像面湾曲の収差図には、サジタル像面およびタンジェンシャル像面における収差が示されている。
これら図2〜5から明らかなように、上述した各実施例によれば、諸収差を全て良好なものとすることができる。
【0079】
なお、本発明に係るガウス型写真レンズとしては、上記実施例のものに限られず種々の態様の変更が可能であり、例えば各レンズの曲率半径Rおよびレンズ間隔(もしくはレンズ厚)Dを適宜変更することが可能である。
【0080】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明に係るガウス型写真レンズは、各レンズ間に接合面をもたせずにレンズ系を構成するとともに、所定の条件式を満足している。これにより、コストを含めた従来並みの製造適正を確保しつつ、接合面を分離することによる利点を最大限に生かして、中心から軸外周辺画角まで像面が平坦で高性能なレンズとすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係るガウス型写真レンズのレンズ基本構成を示す概略図
【図2】本発明の実施例1に係るレンズの各収差図(球面収差、像面湾曲、歪曲収差)
【図3】本発明の実施例2に係るレンズの各収差図(球面収差、像面湾曲、歪曲収差)
【図4】本発明の実施例3に係るレンズの各収差図(球面収差、像面湾曲、歪曲収差)
【図5】本発明の実施例4に係るレンズの各収差図(球面収差、像面湾曲、歪曲収差)
【符号の説明】
L1〜L6 レンズ
R1〜R13 レンズ面の曲率半径
D1〜D12 レンズ面間隔(レンズ厚)
X 光軸
P 結像位置
1 結像面
2 絞り
Claims (3)
- 物体側から順に、前群、絞りおよび後群を配設してなり、
前記前群は、物体側から順に、それぞれ物体側に凸面を向けた正のメニスカス形状を有する第1レンズおよび第2レンズ、物体側に凸面を向けた負のメニスカス形状を有する第3レンズを配設してなり、
前記後群は、物体側から順に、物体側に凹面を向けた負のメニスカス形状を有する第4レンズ、それぞれ像側に凸面を向けた正のメニスカス形状を有する第5レンズおよび第6レンズを配設してなり、
前記各レンズ間に接合面をもたないガウス型写真レンズにおいて、
以下の条件式(1)〜(5)を満足するように構成されてなることを特徴とするガウス型写真レンズ。
2.6 <(N1−N2)/(N3−N2)< 4.3 ・・・ (1)
1.0 < R4/f < 2.3 ・・・ (2)
1.0 < R4/R5 < 1.3 ・・・ (3)
−3.5 < R10/f < −1.4 ・・・ (4)
1.1 < R9/R10 < 1.6 ・・・ (5)
ただし、
N1 :第1レンズの屈折率
N2 :第2レンズの屈折率
N3 :第3レンズの屈折率
R4 :第2レンズにおける像面側の面の曲率半径
R5 :第3レンズにおける物体側の面の曲率半径
R9 :第4レンズにおける像面側の面の曲率半径
R10 :第5レンズにおける物体側の面の曲率半径
f :レンズ全系の焦点距離 - 以下の条件式(6)〜(8)を満足するように構成されてなることを特徴とする請求項1記載のガウス型写真レンズ。
0.001 <(D4+D9)/f < 0.017 ・・・ (6)
0.22 < D6〜7/f < 0.30 ・・・ (7)
0.18 < D8 〜 12/f < 0.25 ・・・ (8)
ただし、
D4 :第2レンズと第3レンズの面間隔
D6〜7 :第3レンズと第4レンズの面間隔
D9 :第4レンズと第5レンズの面間隔
D8 〜 12 :第4レンズにおける物体側の面から第6レンズにおける像面側の面までの光軸上の距離
f :レンズ全系の焦点距離 - 以下の条件式(9)〜(11)を満足するように構成されてなることを特徴とする請求項2記載のガウス型写真レンズ。
12.0 <ν2−ν1< 25.0 ・・・ (9)
18.0 <ν2−ν3< 30.0 ・・・ (10)
35.0 < ν3 < 45.0 ・・・ (11)
ただし、
ν1 :第1レンズの硝材のアッベ数
ν2 :第2レンズの硝材のアッベ数
ν3 :第3レンズの硝材のアッベ数
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