JP4402600B2 - 同期電動機の駆動システム及び同期電動機の駆動方法 - Google Patents

同期電動機の駆動システム及び同期電動機の駆動方法 Download PDF

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Description

本発明は同期電動機の制御方式であって、特に永久磁石同期電動機を、回転子位置を検出するセンサを用いずに駆動可能な同期電動機の駆動システムに関する。
回転子位置を検出するセンサを用いずに同期電動機を制御する手法は、位置センサレス制御と呼ばれ、産業用機械から家庭用電化製品にいたる同期電動機の駆動システムに広く適用されている。これらの位置センサレス制御による駆動システムでは、回転子位置推定の精度によって性能が左右される。精度を悪化させる要因はいくつか挙げられるが、特に、温度変化による巻線抵抗値の変動は、電動機の低速域において影響が大きい。このため、工作機械や、電気自動車といった低速域の駆動性能を重視する用途では、巻線抵抗の変動を受けないようにすることが課題となっている。
上述の課題を解決する技術として、例えば、特許文献1がある。特許文献1には、永久磁石同期電動機を回転子位置センサなしで駆動する方法が記載されている。その特徴は、まず、電動機の電圧と電流値をバンドパスフィルタに通すことによって、特定高調波の電圧と電流を抽出し、この検出された成分から高調波瞬時無効電力を計算することである。また、求めた高調波瞬時無効電力から前記特定高調波の2倍の周波数成分を抽出し、基準信号との位相差を比較して、電動機の回転子位置を推定することである。高調波瞬時無効電力は、高調波電圧と高調波電流のベクトル外積演算で計算されるため、巻線抵抗に依存しない量になる。このため、温度等により巻線抵抗値が変動しても、その影響を受けずにロバストな回転子位置推定が可能になる。
一方、誘導電動機の技術分野では、速度センサを使わずに駆動する速度センサレスベクトル制御装置において、一次抵抗の変動に影響されない速度推定技術が報告されている。例えば、特許文献2には、低速、低周波での誘導電動機の速度推定値を精度良く求める方法が開示されている。すなわち、電動機の瞬時無効電力実際値から瞬時無効電力推定値を差し引いて誤差を求め、誤差の演算結果を基に回転子速度を推定している。ここで、瞬時無効電力実際値は、電動機の端子電圧から一次漏れインダクタンスに発生する電圧降下を差し引いて誘起電圧推定値を求め、この誘起電圧推定値に一次電流を乗じることで演算される。また、瞬時無効電力推定値は回転子速度推定値と励磁電流と一次電流から演算している。この特許文献2では、回転子速度推定値を、前記瞬時無効電力実際値と推定値の誤差が小さくなるように修正する。これにより、速度推定値は最終的に所定値に収束し、回転子速度の推定値を得ることができる。なお、瞬時無効電力実際値は、電圧と電流のベクトル外積演算で求められるため、一次抵抗に依存しない量である。このため、一次抵抗変動の影響を無くすことができ、低速、低周波での演算精度を保証した誘導電動機の速度センサレスベクトル制御を実現している。
また、特許文献3には、永久磁石同期電動機において、観測した電流と、電動機モデルが出力する電流誤差を求め、これを用いてモデルの回転子速度に軸誤差(磁極位置ずれ角)を補正する補正項を付加する位置センサレス制御が開示されている。
特開2000−324878号公報(全体) 特開平7−75398号公報(図5、段落0040〜0046) 特開2000−23498号公報(全体、(1),(2)式)
特許文献1に開示された永久磁石同期電動機の位置センサレス制御技術は、電動機の電圧、電流に含まれる特定高調波成分から瞬時無効電力を求めている。特定高調波成分の例としては、(1)特定周波数の信号を電圧、電流に重畳し、その成分を利用する方法が開示され、(2)電力変換器が出力するPWM制御に基づく高調波成分を検出対象として用いることもできると記載されている。しかし、前者(1)の方法では、重畳信号によって電動機から騒音が生じる問題がある。また、電圧信号を重畳する場合は、重畳する高調波信号の振幅分だけ、出力電圧の基本波最大値を低く抑える必要があり、電力変換器の出力電圧範囲が狭くなる。また、後者(2)の方法では、検出対象とするPWM制御に起因する高調波成分の大きさは周波数や変調率によって変動するため、様々な運転条件で均一の性能を実現するのは困難と考えられる。
一方、特許文献2に開示された速度センサレス制御技術は、電動機の電圧、電流の基本波成分の瞬時無効電力を求めている。このため、前述した特許文献1のような問題は生じない。しかし、特許文献2の技術は、制御の対象が誘導電動機であることから、回転子位置を推定する方法示されておらず、回転子位置の推定が不可欠な永久磁石同期電動機の位置センサレス制御に適用することはできない。
さらに、特許文献3に開示された技術では、観測した電流と、電動機モデルが出力する電流誤差を求め、これを用いてモデルの回転子速度に軸誤差を補正する補正項を付加している。しかしながら、ここでも、モデル式にはモータの巻線抵抗値のパラメータが使われており、温度などにより抵抗値が変動した場合には、モデルが推定する電流の誤差が生じる。このため、温度変化に対して精度の高い制御は困難であるという欠点がある。
本発明の目的は、電動機の巻線抵抗の変動の影響を受けにくく、高精度の位置センサレス制御を実現する永久磁石同期電動機の駆動システムを提供することにある。
本発明の他の目的は、電動機の電圧、電流の基本波成分から、電動機の巻線抵抗に依存しない形態で回転子の速度及び位置を推定し、位置センサレスで、永久磁石同期電動機の駆動システムを提供することである。
本発明者は、同期電動機の巻線抵抗値を用いることなく、同期電動機のベクトル制御上の軸誤差Δθの関数値を求め得ることを見出した。
そこで、本発明はその一面において、ベクトル制御系による3相交流電圧指令の演算に至る制御系から得られた入力側信号と、電力変換器から同期電動機に給電した結果から得られる出力側信号とから任意の第1値を演算する第1値演算手段と、前記入力側信号と前記出力側信号との異なる組合せに基いて任意の第2値を演算する第2値演算手段と、これら第1値及び第2値とから前記電動機の巻線抵抗値を含まず前記同期電動機の軸誤差Δθの関数である軸誤差関数値を求め、この軸誤差関数値が小さくなるように電力変換器の出力角周波数ω1を調整することを特徴とする。
一例として、瞬時無効電力推定値Qhatを、変換器の出力角周波数ω1、電動機電流の検出値、電動機定数のインダクタンスパラメータ、及び誘起電圧定数Kから演算し、電動機の電圧と電流から求めた瞬時無効電力Qとの誤差ΔQを求める。この偏差ΔQは、軸誤差Δθの比例項と微分項を持つ関数である。そこで、この偏差ΔQを小さくするように出力角周波数ω1を調整すれば、電動機の巻線抵抗値を演算に使用しないため、温度変化の影響を受けることなく、同期電動機の高精度のセンサレスベクトル制御を実現できる。
そこで、本発明の望ましい実施態様においては、2軸電圧指令Vdc*,Vqc*及び検出電流値Idc,Iqcを入力して瞬時無効電力検出値Qを求める無効電力検出手段と、出力角周波数ω1及び検出電流値Idc,Iqcを入力して瞬時無効電力推定値Qhatを演算する瞬時無効電力推定手段と、この瞬時無効電力の推定値Qhatと前記瞬時無効電力検出値Qとの偏差ΔQが小さくなるように前記出力角周波数ω1を調整することを特徴とする。
また、瞬時無効電力推定値Qhat演算式に、電動機の誘起電圧定数パラメータ、出力角周波数、及び電流検出値のdc軸成分の3つの積の演算を含めると、演算された偏差ΔQの値に、電動機の回転周波数と出力角周波数の周波数誤差成分と、制御系が仮定した仮想回転子座標と実回転子座標の間の軸誤差Δθが同時に含まれることを見出した。
そこで、本発明の望ましい実施態様においては、瞬時無効電力推定値Qhatの演算式に、前述した3つの成分の積の演算を含めている。
さらに、運転条件が変化して電流の極性が変わると、偏差ΔQに含まれる速度誤差成分や、軸誤差Δθの極性も影響されて変化することを見出した。
そこで、本発明の望ましい実施態様においては、トルク電流指令Iq*の極性によって、励磁電流指令Id*の極性を決める。また、dc軸電流Idcの極性に基づいて、偏差ΔQの極性と、前記出力角周波数の増減の方向を反転させる。
本発明の望ましい実施態様によれば、電動機巻線抵抗の影響を受けない形で演算を行うため、温度変化の影響を受けにくく、永久磁石同期電動機の高精度のセンサレス駆動システムを実現できる。
本発明によるその他の目的と特徴は、以下に述べる実施例の説明の中で明らかにする。
以下に、図面を参照して本発明の実施例を詳細に説明する。
図1に本実施例の構成図を示す。図1において、電動機のトルク電流指令Iq*は、トルク電流指令生成器1によって出力される。電動機の励磁電流指令Id*は、励磁電流指令生成器2から出力される。励磁電流指令生成器2の内部では、励磁電流の大きさIdsetが励磁電流振幅設定器21から出力され、極性設定器22によって前記Idsetの極性が変更され、励磁電流指令Id*が作られる。なお、前記極性設定器22では、Id*の極性は前記Iq*の極性に基づいて設定される。電圧指令Vdc*、Vqc*は、電圧ベクトル演算器3によって演算される。なお、前記電圧指令Vdc*、Vqc*はdc−qc座標上の電圧ベクトル成分であり、dc軸が電動機内部の磁極軸を仮定した軸、qc軸が前記dc軸に直交する軸である。前記電圧指令Vdc*、Vqc*は、座標変換器4によって3相交流軸上の電圧指令値に変換される。3相交流軸上の電圧指令Vu*、Vv*、Vw*は、PWM(パルス幅変調)制御器5によって、電力変換器6を駆動するPWMパルスに変換される。制御対象である同期電動機7は、電力変換器6によって駆動される。電力変換器6は、直流電源部61と、スイッチ素子からなる主回路部62、及び電動機電流を検出する電流検出部63から構成される。電流検出部63によって検出された3相電動機電流は、座標変換器8によって前記dc−qc座標上の検出電流Idc、Iqcに変換される。瞬時無効電力Qは、瞬時無効電力演算器9によって、印加電圧指令Vdc*、Vqc*、及び検出電流Idc、Iqcを用いて演算される。また、瞬時無効電力推定値Qhatは、瞬時無効電力推定器10によって、検出電流Idc、Iqc、及び出力角周波数ω1を用いて演算される。QとQhatの誤差ΔQは、演算器11によって演算される。符号設定器12は、条件によって誤差ΔQの符号を反転して出力する。増幅器13によって極性が正のゲインKiが乗じられる。増幅器13の出力ΔQ2の大きさに基づいて、出力角周波数ω1が積分器14によって出力される。出力角周波数ω1は、位相角用積分器15によって積分され、固定子のU相巻線軸を基準としたdc軸の位相角θdcが出力される。位相角θdcは、前記座標変換器4、及び座標変換器8での座標変換演算に用いられる。
次に、本実施例の動作原理を説明する。
図2は、本実施例の制御に用いる回転座標系である。d−q座標は、回転子に同期した回転座標系である。d−q座標では、永久磁石回転子の磁束方向にd軸、d軸から90度進んだ位相にq軸が、それぞれ定義される。固定子のU相巻線軸を基準としたd軸の位相角をθd、回転子の回転角周波数をωrとすると、ωrと位相角θdには式(1)の関係が成り立つ。
Figure 0004402600
位置センサをもつ駆動システムの場合、センサから得られた回転子位置情報から、d軸の位相角θdが得られるため、電動機を駆動するための制御演算はd−q座標において実行すればよい。
しかし、本実施例における制御系は位置センサレス制御のため、実際のd軸の位相角θdが得られない。そこで、本来のd―q座標に対してdc−qc座標を仮定し、仮定した軸上で制御演算を行う方法をとる。dc−qc座標は、電力変換器6から出力される交流電圧の出力角周波数ω1で回転する回転座標である。dc軸の位相角をθdcで表すと、出力角周波数ω1と位相角θdcには式(2)の関係が成り立つ。
Figure 0004402600
dc−qc座標は、制御器内部で仮定した軸であるため、d−q座標との間に位相差Δθが生じる。この位相差Δθを軸誤差と呼ぶこととする。
図2には、d−q座標とdc−qc座標の関係と、軸誤差Δθを示している。軸誤差Δθは、式(3)で定義される。
Δθ=θdc−θ ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(3)
なお、軸誤差Δθを用いて、d−q座標とdc−qc座標のベクトル量の座標変換は、式(4)によって計算できる。ここでは、電圧ベクトルVd、Vq、Vdc、Vqc、及び電流ベクトルId、Iq、Idc、Iqcで例を示した。
Figure 0004402600
なお、軸誤差Δθの微分は、式(1)、(2)から明らかなように、また、後述する式(5)のように、2つの角周波数ω1、ωrの差と等しくなる。
Figure 0004402600
永久磁石同期電動機の位置センサレス制御を実現するには、出力角周波数ω1を回転子の回転角周波数ωrに一致させ、さらに、軸誤差Δθが常に零近傍になるように制御系を組むことで達成される。
次に、電圧演算系について説明する。図1において、電圧ベクトル演算器3は、電動機7への印加電圧指令を、dc−qc座標上のベクトル量Vdc*、及びVqc*として演算する。演算法には幾つかの公知の方法があり、いずれを用いても良い。例えば特開2004−289959号公報に開示された構成をそのまま用いることができる。この場合における電動機電圧の電圧ベクトルの計算式を、式(6)に示す。
Figure 0004402600
式(6)は、式(7)に示すd―q座標における永久磁石同期電動機の電圧方程式において、微分項を無視し、電動機角周波数ωrを出力角周波数ω1に置き換え、電動機定数を定数パラメータに変更することによって導かれる。
Figure 0004402600
電圧ベクトル演算器3では、dc軸の電流誤差が計算される。同様に、qc軸の電流誤差が計算される。dc軸、qc軸の電流誤差が小さくなるように、電圧補償値ΔVdc*、ΔVqc*がそれぞれ演算される。最終的に出力される印加電圧指令Vdc*は、Vdc**とΔVdc*の和となる。qc軸についても同様で、印加電圧指令Vqc*は、Vqc**とΔVqc*の和となる。
次に、本実施例の特徴部分である瞬時無効電力を用いた位置センサレス制御の動作原理について説明する。
瞬時無効電力Qは、瞬時無効電力演算器9によって演算される。本実施例では、dc―qc座標上の電圧指令Vdc*、Vqc*と電流Idc、Iqcから、式(8)によって瞬時無効電力Qを演算する。
Q=Vdc qc−Vqc dc・・・・・・・・・・・・・・・・・(8)
なお、式(8)では、dc―qc座標上の電圧指令Vdc*、Vqc*を用いたが、電動機電圧Vdc、Vqcを用いてもよい。その場合、Vdc、Vqcの値は、電動機電圧Vu、Vv、Vwを検出してdc−qc座標へ変換することで得られる。式(9)に、電動機電圧Vdc、Vqcを用いる場合の計算式を示す。
Q=Vdcqc−Vqcdc・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(9)
インバータなどの電力変換器で駆動する場合、電動機電圧はPWM波形になるため、電圧指令値を用いる式(8)のほうが扱いやすい。
式(8)、式(9)から分かるように、瞬時無効電力Qは、角周波数の情報(すなわちωr、またはω1)を用いずに演算できる。そこで、瞬時無効電力Qを、周波数調整する際の規範モデルとして利用する。
一方、式(8)、式(9)とは別の方法により、角周波数ω1の値を用いて瞬時無効電力を計算した結果を、本実施例では瞬時無効電力推定値Qhatと呼び、調整モデルとして扱う。本実施例では、規範モデルである瞬時無効電力Qと、調整モデルである瞬時無効電力推定値Qhatの誤差ΔQを求め、誤差に応じて角周波数ω1を修正していく。ω1が修正されることで調整モデルに帰還が入り、最終的に、QとQhatの誤差が零に近づくまで角周波数ω1の修正は続けられる。
なお、上述のプロセスによって、永久磁石同期電動機の位置センサレス制御を実現するには、調整モデルへの帰還によって、出力角周波数ω1が回転子の回転角周波数ωrに一致し、さらに、軸誤差Δθが常に零近傍に収束させなければならない。そこで、本実施例では、瞬時無効電力Qに含まれる成分を明らかにし、瞬時無効電力推定値Qhatの演算式を明らかにした。また、瞬時無効電力Qと、調整モデルである瞬時無効電力推定値Qhatの誤差ΔQの特性に基づいて、出力角周波数ω1の変更法を立案した。
次に、調整モデルである、瞬時無効電力推定値Qhatの演算式の導出過程を説明する。まず、瞬時無効電力Qに含まれる成分を明らかにする。
瞬時無効電力Qの演算式は、式(8)、(9)に示したように、電圧と電流のベクトル積である。このため、d−q座標上のベクトル値で計算した式(10)も、瞬時無効電力Qの値は、式(8)、(9)と同じである。
Q=V−V・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(10)
ここで、前述のd―q座標における電圧方程式(7)を、式(10)に代入すれば、瞬時無効電力Qが式(11)により表されることがわかる。
Q=(pL)I−(pL)I−ωr(L・I +L・I
−Kω・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・(11)
ここで、式(11)の右辺第1、第2項は、式(4)を用いて式(12)のように変形できる。
Figure 0004402600
なお、式(12)では、dc−qc座標における電流Idc、Iqcの時間微分項を、変形の途中で無視している。これは、制御でQを用いる際は、微分項の成分が積分器14によって平均化され無視できるためである。式(12)の結果を用いると、式(11)を式(13)のように変形できる。
Figure 0004402600
ここで、式(5)の関係により、角周波数ωrをω1とΔθの時間微分に置き換えると、式(14)が得られる。
Figure 0004402600
式(14)より、瞬時無効電力Qに含まれる成分の内訳が明らかになる。まず、右辺第1項は、電動機巻線のインダクタンスに生じる無効電力分である。右辺第2項は、電動機の回転によって生じる誘起電圧とIdとの積の成分である。右辺第3項は、d−q座標とdc−qc座標の軸誤差Δθが変化する際に生じる成分である。
なお、非突極型電動機の場合、LdとLqが等しい。ここで、非突極型電動機のインダクタンスをLとすれば、LdとLqを、Lに置き換えることにより式(14)は、式(15)のような簡単な形に変形できる。
Q≒−ωL(I +I )−Kω・・・・・・・・・・・(15)
本実施例では、式(14)、式(15)を基に、瞬時無効電力推定値Qhatの演算式を式(16)のように決めた。なお、式(16)は、瞬時無効電力推定器10の計算で使う演算式である。
hat=−ω −K ω・Idc・・・・・・・・・(16)
なお、式(16)中のImは、モータ電流の大きさである。式(17)にId、Iq、Idc、IqcとImの関係を示す。
=I +I =Idc +Iqc ・・・・・・・・・・・・(17)
式(16)における重要な項は、右辺第2項の誘起電圧による無効電力成分(K*・ω1・Idc)である。式(21)までに詳細を後述するように、この第2項があることによって、位置センサレス制御を実現するのに必要な軸誤差Δθや、角周波数ω1とωrのずれの情報が導かれる。
一方、式(16)右辺第1項のインダクタンスに関係する項は、位置センサレス制御システムでは正確に演算できない。これは、位置センサレス制御システムでは、d−q座標における電流Id、Iqの値が得られないためである。このため、式(16)のインダクタンスのパラメータLx*の設定は、各用途に応じて、インダクタンスによる無効電力項の推定誤差が小さくなるように設定する。例えば、非突極型電動機では、Lx*=Lと設定する。また、突極型電動機の場合には、設定に自由度があり、Lx*=Ldとする場合、Lx*=Lqとする場合、あるいはLd、とLqの中間に設定する場合などが考えられる。
演算器11では、瞬時無効電力Qと瞬時無効電力推定値Qhatの誤差ΔQを演算する。説明を簡単にするため、ここからは、非突極型電動機に対して、誤差ΔQの成分を求める。この場合、式(16)と式(15)の差から、ΔQは式(18)になる。
ΔQ=Qhat−Q=−ω −K ω・Idc
−{−ωL・I −Kω・I} ・・・・・・・・・(18)
制御系が用いる電動機定数のパラメータが、実際の電動機定数に等しいと仮定する。すなわち、Lx*=L、K*=Kとする。また、式(5)の関係により、角周波数ωrをω1とΔθの時間微分に置き換える。以上により、式(18)は式(19)のように変形できる。
Figure 0004402600
また、式(4)より、Id=Idc・cosΔθ−Iqc・sinΔθであるから、式(19)は式(20)のように変形できる。
Figure 0004402600
さらに、軸誤差Δθがゼロ近傍だと仮定すれば、cosΔθ≒1、sinΔθ≒Δθとおけるため、式(21)のように近似できる。
Figure 0004402600
式(16)において、瞬時無効電力推定値Qhatに無効電力成分(K*・ω1・Idc)を含めた結果、QとQhatの誤差ΔQには、軸誤差Δθの項とその時間微分の成分が現れることが判る。なお、Δθの時間微分dΔθ/dtとは、式(5)に示すように角周波数ω1とωrの速度差である。よって、ΔQには、永久磁石同期電動機の位置センサレス制御に必要な2つの量、(1)出力角周波数ω1と回転子の回転角周波数ωrの速度差、及び(2)軸誤差Δθの値、の両方の情報が含まれることがわかる。
次に、ΔQの値によって、出力角周波数ω1を調整する方法を説明する。
式(21)から判るように、ΔQとΔθの極性の関係は、qc軸電流Iqcの極性に依存して変化する。同様に、ΔQとdΔθ/dtの極性の関係は、d軸電流Idの極性に依存して変化する。この極性の依存関係をなくすために、本実施例では、励磁電流指令Id*の極性を設定する極性設定器22、及び誤差ΔQの符号設定器12を設けており、条件に応じて電流の極性を設定する。以下、トルク電流指令Iq*が正、負の場合について、それぞれに動作を説明する。なお、ここでは、角周波数ω1、ωrを正として扱った。
(1)トルク電流指令Iq*≧0の場合:
極性設定器22は、励磁電流指令Id*の極性を正に設定し、Id*=Idsetとなる。電圧ベクトル演算器3には補償器があり、dc軸、qc軸の電流値Idc、Iqcが、それぞれの指令値Id*、Iq*に一致するように動作している。このため、Id*>0、Iq*≧0であれば、Idc>0、Iqc≧0になる。軸誤差Δθが零近傍であれば、d軸電流Idの極性はIdcと同様にId>0となる。従って、式(21)のΔQ近似式において、各項の係数の極性は、式(22)に示すようになる。
−Kωqc≦0,−K<0 ・・・・・・・・・・・・・・(22)
誤差ΔQの符号設定器12は、dc軸電流Idcが正であれば、入力ΔQの極性を変えず、そのまま出力する。増幅器13では正のゲインKiが乗じられ、ΔQ2が出力される。最終的なΔQ2の極性は、Δθの反対の極性となる。同様に、ΔQ2の極性は、dΔθ/dtの反対の極性となる。
(2)トルク電流指令Iq*<0の場合:
極性設定器22は、励磁電流指令Id*の極性を負に設定し、Id*=−Idsetとなる。電圧ベクトル演算器3には補償器があるため、Id*<0、Iq*<0であれば、Idc<0、Iqc<0になる。軸誤差Δθが零近傍であれば、d軸電流Idの極性はIdcと同様にId<0となる。従って、式(21)のΔQ近似式において、各項の係数の極性は、式(23)に示すようになる。
−Kωqc>0,−K>0 ・・・・・・・・・・・・・・(23)
誤差ΔQの符号設定器12は、dc軸電流Idcが負なので、入力ΔQの極性を反転して出力する。増幅器13では正のゲインKiが乗じられ、ΔQ2が出力される。なお、式(23)の極性は、式(22)の極性とちょうど逆であるから、符号設定器12で入力ΔQの極性を反転すると、最終的な出力であるΔQ2は、Δθの反対の極性となる。同様に、ΔQ2の極性は、dΔθ/dtの反対の極性となる。
以上の説明をまとめると、極性設定器22、及び符号設定器12の働きによって、軸誤差Δθ、あるいはdΔθ/dtの極性と、増幅器13が出力するΔQ2の極性の関係は一定に保たれる。すなわち、ΔQ2の極性は、常にΔθの反対の極性となる。同様に、ΔQ2の極性は、常にdΔθ/dtの反対の極性となる。
なお、誤差ΔQの符号設定器12では、dc軸電流Idcの極性に応じて、入力ΔQの符号を反転するかどうか判断する。判断にdc軸電流Idcを使うのは、極性設定器22が励磁電流指令Id*の極性を変更しても、実際のdc軸電流はすぐに変化せず、極性が変化するまでに時間遅れがあるためである。
ΔQ2の値を積分し、角周波数ω1を出力すれば、永久磁石同期電動機の位置センサレス制御が可能になる。以下、4つのケースに分けて説明する。
図3は、2つの回転座標の位相関係を、軸誤差Δθが正の場合について示している。
(1)軸誤差Δθが正のとき、2つの座標系は図3に示す関係になる。dc−qc座標の位相が進んだ状態である。Δθが正のときΔQ2は負になるから、積分器14は出力角周波数ω1の値を減らす。このため、位相角θdcの増加する速度が遅くなり、軸誤差Δθは小さくなる。
図4は、2つの回転座標の位相関係を、軸誤差Δθが負の場合について示している。
(2)軸誤差Δθが負のとき、2つの座標系は図4に示す関係になる。dc−qc座標の位相が遅れた状態である。Δθが負のときΔQ2は正になるから、積分器14は出力角周波数ω1の値を増やす。このため、位相角θdcの増加する速度は速くなり、軸誤差Δθは小さくなる。
(3)dΔθ/dtが正のとき、式(5)より、ω1>ωrの状態である。このときΔQ2は負になるから、積分器14は出力角周波数ω1の値を減らす。このため、ω1とωrの差は小さくなる。
(4)dΔθ/dtが負のとき、式(5)より、ω1<ωrの状態である。このときΔQ2は正になるから、積分器14は出力角周波数ω1の値を増やす。このため、ω1とωrの差は小さくなる。
なお、以上は、永久磁石同期電動機が2極(極対数=1)の場合について説明した。この理由は、2極の場合、同期状態では、機械的な回転角周波数と電動機に印加する交流の角周波数が一致し、式の取扱いが簡単になるためである。極数がPの場合、回転子の機械的な回転角周波数ωmと、角周波数ωrとの関係は、ωr=ωm・P/2である。これを用いれば、2極の場合と同様に、本発明を適用できる。ただし、Pは4以上の偶数である。
本発明の実施例による永久磁石同期電動機の位置センサレス駆動システムの概要を示す全体制御ブロック図。 2つの回転座標d−q座標、dc−qc座標について、固定子巻線軸からの位相と軸誤差Δθを定義した説明図。 2つの回転座標の位相関係を、軸誤差Δθが正の場合について示した図。 2つの回転座標の位相関係を、軸誤差Δθが負の場合について示した図。
符号の説明
1…トルク電流指令生成器、2…励磁電流指令生成器、21…励磁電流振幅設定器、22…極性設定器、3…電圧ベクトル演算器、4…座標変換器、5…PWM(パルス幅変調)制御器、6…電力変換器、61…直流電源部、62…主回路部、63…電流検出部、7…同期電動機、8…座標変換器、9…瞬時無効電力演算器、10…瞬時無効電力推定器、11…演算器、12…符号設定器、13…増幅器、14…積分器、15…位相角用積分器。

Claims (18)

  1. 同期電動機と、この電動機に任意の交流を供給する電力変換器と、与えられた電流指令Id*,Iq*及び検出電流値Idc,Iqcに基き電圧指令Vdc*,Vqc*をベクトル演算する電圧指令演算手段と、前記電力変換器が出力すべき交流の出力角周波数ω1を演算する周波数演算手段と、この出力角周波数ω1に基づいて、前記電動機の推定磁極位相θdcを演算する手段と、この推定磁極位相θdcと前記電圧指令Vdc*,Vqc*とに基いて前記電力変換器が出力すべき3相交流電圧指令Vu*,Vv*,Vw*を演算する3相交流電圧指令演算手段と、この3相交流電圧指令に基いて前記電力変換器をPWM制御するPWM制御手段とを備えた同期電動機の駆動システムにおいて、前記3相交流電圧指令演算手段に至る制御系から得られた入力側信号と、前記電力変換器から前記電動機に給電した結果から得られた出力側信号とから任意の第1値を演算する第1値演算手段と、前記入力側信号と前記出力側信号との異なる組合せに基いて任意の第2値を演算する第2値演算手段と、これら第1値及び第2値とから前記電動機の巻線抵抗値を含まず前記同期電動機の軸誤差Δθの関数である軸誤差関数値を求め、この軸誤差関数値が小さくなるように前記出力角周波数ω1を調整する周波数制御手段を備えたことを特徴とする同期電動機の駆動システム。
  2. 請求項1において、前記入力側信号は、前記電圧指令Vdc*,Vqc*及び/又は前記出力角周波数ω1に相当する信号を含み、前記出力側信号は、前記検出電流値Idc,Iqcに相当する信号を含むことを特徴とする同期電動機の駆動システム。
  3. 請求項1において、前記第1値又は第2値演算手段は、前記出力角周波数ω1と、前記電動機の誘起電圧定数の制御パラメータK、及び電流検出値のdc軸成分Idcの3値の積(K・ω1・Idc)を演算する手段を含むことを特徴とする同期電動機の駆動システム。
  4. 請求項1において、前記第1値及び第2値は、それぞれ瞬時無効電力の検出値Q及び推定値Qhatであることを特徴とする同期電動機の駆動システム。
  5. 請求項1において、前記軸誤差関数は、軸誤差Δθの比例項と微分項とを含むことを特徴とする同期電動機の駆動システム。
  6. 請求項1において、dc軸電流Idcの極性に基づいて、前記軸誤差関数値の極性と、前記出力角周波数ω1の増減の方向を反転させる手段を備えたことを特徴とする同期電動機の駆動システム。
  7. 同期電動機と、この電動機に任意の交流を供給する電力変換器と、与えられた電流指令Id*,Iq*及び検出電流値Idc,Iqcに基き電圧指令Vdc*,Vqc*をベクトル演算する電圧指令演算手段と、前記電力変換器が出力すべき交流の出力角周波数ω1を演算する周波数演算手段と、この出力角周波数ω1に基づいて、前記電動機の推定磁極位相θdcを演算する手段と、この推定磁極位相θdcと前記電圧指令Vdc*,Vqc*とに基いて前記電力変換器が出力すべき3相交流電圧指令Vu*,Vv*,Vw*を演算する3相交流電圧指令演算手段と、この3相交流電圧指令に基いて前記電力変換器をPWM制御するPWM制御手段とを備えた同期電動機の駆動システムにおいて、前記電圧指令Vdc*,Vqc*及び検出電流値Idc,Iqcを入力して瞬時無効電力検出値Qを求める無効電力検出手段と、前記出力角周波数ω1及び検出電流値Idc,Iqcを入力して瞬時無効電力推定値Qhatを演算する瞬時無効電力推定手段と、この瞬時無効電力の推定値Qhatと前記瞬時無効電力検出値Qとの偏差ΔQが小さくなるように前記出力角周波数ω1を調整する周波数制御手段を備えたことを特徴とする同期電動機の駆動システム。
  8. 請求項7において、前記瞬時無効電力推定手段は、前記出力角周波数ω1と、前記電動機の誘起電圧定数の制御パラメータK、及び電流検出値のdc軸成分Idcの3値の積(K・ω1・Idc)を演算する手段を含むことを特徴とする同期電動機の駆動システム。
  9. 請求項7において、トルク電流指令Iq*が正で前記電動機が力行状態であるとき、励磁電流指令Id*を正の所定値に設定し、前記トルク電流指令Iq*が負で前記電動機が回生状態であるとき、前記励磁電流指令Id*を負の所定値に設定する手段を備えたことを特徴とする同期電動機の駆動システム。
  10. 請求項7において、dc軸電流Idcの極性に基づいて、前記偏差ΔQの極性と、前記出力角周波数ω1の増減の方向を反転させる手段を備えたことを特徴とする同期電動機の駆動システム。
  11. 与えられた電流指令Id*,Iq*及び検出電流値Idc,Iqcに基き電圧指令Vdc*,Vqc*をベクトル演算するステップと、電力変換器が出力すべき交流の出力角周波数ω1を演算するステップと、この出力角周波数ω1に基づいて、同期電動機の推定磁極位相θdcを演算するステップと、この推定磁極位相θdcと前記電圧指令Vdc*,Vqc*とに基いて前記電力変換器が出力すべき3相交流電圧指令Vu*,Vv*,Vw*を演算するステップと、この3相交流電圧指令に基いて前記電力変換器をPWM制御するステップと、このPWM制御に基く交流を前記電力変換器から前記同期電動機に供給するステップとを備えた同期電動機の駆動方法において、前記3相交流電圧指令に至る制御系から得られた入力側信号と、前記電力変換器から前記電動機に給電した結果から得られた出力側信号とから任意の第1値を演算するステップと、前記入力側信号と前記出力側信号との異なる組合せに基いて任意の第2値を演算するステップと、これら第1値及び第2値とから前記電動機の巻線抵抗値を含まず前記電動機の軸誤差Δθの関数である軸誤差関数値を求めるステップと、この軸誤差関数値が小さくなるように前記出力角周波数ω1を調整するステップを備えたことを特徴とする同期電動機の駆動方法。
  12. 請求項11において、前記入力側信号は、前記電圧指令Vdc*,Vqc*及び/又は前記出力角周波数ω1に相当する信号を含み、前記出力側信号は、前記検出電流値Idc,Iqcに相当する信号を含むことを特徴とする同期電動機の駆動システム。
  13. 請求項11において、前記第1値及び第2値は、それぞれ瞬時無効電力の検出値Q及び推定値Qhatであることを特徴とする同期電動機の駆動方法。
  14. 請求項11において、前記軸誤差関数は、軸誤差Δθの比例項と微分項とを含むことを特徴とする同期電動機の駆動方法。
  15. 請求項11において、前記第1値又は第2値は、前記出力角周波数ω1と、前記電動機の誘起電圧定数の制御パラメータK、及び電流検出値のdc軸成分Idcの3値の積(K・ω1・Idc)を演算するステップを含むことを特徴とする同期電動機の駆動方法。
  16. 請求項11において、トルク電流指令Iq*が正で、電動機が力行状態である場合は、励磁電流指令Id*を正の所定値に設定するステップと、トルク電流指令Iq*が負で電動機が回生状態である場合は、前記励磁電流指令Id*を負の所定値に設定するステップを備えたことを特徴とする同期電動機の駆動方法。
  17. 請求項11において、dc軸電流Idcの極性に基づいて、前記軸誤差関数値の極性と、前記出力角周波数ω1の増減の方向を反転させるステップを備えたことを特徴とする同期電動機の駆動方法。
  18. 同期電動機と、この電動機に任意の交流を供給する電力変換器と、電圧指令Vdc*,Vqc*をベクトル演算する電圧指令演算手段と、前記電力変換器が出力すべき交流の出力角周波数ω1を演算する周波数演算手段と、この出力角周波数ω1に基づいて、前記電動機の推定磁極位相θdcを演算する手段と、この推定磁極位相θdcと前記電圧指令Vdc*,Vqc*とに基いて前記電力変換器が出力すべき3相交流電圧指令Vu*,Vv*,Vw*を演算する3相交流電圧指令演算手段と、この3相交流電圧指令に基いて前記電力変換器をPWM制御するPWM制御手段とを備えた同期電動機の駆動システムにおいて、前記3相交流電圧指令演算手段に至る制御系から得られた入力側信号と、前記電力変換器から前記電動機に給電した結果から得られた出力側信号とから任意の第1値を演算する第1値演算手段と、前記入力側信号と前記出力側信号との異なる組合せに基いて任意の第2値を演算する第2値演算手段と、これら第1値及び第2値とから前記電動機の巻線抵抗値を含まず前記同期電動機の軸誤差Δθの関数である軸誤差関数値を求め、この軸誤差関数値が小さくなるように前記出力角周波数ω1を調整する周波数制御手段を備えたことを特徴とする同期電動機の駆動システム。
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