JP4428502B2 - 有機電界発光素子用電極基板およびその製造方法並びに有機el発光装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
有機電界発光素子用の電極基板、有機電界発光素子用電極基板の製造方法、および有機電界発光素子用電極基板を用いた有機EL発光装置に関する。
【0002】
【従来技術】
従来から、2個の電極間に有機発光層を挟持した構造を有する有機EL素子が以下に示す理由等から鋭意研究開発され、開発の対象とされている。
【0003】
(1)完全固体素子であるため、取り扱いや製造が容易である。
(2)自己発光が可能であるため、発光部材を必要としない。
(3)視認性に優れているため、ディスプレイに好適である。
(4)フルカラー化が容易である。
しかしながら、有機発光層は、有機物であり、一般に電子や正孔を輸送しにくいため劣化しやすく、長期間使用すると、リーク電流が生じやすいという問題が見られた。
【0004】
例えば、後述する特許文献1には、陽極の仕事関数と正孔輸送層のイオン化エネルギーとの間のエネルギー差を小さくし、長寿命化を図った有機EL素子が示されている。このような目的を達成するために、陽極に、酸化錫インジウム(ITO:Indium Tin Oxide)よりも仕事関数が大きく、かつ、導電性である金属酸化物材料を用いることが特許文献1に記載されている。このような導電性金属酸化物としては、例えば、RuOx 、MoO3 、V2 O5 が記載されており、これらの金属酸化物を用いた有機EL素子が特許文献1に開示されている。
【0005】
また、同特許公報において、光透過率(%)を向上させるために、これらの導電性の金属酸化物材料から成る薄膜とITOとを積層した2層構造の陽極が提案されている。
【0006】
また、下記特許文献2には、長期間の使用を可能にすべく、電極と有機発光層との間に、絶縁性薄膜層を備えた有機EL素子が開示されている。この特許文献2に開示された有機EL素子は、具体的には、陽極層と有機発光層との間、あるいは陰極層と有機発光層との間に、窒化アルミニウムや窒化タンタル等から成る絶縁性薄膜層を備えた構成を採用している。
【0007】
また、下記特許文献3には、m−MTDATAやテトラアリールジアミン誘導体等を使用することのない低コストの有機EL素子を提供することを目的として、電極と有機発光層との間に、NiOにIn2O3,ZnO,SnO2又はB,P,C,N,Oの少なくとも一つを添加した無機材料層、あるいはNi1-x O(0.05≦x≦0.5)より成る無機材料層を形成した有機EL素子が開示されている。
【0008】
また、下記特許文献4には、ITO表面をフッ素化して仕事関数6.2eVのITOが得られている。
【0009】
【特許文献1】
特許2824411号公報
【特許文献2】
特開平8−288069号公報
【特許文献3】
特開平9−260063号公報
【特許文献4】
特開2000−277256号公報
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記特許文献1に開示された有機EL素子は、RuOx、MoO3、V2O5等の金属酸化物材料を使用しても、正孔の移動性や耐久性がいまだ不充分であると考えられる。また、RuOx 、MoO3 、V2O5等の金属酸化物材料は、光吸収係数の値が27000cm-1以上と大きく、激しく着色していた。したがって、これらの金属酸化物材料から成る陽極層は、可視光域における光透過率(%)が、例えばITOの約1/9〜1/5というように極端に低く、そのため発光効率が低かったり、外部に取り出せる光量が少ないという問題が見られた。また、これらの金属酸化物材料から成る薄膜とITOとを積層した2層構造の陽極であっても、光透過率(%)はITOの約1/2程度であり、依然値が低くて、実用に供する値でないという問題の存在が確認できた。また、この2層構造の陽極層を構成する場合、ITOや金属酸化物薄膜の厚さを所定範囲内の値にそれぞれ制限しなければならず、製造上の制約が大きいという問題も見られる。
【0010】
また、仕事関数はITOより大きくすることができるが、その抵抗値はITOと同等か若しくは大きくなり、実用上問題があった。
【0011】
また、上記特許文献2に開示された有機EL素子は、絶縁性薄膜層に窒化アルミニウムや窒化タンタル等を使用しているため、この部分(絶縁性薄膜層)で電圧のロス(電圧降下)があり、結果として駆動電圧が高くなりやすいという問題が見られた。
【0012】
また、上記特許文献4に開示された方法では、ITO表面をフッ素化しており、仕事関数は6.2eVまで向上する。しかし、仕事関数は向上するが、その一方においてITOの表面が絶縁膜化してしまう。その結果、仕事関数向上の効果が得られにくいという問題がある。
【0013】
上記問題について、本願発明者らが鋭意検討したところ、有機EL素子の電極層に特定の金属酸化物とAg等を主成分とする多層膜を組み合わせて使用することにより、透明性や耐久性に優れ、しかも、低電圧(例えば、直流5V以下)の印加であっても優れた発光輝度が得られることを見出した。具体的には、上記構成を採用することによって、透明性や耐久性に優れ、しかも、低電圧(例えば、直流5V以下)の印加であっても優れた発光輝度が得られる有機EL素子が構成できることが見いだされた。
【0014】
すなわち、本発明は、特定の金属酸化物層とAg等を主成分とする薄膜層の組み合わせから成る電極層を備えたことにより、表面抵抗が著しく小さく、透明性や耐久性に優れるとともに、低い駆動電圧を印加した場合でも高い発光輝度が得られる有機EL素子およびそのような有機EL素子が効率的に得られる有機EL素子用の電極基板およびそのような有機EL素子の製造方法を提供することを目的とする。
【0015】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本願発明は、以下のような手段を採用する。
【0016】
1.まず、本発明は、有機電界発光層を駆動する電極と、基材と、を備えた有機電界発光素子用電極基板において、前記電極が、5.6eVを超える仕事関数を有する金属酸化物の陽極薄膜層、および、金属細線から成る積層体であることを特徴とする。
【0017】
ここで、仕事関数が5.6eV以上であるとしたのは、この条件を満たさない場合には、低電圧化、発光輝度向上、耐久性の向上等の効果が小さい場合があるからである。
【0018】
また、金属細線がないと、陽極の電極抵抗が大きくなり、仕事関数が大きくなり発光輝度の向上などの効果が薄れる場合があるからである。
【0019】
2.次に、本発明は、上記金属酸化物の陽極薄膜層の仕事関数が5.8eV以上の金属酸化物の陽極薄膜層であることを特徴とする。
【0020】
上述したように、仕事関数が5.6eV以上である必要があるが、より好ましくは5.8eV以上である。なお、この値は、UV洗浄後、空気中、理化学技研製AC−1で測定した値である。
【0021】
3.次に、本件発明は、前記金属酸化物の陽極薄膜層が、酸化インジウムを主成分とし、加えて酸化亜鉛および/又は酸化スズを主成分とし、さらに、ランタノイド系金属酸化物を含有することを特徴とする。
【0022】
ランタノイド系元素の添加により、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズを主成分とする金属酸化物の薄膜層の仕事関数を有効に5.6eV以上にすることができる。
【0023】
上記主成分として示した金属以外では、仕事関数を有効に5.6eV以上にするために、ランダノイド系元素の添加量を増やさなければならない。しかし、添加量を増やすと抵抗値が増大し、透過率が低下し、エッチング特性が低下する場合がある。
【0024】
4.次に、本件発明は、上記ランタノイド系金属酸化物が、酸化セリウム、酸化プラセオジウム、酸化ネオジウム、酸化サマリウム、酸化テルビウムから選択した1又は2以上の金属酸化物であることを特徴とする。
【0025】
例えば、酸化インジウム+酸化亜鉛を主成分とする場合には、 In/(In+Zn)=0.5〜0.98原子%とすることが好ましい。
【0026】
上記In/(In+Zn)の値は、好ましくは0.7〜0.95、より好ましくは0.8〜0.9の比率にする。この値が0.5未満では、金属酸化物膜の導電性が低下する場合があり、その一方、0.98を超えるとエッチング特性が劣る場合があるからである。
【0027】
また、例えば、酸化インジウム+酸化スズを主成分とする場合にはIn/(In+Sn)=0.7〜0.98原子%とすることが望ましい。
【0028】
上記In/(In+Sn)の値は、好ましくは0.8〜0.95、より好ましくは0.85〜0.95の比率にする。この値が0.7未満又は0.98を超える場合では、金属酸化物の薄膜層の導電性が低下する場合があるからである。
【0029】
また、例えば、酸化インジウム+酸化スズ+酸化亜鉛を主成分とする場合には、In/(In+Sn+Zn)=0.5〜0.98原子%とすることが望ましい。
【0030】
上記In/(In+Sn+Zn)の値は、好ましくは0.7〜0.95、より好ましくは0.8〜0.95の比率にする。この値が0.5未満では、金属酸化物膜の導電性が低下する場合があり、0.98を超えるとエッチング特性が劣る場合があるからである。
【0031】
また、ランタノイド系金属酸化物の添加量は全金属原子に対して0.1から20原子%未満、好ましくは、1から10原子%未満、より好ましくは、1〜5原子%未満であることが望ましい。この値が0.1原子%未満では、添加効果が出ず仕事関数が5.6eV以上にならない場合があり、20原子%以上では、薄膜が高抵抗化して導電性が低下するおそれがあるからである。
【0032】
また、薄膜層の厚みは10〜500nmであり、好ましくは30〜300nm、より好ましくは30〜200nmが望ましい。この値が、10nm以下では、薄膜層の機械的な強度に問題が発生する場合があり、500nm以上では、エッチング特性に問題が生じたり、成膜時間が長くなってしまう場合もあるからである。
【0033】
また、成膜時の酸素分圧は、0〜5%に設定するのが良い。好ましくは、0〜2%、より好ましくは0〜1%にする。この値が、5%以上では、抵抗が高くなる場合があるからである。
【0034】
また、陽極層の結晶性は、非晶質が望ましい。陽極層の結晶性が非晶質であれば、エッチング時の端面(エッチング面)の残渣が解消され、また、電極がテーパー状になり、対向電極の断線等のトラブルが解消できるからである。
【0035】
5.本発明は、上記有機電界発光素子用基板において、金属細線がAg、Al、Cuのいずれかを主成分とすることを特徴とする。
【0036】
6.本発明は、上記有機電界発光素子用基板において、金属細線が仕事関数5.0以上の金属を添加してあることを特徴とする。
【0037】
7.本発明は、上記有機電界発光素子用基板において、仕事関数が5.0eV以上の金属が、Au、Ir,Ni、Co、Pd、Ptから選択された1種又は2種以上の金属を含むことを特徴とする。
仕事関数が5.0以上の金属を添加することにより、金属細線の安定性が増す。添加量としては、0.01から5wt%以下、好ましくは0.1〜2wt%より好ましくは0.5〜2wt%である。この値が、0.01未満では、添加の効果が小さく、5wt%超の添加ではAg薄膜層等の導電性を低下させてしまう場合や高価になる場合があるからである。
【0038】
また、第三成分として、安定性や抵抗値に影響しない範囲で別の金属を添加しても良い。
【0039】
上記金属細線の厚みは、10〜500nm、好ましくは20〜400nmが望ましい。この値が、10nm未満では、陽極の抵抗値が下がらない問題が生じる場合があり、500nm超では、電極の段差が大きくなり、リーク電流が発生してしまう可能性があるからである。
【0040】
上記金属細線の幅(短辺方向)は、陽極薄膜層の幅(短辺方向)より短くしなければならない。金属細線の幅(短辺方向)は、陽極薄膜層の幅の2〜40%、好ましくは3〜30%、より好ましくは、4〜25%である。
8.本発明は、上記有機電界発光素子用電極基板が、上記金属酸化物の陽極薄膜層上に保護膜を有することを特徴とする。保護膜を設ければ金属細線の耐久性が向上するからである。
【0041】
上記保護層は、金属細線のエッチング液によりエッチングできる材料であり、導電性を有することが望まれる。このような材質としては、酸化インジウム−酸化亜鉛から成る非晶質の透明導電膜が好適に使用できる。その場合のインジウムの比率は、In/(In+Zn)=0.2〜0.98が使用でき、好ましくは0.5〜0.95、より好ましくは0.7〜0.9である。
【0042】
9.本発明は、有機電界発光素子用電極基板の製造方法において、前記基材に金属酸化物の陽極薄膜層を積層し、次に、金属細線から成る金属薄膜層を積層するステップと、燐酸、硝酸、酢酸の混酸により前記金属薄膜層をエッチングするステップと、前記エッチングの後、さらに蓚酸によりエッチングして前記陽極薄膜層をパターニングするステップと、を含むことを特徴とする。
【0043】
10.また、本発明は、有機電界発光素子用電極基板の製造方法において、前記基材が、ガラス基板であることを特徴とする。
【0044】
ここで、上記陽極薄膜層は蓚酸を含むエッチング液によりエッチング可能である。蓚酸濃度は、1〜20wt%の水溶液、好ましくは2〜10wt%水溶液、より好ましくは2〜5wt%が好ましい。1wt%以下では、十分なエッチング速度が得られず、20wt%以上では、蓚酸の結晶が析出する場合があるからである。また、金属を腐蝕するおそれのない酸を添加することもできる。
【0045】
金属をエッチングする酸は、陽極薄膜層にダメージを与えない酸なら特に制限なくどのような酸でも使用できるが、燐酸、硝酸、酢酸の混酸がより有用に使用できる。それぞれの酸の配合比率は、特に制限はない。しかし、もちろん金属薄膜の十分なエッチング速度が得られ、陽極薄膜層にダメージを与えない配合にすることが好ましい。また、濃度に関しても、特別の制限はない。しかし、金属薄膜の十分なエッチング速度が得られ、陽極薄膜層にダメージを与えない濃度とすることが好ましい。したがって必要に応じて水で希釈することも望ましい。
【0046】
11.有機電界発光層を駆動する電極と、基材と、を備えた有機電界発光素子用電極基板であって、前記電極が、5.6eVを超える仕事関数を有する金属酸化物の陽極薄膜層、および、金属細線から成る積層体である有機電界発光素子用電極基板を用いた有機EL発光装置において、前記有機電界発光層と、前記電極と対抗する陰極層と、を含むことを特徴とする。
【0047】
ここで、有機EL発光装置は、上記有機電界発光素子用電極基板と同様の作用効果を奏する。
【0048】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適な実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0049】
【実施例1】
(1)有機EL素子用基板の製造準備(ターゲットの作成)
まず、酸化インジウムと、酸化スズと、酸化セリウムとの粉末(平均粒子径1μm以下)を、インジウムのモル比(In/(In+Sn))が0.9であり、スズのモル比(Sn/(In+Sn))が0.1であり、かつ、金属全体におけるセリウムのモル比(Ce/(In+Sn+Ce))が0.05になるように、湿式ボールミル容器内に収容し、72時間にわたって混合粉砕する。
【0050】
次いで、得られた粉砕物を造粒してから、直径4インチ、厚さ5mmの寸法にプレス成形した。これを焼成炉に収容した後、1400℃の温度で、36時間加熱焼成し、金属酸化物の薄膜層用のターゲット1とした。
【0051】
また、酸化インジウムと酸化亜鉛との粉末(平均粒子径1μm以下)を、Zn/(In+Zn)のモル比が0.15になるように、湿式ボールミル容器内に収容し、72時間にわたって混合粉砕した。
次いで、得られた粉砕物を造粒してから、直径4インチ、厚さ5mmの寸法にプレス成形した。これを焼成炉に収容した後、1400℃の温度で、36時間加熱焼成し、陽極層用のIZOターゲットとした。
【0052】
次に、AgにCuを0.7wt%、Auを0.8wt%添加した金属ターゲットを作成し、これをAgターゲットと呼ぶ。
【0053】
また、CuにNiを1.7wt%、Coを1.3wt%添加した金属ターゲットを作成し、これをCuターゲット16と呼ぶ。また、純Al金属ターゲットをAlターゲットと呼ぶ。
【0054】
(2)有機EL素子用基板の製造
次に、有機EL素子用基板の製造について説明する。この様子が図1に示されている。
【0055】
高周波スパッタリング装置にて、真空槽内に厚さ1.1mm、縦25mm、横75mmの透明なガラス基板10および、作成したターゲット1、IZOターゲットおよびAlターゲットを配置し、高周波スパッタリング装置を稼働して、到達真空度5×10−4Paまで減圧した状態で、アルゴンガスのみを封入する。図1(1)はガラス基板を示しており、請求の範囲における「基材」の一例に相当する。
【0056】
当該雰囲気中において、真空度を3×10−1Pa、基板温度を室温、投入電力を100W、成膜時間を14分の条件で、スパッタリングし、ターゲット1を用いて厚さ110nmの金属酸化物の薄膜層12をアルゴンガス中で形成した。この様子が図1(2)に示されている。
【0057】
次に、引き続いてAlターゲットを用いて厚さ120nmのAl薄膜14をアルゴンガス中で形成した。この様子が図1(3)に示されている。
【0058】
さらに、IZOターゲットを用いて酸素ガスを混入したアルゴンガス中で厚み20nmのIZO薄膜16を形成した。この様子が図1(4)、図2に示されている。
【0059】
なお、上記Al薄膜14上に、保護膜であるIZO薄膜16を設けることは必須ではないが、設けた方が好ましい。
【0060】
続いて、硝酸―燐酸―酢酸水溶液にて、IZO薄膜/Al薄膜をエッチングして、20μm幅のIZO/Al細線18を形成した。この様子が図1(5)に示されている。
【0061】
その後、この基板のターゲット1で成膜した金属酸化物の薄膜層をIZO/Al細線18がターゲット1で作成した薄膜電極のサイドに1本含まれる配置となるようなパターンとするべく、蓚酸水溶液にてエッチングした。このようにパターニングを行って作成した電極をパターニング電極と呼ぶ。この様子が図1(6)に示されている。
【0062】
なお、ターゲット1で成膜した金属酸化物の薄膜層20の幅は90μmにするのが好ましい。また、上記エッチングして得られたAl細線14は金属細線の一例に相当する。さらに、IZO/Al細線18は金属細線上に保護膜を設けた一例に相当する。
【0063】
この基板をイソプロピルアルコールで超音波洗浄し、さらに、N2(窒素ガス)雰囲気中で乾燥させた後、UV(紫外線)およびオゾンを用いて10分間洗浄した。
【0064】
(3)測定結果
上記パターニング電極(電極幅:90μm、電極長さ:100mm)の抵抗を2端針法で測定したところ2.5kΩであった。また、ターゲット1からのみ成膜した金属酸化物の薄膜層12の比抵抗は、3×10E−3Ωcmであった。また、パターニング電極の光透過率(波長550nm)を測定したところ、89%であった。基板のUV洗浄後における陽極層12の仕事関数の値をAC−1(理研計器社製)を用いて測定したところ、6.06eVであった。
【0065】
なお、測定結果については、表1中に示されている。
【0066】
(4)有機EL素子の形成
真空蒸着装置における真空槽の基板ホルダに上記「基板」を装着し、次いで、真空槽内を、1×10−6Torr以下の真空度になるまで減圧した後、基板24の陽極層12に、正孔輸送層26、有機発光層28、電子注入層30および陰極層32を順次積層して有機EL素子34を得た。この様子が図3に示されている。
【0067】
なお、このとき、有機発光層28の形成から陰極層32の形成までの間は、一度も真空状態を破ることなく、同一真空条件であった。
【0068】
ここで、有機EL素子34は請求の範囲の有機電界発光素子に相当する。
【0069】
まず正孔輸送材料としてTBDBを60nm真空蒸着した。次に有機発光層28としてDPVDPANとD1を真空下で40nm共蒸着した。この時のDPVDPANの蒸着速度は40nm/sであり、D1の蒸着速度は1nm/sであった。
【0070】
次に、電子注入層30としてAlqを20nm真空蒸着した。最後に、AlおよびLiを真空蒸着し、電子注入層30上に陰極層32を形成し、有機EL素子34を作成した。
【0071】
この時のAlの蒸着速度は1nm/sであり、Liの蒸着速度は0.01nm/sであり、Al/Liの膜厚は200nmであった。
【0072】
なお、これらについては、表1中に示されている。また、TBDBや、DPVDPAN、D1、Alqの化学式が図4に示されている。
【0073】
(5)製造した有機EL素子の評価
得られた有機EL素子34における陰極層32をマイナス(−)電極、陽極層12をプラス(+)電極として、両電極間に4.4Vの直流電圧を印加した。
【0074】
このときの電流密度は2.0mA/cm2であり、発光輝度は161nit(cd/m2)であった。また、発光色は青色であたることを確認した。
【0075】
さらに、耐久性評価として、10mA/cm2で定電流駆動したところ、1000時間以上経過後にも、特にリーク電流の発生は見られなかった。
【0076】
なお、実施例1の結果が表1中に示されている。
【0077】
【表1】
【実施例2】
実施例1におけるターゲット1の代わりに、以下に示すターゲット2を用いた。ターゲット2を用いたほかは、実施例1と同様に、有機EL素子34を作成した。
【0078】
ターゲット2は酸化インジウムと、酸化スズと、酸化セリウムとから組成されている。また、インジウムのモル比(In/(In+Sn))は0.9であり、スズのモル比(Sn/(In+Sn))は0.1であり、かつ、金属全体におけるセリウムのモル比(Ce/(In+Sn+Ce))は0.03である。
【0079】
なお、陽極層の仕事関数の値は、5.85eVであった。また、電極抵抗は、2.4kΩであった。
【0080】
上記手段により得られた有機EL素子34に実施例1と同様に、電極間に4.3Vの直流電圧を印加したところ、電流密度の値は2.0mA/cm2であり、発光輝度は164nitであった。また、発光色は青色であることを確認した。
【0081】
さらに、耐久性評価として、10mA/cm2で定電流駆動したところ、1000時間以上経過後にも、特にリーク電流の発生は見られなかった。
【0082】
なお、実施例2の結果も表1中に示されている。
【0083】
【実施例3】
実施例2におけるIZOターゲットによる保護膜を使用しないほかは、実施例2と同様に、有機EL素子34を作成した。
【0084】
なお、陽極層の仕事関数の値は、5.85eVであった。また、電極抵抗は、2.4kΩであった。
【0085】
電極間に4.4Vの直流電圧を印加したところ、電流密度の値は2.0mA/cm2であり、発光輝度は163nitであった。また、発光色は青色であることを確認した。さらに、耐久性評価として、10mA/cm2で定電流駆動したところ、1000時間以上経過後にも、特にリーク電流の発生は見られなかった。
【0086】
なお、実施例3の結果も表1中に示されている。
【0087】
【実施例4】
実施例1におけるターゲット1の代わりに、以下に示すターゲット4を用いた。また、金属ターゲットとしてはAlターゲットの代わりに、Agターゲットを用いた。なお、IZO保護膜16は使用していない。そのほかは、実施例1と同様にして有機EL素子34を作成した。
【0088】
ターゲット4は、酸化インジウムと、酸化スズと、酸化サマリウムとから組成されている。また、インジウムのモル比(In/(In+Zn))は0.9であり、スズ(Sn/(In+Sn))のモル比は0.1であり、かつ、金属全体におけるサマリウムのモル比(Sm/(In+Zn+Sm))は0.03である。
【0089】
なお、陽極層12の仕事関数の値は、5.90eVであった。また、電極抵抗は、2.4kΩであった。
【0090】
上記手段により得られた有機EL素子34に実施例1と同様に、電極間に4.4Vの直流電圧を印加したところ、電流密度の値は2.0mA/cm2であり、発光輝度は156nitであった。また、発光色は青色であることを確認した。
【0091】
さらに、耐久性評価として、10mA/cm2で定電流駆動したところ、1000時間以上経過後にも、特にリーク電流の発生は見られなかった。
【0092】
なお、実施例4の結果も表1中に示されている。
【0093】
【実施例5】
実施例1におけるターゲット1の代わりに、ターゲット5を用いた。また、金属ターゲットとしてはAlターゲットの代わりに、Agターゲットを用いた。そのほかは、実施例1と同様の条件で、有機EL素子34を作成した。
【0094】
ターゲット5は、酸化インジウムと、酸化亜鉛と、酸化プラセオジウムとから組成されている。また、インジウムのモル比(In/(In+Zn))は0.9であり、スズのモル比(Sn/(In+Zn))は0.1であり、かつ、金属全体におけるプラセオジウムのモル比(Pr/(In+Sn+Pr))は0.04である。
【0095】
なお、陽極層12の仕事関数の値は、5.81eVであった。また、電極抵抗は、2.5kΩであった。
【0096】
得られた有機EL素子34に実施例1と同様に、電極間に4.5Vの直流電圧を印加したところ、電流密度の値は2.0mA/cm2であり、発光輝度は161nitであった。また、発光色は青色であることを確認した。さらに、耐久性評価として、10mA/cm2で定電流駆動したところ、1000時間以上経過後にも、特にリーク電流の発生は見られなかった。
【0097】
なお、実施例5の結果は表2中に示されている。
【0098】
【表2】
【実施例6】
実施例1におけるターゲット1の代わりに、ターゲット6を用いた。また、金属ターゲットとしはAlターゲットの代わりに、Cuターゲットを用いた。そのほかは、実施例1と同様に、有機EL素子34を作成した。
【0099】
ターゲット6は酸化インジウムと、酸化スズと、酸化ネオジウムとから組成されている。また、インジウムのモル比(In/(In+Sn))は0.9であり、スズのモル比(Sn/(In+Sn))は0.1であり、かつ、金属全体におけるネオジウムのモル比(Nd/(In+Sn+Nd))は0.06である。
【0100】
なお、陽極層12の仕事関数の値は、5.80eVであった。また、電極抵抗は、2.6kΩであった。
【0101】
得られた有機EL素子34に実施例1と同様に、電極間に4.5Vの直流電圧を印加したところ、電流密度の値は2.0mA/cm2であり、発光輝度は158nitであった。また、発光色は青色であることを確認した。さらに、耐久性評価として、10mA/cm2で定電流駆動したところ、1000時間以上経過後にも、特にリーク電流の発生は見られなかった。
【0102】
なお、実施例6の結果も表2中に示されている。
【0103】
【実施例7】
実施例1におけるターゲット1の代わりに、ターゲット7を用いた。また、金属ターゲットとしてはAlターゲットの代わりに、Agターゲットを用いた。そのほかは、実施例1と同様に、有機EL素子34を作成した。
【0104】
ターゲット7は、酸化インジウムと、酸化スズと、酸化テルビウムとから組成されている。インジウムのモル比(In/(In+Sn))は0.9であり、スズのモル比(Sn/(In+Sn))は0.1であり、金属全体におけるテルビウムのモル比(Tb/(In+Sn+Tb))は0.06である。
【0105】
なお、陽極層12の仕事関数の値は、5.90eVであった。また、電極抵抗は、2.5kΩであった。
【0106】
得られた有機EL素子34に実施例1と同様に、電極間に4.6Vの直流電圧を印加したところ、電流密度の値は2.0mA/cm2であり、発光輝度は166nitであった。また、発光色は青色であることを確認した。さらに、耐久性評価として、10mA/cm2で定電流駆動したところ、1000時間以上経過後にも、特にリーク電流の発生は見られなかった。
【0107】
なお、実施例7の結果も表2中に示されている。
【0108】
【比較例1】
実施例1におけるターゲット1の代わりに、ITOターゲットを用い、金属ターゲットにAgターゲットを用いたほかは、実施例1と同様に、有機EL素子を作成した。
【0109】
なお、陽極層12の仕事関数の値は、5.25eVであった。得られた有機EL素子に実施例1と同様に、電極間に5.3Vの直流電圧を印加したところ、電流密度の値は2.0mA/cm2であり、発光輝度は162nitであった。また、発光色は青色であることを確認した。
【0110】
なお、比較例1の結果も、表2中に示されている。
【0111】
【発明の効果】
以上、詳細に説明したように、本発明の有機電界発光層を駆動する電極が、5.6eVを超える仕事関数を有する金属酸化物の陽極薄膜層、および、金属細線から成る積層体である有機発光素子用電極基板を用いたことを特徴とする有機EL素子によれば、特定の無機化合物から成る陽極層等を備えることにより、透明性や耐久性に優れ、駆動電圧が低くとも、高い発光輝度が得られる有機EL素子を提供することができるようになった。
【0112】
また、特定の無機化合物から成る陽極層等は、優れたエッチング特性を有していることも確認された。
【0113】
また、本発明の電極基板によれば、上記のような効果が得られる有機電界発光装置を製造することができる。
【0114】
また、本発明の製造方法によれば、上記のような効果が得られる有機電界発光装置を製造することができる。
【0115】
【図面の簡単な説明】
【図1】本実施の形態における電極基板の製造過程の一連の断面図である。
【図2】本実施の形態における電極基板の断面図である。
【図3】本実施の形態における有機EL素子の断面図である。
【図4】各種物質の化学式を表した図である。
【符号の説明】
10 ガラス基板
12 金属酸化物の陽極薄膜層
14 金属層
16 非晶質金属酸化物透明導電膜
18 金属細線
20 基板
26 正孔輸送層
28 有機発光層
30 電子注入層
32 陰極層
34 有機EL素子
Claims (12)
- 有機電界発光層を駆動する電極と、基材と、を備えた有機電界発光素子用電極基板において、
前記電極が、5.6eVを超える仕事関数を有する金属酸化物の陽極薄膜層上に金属細線を積層して成る積層体であって、
前記金属酸化物の陽極薄膜層が、
酸化インジウムを主成分とし、
加えて酸化亜鉛および/又は酸化スズを主成分とし、さらに、
ランタノイド系金属酸化物を含有することを特徴とする有機電界発光素子用電極基板。 - 有機電界発光層を駆動する電極と、基材と、を備えた有機電界発光素子用電極基板において、
前記電極が、5.6eVを超える仕事関数を有する金属酸化物の陽極薄膜層上に金属細線を積層して成る積層体であって、
前記金属酸化物の陽極薄膜層が、
酸化インジウムを主成分とし、
加えて酸化亜鉛および/又は酸化スズを主成分とし、さらに、
ランタノイド系金属酸化物を含有し、
前記ランタノイド系金属酸化物の添加量は、前記金属酸化物の陽極薄膜層を構成する全金属原子に対して0.1から20原子%未満であることを特徴とする有機電界発光素子用電極基板。 - 前記金属酸化物の陽極薄膜層の仕事関数が5.8eV以上であることを特徴とする請求項1又は2の有機電界発光素子用電極基板。
- 前記ランタノイド系金属酸化物が、
酸化セリウム、酸化プラセオジウム、酸化ネオジウム、酸化サマリウム、酸化テルビウムから選択した1又は2以上の金属酸化物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の有機電界発光素子用電極基板。 - 前記金属細線がAg、Al、Cuのいずれか1種以上を主成分とすることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の有機電界発光素子用電極基板。
- 前記金属細線には仕事関数5.0eV以上の金属を添加してあることを特徴とする請求項5の有機電界発光素子用電極基板。
- 前記仕事関数が5.0eV以上の金属が、Au、Ir,Ni、Co、Pd、Ptから選択された1種又は2種以上の金属であることを特徴とする請求項6の有機電界発光素子用電極基板。
- 前記有機電界発光素子用電極基板が、
前記電極上に保護層を有し、
前記保護層は、酸化インジウム及び酸化亜鉛からなることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の有機電界発光素子用電極基板。 - 請求項1〜8のいずれかに記載の有機電界発光素子用電極基板の製造方法において、
前記基材に金属酸化物の陽極薄膜層を積層し、次に、金属細線から成る金属薄膜層を積層するステップと、
燐酸、硝酸、酢酸の混酸により前記金属酸化物の陽極薄膜層を残しつつ、前記金属薄膜層をエッチングするステップと、
前記エッチングの後、さらに蓚酸によりエッチングして前記陽極薄膜層をパターニングするステップと、
を含むことを特徴とする有機電界発光装置用電極基板の製造方法。 - 請求項9に記載の有機電界発光素子用電極基板の製造方法において、
前記基材が、ガラス基板であることを特徴とする有機電界発光装置用電極基板の製造方法。 - 有機電界発光層を駆動する電極と、基材と、を備えた有機電界発光素子用電極基板であって、前記電極が、5.6eVを超える仕事関数を有する金属酸化物の陽極薄膜層上に金属細線を積層して成る積層体である有機電界発光素子用電極基板を用いた有機EL発光装置において、
前記金属酸化物の陽極薄膜層が、
酸化インジウムを主成分とし、
加えて酸化亜鉛および/又は酸化スズを主成分とし、さらに、
ランタノイド系金属酸化物を含有し、
前記有機電界発光層と、
前記電極と対抗する陰極層と、
を含むことを特徴とする有機EL発光装置。 - 有機電界発光層を駆動する電極と、基材と、を備えた有機電界発光素子用電極基板であって、前記電極が、5.6eVを超える仕事関数を有する金属酸化物の陽極薄膜層上に金属細線を積層して成る積層体である有機電界発光素子用電極基板を用いた有機EL発光装置において、
前記金属酸化物の陽極薄膜層が、
酸化インジウムを主成分とし、
加えて酸化亜鉛および/又は酸化スズを主成分とし、さらに、
ランタノイド系金属酸化物を含有し、
前記ランタノイド系金属酸化物の添加量は、前記金属酸化物の陽極薄膜層を構成する全金属原子に対して0.1から20原子%未満であり、
前記有機電界発光層と、
前記電極と対抗する陰極層と、
を含むことを特徴とする有機EL発光装置。
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