(第1の実施形態)
以下、本発明にかかる燃料噴射制御装置をディーゼル機関の燃料噴射制御装置に適用した第1の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
図1に、本実施形態にかかるエンジンシステムの全体構成を示す。
図示されるように、燃料タンク2内の燃料は、燃料フィルタ4を介して燃料ポンプ6によって汲み上げられる。この燃料ポンプ6は、ディーゼル機関の出力軸であるクランク軸8から動力を付与されて燃料を吐出するものである。詳しくは、燃料ポンプ6は、吸入調量弁10を備えており、この吸入調量弁10が操作されることで、外部に吐出される燃料量が決定される。また、燃料ポンプ6は、2つのプランジャを備えており、これらプランジャが上死点及び下死点間を往復運動することで、燃料が吸入及び吐出される。
燃料ポンプ6からの燃料は、コモンレール12に加圧供給(圧送)される。コモンレール12は、燃料ポンプ6から圧送された燃料を高圧状態で蓄え、これを高圧燃料通路14を介して各気筒(ここでは、4気筒を例示)の燃料噴射弁16に供給する。なお、燃料噴射弁16は、低圧燃料通路18を介して燃料タンク2と接続されている。
上記エンジンシステムは、コモンレール12内の燃圧を検出する燃圧センサ20や、クランク軸8の回転角度を検出するクランク角センサ22、燃料ポンプ6内の燃料の温度を検出する燃温センサ24等、ディーゼル機関の運転状態等を検出する各種センサを備えている。更に、エンジンシステムは、ユーザによる加速要求に応じて操作されるアクセルペダルの操作量を検出するアクセルセンサ26を備えている。
一方、電子制御装置(ECU30)は、マイクロコンピュータを主体として構成され、上記各種センサの検出結果を取り込み、これに基づきディーゼル機関の出力を制御するものである。
上記ECU30は、ディーゼル機関の出力制御を適切に行なうべく、燃料噴射制御を行う。そして、この燃料噴射制御に際しては、コモンレール12内の燃圧を、ディーゼル機関の運転状態等に応じて設定される目標燃圧にフィードバック制御する。以下、これについて図2に基づき説明する。
図2に、上記コモンレール12内の燃圧の制御にかかる処理の手順を示す。この処理は、ECU30により、例えば所定周期で繰り返し実行される。
この一連の処理では、まずステップS10において、アクセルセンサ26によって検出されるアクセルペダルの操作量と、要求される噴射量(要求噴射量)とに基づきコモンレール12内の燃圧の目標値(目標燃圧)を算出する。ここで、要求噴射量は、アクセルペダルの操作量に応じて要求される出力トルクを生成するための噴射量である。この要求噴射量は、クランク角センサ22によって検出されるクランク軸8の回転速度とアクセルペダルの操作量とに基づき、図示しない別のロジックにて算出される。
続くステップS12では、燃圧センサ20によって検出される燃圧(実際の燃圧)と、目標燃圧との差に基づき、燃料ポンプ6の吐出量の指令値(指令吐出量)を算出する。この吐出量の算出は、具体的には、検出される燃圧を目標燃圧へとフィードバック制御すべく、PID制御に基づき行われる。すなわち、上記差に基づき比例項、微分項、積分項を算出し、これらから指令吐出量を算出する。ただし、これら比例項、微分項、積分項に基づき算出される指令吐出量を、燃温センサ24によって検出される燃料の温度等に基づき補正することで最終的な指令吐出量とすることが望ましい。
続くステップS14では、上記ステップS12において算出される指令吐出量に応じた燃料ポンプ6の駆動電流値(詳しくは、吸入調量弁10の駆動電流値)を算出する。本実施形態にかかる吸入調量弁10は、ノーマリーオープンタイプのものであるため、吐出量と駆動電流値との間には、図3に例示する関係がある。すなわち、駆動電流値を大きくするほど燃料ポンプ6の吐出量が減少する。
こうして駆動電流値が算出されると、ステップS16において、算出される駆動電流値に基づき燃料ポンプ(詳しくは、吸入調量弁10)を操作する。
上記態様にてコモンレール12内の燃圧を目標燃圧に制御することが可能となる。こうして制御されるコモンレール12内の燃圧と、上記要求噴射量とに基づき、燃料噴射弁16に対する指令噴射期間を算出することで、燃料噴射制御を行うことができる。この指令噴射期間によって要求噴射量の燃料を精度良く噴射することができるためには、燃料噴射の期間と圧送期間とが重複しないことが望ましい。そこで、本実施形態では、上記要求噴射量の噴射の期間と圧送期間とが重ならないように図4に示す設定がなされている。
図4(a)は、1番気筒の燃料噴射弁16に対する操作信号を示し、図4(b)は、2番気筒の燃料噴射弁16に対する操作信号を示し、図4(c)は、3番気筒の燃料噴射弁16に対する操作信号を示し、図4(d)は、4番気筒の燃料噴射弁16に対する操作信号を示している。また、図4(e)は、燃料ポンプ6の一方のプランジャ(第1プランジャ)による燃料の吐出態様を示し、図4(f)は、燃料ポンプ6の他方のプランジャ(第2プランジャ)による燃料の吐出態様を示す。
図示されるように、本実施形態では、燃料ポンプ6からコモンレール12への燃料の圧送と、燃料噴射弁16を介した燃料噴射とを一対一に対応付ける同期式システムを採用している。そして、燃料噴射の期間と圧送期間とが重複しないように、各プランジャの圧送上死点を各気筒の圧縮上死点よりも進角させている。これにより、圧送によるコモンレール12内の燃圧の上昇が収まり、燃圧が安定したときに燃料噴射を行なうことができる。なお、この図4では、便宜上、アクセルペダルの操作量に応じた出力トルクを生成するためのメインとなる噴射であるメイン噴射についての操作信号のみを記載している。しかし、実際には、本実施形態では、メイン噴射後の着火時期の遅れを短縮して窒素酸化物(NOx)の発生を抑制し、燃焼音及び振動を低減するプレ噴射や、微粒子物質(PM)を再燃焼させるアフタ噴射、排気の温度を制御して、ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF)等のディーゼル機関の後処理装置を再生させるポスト噴射等を更に行なう。このため、プレ噴射の指令噴射開始時期の最大進角値よりもプランジャの上死点が進角となるように設定されている。これにより、プレ噴射やメイン噴射、更には、アフタ噴射の期間と圧送期間との重複を回避する。
ただし、上記ポスト噴射は、通常、メイン噴射から大きく遅角して噴射される。このため、図4(c)に一点鎖線にて示すように、ポスト噴射のタイミングは、プランジャの圧送上死点よりも進角側であって且つ同圧送上死点に近接することとなる。このため、図5に示すように、コモンレール12への燃料の圧送量(燃料ポンプ6の吐出量)によっては、ポスト噴射の期間と圧送期間とが重複することとなる。
図5(a)は、任意の気筒の燃料噴射弁16の操作信号を示し、図5(b)は、同気筒の実際の噴射率を示し、図5(c)は、コモンレール12内の燃圧を示す。図5(c)では、圧送量が多量であるときの燃圧の上昇態様を実線で示し、圧送量が少量であるときの燃圧の挙動を2点鎖線にて示し、圧送量が上記多量と少量との中間であるときの燃圧の挙動を1点させにて示した。図示されるように、圧送量に応じてポスト噴射の実際の噴射期間と圧送期間とが重複したり重複しなかったりする。
ちなみに、この圧送量の変化は、先の図2のステップS12に示した処理によって生じる。このステップS12に示した処理によって算出される吐出量と他のパラメータとの関係を図6に示す。
図6(a)は、要求噴射量と燃圧と吐出量との関係である。図示されるように、噴射量が多いほど吐出量が多くなる。これは、噴射量が多いほど、燃料噴射弁16を介してコモンレール12からディーゼル機関の燃焼室に噴射される燃料量が多くなるためである。また、同一の噴射量であっても燃圧が高いほど吐出量が増大する。これは、燃圧が高いほど、燃料噴射弁16を介して高圧燃料通路14から低圧燃料通路18へと流出する燃料量であるリーク燃料量が増大するためである。更に、図6(b)に示すように、同一の噴射量であっても、回転速度が大きいほど吐出量が増大する。
このように、吐出量は、ディーゼル機関の運転状態に応じて大きく変化する傾向にあり、このため先の図5(c)に示したように圧送期間とポスト噴射の実際の噴射期間との重複態様が大きく変化することとなる。そして、ポスト噴射の実際の噴射期間と圧送期間との重複態様が大きく変化すると、ポスト噴射の制御精度の低下を招くおそれがある。
そこで本実施形態では、燃料ポンプ6の駆動電流値に基づき、ポスト噴射の期間と圧送期間との重複の有無を判断するとともに、重複するときには、燃圧センサ20によって検出される燃圧に対するポスト噴射の期間における燃圧の上昇に応じて指令噴射期間を設定する。以下、これについて詳述する。
図7に、本実施形態にかかる燃料噴射制御の処理手順を示す。この処理は、ECU30により、例えば所定周期で繰り返し実行される。
この一連の処理では、まずステップS20において、アクセルペダルの操作量に応じた上記要求噴射量と、クランク軸8の回転速度とに基づき、要求噴射量の燃料を分割して噴射する噴射段数を算出する。ここで、この噴射段数が「1」であるときには、メイン噴射のみを行うこととなり、噴射段数が「2」以上であるときには、メイン噴射に加えて、プレ噴射やアフタ噴射を行なうこととなる。なお、噴射段数が「2」以上であるときには、このステップS20において、各噴射段の噴射量を算出する。
続くステップS22では、ステップS20にて算出される噴射段数の各噴射段の指令噴射期間と指令噴射開始時期とを算出する。続くステップS24では、ポスト噴射を行なう要求があるか否かを判断する。この要求は、図示しない別のロジックにて生成されるものである。
そして、ポスト噴射の要求があると判断されると、ステップS26において、ポスト噴射の指令噴射開始時期と、仮の指令噴射期間とを算出する。ここで、指令噴射開始時期は、クランク軸8の回転速度と、上記要求噴射量とに基づき算出される。
また、仮の指令噴射期間は、回転速度と要求噴射量とに基づき定まるポスト噴射の噴射量と、燃圧センサ20によって検出される燃圧の最新の検出値とに応じて算出される。より正確には、上記特許文献1に記載された手法を用いる。すなわち、ステップS26の処理時における燃圧センサ20の検出値NPCnと、同ステップS26の前回の処理時における燃圧センサ20の検出値NPC(n−1)と、前回のポスト噴射の指令噴射開始時期における燃圧センサ20の検出値NPCM(n−1)とを用いて、見込み圧NPCFを「NPCn+NPCM(n−1)−NPC(n−1)」として算出する。そして、この見込み圧NPCFと、ポスト噴射の噴射量とに基づき、仮の指令噴射期間を算出する。
続くステップS28においては、ポスト噴射の実際の噴射開始時期を算出する。これは、燃料噴射弁16には、通常、応答遅れがあり、燃料噴射弁16の開弁操作から実際に燃料の噴射が開始されるまでに遅延が生じるために行なう処理である。この応答遅れは、コモンレール12内の燃圧に依存する。このため、まず指令噴射開始時期に対する実際の噴射開始時期の遅延時間を、ポスト噴射の前段の噴射からポスト噴射までの時間間隔と、燃圧センサ20によって検出される燃圧とに基づき算出する。ここで、ポスト噴射の前段の噴射からポスト噴射までの時間間隔を用いるのは、前段の噴射によって生じる圧力脈動によって遅延時間が変化するためである。また、前段の噴射とは、アフタ噴射が行なわれるときには、アフタ噴射を意味し、アフタ噴射が行なわれないときには、メイン噴射を意味する。こうして遅延時間が算出されると、指令噴射開始時期と遅延時間とに基づき、実際の噴射開始時期を算出する。
続くステップS30においては、燃料ポンプ6の駆動電流値に基づき、燃料ポンプ6による燃料の圧送開始点を算出する。ここでは、圧送開始点を、圧送の開始から、対応する気筒の圧送上死点となるまでに要する時間として定義し、圧送開始点と駆動電流値との関係を定めた図8(a)に示すマップを用いて圧送開始点を算出する。図示されるように、駆動電流値が大きいほど、圧送開始点が小さくなる。これは、駆動電流値が大きいほど吐出量が少なくなるため、圧送の開始が圧送上死点に近づき、ひいては、圧送開始から圧縮上死点に到達するまでの時間が短くなるためである。また、同一の駆動電流値であっても、クランク軸8の回転速度が小さいほど圧送開始点が大きくなる。これは、回転速度が小さいほど同一のクランク角度領域の回転に要する時間が長くなるためである。
続く先の図7に示すステップS32においては、ポスト噴射の実際の噴射開始時期と圧送期間とが重複するか否かを判断する。この判断は、例えば以下のようにして行なう。まず、上記ステップS28において、ポスト噴射の指令噴射時期からその気筒の圧縮上死点までのクランク角度を時間換算し、これから実際の噴射開始時期までの遅延時間を減算することで、圧縮上死点に対する先行時間として、実際の噴射開始時期を算出する。そして、この先行時間と、ステップS30にて算出される圧送開始の圧縮上死点に対する先行時間との比較に基づき、実際の噴射開始時期の先行時間の方が短いときに重複すると判断する。
そして、重複していないと判断されるときには、ステップS34において、ポスト噴射の指令噴射開始時期における燃圧センサ20の検出値NPCMnに基づき、指令噴射期間を補正する。すなわち、指令噴射開始時期における検出値NPCMnと、ポスト噴射の噴射量とに基づき、指令噴射期間を再算出し、これを指令噴射期間として用いることで指令噴射終了時期を定める。ただし、指令噴射開始時期における検出値NPCMnと、上記ステップS26における検出値NPCnとの差の絶対値が予め定められた閾値より大きいときには、検出値NPCMnにノイズが混入しているおそれがあるとして、上記仮の指令噴射期間を最終的な指令噴射期間とする。
一方、ステップS32において重複がある旨判断されるときには、ステップS36に移行する。ここでは、実際の噴射開始時期におけるコモンレール12内の燃圧を算出する。これは、指令噴射開始時期における燃圧センサ20の検出値NPCMnと、指令噴射開始時期から実際の噴射開始時期までの間の燃圧の上昇量とに基づき算出される。この燃圧の上昇量の算出は、図8(b)に示すマップに基づき行なう。図示されるマップは、クランク軸8の回転角度にて定義される2点(始点及び終点)と、これら2点間の移行に伴う燃圧の上昇量との関係を定めるものである。すなわち、燃料ポンプ6の各プランジャはクランク軸8と同期して回転するものであるため、クランク軸8の回転角度によって、始点と終点とを定めることで、その間のプランジャの変位態様を把握することができる。このため、始点と終点とを定めることで、その間に燃料ポンプ6から吐出される燃料量が定まり、ひいては、コモンレール12内の燃圧の上昇量が定まることとなる。上記ステップS36では、指令噴射開始時期と圧送開始点とのうちの遅角側にある方のクランク角度を始点とし、実際の噴射開始時期のクランク角度を終点として、始点から終点までの燃圧の上昇量を図8(b)に示すマップにて算出する。こうして算出される上昇量に検出値NPCMnを加算することで、実際の噴射開始時期における燃圧を算出する。
続いて、先の図7のステップS38では、上記ステップS36にて算出された燃圧に基づき、上記仮の指令噴射期間を補正する。すなわち、新たに算出された燃圧と、ポスト噴射の噴射量とに基づき、指令噴射期間を再算出する。
なお、上記ステップS24においてポスト噴射の要求がないと判断されるときや、ステップS34、S38の処理が完了するときには、この一連の処理を一旦終了する。ちなみに、ステップS22における指令噴射期間の算出も、実際には、ステップS26及びステップS34の処理と同様の処理にて算出することが望ましい。
図9に、先の図7に示した処理によるポスト噴射の指令噴射期間の設定態様について示す。図9(a)は、燃料噴射弁16に対する操作信号を示し、図9(b)は、実際の噴射率を示し、図9(c)は、コモンレール12内の燃圧の挙動を示す。また、図中、左側には圧送量が多量である場合について、また、右側には圧送量が少量である場合について、更に中央には圧送量が上記多量と少量との間の量である場合について示している。ちなみに、図9(c)に示す燃圧の挙動は、先の図5(c)と対応している。
圧送量が多量である場合には、圧送開始時a1の後に、指令噴射開始時期b1が訪れることとなる。このため、指令噴射開始時期b1における燃圧の検出値NPCM1と、指令噴射開始時期b1から実際の噴射開始時期c1までの燃圧の上昇量ΔP1との和として、実際の噴射開始時期における燃圧が算出される。
圧送量が中である場合には、指令噴射開始時期b2と実際の噴射開始時期c2との間に、圧送開始時a2があることとなる。そして、指令噴射開始時期bにおける燃圧の検出値NPCM2と、指令噴射開始時期b1から実際の噴射開始時期c2までの燃圧の上昇量ΔP2との和として、実際の噴射開始時期における燃圧が算出される。
圧送量が小である場合には、実際の噴射開始時期c3の後に圧送開始時a3となる。このため、指令噴射開始時期b3における燃圧の検出値NPCM3に基づき、指令噴射期間が算出される。
以上詳述した本実施形態によれば、以下の効果が得られるようになる。
(1)燃料ポンプの駆動電流値に基づき、ポスト噴射の実際の噴射開始時期と圧送期間とが重複するか否かを判断し、重複すると判断されるとき、実際の噴射開始時期における燃圧を算出して、同燃圧に基づき指令噴射期間を算出した。これにより、実際の噴射開始時期と圧送期間とが重複するときには、検出される燃圧に対して圧送によりコモンレール12内の燃圧が変化することに鑑み、この変化に応じて指令噴射期間を設定することができ、要求される噴射量を精度良く噴射することができる。
(2)ポスト噴射の実際の噴射開始時期を、該燃料噴射の前段の噴射からの時間間隔と検出される燃圧とに基づき算出した。これにより、実際の噴射開始時期を精度良く算出することができる。
(3)燃料ポンプ6による燃料の圧送開始点を算出するに際し、燃料ポンプ6の駆動電流値に加えて、クランク軸8の回転速度を用いた。これにより、圧送開始点をより高精度に算出することができる。
(4)重複の判断に先立ち、ポスト噴射の指令噴射期間を仮に算出した。これにより、実際の噴射開始時期と圧送期間とが重複しないときであって、指令噴射開始時期における燃圧の検出値の信頼性が低いと判断されるときには、仮の指令噴射期間を用いて燃料噴射を行なうことができる。特に、この仮の指令噴射期間は、前回の指令噴射開始時期における燃圧の検出値NPCM(n−1)に基づき算出されるために、この仮の指令噴射期間を用いることで、燃料噴射の制御精度を高く維持することができる。
(5)燃料噴射装置に同期システムを採用し、メイン噴射期間が圧送期間と重複しないように設定した。これにより、メイン噴射を簡易且つ高精度に制御することができる。
(第2の実施形態)
以下、第2の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に、図面を参照しつつ説明する。
本実施形態では、ポスト噴射の実際の噴射開始時期から実際の噴射終了時期までの間のコモンレール12内の燃圧の平均値を算出(推定)することで、ポスト噴射の指令噴射期間を設定する。以下、図10を用いて、本実施形態にかかる指令噴射期間の設定の手法を説明する。
図10(a)は、燃料噴射弁16の操作信号を示し、図10(b)は、実際の噴射率を示し、図10(c)は、コモンレール12内の燃圧の挙動を示す。
図示されるように、先の図7に示した処理によって、圧送開始時aよりも実際の噴射開始時期cが後となると判断されるときには、実際の噴射開始時期cから実際の噴射終了時期dまでの燃圧の平均値を算出する。ここで、実際の噴射終了時期dは、先の図7のステップS26によって算出される指令噴射期間と、指令噴射開始時期と、指令噴射開始時期bにおける燃圧の検出値NPCMとに基づき算出される。すなわち、実際の噴射終了時期dは、燃料噴射弁16の応答遅れに起因して、指令噴射期間の終了時よりも遅れる傾向にある。そして、この応答遅れは、コモンレール12内の燃圧に依存する。このため、実際の噴射終了時期は、燃圧の検出値NPCMによって、指令噴射開始時期と指令噴射期間とによって定まる指令噴射期間の終了時期に対する応答遅れ量を把握することで算出することができる。なお、実際には、この実際の噴射終了時期は、マップ演算される。
上記実際の噴射開始時期cにおける燃圧Pcは、先の図7の処理を説明する際に記載したように、先の図8(b)に示したマップを用いて算出する。同様に、実際の噴射終了時期dにおける燃圧Pdも、先の図8(d)に示したマップを用いて算出することができる。すなわち、始点を指令噴射開始時期bとし、終点を実際の噴射終了時期dとすることで、始点から終点までの燃圧の上昇量を算出し、これに検出値NPCMを加算することで算出することができる。
こうして実際の噴射開始時期cにおける燃圧Pcと、実際の噴射終了時期dにおける燃圧Pdとが算出されると、これら燃圧Pcと燃圧Pdとの平均値を算出する。この平均値は、簡易的に「(Pc+Pd)/2」としてもよい。また、これに代えて、加重平均値「Wc×Pc+Wd×Pd:Wc+Wd=1」としてもよい。ここで、重みWc、Wdは、クランク角度に応じて吐出量が変化することに起因して燃圧の上昇速度が変化することに基づき定められる。
こうして燃圧Pcと燃圧Pdとの平均値が算出されると、先の図7のステップS38において、この平均値とポスト噴射の噴射量とに基づき、指令噴射期間を算出する(ステップS26において算出される仮の指令噴射期間を補正する)。
以上説明した本実施形態によれば、先の第1の実施形態の上記(1)〜(5)の効果に加えて、更に以下の効果が得られるようになる。
(6)実際の噴射開始時期から実際の噴射終了時期までの間のコモンレール12内の燃圧の平均値を算出することで、指令噴射期間の設定(仮の指令噴射期間の補正)を行なった。これにより、実際の噴射期間におけるコモンレール12内の燃圧に応じて指令噴射期間を適切に設定することができる。
(第3の実施形態)
以下、第3の実施形態について、先の第1の実施形態との相違点を中心に、図面を参照しつつ説明する。
本実施形態では、図11に示すように、ディーゼル機関を5気筒とするとともに、燃料噴射装置に非同期システムを採用する。図11(a)〜図11(e)に、1番気筒から5番気筒の燃料噴射弁16に対するメイン噴射のための操作信号をそれぞれ示す。また図11(f)に、第1プランジャによる燃料の吸入、吐出(圧送)態様の推移を、図11(g)に、第2プランジャによる燃料の吸入、吐出(圧送)態様の推移をそれぞれ示す。
本実施形態では、第1プランジャ又は第2プランジャによる燃料の圧送の周期が「480°CA」となっており、燃料ポンプ6による燃料の圧送周期は「240°CA」となっている。一方、燃料噴射が行なわれる周期は、「144°CA」毎となっている。このため、本実施形態における燃料噴射装置は、第1プランジャや第2プランジャによる圧送タイミングと各気筒の燃料噴射のタイミングとが一対一に対応しない非同期システムとなっている。
このため、本実施形態では、メイン噴射についても、噴射期間と圧送期間とが重複し得る。そこで、メイン噴射についても、重複があるときには、指令噴射期間を実際の噴射開始時期の燃圧の算出値(推定値)基づき設定するようにする。以下、これについて図12を用いて説明する。
図12に、本実施形態にかかる燃料噴射制御の処理手順を示す。この処理は、ECU30により、例えば所定周期で繰り返し実行される。
この一連の処理では、まずステップS40において、指令噴射期間と指令噴射開始時期とを算出する。ここで指令噴射期間は、燃圧センサ20による燃圧の最新の検出値と、メイン噴射の噴射量とに基づき算出すればよい。続くステップS42では、実際の噴射開始時期を算出する。これは、先の図7のステップS28と同様の処理によって行なうことができる。続くステップS44では、燃料ポンプ6の駆動電流値に基づき、燃料噴射を行なう気筒の圧縮上死点以前であって同圧縮上死点にもっとも近いものの圧送開始点を算出する。ここでは、圧送開始から圧送上死点に到達するまでの時間と駆動電流値及び回転速度との関係を定めるマップを用いて、圧送開始点を上記時間として算出する。
続くステップS46では、燃料噴射を行なう気筒の圧縮上死点と、上記ステップS42の圧送開始と対応する圧送上死点との間隔をクランク角度で算出する。
続くステップS48では、実際の噴射開始時期と圧送期間とが重複するか否かを判断する。この判断は、次のようにして行なえばよい。(イ)ステップS46で算出された圧送上死点と圧縮上死点とのクランク角度間隔を、そのときのクランク軸8の回転速度に基づき、時間間隔に変換する。(ロ)この時間間隔にステップS44で算出される圧送開始から圧送上死点までに要する時間を加算する。(ハ)上記ステップS42にて算出される実際の噴射開始時期を圧縮上死点からの時間に換算する。(ニ)上記(ロ)にて算出される時間が、上記(ハ)にて換算される時間よりも長くて且つ圧送上死点が実際の噴射開始時期よりも後にくるときに、重複すると判断する。
そして、実際の噴射開始時期と圧送期間とが重複すると判断されると、ステップS50において、噴射開始時期の燃圧を算出(推定)する。ここでは、先の図8(b)に示したマップに代えて、燃料ポンプ6の任意の1つのプランジャの下死点から上死点までの変位過程における任意の2点を始点及び終点として、これら始点から終点まで燃料ポンプ6が燃料を吐出するときのコモンレール12内の燃圧の上昇量を定めるマップをECU30に予め記憶しておく。詳しくは、本実施形態では圧送周期が「240°CA」であり、プランジャを2つ備えるために、任意の1つのプランジャが圧送下死点から圧送上死点まで移行する際にクランク軸8が回転する回転角度は、「240°CA」である。このため、上記マップにより、「240°CA」内の任意の角度領域の回転に伴う燃料ポンプ6の吐出による燃圧の上昇量を定める。例えば、上記圧送上死点と対応するクランク角度を「240°CA」とするとともに、圧送下死点と対応するクランク角度を「0°ca」とする。そして、上記ステップS40で算出される指令噴射開始時期と圧送開始点とのうちの遅角側となる方を、上記クランク角度に換算してこれを始点とする。また、上記ステップS42で算出される実際の噴射開始時期を、上記クランク角度に換算してこれを終点とする。これにより、上記マップを用いて、指令噴射開始時期(又は圧送開始点)から実際の噴射開始時期までの間の燃圧の上昇量を算出することができる。そして、こうして算出される燃圧の上昇量に、指令噴射開始時期における燃圧の検出値を加算することで、実際の噴射開始時期における燃圧を算出する。
こうして実際の噴射時期における燃圧が算出されると、ステップS52において、この算出される燃圧と、燃料噴射量とに基づき指令噴射期間を設定する(上記ステップS40にて算出される指令噴射期間を補正する)。なお、ステップS48にて重複がないと判断されるときや、ステップS52の処理が完了するときには、この一連の処理を一旦終了する。
以上説明した本実施形態によれば、先の第1の実施形態の上記(1)〜(3)の効果に加えて、更に以下の効果が得られるようになる。
(7)プランジャの圧送下死点と圧送上死点との間の領域をクランク軸8の回転角度に対応付けるとともに、この回転角度と、燃料噴射についての各タイミングとを対応付けることで、非同期システムを採用した場合であれ、圧送開始や、圧送に伴う燃圧の上昇量を適切に算出することができる。
(その他の実施形態)
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
・上記各実施形態では、重複があると判断されるとき、実際の噴射の期間における燃圧と噴射量とから指令噴射期間を再度算出することで補正したが、既に算出されている仮の指令噴射期間を直接補正するようにしてもよい。
・第1の実施形態において、先の図7のステップS22の処理のうち指令噴射期間の仮の算出にかかる処理については、これをステップS32の処理の後に行なってもよい。これにより、ステップS32の処理により重複があると判断されるときには、仮の指令噴射期間を算出する必要が生じず、ECU30の演算負荷を低減することができる。
・上記第2の実施形態において、実際の噴射終了時期を、実際の噴射開始時期に指令噴射期間を加算することで簡易的に算出してもよい。
・燃圧センサ20による燃圧の検出タイミングから燃料噴射の期間のまでの間の燃圧の上昇量を算出する手法としては、先の図8(b)等に例示するマップを用いるものに限らない。例えばクランク軸8と燃料ポンプ6の各プランジャとの幾何学的関係を用いてECU30内で都度算出するようにしてもよい。
・上記各実施形態では、圧送開始点を駆動電流値に基づき算出したが、先の図2のステップS12に示した指令吐出量に基づき算出してもよい。ただし、先の図2に示す処理において、燃料噴射制御装置によっては、指令吐出量をPID制御等によって算出した後、この指令吐出量に基づいて駆動電流値を算出しつつも、燃料の温度等に応じて更に駆動電流値を補正するものもある。この場合には、指令吐出量と駆動電流値とが一義的に対応しないため、駆動電流値を用いる方が望ましい。また、燃圧の制御ロジックが燃料噴射制御装置の機種毎に異なることに鑑みれば、駆動電流値に基づき算出するロジックは、様々な種類の燃圧の制御ロジックに適切に対応できる汎用性の高いものといえる。
・吸入調量弁10としては、ノーマリーオープン式のものに限らず、ノーマリークローズ式のものであってもよい。
・燃料ポンプ6としては、吸入調量弁10を備えるものに限らず、燃料の吐出の終了タイミングを制御するものであってもよい。この場合、駆動電流値に基づき圧送開始点ではなく、圧送終了点を算出することで重複の有無を判断する。
・燃料噴射弁16としては、燃圧と指令噴射期間とによって噴射量を一義的に定めるものに限らない。例えば米国特許第6520423号明細書に記載されているように、燃料噴射弁16が、アクチュエータの変位に応じてノズルニードルのリフト量を連続的に調整可能なものであるなら、噴射期間と燃圧とによって一義的に噴射量を定めることはできない。この場合には、燃料噴射量を制御するための燃料噴射弁の操作量は、例えばアクチュエータに与えるエネルギ量とエネルギを与える期間(指令噴射期間)となり、噴射量は、燃圧とこれらエネルギ量及び指令噴射期間とによって定まる。
・内燃機関としては、ディーゼル機関に限らず、例えば筒内噴射式ガソリン機関であってもよい。