従来、測色器による測色結果は正確であるという前提でその測色値が利用されてきた。例えば、印刷装置において所望の色を出力するためには、色変換テーブルを利用しており、この色変換テーブルを作成する際に測色器が利用されている。すなわち、機器依存色空間における階調値、例えば、印刷装置において使用する記録材の使用量を色毎に特定した階調値においては、この階調値に基づいて実際に出力を行わないと色を特定できない。
そこで、実際に所定の数のパッチを印刷し、測色器によって測色を行うことによって測色値を取得し、この測色値を利用して機器非依存色空間における階調値と上記記録材の色毎の階調値とを対応づけて色変換テーブルとしている。ここで、測色器においては、その観察条件を特定してパッチを測色しており、この観察条件を想定する限りにおいては測色値が正確であるが、異なる観察条件下でもこの測色値が正しいとは言えない。すなわち、この色変換テーブルによる変換結果が厳密に正しいのは測色器における観察条件と一致する条件で印刷物を観察する場合に限られる。
観察条件が異なることに起因して測色値が異なるのは当然であるが、測色対象を測色器によって測定した観察条件と測色対象を実際に利用する環境での観察条件とで測色値が大きく異なる場合には、測色対象を実際に利用する際に不都合が生じる。すなわち、色変換テーブルを作成する際の観察条件と観察者が印刷物を観察する観察条件とが異なると、上記色変換テーブルを作成する際に作成者が意図した通りの色と異なる色のように感じてしまう。例えば、当該作成者が意図したコントラストよりコントラストが小さく感じられたり、当該作成者が意図した色と異なる色相であるかのように感じられる。特に、観察条件が異なることに起因して色の見え方が異なりやすい出力物、例えば、顔料インクによる出力物については、上述の不都合が生じやすい。
また、測色対象を実際に観察する観察条件で測色を行う測色器を用いることができればよいが、このような測色器で多数の測色対象を測色するのは不便であることが多い。すなわち、測色器には複数の測色対象を自動で測色可能な測色器と人為的作業によって測色対象を変更しながら複数の測色対象を測色する測色器とがあり、前者においては観察条件が予め決められた状態で測色を行うが、後者においては観察条件に任意性がある。
また、上記色変換テーブルを作成する場合には、自動で測色を行うことがほぼ必須である。すなわち、色変換テーブルを作成するためには、多数(例えば1000個)のパッチを測色する必要があるが、このような多数のパッチを人為的作業によって一つずつ測定するのは非現実的であり、自動測定がほぼ必須である。従って、従来は、多数の測色対象について所望の観察条件で観察した場合の測色値を正確に取得することは困難であった。
本発明は、上記課題にかんがみてなされたもので、自動で測色した測色結果に基づいてプロファイルを作成し、印刷することを目的とする。
上記目的を達成するため、本発明においては、画像データに基づく出力結果を第1の観察条件で測色した測色値から第2の観察条件で測色を行った場合の測色値を取得し、当該取得した測色値と画像データとを対応づけてプロファイルを作成する。すなわち、実際に測色を行う第1の観察条件と異なる第2の観察条件における測色値を取得することによってプロファイルを作成する。
従って、多数の測色を実施しやすい第1の観察条件によって多数の測色を行い、この結果得られた測色値に基づいてプロファイルを作成することが可能になり、多数の測色対象であっても、容易に測色を行ってプロファイルを作成することができる。また、出力結果を実際に観察する観察条件を第2の観察条件とすることにより、プロファイルの作成者が意図した通りに色が出力されるようにプロファイルを作成することができる。むろん、ここで、プロファイルは画像データとその画像データに基づく出力の測色値とを対応づけていればよく、異なる表色系における階調値を対応づけた複数のデータを含む色変換テーブルであっても良いし、異なる表色系における階調値を対応づけた関数であっても良く、種々の構成を採用可能である。
ここで、上記観察条件としては、予め決められた光源を用いて測色を行う測色器(光源を備える測色器)における観察条件を第1の観察条件とすることが好ましい。すなわち、この測色器としては、多数の測色対象を自動で測色する測色器が存在するので、この測色器によれば第1の観察条件における自動測色が可能である。一方、任意の光源を利用して測色を行う測色器における観察条件を第2の観察条件とすることが好ましい。すなわち、この測色器においては、一般に測色対象を人為的にセットし、複数の測色対象を測色する際には、逐次測色対象の位置を変更しながら測色を行う。
従って、この測色器では多数の測色対象を自動で測色することは困難である。しかし、任意の光源を利用することができるので、出力結果を実際に観察する観察条件、例えば、印刷物を実際に観察する際の観察条件に近い条件を生成して測色を行うことができる。従って、実際に観察を行う際の観察条件における色を忠実に再現するプロファイルを作成することができる。
測色値変換手段においては、第1の観察条件で測色した測色値を第2の観察条件で上記出力結果を測色したときの測色値に変換することができれば良く種々の構成を採用可能である。例えば、予め、第1の観察条件で測色した測色値を第2の観察条件で上記出力結果を測色したときの測色値に変換するためのデータを作成しておき、このデータに基づいて変換処理を行えばよい。
このデータとしても、上記変換が実施できる限りにおいて種々のデータ態様を採用可能である。例えば、第1の観察条件における測色値と第2の観察条件における測色値とを対応づけ、この対応関係を複数個のデータあるいは関数によって規定する構成を採用可能である。むろん、複数個のデータによって変換を行う際には、補間演算によって任意の測色値についての変換を行う構成を採用可能である。
また、所定の演算によって第2の観察条件における測色値を算出する構成を採用しても良い。例えば、可視光の波長毎の反射率に相当する分光分布を利用すれば、等色関数を利用して機器非依存色空間における測色値を算出することができるので、第1の観察条件における分光分布と組み合わせて第2の観察条件における測色値を取得するための分光分布を示すデータによって上記変換を行っても良い。
プロファイル作成手段においては、上記変換された測色値と上記画像データとを対応づけてプロファイルを作成することができればよい。ここでも、プロファイルとしては、測色値と画像データとを複数の組み合わせについて対応づけたテーブルであっても良いし、両者を対応づけた関数であっても良く、種々の構成を採用可能である。いずれにしても、上記測色値と画像データとの対応関係を複数の組み合わせについて取得することによってプロファイルを作成することができる。
上記測色値変換手段において変換を行う際に利用するデータの好ましい構成として、観察条件に依存して変動する分光分布の成分を測色対象についての分光分布の成分として算出した分光分布データを採用することができる。同じ測色対象を異なる観察条件にて測色した測色値は異なる値となるが、この差分は、測色対象を測色して得られる分光分布が観察条件に依存して変動することに起因して発生する。
この分光分布は、測色対象に照射される光(光源)の分光分布と測色対象自体の分光分布(分光反射率)との積で表現される。観察条件が変動すれば、光源の分光分布に相当する成分が変動するのは当然であるが、本発明では、さらに、測色対象の分光分布が、観察条件に依存して変動する分光分布の成分と観察条件に依存して変動しない分光分布の成分とを含むと仮定する。すなわち、観察条件の変動によって光源の分光分布が変動するのは当然であるが、さらに測色対象についての分光分布が一定ではなく、観察条件に依存して変動する分光分布の成分を含むと考えることにより、観察条件が異なることによって生じる測色値の変動を正確に補正できることを発明したといえる。
そこで、観察条件に依存して変動する分光分布の成分を示す分光分布データを利用すれば、観察条件に依存して変動しない分光分布の成分と、第2の観察条件における光源の分光分布に相当する成分とに基づいて測色値を補正することが可能になる。例えば、第1の観察条件における測色結果から観察条件に依存して変動しない分光分布の成分を取得し、上記観察条件に依存して変動する分光分布の成分との和を算出し、第2の観察条件における光源の分光分布および等色関数を乗じることで3刺激値等の測色値を取得することが可能になる。
むろん、分光分布データに基づいて測色値を変換するに際して、分光分布データを参照して上記3刺激値等を算出する演算を行ってもよいし、分光分布データに基づいて予め3刺激値を算出して変換を行っても良い。後者においては、例えば、上記第1の観察条件における分光分布から得られる3刺激値を算出し、この分光分布を利用して上記演算を行って3刺激値を算出し、両者を対応づけるなどの構成を採用すればよい。
尚、上記観察条件に依存して変動する分光分布の成分は、第1の観察条件と第2の観察条件とにおいて予め評価用の見本を測色した測色値に基づいて算出することができる。すなわち、本発明では、第1の観察条件における測色結果を第2の観察条件における測色結果に補正するので、第1の観察条件における測色値を基準として観察条件に依存して変動しない分光分布の成分を予測することができる。また、観察条件に依存して変動しない分光分布の成分を予測することができれば、第2の観察条件における測色値から観察条件に依存して変動しない分光分布の成分を除外した成分に基づいて、観察条件に依存して変動する分光分布の成分を算出することができる。
この場合、第1の観察条件は、観察条件に依存して変動しない分光分布の成分を予測するために基準となる観察条件であるので、予め決められた光源を用いて測色を行う測色器における観察条件であることが好ましい。すなわち、観察条件としては、光源の種類、光源からの光の照射方向、測色器におけるセンサの測色対象に対する配向方向、測色対象の物性(印刷物における印刷媒体や印刷に使用する色材の種類等)等種々の条件が想定し得る。
ここで、評価用の見本を特定すれば、測色対象の物性は特定されるので、予め決められた光源を用いて測色を行う測色器(光源を備える測色器)を利用すれば、観察条件の主な要因のうち光源の種類、光源からの光の照射方向、測色器におけるセンサの測色対象に対する配向方向を特定することができる。このように観察条件の主な要因が固定的に特定されれば、第1の観察条件における測色値には、観察条件に依存して変動する分光分布が存在しないと想定することができる。
一方、任意の光源を利用して測色を行う測色器(光源を備えない測色器)においては、測色に際して何らかの光源を用意するのが一般的であるが、この光源にて測色対象を照らしたとしてもこの光源以外に存在する多方向からの光が測色対象に照射されることになる。従って、印刷物などの測色対象が実際に観察される観察条件(第2の観察条件)に近い状態で測色を行うことができる。このように、多方向から測色対象に光が照射する観察条件では、本発明において抽出する、観察条件に依存して変動する分光分布の成分の寄与が大きくなることが判明している。
従って、以上の構成によれば、光源を備える測色器による測色結果を用いて、測色対象が実際に観察される観察条件に近い状態で測色を行った場合の測色結果を取得することが可能になる。この結果、第2の観察条件にて測色対象を観察するときに発生する、観察条件に依存して変動する分光分布の成分を取得することが可能になる。尚、評価用の見本としては、上記画像データに基づく出力を測色する際の条件と同様な条件で観察される見本であれば良く、例えば、複数の色によるパッチを含むカラーチャート等を採用可能である。
上述のように、観察条件の変動によって光源の分光分布は変動する。また、本発明では、光源の分光分布を予め特定困難な観察条件(任意の光源を利用して測色を行う測色器における観察条件)であっても補正によって測色値を取得できるようにすることを目的としている。従って、本発明において観察条件に依存して変動する分光分布の成分を抽出する際には、測色対象に照射される光の分光分布を除外することが好ましい。
このための構成としては、白色板の測色結果を利用することが好ましい。すなわち、白色板は、可視光の全波長に渡ってほぼ一定の反射率を有する見本であり、この分光分布を測定すれば、その観察条件において測色対象に照射される光の分光分布とほぼ等価な分光分布を取得することができる。具体的には、第1の観察条件および第2の観察条件で白色板を測色し、得られた分光分布が各観察条件において測色対象に照射される光の分光分布であるとする。
この分光分布を取得することができれば、第2の観察条件で評価用の見本を測定して得られた測色値のなかで、光源の分光分布成分と他の分光分布成分とを容易に分けることができる。従って、残りの分光分布が観察条件に依存して変動する分光分布の成分と観察条件に依存して変動しない分光分布の成分であるとして解析することが非常に容易になる。
さらに、観察条件に依存して変動する分光分布の成分は、可視光の波長に依存して変化する分光成分であれば良く、種々の関数形を想定することができる。この分光成分として好ましい関数として、定数と予め決められた波長に依存する関数との積とからなる関数を採用することができる。すなわち、観察条件に対する依存性を定数部分で表現することが可能になる。具体的には、この構成において波長に依存する関数を予め決定すれば、当該波長に依存する関数は観察条件に依存しない成分とすることができる。
さらに、上記定数については、同じ観察条件下で定数であるが、観察条件によって変動する定数と定義する。この結果、観察条件に対する依存性を定数部分のみによって表現することができ、非常に容易に観察条件に対する依存性を扱うことが可能になる。予め決められた波長に依存する関数としては、種々の関数を採用することができ、例えば、等色関数の線形結合を採用可能である。
すなわち、等色関数は、人間の目の感度に対応した性質を有し、可視光の波長に依存する関数として定義されている。一方、観察条件に依存して変動する分光分布は、人間の目によって観察されることによってその影響が認識される。従って、これらの等色関数の線形結合によって上記予め決められた波長に依存する関数を定義すれば、人間の目による認識をある程度反映した分光分布を定義することができる。この結果、観察条件に依存して変動する分光分布の波長依存性を的確に表現することができる。
線形結合を行う際の具体的な手法としては、種々の手法が採用可能であり、例えば、3つの等色関数の和によって構成することが可能である。むろん、定数と予め決められた波長に依存する関数との積とによって観察条件に依存して変動する分光分布の成分を表現する構成は一例であり、この分光分布が観察条件に依存して変動する限りにおいて、種々の構成を採用可能である。
また、上記分光分布の成分が依存する観察条件としては種々の観察条件を採用可能である。例えば、測色対象を印刷する印刷媒体と、測色対象を印刷する色材の種類と、光源の種類とのいずれかまたは組み合わせに依存する構成を採用可能である。すなわち、測色対象を印刷する印刷媒体や測色対象を印刷する色材の種類は、測色対象の分光分布に影響を与えるので、これらが異なると観察条件が異なると考える。尚、色材の種類としては、染料や顔料のインクやトナーまたはこれらにおける組成の差異など、分光分布を変動させ得る総ての条件が含まれる。
光源の種類は、測色対象を測色したときに測色器で受光する光の分光分布に影響を与えるので、光源の種類が異なれば観察条件が異なることとし、観察条件に依存して変動する分光分布の成分を変動させる。むろん、本発明では、光源の分光分布を予め特定困難な観察条件(任意の光源を利用して測色を行う測色器における観察条件)であっても補正によって測色値を取得し、プロファイルを作成することを目的としている。そこで、上記光源の種類としては、光源を一つに特定する構成の他、主な光源を特定したり、光源を特定せずに、太陽光、蛍光灯など、光源を抽象的に特定したり、周りの環境、例えば、光源の色温度や晴れ、曇り等の天気を特定することによって光源を示すようにしても良い。
さらに、上記分光分布の成分が依存する観察条件として、光源と測色対象と測色機の受光部との相対的な位置関係に依存するように定義しても良い。すなわち、観察条件に依存して変動する分光分布は、測色対象を観察する角度によって変動し得ることが判明しており、この変動を記述するため、分光分布が上記相対的な位置関係に依存することとする。この構成において、実際に測色対象を観察する角度に近い角度によって上記相対的な位置関係を定義することで、実際の観察条件に近い状態の分光分布を取得することが可能になる。
尚、相対的な位置関係としては、光源と測色対象と測色機の受光部との位置関係を定義することができれば良く、角度等を採用可能である。例えば、光源と測色対象との角度について、平面状の見本においてある観察点から見本に対する垂線を定義し、この観察点と光源とを結ぶ直線を定義し、この直線と垂線との角度を定義する。さらに、この観察点と測色器の受光部とを結ぶ直線を定義し、この直線と上記垂線との角度を定義すれば、光源と測色対象と測色機の受光部との位置関係を定義することができる。
光源および測色器の受光部と測色対象との距離については、分光分布に影響を及ぼす度合いが小さいので、距離については任意とすることができるが、むろん、距離を考慮しても良い。尚、上述のように、光源の分光分布を予め特定困難な観察条件を考慮する際には、多数の光が測色対象に照射されている状況で、主な光源の位置を定義し、この光源と測色対象と測色機の受光部との位置関係を定義すればよい。
以上のように、各種の手法によって分光分布データを算出し、これに基づいて測色値を変換しても良いし、分光分布データではなく予め算出した測色値の対応関係に基づいて測色値を変換しても良いが、いずれにしても、この変換によればプロファイルを作成することができ、このプロファイルに基づいてさらに色変換プロファイルを作成することもできる。
すなわち、ここで色変換プロファイルは第1の画像機器で扱う画像データと第2の画像機器で扱う第2画像データとの対応関係を規定したプロファイルを指しており、この色変換プロファイルは各種画像機器において汎用的に利用される。そこで、第2の画像機器で扱う第2画像データとその出力の測色値との対応関係を予め取得すれば、上記プロファイル作成手段にて得られたプロファイル(第1の画像機器で扱う画像データと測色値との対応関係)を参照して色変換プロファイルを作成することができる。従って、この色変換プロファイルを作成する装置としても発明は成立する。
このように、本発明によれば、汎用的な色変換プロファイルを作成することができるが、上述のプロファイルが、実際に測色対象が観察される観察条件に近い状態で測色を行った場合の測色値に基づいて作成されている。従って、色変換プロファイルによる変換に基づく出力が、プロファイルの作成者が意図した色と大きく異なることはなく、良好な色再現性を実現することができる。むろん、このように第1の画像機器で扱う画像データと第2の画像機器で扱う第2画像データとの対応関係を規定した色変換プロファイルを取得することができれば、この色変換プロファイルを参照して印刷を実行する印刷制御装置によって、正確な色再現を実現することが可能である。従って、この色変換プロファイルを参照して印刷を実行する印刷制御装置としても発明は成立する。
以上の構成は、同様の技術的思想に基づく方法の発明に適用することも可能である。従って、請求項11,請求項12にかかる発明においても、基本的には上記と同様の作用となる。また、コンピュータにて所定のプログラムを実行させ本発明を実施する場合もある。従って、本発明はそのプログラムとしても適用可能であり、請求項13,請求項14にかかる発明においても、基本的には上記と同様の作用となる。
むろん、請求項2〜請求項10に記載された構成を上記方法やプログラムに対応させることも可能である。また、いかなる記憶媒体もプログラムを提供するために使用可能である。例えば、磁気記録媒体や光磁気記録媒体であってもよいし、今後開発されるいかなる記録媒体においても全く同様に考えることができる。また、一部がソフトウェアであって、一部がハードウェアで実現される場合においても本発明の思想において全く異なるものではなく、一部を記録媒体上に記録しておいて必要に応じて適宜読み込む形態のものも含まれる。
ここでは、下記の順序に従って本発明の実施の形態について説明する。
(1)色変換プロファイル作成装置:
(1−1)印刷制御処理:
(1−2)色変換プロファイル作成処理:
(2)分光分布の算出:
(2−1)分光分布算出のための装置および処理:
(3)第2の実施形態:
(4)他の実施形態:
(1)色変換プロファイル作成装置:
図1は、本発明にかかる色変換プロファイル作成装置のブロック図である。本実施形態においては、色変換プロファイルの作成装置と分光分布を算出する装置と印刷制御装置とが一体のコンピュータによって実現されるが、むろん、各装置を別体のコンピュータによって実現しても良い。また、後述する分版処理後のデータに基づいて複数のパッチを印刷するが、この印刷は本発明で作成する色変換プロファイルを利用するプリンタで印刷を行うのが好ましく、後述するハーフトーン処理としても当該プリンタで採用しているハーフトーン処理と同じアルゴリズムであることが必要とされる。
コンピュータ10は演算処理の中枢をなすCPU11を備えており、このCPU11はシステムバスを介してコンピュータ10全体の制御を行う。同システムバスには、ROM12、RAM13、ハードディスク14や図示しないUSBI/F,CRTI/Fや入力機器I/F等が接続されている。ハードディスク14には、ソフトウェアとしてオペレーティングシステム(OS)、測色値を補正するための分光分布を算出する分光分布算出プログラム20、印刷制御を実施するためのプリンタドライバ30、色変換プロファイルを作成するための色変換プロファイル作成プログラム60等が格納されており、これらのソフトウェアは、実行時にCPU11によって適宜RAM13に転送される。CPU11は、RAM13を一時的なワークエリアとして適宜アクセスしながらOSの制御下で種々のプログラムを実行する。
入力機器I/Fには、図示しないキーボードやマウスが操作用入力機器として接続される。また、CRTI/Fには、表示用のディスプレイが接続されている。従って、コンピュータ10では、キーボードやマウスによる操作内容を受け付け、また、ディスプレイに各種情報を表示することが可能である。さらに、USBI/Fには、プリンタ15が接続されており、コンピュータ10が出力するデータに基づいて画像を印刷することが可能である。
むろん、プリンタ15との接続I/FはUSBI/Fに限られる必要もなく、パラレルI/F,シリアルI/F,SCSI接続など種々の接続態様を採用可能であるし、今後開発されるいかなる接続態様であっても同様である。また、コンピュータ10には図示しないインタフェースを介して測色器40および測色器50が接続されており、プリンタ15にて印刷した印刷物を測色対象として測色し、その分光分布や3刺激値等の測色値をコンピュータ10に対して供給することができる。
(1−1)印刷制御処理:
コンピュータは、以上の構成において分光分布の算出と、色変換プロファイルの作成と、印刷制御とを実施可能であるが、まず、印刷制御および色変換プロファイルの作成について説明する。印刷制御はプリンタドライバ30によって実施される。プリンタドライバ30は、画像データ取得モジュール31と色変換モジュール32とハーフトーン処理モジュール33と印刷処理モジュール34とを備えている。画像データ取得モジュール31は、印刷対象画像を示す画像データを取得するモジュールである。
本実施形態において、画像データ取得モジュール31が取得する画像データは、sRGB規格のデータであり、RGBの色成分毎に256階調の階調域を有するデータである。画像データ取得モジュール31は、当該取得した画像データの画素数と印刷に必要な画素数が整合しない場合に両者を整合させるための解像度変換を実行する。色変換モジュール32は、ハードディスク14に保存されている色変換プロファイル14fを参照して補間演算によって画像データの表色系を変換するモジュールである。
色変換プロファイル14fは、後述の処理によって作成され、sRGB規格のRGBデータとCMYKlclmデータとを複数の組み合わせについて対応づけたテーブルである。色変換モジュール32は、上記画像データ取得モジュール31から画像データを取得し、色変換プロファイル14fに記述されたデータを参照し、補間演算によって任意のsRGBデータをCMYKlclmデータに変換する。
色変換モジュール32が色変換を行ってCMYKlclmデータを生成すると、当該CMYKlclmデータが上記ハーフトーン処理モジュール33に受け渡される。ハーフトーン処理モジュール33は、各ドットのCMYKlclm階調値を変換して画素毎にインク滴の記録の有無や画素毎に記録するインク滴の量を特定したハーフトーンデータを取得する。
印刷処理モジュール34はかかるハーフトーンデータを受け取って、プリンタ15で使用される順番に並べ替える。すなわち、プリンタ15にはインク吐出デバイスとして図示しない吐出ノズル列が搭載されており、当該ノズル列では副走査方向に複数の吐出ノズルが並設されるため、副走査方向に数ドット分離れたデータが同時に使用される。そこで、主走査方向に並ぶデータのうち同時に使用されるべきものがプリンタ15にて同時にバッファリングされるように順番に並べ替える並べ替え処理を行う。印刷処理モジュール34は、この並べ替え処理の後、画像の解像度などの所定の情報を付加して印刷データを生成し、プリンタ15に出力する。プリンタ15においては当該印刷データに基づいて上記画像データが示す画像を印刷し、出力画像を得る。
上記色変換プロファイル14fは、後述する係数データ14dによって測色値を補正した結果に基づいて作成されている。従って、色変換プロファイル14fによる変換結果に基づいて印刷を実行すると、印刷物を実際に観察する際の観察条件にて良好な色再現がなされる印刷物を得ることができる。尚、本実施形態においては、色変換プロファイル14fを作成するために、CMYKlclmデータをハーフトーン処理モジュール33に入力して印刷を実施することもできる。
すなわち、必要に応じて色変換モジュール32による処理をスキップして印刷処理を行うことができる。むろん、色変換プロファイル14fを一旦作成した後には、当該色変換プロファイル14fを作成する処理は不要になるため、分光分布算出プログラム20や色変換プロファイル作成プログラム60を備えないコンピュータにおいて、色変換プロファイル14fとプリンタドライバ30とによって印刷を実行する構成を採用可能である。また、プリンタ15にて6色のインクを使用する構成は一例であり、インクの色数は6色に限られない。
(1−2)色変換プロファイル作成処理:
図2は色変換プロファイル作成プログラム60の構成を示すブロック図であり、図3は色変換プロファイルを作成する際の処理を示すフローチャートである。色変換プロファイル作成プログラム60は、分版処理部61と測色値取得部62と測色値補正部63とターゲット生成部64と補間演算部65とを備えている。本実施形態においては、まず、分版処理部61と測色値取得部62と測色値補正部63とによってプリンタ15にて扱う画像データ(CMYKlclmデータ)と測色値(L*a*b*値)とを対応づけたプロファイルを作成し、ターゲット生成部64と補間演算部65とは、このプロファイルに基づいてディスプレイに画像を出力するためのsRGBデータとプリンタ15にて扱う画像データとを対応づけた色変換プロファイルを作成する。
分版処理部61は、測色対象のパッチを特定するため、予め決められた分版規則に基づいて3次元の階調値(RGB:レッド、グリーン、ブルー)をインク色毎の階調値(CMYKlclm:シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック、ライトシアン、ライトマゼンタ)に変換する(ステップ100)。ここで、3次元の階調値の例としてRGBデータを採用し、6次元の階調値の例としてCMYKlclmデータを採用しており、色成分毎に256階調であるが、色成分および階調値域はこれに限定されない。
ここでは、3次元のRGBデータから複数の規則に従って6次元のCMYKlclmデータを取得することができればよい。すなわち、6次元のCMYKlclmデータでは、CMYKlclmの6色を組み合わせることによって同じ色を異なるCMYKlclm階調値の組み合わせで表現可能である。従って、何ら規則を設けずに、特定の色に相当するCMYKlclm階調値であって測色対象となるパッチについて理想的なCMYKlclm階調値の組み合わせを一義的に決定するのは困難である。そこで、複数の規則に従うこととしてRGBデータとCMYKlclmデータとの対応関係を定義すれば、容易にRGBデータからCMYKlclmデータを取得することができる。
具体的には、RGBの各色はCMYの各色と補色関係にあることから、階調値によって色を厳密に規定しないのであればC=255−R,M=255−G,Y=255−Bとしてもよく、この意味で参照用LUTにおけるRGBデータはCMYデータと等価である。そこで、RGBデータをCMYデータとみたときにCMYの各階調値から等量の値aを減じるとともにC=M=Y=aをKの階調値bで代替させる。さらに、CおよびMの残りについて一定の比率でlcおよびlmで代替させることとする。
尚、CMYKlclmの各階調値は各色インクの使用量を特定するデータである。そこで、インクの使用制限、すなわち単位面積当たりに記録するインク重量を特定の重量以下に制限する条件およびインク発生制限、すなわち粒状感を与えにくくしたり光源による発色の差を低減したりするために特定のインクの使用量を制限する条件を加味してCMYKlclmの各階調値を決定する。また、CMYKlclmインクの組み合わせによって表現可能な色が多いほど画質向上の上で好ましいことから、色域をなるべく広くとるようにする。以上の要素を加味して決められた規則が分版規則であり、分版処理部61は、予め決められた分版規則に従って複数のRGBデータをCMYKlclmデータに変換する。
変換によって得られたCMYKlclmデータはRGBデータと対応づけられ、分版データ14eとしてハードディスク14に記録される。この分版データ14eにおけるCMYKlclmデータは、上記ハーフトーン処理モジュール33に受け渡される。この結果、分版データ14eに規定された複数のCMYKlclmデータに基づいて複数のパッチを印刷することになる。尚、上記分版データに規定されたRGBデータおよびCMYKlclmデータはそれぞれ1000個程度であり、多数のパッチを印刷することになる。
測色値取得部62は、測色器40にて当該複数のパッチを測色した測色値(分光分布R1(λ))を取得する(ステップS105)。ここで、測色器40は光源を内蔵しており、原稿台にカラーチャート等の測色対象を載置して測色を行うことができる。また、測色器40のセンサは原稿台に平行な面上を移動することができ、予め決められた複数の部位を自動で測色することが可能である。従って、上述のように多数のパッチを印刷したとしても、容易にその測色値を取得することができる。以上のステップS105が上記測色値取得手段における処理に相当する。
複数のパッチについて測色値が得られると、測色値補正部63は、上記係数データ14dを参照し、以下の式(1)に基づいて測色値を補正しながら各パッチの3刺激値(X’Y’Z’)を取得し、この3刺激値からL
*a
*b
*値を取得する(ステップS110)。以上のステップS110が上記測色値変換手段における処理に相当する。
ここで、R
2w(λ)は測色器50において白色板を測色して得られる分光分布、R
1w(λ)は測色器40において白色板を測色して得られる分光分布、R
1(λ)はステップS105で取得した分光分布であり、詳細は後述する。また、上部に−を付したx(λ),y(λ),z(λ)は等色関数、係数K
mは最大視感度(「色彩工学」、東京電機大学出版局、大田登著、24頁)であり、Δλは測色器におけるサンプリング間隔である。
係数kWは、係数データ14dに記述された値であり、詳細は後述する。また、本実施形態において、分光分布R2w(λ),R1w(λ)は係数データ14dに含まれており、等色関数は等色関数データ14cとして予めハードディスク14に記録されている。尚、3刺激値からL*a*b*値への変換は、公知の式に基づいて行うことができる。以上のように補正を行って3刺激値を算出することにより、印刷物を実際に観察する観察条件(第2の観察条件)における3刺激値を得ることができ、この測色値に基づいて色変換プロファイル14fを作成することで、この観察条件でのカラーマッチングを行う色変換プロファイルを作成することが可能になる。
尚、測色値補正部63によって測色値を補正すると、補正後の3刺激値に基づくL*a*b*値と上記ステップS100における分版処理前のRGBデータとを対応づけることができる。また、任意のRGBデータとCMYKlclmデータとの対応関係は分版データ14eを参照し、あるいは分版処理部61の処理によって規定することができる。従って、補正後の3刺激値に基づくL*a*b*値とCMYKlclmデータとを対応づけることもできる。
従って、分版処理前のRGBデータと補正後のL*a*b*値との対応関係、あるいはCMYKlclmデータと補正後のL*a*b*値との対応関係は、本発明によって変換された測色値(L*a*b*値)と画像データ(RGBデータあるいはCMYKlclmデータ)とを対応づけたプロファイルである。本実施形態においては、測色値補正部63にて変換された測色値と画像データとを対応づけたプロファイルを作成する処理がプロファイル作成手段における処理に相当する。
このプロファイルによれば、プリンタ15にて扱う画像データとその画像データに基づく出力の測色値との対応関係を取得することができるので、次に、所定のターゲットを設定して色変換プロファイルを作成する。このために、まず、ターゲット生成部64が、ターゲットとしてのsRGBデータを設定し(ステップS115)、色域マッピングを実施する(ステップS120)。
すなわち、ターゲット生成部64は、色変換プロファイルに登録する参照点としてのsRGBデータをターゲットとして設定する。本実施形態においては、sRGBにおける各階調値域を等分(例えば、17等分)し、得られた階調値について組み合わせた値をターゲットのsRGBデータとする。sRGBデータは公知の式によって対応するL*a*b*値を取得することができるので、上記ターゲットに対応するL*a*b*値は容易に取得することができる。
そこで、総てのsRGBデータによって得られるL*a*b*値を勘案し、L*a*b*空間にプロットすると、その外郭によってsRGBデータによる色域を把握することができる。一方、上記補正後のL*a*b*値をL*a*b*空間にプロットすれば、プリンタ15の色域を把握することができる。そこで、ターゲット生成部64は、sRGBデータに対応するL*a*b*値がプリンタ15の色域内に含まれるように色域マッピングを行う。むろん、以上のマッピングに加えて他の補正を行っても良い。例えば、人間は空や肌の色を実際の色より鮮やかに記憶している傾向にあるなど人間の記憶色と実際の色とは異なるので、人間の記憶色に近くなるように色を補正しても良い。
以上のようなマッピングが終了すると、sRGBデータとL*a*b*値との対応関係が判明しているので、上記ステップS110で取得したプロファイルと合わせて色変換プロファイル14fを作成する。すなわち、補間演算部65は、ターゲットのsRGBデータに対応するL*a*b*値を取得する。このL*a*b*値に対応するRGBデータ(ステップS100における分版処理前の表色系でのRGBデータ)は、上記測色値補正部63によって作成されたプロファイルに定義されているので、当該プロファイルを参照してL*a*b*値をRGBデータに変換する(ステップS125)。
当該RGBデータに対応するCMYKlclmデータは、上記分版処理部61による分版処理によって取得することができるので、補間演算部65は、当該RGBデータを分版処理部61に受け渡し、分版処理後のCMYKlclmデータを取得する。すなわち、RGBデータをCMYKlclmデータに変換する(ステップS130)。むろん、上記分版データ14eを参照した補間演算によってRGBデータをCMYKlclmデータに変換しても良い。
いずれにしても、得られたCMYKlclmデータは、上記ターゲットのsRGBデータに対応するL*a*b*値を出力するためのCMYKlclmデータである。そこで、上記ターゲットのsRGBデータと当該CMYKlclmデータを対応づける。この処理を総てのターゲットについて実施し、その対応関係を規定したデータを上記色変換プロファイル14fとしてハードディスク14に記録する(ステップS135)。本実施形態においては、ステップS115〜S135における処理が上記色変換プロファイル作成手段における処理に相当する。
(2)分光分布の算出:
以上のようにして作成した色変換プロファイル14fでは、上記ステップS110において観察条件に依存して変動する分光分布の成分に基づく補正を行っていることにより、印刷物を実際に観察する際の観察条件にて良好な色再現がなされる印刷物を得ることができる。そこで、次に、この分光分布の算出方法について詳説する。
本発明においては、第1の観察条件において測色を行った測色値を補正して第2の観察条件で測色を行った場合の測色値を取得することを目的として上記分光分布を算出する。一般に、異なる観察条件で測色を行えば測色値が異なるので、両者の測色値には差分が生じているが、本発明においてはこの差分を生じさせる要因を解析し、観察条件に依存して変動する分光分布の成分を算出することで上記補正を実施することを可能にした。
図4においては、観察条件に依存して変動する分光分布の成分を算出する処理の概要を示している。本実施形態では、測色器40(光源内蔵型の自動測色器)による観察条件を第1の観察条件とし、測色器50(光源非内蔵型の測色器)による観察条件を第2の観察条件とし、両者の測色値に基づいて観察条件に依存して変動する分光分布の成分を算出する。測色器40は、上述の測色器であり、光源が内蔵されているので、光源から観察対象への光の入射角と観察角度(観察対象における垂線と測色器40におけるセンサとの角度)が特定されている。
測色器50は、光源を内蔵しておらず、原稿を測色器50におけるセンサの視野内に測色対象をセットして測色を行う。この測色器50において測色対象を変更する際には、所望の測色対象を測色器50におけるセンサの視野内に移動させる必要がある。また、測色器50は、光源を内蔵していないので、測色対象に対して周りから光が照射される状況で測色する必要がある。所定の光源を用意して測色対象を照らすこともできるが、この場合であっても測色対象に対して多方向から光が入射し得る。
実際に印刷物を観察する場合には、特定の光源からの光のみではなく多方向からの光が印刷物で反射した光を観察することになり、光源および観察角度は限定されない。従って、測色器50のように光源を備えておらず、光源および観察角度が限定されない測色器の方が、実際に印刷物を観察する際の観察条件に近い条件で測色を行うことが可能である。従って、本実施形態では、多数のパッチを測色器40にて測色し、その測色結果を補正して測色器50による測色結果を取得することができるように上記観察条件に依存して変動する分光分布の成分を算出する。
本願出願人が印刷物を測色器40と測色器50とで測色した結果、印刷物の分光分布には一定の傾向があることが判明した。すなわち、測色器50で得られた分光分布は、ほぼ全波長に渡って測色器40で得られた分光分布より大きく、その分光分布は等色関数の線形結合に近似することが判明した。さらに、等色関数の線形結合に対して観察条件に依存する定数を乗じることによって、観察条件毎に異なる分光分布を記述できることが判明した。
尚、観察条件としては、光源の種類や測色対象に対する角度が異なる複数の条件を想定し得るが、上述の近似によればこのような条件の変動があっても測色値を補正することが可能である。また、測色対象の観察条件としては、測色対象自体の条件も含まれる。また、上記観察条件に依存する分光分布の変動は染料より顔料の方が大きいので、本発明は、顔料インクを測色対象としたときにより大きな効果が得られる。
上記観察条件に依存して変動する分光分布の成分を取得するために、第2の観察条件にてカラーチャートを観察した場合、カラーチャートの分光分布は観察条件に依存しない分光分布(以後、基礎反射成分と呼ぶ)と観察条件に依存する分光分布との和であると仮定する。この仮定は、測色器50で得られた分光分布がほぼ全波長に渡って測色器40で得られた分光分布より大きいことに基づいている。また、観察条件に依存する分光分布の成分は、可視光のほぼ全波長に渡って存在することから、以後、この分光分布を白色反射成分と呼ぶ。
尚、測色器50による測色結果(3刺激値)を式にて示すと、式(2)のようになる。
ここで、左辺は3刺激値であり、R
2p(λ)は、測色器50においてカラーチャートを測色して得られる分光分布であり、他の文字は上記式(1)と同様である。
この式に対して上記仮定を導入すると、以下の式(3)となる。
ここで、R
2w(λ)は測色器50において白色板を測色して得られる分光分布、R
p(λ)は上記基礎反射成分の分光分布、R
M(λ)は上記白色反射成分の分光分布である。他の文字は上記式(2)と同様である。また、3刺激値のX,Zについても同様に記述することができる。
尚、一般的に、色を客観的に表現するための3刺激値は、光源の分光分布と測色対象の分光分布と等色関数との積を波長毎に算出し、和を取ることによって算出される。しかし、本実施形態においては光源の分光分布を特定せずに測色を行っているため、測色器40,50にて取得する分光分布は、光源の分光分布と測色対象の分光分布とが乗じられたものである。そこで、白色板を測定することによって測色対象に照射される光の分光分布を取得する。すなわち、白色板は、可視光の全波長に渡ってほぼ一定の反射率を有する見本であり、当該白色板を測色することによって測色対象に照射される光の分光分布を取得することができる。従って、上記式(3)におけるR2w(λ)は第2の観察条件における光源の分光分布と等価である。
第2の観察条件における3刺激値の輝度Y2pを上記式(3)のように仮定すれば、図4に示すように、第2の観察条件における輝度Y2pを基礎反射成分に由来する輝度Ypと白色反射成分に由来する輝度YMとの和であるとすることができる。
本実施形態において、白色反射成分による輝度YMは、等色関数x(λ),y(λ),z(λ)の和と係数kWとの積であると仮定した。すなわち、白色反射成分は、測色対象に対して多方向から光が照射し、多方向へ反射した反射光を観察する条件で印刷物を測色する場合に生じる成分であり、実際に印刷物を観察する際に視認される。そこで、本願出願人は、人間の目の感度に対応した等色関数の線形結合によって波長依存性を表現すれば白色反射成分の波長依存性に近くなると考え、上記仮定を採用した。実際に、顔料によって印刷した印刷物において測色器40と測色器50とで測色値が異なるとき、上記仮定に基づいて決定した分光分布を考慮すれば、測色器50の測色値を記述できることが分かっている。
この仮定は、下記式(4)のように表すことができる。
すなわち、上記R
M(λ)がk
W(x(λ)+y(λ)+z(λ))となっており、他の文字は上記式(3)と同様である。
一方、白色反射成分による輝度YMは、Y2p−Ypであるので、実測したY2pと測色器40による測色値から推定されるYpとの差分を算出すれば、白色反射成分による輝度YMの値は算出することができる。そこで、当該白色反射成分による輝度YMと上記式(4)とが等しくなるように係数kWを決定することができれば、白色反射成分の分光分布を取得することができると言える。
尚、本実施形態においては、当該係数kWを決定するため、第1の観察条件と第2の観察条件とで評価用の見本と白色板とを測色する。本実施形態において、評価用の見本はプリンタによって複数のパッチを印刷したカラーチャートである。また、図4においては、第1の観察条件において測色器40でカラーチャートを測色した結果得られる分光分布をR1p(λ)、第1の観察条件において測色器40で白色板を測色した結果得られる分光分布をR1w(λ)として示している。
さらに、第2の観察条件において測色器50でカラーチャートを測色した結果得られる分光分布をR2p(λ)、第2の観察条件において測色器50で白色板を測色した結果得られる分光分布をR2w(λ)として示している。むろん、波長毎に分光分布と等色関数とを乗じ、和を取れば3刺激値を取得することができる。本発明においては、これらの測色結果に基づいて、白色反射成分の分光分布を決定することができれば良く、白色反射成分の分光分布を決定することができる限りにおいて種々の手法を採用可能である。このための具体的な処理例は後に詳述する。
以上のようにして、白色反射成分の分光分布を取得することができれば、測色器40において任意の印刷物を測色した測色値と測色器50において白色板を測定した測色値から補正後の値(測色器50にて当該任意の印刷物を測色した場合の測色値)を取得することができる。すなわち、補正後の3刺激値は、上記式(1)にて算出することができる。
尚、本発明においては、式(1)内に基礎反射成分の分光分布を示す(R1(λ)/R1w(λ))のみならず、白色反射成分の分光分布を示すkW(x(λ)+y(λ)+z(λ))が含まれていることが重要である。すなわち、観察条件が異なることによって変動する分光分布の成分が、光源の変動のみによって記述できるのであれば、式(1)内に白色反射成分の分光分布を含める必要はなく、第2の観察条件における光源の分光分布に相当するR2w(λ)と基礎反射成分の分光分布とを乗じるのみで良いはずである。
しかし、実際は、第2の観察条件における3刺激値を算出するに際して基礎反射成分の分光分布に白色反射成分の分光分布を加えて輝度を計算しなければ正確な補正ができない。顔料などの印刷物では、光源の差異以外にも観察角度等の影響を受けて白色反射成分が生じ得るからである。従って、本実施形態における白色反射成分の分光分布が、観察条件に依存して変動する分光分布であるといえる。
尚、本発明では、3刺激値自体(波長毎の値について和を取った結果)について観察条件に依存する補正値を算出しているのではなく、観察条件に依存して変動する分光分布を算出している。従って、一旦分光分布を決定した後には、輝度YのみならずX、Zも正確に補正することができ、この結果、色相や彩度の補正も行うことが可能になる。さらに、白色反射成分の分光分布は既知の等色関数に係数kWを乗じたものであることから、第2の観察条件における光源等が変動した場合であっても係数kWを変更することによって容易に観察条件の差異に追従して補正を行うことが可能である。
(2−1)分光分布算出のための装置および処理:
次に、上述の分光分布算出方法を適用する装置およびその処理を詳細に説明する。図1は上記係数kW算出するためのコンピュータ構成を示すブロック図であり、図5は係数kWを算出するための処理を示すフローチャートである。この処理は、上記分光分布算出プログラム20によって実施される。上記分光分布算出プログラム20は、測色値取得部21と基礎反射成分算出部22と平均値算出部23と白色反射成分算出部24とを備えている。本実施形態においては、分光分布算出プログラム20とプリンタドライバ30とが以下のように動作して係数kWを算出する。
プリンタドライバ30は、図5のステップS200にてカラーチャートを印刷する。すなわち、本実施形態において、複数のパッチを一枚の印刷用紙に印刷してカラーチャートとするためのパッチ画像データ14aが予めハードディスク14に記録されている。本実施形態において、パッチ画像データ14aは、プリンタ15で使用するインクの色毎にその使用量を特定したデータであり、複数の画素について各色のインク使用量を階調表現したデータである。例えば、プリンタ15においてCMYKlclmの各色インクを使用する場合には、各画素において色毎に使用量を階調値(例えば0〜255)で示している。
このパッチ画像データ14aは上記ハーフトーン処理モジュール33に受け渡される。ハーフトーン処理モジュール33は、このパッチ画像データ14aに基づいてハーフトーン処理を行う。印刷処理モジュール34はかかるハーフトーン処理後のデータを受け取って、上述のようにして印刷を行う。この結果、プリンタ15においては当該印刷データに基づいて上記パッチ画像データ14aが示す画像を印刷し、カラーチャートを得る。
カラーチャートが印刷されると、分光分布算出プログラム20の測色値取得部21が測色器40および測色器50で測色した測色値(分光分布)を取得する(ステップS205〜S220)。すなわち、測色器40によって上記印刷したカラーチャートを測色し(ステップS205)、また、測色器40によって上記白色板を測色する(ステップS210)。得られる分光分布はそれぞれR1p(λ),R1w(λ)である。この測色器40においては、上述のように光源を内蔵しており、観察角度も決められているので、この光源および観察角度で上記カラーチャートおよび白色板を測色する条件が第1の観察条件である。
さらに、測色器50においても上記印刷したカラーチャートを測色し(ステップS215)、さらに、上記白色板を測色する(ステップS220)。得られる分光分布はそれぞれR2p(λ),R2w(λ)である。この測色器50においては、上述のように光源を内蔵していないので、測色可能な明るさで測色対象が照らされている状態および適当な観察角度(実際に印刷物を観察する場合の観察角度であることが好ましい)で測色を行う。この観察条件が第2の観察条件である。すなわち、評価用の見本を測色する際の観察条件が実際に印刷物を観察する際の観察条件と一致するように観察条件を設定し、この観察条件を第2の観察条件とする。
尚、以上のようにして測色された測色値は、ハードディスク14に記録される(測色値データ14b)。また、測色器40および測色器50においては、測色対象の分光分布を測定するが、むろん、等色関数を波長毎に乗じて和を取ることによって、容易に3刺激値を算出することが可能である。本実施形態においては、この演算のため、予めハードディスク14に等色関数を示す等色関数データ14cが記録されている。
次に、基礎反射成分算出部22は、測色値データ14bおよび等色関数データ14cを参照して、基礎反射成分による輝度Y
pを算出する(ステップS225)。具体的には、以下の式(5)によって輝度Y
pを算出する。
ここで、R2w(λ)は測色器50において白色板を測色(ステップS220)して得られる分光分布であり、R1w(λ)は測色器40において白色板を測色(ステップS210)して得られる分光分布であり、R1p(λ)は測色器40においてカラーチャートを測色(ステップS205)して得られる分光分布であり、他の文字は、上記式(2)と同様である。尚、分光反射率R1p(λ)はカラーチャート上のパッチ毎に得られるので、輝度Ypは、上記ステップS200にて印刷されたカラーチャートに含まれる各パッチについて算出される。
また、上記式(5)において、R1p(λ)/R1w(λ)は、各パッチ自体の分光分布(基礎反射成分)に相当する。すなわち、第1の観察条件でパッチを測色して得られる分光分布R1p(λ)は、光源の分光分布とパッチ自体の分光分布との積であるので、第1の観察条件における光源の分光分布に相当するR1w(λ)で規格化することにより、パッチ自体の分光分布に相当する分布が得られる。この導出は、第2の観察条件では白色反射成分が発生し、第1の観察条件では白色反射成分が発生しないと仮定したことによって可能になる。このようにして、パッチ自体の分光分布が得られれば、この分光分布と第2の観察条件における光源の分光分布に相当するR2w(λ)を用いて輝度Ypを算出することが可能になる。
平均値算出部23は、白色反射成分による輝度YMについて複数のパッチ毎の平均を算出する(ステップS230)。尚、ここでは、輝度YMが輝度Y2pと輝度Ypとの差分であるとしている。輝度Y2pは、上記ステップS215の測色値から式(2)によって算出される値であり、輝度Ypは上記ステップS225で算出した値である。
本願出願人は、顔料インクで印刷したパッチについて第2の観察条件における光源の種類を変更して輝度YMを算出した。この結果、輝度YMの光源依存性は小さく、光源によらずほぼ一定と考えて良いことが判明している。但し、光源によらずほぼ一定であるのは、輝度YMであって、白色反射成分の分光分布が光源によらず一定という訳ではない。すなわち、輝度YMは、光源の分光分布と白色反射成分の分光分布と等色関数との積を波長毎に加えることで算出されるが、光源が変わると光源の分光分布が変動するので、これに合わせて白色反射成分の分光分布も変動し、この結果得られる輝度YMが光源によらずほぼ一定となることもある。
白色反射成分算出部24は、ステップS230にて算出した輝度YMと輝度Y2w(ステップS220で測色した分光分布R2w(λ)から式(2)と同様な演算にて得られる輝度)と等色関数とから、白色反射成分における係数kWを算出する(ステップS235)。本実施形態においては、以下の導出に基づいて係数kWを算出する。
すなわち、輝度Y
Mは下記式(6)、第2の観察条件で測色した白色板の輝度Y
Wは下記式(7)で表現される。
白色板は可視光の全波長に渡ってほぼ一定の反射率を有する見本であるので、上記式(6),(7)において分光分布R
2w(λ)が定数r
wと考えれば、式(6),(7)をそれぞれ式(8),(9)のように変形することができる。
両式に基づいてr
wを削除して式を整理すれば、係数k
Wは下記式(10)のように表すことができる。
この式には、輝度YM、輝度Y2wおよび等色関数という算出済の値あるいは既知の関数のみを含むので、算出済の値を代入し、等色関数に基づいて波長毎の値の和を取れば、係数kWを算出することができる。白色反射成分算出部24は、以上の式に基づいて係数kWを算出した後、係数データ14dとしてハードディスク14に記録する(ステップS240)。このとき、上記係数データ14dには、測色器40において白色板を測色して得られる分光分布R1w(λ)と、測色器50において白色板を測色して得られる分光分布R2w(λ)とを含める。これにより、上記式(1)に基づいて測色値の補正が可能になる。
尚、本発明においては、係数kWを観察条件毎に変化させることにより、観察条件に依存して変動する分光分布を記述することができるので、第2の観察条件を変動させながら、上記図5に示す処理を実施することによって、各種の観察条件についての分光分布を算出することが可能である。
尚、測色器50における測定に際しては、光源を明確に特定することができない。すなわち、測色器50は光源を備えておらず、特定の光源にて測色対象を照らすとしても、この光源以外からの光が測色対象に照射される。従って、係数データ14dに対応づける観察条件を特定するにあたり、光源の種類を対応づける以外にも、周りの環境、例えば、光源の色温度や晴れ、曇り等の天気を特定することによって光源を示すようにしても良い。むろん、測色器50にて測定を行う際に使用した主な光源を観察条件として示すことにしても良い。
(3)第2の実施形態:
上記実施形態においては、コンピュータ10にて補正を行うために観察条件に依存する分光分布の成分を算出していたが、補正を行うためのデータを予め記録した測色器に基づいて補正後の測色値を取得し、色変換プロファイル14fを作成しても良い。例えば、測色器40に補正用のプロファイルを予め記録しておき、測色器40によって第1の観察条件での測定を行った後に第2の観察条件における測色値を出力する構成を採用可能である。
図6は、補正用のプロファイルを備えた測色器40の構成を示すブロック図である。同図に示すように、測色器40はセンサ41とセンサ駆動部41aとA/D変換部42とプログラム実行環境(CPU43,RAM44,ROM45)とユーザインタフェース(操作部46,出力部47)とコンピュータ10に接続するためのインタフェース(I/F48)と光学系(光源49,光源制御部49a)を備えている。
測色器40においては、ROM45に予め記録された図示しないプログラムをRAM44に転送し、CPU43がこのプログラムを実行することによって各部を制御する。すなわち、操作部46は、図示しないボタン等の入力機器に接続されており、CPU43は当該操作部46における操作内容を取得する。また、出力部47は所定の情報を出力する表示装置であり、操作部46における操作入力のガイドや測色結果を表示することができる。
センサ41は、測色器40が備える図示しない原稿台の面に対して平行に移動可能に構成されており、CPU43の指示によってセンサ駆動部41aがセンサ41を駆動し、所望の位置にセットする。センサ41の移動は、操作部46による入力に基づいて制御しても良いし、予め決められた手順によって制御しても良く種々の手法を採用可能である。光源制御部49aは、CPU43の指示によって光源49に電源を供給し、光源を点灯する。光源49は、原稿台に載置された測色対象であってセンサ41の視野内にある測色対象に対して光を照射する。
A/D変換部42は、CPU43の指示に従って駆動され、センサ41にて検出する信号をデジタル信号に変換する。CPU43このデジタルデータに基づいて測色対象の分光分布を検出する。CPU43にて実行されるプログラムのうち、上記測色の制御に関するプログラムとしては、測色制御部43aと補正部43bとが含まれる。測色制御部43aは、上述のように、センサ駆動部41aと光源制御部49aとに指示を行い、この結果A/D変換部42から出力されるデジタル信号を取得する。
このデジタル信号は、第1の観察条件における分光分布であるので、補正部43bは当該分光分布に基づいて補正を行う。ROM45には、この補正を行うため、予め補正プロファイル45aが記録されている。補正プロファイル45aは、第1の観察条件における測色値と第2の観察条件における測色値とを対応づけたプロファイルデータであり、両者を対応づけることができる限りにおいて、各種のデータ態様を採用することができる。
例えば、上記式(2)におけるR2p(λ)の替わりに、第1の観察条件下で測色を行った場合の分光分布R1(λ)を代入すれば、第1の観察条件における3刺激値を算出することができる。一方、上記式(1)に対してこの分光分布R1(λ)と上記係数データ14dが示す係数kWと上記分光分布R1w(λ)、分光分布R2w(λ)を代入すれば、第2の観察条件における3刺激値を算出することができる。
そこで、第1の観察条件における3刺激値と第2の観察条件における3刺激値を対応づけ、この対応関係を複数の3刺激値について取得すれば、3刺激値を変換するためのテーブルデータを作成することができる。このようなテーブルデータを補正プロファイル45aとしておけば、上記測色制御部43aによって取得した分光分布に基づいて3刺激値を算出した後、補正プロファイル45aを参照した補間演算によって第2の観察条件における3刺激値を取得することが可能になる。
むろん、補正プロファイル45aとしては、複数の3刺激値同士の対応関係を規定する他、第1の観察条件における3刺激値と第2の観察条件における3刺激値との関係を示す関数であっても良いし、他の表色系、例えば、L*a*b*等の対応関係を示すデータであっても良い。また、上記係数kWと上記分光分布R1w(λ)、分光分布R2w(λ)および等色関数によって補正プロファイル45aを構成しても良い。
いずれにしても、補正部43bは当該補正プロファイル45aを参照して第1の観察条件における測色値を補正し、第2の観察条件における測色値を取得する。このように測色器40にて補正後の測色値を算出した後には、上記コンピュータ10に対して出力する。コンピュータ10においては、色変換プロファイル作成プログラム60とプリンタドライバ30とを実行できれば良く、上記図3に示す処理と同様の処理を実施し、ステップS110にて補正後の測色値を測色器40から取得する。この処理の結果、印刷物を実際に観察する際の観察条件にて良好な色再現を行わせるための色変換プロファイル14fを作成することが可能である。
(4)他の実施形態:
本発明においては、観察条件に依存して変動する分光分布の成分に基づいて補正を行って色変換プロファイル14fを作成し、または、この色変換プロファイル14fに基づいて印刷を実行することができる限りにおいて、各種の実施形態を採用することができる。例えば、上記観察条件に依存して変動する分光分布の成分である白色反射成分を算出するための計算手法は、上述の式(10)に限定されるわけではない。
他の手法としては、数値計算によって係数kWを特定する構成を採用可能である。すなわち、白色反射成分による輝度YMは上記式(4)で表現され、また、その値は、上記ステップS230のようにして第1の観察条件および第2の観察条件における評価用の見本および白色板の測色値から算出することができる。そこで、当該算出した値と式(4)とが等しいとし、式(4)における分光分布R2w(λ)に実測値あるいは定数rwを代入すれば、未知の数を係数kWのみにすることができる。
この結果、各種の数値計算手法によって係数kWを算出することが可能になり、算出した結果の係数kWと(x(λ)+y(λ)+z(λ))との積によって上記白色反射成分の分光分布を取得することができる。むろん、上記図5のステップS235において、上記分光分布R2w(λ)を定数rwにすることなく、実測値を用いてもよい。
さらに、上述の実施形態においては、第1の観察条件においても白色板を測色していたが、第1の観察条件での測色を実施する測色器40は光源を内蔵しているので、予め決められた光源の分光分布を取得しておいても良い。むろん、この場合は第1の観察条件で白色板を測色する作業が不要になる。さらに、上記実施形態においては、白色反射成分の分光分布が係数kWと(x(λ)+y(λ)+z(λ))との積であると仮定したが、むろん、等色関数の線形結合を行う際に、等色関数毎に異なる係数を乗じても良いし、波長に依存する他の関数を仮定しても良く、種々の構成を採用可能である。
さらに、上述の実施形態においては、白色反射成分の分光分布における係数kWが光源の種類と印刷媒体と印刷に使用する色材の種類とに依存することを想定し、この条件が印刷物を実際に観察する条件に合致するように設定を行ったが、むろん、他の要素を含めて第2の観察条件を定義してもよい。例えば、光源と評価用の見本と測色器50との相対的な位置関係に依存することとして白色反射成分の分光分布を決定しても良い。
図7は、相対的な位置関係として、光源と評価用の見本との角度および測色器50のセンサと評価用の見本との角度を考慮する例を説明する説明図である。同図において、光源と評価用の見本との角度は、評価用の見本(むろん白色板であっても同じ位置関係で測色する)の垂線と光源からの光経路(光源と観察点とを結ぶ直線)との角度φであり、センサと評価用の見本との角度は、評価用の見本の垂線とセンサに入射する光の光経路(観察点とセンサとを結ぶ直線)との角度θである。
ここで、角度φと角度θが等しければ正反射光を観察していることになり、角度φと角度θとが等しくなければ拡散反射光を観察していることになる。出願人の実験によれば、ある顔料による印刷物では、正反射からのずれに依存して白色反射成分が変動することが判明しており、正反射からのずれが大きくなるほど白色反射成分が小さくなることが判明した。
そこで、このような印刷物における白色反射成分の角度依存性を考慮して白色反射成分の分光分布を定義すると、より正確に補正を実施することが可能である。このためには、例えば、上記係数kWの替わりに、角度依存性のある係数β/|φ−θ|を導入することが可能である。すなわち、正反射からのずれが大きくなるほど係数β/|φ−θ|は小さくなるので、この係数と(x(λ)+y(λ)+z(λ))との積が白色反射成分の分光分布であると仮定する。
さらに、角度φと角度θとについて複数の組み合わせによって係数を決定する。例えば、上記図2と同じ構成において図5のフローチャートを実施するにあたり、カラーチャートおよび白色板に対して光源に関する角度φおよび測色器50に関する角度θを測定する。尚、測色器50においては、光源を一つに限定する必要はないが、カラーチャートや白色板を測色する際に使用する主な光源を特定すれば、光源と評価用の見本との角度を定義することができる。
角度を測定したら、上記図5に示すフローと同様の処理を進め、上記式(10)にて算出される係数が係数β/|φ−θ|であとして、βの値を決定する。この角度の組み合わせについてβの値を決定したら、角度φと角度θとの値の組み合わせを変更して、複数回同じ処理を繰り返す。この結果、角度に依存した複数のβが得られることになり、第1の観察条件における測色値から第2の観察条件における測色値を算出するに際して角度φと角度θとを特定すれば、角度に依存した白色反射成分の分光分布を取得し、角度に依存した補正を実施することが可能である。
むろん、角度φと角度θとの値の組み合わせに対応した複数のβが得られていれば、実際に角度φと角度θとによって測色を行っていない係数β/|φ−θ|であっても補間によって算出することが可能である。従って、任意の角度φと角度θとの組み合わせについて係数β/|φ−θ|を決定することができる。そこで、実際に印刷物を観察する際の光源と人間の目と印刷物との関係から角度φと角度θとの組み合わせを算出し、この角度から係数β/|φ−θ|を決定して、上記ステップS110における補正を行う。この結果、印刷物を実際に観察する際の観察条件により近い条件で良好な色再現を行わせるための色変換プロファイル14fを作成することが可能である。
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