JP4433558B2 - セラミックス基複合部材の製造装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、気密性にすぐれたセラミックス基複合部材の製造装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
NTO/N2 H4、NTO/MMH等を推進剤とするロケットエンジンの高性能化のために、燃焼器(スラストチャンバ)の耐熱温度を高めることが要望される。そのため、耐熱温度が約1500℃であるコーティング付きのニオブ合金が、従来多くのロケットエンジンのチャンバ材料として用いられてきた。しかしこの材料は、密度が高いため重く、高温強度が低く、コーティングの寿命が短い欠点があった。
【0003】
一方、セラミックスは耐熱性が高いが脆い欠点があるため、これをセラミックス繊維で強化したセラミックス基複合部材(Ceramic Matrix Composite:以下、CMCと略称する )が開発されている。すなわち、セラミックス基複合部材(CMC)はセラミックス繊維とセラミックスマトリックスとからなる。なお、一般にCMCはその素材により、セラミックス繊維/セラミックスマトリックス(例えば、両方がSiCからなる場合、SiC/SiC)と表示される。
【0004】
CMCは、軽量かつ高温強度が高いため、上述したロケットエンジンの燃焼器(スラストチャンバ)の他、高温部の燃料配管、ジェットエンジンのタービン翼、燃焼器、アフターバーナ部品等に極めて有望な材料である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、従来のCMCは、気密性を保持することができず、かつ耐熱衝撃性が低い問題点があった。すなわち、従来のCMCは、所定の形状をセラミックス繊維で構成したのち、いわゆるCVI処理(Chemical Vapor Infiltration:気相含浸法)で繊維の隙間にマトリックスを形成するが、このCVIで繊維間の隙間を完全に埋めるには実用不可能な長期間(例えば1年以上)を要する問題点があった。
【0006】
また、CMCの気密性自体を上げるには、溶融した原料ポリマーにセラミックス繊維からなる部品を単に浸して焼成するPIP処理(Polymer Impregnate and Pyrolysis Method)が有効であるが、含浸・焼成のサイクルを多数回繰り返す必要があり(例えば40回以上)、効率が悪かった。
【0007】
また、米国特許第05632320号にポリマーマトリックス含浸に、PMC(Polymer Matrix Composite)で用いられる加圧含浸の一種であるRTM法 (Resin Transfer Molding)を適用しているが、金型等の大がかりな装置を必要とした。
【0008】
本発明は上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、短期間に気密性を高めることができ、これによりスラストチャンバ等にも実用可能なセラミックス基複合部材の製造装置を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】
参考例によれば、(a)成形した繊維織物の表面にSiCマトリックス相を形成する含浸工程と、(b)使用時の加圧方向に有機珪素ポリマーを加圧して前記マトリックス相の隙間に有機珪素ポリマーを含浸させる加圧含浸工程と、(c)高温で焼成する焼成工程とを備えた、ことを特徴とするセラミックス基複合部材の製造方法が提供される。
【0010】
参考例の方法は、繊維織物の表面にSiCマトリックス相を形成した後に、加圧含浸工程を行う点に特徴がある。SiCマトリックス相は、例えばCVI処理により亀裂のない緻密なマトリックスをセラミックス繊維のまわりに形成することができる。次いで、PIP処理により使用時の加圧方向に有機珪素ポリマーを加圧して加圧含浸することにより、マトリックス相の隙間に優先的にマトリックスを形成して、CVI処理後の隙間を充填し、気密性を高めることができる。
【0011】
また、PIP処理によるマトリックスには、微細な亀裂が存在するため、セラミックス繊維の拘束力が弱い。そのため、特願平11019416号(未公開)に示されるように、CVI処理に加えPIP処理を施すことにより、CVI処理のみによる従来のCMCに比較して、ヤング率を低減することができ、その結果、熱応力が軽減され耐熱衝撃性が大幅に向上することが確認されている。
【0012】
好ましくは、前記加圧含浸工程においてマトリックス相の隙間を通して有機珪素ポリマーが液洩れする圧力で所定時間保持し、次いで焼成工程を行い、更にこの加圧含浸工程と焼成工程を十分な気密性を得られるまで繰り返す。
【0013】
この方法により、複合部材を貫通する空隙に優先的にマトリックスを形成して、短期間に気密性を高めることができる。
【0014】
前記加圧含浸工程は、耐酸化性の点からCVIマトリックス含浸後に行うのが望ましいが、インターフェイスコーティングを施した後なら、どのタイミングでも適用することが可能である。
【0015】
また本発明によれば、表面にSiCマトリックス相を形成した繊維織物(11)を水密に保持する保持装置(12)と、繊維織物の使用時の加圧方向に有機珪素ポリマー(8)を加圧して供給する加圧供給装置(14)とを備え、
前記保持装置は、中空円筒状の前記繊維織物を挟持する第1および第2の挟持部材を有し、第1の挟持部材は、前記繊維織物の一端側から他端側へ向けて、前記繊維織物を介して第2の挟持部材に力を作用させ、第2の挟持部材は、前記他端側から前記一端側へ向けて、前記繊維織物を介して第1の挟持部材に力を作用させ、
前記加圧供給装置は、有機珪素ポリマーを収容した溶液容器と、該溶液容器を気密に囲む気密容器と、前記溶液容器内の有機珪素ポリマーを前記繊維織物の内側へ導く供給管と、を有し、前記気密容器内を圧力媒体で加圧し前記溶液容器内の有機ポリマーを前記繊維織物内に供給するように構成されている、ことを特徴とするセラミックス基複合部材の製造装置が提供される。
【0016】
本発明のこの構成によれば、保持装置(12)により表面にSiCマトリックス相を形成した繊維織物(11)を水密に保持した状態で、加圧供給装置(14)により繊維織物の使用時の加圧方向に有機珪素ポリマー(8)を加圧して供給するので、圧力調整により、繊維織物に有機珪素ポリマーをほぼ均一の圧力で供給することができる。また、使用時の加圧方向に有機珪素ポリマーを加圧して加圧含浸できるので、マトリックス相の隙間に優先的にマトリックスを形成して、CVIおよびPIP処理後の隙間を充填し、気密性を高めることができる。
【0017】
【発明の実施の形態】
以下、参考例と本発明の好ましい実施形態を図面を参照して説明する。図1は、参考例のセラミックス基複合部材の製造方法を示すフロー図である。この図に示すように、参考例の方法は、成形工程1、CVI工程2、PIP工程3、加圧含浸工程4、および焼成工程5からなる。
【0018】
成形工程1では、SiC繊維を用いて所定の形状の繊維織物を成形する。成形する形状は、適用するロケットエンジンの燃焼器(スラストチャンバ)の他、高温部の燃料配管、タービン翼、燃焼器、アフターバーナ部品等に適した立体形状であるのがよい。
【0019】
CVI工程2は、成形した繊維織物の表面に減圧雰囲気でSiCマトリックス相を形成するCVI処理工程である。CVI処理は、インターフェイスCVI工程とSiCマトリクスCVI工程とからなる。インターフェイスCVI工程は、成形された繊維織物にカーボン(好ましくはグラファイトカーボン)又はBN等をコーティングする工程である。コーティングの厚さは、0.1?1.0μm程度であるのがよい。かかるコーティング相は、特開昭63?12671号公報に開示されるように、マトリックスとセラミックス繊維とを分離し繊維のじん性を強化する役割を果たす。
【0020】
SiCマトリクスCVI工程は、いわゆるCVI法(Chemical Vapor Infiltration:気相含浸法)で処理する工程であり、炉内に専用治具で固定された織物を加熱し、減圧雰囲気にて例えばメチルトリクロロシランを流入させてSiCを合成させる。なお、この工程は必要に応じて繰り返し、CVI処理で合成されるマトリックスの体積比率を約5%以上かつ約80%以下にする。
【0021】
PIP工程3は、CVI工程2で形成したマトリックス相の隙間に有機珪素ポリマーを基材として含浸する含浸工程とその後の焼成工程とからなる。含浸工程と焼成工程は、必要に応じて繰り返して行う。
【0022】
加圧含浸工程4は、使用時の加圧方向に有機珪素ポリマーを加圧して前記マトリックス相の隙間に有機珪素ポリマーを含浸させる工程でありPIP含浸の一種である。加圧含浸工程4ではマトリックス相の隙間を通して有機珪素ポリマーがわずかに液洩れする圧力で所定時間保持する。この所定時間は、例えば2分間でも5分間でもよい。
【0023】
加圧含浸工程4に使用する有機珪素ポリマーは、ポリカルボシラン溶液、ポリビニルシラン、ポリメタロカルボシラン等、或いはこれらとSiC粉末との混合物であるのがよい。これらの有機珪素ポリマーを用いて含浸し焼成する加圧含浸工程4により、微細な亀裂が存在するマトリックスを短時間に形成することができる。
【0024】
焼成工程5は、使用温度附近の温度(例えば約1000?1400℃)で一定時間(例えば1時間以上)焼成する。加圧含浸工程4と焼成工程5を十分な気密性が得られるまで繰り返しおこなう。
【0025】
図2は、本発明によるセラミックス基複合部材の製造装置の全体構成図である。 また図3は、本発明によるセラミックス基複合部材の製造装置の別の全体構成図である。
図2及び図3に示すように、本発明のセラミックス基複合部材の製造装置10は、保持装置12、加圧供給装置14、及び脱気装置16からなる。
【0026】
保持装置12は、表面にSiCマトリックス相を形成した繊維織物11を水密に保持する。すなわち、この例では、繊維織物11は中空円筒状部材であり、その両端部(上下端)の開口を耐溶液性のシールゴム12aを介して上下の挟持部材12bで挟持し、両端部から有機珪素ポリマー8が漏れないようになっている。挟持圧力は、繊維織物11に損傷を与えないように設定する。
また、図3に示すように、端部の板厚や形状の都合により、端部で挟持できないときは、繊維織物の内面部を利用して保持する。
【0027】
加圧供給装置14は、図2に示すように、有機珪素ポリマー8を収容した溶液容器14a、溶液容器14aを気密に囲む気密容器14b、溶液容器14a内の有機珪素ポリマー8を繊維織物11の内側に導く供給管14c、等からなり、気密容器14b内を圧力媒体ガス(Ar,N2等)で加圧し、この圧力で溶液容器14a内の有機珪素ポリマー8を押し上げて、繊維織物11内に供給するようになっている。
【0028】
また、図3に示すように、加圧供給装置14は、有機珪素ポリマー8を収容したシリンダ14dと、シリンダ14d内の有機珪素ポリマー8を押し上げるピストン14eと、シリンダ14d内の有機珪素ポリマー8を繊維織物11の内側に導く供給管14c等からなり、有機珪素ポリマー8を繊維織物11内に供給するようになっている。
【0029】
脱気装置16は、この例では上部の挟持部材12bに取り付けられた開閉弁であり、供給される有機珪素ポリマーに含まれる大量の気泡含有部分を除去した後に閉鎖する。なお、本発明は図2及び図3の構成に限定されず、例えば、全体を水平に配置し、或いは上下を逆に配置してもよい。
【0030】
図2及び図3の製造装置10によれば、保持装置12により表面にSiCマトリックス相を形成した繊維織物11を水密に保持した状態で、加圧供給装置14により繊維織物の使用時の加圧方向に有機珪素ポリマー8を圧力媒体ガスで加圧して供給するので、圧力媒体ガスの圧力調整により、繊維織物に有機珪素ポリマーをほぼ均一の圧力で供給することができる。また、使用時の加圧方向に有機珪素ポリマーを加圧して加圧含浸できるので、気密したい方向のマトリックス相の隙間に優先的にマトリックスを形成して、CVI処理後の隙間を充填し、効率良く気密性を高めることができる。さらに、脱気装置16により有機珪素ポリマーの表面に形成される大量の気泡含有部分を除去できるので、気泡を含まない均質の有機珪素ポリマーをマトリックス相の隙間に優先的に供給し、気密性の高いマトリックスを形成することができる。
【0031】
【実施例】
以下、実施例を説明する。
1.チャンバの製造方法図1に示した製造方法により、SiC/SiCチャンバを製造した。このチャンバ用のSiC繊維として、宇部興産製のチラノLox?M繊維を使用した。この繊維をマンドレル上に編み、SiCマトリックスを含浸させた。また、マトリックスの含浸には、CVI工程2と通常のPIP処理工程3と上述した加圧含浸工程4とを組み合わせた。
【0032】
2.リーク試験
リーク試験は0.7MPaで実施した。チャンバを水中に沈め、N2ガスで加圧し、チャンバを通過したガスを捕獲しリーク量として計測した。シール部は、チャンバとチャンバスロートの間である。
【0033】
リーク試験の結果を図4に示す。CVI工程2でCVI処理を約1ケ月実施した後でも、全体の約20%程度の空隙があり、全体で約0.04mm2の孔に相当するリーク量があった。この量は、CMCとしては十分小さいが気密性を要する燃焼器(スラストチャンバ)、燃料配管等には不十分である。
【0034】
次に、通常のPIP工程3を焼成を含めて約20回実施した。この結果、リーク量は約1/7以下まで減少し、実用可能なレベルに達した。なお、このPIP処理工程3には、約1.5ケ月の処理期間を要した。
次いで、上述した加圧含浸工程4を3回実施した結果、リーク量は皆無となった。この処理期間は約1週間であった。
【0035】
3.耐圧試験
加圧媒体として水を用い、4.5MPaでチャンバの耐圧試験を実施した。シール方法はリーク試験と同様である。
耐圧試験は、3MPaで10分間保持後、最大圧力4.5MPaとする加圧プロフィールで試験したが、リーク、変形、その他の損傷も検出されなかった。
【0036】
4.燃焼試験方法
燃焼条件における耐熱性と耐酸化性を確認するために燃焼試験をロケット試験設備を用いて実施し、NTO/N2H4を推進剤として使用した。またこの試験では、噴射膜冷却率が26%と9%の2種を試験した。
4回の燃焼試験を実施し、最長使用時間は22秒であった。また、チャンバ壁の計測最高温度は1424℃であった。
【0037】
なお、本発明は上述した実施の形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種種変更できることは勿論である。
【0038】
【発明の効果】
上述したように、参考例の方法は、繊維織物の表面にSiCマトリックス相を形成した後に、加圧含浸工程を行う点に特徴がある。SiCマトリックス相は、例えばCVI処理により亀裂のない緻密なマトリックスをセラミックス繊維のまわりに形成することができる。次いで、PIP処理により使用時の加圧方向に有機珪素ポリマーを加圧して加圧含浸することにより、マトリックス相の隙間に優先的にマトリックスを形成して、CVI処理後の隙間を充填し、気密性を高めることができる。
【0039】
更に、本発明の装置によれば、保持装置12により表面にSiCマトリックス相を形成した繊維織物11を水密に保持した状態で、加圧供給装置14により繊維織物の使用時の加圧方向に有機珪素ポリマー8を加圧して供給するので、圧力媒体ガスの圧力調整により、繊維織物に有機珪素ポリマーをほぼ均一の圧力で供給することができる。
【0040】
また、使用時の加圧方向に有機珪素ポリマーを加圧して加圧含浸できるので、マトリックス相の隙間に優先的にマトリックスを形成して、CVI処理後の隙間を充填し、気密性を高めることができる。さらに、脱気装置16により有機珪素ポリマーの表面に形成される大量の気泡含有部分を除去できるので、気泡を含まない均質の有機珪素ポリマーをマトリックス相の隙間に優先的に供給し、気密性の高いマトリックスを形成することができる。
【0041】
従って、本発明のセラミックス基複合部材の製造装置は、短期間に気密性を高めることができ、これによりスラストチャンバ等にも実用可能となる、等の優れた効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【図1】参考例のセラミックス基複合部材の製造方法を示すフロー図である。
【図2】本発明によるセラミックス基複合部材の製造装置の全体構成図である。
【図3】本発明によるセラミックス基複合部材の製造装置の別の全体構成図である。
【図4】CMCのリーク試験結果を示す図である。
【符号の説明】
1 成形工程
2 CVI工程
3 PIP工程
4 加圧含浸工程
5 焼成工程
8 有機珪素ポリマー
10 複合部材製造装置
11 繊維織物
12 保持装置
12a シールゴム
12b 挟持部材
14 加圧供給装置
14a 溶液容器
14b 機密容器
14c 供給管
14d シリンダ
14e ピストン
16 脱気装置
Claims (1)
- 表面にSiCマトリックス相を形成した繊維織物(11)を水密に保持する保持装置(12)と、繊維織物の使用時の加圧方向に有機珪素ポリマー(8)を加圧して供給する加圧供給装置(14)とを備え、
前記保持装置は、中空円筒状の前記繊維織物を挟持する第1および第2の挟持部材を有し、第1の挟持部材は、前記繊維織物の一端側から他端側へ向けて、前記繊維織物を介して第2の挟持部材に力を作用させ、第2の挟持部材は、前記他端側から前記一端側へ向けて、前記繊維織物を介して第1の挟持部材に力を作用させ、
前記加圧供給装置は、有機珪素ポリマーを収容した溶液容器と、該溶液容器を気密に囲む気密容器と、前記溶液容器内の有機珪素ポリマーを前記繊維織物の内側へ導く供給管と、を有し、前記気密容器内を圧力媒体で加圧し前記溶液容器内の有機ポリマーを前記繊維織物内に供給するように構成されている、ことを特徴とするセラミックス基複合部材の製造装置。
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