JP4414013B2 - 耐チッピング性を有する積層塗膜形成方法 - Google Patents

耐チッピング性を有する積層塗膜形成方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、優れた耐チッピング性を有する(すなわち、金属製被塗物への石撥ねによる塗膜損傷およびそれに起因する錆の生成を防止できる)積層塗膜の形成方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車車体、住宅用建材、ガードレール、道路標識等の金属製被塗物は、通常、路面からの石撥ね等によって、被塗物表面を保護している塗膜に亀裂が生じたり、剥離することがある。このような現象は一般に、チッピングと呼ばれる。その後、前記亀裂または剥離部分に水等が侵入すると、被塗物の素地面に錆が発生し、結果として被塗物が腐食する。
上記のようなチッピングおよびそれに起因する腐食の進行を防止するために、耐チッピング性を付与するための塗料や複合塗膜の形成方法等がこれまで数多く提案されている。
【0003】
例えば、特開平6-41494号公報には、(a)ポリカプロラクトンが結合しているとともに、活性イソシアネート基がブロックされたポリイソシアネート化合物と、(b)1分子中に2個以上の水酸基を含有する水酸基含有樹脂とを主成分とする耐チッピング性に優れた塗料組成物が開示されている。この特開平6-41494号公報によると、耐チッピング性塗料組成物は、電着塗膜−上塗り塗膜系、または電着塗膜−中塗り塗膜−上塗り塗膜系積層塗膜において、いずれかの隣接する2種の塗膜の間に塗布することにより、全複合塗膜の耐チッピング性が向上する。
あるいは、特開昭62-4475号公報には、電着塗膜と粉体上塗り塗膜の間に特定の物理特性を有する有機溶剤型塗料を用いた中間塗膜を形成することが開示されている。この中間塗膜は、耐チッピング性が高く、形成された複合塗膜の耐チッピング性も向上する。
【0004】
一方、最近注目されている複合塗膜形成方法として、リバース塗装方法あるいはインバース塗装方法と呼ばれているものがある。この方法は、前述のように金属製被塗物の上に先ず電着塗膜を形成するのではなく、金属製被塗物上に先ず粉体塗膜を形成し、次に粉体塗膜で被覆されていない領域に電着塗膜を形成した後、さらにそれらの上に上塗り塗膜を形成する方法である(例えば、特公昭56-10397号公報および特開昭59-140400号公報)。これらの方法では、粉体塗料が塗装し難いまたは塗装できない領域(例えば、自動車の内板等)や、粉体塗膜の膜厚の薄い領域だけに電着塗装を施すため、塗装コストの削減が可能である。さらに、粉体塗膜と電着塗膜を同時に加熱硬化するため、使用する熱エネルギーに関するコストも削減できる。
しかしながら、上記方法は、塗装方法としては極めて有効であるが、前記被塗物表面において、電着塗膜で被覆されずに粉体塗膜のみで被覆された領域のうち、チッピングを受け易い部位、特に、強塩害地においての当該部位の耐チッピング性が必ずしも十分でないことが判明した。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
したがって、本発明の目的は、上記リバース塗装方法あるいはインバース塗装方法の適用において、電着塗膜で被覆されずに粉体塗膜のみで被覆された領域のうちチッピングを受け易い部位に優れた耐チッピング性を発現し得る新規プライマー、およびそれを用いた積層塗膜の形成方法を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは鋭意努力を重ねた結果、上記特公昭56-10397号公報および特開昭59-140400号公報等に記載されているインバース塗装方法を行う前に、金属製被塗物表面に耐チッピング性に優れたプライマー塗料を塗装することにより、得られる積層塗膜の性能を向上できる方法を見出した。
本発明の第1の態様は、金属製被塗物5上に、
(1)アミン変性エポキシ樹脂、ブロックイソシアネートおよび防錆顔料を含有する耐チッピングプライマーを塗装して、耐チッピングプライマー塗膜1を形成すること、
(2)前記耐チッピングプライマー塗膜1上に、熱硬化性粉体塗料を塗装し、該粉体塗膜が完全に熱硬化しない温度に加熱して、粉体塗膜2を形成すること、
(3)前記被塗物5を電着塗料浴中に浸漬し、電着塗膜3を形成すること、
(4)前記耐チッピングプライマー塗膜1、粉体塗膜2および電着塗膜3を同時に加熱硬化して積層塗膜10を形成すること、および
(5)前記工程(4)で得られた積層塗膜10上に上塗り塗膜4を形成すること
を含む積層塗膜10の形成方法である(図1参照)。
【0007】
本発明の第2の態様は、アミン変性エポキシ樹脂、ブロックイソシアネートおよび防錆顔料を含有することを特徴とする耐チッピングプライマーである。本発明の耐チッピングプライマーを使用することにより、優れた耐チッピング性を有する積層塗膜が提供される。
【0008】
本発明は、また、上記方法により形成される積層塗膜も提供する。
【0009】
【発明の実施の形態】
積層塗膜形成方法
工程(1):
本発明の積層塗膜形成方法は、最初に、金属製被塗物上に、アミン変性エポキシ樹脂、ブロックイソシアネートおよび防錆顔料を含有する耐チッピングプライマーを塗装する。以下、耐チッピングプライマーについて説明する。
本発明で使用する耐チッピングプライマーは、必須成分として、
▲1▼アミン変性エポキシ樹脂、
▲2▼ブロックイソシアネート、および
▲3▼防錆顔料
を含有する。
【0010】
前記アミン変性エポキシ樹脂(▲1▼)は、エポキシ樹脂のオキシラン基をアミンで変性したものであり、その主骨格となるエポキシ樹脂は、例えば、分子内に2個以上のオキシラン基を有する化合物が好ましく使用できる。そのようなエポキシ樹脂の具体例としては、グリシジルエステル樹脂;ビスフェノールAとエピクロロヒドリンとの縮合反応物や、ビスフェノールFとエピクロロヒドリンとの縮合反応物等のグリシジルエーテル型樹脂;脂環式エポキシ樹脂;綿状脂肪族エポキシ樹脂;含ブロムエポキシ樹脂;フェノール−ノボラック型またはクレゾール−ノボラック型のエポキシ樹脂等が挙げられ、特に、ビスフェノールAとエピクロロヒドリンとの縮合反応物、またはビスフェノールFとエピクロロヒドリンとの縮合反応物等のグリシジルエーテル型樹脂が好ましい。
【0011】
アミン変性エポキシ樹脂(▲1▼)は、前記エポキシ樹脂を、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン等の1級水酸基を有するアミンで変性したものであってよい。上記樹脂(▲1▼)におけるアミン変性率は、グリシジル基/アミン基の当量比で100/50〜100/120の範囲であることが好ましい。
アミン変性エポキシ樹脂(▲1▼)としては、不揮発分が20〜70重量%のものが好ましいが、本発明はこれに限定されるものではない。アミン変性エポキシ樹脂(▲1▼)の具体例としては、東都化成株式会社製、商品名「EP-909Aワニス」等が挙げられる。
【0012】
本発明で使用されるアミン変性エポキシ樹脂(▲1▼)は、数平均分子量が500〜10000、好ましくは1000〜8000の範囲であってよい。アミン変性エポキシ樹脂(▲1▼)の数平均分子量が500未満であると、得られる耐チッピングプライマー塗膜の耐チッピング性が低下する等の欠点を有する。あるいは、数平均分子量が10000を超えると、均一な塗膜が得られず、結果的に耐チッピングプライマー塗膜の耐チッピング性が悪くなる。
【0013】
本発明の耐チッピングプライマーに配合するブロックイソシアネート(▲2▼)は、前記アミン変性エポキシ樹脂(▲1▼)と反応し熱架橋反応することにより硬化塗膜を形成するための硬化剤として作用する。ブロックイソシアネート(▲2▼)は、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリレジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート等のようなポリイソシアネートの活性イソシアネート基を、ポリオール化合物等と付加反応させることにより、ポリオール化合物中のアルコール等でブロックしたものである。ここで、ポリオール化合物は、ポリエーテルポリオールや(水酸基含有)ポリエステル樹脂等であってよい。
【0014】
本発明に使用される防錆顔料(▲3▼)としては、ストロンチウムクロメート等クロム系顔料、リン酸亜鉛等のリン酸塩系顔料、モリブデン酸亜鉛、リンモリブデン酸アルミなどのモリブデン系顔料の等が挙げられる。また、前記耐チッピングプライマーは、防錆顔料(▲3▼)以外に、酸化チタン、ベンガラ、酸化鉄、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、キナクリドン系顔料、アゾ系顔料等の着色顔料;タルク、炭酸カルシウム、沈降性硫酸バリウム、シリカ等の体質顔料も含有してよい。
【0015】
本発明の耐チッピングプライマーにおいて、前記成分▲1▼〜▲3▼の含有量は、全固形分を100重量部として、アミン変性エポキシ樹脂(▲1▼)10〜50重量部、ブロックイソシアネート(▲2▼)2〜30重量部、および防錆顔料(▲3▼)1〜20重量部の範囲であってよい。ここで、アミン変性エポキシ樹脂(▲1▼)とブロックイソシアネート(▲2▼)の固形分重量比は、50:50〜90:10、好ましくは70:40〜90:10の範囲であることが好ましい。固形分重量比が前記範囲を逸脱すると、耐チッピングプライマー塗膜としての耐チッピング性が低下するため好ましくない。
また、前記防錆顔料(▲3▼)とそれ以外の顔料を合わせた顔料含有量は、全固形分を100とすると、20〜70重量%、好ましくは45〜65重量%であることが好ましい。前記防錆顔料(▲3▼)と防錆顔料以外の上記顔料の合計含有量が前記範囲外であると、耐チッピングプライマー塗膜の耐チッピング性が低下する。
【0016】
本発明の耐チッピングプライマーは、その他の添加剤として、例えば、沈降防止剤;硬化促進剤、可塑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、顔料分散剤、ベンゾイン、ベンゾインに1〜3個の官能基が付加して得られる誘導体等のベンゾイン類、表面調整剤等を含有してよい。
【0017】
上記成分を溶解または分散するための溶剤としては、水または有機溶媒(例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ミネラルスピリット等の脂肪族炭化水素;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類)に溶解することで調製できる。溶剤として水を使用する場合、水を単独で、または水と適した水性有機溶媒との混合液を使用することができる。あるいは、前記有機溶媒は、それぞれ単独で、または混合して使用できる。
調製される耐チッピングプライマーは、好ましくは、粘度が10〜35秒(#4フォードカップ/25℃)の範囲であるか、あるいは塗装時の粘度が上記範囲となるように、使用前に、適した希釈剤を用いて希釈してもよい。
【0018】
本発明の方法の第1の工程では、上記耐チッピングプライマーを、金属製被塗物上に、エアースプレー、エアレススプレー、静電塗装等の常套の方法で塗装する。
【0019】
耐チッピングプライマーの塗膜の乾燥膜厚は、2〜30μmの範囲であり得る。膜厚が2μm未満であると、目的である防錆性が十分に得られず、30μmを超えると、プライマー塗膜上に塗装する粉体塗料が塗着し難くなり、結果として積層塗膜の外観が不良となるため好ましくない。
【0020】
得られた耐チッピングプライマー塗膜は、後続の工程に付する前に、乾燥または硬化を行わなくても、あるいは30〜100℃の温度において30分以内、乾燥に付してもよい。
【0021】
工程(2):
本発明の方法の第2工程としては、前記耐チッピングプライマー塗膜上に、熱硬化性粉体塗料を塗装し、前記粉体塗膜が完全に熱硬化しない温度に加熱して、粉体塗膜を形成する。
【0022】
本発明において使用できる熱硬化性粉体塗料は、熱硬化性樹脂(エポキシ系、ポリエステル系等の熱硬化性樹脂)および硬化剤を主成分とする、従来公知の粉体塗料であってよい。上記熱硬化性樹脂において、エポキシ系熱硬化性樹脂としては、分子内に2個以上のオキシラン基を有する化合物(例えば、グリシジルエステル樹脂、ビスフェノールAとエピクロロヒドリンとの縮合反応物などのグリシジルエーテル型樹脂、脂環式エポキシ樹脂、綿状脂肪族エポキシ樹脂、含臭素エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂等)が挙げられ;およびポリエステル系樹脂としては、エチレングリコール、プロパンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール等の多価アルコールと、マレイン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、コハク酸、グルタン酸、アジピン酸、セバシン酸、β−オキシプロピオン酸等のカルボン酸とを常法により重合させたものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
熱硬化性粉体塗料中に含まれる硬化剤としては、上記熱硬化性樹脂がエポキシ系樹脂の場合、フェノール性水酸機を有するエポキシ樹脂、アミン硬化剤(ジシアンジアミド、イミダゾール類、イミダゾリン類等)が、およびポリエステル系樹脂の場合は、ブロックイソシアネート、ウレトジオン硬化剤、アミノ樹脂、エポキシ樹脂等をそれぞれ挙げることができるが、本発明においては、これらに限定されるものではない。
【0023】
また、粉体塗料は、着色顔料または体質顔料のような各種顔料;表面調整剤;ベンゾインやベンゾインに1〜3種の官能基が付加したベンゾイン誘導体等のベンゾイン類に代表される発泡防止剤;ワキ防止剤;硬化促進剤(または硬化触媒);可塑剤;帯電防止剤;紫外線吸収剤;酸化防止剤;顔料分散剤;難燃剤;および流動性付与剤等の各種添加剤を含んでいてもよい。
【0024】
本工程で使用するのに好ましい粉体塗料としては、例えば、「パウダックスP-100」(ポリエステル系粉体塗料)、「パウダックスP-700」(ポリエステル系粉体塗料)および「パウダックスH-100」(ポリエステル−エポキシ系粉体塗料)(いずれも、日本ペイント社製)等が挙げられる。
【0025】
前記粉体塗料を、従来公知の静電粉体塗装法により耐チッピングプライマーの塗膜上に塗装する。静電粉体塗装法としては、コロナ荷電法および摩擦荷電法のいずれかの方法であってもよい。
【0026】
一般に、静電粉体塗装法は、最初に被塗物をアース(接地)した後、粉体塗装ガン(例えば、コロナ帯電型塗装ガンまたは摩擦帯電型塗装ガン)を用いて、粉体塗料組成物を前記被塗物に吹き付けることにより行われる。ここで、コロナ帯電型塗装ガンは、粉体塗料組成物をコロナ放電処理して吹き付け可能なものであり、他方、摩擦帯電型塗装ガンは、粉体塗料組成物を摩擦帯電処理することにより吹き付け可能なものである。
前記静電粉体塗装法において、粉体塗装ガンからの本発明の粉体塗料組成物の吐出量は、50〜400g/分に設定するのが好ましい。また、粉体塗装ガンのガン部分の先端から被塗物までの距離は、塗着効率の観点から、100〜500mmに設定するのが好ましい。こうして、粉体塗料組成物の粒子が被塗物に静電的に付着して、粒子層(すなわち、未硬化の粉体塗膜)が形成される。
本工程において、粉体塗料は、10〜80μmの範囲の膜厚となるような条件で塗装される。
【0027】
その後、粉体塗膜は、完全に熱硬化しない温度(例えば、70〜150℃、好ましくは70〜120℃)で1〜15分間に加熱する。このような熱処理を一般に、ハーフベークという。このハーフベーク処理によって、後続の電着塗装工程(3)において、前記被塗物を電着塗料浴に浸漬した際に、粉体塗膜が被塗物から剥離するのを防止できる。
また、上記のような加熱温度を採用することで、塗装毎に要する高温硬化のための工程数を低減でき、省エネルギー化が可能となり、生産効率が向上できる。
【0028】
工程(3):
次に、前記被塗物を電着塗料浴中に浸漬し、電着塗膜を形成する。
本工程では、粉体塗膜で被覆されていない領域に電着塗料を塗装する。
【0029】
上記工程において使用できる電着塗料は、当該分野において常用されるアニオン型あるいはカチオン型電着塗料のいずれであってもよいが、より高い防食性の観点から、カチオン型電着塗料を使用するものが好ましい。
【0030】
カチオン型電着塗料は、塩基性アミノ基を有するバインダー樹脂を酸で中和することにより水溶化する、陰極析出型の熱硬化性電着塗料である。すなわち、カチオン型電着塗料は、被塗物を陰極にすることにより被塗物表面上に析出し得る。
カチオン型電着塗料に含有される塩基性アミノ基を有するバインダー樹脂としては、ビスフェノール型エポキシ樹脂のエポキシ基に第2級アミン(例えば、ジエチレントリアミン等のケチミン化によって1級アミンを封鎖した第2級アミン)を付加したものが好ましい。
前記カチオン型電着塗料に含まれる架橋剤としては、アルコール類、フェノール類、オキシム類、ラクタム類などのブロック剤によって封鎖されたブロックポリイソシアネートを用いるのが好ましい。
【0031】
あるいは、前記電着塗料は、マレイン化油系、ポリブタジエン系等のアニオン型電着塗料であってもよい。
【0032】
上記カチオン型またはアニオン型電着塗料は、さらに、着色顔料、体質顔料、防錆顔料等の顔料、親水性および/または疎水性の溶剤、並びに添加剤等を、必要に応じて含有していてもよい。前記顔料は、塗料中の樹脂固形分100重量部に対し、5〜150重量部使用できる。
電着塗料は、通常、焼付け後の膜厚が10〜40μm、特に、15〜25μmとなるように形成することが好ましい。
【0033】
工程(4):
上記で得られる耐チッピングプライマー塗膜、粉体塗膜および電着塗膜を同時に加熱硬化して積層塗膜を形成する。
上記熱硬化条件は、好ましくは熱硬化温度が150〜240℃の範囲の温度において10〜90分間である。そのため、本発明では、未硬化の耐チッピングプライマー塗膜および電着塗膜の熱硬化温度はいずれも、前記粉体塗膜の熱硬化温度とほぼ等しくなければならない。
【0034】
工程(5):
得られた積層塗膜上に上塗り塗膜を形成する。
上記積層塗膜上に形成され得る上塗り塗膜(すなわち、着色塗料のみの場合または着色塗料とクリアー塗料の組み合わせの場合)およびその成膜方法は、当該分野において公知のものがいずれも使用できる。
着色塗料は基本的に、バインダー樹脂、硬化剤および顔料を含有する。クリアー塗料は、バインダー樹脂および硬化剤を含有し、顔料を少量含有するかまたは全く含有しないものである。顔料には、着色顔料、体質顔料、光輝性顔料等があり、光輝性顔料を含有する着色塗料を特にメタリック塗料と呼ぶ。通常、前記メタリック塗料は、クリアー塗料と組み合わせて、光輝性積層塗膜を形成するのに使用される。
【0035】
前記上塗り塗料の具体的な使用例としては、上記で得られた粉体塗料塗膜と電着塗料塗膜から成る積層塗膜上に、着色塗料を少なくとも1種塗装した後、所望により、クリアー塗料を塗装することができる。各上塗り塗料塗膜は、それぞれ別個に、あるいは着色塗料塗膜とそれに隣接するクリアー塗料塗膜を同時に硬化してもよい。
【0036】
本発明において使用するのに適した金属製被塗物は、例えば、リン酸処理鋼板、亜鉛めっき鋼板、冷延鋼板、アルミニウム板、ステンレス板、リン酸亜鉛処理鋼板、リン酸鉄処理鋼板等が挙げられるが、本発明はこれらに限定されるものではない。上記金属製被塗物は、そのまま使用しても、あるいは別法により表面処理したものであってもよい。これらの処理は、単独で行っても、2種以上を併用してもよい。
さらに、上記方法により形成される耐チッピング性、および所望により防食性の良好な積層塗膜は、それらの特性が要求される用途、例えば、ガードレールや道路標識等の道路資材;自動車車体;住宅用建材等に適用できる。
【0037】
【実施例】
以下に実施例を用いて本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
実施例1
アミン変性エポキシ樹脂[東都化成株式会社製「EP-909Aワニス」;不揮発分40%]34.1重量部、ブロックイソシアネート[日本ポリウレタン工業株式会社「コロネート2536」;不揮発分65%]5.2重量部、防錆顔料(SNCZ社製「PHOSPHINAL PZ-04」)2.3重量部、酸化チタン(デュポン社製「チタンR-960」)21.7重量部、体質顔料(株式会社龍森「クリスタライト5X」)1.5重量部および沈降防止剤(ウィルバー・エリス社製「ベントン38」)0.16重量部を、酢酸エチル34.4重量部中に加え、バッチ型SGミルで1時間分散することにより耐チッピングプライマーを調製した。
【0038】
上記で調製した耐チッピングプライマーを、0.8mm厚のリン酸亜鉛処理鋼板にエアスプレーを用いて鋼板表面の半分の面積に膜厚が10μmとなるように塗装した。
次に、前記鋼板を、水平移動型オーバーヘッドコンベアーに配置した。次いで、水平移動型オーバーヘッドコンベアーを一定速度で移動させながら、前記鋼板の前方に固定したコロナ帯電型塗装ガン(GEMA社製「PG-1」)を用い、コロナ帯電型粉体塗装法により、日本ペイント社製粉体塗料「パウダックスP-100」を、図2に示すように、鋼板表面の半分の面積(先に塗装した耐チッピングプライマー上)に塗装した。形成された粉体塗膜の膜厚は、50μmとなるように設定した。
ここで適用した静電粉体塗装条件は以下の通りであった。
水平移動型オーバーヘッドコンベアー移動速度:1.8m/分
印加電圧:−80kv
吐出量:100g/分
吐出圧:1.0kgf/cm2
エアー流量:4.5m3/h
【0039】
静電粉体塗装後、鋼板を粉体塗膜を、85℃で5分間加熱して、粉体塗膜をハーフベークした。
【0040】
次に、上記鋼板表面の粉体塗膜を有しない領域および粉体塗膜の膜厚の薄い領域に、日本ペイント社製ブロックイソシアネート硬化型カチオン電着塗料「パワートップV−50」を用いて電着塗装を行った。28℃に設定した前記電着塗料の浴中に、前記鋼板を浸漬し、前記鋼板に塗装電圧230Vで3分間電着塗装を行った。その後、鋼板を電着塗料の浴から取りだし、水洗した。電着塗膜は、粉体塗膜を形成していない領域および粉体塗膜の膜厚の薄い領域にのみ形成された。
電着塗装後、鋼板を180℃で25分間熱風乾燥炉にて加熱し、塗膜を形成することにより、試験板を作成した。ここで、電着塗膜の膜厚は、粉体塗料が塗着していない鋼板上で20μmとなるように条件を設定した。
粉体塗膜および電着塗膜上に、カラーコート塗料(日本ペイント社製「スーパーラックM-100ブラック」)を乾燥膜厚15±5μmとなるように塗布し、室温で10分間セッティング放置した後、さらにクリヤーコート塗料(日本ペイント社製「スーパーラックO-100クリヤー」)を乾燥膜厚30±5μmとなるように塗布し、室温で10分間セッティング放置した後に、140℃で20分間の焼付け硬化をして、積層塗膜を形成し、鋼板試料とした。
【0041】
実施例2〜5
表1に示す組成および配合量としたこと以外は、実施例1と同様にして、耐チッピングプライマーを調製した。さらにその耐チッピングプライマーを用い、実施例1と同様の手順で積層塗膜を形成し、鋼板試料とした。
【0042】
比較例1
被塗物上に耐チッピングプライマーを塗装しないこと以外は上記実施例1と同様にして、粉体塗膜、電着塗膜、カラーコートおよびクリアーコートから成る積層塗膜を形成し、鋼板試料とした。
【0043】
比較例2
市販のプライマー(日本ペイント社製「オルガCP-250プライマー」)を使用したこと以外は上記実施例1と同様にして、プライマー、粉体塗膜、電着塗膜、カラーコートおよびクリアーコートから成る積層塗膜を形成し、鋼板試料とした。
【0044】
【表1】
Figure 0004414013
表中の数字は以下の意味を表す。
1):アミン変性エポキシ樹脂[東都化成株式会社製「EP-909Aワニス」;不揮発分40%]
2):ブロックイソシアネート[日本ポリウレタン工業株式会社「コロネート2536」;不揮発分65%]
3):防錆顔料(SNCZ社製「PHOSPHINAL PZ-04」)
4):酸化チタン(デュポン社製「チタンR-960」)
5):体質顔料(株式会社龍森「クリスタライト5X」)
6):沈降防止剤(ウィルバー・エリス社製「ベントン38」)
7):酢酸エチル
+):プライマー塗膜無し。
++):市販のプライマー(日本ペイント社製「オルガCP-250プライマー」)を使用した。
【0045】
評価方法
実施例1〜5および比較例1および2で形成した積層塗膜を有する鋼板試料を用い、耐チッピング性を以下の手順でそれぞれ試験し、評価した。
前記試験板を−20℃に保温し、7号砕石50gを試験板に対して垂直の方向から4kg/cm2のエアー圧で吹き付け、鋼板試料上のプライマー塗膜の剥がれを以下の基準に従って評価した。
評価基準;
○:鋼板素地まで達する剥がれが無い。
×:鋼板素地まで達する剥がれが有る。
上記耐チッピング性試験についての結果をそれぞれ、表1に示す。
【0046】
表1に示す結果より、本発明の耐チッピングプライマーを使用することにより、優れた耐チッピング性積層塗膜が得られることが分かる。
【0047】
【発明の効果】
本発明の耐チッピングプライマーを金属製被塗物(例えば、自動車車体、住宅用建材、ガードレール、道路標識等の屋外で使用される金属製被塗物)に塗装し、さらに粉体中塗り塗装、電着塗装および上塗り塗装を行うことにより、優れた耐チッピング性を有しかつ良好な塗膜外観の積層塗膜を形成することができる。また、本発明の積層塗膜形成方法を適用することで、従来既知の方法に比べて、熱硬化工程(すなわち、塗膜の焼付け工程)を低減することができることからエネルギーコストを削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の方法により得られる積層塗膜を表す断面図である。
【図2】 実施例1〜5および比較例1および2で作製した鋼板試料の塗膜評価方法を表す模式的な平面図である。
【符号の説明】
1…本発明の耐チッピングプライマー塗膜、2…粉体塗膜、3…電着塗膜、4…上塗り塗膜、5…被塗物、10…本発明の方法により得られる積層塗膜、100…粉体塗膜と電着塗膜の境界部分。

Claims (3)

  1. 金属製被塗物上のチッピングを受け易い部位に
    (1)アミン変性エポキシ樹脂、ブロックイソシアネートおよび防錆顔料を含有する耐チッピングプライマーを塗装して、耐チッピングプライマー塗膜を形成すること、
    (2)該耐チッピングプライマー塗膜上に、熱硬化性粉体塗料を塗装し、該粉体塗膜が完全に熱硬化しない温度に加熱して、粉体塗膜を形成すること、
    (3)前記被塗物を電着塗料浴中に浸漬し、電着塗膜を形成すること、
    (4)前記耐チッピングプライマー塗膜、粉体塗膜および電着塗膜を同時に加熱硬化して積層塗膜を形成すること、および
    (5)前記工程(4)で得られた積層塗膜上に上塗り塗膜を形成すること
    を含む積層塗膜形成方法であって、
    該工程(1)で用いられる耐チッピングプライマーに含まれる該アミン変性エポキシ樹脂およびブロックイソシアネートの固形分重量比が50:50〜90:10の範囲である、
    積層塗膜形成方法
  2. 前記工程(1)で用いられる耐チッピングプライマーに含まれるアミン変性エポキシ樹脂は、グリシジル基/アミン基の当量比で100/50〜100/120の範囲でアミン変性したアミン変性エポキシ樹脂である、請求項1記載の積層塗膜形成方法
  3. 請求項1または2記載の方法により形成される積層塗膜。
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