以下において、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。なお、以下では図中における同一または相当部分には同一符号を付してその詳細な説明は繰返さないものとする。
図1に、本発明の実施の形態に係る内燃機関の制御装置であるエンジンECU(Electronic Control Unit)により制御されるエンジンシステムの概略構成図を示す。なお、図
1には、エンジンとして直列4気筒ガソリンエンジンを示すが、本発明はこのようなエンジンに限定されるものではない。
図1に示すように、エンジン(内燃機関)10は、複数の気筒112♯1〜112♯4を備える。なお、以下では、気筒112♯1〜112♯4を区別することなく総括的に表記する場合には、単に気筒112、あるいは各気筒112と記載することとする。
各気筒112はそれぞれ対応するインテークマニホールド20を介して共通のサージタンク30に接続されている。サージタンク30は、吸気ダクト40を介してエアクリーナ50に接続され、吸気ダクト40内にはエアフローメータ42が配置されるとともに、電動モータ60によって駆動されるスロットルバルブ70が配置されている。このスロットルバルブ70は、アクセルペダル100とは独立してエンジンECU300の出力信号に基づいてその開度が制御される。一方、各気筒112は共通のエキゾーストマニホールド80に連結され、このエキゾーストマニホールド80は三元触媒コンバータ90に連結されている。
各気筒112に対しては、筒内に向けて燃料を噴射するための筒内噴射用インジェクタ110と、吸気ポートまたは/および吸気通路内に向けて燃料を噴射するための吸気通路噴射用インジェクタ120とがそれぞれ設けられている。これらインジェクタ110、120はエンジンECU300の出力信号に基づいてそれぞれ制御される。
図1に示すように、各筒内噴射用インジェクタ110は共通の燃料分配管130に接続されている。この燃料分配管130は、燃料分配管130に向けて流通可能な逆止弁140を介して、機関駆動式の高圧燃料ポンプ150に接続されている。高圧燃料ポンプ150の吐出側は電磁スピル弁152を介して高圧燃料ポンプ150の吸入側に連結されており、この電磁スピル弁152の開度が小さいときほど、高圧燃料ポンプ150から燃料分配管130内に供給される燃料量が増大され、電磁スピル弁152が全開にされると、高圧燃料ポンプ150から燃料分配管130への燃料供給が停止されるように構成されている。なお、電磁スピル弁152はエンジンECU300の出力信号に基づいて制御される。
一方、各吸気通路噴射用インジェクタ120は、共通する低圧側の燃料分配管160に接続されており、燃料分配管160および高圧燃料ポンプ150は共通の燃料圧レギュレータ170を介して、電動モータ駆動式の低圧燃料ポンプ180に接続されている。さらに、低圧燃料ポンプ180は燃料フィルタ190を介して燃料タンク195に接続されている。燃料圧レギュレータ170は低圧燃料ポンプ180から吐出された燃料の燃料圧が予め定められた設定燃料圧よりも高くなると、低圧燃料ポンプ180から吐出された燃料の一部を燃料タンク195に戻すように構成されている。したがって吸気通路噴射用インジェクタ120に供給されている燃料圧および高圧燃料ポンプ150に供給されている燃料圧が上記設定燃料圧よりも高くなるのを阻止している。
エンジンECU300は、デジタルコンピュータから構成され、双方向性バス310を介して相互に接続されたROM(Read Only Memory)320、RAM(Random Access Memory)330、CPU(Central Processing Unit)340、入力ポート350および出力ポート360を備えている。
エアフローメータ42は吸入空気量に比例した出力電圧を発生し、このエアフローメータ42の出力電圧はA/D変換器370を介して入力ポート350に入力される。エンジン10には機関冷却水温(エンジン冷却水温)に比例した出力電圧を発生する水温センサ380が取付けられ、この水温センサ380の出力電圧は、A/D変換器390を介して入力ポート350に入力される。
燃料分配管130には燃料分配管130内の燃料圧に比例した出力電圧を発生する燃料圧センサ400が取付けられ、この燃料圧センサ400の出力電圧は、A/D変換器410を介して入力ポート350に入力される。三元触媒コンバータ90上流のエキゾーストマニホールド80には、排気ガス中の酸素濃度に比例した出力電圧を発生する空燃比センサ420が取付けられ、この空燃比センサ420の出力電圧は、A/D変換器430を介して入力ポート350に入力される。
本実施の形態に係るエンジンシステムにおける空燃比センサ420は、エンジン10で燃焼された混合気の空燃比に比例した出力電圧を発生する全域空燃比センサ(リニア空燃比センサ)である。なお、空燃比センサ420としては、エンジン10で燃焼された混合気の空燃比が理論空燃比に対してリッチであるかリーンであるかをオン−オフ的に検出するO2センサを用いてもよい。
アクセルペダル100は、アクセルペダル100の踏込み量に比例した出力電圧を発生するアクセル開度センサ440に接続され、アクセル開度センサ440の出力電圧は、A/D変換器450を介して入力ポート350に入力される。また、入力ポート350には、機関回転数を表わす出力パルスを発生する回転数センサ460が接続されている。エンジンECU300のROM320には、上述のアクセル開度センサ440および回転数センサ460により得られる機関負荷率および機関回転数に基づき、運転状態に対応させて設定されている燃料噴射量の値やエンジン冷却水温に基づく補正値などが予めマップ化されて記憶されている。
また、インテークマニホールド20、サージタンク30および吸気ダクト40に至る吸気経路のいずれかに大気温センサ405が設けられる。大気温センサ405は、吸入空気の温度に応じた出力電圧を発生する。大気温センサ405の出力電圧は、A/D変換器415を介して入力ポート350に入力される。
クランク角センサ480は、エンジン10のクランクシャフトに装着されたロータと、その近傍に配設されてロータの外周に設けられた突起の通過を検出する電磁ピックアップとを備えて構成されるものである。クランク角センサ480は、クランクシャフトの回転位相を検出するためのセンサであり、その出力は、上記突起の通過毎に発生されるパルス信号として、入力ポート350に与えられる。
エンジンECU300は、所定プログラムの実行により各センサからの信号に基づいて、エンジンシステムの全体動作を制御するための各種制御信号を生成する。これらの制御信号は、出力ポート360および駆動回路470を介して、エンジンシステムを構成する機器・回路群へ送出される。
次に、図2を用いて、各インジェクタの駆動回路構成を説明する。
図2を参照して、筒内噴射用インジェクタ110に対応して、インジェクタ駆動部500dが設けられ、吸気通路噴射用インジェクタ120に対してインジェクタ駆動部500pが設けられる。
インジェクタ駆動部500dは、エンジンECU300からの燃料噴射信号IJt−d1〜IJt−d4に応答して、ソレノイドコイル111♯1〜111♯4への給電を制御する。ソレノイドコイル111♯1〜111♯4は、気筒112♯1〜121♯4の筒内噴射用インジェクタ110にそれぞれ内蔵されている。
ソレノイドコイル111♯1は、ノードCOM−dbおよびノードINj−d1の間に接続され、ソレノイドコイル111♯2は、ノードCOM−daとノードINj−d2の間に接続される。ソレノイドコイル111♯3は、ノードCOM−daおよびノードINj−d3の間に接続される。ソレノイドコイル111♯4は、ノードCOM−dbおよびノードINj−d4の間に接続される。各ソレノイドコイル111♯1〜111♯4の通電時に、対応の筒内噴射用インジェクタ110は燃焼室内に向けて燃料を噴射する。
同様に、インジェクタ駆動部500pは、エンジンECU300からの燃料噴射信号Ijt−p1〜Ijt−p4に応答して、ソレノイドコイル121♯1〜121♯4への給電を制御する。ソレノイドコイル121♯1〜121♯4は、気筒112♯1〜112♯4の吸気通路噴射用インジェクタ120にそれぞれ内蔵されている。
ソレノイドコイル121♯1〜121♯4は、ノードCOM−pとノードINj−p1〜INj−p4との間にそれぞれ接続される。各ソレノイドコイル121♯1〜121♯4の通電時に、対応の吸気通路噴射用インジェクタ120は、吸気通路および/または吸気ポートに向けて燃料を噴射する。
燃料噴射信号Ijt−d1〜Ijt−d4は、気筒112♯1〜112♯4の筒内噴射用インジェクタ110にそれぞれ対応し、対応の筒内噴射用インジェクタ110の燃料噴射期間に生成されて、論理ハイレベル(以下、Hレベルと表記する)に設定される。燃料噴射期間以外では、燃料噴射信号Ijt−d1〜Ijt−d4は、生成が停止されて、論理ローレベル(以下、Lレベルと表記する)に設定される。
同様に、燃料噴射信号Ijt−p1〜Ijt−p4は、気筒112♯1〜112♯4の吸気通路噴射用インジェクタ120にそれぞれ対応し、対応の吸気通路噴射用インジェクタ120の燃料噴射期間に生成されてHレベルに設定され、燃料噴射期間以外ではその生成が停止されてLレベルに設定される。
まず、インジェクタ駆動部500d,500pによるインジェクタへの給電制御構成について説明する。
インジェクタ駆動部500dは、高電圧発生回路510dと、駆動制御回路520dと、高電圧供給トランジスタHTda,HTdbと、給電制御トランジスタTd1〜Td4と、電圧供給トランジスタKTda,KTdbとを含む。
高電圧発生回路510dは、電源電圧+Bを受けて高電圧VHを発生する。高電圧供給トランジスタHTdaおよびHTdbは、導通時にノードCOM−daおよびCOM−dbに高電圧VHをそれぞれ供給するように配置される。電圧供給トランジスタKTdaおよびKTdbは、導通時にノードCOM−daおよびCOM−dbに電源電圧+Bをそれぞれ供給するように配置される。給電制御トランジスタTd1〜Td4は、ノードINj−d1〜INj−d4と接地電圧GNDの間に抵抗素子Rd14またはRd23を介して接続される。高電圧供給トランジスタHTda,HTdb、電圧供給トランジスタKTda,KTdb、および給電制御トランジスタTd1〜Td4の導通(オン)および非導通(オフ)は、駆動制御回路520dによって制御される。
インジェクタ駆動部500pは、駆動制御回路520pと、給電制御トランジスタTp1〜Tp4とを含む。インジェクタ駆動部500pのノードCOM−pには、電源電圧+Bが供給される。給電制御トランジスタTp1〜Tp4は、ノードINj−p1〜INj−p4と接地電圧GNDの間に抵抗素子Rdを介して接続される。給電制御トランジスタTp1〜Tp4の導通(オン)および非導通(オフ)は、駆動制御回路520pによって制御される。
インジェクタ駆動部500d,500pによるインジェクタへの給電動作について、インジェクタ駆動部500dによる、燃料噴射信号Ijt−d1に応答したソレノイドコイル111♯1への給電動作を代表例として説明する。
燃料噴射信号Ijt−d1がLレベルからHレベルに変化すると、駆動制御回路520dは、高電圧供給トランジスタHTdbおよび給電制御トランジスタTd1を導通させる。これにより、ノードCOM−dbが高電圧VHと接続されるとともに、ノードINj−d1が接地電圧GNDと接続される。この結果、ソレノイドコイル111♯1が高電圧VHで駆動されることによりソレノイドコイル111♯1の通電が開始され、対応の筒内噴射用インジェクタ110からの燃料噴射が開始される。
通電開始後には、駆動制御回路520dによって、高電圧供給トランジスタHTdbに代えて電圧供給トランジスタKTdbが導通される。一方、給電制御トランジスタTd1の導通は維持される。これにより、ソレノイドコイル111♯1の通電が維持されて、対応の筒内噴射用インジェクタ110からの燃料噴射が継続される。
燃料噴射信号Ijt−d1がHレベルからLレベルに変化して燃料噴射期間が終了されると、駆動制御回路520dは、高電圧供給トランジスタHTdb、電圧供給トランジスタKTdbおよび給電制御トランジスタTd1の各々を非導通とする。これにより、ソレノイドコイル111♯1での通電が終了し、対応の筒内噴射用インジェクタ110からの燃料噴射も停止される。
その他のソレノイドコイル111♯2〜111♯4への給電動作も、ソレノイドコイル111♯1と同様に実行される。ソレノイドコイル121♯1〜121♯4への給電動作も、高電圧VHでなく電源電圧+Bがそのまま給電される点を除けば、ソレノイドコイル111♯1と同様に実行される。
次に、燃料噴射信号に応答して対応のソレノイドコイルが正常に通電されず、燃料噴射期間にインジェクタからの燃料噴射が行われない状態である「断線故障」の検出構成について説明する。
インジェクタ駆動部500dは、気筒112♯2および112♯3に共通に設けられた断線検出回路530dと、気筒112♯1および112♯4に共通に設けられた断線検出回路535dとを含む。
筒内噴射用インジェクタ110の燃料噴射期間は、各気筒112において吸気行程および圧縮行程の少なくとも一方に設けられるので、同一行程間の位相差がクランク回転角度で360度である2個の気筒毎に断線検出回路を設けることにより、燃料噴射期間が時間的に重ならない筒内噴射用インジェクタ110間で断線検出回路を共有することができる。
断線検出回路530dは、給電制御トランジスタTd2およびTd3を介して、ソレノイドコイル111♯2および111♯3とそれぞれ接続される。すなわち、断線検出回路530dは、ソレノイドコイル111♯2および111♯3に対して共通に電気的に接続される。断線検出回路535dは、給電制御トランジスタTd1およびTd4を介して、ソレノイドコイル111♯1および111♯4とそれぞれ接続される。すなわち、断線検出回路530dは、ソレノイドコイル111♯1および111♯4に対して共通に電気的に接続される。
ソレノイドコイル111♯1〜111♯4の各々は、駆動制御回路520dによる給電動作時に、対応の給電制御トランジスタTd1〜Td4の導通によって、対応の断線検出回路530dまたは535dと接続される。これにより、断線検出回路530dおよび535dの各々は、駆動制御回路520dによる給電対象であるソレノイドコイルと電気的に接続されるので、各ソレノイドコイルへの給電動作時におけるその電気的出力(たとえば逆起電圧の発生)を監視できる。
断線検出回路530dは、燃料噴射信号Ijt−d2およびIjt−d3のHレベル期間の各々において、接続されたソレノイドコイル111♯2または111♯3に正常通電時に発生すべき逆起電圧が発生したかどうかを監視し、逆起電圧が正常に検知されなかったときに故障検出信号IJf−daをHレベルに設定する。同様に、断線検出回路535dは、燃料噴射信号Ijt−d1およびIjt−d4のHレベル期間の各々において、接続されたソレノイドコイル111♯1または111♯4に正常通電時に発生すべき逆起電圧が発生したかどうかを監視し、逆起電圧が正常に検知されなかったときに故障検出信号IJf−dbをHレベルに設定する。
逆起電圧が正常に検知された場合を含み、故障検出時以外には、故障検出信号IJf−da,IJf−dbは、Lレベルに設定される。故障検出信号IJf−da,IJf−dbは、断線検出回路530dおよび535dからエンジンECU300へ送出される。
したがって、気筒112♯2または112♯3の筒内噴射用インジェクタに断線故障が発生した場合には、故障検出信号IJf−daがHレベルに設定される。同様に、気筒112♯1または112♯4の筒内噴射用インジェクタに断線故障が発生した場合には、故障検出信号IJf−dbがHレベルに設定される。
一方、インジェクタ駆動部500pは、気筒112♯1〜112♯4に共通に設けられた断線検出回路530pを有する。一般的に、吸気通路噴射用インジェクタ120の燃料噴射期間は、各気筒112において吸気行程に設けられる。したがって、インジェクタ駆動部500pを気筒112♯1〜112♯4に共通に設ける構成としても、燃料噴射期間が時間的に重ならない吸気通路噴射用インジェクタ120間で断線検出回路を共有することができる。
断線検出回路530pは、給電制御トランジスタTp1〜Tp4を介して、ソレノイドコイル121♯1〜121♯4とそれぞれ接続される。すなわち、断線検出回路530pは、ソレノイドコイル121♯1〜121♯4に対して共通に電気的に接続される。ソレノイドコイル121♯1〜121♯4の各々は、駆動制御回路520dによる給電動作時に、対応の給電制御トランジスタTp1〜Tp4の導通によって、断線検出回路530pと接続される。これにより、断線検出回路530pは、燃料噴射信号Ijt−p1〜Ijt−p4のHレベル期間の各々において、接続されたソレノイドコイル111♯1〜111♯4の各々に正常通電時に発生すべき逆起電圧が発生したかどうかを監視し、逆起電圧が検知されなかったときに故障検出信号IJf−pをHレベルに設定する。逆起電圧が正常に検知された場合を含み、故障検出時以外には、故障検出信号IJf−pは、Lレベルに設定される。故障検出信号IJf−pは、断線検出回路530pからエンジンECU300へ送出される。
したがって、各気筒112の吸気通路噴射用インジェクタ120のいずれかに断線故障が発生した場合には、故障検出信号IJf−pがHレベルに設定される。
エンジンECU300は、断線検出回路530d,535d,530pからの故障検出信号IJf−da,IJf−db,IJf−pと、クランク角センサ480によって検出されたクランク回転角度CAとに基づいて、各気筒112の各インジェクタ110,120の断線故障を、異常インジェクタを特定した上で検出できる。
次に、エンジンの運転領域と増量制御との関係について図3を用いて説明する。
図3を参照して、エンジンの運転領域は、一般的に、回転数および負荷(負荷率)による二次元平面上に示される。エンジンの運転可能な領域は、フルスロットル特性線(WOT)600の内側領域である。ここで、均質燃焼運転時での各気筒での燃料噴射量fqは、基本的に下記(1)式で示される。
fq=f(ec)・Afb・k …(1)
(1)式中において、f(ec)は、エンジン状態ecに応じて、理論空燃比に対応して計算される基本的な燃料量である。Afbは、空燃比センサ420の検出値に基づくフィードバック制御により設定される燃料量の修正比(基本的な燃料量f(ec)により、空燃比センサ420の検出値が理論空燃比と一致する場合には、Afb=1.0)である。また、kは、増量制御による増量係数であり、理論空燃比に従った燃料噴射を行なう場合にはk=1.0に設定される一方で、燃料噴射量を理論空燃比に対応した量よりも増量する場合にはk>1.0に設定される。
増量係数kは、エンジン10の状態に応じて、図3に示した運転領域に従って設定され、パワー増量領域650および高温回避領域660において、k>1.0に設定される。高温回避領域660は、高回転数・高負荷域に対応し、エンジン10の温度上昇が懸念される運転領域である。したがって、この運転領域では、燃料噴射量を増量して燃料の気化潜熱による冷却効果を得るために、増量制御が必要とされる。また、パワー増量領域650は、低/中回転・高負荷域に対応し、エンジン10の温度上昇は懸念されないものの、空燃比をリッチ化してエンジン出力を増大させる目的で、増量制御が行なわれる。このように、領域650,660は、本来増量制御が行なわれるべき増量領域として定義される。
図2に示した故障検出回路群により、一部の気筒でインジェクタに断線等の噴射異常が発生したことが検知されると、当該気筒で燃料噴射を禁止することがフェールセーフ制御の面から好ましい。しかしながら、この際に増量制御を実行すると、以下のような問題点が発生する。
図4を参照して、気筒112♯2においていずれかのインジェクタに断線による噴射異常が発生し、燃料噴射が停止されると、この気筒からは、燃料成分が含まれないエアーのみの排気115が排出される。
これに対して、増量制御中には、その他の正常気筒112♯1、♯3および♯4からの排気116には、理論空燃比からの超過分に相当する未燃燃料が含まれる。したがって、異常気筒からの排気(エアー)115と、正常気筒からの排気116中の未燃燃料とがエキゾーストマニホールド80の下流で反応することによって、排気系での温度上昇、特に三元触媒コンバータ90で過高温が発生する可能性がある。
本発明の実施の形態による内燃機関の制御装置では、以下に説明するような増量制御の設定とすることにより、図4で説明した排気系温度の上昇を防止する。
図5は、本発明の実施の形態による内燃機関の燃料噴射制御装置による増量制御を説明するフローチャートである。図5に示されたフローチャートに従う増量制御の設定は、エンジンECU300に予めプログラムされた一連の制御処理として実行される。
図5を参照して、エンジンECU300は、各気筒の各インジェクタ120について噴射異常が検出されていない場合(ステップS100でのNO判定時)には、ステップS110により、図3に従った増量制御が実行される。すなわち、領域650,660ではk>1.0に設定され、それ以外の運転領域では、k=1.0に設定される。
一方、エンジンECU300は、いずれかの気筒でインジェクタ110,120の噴射異常を検知した場合(ステップS100でのYES判定時)には、図6に従った増量制御を実行する。
具体的には、ステップS120,125により、現在のエンジンの運転領域が、i)領域650,660以外、ii)領域650内(パワー増量領域)、iii)領域660内(高温回避領域)のいずれであるかを判定する。エンジンECU300は、領域650,660以外では、ステップS130により、増量係数k=1.0に設定し増量制御を実行しない。
一方、領域650では、増量制御を行なうと排気系の温度上昇を招くものの、一方増量しなければエンジンの温度上昇が懸念される。このため、エンジンECU300は、ステップS130により、増量係数k=0に設定して、(1)式の燃料噴射量fq=0とすることにより燃料カット制御を行なう。これにより、インジェクタ異常時には、エンジン過高温を招く可能性のあるこの運転領域での運転が禁止される。なお、燃料カット制御については、図2に示した各燃料噴射制御信号の生成を停止(Lレベルに固定)することによっても実現可能である。
また、領域660では、エンジンの出力確保の観点から空燃比をリッチ化する増量が望ましいものの、理論空燃比に従った燃料噴射としてもエンジン10の温度上昇は特に懸念されない。したがって、エンジンECU300は、ステップS140により、この領域では、増量係数k=1.0に設定して増量制御を中止する。すなわち、運転者要求に見合ったエンジン出力を確保できずに加速性の遅れ等、運転快適性を若干損なうケースが生じる可能性はあるものの、この運転領域でのエンジンの運転は可能とされる。
この結果、図6に示されるように、インジェクタの噴射異常発生時におけるエンジンの運転領域を拡大できる。詳細には、増量制御を実行すると排気系の温度上昇を招いてしまうインジェクタ噴射異常の発生時において、本来の増量制御実行領域について一律に燃料カット制御を行なった場合には、運転可能領域が点線610の内側領域に大幅に縮小されるのと比較して、図5に示した増量制御の設定とすることにより、領域650での運転が可能とされて運転可能領域を実線620の内側領域に拡大することができる。
すなわち、図3,6において、領域660(高温回避領域)は、本発明での「第1の運転領域」に対応し、領域650(パワー増量領域)は、本発明での「第2の運転領域」に対応する。
また、図5に示したフローチャートにおいて、ステップS110は本発明における「第1の燃料増量手段」および「第2の燃料増量手段」に対応し、ステップS140は、本発明での「燃料カット手段」に対応し、ステップS150は、本発明での「増量中止手段」に対応する。
なお、本実施の形態では、各気筒に筒内噴射用インジェクタ110および吸気通路噴射用インジェクタ120の両方を備えたエンジン10を例示したが、本願発明の適用は、このような形式のエンジンに限定されるものではない。すなわち、図5のステップS100においてインジェクタの種類を特定していなことからも明らかなとおり、本願発明による内燃機関の燃料噴射制御装置は、筒内噴射用インジェクタ110のみ、あるいは吸気通路噴射用インジェクタ120のみを各気筒に備えるエンジン等に、インジェクタの配置形式を限定することなく適用可能である。
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
10 エンジン、20 インテークマニホールド(吸気通路)、30 サージタンク、40 吸気ダクト、42 エアフローメータ、50 エアクリーナ、60 電動モータ、70 スロットルバルブ、80 エキゾーストマニホールド、90 三元触媒コンバータ、100 アクセルペダル、110 筒内噴射用インジェクタ、111♯1〜111♯4 ソレノイドコイル(筒内噴射用インジェクタ)、112 気筒、115 排気(エアーのみ)、116 排気(未燃燃料含む)、120 吸気通路噴射用インジェクタ、121♯1〜121♯4 ソレノイドコイル(吸気通路噴射用インジェクタ)、130,160 燃料分配管、140 逆止弁、150 高圧燃料ポンプ、152 電磁スピル弁、170 燃料圧レギュレータ、180 低圧燃料ポンプ、190 燃料フィルタ、195 燃料タンク、300 エンジンECU、380 水温センサ、400 燃料圧センサ、405 大気温センサ、460 回転数センサ、420 空燃比センサ、440 アクセル開度センサ、480 クランク角センサ、500d インジェクタ駆動部(筒内噴射用インジェクタ)、500p インジェクタ駆動部(吸気通路噴射用インジェクタ)、520d,520p 駆動制御回路、530d,535d,530p 断線検出回路、600 フルスロットル特性線(WOT)、610,620 運転可能領域線(インジェクタ噴射異常発生時)、650 パワー増量領域、660 高温回避領域、+B 電源電圧、CA クランク回転角度、GND 接地電圧、HTda,HTdb 高電圧供給トランジスタ、IJf−da,IJf−db,IJf−p 故障検出信号、Ijt−d1〜Ijt−d4,Ijt−p1〜Ijt−p4 燃料噴射信号、KTda,KTdb 電圧供給トランジスタ、Td1〜Td4、Tp1〜Tp4 給電制御トランジスタ、VH 高電圧。