JP4434622B2 - 熱重合型アクリル塗料,塗装金属板及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、大きな加工速度で成形する際に加わる衝撃によっても亀裂,脱落等の欠陥が発生しない塗膜の形成に適した熱重合型アクリル塗料,塗装金属板及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
塩化ビニルを主成分とした塗料は、種々の分野で使用されている。たとえば、塩化ビニル樹脂塗装金属板は、耐久性,加工性,耐疵付き性,防火性等に優れ、10〜30年の長期にわたって優れた特性が持続されることから、内装材,外装材,表装材,電気製品用筐体等に多用されている。塩化ビニル樹脂塗装金属板は、通常、液状可塑剤に塩化ビニル樹脂等を分散させた塩化ビニル・ゾル塗料を前処理された金属板に塗布・焼付けし、塩化ビニル樹脂塗膜を形成することによって製造されている。
【0003】
塩化ビニル・ゾル塗料は、塩化ビニル樹脂,可塑剤の種類,混合量を調節することにより優れた貯蔵安定性を呈し、ロールコート,カーテンコート,ダイコート等で容易に厚膜形成できるため、下地金属に達する疵も少なく、耐疵付き性,耐久性に優れた塗装金属板が製造される。得られた塗装金属板は、加工性,加工部耐食性も良好であり、塩化ビニル樹脂塗膜が自消性を示すことから防火性が要求される屋根材等の建築資材にも適している。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
塩化ビニル樹脂塗装金属板は、耐疵付き性,耐久性,加工性,加工部耐食性等に優れているものの、ダイオキシン発生源の一つに塩化ビニル樹脂が挙げられていることから廃材処理に工夫を要する。従来の廃材処理プロセスでは、回収した塩化ビニル樹脂塗装金属板を1500℃以上の温度に加熱し、塩化ビニル樹脂塗膜が溶融除去された金属板を再利用している。1500℃以上で高温加熱するとき、塩化ビニルの溶融時にダイオキシンが発生する虞はほとんどない。しかし、1500℃以上の高温加熱は多量に熱エネルギーを消費するので、環境負荷がより小さい塩化ビニル樹脂代替材料の開発が急務である。
【0005】
塩化ビニル樹脂塗装金属板の代替として、耐候性に優れたフッ素樹脂塗装金属板,ウレタン樹脂塗装金属板が知られている。フッ素樹脂,ウレタン樹脂等の塗膜は、膜厚が20〜40μm程度であり、塩化ビニル樹脂塗装金属板の膜厚200μmに比べて薄い。塗膜が薄い塗装金属板を屋根材等に使用すると、下地金属に至る疵がつかないように細心の注意が施工時に必要となる。
フッ素樹脂,ウレタン樹脂塗料から樹脂塗膜を厚膜形成する場合、樹脂塗膜の表面が荒れやすい。すなわち、多量の塗料を塗装原板に塗布し、熱風乾燥させると、初期段階で塗料表面の乾燥が先行し、塗料内部に残存している有機溶剤が後から気化する。気化した有機溶剤は、乾燥した塗膜表面の下で気泡となり、ワキ,肌荒れ等の塗膜欠陥の原因になる。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明は、このような問題を解消すべく案出されたものであり、未重合の(メタ)アクリル系単量体を含むアクリル樹脂をベースとする塗料に可塑剤を配合することにより、塩化ビニル樹脂塗膜と同等の膜厚で、ワキ,肌荒れ等の欠陥なく厚膜化が可能で、加工速度の大きなプレス成形等でも亀裂,脱落等が生じがたいアクリル樹脂塗膜を形成することを目的とする。
【0007】
本発明の熱重合型アクリル塗料は、未重合の(メタ)アクリル系単量体:90〜10質量部,重量平均分子量1000〜1000000の(メタ)アクリル系重合体:10〜90質量部からなるアクリル系混合物100質量部に、熱ラジカル重合開始剤:0.1〜5質量部,架橋剤:0.1〜20質量部,分子量500以上の可塑剤:1〜20質量部を配合し、粘度を1〜100Pa・sに調整している。
【0008】
アクリル系混合物は、既重合の(メタ)アクリル系重合体と未重合の(メタ)アクリル系単量体を混合し、或いは(メタ)アクリル系単量体を部分重合させることにより用意される。(メタ)アクリル系重合体としては、ガラス転移温度:−20〜60℃(好ましくは、0〜40℃)の重合体が使用される。熱重合型アクリル塗料には、必要に応じ顔料:0.1〜100質量部を配合しても良い。熱ラジカル重合開始剤には、たとえば過酸化物系重合開始剤が使用される。
熱重合型アクリル塗料を金属板に塗布し、(メタ)アクリル系単量体の5質量%以上を揮散させながら重合硬化させることにより、加工性,耐衝撃性の良好なアクリル樹脂塗膜を設けた塗装金属板が製造される。
【0009】
【実施の態様】
〔熱重合型アクリル塗料の調製〕
熱重合型アクリル塗料は、未重合の(メタ)アクリル系単量体,既重合の(メタ)アクリル系重合体を混合したアクリル系混合物をベース樹脂としている。未重合(メタ)アクリル系単量体,既重合(メタ)アクリル系重合体の配合比率は、10:90〜90:10の範囲で選定される。既重合(メタ)アクリル系重合体の配合量が少なすぎると硬化時に揮発量が多く、塗膜の平滑性が劣化しやすい。逆に既重合(メタ)アクリル系重合体の配合量が多すぎると塗料の粘度が上昇し、塗工時に不具合を生じ易くなる。
【0010】
未重合(メタ)アクリル系単量体は、分子内にアクリロイル基,メタクリロイル基の何れかを1個以上を有する化合物であり、(メタ)アクリル酸アルキルエステル,脂環式アルコールの(メタ)アクリル酸エステル,アクリル酸アリールエステル,(メタ)アクリル酸アルコキシアルキル,官能基含有単量体等が1種又は2種以上を組み合わせて使用される。
(メタ)アクリル酸アルキルエステルには、(メタ)アクリル酸メチル,(メタ)アクリル酸エチル,(メタ)アクリル酸プロピル,(メタ)アクリル酸ブチル,(メタ)アクリル酸ペンチル,(メタ)アクリル酸ヘキシル,(メタ)アクリル酸-2-エチルヘキシル,(メタ)アクリル酸オクチル,(メタ)アクリル酸デシル,(メタ)アクリル酸ドデシル,(メタ)アクリル酸ステアリル等が挙げられる。
【0011】
脂環式アルコールの(メタ)アクリル酸エステルには(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸アリールエステルには(メタ)アクリル酸フェニル,(メタ)アクリル酸ベンジル等が挙げられる。(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルには、(メタ)アクリル酸メトキシエチル,(メタ)アクリル酸エトキシエチル,(メタ)アクリル酸プロポキシエチル,(メタ)アクリル酸ブトキシエチル等が挙げられる。(メタ)アクリル酸アルコキシアルキル、(メタ)アクリル酸グリシジルエーテル,(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル,(メタ)アクリル酸等の官能基含有単量体等も使用できる。
【0012】
アクリル系混合物には、(メタ)アクリル系単量体と共重合可能な他の重合性不飽和基を有する化合物を混合しても良い。
共重合可能な他の重合性不飽和基を有する化合物には、イタコン酸,クロトン酸,マレイン酸,フマル酸等の不飽和カルボン酸、(メタ)アクリルアミド,N-メチロール(メタ)アクリルアミド,N-メトキシ(メタ)アクリルアミド,N-ブトキシ(メタ)アクリルアミド等のアミド基含有ビニル単量体、ビニルトリメトキシシラン,γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の有機ケイ素基含有ビニル単量体、スチレン,メチルスチレン等の芳香族ビニル単量体、(メタ)アクリロニトリル等がある。
【0013】
更に、エチレングリコールのジ(メタ)アクリル酸エステル,ジエチレングリコールのジ(メタ)アクリル酸エステル,トリエチレングリコールのジ(メタ)アクリル酸エステル,プロピレングリコールのジ(メタ)アクリル酸エステル,ジプロピレングリコールのジ(メタ)アクリル酸エステル等の(ポリ)アルキレングリコールのジ(メタ)アクリル酸エステル,トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリル酸エステル,ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリル酸エステル,ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリル酸エステル等の多価(メタ)アクリル酸エステル,ジビニルベンゼン等のジビニル単量体等、分子内に重合性不飽和基を2個以上有する単量体を混合しても良い。分子内に重合性不飽和基を2個以上有する単量体は、後述する架橋剤と同様の効果を有する。
【0014】
(メタ)アクリル系単量体は、分子内にアクリロイル基,メタクリロイル基の何れかを1個以上を有する化合物を主成分とするが、特に(メタ)アクリル酸アルキルエステル:100質量部に対し、官能基を有する単量体:0.1〜30質量部,共重合可能な単量体:0〜30質量部を配合した組成物が好ましい。(メタ)アクリル系単量体は、ガラス転移温度Tgが−20〜60℃(好ましくは、0〜40℃)の共重合体になるものが好ましい。ガラス転移温度Tgは、分子内に重合性不飽和基を2個以上有する単量体を除きFoxの式で算出できる。
【0015】
アクリル系混合物の他方の成分である(メタ)アクリル系重合体は、分子内にアクリロイル基,メタクリロイル基の何れかを1個以上有する単量体を重合させた化合物であり、ゲルパーミュエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定した重量平均分子量が1000〜1000000の範囲にある。特に、(メタ)アクリル酸アルキルエステル100質量部に対し官能基を有する単量体を0.1〜30質量部,共重合可能な単量体を0〜30質量部配合して重合させた(メタ)アクリル系重合体が好ましい。重合反応は、ガラス転移温度Tgが−20〜60℃(好ましくは、0〜40℃)の重合体が得られるように調整される。
【0016】
(メタ)アクリル系重合体は、塊状重合,溶液重合,乳化重合,懸濁重合等の重合法で調製できるが、未重合(メタ)アクリル系単量体混合物成分との混合を考慮すると、塊状重合法,溶液重合法が好ましく、なかでも溶剤の揮散を必要としない塊状重合法が好適である。
既重合(メタ)アクリル系重合体成分を構成する単量体の主成分が未重合(メタ)アクリル系単量体と同一の場合、塊状重合法で部分重合させることが好ましい。部分重合としては、特開2000−313704号公報記載の方法を採用できる。部分重合を利用すると、部分重合物に重合開始剤成分,架橋剤成分等を混合し、必要に応じて更に未重合の(メタ)アクリル系単量体混合物成分を添加することにより、目標とする熱重合型アクリル塗料が得られる。
【0017】
(メタ)アクリル系単量体の重合には、過酸化物系,アゾ系等の熱ラジカル重合開始剤が使用可能であるが、過酸化物系熱重合開始剤の使用が好ましい。熱重合開始剤は単独で或いは2種類以上を併用しても良く、ナフテン酸コバルト,ジメチルアニリン等の分解促進剤の併用も可能である。重合開始剤は、アクリル系混合物100質量部に対して0.1〜5質量部(好ましくは、0.3〜3質量部)の割合で配合される。重合開始剤の配合量が少ないと硬化に時間がかかり、揮発分が多くなり効果的でない。逆に過剰量の重合開始剤を配合すると、反応時に多量の気泡が発生し、ワキ,肌荒れ等の塗膜欠陥が生じやすくなる。
【0018】
過酸化物系熱重合開始剤には、イソブチルパーオキサイド,クミルパーオキシネオデカネート,ジイソプロピルパーオキシジカーボネート,ジ2エチルヘキシルパーオキシジカーボネート,ターシャリーブチルパーオキシネオデカネート,355-トリメチルヘキサノールパーオキサイド,ラウリルパーオキサイド,1133-テトラメチルブチルパーオキシ2エチルヘキサネート,t-へキシルパーオキシ2エチルヘキサネート,ベンゾイルパーオキサイド,t-ブチルパーオキシマレイン酸,t-ブチルパーオキシベンゾエート等が挙げられる。なかでも、10時間半減期温度が35〜100℃の熱重合開始剤が好ましい。
【0019】
更に、アクリル系混合物100質量部に対して0.1〜20質量部(好ましくは、0.5〜10質量部)の割合で架橋剤が配合される。架橋剤の配合量が少ないと塗膜の強度が低下し、逆に多すぎると塗膜の柔軟性が失われ、発泡の原因にもなる。
架橋剤には、イソシアネート系,エポキシ系,アジリジン系,金属キレート系,メラミン樹脂系,シランカップリング剤系等があり、単独で或いは2種類以上を組み合わせてアクリル系混合物に添加される。
【0020】
イソシアネート系架橋剤としては、トリレンジイソシアネート,クロルフェニレンジイソシアナート,ヘキサメチレンジイソシアナート,テトラメチレンジイソシアナート,イソホロンジイソシアネート,キシリレンジイソシアネート,ジフェニルメタンジイソシアネート,水添されたジフェニルメタンジイソシアネート等のイソシアネートモノマー及びこれらイソシアネートモノマーをトリメチロールプロパン等と付加したイソシアネート化合物やイソシアヌレート化物,ビュレット型化合物、ポリエーテルポリオールやポリエステルポリオ一ル,アクリルポリオール,ポリブタジエンポリオール,ポリイソプレンポリオール等を付加反応させたウレタンプレポリマー型のイソシアネート等が挙げられる。
【0021】
エポキシ系架橋剤としては、エチレングリコールグリシジルエーテル,ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル,グリセリンジグリシジルエーテル,グリセリントリグリシジルエーテル,1,3-ビス(N,N-ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン,N,N,N',N'-テトラグリジル-m-キシリレンジアミン,N,N,N',N'-テトラグリジルアミノフェニルメタン,トリグリシジルイソシアヌレート,m-N,N-ジグリシジルアミノフェニルグリシジルエーテル,N,N-ジグリシジルトルイジン,N,N-ジグリシジルアニリン等が挙げられる。
【0022】
アジリジン系架橋剤としては、トリメチロールプロパントリ-β-アジリジニルプロピオネート,トリメチロールプロパントリ-β-(2-メチルアジリジン)プロピオネート,テトラメチロールメタントリ-β-アジリジニルプロピオネート等が挙げられる。
金属キレート系架橋剤としては、アルミニウムイソプロピレート,ジイソプロポキシビスアセチルアセトンチタネート,アルミニウムトリエチルアセトアセテート等が挙げられる。
メラミン樹脂系架橋剤としては、メチル化メラミン樹脂,ブチル化メラミン樹脂,ベンゾグアナミン樹脂等が挙げられる。
シランカップリング剤系架橋剤としては、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン,アミノプロピルトリメトキシシラン,クロロプロピルトリメトキシシラン等がある。
【0023】
熱重合型アクリル塗料には、加工時の衝撃付加で塗膜に生じる割れを防止するため分子量500以上の可塑剤を配合している。未重合(メタ)アクリル系単量体,既重合(メタ)アクリル系重合体のアクリル系混合物に熱ラジカル重合開始剤,架橋剤を配合した先願・特願2001−375152号の熱重合型アクリル塗料を使用すると、塩化ビニル・ゾル塗料を用いた場合と同程度の膜厚で気泡のない塗膜が形成されるが、得られた塗装金属板を加工速度の大きなプレス成形等で製品形状に加工する際に塗膜割れが散見される。衝撃による塗膜割れの発生は、分子量500以上の可塑剤を1〜20質量部の割合で配合することにより抑制される。可塑剤の配合により塗膜の耐ベタツキ性,耐屈曲性が損なわれることはない。可塑剤配合が塗膜の衝撃割れ抑制に及ぼす作用は次のように推察される。
【0024】
可塑剤を添加しない場合、塗膜のガラス転移温度Tgが加工温度より低い場合であっても、加工速度が大きなプレス成形等ではアクリル樹脂の変形に限界があり、変形に追従できない部分に塗膜割れが発生する。他方、可塑剤を配合した系では、既重合(メタ)アクリル系重合体の分子間に可塑剤が入り込み、既重合(メタ)アクリル系重合体の分子間で辷りが生じやすくなると共に、相溶していない可塑剤層の部分でも変形が生じる。その結果、加工時に衝撃が加わっても、塗膜が割れることなく基材の変形に十分追従する。
【0025】
塗膜の耐衝撃性は、塩化ビニル・ゾル塗料やアクリル・ゾル塗料で一般的に使用されている分子量500未満のジオクチルフタレート(DOP)等の可塑剤を使用した場合でもある程度向上させることができるが、分子量の小さな可塑剤は既重合(メタ)アクリル系重合体に対する結合力が弱く、塗膜内で比較的自由に移動するため、ブリードアウトして塗膜表面がべたつきやすい。可塑剤の分子量が大きくなるほど既重合(メタ)アクリル系重合体に対する相溶性が低下するものの、分子量増加に伴って塗膜内で移動しがたく、大きなベタツキ抑制効果が得られる。
【0026】
分子量500以上の可塑剤を1〜20質量部添加した場合、耐ベタツキ性,耐屈曲性,耐衝撃性等の塗膜特性をバランスさせる上で、既重合(メタ)アクリル系重合体のガラス転移温度Tgを−20〜60℃(好ましくは、0〜40℃)の範囲に調整する。既重合(メタ)アクリル系重合体のガラス転移温度Tgが−20℃を下回ると塗膜の耐ベタツキ性が低下し、逆に60℃を超えるガラス転移温度Tgでは塗膜の耐屈曲性,耐衝撃性が劣化しやすい。
【0027】
可塑剤としては、一分子中に3個以上のエステル結合をもつ可塑剤が好適である。具体的には、トリメリット酸誘導体,ペンタエリスリトール脂肪酸エステル等の脂肪酸誘導体,リン酸誘導体,ポリエステル系可塑剤,アクリル系単量体を主成分とするアクリル系低分子単量体等が挙げられる。可塑剤は1種を単独で、或いは2種以上を組み合わせて配合しても良い。アクリル系混合物に対する可塑剤の配合割合は、アクリル系混合物100質量部に対して1〜20質量部の範囲で選定される。塗膜の柔軟性に及ぼす可塑剤の影響は1質量部以上の配合量でみられるが、過剰量の可塑剤を配合すると塗膜にベタツキが発生しやすくなる。
【0028】
熱重合型アクリル塗料には、必要に応じて顔料が配合される。
顔料には、体質顔料,防錆顔料,無機・有機の着色顔料がある。体質顔料としては、炭酸カルシウム,クレー,タルク,硫酸バリウム等が例示される。防錆顔料としては、亜鉛末,鉛丹,亜酸化鉛,シアナミド鉛,鉛酸カルシウム,ジンククロメート等が例示される。無機着色顔料としては、チタン白,硫化亜鉛,鉛白,黄色酸化鉄,酸化クロム,亜鉛華,カーボンブラック,モリブデン赤,パーマネントレッド,ベンガラ,黄鉛,黄土,クロムグリーン,紺青,群青,アルミ粉末,銅合金粉末等が例示される。有機着色顔料としては、ハンザエロー,フタロシアニングリーン,フタロシアニンブルー,フラバンスロンイエロー,インダンスレンブルー等が例示される。個々の顔料は、必要とする肉持ち,防錆性能,色調に応じて単独で、或いは2種以上を組み合わせて添加される。
【0029】
アクリル系混合物に対する顔料の配合割合は、アクリル系混合物100質量部に対して0.1〜100質量部の範囲で選定される。必要とする色調や防錆作用は0.1質量部以上の顔料配合割合でみられるが、過剰な配合量では塗料自体が増粘し、美麗な膜面をもつ塗膜が得難くなる。
充填材,酸化防止剤,難燃剤,紫外線吸収剤等の添加剤も、必要に応じて熱重合型アクリル塗料に配合される。
各成分を配合した熱重合型アクリル塗料は、1〜100Pa・s(好ましくは、2〜50Pa・s)の範囲に粘度が調整される。粘度が低すぎる塗料では塗布後硬化までに流動して均一な塗膜が得られず、粘度が高すぎる塗料では塗布時に塗りすじ等が生じ、塗膜から気泡が抜け難くなる。
【0030】
〔塗装原板及び塗装前処理〕
塗装原板には、Znめっき鋼板,Zn−Alめっき鋼板,Zn−Al−Mgめっき鋼板,Alめっき鋼板,Al−Siめっき鋼板,ステンレス鋼板,アルミニウム板等を使用できる。塗装原板は、下地金属に対する防食作用や塗膜密着性を向上させるため、適宜化成処理される。
熱重合型アクリル塗料の塗布に先立って、塗装原板を下塗り塗装しても良い。下塗り塗装では、たとえば化成処理した塗装原板にアクリル変性エポキシ樹脂塗料を塗布・焼付けすることにより下塗り塗膜を形成する。アクリル変性エポキシ樹脂塗膜は、エポキシ、ポリエステル系の下塗り塗膜に比較して良好な塗膜密着性を得る上で有利である。アクリル変性エポキシ樹脂塗料には、ストロンチウムクロメート等の防錆顔料を10〜30質量部配合しても良い。十分な防錆効果は10質量部以上の防錆顔料でみられるが、30質量部を超える過剰配合では防錆効果が飽和しコストを上昇させる。
【0031】
〔塗装条件〕
所定組成に調整された熱重合型アクリル塗料を被塗装物・金属板に塗布し、乾燥・焼付けすることにより熱重合型アクリル樹脂塗膜が形成される。
塗料塗布には、ロールコート,カーテンコート,ダイコート,ナイフコート等を採用でき、塩化ビニル塗膜の作製と同様な条件下で厚膜塗装が可能である。このため、新たな設備を必要とすることなく、経済的である。基材・金属板に対する塗布量は、乾燥膜厚100μm以上の塗膜が形成されるように設定される。100μm未満の膜厚では、重合開始剤の分解により発生したラジカルが空気中の酸素と結合して消失し、重合硬化不足になりやすい。
【0032】
次いで、焼付け処理で重合硬化反応を生起させ、熱重合型アクリル樹脂塗膜を形成する。熱重合型アクリル塗料にラジカル重合開始剤が含まれているので、未重合(メタ)アクリル系単量体のほぼ全量がラジカル重合して気泡の発生が抑えられ、塩化ビニル樹脂塗膜と同程度に厚膜化しても気泡のない耐久性に優れた塗膜が形成される。焼付け時に未重合(メタ)アクリル系単量体を5質量%以上(好ましくは、8〜20質量%)揮散させると、表面の塗膜強度及び擦過性がより優れた塗膜が得られる。未重合(メタ)アクリル系単量体の適量揮散は、重合硬化反応工程温度における蒸気圧を70kPa(好ましくは、80kPa以上)にすることにより達成される。
焼付け処理条件は、加熱温度:120〜250℃,加熱時間:30〜600秒の範囲で選定されるが、加熱温度,焼付け時間共に塩化ビニル樹脂塗膜の成膜条件とほぼ同等であり、塗装条件の大幅な変更を必要としない。
【0033】
【実施例】
−塗料組成物の調製ー
〔塗料組成物1〕
攪拌機,温度計,窒素ガス導入管,冷却管を備えた0.2リットルの四ツ口フラスコに、(メタ)アクリルモノマーとしてメタクリル酸メチル(MMA):70質量部,アクリル酸2-エチルヘキシル(2-EHA):20質量部,アクリル酸2-ヒドロキシエチル(2-HEA):10質量部,分子量調整剤としてn-ドデシルメルカプタン(NDM):1.2質量部を加え、窒素ガス窒素気流中で55℃になるまで昇温した後、加熱を停止した。次いで、重合開始剤として2,2'-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)(V-70:和光純薬株式会社製):0.06質量部を混合し、55℃〜110℃の温度域で温度制御をしながら部分重合させた。
【0034】
13分間の部分重合で、重合率:45%,粘度:5.0Pa・s,アクリル重合体分の重量平均分子量:2万,アクリル重合体分のガラス転移温度Tg:+37℃,アクリル単量体分の硬化時のガラス転移温度Tg:+37℃のアクリル系混合物が得られた。
アクリル系混合物:100質量部に対し、イソシアネート架橋剤(NP1200:三井武田ケミカル株式会社製):15質量部,有機過酸化物(パーオクタO:日本油脂株式会社社製):1.0質量部,数平均分子量2000のポリエステル系可塑剤(W-2050:大日本インキ化学工業株式会社製):5.0質量部,酸化チタン顔料:20質量部の割合で配合することにより、塗料組成物1を調製した。
【0035】
〔塗料組成物2〕
同じ熱重合型アクリル塗料:100質量部にイソシアネート架橋剤(NP1200:三井武田ケミカル株式会社製):15質量部,有機過酸化物(パーオクタO:日本油脂株式会社社製):1.0質量部,数平均分子量2000のポリエステル系可塑剤(W-2050:大日本インキ化学工業株式会社製):15質量部,酸化チタン顔料:20質量部の割合で配合することにより、塗料組成物2を調製した。
【0036】
〔塗料組成物3〕
同じ熱重合型アクリル塗料:100質量部にイソシアネート架橋剤(NP1200:三井武田ケミカル株式会社製):15質量部,有機過酸化物(パーオクタO:日本油脂株式会社社製):1.0質量部,数平均分子量943のジペンタエリスリトール系可塑剤(D-600:三菱化学株式会社製):5質量部,酸化チタン顔料:20質量部の割合で配合することにより、塗料組成物3を調製した。
【0037】
〔塗料組成物4〕
(メタ)アクリルモノマーとしてメタクリル酸メチル(MMA):85質量部,アクリル酸2-エチルヘキシル(2-EHA):5質量部,アクリル酸2-ヒドロキシエチル(2-HEA):10質量部,分子量調整剤としてn-ドデシルメルカプタン(NDM):1.2質量部,重合開始剤として2,2'-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)(V-70:和光純薬株式会社製):0.06質量部を加え、55℃〜105℃の温度域で温度制御をしながら部分重合させた。
【0038】
20分間の部分重合で、重合率:45%,粘度:8.0Pa・s,アクリル重合体分の重量平均分子量:1.8万,アクリル重合体分のガラス転移温度Tg:+73.9℃,アクリル単量体分の硬化時のガラス転移温度Tg:+73.9℃のアクリル系混合物が得られた。本例では、塗料組成物1よりもガラス転移温度Tgが高くなるように部分重合反応の条件を設定した。
【0039】
得られたアクリル系混合物:100質量部に対し、イソシアネート架橋剤(NP1200:三井武田ケミカル株式会社製):15質量部,有機過酸化物(パーオクタO:日本油脂株式会社社製):1.0質量部,数平均分子量2000のポリエステル系可塑剤(W-2050:大日本インキ化学工業株式会社製):5.0質量部,酸化チタン顔料:20質量部の割合で配合することにより、塗料組成物4を調製した。
【0040】
〔塗料組成物5〕
(メタ)アクリルモノマーとしてメタクリル酸メチル(MMA):40質量部,アクリル酸2-エチルヘキシル(2-EHA):50質量部,アクリル酸2-ヒドロキシエチル(2-HEA):10質量部,分子量調整剤としてn-ドデシルメルカプタン(NDM):1.2質量部,重合開始剤として2,2'-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)(V-70:和光純薬株式会社製):0.06質量部を加え、55℃〜120℃の温度域で温度制御をしながら部分重合させた。
【0041】
13分間の部分重合で、重合率:45%,粘度:2.5Pa・s,アクリル重合体分の重量平均分子量:2.3万,アクリル重合体分のガラス転移温度Tg:−23℃,アクリル単量体分の硬化時のガラス転移温度Tg:−23℃のアクリル系混合物が得られた。本例では、塗料組成物1よりもガラス転移温度Tgが低くなるように部分重合反応の条件を設定した。
【0042】
得られたアクリル系混合物:100質量部に対し、イソシアネート架橋剤(NP1200:三井武田ケミカル株式会社製):15質量部,有機過酸化物(パーオクタO:日本油脂株式会社社製):1.0質量部,数平均分子量2000のポリエステル系可塑剤(W-2050:大日本インキ化学工業株式会社製):5.0質量部,酸化チタン顔料:20質量部の割合で配合することにより、塗料組成物5を調製した。
【0043】
〔塗料組成物6〕
塗料組成物1と同じアクリル系混合物:100質量部に、イソシアネート架橋剤(NP1200:三井武田ケミカル株式会社製):15質量部,有機過酸化物(パーオクタO:日本油脂株式会社社製):1.0質量部,数平均分子量391のジオクチルフタレート(DOP):5.0質量部,酸化チタン顔料:20質量部の割合で配合することにより、比較用の塗料組成物6を調製した。
【0044】
〔塗料組成物7〕
塗料組成物1と同じアクリル系混合物:100質量部に、イソシアネート架橋剤(NP1200:三井武田ケミカル株式会社製):15質量部,有機過酸化物(パーオクタO:日本油脂株式会社社製):1.0質量部,数平均分子量2000のポリエステル系可塑剤(W-2050:大日本インキ化学工業株式会社製):30質量部,酸化チタン顔料:20質量部の割合で配合することにより、比較用の塗料組成物7を調製した。
【0045】
〔塗料組成物8〕
塗料組成物1と同じアクリル系混合物:100質量部に、可塑剤を添加することなくイソシアネート架橋剤(NP1200:三井武田ケミカル株式会社製):15質量部,有機過酸化物(パーオクタO:日本油脂株式会社社製):1.0質量部,酸化チタン顔料:20質量部の割合で配合することにより、比較用の塗料組成物8を調製した。
【0046】
〔塗料組成物9〕
(メタ)アクリルモノマーとしてメチルメタクリレート:95質量部,メタアクリル酸:5質量部,開始剤としてラウリルパーオキサイド:0.8質量部を混合し、88%鹸化ポリビニルアルコール1%水溶液:200質量部と混合し、機械乳化後、70℃で6時間重合させた。重合物を脱水,乾燥し、ガラス転移温度Tg:110℃、重量平均分子量:50万、体積基準平均粒子径:25μmのアクリル系重合体の微粉体を得た。微粉体50:質量部に可塑剤としてブチルベンジルフタレート:40質量部,酸化チタン顔料:10質量部を混合してアクリル・ゾル系の塗料組成物9を調製した。
【0047】
〔塗料組成物10〕
塩化ビニル樹脂(三菱化学株式会社製):100質量部,可塑剤(DOP:フルネーム,商品名及び製造会社名):65質量部及びイソブチルテキサノール:35質量部,酸化チタン顔料:10質量部、炭酸カルシウム顔料:5質量部を配合し、塩化ビニル系の塗料組成物10を調製した。
【0048】
−塗布・焼付け工程−
塗装原板に5%Al−Znめっき鋼板を使用し、Ni置換処理後の塗布型クロメート処理で化成処理皮膜を形成した。化成処理された塗装原板にアクリル変性エポキシ樹脂をロールコートし、220℃×100秒の加熱で乾燥膜厚5μmの下塗り塗膜を形成した。次いで、塗料組成物1〜10をロールコートし、160℃×120秒の加熱で乾燥膜厚200μmの樹脂塗膜を形成した。
【0049】
−塗装鋼板の性能評価−
得られた各塗装鋼板から試験片を切り出し、鉛筆硬度試験,ベタツキ試験,曲げ試験,衝撃試験に供した。
鉛筆硬度試験では、JIS K5600-5-4に規定されている引っかき硬度(鉛筆法)で塗膜の表面硬度を測定した。
ベタツキ試験では、塗膜表面を指で触り、タックがある塗膜を×,タックのない塗膜を○,若干のタックが感じられる塗膜を△と評価した。
【0050】
曲げ試験では、JIS K5600-5-1に準拠して直径2mmのマンドレルでT曲げした後、曲げ部分を万力で更に密着曲げした(0t曲げ)。曲げ部外側にある塗膜を観察し、割れの程度に応じて塗膜の耐屈曲性を評価した。
衝撃試験では、JIS K5600-5-3に準拠し、重錘1000gを高さ500mmから試験片に落下し、重錘の落下衝撃が塗膜に及ぼす影響を調査した。割れ発生のない塗膜を○、軽微な割れが発生した塗膜を△,明らかな割れが発生した塗膜を×として塗膜の耐衝撃性を評価した。
【0051】
表1の評価結果にみられるように、可塑剤を含む熱重合型アクリル塗料から成膜された塗膜は、塩化ビニル・ゾル塗料(塗料組成物10)から成膜された塗膜に匹敵する加工性,表面硬度をもち、ベタツキもなく、耐衝撃性にも優れていた。樹脂のガラス転移温度Tgが高くなるに応じて塗膜が硬質化し、曲げ試験で微細な割れが検出され、ガラス転移温度Tgが低くなるに応じて塗膜にベタツキ感がでてきたが、−20〜60℃の範囲にガラス転移温度Tgを調整する限り、実用への支障をきたさなかった。
【0052】
他方、分子量500未満の可塑剤を配合した塗料組成物6から成膜された塗膜はベタツキが強く、分子量500以上でも過剰量の可塑剤を配合した塗料組成物7から成膜された塗膜は硬さが不足し、耐ベタツキ性にも劣っていた。可塑剤を含まない塗料組成物8から成膜された塗膜では、耐屈曲性,耐衝撃性共に劣っていた。
【0053】
【0054】
【発明の効果】
以上に説明したように、未重合(メタ)アクリル系単量体,既重合(メタ)アクリル系重合体のアクリル系混合物に熱ラジカル重合開始剤,架橋剤を配合した熱重合型アクリル塗料は、成膜時に気泡の発生が抑えられるため厚膜化してもワキや肌荒れのない表面性状を呈する塗膜が得られる。この塗膜に可塑剤を配合すると耐衝撃性が改善されるので、加工速度の大きなプレス成形等で塗装金属板を目標形状に加工する場合でも、亀裂,剥離等の加工欠陥が塗膜に導入されない。しかも、塩化ビニル樹脂塗膜と同等の膜厚で成膜できるため、外装材,内装材,表装材等に用いた施工時に多少傷付いても地肌の露出がなく、塩化ビニル樹脂塗装鋼板に匹敵する耐久性を呈する。
Claims (7)
- 未重合の(メタ)アクリル系単量体:90〜10質量部,重量平均分子量1000〜1000000の(メタ)アクリル系重合体:10〜90質量部からなるアクリル系混合物100質量部に、熱ラジカル重合開始剤:0.1〜5質量部,架橋剤:0.1〜20質量部,一分子中に3個以上のエステル結合を持ち分子量500以上の可塑剤:1〜20質量部が配合され、粘度:1〜100Pa・sに調整されていることを特徴とする熱重合型アクリル塗料。
- 上記の可塑剤が、トリメリット酸エステル,ペンタエリスリトールの脂肪酸エステル及びリン酸エステルからなる群から選ばれる、請求項1記載の熱重合型アクリル塗料。
- 更に0.1〜100質量部の顔料が配合されている請求項1記載の熱重合型アクリル塗料。
- 熱ラジカル重合開始剤が過酸化物系重合開始剤である請求項1記載の熱重合型アクリル塗料。
- (メタ)アクリル系重合体のガラス転移温度Tgが−20〜60℃である請求項1記載の熱重合型アクリル塗料。
- 請求項1〜4何れかに記載の熱重合型アクリル塗料を重合硬化させた塗膜が金属板表面に形成されているアクリル塗装金属板。
- 請求項1〜4の何れかに記載の熱重合型アクリル塗料を金属板に塗布し、未重合(メタ)アクリル系単量体の5質量%以上を揮散させながら重合硬化させて造膜することを特徴とするアクリル塗装金属板の製造方法。
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