JP4429456B2 - 通常加工液及び粉末混入加工液を使用した放電加工方法及びその装置 - Google Patents

通常加工液及び粉末混入加工液を使用した放電加工方法及びその装置 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、通常加工液による加工及び粉末混入加工液による加工を切り換え繰り返す放電加工に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
被加工物を水や油等からなる加工液中に浸漬するとともに前記被加工物と放電電極との間隙に所定の電圧を印加し両極間に発生する放電を利用して被加工物を加工するようにした放電加工技術は周知である。
【0003】
上記放電加工を実施する従来の放電加工機の加工槽の例として、図6ないし図7に示す。図7は従来の放電加工機の加工槽1を、図6は図7の液面調整器10の部分を特に説明するためのものである。
図7において、1は加工槽であり、被加工物を出し入れしやすいように、加工槽壁の一面に扉が設けられているものや、加工槽壁が昇降するもの等がある。10は液面調整器である。
図6は前記液面調整器10の一例であり、その内部を示した図である。11は加工槽1の側部に切り欠き形成された加工槽壁開口部である。12は溢流堰で、加工槽壁開口部11の下方を塞ぎつつモータや手動などによって昇降可能になっている。溢流堰の上端部の位置が加工槽内に溜まった加工液の液面となる。13は加工液排出口であり、通常は閉じられているが、加工槽1内から加工液を排出するときには開放される。
【0004】
しかし、上記例をはじめとした従来の放電加工装置では、放電加工による加工槽内の温度上昇を抑える必要や、加工槽内加工液中の加工屑濃度が所定限度を超えないように加工槽内の加工屑を排除する必要などのために、加工液を加工槽1から意図的に溢流させるほど供給することで加工液の清浄化手段を有する加工液の循環供給装置との間で循環させていたので、溢流堰12と加工槽壁の隙間や加工槽の液密シールなどから加工液が漏出してもあまり問題とされなかった。
さらに、このような放電加工機では加工液の供給を止めてしまうとかえって、上述の加工槽の液密シールや図6に示したような溢流堰12周りなどから加工液が漏出するために、液面が低下して加工に支障をきたし、最悪の場合は火災発生にまで至ってしまうこともある。したがって加工液の汚濁や温度上昇を抑える為のほかに、液面を一定に保つ為にも、常に加工液を供給する必要があった。
従って、このような放電加工機の加工槽内では、加工液の流れができてしまうのである。
【0005】
放電加工には、一つの箇所の加工の際に加工の能率を上げる為に、荒加工から中加工、そして仕上げ加工のように加工の段階を経る加工方法が採られる。さらに、油系加工液の場合は荒加工には粉末を混入していない通常の油加工液の方が加工特性に優れ、これに対し仕上げ加工には油加工液に粉末を所定の濃度で混入した粉末混入加工液の方が加工特性に優れるので、加工段階に応じて2種類の加工液を交換して加工を行なっている。
【0006】
荒加工時には通常の粉末非混入加工液を、仕上げ加工時には導電性物質または半導体物質からなる粉体を混入した加工液を、加工槽内に供給する装置として、例えば、特公平7−115259号公報に開示する放電加工機の加工液処理装置がある。即ち、
(1)同公報図1〜図6には荒加工用の通常加工液と、仕上げ加工用の粉末混入加工液とを別々に収容する加工液供給装置を設けた、いわゆる2槽式のもの
(2)同公報図7〜図22には荒加工用の通常の加工液を収容する加工液供給装置を設け、仕上げ加工時に導電性物質または半導体物質からなる粉体を通常の加工液に逆洗、混入する、いわゆる1槽式逆洗方式のもの
が開示されている。
しかしこの放電加工機では、加工段階に応じて通常の加工液と粉末混入加工液の2種類の加工液を入れ換えながら加工を行う為には、
上記(1)のものでは、通常の加工液用と粉末混入加工液用とのそれぞれに、別々の加工液収納手段や、加工液濾過手段、加工液を加工槽に搬送する為のポンプなどが必要となるので、放電加工機全体が大掛かりなものとなり、また、従来の放電加工機に容易には対応し得ない。
また、上記(2)のものでは、通常の加工液に粉末を混入し、また、粉末混入加工液から粉末を排除して通常の加工液にする加工液濾過手段やポンプなど、大掛かりな各種の装置が必要となるので、放電加工機全体が大掛かりなものとなり、また、従来の放電加工機に容易には対応し得ない。
更に、この放電加工機で通常の加工液と粉末混入加工液とを入れ換える際には、
上記(1)のものでは、一旦片方の加工液を加工槽から排液しておく必要があり、また、粉末混入加工液から通常の加工液に入れ換える際に通常の加工液に粉末が混入して荒加工特性が低下してしまわないよう加工槽内などに堆積した粉末を取り除く為の清掃を必要としていたり等、種々の手間がかかる。
また、上記(2)のものでは、一旦片方の加工液を加工槽から排液する必要があり、その際に、加工液収納手段内の通常の加工液に粉末を混入し粉末混入加工液にしたり粉末混入加工液を加工液収納手段内に戻してから粉末を取り除いて通常の加工液に戻したりする必要があり、粉末混入加工液から通常の加工液に入れ換える際に通常の加工液に粉末が混入して荒加工特性が低下してしまわないよう加工槽内などに堆積した粉末を取り除く為の清掃を必要としていたり等、種々の手間と時間がかかる。
また更にこの放電加工機では、加工槽や加工液収納手段、加工液が巡る管路などを満たす量の粉末混入加工液に見合う量の粉末が必要となる。
【0007】
また、通常の加工液と粉末混入加工液との2種類の加工液を入れ換えながら加工を行う更に別の装置として、実用新案第2501317号公報に開示する装置がある。
【0008】
即ち、荒加工用の加工液を収納する第1の加工槽と、仕上げ加工用の粉末混入加工液を収納する上記第1の加工槽より容積の小さい第2の加工槽とを備え、上記第1の加工槽で荒加工用の加工液で荒加工を行い、荒加工が終わって次に粉末混入加工液で仕上げ加工を行う場合は、加工液を加工液供給装置に排出したのち、基準板に第2の加工槽の側壁を取り付けて、この側壁で囲われ形成された第2の加工槽中に粉末混入加工液を供給充填し、粉末混入加工液による加工を行うものである。
しかしこの装置では、荒加工用の加工液と粉末混入加工液とを入れ替える必要があり更に加工液供給装置も各々の加工液用に必要となるので、装置が大掛かりになるうえ、従来の放電加工機に容易には対応し得ないものである。
また、加工液入れ替えの際には第2の加工槽を第1の加工槽内に取り付ける必要があり、更に第2の加工槽だけでなく、第2の加工槽への加工液の供給用・排出用の配管や加工液撹拌装置、第2の加工槽内に張り巡らせた温度制御装置の冷水用銅パイプ、前記銅パイプまでの配管なども、第2の加工槽を取り付ける際に必要となるので、放電加工の全自動化の妨げになるばかりか、大きく手間がかかる。
また更に、第2の加工槽は被加工物よりも大きな定盤よりも更に大きい基準板に取り付けられる為、第1の加工槽よりは容積が小さいものの、前記基準板に取り付けられるほどの大きさが必要となり、そうすると、この第2の加工槽を満たす量の粉末混入加工液が必要であり、かつ、加工液供給装置に残しておく必要のある量の粉末混入加工液も必要であり、それらの加工液量に見合う量の粉末が必要である。
【0009】
ところで従来より、粉末混入加工液に混入される粉末は一般に加工液よりも比重が大きく、粉末混入加工液の粉末にシリコン粉末を用いた場合は特に、粉末が沈殿、堆積して、粉末が偏在しやすいばかりか、凝固してしまいやすいので、加工槽内全体の粉末混入加工液を万遍なく撹拌するために可成りの勢いで撹拌ができるほどの撹拌装置を必要としていた。
【0010】
上記の攪拌装置としては、加工槽壁から勢いよく粉末混入加工液を噴射する噴射装置を設けたもの、該噴射装置を上下複数段に設けたもの、該噴射装置を上下複数段に設けたものを加工槽壁の各面に設けたもの、加工槽にポンプ及び該ポンプの吸引口と吹出口を配置し、加工槽内の粉末混入加工液を循環させるものなど、数々の装置が考案されてきた。しかしそれらは、放電加工機が大掛かりとなるものや、従来の放電加工機に容易には対応し得ないものであった。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、通常加工液を使用する荒加工と粉末混入加工液を使用する仕上げ加工とを切り換え繰り返す放電加工をより効率よく行ない得ると共に他方に於いて、仕上げ加工に粉末混入加工液を使用するようになったことに起因する問題や負担等を軽減させる放電加工方法及び装置を提案する。
仕上げ加工は、より容易な鏡面仕上げ等の仕上げ加工のために粉末混入加工液使用の加工の態様とするものの、荒加工には、粉末混入加工液よりも荒加工特性が上回る通常の加工液を使用するようにし、それでいて、上記仕上げ加工の際の粉末混入加工液の使用量を仕上げ加工処理に必要な出来るだけ必要な最小限度の量として、加工に供することにより、粉末混入加工液、特にそのなかに混入する粉末は、その仕上げ加工で出来るだけ消費し尽くす、必要最小限度の供給、使用の態様の仕上げ加工とするものであり、さらに、粉末混入加工液使用の仕上げ加工後の荒加工の際に、通常加工液の循環供給装置に於ける清浄化処理だけで、加工槽は比較的簡単な清掃処理をすれば良いものである。
【0012】
【課題を解決する為の手段】
通常加工液で荒加工をし、粉末混入加工液で仕上げ加工をする放電加工であって、上記両加工を切り換え繰り返す放電加工方法において、上記荒加工は、通常加工液を電極と被加工物間の加工間隙が配置されて位置する加工槽と加工液清浄及び循環手段を有する加工液循環供給装置間において、加工間隙に対する加工液噴射ノズルと加工槽に対する加工液供給口との両方又は一方により通常加工液を供給すると共に、加工槽の液面調整器からの溢流により回収して循環させながら加工を行い、また、上記仕上げ加工は、前記加工液供給装置に対して前記加工間隙を満たす程度の小容量で、所定濃度に調整し得る粉末混入加工液を収納し、バルブ切り換えにより前記加工液噴射ノズルを介して前記通常加工液で満たされている前記加工槽内の加工間隙に該加工間隙を満たす程度の量ずつ連続して、又は所定間歇的に供給し得る粉末混入加工液供給サブタンクを有し、前記加工槽に前記通常加工液を所望に満たした状態で、前記粉末混入加工液の連続又は間歇的な加工間隙に対する注入供給を繰り返し行いつつ加工するようにしたことを特徴とする放電加工方法。
【0013】
前記仕上げ加工は、前記電極と被加工物間に所定のジャンプ運動を繰り返し行なわせながら加工をする放電加工方法。
【0014】
前記加工槽内に、加工間隙を挟んで位置する加工液供給口と加工液溢流堰との間に形成される加工液流を阻止する遮蔽板を前記加工間隙と加工液供給口との間に設置して前記仕上げ加工をする放電加工方法。
【0015】
前記仕上げ加工後の荒加工は、加工槽から通常加工液と粉末混入加工液との混合加工液を加工液供給装置に回収して清浄化処理をした後、該清浄化処理をした通常加工液を加工槽に循環供給しながら加工する放電加工方法。
【0016】
通常加工液による荒加工と、前記通常加工液に粉末を混入した粉末混入加工液による仕上げ加工とを繰り返す放電加工装置において、前記通常加工液を、電極と被加工体間の加工間隙が収納配置される加工槽に供給すると共に回収して清浄化処理をして再供給する加工液循環供給装置と、所定濃度に調整し得ると共に前記通常加工液で満たされている前記加工槽内の加工間隙に加工に必要な前記加工間隙を満たす程度の量の粉末混入加工液を連続的又は間歇的に供給し得る粉末混入加工液供給装置であって、前記加工液循環供給装置に対し前記加工間隙を満たす程度の小容量に構成されたサブタンクと、前記加工間隙に指向させて配置し得る1個以上の加工液噴射ノズルが設けられ、さらに前記仕上げ加工の実施に際し、前記加工液循環供給装置による加工液循環を停止した状態にすると共に、前記加工液噴射ノズルから粉末混入加工液が注入供給されるように噴射ノズルを加工液循環供給装置から粉末混入加工液供給装置に接続切換する手段と、その切換制御手段とを設けて成る放電加工装置。
【0017】
前記サブタンクにおいて、加工液循環供給装置から通常加工液を、粉末供給装置から粉末を、それぞれ所定量供給し、所定濃度に調整し得る粉末混入加工液を得ることができるようにした放電加工装置。
【0018】
【実施例】
図1は本発明による放電加工装置の一例を示す構成図である。図中、1は加工槽であり、放電加工を行なう際には加工液7で満たされる。該加工液7は、荒加工や仕上げ加工の際に各々加工屑や粉末8などが含まれるが、ほぼ通常加工液14と変わらない。6は放電加工電源を含むCNC型数値制御装置、2は加工液循環供給装置であり、該加工液循環供給装置2は汚液槽2aと清浄液槽2bとからなる。加工槽1内には被加工物4が設置され、電極5が前記被加工物4に対向してコラムの加工ヘッド等に支持され、前記被加工物4と前記電極5とが前記数値制御装置6及び図示しない駆動装置により相対的に位置制御される。10は液面調整器であり、前記従来例で示したものや公知のものが使用される。9aは加工槽1内の加工液7の液面位置を検知する為の液面検知手段であり、図示例では溢流堰12に設けられているが、場合によっては加工槽壁に適宜の液位置高さとするよう設けられてもよい。また、更にもう1つ液面検知手段9bも設けてもよい。
【0019】
21はドレイン配管で、液面調整器10を介して加工槽1の加工液7を汚液槽2aに流下させる配管である。22は汚液槽2aの加工液7から加工屑や粉末8などを取り除き通常加工液14に浄化して清浄液槽2bに送る配管であり、該配管22にはポンプ24とフィルタ25とが設置されている。23は清浄液槽2bの通常加工液14を加工槽1に供給するバルブ23a及びポンプ26付き配管である。27aは配管23に設置されている流量制御弁で、加工液供給口27からの加工槽1への通常加工液14の供給量を調節するものである。30aは加工液循環供給装置2から噴射ノズル30への通常加工液14の通止をするバルブである。
【0020】
3はサブタンクである。サブタンク3は、容量約200[l]またはそれ以上の加工液循環供給装置2や容量約100[l]またはそれ以上の加工槽1と比べてはるかに小容量で数[l]程度のものであり、加工槽1やその近辺に付加して設けることができる。粉末供給装置31は、粉末混入加工液による仕上げ加工に必要な、シリコン、Al、TiC、WC、SiC、Si3N4、または黒鉛粉等の粉末8を収容しておくものである。そしてサブタンク3において、粉末供給装置31から粉末8を、また、前記配管23及び前記配管23から分岐したバルブ33a付き配管33を介してポンプ26によって加工液循環供給装置2から通常加工液14を、それぞれ補給して、公知の撹拌手段32で撹拌し、通常の仕上げ加工や梨地加工、鏡面加工など各種の仕上げ加工に応じた所定濃度で粉末8を加工液14に混入した粉末混入加工液15を作成するものである。噴射ノズル30は、通常の加工液による荒加工の時は必要に応じてバルブ30aを開いて加工液供給装置2からポンプ26によって通常加工液14を噴射し、粉末混入加工液15による仕上げ加工の時にはポンプ26を停止し前記配管23や33のバルブ23a及び30a、33aを閉じ、配管34のバルブ34aを開いてサブタンク3内の粉末混入加工液15をポンプ35によって加工間隙に向けたノズル30から電極5と被加工物4間の対向加工間隙を満たす程度の微少量の粉末混入加工液15を連続又は間歇的に注入供給する。
【0021】
このような装置を用い、通常の加工液による荒加工を行う場合には、従来通り通常加工液14を循環させながら、即ちバルブ30aを開きポンプ26を作動させて清浄液槽2bから通常加工液14を加工槽1内に送り、かつ加工屑を含んだ通常加工液14である加工液7を溢流堰12から溢流させ、前記ドレイン配管21を介して汚液槽2aに流下回収し、常時または断続的にポンプ24を作動させて、汚液槽2aの加工液7をフィルタ25で通常加工液14に清浄化処理して清浄液槽2bに送り込みながら、また必要に応じてバルブ30aも開いて、清浄液槽2bの通常加工液14をノズル30から加工間隙に対しての噴射もしながら、電極5とワーク4との間に間歇的に電圧パルスを供給するかコンデンサに蓄えられた電荷を放電させることにより、加工を行う。
【0022】
そして、粉末混入加工液を使用する加工、例えば通常の仕上げ加工や、梨地加工、鏡面加工などを行う際には、前記数値制御装置6により電圧パルス等の電気的加工条件を切換え、必要に応じ一軸方向の加工送りに相対的に揺動運動を付与するようにし、また必要に応じ電極交換を行ない、図示のごとく加工槽1内の加工液7の液面位置が所定レベル、通常加工時のレベルにある状態であることを液面検知手段9aにより検知して、ポンプ26を停止しバルブ23aを閉じ、ノズル30からの通常加工液の噴射も行なっていたなら30aも閉じ、通常加工液14の循環を止める。
【0023】
そして、前記数値制御装置6によりバルブ33aを開きポンプ26を動かしてサブタンク3に通常加工液14を、また、粉末供給装置31から粉末8を、それぞれ梨地加工、鏡面加工等に応じて所定の量だけ供給し、通常加工液14と粉末8を公知の撹拌手段32で撹拌することで所定の粉末濃度の粉末混入加工液15を仕上げ加工に必要な量だけ作って貯留する。
該粉末混入加工液15は、粉末加工を開始する直前のみならず、粉末加工を開始するより以前に予め作って、作り置きしておいても良いが、時間経過による粉末8と通常加工液14との分離に注意する必要がある。時間経過如何にかかわらず粉末8と通常加工液14が分離しかかって粉末混入加工液15に粉末濃度ムラを起こさないためにも撹拌機32で撹拌していると良い。
【0024】
粉末混入加工液15の準備ができたなら、被加工物4と電極5の間である加工間隙に向けて連続又は間歇的に、バルブ34aを開いてポンプ35を作動させて噴射ノズル30からサブタンク3の粉末混入加工液15の注入供給を開始し、仕上げ加工を開始する。このときの粉末混入加工液15の注入供給量は、極微量である。即ち、仕上げ加工中の電極ジャンプ等の際に、ノズル30から粉末混入加工液15を直接加工間隙に注入供給し、粉末混入加工液15が電極5と被加工物4との間の加工間隙をほぼ充満して介在する状態、即ち目的とする仕上げ加工の為の加工間隙状態を形成させれば良い。
この場合、噴射ノズル30を2個以上の多数設ける等することにより、間隙に向けて多数の方向から粉末混入加工液15を注入供給するようにするとなおよい。
【0025】
上記注入供給を続けると、図2に示すように、加工槽1が荒加工の際に満たされた通常加工液14による加工液7の中で、加工間隙周囲に粉末8が分布し、分布した粉末8の濃度は濃くなっていき次第に広がり、加工間隙周囲は粉末8でよどみ、図2の粉末よどみ16のようになる。
【0026】
放電加工中、所望に応じ、ジャンプ動作を行う。このジャンプ動作の相対開離動作時には、電極5と被加工物4の間隙に負圧が発生し、この負圧が発生することによって、相対開離動作前で負圧発生前の図3の(a)の状態から、相対開離動作後で負圧発生後の図3の(b)の状態となり、電極5と被加工物4の間隙に噴射ノズル30から注入供給されている粉末混入加工液15が流入してくる。
【0027】
今度は、ジャンプ動作の相対近接動作をして、電極5と被加工物4の間隙距離が加工間隙距離となったときに、上記相対開離動作時に電極5と被加工物4の間隙に流入した粉末混入加工液15は、加工間隙に留まったもの以外は全て加工間隙周囲に押し出される。
そして、加工間隙周囲に粉末混入加工液15の粉末8が分布することとなる。噴射ノズル30からの粉末混入加工液15の注入供給量、ひいては粉末8の供給量が少量で済む為、粉末よどみ16が加工槽1全体におよぶ前に仕上げ加工は終了している。
【0028】
実験では、サブタンク3に通常加工液4[l]と粉末2[g]を供給して粉末混入加工液を作り、噴射ノズル30からポンプ35により粉末混入加工液15を、約80[l]の通常加工液14で満たされている加工槽1の内の加工間隙に、加工面積に応じて毎分30〜50[ml]で連続して注入供給することによって良好な仕上げ面が得られた。
【0029】
具体的には、20[mm]角の電極により面付け深さ0.3[mm]で表面粗さ10[μm]まで荒加工から中仕上げ加工をしたのちに上記仕上げ加工を行ったところ、上記放電加工電源の回路が、仕上げ放電パルスの立ち上がりをなだらかにする挿入回路素子がコイルだけの回路では30分で表面粗さ0.9[μm]の光沢面を、また、上記挿入回路素子がコイルと抵抗の回路では10分で表面粗さ1.5〜1.2[μm]の面が得られた。
【0030】
更に50[mm]角の電極により面付け深さ0.3[mm]で表面粗さ15[μm]まで荒加工したのちに上記仕上げ加工で、上記挿入回路素子がコイルだけの回路で25分間加工することにより表面粗さ3〜5[μm]まで仕上げ加工した後、上記挿入回路素子がコイルと抵抗の回路で37分間仕上げ加工することによって表面粗さ2[μm]程度の面を得られた。
【0031】
粉末混入加工液による仕上げ加工終了後、加工槽1の加工液排出口13を開き、加工槽1内の通常加工液14に粉末混入加工液15が混入された加工液7をドレイン配管21から汚液槽2aに排出する。そして汚液槽2aの加工液7中の粉末8はポンプ24により管路22を通ってフィルタ25において加工屑と共に通常加工液14から分離される。
【0032】
粉末混入加工液による仕上げ加工が終了した時点で、加工槽1から粉末よどみ16を図示しない吸引装置で吸引し、図示しない公知の粉末回収手段で粉末8を回収したり、ドレイン配管21や加工液循環供給装置2等に、図示しない公知の粉末回収手段を設けて粉末8を回収してもよいが、上述した本発明の仕上げ加工によれば、使用した粉末の量がごく僅かなので、回収できる量もごく僅かであり、また、加工槽1内においても、仕上げ加工に粉末混入加工液15を使用したことによる粉末8によっての加工槽1内の汚濁はごく僅かである。
【0033】
次の通常加工液による荒加工、例えば新たな被加工物や同じ被加工物の次の加工箇所の荒加工に移る際には、従来必要であった加工槽1の洗浄を行うことなく次の加工を開始することができるので、洗浄する手間が省けるばかりでなく、仕上げ加工終了の際に作業者が居なくとも自動で次の通常加工液による荒加工に移ることができる。
【0034】
以上は第一実施例であり、該第一実施例が適応できるのは、加工槽1内に加工液7の流れを存在させないようにできるか、又は、流れを微少に抑えることができる放電加工機であった場合である。
【0035】
しかし旧来の放電加工機では、放電加工による加工槽内の温度上昇を抑えたり加工槽内の加工屑を排除する必要があった為に、意図的に加工槽1の溢流堰12から溢流させるほどの加工液を供給し、加工液を循環させていたので、加工槽のシール部等から加工液が漏出してもあまり問題とされなかった。むしろ、そのような放電加工機においては、加工液循環供給装置2からの加工液の供給を止めてしまうと、図6で示したような溢流堰12や加工液排出口13のわずかなすきま、前述の加工槽シール部などから加工液が漏出することで液面が低下して加工に支障をきたし、最悪の場合は火災発生にまで至ってしまう。よって、液面を一定に保つ為に、また前述した加工槽内の温度上昇を抑える為、加工槽内の加工屑を排除する為にも、常に加工液を供給する必要がある。従って、そのような放電加工機の加工槽内には、電極5と被加工物4との間の加工間隙部を挟んだ、加工液供給口27から溢流堰12までの間に、加工液の流れができてしまうのである。
【0036】
この加工液の流れが存在している中で、上記第一実施例で述べたような粉末よどみ16を発生させると、粉末よどみ16が上記加工槽内の流れに乗って流されてしまう。粉末よどみ16が流されてしまうとサブタンク3に用意しておいた粉末混入加工液15が不足してしまい粉末混入加工液による仕上げ加工が途中で出来なくなってしまうことになる。もしくは、粉末混入加工液15が不足する事態に対処する為にサブタンク3の粉末混入加工液15の量を増やしても、その増量分の粉末混入加工液15の粉末8は流される粉末の量であるので粉末8が無駄となるばかりか、加工槽1内の粉末よどみ16の分布範囲が広がるので、加工槽1内の粉末8の滞留量が増大し、結局加工槽1の洗浄無しでは次の通常加工液7による荒加工が良好に行われなくなってしまう。
【0037】
そこで本発明は第二実施例として、図4に示すように、加工槽1内には、電極5と被加工物4との間の加工間隙部を挟んだ、加工液供給口27から溢流堰12までの間に加工液の流れ17が形成されて、粉末よどみ16が流されてしまうところから、粉末よどみ16が発生すると予想される加工部より上流側の加工液の流れ17の発生部位間に、遮蔽板18を設ける。こうすることで、粉末混入加工液15による仕上げ加工中において、液面を一定に保つ為にバルブ23aを開きポンプ26を作動させて通常加工液14を加工液供給口27から供給しつづけることで上記加工液の流れ17が形成されても、粉末よどみ16が流されないようにするのである。
【0038】
粉末よどみ16が流されなければ良いので、図5に示すように遮蔽板18は、加工液の流れ17が弱ければ図5の(a)のように板状のもの1枚だけでも良いし、加工液の流れ17が強ければ、図5(b)のように板状の遮蔽板18を複数枚組み合せたり、図5(c)のような形状やコの字形状の遮蔽板18で粉末よどみ16を覆うようにしても良く、更に遮蔽板18の下流側に生じる渦流が気になるようであれば図5(d)のように加工液の流れ17の上流側だけでなく下流側にも遮蔽板18を設けるようにしても良い。遮蔽板18の形状も、上述したものに限らず、粉末よどみ16が流されなければどのような形状でも良く、更に遮蔽板18は、板状のものでなくとも、ジャバラ状のものや多孔質状のもの等どのようなものでも良い。
【0039】
また、粉末よどみ16が流されない程度に加工液の流れ17を緩めるようにしてもよく、その為の構成として、ポンプ26をインバータポンプにして流量制御が出来るようにしてもよく、また、加工液供給口27を鑑賞魚の水槽や水道の蛇口によく用いられているような多孔質状の物質で覆った構成として、配管23を通って供給されてきた通常加工液14の流れを加工液供給口27において分散させるようにしてもよい。
【0040】
もちろん、上記遮蔽板18や上記加工液の流れ17を緩める構成、上記加工液供給口27において分散させる構成のうち2つ以上を組み合せるようにしてもよい。
【0041】
ところで、上述した液面を一定に保つ方法に関し、上記では常に通常加工液14を供給しているが、その他にも、通常は加工液供給を止めておいて、液面検知手段9aで液面低下を検知したらバルブ23aを開きポンプ26を作動させて清浄液槽2bから所定時間だけ通常加工液14を供給するようにしてもよい。
【0042】
この方法の場合は更に、所定時間経過してもまだ液面検知手段9aが液面上昇を検知できなければ、何らかの理由で加工液7の漏出量が供給量を上回り液面が低下しつづけているとみなし、異常とみなして放電加工を止めるようにしてもよい。若しくは、加工中の液面の下限となる位置等、液面検知手段9aよりも下の位置に液面検知手段9bを設け、液面検知手段9bが液面の低下を検知したら異常とみなして放電加工を止めるようにしてもよい。
【0043】
【発明の効果】
以上、本発明によれば、通常加工液を使用する荒加工と粉末混入加工液を使用する仕上げ加工とを切り換え繰り返す放電加工をより効率よく行ない得ると共に他方に於いて、仕上げ加工に粉末混入加工液を使用するようになったことに起因する、問題や負担等を軽減させることができる。
仕上げ加工は、より容易な鏡面仕上げ等の仕上げ加工のために粉末混入加工液使用の加工の態様とするものの、荒加工には、粉末混入加工液よりも荒加工特性が上廻る通常の加工液を使用するようにし、それでいて、上記仕上げ加工の際の粉末混入加工液の使用量を仕上げ加工処理に必要な出来るだけ必要な最小限度の量として、加工に供することにより、粉末混入加工液、特にそのなかに混入する粉末は、その仕上げ加工で出来るだけ消費し尽くす、必要最小限度の供給、使用の態様で仕上げ加工ができるものであり、さらに、粉末混入加工液使用の仕上げ加工後の荒加工の際に、通常加工液の循環供給装置に於ける清浄化処理だけで、加工槽は比較的簡単な清掃処理をすれば良いものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明における通常加工液による放電加工を示した図である。
【図2】本発明における粉末混入加工液を使用した放電加工を示した図である。
【図3】本発明における粉末混入加工液を使用した放電加工による、被加工物4と電極5との相対開離動作を説明した図である。
【図4】本発明の第二実施例を示した図である。
【図5】本発明による遮蔽板18を示した図である。
【図6】放電加工機における液面調整器10を示した図である。
【図7】従来の放電加工機の加工槽を示した図である。
【符号の説明】
1 加工槽
2 加工液循環供給装置
2a 汚液槽
2b 清浄液槽
3 サブタンク
6 数値制御装置
8 粉末
14 通常加工液
15 粉末混入加工液
16 粉末よどみ
17 加工液の流れ
18 遮蔽板
27 加工液供給口
30 噴射ノズル

Claims (6)

  1. 通常加工液で荒加工をし、粉末混入加工液で仕上げ加工をする放電加工であって、上記両加工を切り換え繰り返す放電加工方法において、上記荒加工は、通常加工液を電極と被加工物間の加工間隙が配置されて位置する加工槽と加工液清浄及び循環手段を有する加工液循環供給装置間において、加工間隙に対する加工液噴射ノズルと加工槽に対する加工液供給口との両方又は一方により通常加工液を供給すると共に、加工槽の液面調整器からの溢流により回収して循環させながら加工を行い、また、上記仕上げ加工は、前記加工液供給装置に対して前記加工間隙を満たす程度の小容量で、所定濃度に調整し得る粉末混入加工液を収納し、バルブ切り換えにより前記加工液噴射ノズルを介して前記通常加工液で満たされている前記加工槽内の加工間隙に該加工間隙を満たす程度の量ずつ連続して、又は所定間歇的に供給し得る粉末混入加工液供給サブタンクを有し、前記加工槽に前記通常加工液を所望に満たした状態で、前記粉末混入加工液の連続又は間歇的な加工間隙に対する注入供給を繰り返し行いつつ加工するようにしたことを特徴とする放電加工方法。
  2. 前記仕上げ加工は、前記電極と被加工物間に所定のジャンプ運動を繰り返し行なわせながら加工をするようにしたことを特徴とする請求項1記載の放電加工方法。
  3. 前記加工槽内に、加工間隙を挟んで位置する加工液供給口と加工液溢流堰との間に形成される加工液流を阻止する遮蔽板を前記加工間隙と加工液供給口との間に設置して前記仕上げ加工をするようにしたことを特徴とする請求項1ないし2に記載の放電加工方法。
  4. 前記仕上げ加工後の荒加工は、加工槽から通常加工液と粉末混入加工液との混合加工液を加工液供給装置に回収して清浄化処理をした後、該清浄化処理をした通常加工液を加工槽に循環供給しながら加工するようにしたことを特徴とする請求項1ないし3に記載の放電加工方法。
  5. 通常加工液による荒加工と、前記通常加工液に粉末を混入した粉末混入加工液による仕上げ加工とを繰り返す放電加工装置において、前記通常加工液を、電極と被加工体間の加工間隙が収納配置される加工槽に供給すると共に回収して清浄化処理をして再供給する加工液循環供給装置と、所定濃度に調整し得ると共に前記通常加工液で満たされている前記加工槽内の加工間隙に加工に必要な前記加工間隙を満たす程度の量の粉末混入加工液を連続的又は間的に供給し得る粉末混入加工液供給装置であって、前記加工液循環供給装置に対し前記加工間隙を満たす程度の小容量に構成されたサブタンクと、前記加工間隙に指向させて配置し得る1個以上の加工液噴射ノズルが設けられ、さらに前記仕上げ加工の実施に際し、前記加工液循環供給装置による加工液循環を停止した状態にすると共に、前記加工液噴射ノズルから粉末混入加工液が注入供給されるように噴射ノズルを加工液循環供給装置から粉末混入加工液供給装置に接続切換する手段と、その切換制御手段とを設けて成る放電加工装置。
  6. 前記サブタンクにおいて、加工液循環供給装置から通常加工液を、粉末供給装置から粉末を、それぞれ所定量供給し、所定濃度に調整し得る粉末混入加工液を得ることができるようにした請求項5記載の放電加工装置。
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