JP4423700B2 - 耐疲労はく離性と耐摩耗性に優れた鉄道車両用車輪 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は鉄道車両において使用される耐摩耗性と耐疲労はく離性に優れた車輪に関する。
【0002】
【従来の技術】
鉄道車両に使用される車輪には、機関車用、客車用、貨車用などがあり、それぞれ機能、形状等が相違している。そのために、それぞれ用途に応じた寸法、形状、材質の車輪が用いられている。通常、これらの車輪の寿命は、その踏面およびフランジ面の摩耗の程度によって決定されるので、車輪に要求される性能としては耐摩耗性が第一にあげられる。
【0003】
車輪の耐摩耗性には硬さ依存性と組織依存性があり、同じ組織では硬さが高いほど耐摩耗性がよく、同じ硬さで比較するとマルテンサイトやベイナイト組織よりパーライト組織の方が耐摩耗性がよいことが知られている。このため、従来から車輪にはJIS−E5402に規定されるように高炭素鋼が用いられ、踏面部はパーライト組織となるように熱処理されている。近年ではさらに耐摩耗性を向上させた車輪が発明されている。
【0004】
例えば、特開平2−246801号公報に開示されているように、踏面に耐摩耗性に優れた材料を溶射した車輪があげられる。しかし、溶射材はせん断力に対して弱く、使用中にはく離するおそれがあること、また、溶射層は厚くても2〜3mm以下の厚さであるため、使用途中で再溶射する必要があり、メンテナンス性の面でも実用性に乏しいことから一般的に使用されるまでには至っていない。
【0005】
また、曲線が多い路線では、フランジがレールと接触することが多くなり、踏面部よりフランジ部の方が摩耗が多くなることがある。このような使用状況では、摩耗によってフランジが直立した形態(フランジ直立摩耗と呼ばれる)となり、フランジがレールに乗り上げやすくなって、脱線の危険性が高くなる。フランジ直立摩耗を避けるには、特にフランジ部の耐摩耗性を向上させる必要があり、フランジ部だけを再焼入れしマルテンサイト組織にした車輪が一部の路線で使われるようになった。しかし、硬さの高いマルテンサイト組織のフランジ部では靭性が低下するため、フランジとレールとの衝撃的な接触に起因した欠けが多発し、期待された効果が得られていないのが現状である。
【0006】
一方近年、貨車の荷重増大やレールの高硬さ化にともない踏面部の疲労はく離損傷による車輪の廃却が大きな問題となってきており、その対策が要望されている。このため、車輪を総合的に長寿命化するには、耐摩耗性を向上させるだけでなく、耐疲労はく離性の向上も重要であり、さらに耐摩耗性と耐疲労はく離性とのバランスをよく勘案する必要がある。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は最近の鉄道車両、特に貨車の荷重増大やレールの高硬さ化に対応して、耐疲労はく離性と耐摩耗性の観点から総合的に寿命の長い車輪を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】
鉄道車両用車輪は踏面部およびフランジ部とも耐摩耗性が高いことが要求されているが、踏面部においてはさらに耐疲労はく離性が高いことが要求される。耐摩耗性、耐疲労はく離性とも硬さとの相関があり、一般に硬さが高いほど耐摩耗性、耐疲労はく離性とも高くなることが知られている。
【0009】
しかしながら、近年の車輪の使用条件は貨車の荷重の増大とレールの高硬さ化に向かっているため、単純に車輪の高硬さ化を追求するのは問題がある。
【0010】
これらの条件を考慮して本発明者らが、小型試験片による摩耗・疲労はく離の再現試験を種々の条件で行ったところ、以下のように従来の知見とは異なる知見が得られた。
【0011】
(a) 疲労はく離が生ずる寿命は、ビッカース硬さで300以下では硬さに対応して単調に長くなるが、ビッカース硬さで300を超えると、若干長くなるものの飽和気味になり、ビッカース硬さで370を超えるとかえって低下する場合がある。この間、磨耗量は硬さの上昇とともに単調に減少する。
【0012】
(b) この原因としては、硬さが上昇すると摩耗が極端に少なくなり、疲労はく離の起点となる微視的損傷域が摩耗によって除去される効果がなくなること、および高硬さ化すると靭性が低下するためき裂が進展しやすくなることがあげられる。
【0013】
このため、フランジ部においては耐摩耗性に優れ、踏面部においては耐摩耗性をできるだけ損なわずに耐疲労はく離性に優れる車輪が望ましい。これを得るには、靭性を損なわない程度にフランジ部の硬さをできるだけ高くし、踏面部は耐摩耗性を損なわない程度に硬さを低くするのがよい。
【0014】
(c) フランジ部と踏面部の熱処理方法を変えて硬さに差をつけるとしても、素材の炭素含有量に応じてフランジ部と踏面部の硬さが連動する。従って、フランジ部の硬さを炭素含有量の関係式で下限規定を行い、踏面部の硬さは同じ関係式で上限を規定すればよい。
【0015】
本発明は上記の知見に基づいて完成したものであり、その要旨は以下のとおりである。
【0016】
鉄道車両に用いられる車輪であって、踏面部とフランジ部がパーライト組織からなり、炭素含有量(C[重量%])が0.5〜0.8%である鋼からなり、踏面部のビッカース硬さHvtとフランジ部のビッカース硬さHvfがそれぞれ下記の範囲内にあることを特徴とする耐疲労はく離性と耐摩耗性に優れた鉄道車両用車輪。
【0017】
157×C+232≦Hvf≦357×C+132
357×C+72≦Hvt<157×C+232
【0018】
【発明の実施の形態】
図1は鉄道車両用車輪のリム部の形状を示す断面図である。本発明で定義している踏面部2およびフランジ部3はリム1の内径より25mm以上外側の領域である。踏面部2とフランジ部3との境界はフランジ付け根のRじまい4(コーナーR部と踏面の交点)を基点とする車軸に垂直な線である。
【0019】
本発明の車輪は、この踏面部とフランジ部とがパーライト組織からなり、フランジ部より踏面部の硬さが低く、かつそれぞれの部分の硬さおよび炭素含有量が下記の範囲で規定される。
【0020】
踏面部およびフランジ部の組織をパーライト組織とするのは、同じ硬さではマルテンサイトやベイナイト組織よりパーライト組織の方が耐摩耗性がよいためである。
【0021】
踏面部およびフランジ部の重量%で表した炭素含有量(C[%])は0.5〜0.8%とする。Cが0.5%未満であると十分な硬さが得られない。また0.8%を超えると靭性が著しく低下する。
【0022】
Cが0.5〜0.8%以下の範囲において、踏面部のビッカース硬さHvt、フランジ部のビッカース硬さHvfおよびC[%]がそれぞれ下記の範囲内とする。
【0023】
157×C+232≦Hvf≦357×C+132
357×C+72≦Hvt<157×C+232
【0024】
図2は本発明の車輪のHvf、HvtおよびC[%]の関係を示すグラフである。
【0025】
フランジ部の硬さ:Hvf>357×C+132となる場合、すなわち、所与のC含有量で硬さが異常に高くなるということは、パーライトが生成しておらず、ベイナイトまたはマルテンサイト組織が生成していることを意味しているからである。ベイナイトまたはマルテンサイト組織では、耐摩耗性は硬さから期待されるほど優れておらず、靭性も低いため欠けやはく離も生じやすくなる。
【0026】
踏面部の硬さ:Hvt<357×C+72の場合、十分な耐摩耗性および耐疲労はく離性が得られない。Hvt=357×C+72のグラフはフランジ部に関するHvf=357×C+132のグラフを平行移動したものであるが、これより下側ではパーライト組織が粗くなり、C含有量が同じでも耐摩耗性が低下する。また、耐疲労はく離性も硬さに依存して低下するためである。
【0027】
フランジ部と踏面部の硬さHvfおよびHvtは図2の平行四辺形ABCDの範囲内とするが、踏面部の硬さ:Hvtは低めに、フランジ部の硬さ:Hvfは高めにすること、同じ素材のC[%]に対して熱処理を変えた場合にもHvtとHvfが連動することを考慮すれば、フランジ部Hvfは図2の直線ACより上側で、踏面部Hvtは直線ACより下側と規定すればよい。
【0028】
すなわち、フランジ部の硬さ:Hvf≧157×C+232、踏面部の硬さ:Hvt<157×C+232である。
【0029】
本発明の車輪の形状、材質については特に規定しない。ただし、本発明と同じ出願人による発明である特開平9−202937号公報に規定された材質を使用すれば、耐摩耗性、耐疲労はく離性以外の特性、すなわち耐熱き裂性、耐フラットはく離性等も良好であり、実用上十分な性能を発揮する。ここで、フラットはく離とは、車輪がレール上を滑走することによって生じたフラット状の変形と、その直下の白色層を起点としたはく離のことである。耐熱き裂性、耐フラットはく離性には、生じたき裂がはく離にいたるまで進展しにくいこと、すなわちき裂の進展性が重大な影響を及ぼすが、前記の特開平9−202937号公報に規定された材質は同じ硬さで比較すると、き裂の進展速度が遅く、耐熱き裂性、耐フラットはく離性が良好である。
【0030】
本発明の車輪の製造方法は、鍛造、圧延までは通常の車輪の製造方法と同じである。熱処理の焼入れ時には、踏面部とフランジ部で硬さの差をつけるため、従来のリム部焼入れに比較してフランジ部の冷却水噴射量を大きく、踏面部のそれを小さくする。冷却速度の目安はフランジ部冷却速度を踏面部の1.5〜5倍、さらに好ましくは2.5〜4倍とするのがよい。焼入れ後の焼戻しは従来の車輪の製造方法と同じでよい。
【0031】
【実施例】
本発明の実施例として、踏面中央の直径が813mmの車輪を製作した。用いた材質は、C[%]が0.64%のAAR(American Association of Railway )規格でclass−Bに分類される鋼種である。
【0032】
本発明例の車輪の鍛造・圧延までの工程は従来の車輪と同じである。ただし、熱処理においてリム焼入れ時の冷却は、フランジ部へ噴射する冷却水を従来より多くし、踏面部へ噴射する冷却水を従来より少なくした。焼戻し・機械加工後測定したフランジ部のビッカース硬さは342、踏面部の硬さは308であった。
【0033】
本発明の効果を確認するため、本実施例の車輪の踏面部より直径120mm、厚さ20mmの小型の円盤型試験片を切出し、転がり接触疲労試験を行った。レールに相当する相手材はC[%]が0.78%の材料で、ビッカース硬さは380〜400であった。
【0034】
試験条件は接触面圧をヘルツ応力で1300MPa、すべり率((試験片周速−相手材周速)/試験片周速)を0.3%、潤滑は水潤滑とした。
【0035】
試験は、試験片を取付けた軸の軸受ハウジング上の上下加速度が0.5Gとなった時点を疲労はく離の寿命(サイクル)とし、試験後の摩耗深さを測定した。この上下動の加速度による寿命判定方法は、事前の確認試験で深さ約1mmの疲労き裂が生じたときに上下加速度が0.5Gになることに基づくもので、連続運転しながら寿命を監視できる利点がある。
【0036】
比較例として下記の車輪試験片を作成し試験した。鋼種は本発明例品と同じ鋼種である。
【0037】
(a) 比較例1:踏面の金属組織がパーライト、硬さが本発明品のフランジ部と同程度(ビッカース硬さ340)、
(b) 比較例2:踏面部の金属組織がベイナイトで、ビッカース硬さが450、
(c) 比較例3:踏面の金属組織がパーライト、ビッカース硬さが260。
【0038】
表1に転がり接触疲労試験の結果を示す。同表のビッカース硬さ、疲労はく離寿命、摩耗深さはそれぞれ、試験片10個の平均値である。1サイクルあたり摩耗深さは、試験後に測定した摩耗深さを疲労はく離寿命で除した値である。
【0039】
【表1】
【0040】
同表より、本発明例の車輪は、疲労はく離寿命が最も長いことがわかった。
比較例1は本発明品より踏面部の硬さが高く、摩耗量は最も少ない。しかし、疲労はく離寿命は本発明品より短い。比較例1の踏面部は本発明例のフランジ部と同程度の硬さであり、本発明のフランジ部が比較例1相当の硬さを有すれば、耐摩耗性に優れたものが得られることがわかった。
【0041】
比較例2は硬さは高いがベイナイト組織であるため、本発明品より疲労はく離寿命・摩耗量のいずれもが劣っていた。
【0042】
比較例3は硬さが低く、疲労はく離寿命、耐摩耗性のいずれもが著しく劣っていた。
【0043】
以上から、本発明の車輪が踏面部で耐摩耗性を損なうことなく、耐疲労はく離性にすぐれ、かつフランジ部の耐摩耗性にも優れていることがわかる。
【0044】
【発明の効果】
本発明の車輪により、耐摩耗性と耐疲労はく離性の観点から総合的に寿命の長い車輪を得ることができる。これによって、車両の荷重増大やレールの高硬さ化にともなう車輪損傷多発の防止要求に応えることができ、鉄道輸送コストの増大を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】鉄道車両用車輪のリム部の形状を示す断面図である。
【図2】フランジ部硬さHvf、踏面部硬さHvtおよびC[%]の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
1:リム
2:踏面部
3:フランジ部
4:Rじまい
Claims (1)
- 鉄道車両に用いられる車輪であって、踏面部とフランジ部がパーライト組織からなり、炭素含有量(C[重量%])が0.5〜0.8%である鋼からなり、踏面部のビッカース硬さHvtとフランジ部のビッカース硬さHvfがそれぞれ下記の範囲内にあることを特徴とする耐疲労はく離性と耐摩耗性に優れた鉄道車両用車輪。
157×C+232≦Hvf≦357×C+132
357×C+72≦Hvt<157×C+232
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