JP4432157B2 - インドリン誘導体の製造方法 - Google Patents

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【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、種々の置換インドール誘導体の合成に有用な1−アセチルインドリン−2−スルホン酸アルカリ金属塩の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
1−アセチルインドリン−2−スルホン酸アルカリ金属塩は、種々のカチオノイド(求電子)置換反応により5位に置換基(例、ニトロ基、ハロゲン基)を導入することができ、この反応の後で加水分解を行うと、2位のスルホン酸塩部分と1位のアセチル基が脱離するのと同時に脱水素が起こってインドール核になり、5−置換インドール誘導体が得られる [Russell et al, Org., Prep. Proced. Int., 17, 391(1985)参照] 。この方法では、インドリン化合物から脱水素工程を必要とせずに5−置換インドール誘導体を効率的に合成できる。
【0003】
この合成における出発物質の1−アセチルインドリン−2−スルホン酸アルカリ金属塩は、インドールを亜硫酸ナトリウム等の亜硫酸アルカリ金属塩と反応させた後、得られたインドリン−2−スルホン酸アルカリ金属塩を無水酢酸中で加熱下に攪拌してアセチル化することにより合成できる [同上参照] 。この反応では、インドールを亜硫酸アルカリ金属塩と反応させる時に、スルホン化と同時にインドールのピロール環の水素添加が起こるので、インドリン化合物にするための水素添加工程が不要である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
上記のRussell らの報告によれば、インドールから出発して、亜硫酸ナトリウム(または他の亜硫酸アルカリ金属塩)との反応→アセチル化→カチオノイド反応による5位への置換基導入→加水分解という反応工程により、5−置換インドール誘導体を合成できる。この方法は、途中でインドリン化合物を経るにもかかわらず、インドリン核にするための水素添加やインドール核に戻すための脱水素の反応を必要とせずに、インドールから5−置換インドール誘導体を製造できることから、工業的にも魅力ある方法である。
【0005】
しかし、この方法は、インドリン−2−スルホン酸金属塩を無水酢酸中で加熱攪拌してアセチル化し、1−アセチルインドリン−2−スルホン酸アルカリ金属塩を合成する工程において、反応生成物が無水酢酸に不溶性であるため反応液の流動性が悪くなって攪拌が困難となり、工業的スケールでの製造には不適当であることが判明した。この流動性をよくするには基質濃度を下げる必要があり、そうすると生産性が低下するので、工業的生産には不適当となる。
【0006】
本発明は、比較的温和な反応条件下で、流動性低下といった工業的操業を阻害する状態にならずに、1−アセチルインドリン−2−スルホン酸アルカリ金属塩を収率よく製造する方法を提供することを課題とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、1−アセチルインドリン−2−スルホン酸アルカリ金属塩の合成について検討を重ねた結果、前述したRussell らが報告したインドリン−2−スルホン酸金属塩の無水酢酸によるアセチル化を、酢酸と3級アルキルアミンの存在下で行うことにより、反応時に生成物が反応液中に溶解し、攪拌が困難になることなく、比較的穏和な反応条件下で、目的生成物が収率よく得ることができることを見いだし、本発明に到達した。
【0008】
本発明は、次の反応式で示すように、インドリン−2−スルホン酸アルカリ金属塩(1) を酢酸および3級アルキルアミンの存在下、無水酢酸と反応させることを特徴とする、1−アセチルインドリン−2−スルホン酸アルカリ金属塩(2) の製造方法である。
【0009】
【化2】
Figure 0004432157
【0010】
上記反応式において、R1 およびR2 はそれぞれ独立して水素またはアルキル基であり、R3 、R3'、R3"はそれぞれ独立してアルキル基であり、Mはアルカリ金属である。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明の方法で出発物質として用いるインドリン−2−スルホン酸アルカリ金属塩は、Russell らが採用したのと同様の方法で、収率よく合成することができる。即ち、次の反応式に示すように、インドールまたはそのアルキル誘導体(3) を重亜硫酸アルカリ金属塩 (亜硫酸アルカリ金属塩でもよい) と反応させると、水素添加と同時に2位にスルホン酸アルカリ金属塩部分が導入され、インドリン−2−スルホン酸アルカリ金属塩(1) が1水和物として得られる。
【0012】
【化3】
Figure 0004432157
【0013】
インドール化合物(3) と重亜硫酸アルカリ金属塩との反応は、例えばインドールのアルコール溶液と重亜硫酸アルカリ金属塩の水溶液とを室温で反応させることにより行うことができる。還元剤である重亜硫酸アルカリ金属塩をスルホン化剤として使用することにより、前述したように、ラネーニッケル触媒の存在下で水素ガスを作用させるといった耐圧容器を必要とするような一般的な水素化反応を行わずに、常圧の液相反応によって、インドールからインドリン骨格とするための水素添加と2位のスルホン化を同時に達成することができる。
【0014】
アルカリ金属Mは特に制限されないが、普通にはナトリウムまたはカリウムであり、特にナトリウムがコスト面で好ましい。インドールのR1 、R2 基の少なくとも一方がアルキル基である場合、このアルキル基の炭素数は特に制限されないが、通常は炭素数1〜20、特に1〜4である。アルキル基の例としては、メチル、エチル、n−プロピル、イソプロピル、ブチル、イソブチル、tert−ブチルなどが例示される。
【0015】
本発明では、このようにして得ることができるインドリン−2−スルホン酸アルカリ金属塩(1) を出発物質とし、これを無水酢酸と反応させて1位をアセチル化し、1−アセチルインドリン−2−スルホン酸アルカリ金属塩(2) を生成させる。このアセチル化反応は加熱攪拌下で行うことができる。
【0016】
反応溶媒としては、従来法と同様に有機溶媒を使用せず、反応剤である無水酢酸が溶媒を兼ねてもよく、或いは一般的な有機溶媒を用いることもできる。使用できる有機溶媒の例としては、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、クロロホルム、塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素、酢酸エチルやメチルエチルケトン等のエステル類やケトン類、などが挙げられる。有機溶媒を使用する場合、溶媒量は、原料のインドリン−2−スルホン酸金属塩に対して10重量倍以下とすることが好ましい。
【0017】
反応剤としての無水酢酸は、原料のインドリン−2−スルホン酸金属塩(1) に対して1.5 倍モル以上存在すれば、特に問題はないが、通常は 2.0〜20倍モルの範囲とする。無水酢酸が溶媒を兼ねる (有機溶媒を使用しない) 場合には、無水酢酸量をインドリン−2−スルホン酸金属塩(1) に対して10倍モル以上とすることが好ましい。
【0018】
本発明によれば、この無水酢酸によるインドリン−2−スルホン酸アルカリ金属塩(1) のアセチル化反応を、酢酸と3級アルキルアミンの存在下で行う。即ち、本発明で用いる添加剤は、酸と塩基の両方、という化学反応の常識に反した組合わせである。しかし、この酢酸と3級アルキルアミンという組合わせからなる添加剤の存在下で上記アセチル化反応を行うことにより、アセチル化生成物は反応系で析出せずに溶解するようになる。そのため、従来のように反応の進行につれてアセチル化反応生成物が析出して反応液の流動性が低下することがなく、スムースに攪拌を続けながら反応を進行させることが可能となり、出発物質が実質的に完全に反応し終わると反応液は均一溶液となる。
【0019】
また、意外なことに、この添加剤の存在により、アセチル化反応を有機溶媒の存在下で行った場合に従来法で見られた収率低下が抑制されることも判明した。即ち、Russell らの方法に従って、上記原料化合物(1) を無水酢酸中で加熱攪拌する方法では、基質濃度を変化させずに無水酢酸の一部の代わりに有機溶媒を使用すると、無水酢酸濃度の低下により、熱によるインドリン−2−スルホン酸アルカリ金属塩の分解反応が優先し、アセチル化生成物の収率が大きく低下する。そのため、無水酢酸は溶媒も兼ねて多量に使用する必要があった。これに対し、本発明に従って上記組合わせの添加剤を存在させた場合には、無水酢酸の量を減らして、代わりに有機溶媒を使用しても、上記の分解反応はほとんど起こらず、アセチル化生成物の収率低下は少ない。そのため、多量の無水酢酸に起因する反応中の臭気発生をかなり抑えることができる。
【0020】
酢酸の添加量は、インドリン−2−スルホン酸金属塩(1) に対して 1.0〜8.0 倍モルとすることが好ましい。反応に無水酢酸を用いるため、酢酸を添加する代わりに、水を添加して無水酢酸の一部を加水分解し、必要量の酢酸を反応系内で生成させてもよい。ただし、その場合には、水により消費される分だけ、無水酢酸量を増加させる必要がある。
【0021】
3級アルキルアミンは、各アルキル基 (上の反応式のR3 、R3'、R3") の炭素数が1〜6であるものが好ましく、分子内に2以上の3級アミン窒素原子を含有するポリアミンであってもよい。3級アルキルアミンの具体例としては、これらに限られないが、トリエチルアミン、メチルジエチルアミン、トリn−プロピルアミン、トリn−ブチルアミン、 N,N,N',N'−テトラメチルエチレンジアミンなどが挙げられる。3級アルキルアミンの添加量は、インドリン−2−スルホン酸金属塩(1) に対して 0.5〜2.0 倍モルの範囲内とすることが好ましい。
【0022】
反応剤および添加剤の添加順序は特に制限されるものではないが、酸成分 (即ち、反応剤の無水酢酸と添加剤の酢酸) を先に原料化合物と混合しておき、その混合液 (原料化合物は無水酢酸や有機溶媒には溶解しないので、この混合液は一般にはスラリーである) に塩基である3級アルキルアミンを、中和熱による急激な昇温が起こらないように好ましくは滴下により少しずつ添加して、反応を行うことが好ましい。
【0023】
本発明によるアセチル化反応の反応温度は、従来の無水酢酸だけを用いたアセチル化反応に比べて、より低温でも進行する。反応温度は、一般に30〜90℃の範囲であるが、好ましくは40〜60℃である。反応時間は、反応温度にもよるが、通常は 0.5〜6時間である。反応生成物である1−アセチルインドリン−2−スルホン酸アルカリ金属塩(2) は、酢酸および3級アルキルアミンの存在下では、無水酢酸に溶解するので、反応が進行すると、不溶物が消失して、均一溶液となる。このような均一溶液になるまで反応を続けることが好ましい。
【0024】
反応液からの反応生成物の回収は従来より公知の適当な方法により行うことができる。本発明の方法の反応生成物である1−アセチルインドリン−2−スルホン酸アルカリ金属塩(2) は水溶性であるので、例えば、水と有機溶媒との反応生成物の分配の差を利用した溶媒抽出法により反応生成物を回収することができる。この場合、生成物は水溶液として回収されるので、それをそのまま合成原料として種々の反応に使用することができる。必要であれば適当な精製を行ってもよいのは勿論である。
【0025】
この反応生成物は、前述したように、種々のカチオノイド試薬と反応させて5位に置換基(例、ニトロ基、ハロゲン基)を導入することができ、その後で加水分解を行うと、2位のスルホン酸塩部分と1位のアセチル基が脱離するのと同時に脱水素が起こって、5−置換インドール誘導体が得られる。但し、この生成物の用途はこれに限られるものではない。
【0026】
【実施例】
(実施例1)
インドリン−2−スルホン酸ナトリウム1水和物23.9 g(0.10 mol)、無水酢酸153.7 g(1.51 mol) 、酢酸8.0 g(0.13 mol) を混合して得たスラリーを室温で攪拌しながら、これに、トリエチルアミン10.1g(0.10 mol)をゆっくりと滴下した。滴下終了後、反応液を50℃まで昇温させて攪拌を続けた。1.5 時間の攪拌後に不溶分が実質的に完全に消失し、スラリーから均一溶液となった。得られた反応液を、HPLC内部標準法により1−アセチルインドリン−2−スルホン酸ナトリウム1/2 水和物について定量分析した結果、反応液は原料化合物 (インドリン−2−スルホン酸ナトリウム1水和物) に対して96.0モル%の生成収率に相当する量の生成物を含有することがわかった。
【0027】
(実施例2)
トリエチルアミンを N,N,N',N'−テトラメチルエチレンジアミン11.6 g(0.10 mol)に変更した以外は実施例1と同様に反応を実施した。その結果、反応液中のアセチル化生成物の生成収率は96.5モル%であった。
【0028】
(実施例3)
実施例1において、無水酢酸量を50.0g(0.49 mol)に減らし、有機溶媒としてトルエン60.0gを加えた以外は同様に反応を実施した。反応液は50℃で2時間の攪拌により均一溶液となった。反応液中のアセチル化生成物の生成収率は90.2モル%であった。
【0029】
冷却した反応液に水100 g を加えて攪拌すると、実質的に全てのアセチル化生成物が水層に移行するので、分液によりアセチル化生成物の水溶液を回収することができる。なお、実施例1、2のように有機溶媒を使用しない場合には、反応液に有機溶媒と水を加えることにより、同様の分液操作でアセチル化生成物の水溶液を回収することができる。
【0030】
(比較例1)
インドリン−2−スルホン酸ナトリウム1水和物23.9g(0.10 mol)と無水酢酸153.7 g(1.51 mol) との混合液 (スラリー状態) を攪拌しながら、70℃まで昇温させて、この温度で2時間攪拌した後、90℃まで昇温させ、90℃でさらに1時間攪拌を続けた。90℃に昇温した時点で、反応液のスラリー濃度が上昇し、流動性がなくなり、攪拌が非常に困難となった。この時点で反応混合物の一部をサンプリングし、HPLC内部標準法により定量分析した結果、この混合物中の原料化合物に対するアセチル化生成物の生成収率は88.2モル%であった。
【0031】
(比較例2)
比較例1において、酢酸8.0 g(0.13 mol)を加えた以外は同様の操作で反応と生成物の回収を行った。その結果、70℃に昇温後0.5 時間でスラリー濃度 (スラリー粘稠性) が上昇し、流動性が消失した。反応混合物中のアセチル化生成物の生成収率は68.0%であった。酢酸を添加するだけでは、流動性の改善効果は全くなく、反応収率は著しく低下し、反応にはかえって有害であることがわかる。
【0032】
(比較例3)
比較例1において、無水酢酸量を50.0g(0.49 mol)に減らし、有機溶媒としてトルエン60.0gを加えた以外は同様に反応を実施した。有機溶媒の添加により、90℃の昇温後もスラリーは流動性を保持していた。この反応液中のアセチル化反応生成物の生成収率は56.0モル%であった。
【0033】
実施例1と実施例3を比較するとわかるように、本発明の方法では、反応系に有機溶媒を存在させた場合の反応収率の低下は少ないのに対し、酢酸と3級アルキルアミンを添加しない従来法では、有機溶媒の存在により反応収率が著しく低下することがわかる。
【0034】
【発明の効果】
本発明により、インドリン−2−スルホン酸アルカリ金属塩の無水酢酸によるアセチル化反応を、基質濃度を低下させることなく反応液の流動性を保持したまま実施することができ、目的とする1−アセチルインドリン−2−スルホン酸アルカリ金属塩を高収率で得ることができる。また、従来法では、このアセチル化反応は無水酢酸の一部の代わりに有機溶媒を使用すると収率が著しく低下したが、本発明ではこのように有機溶媒を使用した場合の収率の低下が著しく少ない。従って、本発明により、有機溶媒を使用の有無にかかわらず、5−置換インドール類その他の合成原料として有用な1−アセチルインドリン−2−スルホン酸アルカリ金属塩を工業的に効率よく製造することが可能となる。

Claims (1)

  1. 一般式(1) で示されるインドリン−2−スルホン酸アルカリ金属塩を酢酸および3級アルキルアミンの存在下、無水酢酸と反応させることを特徴とする、一般式(2) で示される1−アセチルインドリン−2−スルホン酸アルカリ金属塩の製造方法。
    Figure 0004432157
    式中、R1 およびR2 はそれぞれ独立して水素またはアルキル基であり、Mはアルカリ金属である。
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